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YOTO

GlobalHyper-Folk BricolageSound Collage

YOTO

Levure

Kit Records

三田格 Jan 29,2024 UP
E王

 最近、どこで読んだのか忘れたけれど、RCサクセション “自由” に対するコメントで「頭が悪そうに見える言葉のチョイスがうまい」といった書き込みがあった。「頭が悪そうに見える」というのは「頭が悪い」とは正反対で、「頭がいい」からできることであり、そのような創作の態度は “自由” だけでなく、忌野清志郎の表現全体に認められることではないかと考えさせられた。普段の清志郎は基本的に議論好きだったし、デビュー・アルバムのためにつくった “あそび” などは論理のすり替えを題材にしていて、当時のモラルに抵触したために16年間もお蔵入りしてしまったけれど、常識とされる行動に疑問を挟んでいく歌詞の展開はそれこそ「頭が良く」なければ書けるものではない。「金もうけのために生まれたんじゃないぜ」といってすぐに「この世は金さ」と見方を変えてしまう視点の移動や無数のダブル・ミーニングも同じくで、清志郎の歌詞は確かによく考えられているのに、そうとは感じさせない言葉のチョイスが巧みだし、それが彼の芸風にもなっていた。

 清志郎とは知り合ってすぐに「頭がいい」という表現について深く考えさせられることがあった。具体的には省略するけれど、清志郎にとっては必ずしも褒め言葉ではなく、「頭がいい」という言葉が持つ多義性について考えざるを得なくなってしまったというか。「頭がいい」というのは、資本主義においては「生き延びる」と同義であり、他人の能力と比較することを前提にした価値観である以上、清志郎にとっては手放しで肯定できる感覚ではなかったのだろうというようなことを考えた。ストリートで「頭がいい」とされることと学業などで「頭がいい」とされることはどちらも腕力で支配される世界から距離を取るための手段であり、文明の程度が低いとか高いに関係なく、「頭がいい」を極めていけば人を支配することも不可能ではないという目的のようなものがどうしても頭をもたげてくる。「頭が悪そうに見える言葉のチョイスがうまい」というのは、「頭が悪そうに見える言葉」を選ぶことで、同時に「支配者になりたいわけではない」ということも表していて、「誰の言うことも聞かねえ」とか「俺は法律を破るぜ」といった傍若無人なことを歌っているようでいて、それが上から目線にはならず、リスナーと同じ目線で共感を呼ぶことができるのだろう。

「言葉のチョイス」を「音のチョイス」に変えれば、音だけでも同じことはできるだろう。重厚長大な音が威圧感を与えることと正反対の効果を期待して「頭が悪そうに聞こえる音」を巧みに組み合わせ、あらかじめ競争原理からずり落ちる。フライング・リザーズやドクター・ロキットはそのようにしてロックやテクノにエア・ポケットを生み出した。古くはピエール・アンリからレジデンツ、ジェド・フェアやオル・ダーティ・バスタードなど、いつの時代にもそうしたテクニシャンたちはいて、それぞれの時代に落とし穴を掘っていった。最近だとメリディアン・ブラザーズやロス・モアネスなどクンビアにその手が集中していた感があり、そうはいっても最低限の様式性は保たれていたコロンビアと違ってアルゼンチンに飛び火したクンビアは10年代もなかばを過ぎるともはや原形をとどめず、片鱗を聞き取ることさえ危うい。思い返せばグオ・チェン(Guo Cheng)あたりからおかしくなり始めた。〈Orange Milk〉から『Walden』をリリースしたアイル(aylu)がスラップスティックの壁を飛び越えてネジを最大限まで緩め、ヴィック・バン(Vic Bang)『Lira』はこれをマウス・オン・マースに寄せた感じ。そして、彼女たちを追ってヨトのサード・アルバム『ルビュール』が「とうとう出たね。。。」。

 アニメではなく現実の世界でチェーンソーを振り回して大統領となったハビエル・ミレイが率いる国である。これぐらいのことで驚いてはいけないのかもしれない。19年のミニ・アルバム『プレタ』ではドタバタが少し空回りしている感じもあった。映像用に書いた曲のコンピレーションで聞けるのは暴力温泉芸者が〈Principe〉に移籍したような感じか。ここから4年置いてのリリースとなった『ルビュール(酵母)』は、パン屋を題材におとぎ話のような音が乱舞し続け、レーベルはこれを「ハイパー・フォーク・ブリコラージュ」と称している(なるほどスラップスティックなフォークトロニカである)。緩やかな導入の “Entrada a La Panadería(パン屋の入り口)” から唐突に奇天烈な “Parmigiano Reggiano(*チーズの商品名)” へ。華やかな乱れ打ちというのか、ぐちゃぐちゃなパーカッションの “Una Docena De Vigilantes(12人の自警団)” を経て少し落ち着いたかと思ったら、これだけはビートが主役になる “Amasar Y Celebrar(こねて祝う)” 。 “Fermentación(発酵)” はブラック・ダイスを思わせるポスト・ロックの残骸といったところ。浮かれまくった “Hojaldre(パイ生地)” と沈んだ展開の “Merienda Melancoholica(メランコリックなおやつ)” を経て細かな音を無数に組み合わせた “Especias(スパイス)” と珍しく民族音楽のかけらを張り合わせた “Microdosis Y Las Frutas Del Mercado(微妙なさじ加減と市場の果物)” へ。 “Se Rebalsó El Taper(吹きこぼれ)” はいかにも緊急事態といった感じで最後に音が波打つ “Atracón De Cañoncitos(谷間で暴飲暴食)” でしっかりと幕が閉じられる。小さな子どもが20年経ってもガチャガチャとお皿を叩き続けていたらこんな音楽になっているかもしれないという感じでしょうか。

三田格