「Nothing」と一致するもの

interview with Yo Irie - ele-king

いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。

 水、仕事、SF、FISHときて、恋愛。なんのことだかわからないかもしれないが、それが入江陽という異才シンガーソングライターのディスコグラフィである。

 デビュー・アルバム『水』(2013年)の発表からちょうど10+1年。大谷能生がプロデュースした『仕事』(2015年)、soakubeatsらとの『SF』(2016年)、自主レーベルからの『FISH』(2017年)と、入江は4作のアルバムをリリースしてきた。その間に、ネオ・ソウルやヒップホップやジャズやエレクトロニック・ミュージックを大胆にかき混ぜながら、滲みでる前衛性と溢れでる歌心と諧謔に満ちた歌詞とで彩られた異形のポップ・ソングを歌ってきた。

 異才、異形と似たような貧しい語彙で形容したものの、今回、『恋愛』での入江からは「異」がぽろっととれた、かもしれない。映画やドラマやゲームといった対外的な現場での音楽制作などを経て、ツイストした自我の中からストレートな志向を発見した入江は、まっすぐにポップへと向かった。ビースティ・ボーイズとの仕事で知られるマリオ・Cを筆頭に、あまりにも幅広いコントリビューターたちからの助力も得た結果、アルバムは清々しく、実に風通しがよい、群像劇のような作品に磨きあげられている。

 アルバムのタイトルでありコンセプトの「恋愛」は、自ら語るとおり、2010年代以降のジェンダーとセクシュアリティの多様性の(遅ればせながらの)認識の拡大、アロマンティックやアセクシュアルについてのそれを含む知識が広がった時代に、どこか古臭さと、古臭いがゆえの滑稽さを帯びている。それでも、少なからぬ人びとがいまも恋愛に心をかき乱されているし、それらが商品や見世物として流通してさえいる。その「恋愛」という不思議な共有性を通じて、入江がポップの鍵を掴んだことは想像に難くない。

 ところで、今回のインタヴューで入江の口からたびたび出てきたのは、「信用」や「信頼」といった言葉だった。それは、他者へのものであるのと同時に、音楽それ自体に向けられたものでもある。この歌い手は、「恋愛」というミクロなものを拡大し、なにか大きなものにアクセスしようと試みているようだ。

影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。

入江さんの新作、7年ぶりですか!

入江陽(以下、YI):気づいたら、浦島太郎のように7年も経っていました(笑)。体感は2、3年……っていうと嘘で、さすがに5年くらい経っていそうな気がしたんですけど、7年も経っているとは思わなかったですね。「7年経っている」とみんなが言っていることが、嘘かもしれません(笑)。ただ正直、もっと早くつくればよかったって思ってはいます。

2019年から配信シングルを継続的に出していて、映画音楽の仕事もされていたので、それほどタイムラグを感じません。

YI:自分でおもしろいと思うのが、シングルを大量に出していたにもかかわらず、アルバムにほとんど入っていないことですね(笑)。

シングル集的なアルバムにはしなかったんですね。

YI:『FISH』やそれ以前のアルバムを聴き返すと、曲がバラバラすぎて、どういうシチュエーションで聴いたらいいのか悩むなって、リスナーとして客観的に思ったんです。それで、ジョン・コルトレーンの『Ballads』(1962年)のようなロマンティックなジャズ・バラード集が好きなので、「恋愛」というコンセプトのアルバムにまとめることで、聴くシチュエーションがわかりやすくなるかなと。……ですが、いま聴くと、意外と曲調がバラバラで(笑)。

いえ、入江さんの作品の中で最も統一感やコンセプチュアルなまとまり、完成度の高さを感じますし、最高傑作だと思います。ゲストも多いですし、入江さんがつくっていない曲もあって風通しがよく、それなのにこの統一感はなんなんだろう? と。

YI:アレンジャーさんも制作経緯もバラバラで、ドラマや映画への提供曲も収録していますからね。まとめる作業はストロング・スタイルで、曲をひたすら並べ替え、夜に散歩しながら聴きまくったんです(笑)。その作業をずっとやっていたら、自然と物語性が出てきました。前半は楽しげで恋愛のワクワク感があって、後半は切なげになってくる感じで。

そもそも、なんで恋愛がテーマなんだろう? と思ったんです(笑)。「はいしん狂」の入江さんだから、恋愛映画やドラマを見まくっていたのかな? とは考えましたが。

YI:まさにそれはあって、恋愛リアリティ・ショーを見まくっていたんです(笑)。『あいのり』や『テラスハウス』あたりがクラシカルなところだと思うんですけど、最近は各社乱立していて。ご覧になりますか?

まったく見ませんが、存在していることは知っています(笑)。

YI:たとえば、ふたつの島が舞台で、移動のタイミングが限られているから、その偶然性でカップルが成立するかどうかが決まる番組とか。元カレと元カノを集めて嫉妬させあう、醜悪な……「醜悪」は言い過ぎました(笑)。そういう練られた座組の番組とか。いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。
あと、「恋愛」って言葉自体が古びてきていると思うんです。ジェンダー観が多様化し、アップデートされて、10年前と現在とでは『恋愛』というタイトルのアルバムを出す意味がかなりちがっているなと。そこで、「恋愛」という旗をあえて振る少数派になってみたらおもしろいかなって思ったんです。

たしかに、漢字で「恋愛」というタイトルのアルバムがどーんと出ると、すごくインパクトありますね。

YI:あえての「恋愛」なのか、単にやばい人なのか、わかりづらいですね(笑)。この古びた「恋愛」って言葉、ちょっと笑える感じがするんです。

昭和感がありますね。

YI:平仮名で「れんあい」とすることも考えたんですけど、そういう逃げはやめて、ストレートにわかりやすく「恋愛」としました。
過去のアルバムはコンセプトがわかりにくくて、内面的で抽象的なテーマだと思った理由もありましたね。ひねくれたことをやめて、自分を知らない方々にも興味を持って聴いてもらえ……るかはわからないんですけど、フックがある作品にしたかったんです。

亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。

入江さんって、井上陽水が好きですよね。入江さんにも井上陽水にも、滲みでる変態性と、どストレートなポップさがあると思うのですが、今回は後者が強調されていると感じました。そのぶん、エゴが抑えられているとも感じたんです。

YI:変な曲はなるべく外す方針でした。最近のシングルだと “Juice”(2023年)は気に入っていて、入れるかどうか迷ったんですけど、流れやバランスがよくならなかったので、泣く泣く外したんです。恋愛がテーマの曲なんですけど、それでも外すくらいアルバムの空気を尊重したんですね。変態さを抑えたサウンドにしたつもりなんですけど、“すあま” はピアノの即興演奏だったり、“Dracula” はアヴァンギャルドめだったり、匙加減がわからなくて不安になったので、ポップにかなり寄せたかもしれないです。

作品を客観視していたんですね。

YI:そうしつつ、実は、制作しながら素直な自分を発見しました。恋愛リアリティ・ショーをおもしろがって、キャッキャして見ている自分とか。あと、TikTokでバズっている曲を普通にいいなって思う自分とか。照れ隠ししていた素直な自分にアルバムの制作で出会えたというか、自分は難解なサウンド・プロダクションの曲が本当に好きだったのか? と疑問に思ったり(笑)。

ただ奇を衒っていただけなんじゃないかと。私が好きなエピソードで、入江さんとhikaru yamadaさんがエリック・ドルフィーのmixiコミュニティで出会ったというのがあるんです。でも今回は、エリック・ドルフィー成分は影を潜めているなと(笑)。

YI:変にしなきゃいけない、と思っていた部分もあったかもしれなくて。そこで音数を極力減らして、歌を聴かせるトライをしたんです。

TikTokのヴァイラル・ヒット曲の話がありましたが、参考にした曲はありますか?

YI:意識的に参考にはしていませんが、影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。ストレートな初期衝動の強さを目の当たりにして、ハートに火がついたのはあったかもしれないですね。
“酔いどれ知らず”(Kanaria)って曲、わかります? TikTokの全動画についているんじゃないかってくらいバズった曲なんですけど、「プロジェクトセカイ」でその曲をボカロや声優さんにカヴァーしてもらうために聴いていたら、「みんなが好きな曲、自分も好きだな」と気づいて。抵抗なく自然に体が動いてる自分がいて、「俺、ひねくれていないかもしれない」と(笑)。

ところで、歌詞にご自身の恋愛経験は反映されていますか?

YI:当社比50%以上は入っているかもしれないですね(笑)。自分で歌う曲だと照れやひねくれたところがあって、実体験をさりげなく込めがちなんですけど、このアルバムにはドラマやほかのアーティストへの提供曲もあるので。たとえば、4曲目の “ごめんね” はNONA REEVESの奥田(健介)さんのZEUSというソロ・プロジェクトに提供した歌詞なので、「奥田さんが歌うんだったら」ということで赤裸々に書けたりしたんです。あと、ほかの方が作詞された曲で、自分の気持ちにも合っている曲を取り入れたり。実体験もなるべく込めたものにしたほうが、おもしろいかなと。
 ただ、自分の話をずっとされるのも、リスナーが聴いていてしんどいかなと思いました。生々しすぎてイヤホンを外されるなり、スピーカーをオフられるなり、再生を止められるなりされるのも怖かったので、メタ視点は心がけました。

“ごめんね” について、奥田さんが「彼の音楽って、ちょっと不吉じゃないですか。(中略)スイートな曲のなかにも不吉・不穏な部分を入れたくなる、そういうことをやってるのがラー・バンドだったりするんですけど、入江くんの魅力も良い意味で不吉なところなんですよね」、「すごくストレートなんですが、ちょっとコワい歌詞なんですよね」とMikikiのインタヴューで語っていました(笑)。

YI:「不穏」はいいんですけど、「不吉」というのはすごいですね(笑)。『水』を出したときに、柴田聡子さんから「もう死んだ人が歌っているみたい」って言われたんですよ。スピっているわけじゃないんですけど、それはちょっと意識しています。亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。そう考えると、なおさら自分が作詞作曲した曲じゃなくてもよくなってくる。そういう意味で、「自分がつくる」というエゴが薄まってきているかもしれないですね。

[[SplitPage]]

映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

入江さんってコラボレーションや他者に委ねる制作をしてきたわけですが、その傾向が近年は前景化したと思うんです。

YI:それはかなりありますね。他人に任せてできたものに修正希望を出して直したものより、最初の形のほうがおもしろいなって感じた経験が多くて。それで、任せた方の判断を尊重して信頼する傾向が強まりました。

先日、「これまで音楽に対して信じて倒れ込む、倒れ込み方がちょっと足りなかったかもしれません。次のアルバムでは完全にゆだねて、音楽をベッドと思って倒れ込んでおる気がします」とXにポストしていましたよね。いまのお話と関係しているのかなと。

YI:それ、忘れていました(笑)。そうなんですよ。以前は音楽を信じきれていなくて、ちゃんと倒れ込めていなかったんです。人類が音楽をずっと好きでいる事実――カラオケで歌うのが楽しいとか、子どもたちは歌うのが好きだとか、料理しながら歌をつい口ずさんじゃうとか、そういう音楽と人類の深い、ズブズブの関係に対する信用が足りなかったんですね。なので、個性的なものやエゴを込めないといけないと思っていたのですが、今回はそういうものをなるべく外して、人類と音楽のズブズブの関係に安心して倒れ込もうと。……なにを言ってるのか、自分でもよくわからなってきたんですけど(笑)。いろんなこだわりを脱ぎ捨てよう、という気持ちは強まっていますね。

パンツ一丁、いや、真っ裸になったという(笑)。

YI:まだパンツとタンクトップは着ちゃっていますね(笑)。それでも、だいぶ脱ぎ捨てられました。一時、軽い鬱っぽくなったりもしていたので、精神的にやばくなるのを予防するために、カウンセリングを定期的に受けるようになったんですよ。

“続・充電器” の歌詞にもありますね。

YI:歌詞にも出てくるスズキさんのカウンセリングを受けていて、内観するようになって、素直な自分を発見したことも影響があったかもしれないですね。日本のカウンセリングって、村の老賢者みたいな方が人生訓やアドバイスを授けるようなものも多いんです(笑)。西洋的なカウンセリングは、自分の話を鏡のようにずっとミラーリングしてくれて、自分のイメージが歪んだときにだけちゃんと映してくれるんですね。そういうスタイルのカウンセラーであるスズキさんにたまたま出会えたのは幸運でしたね。

“続・充電器” は内省的な歌詞ですよね。

YI:前半部分は元々の “充電器”(2019年)の歌詞で、後半に後日談を継ぎ足しました。

原曲の、バキバキのエレクトロニックなアレンジからも変わっています。

YI:あれは服部峻さんという狂気じみた……「狂気じみた」は言い過ぎかも(笑)。服部さんというかっこいいサウンド・クリエイターの方によるものでしたが、歌を活かしたアレンジにしたかったのと、「生のストリングスを録ってみたい!」って無邪気な願望があって。ストリングス・アレンジを廣瀬真理子さんという方にやっていただいています。
廣瀬さんが実は、このアルバムの隠れたエリック・ドルフィー性をかなり担っているんです(笑)。「廣瀬真理子とパープルヘイズ」というビッグ・バンドをやっていらっしゃるのですが、微分音を使ったり、かなり変態的なサウンドで。廣瀬さんに参加いただいたのは、“続・充電器” とシングルの “知ってる”(2023年)ですね。今回、ストリングスを入れた曲が増えました。

ストリングスが入っている曲では、“気のせい” の編曲がシンリズムさんで、“道がたくさん” が大沢健太郎さん(元・北園みなみ)。“道がたくさん” はフレスプの石上嵩大さんが作詞作曲をされていて、歌はsugar meさんとのデュエットですね。大沢さんの編曲は、スティーヴィー・ワンダーやシュガー・ベイブなんかのそれを感じさせるものです。

YI:“道がたくさん” は、石上さんのプロジェクトで10年ほど前につくったままお蔵入りになっていた曲のデータが残っていたので、サルヴェージしたんです。ずっと気になっていて、デモを聴きつづけていたんですけど、アルバムの締めくくりに合いそうだと思って。

“気のせい” のシンリズムさんの編曲は、冨田ラボの愛弟子感がよく出ている見事なシティ・ポップですね。

YI:エンジニアの中村公輔さんが京都精華大学でレコーディングの授業を受け持っていて、歌を録音する実践として、当時の生徒さんだった清田(尚吾)さんが書いた曲に、僕が急いで作詞した曲ですね。あとで聴き返したら、意外といい曲だな~と思って。ばーっと書いたから軽やかで、こだわりが希薄になったのかな。

「LINEの返事 書くだけで時間かけて」なんて、すごくいい歌詞だと思いました。

YI:「LINEの返事を返さない人にどうしたらいいの?」みたいな恋愛相談の動画がTikTokで流れてくるんですよ。それで「返事がこないってことは、大切に書いている可能性があるから待ってみて!」と言っていて、なるほど~! と思ったんですよね(笑)。

1曲目の “とまどい” は元々、NHK Eテレのドラマ『東京の雪男』(2023年)の挿入歌だったんですね。

YI:雪男と人間の女性が出会う話なんですけど、前半の歌詞がその出会いを描いたドラマに提供したもので、後半の藤岡(みなみ)さんパートはアルバム用に追加しました。

藤岡さんの声がすごく儚げで、それこそ霊界から響いてきているような歌ですね。藤岡さんは「タイムトラベル指南」ともクレジットされているのですが、これは(笑)?

YI:藤岡さんって、タイム・トラベルがすごく好きなんです。タイム・トラベル専門書店の「utouto」というのをやっているくらい。

タイム・トラベル専門書店ってすごいですね。

YI:明らかにタイム・トラベルしたであろう人も店に現れるらしくて(笑)。まったく同じ人が店の前を2回通過したり、侍が付近を歩いていたりするって、藤岡さんが言っていましたね。
以前、『ミュージック・マガジン』さんの連載(「ふたりのプレイリスト」)で藤岡さんにインタヴューしたとき、縄文土器とか藤岡さんが好きなものはタイム・トラベルに繋がっているとおっしゃっていたんです。それで今回、タイム・トラベル指南をレコーディングの際にしていただきました。僕は、タイム・トラベルはできなかったんですけど(笑)。

「指南」って、具体的にどういうことなんでしょうか(笑)?

YI:タイム・トラベルのおすすめ映画を教えてもらったりとか、それくらいです(笑)。タイム・トラベルという要素やテーマは僕も大切にしていて、時間軸を引き延ばしたり短くしたりするのが好きなんですね。なので、藤岡さんを今後のタイム・トラベルの師匠として招き入れたく、まず歌の客演でオファーしました。

他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。

“とまどい” は、若干ローファイ・ヒップホップっぽいプロダクションですよね。

YI:前半と後半でビート・チェンジする曲が好きで。“とまどい” では、商用利用OKのサンプリング素材を使って、エンジニアの林田涼太さんにミックスしていただいたんです。その素材と歌とのバランスをどうするかという点で、なるべく歌以外の音を減らしたかったので、楽しみながらつくって勉強になりました。

ミックスで歌を大きくしてど真ん中に置いたことも、アルバムをポップにしているのでしょうね。

YI:ドレイクをずっと聴いていたら、歌心やラップが生々しくて真に迫るから、みんなドレイクが好きなのかなって思ったんです。ドレイクの影響っていうと、恥ずかしいんですけど(笑)。ドレイクの影響で、どんどん「歌デカ」にしていこうと思ったんですね。

ビート・スウィッチの話がありましたが、近年の入江さんの作品の特徴ですよね。それもやはり、最近のヒップホップと関係していますか?

YI:かなりありますね。「別曲だと思って聴いてたわ~」みたいなビート・スウィッチの曲って最近、多いじゃないですか。ドレイクと21サヴェージの『Her Loss』(2022年)も、頻繁なビート・スウィッチの曲が多くて好きなんです。それをポップな歌ものでやれたらおもしろいんじゃないかなって。自分は多動傾向があるので、多動欲求を1曲で2曲分満たせるって理由もあるかもしれません(笑)。

あと、やはり気になるのが3曲目の “ときめき” で、マリオ・Cことマリオ・カルダート・Jr.が参加していることに驚きました。

YI:マリオさんから「入江くんの歌、おもしろかったから、なんか一緒にやってみない?」とフランクなメッセージをいただいて、送っていただいた曲に歌をのせてつくった曲です。OMSBさんとの “やけど”(2015年)で知ってくださったんだったかな? カクカクした譜割りじゃない、ふわっとのっている歌の気持ちよさをおもしろがってくれたようです。

作曲にマリオさんと並んでジョナサン・マイアさんという方がクレジットされていて、調べてみたところ、ラテン・グラミー賞を受賞しているブラジルのプロデューサー/エンジニアのようですね。

YI:全楽器をマリオさんとジョナサンさんが担当されている、としか書かれていないので、分担はわからないんですけど、たくさん演奏してくれているのかもしれません。

“ときめき” は「メロディの作曲」が入江さんと記されていますが、入江さんがトップラインだけを書いているというのが、いまどきのコライト的な作曲法だなと思いました。

YI:送られてきたトラックに歌をのせて、お互いの仕事を全尊重、全活かしで完成させたので、楽しかったですね。

ラブリーサマーちゃんとの “海に来たのに” は、シングルとして2023年にリリースされていましたね。

YI:元々、ラップ・デュオのOGGYWESTのメンバーであるLEXUZ YENさんとつくっていた曲です。それを下地に、僕と林田さんがつくり直して、ラブサマさんに歌をのせてもらったので、これもコライト色が強いですね。

ラブサマちゃんのヴォーカルが普段の歌い方とはちょっとちがっていて、90年代J-POP/J-R&Bっぽい発声がいいですね。

YI:ご本人はCharaさんのオマージュだと言っていました。

なるほど! グランジっぽいギターが途中から入ってきますが、これはラブサマちゃんの演奏ですか?

YI:そうです。ラブサマさんだったらギターと一緒にじゃないと、って気持ちがあって。シューゲイザー的な音も好きなので入れたかったんです。
こういうコライト的なつくり方は自分の頭の中と合っているようで、楽しいんですよね。完成したCDを送るために関係者リストをつくったら、70、80人ぐらいいて(笑)。みなさんには感謝しているんですけど、思ったより多かったのが自分でもおもしろかったですね。逆に、全部自分だけでつくったアルバムもおもしろいかなと思うんですけど、多動傾向にあるので、おそらく今後もこのスタイルだろうと思います。海外の作品のクレジットを見ると、作曲者がめちゃくちゃ多くて笑っちゃいますよね。

カニエ・ウェストの作品とか、そうですよね。そこに近づきつつあると。

YI:20人くらいで作曲するスタイルは、いつか挑戦してみたいですね(笑)。

息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

6曲目の “interlude(映画「街の上で」より)” は、サウンドトラックから収録されたのでしょうか?

YI:ミックスは直しましたが、そうです。今泉力哉監督の『街の上で』は下北沢を舞台にした若者たちの恋愛映画なんですけど、そのオープニングで流れる曲だったので、遊び心でアルバムに入れました。
曲として気に入っているのもあるんですけど、今泉監督は映画に参加した作家や俳優を活かそうとするタイプで、僕もすごくのびのびと音楽をつくらせていただいたことが楽しかったんですね。あと、映画音楽をやっている自分と歌を歌っている自分をもうちょっと繋げていきたいというか、壁を溶かしていきたので、アルバムに入れたのもありますね。

そう考えると、『恋愛』というアルバム自体が映画のようで、先ほど関係者リストの人数が多いという話があったとおり、たくさんの出演者やスタッフが関わっている群像劇のように感じますね。

YI:たしかに、自分は映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

8曲目の “あ・ま・み” は元々、姫乃たまさんがnoteで発表した曲ですよね。作詞作曲はスガナミユウさんで、入江さんが編曲しています。姫乃さんが精神的にしんどかった時期に、スガナミさんから贈られた曲だという経緯がありますね。

YI:スガナミさんって、LIVE HAUSの店長をされていて、コーディネーターやイベンターとして世間的に知られていると思うんですけど、ソングライターとしての顔をもっとムキムキ出していってほしい、という思いを勝手に抱いているんです。もちろん、この曲が純粋に好きだったので収録しました。

私も最近、LIVE HAUSのカウンターでしかスガナミさんと会っていなくて、しばらくちゃんとお話ししていないし、ライヴも見にいけていないんです。でも、ソングライターやパフォーマーとしてすごいんですよね。

YI:そうそう! パフォーマーとして最高なんですよね。すごく派手で、エルヴィス・プレスリーばりのステージングをしますからね。
アルバムの流れとして、“続・充電器” で辛い気持ちになって気絶して、“あ・ま・み” は夢の中、“すあま” でみんなが「入江さん!」と呼んで起こそうとしている、というひとつの解釈があります。

たくさんの人びとの声が入江さんに呼びかけている “すあま” は、このアルバムを象徴する曲だと思うんです。どうしてこの曲をつくったんですか?

YI:ポップなアルバムをつくりたかったので、実験的な要素を抑えてたのですが、それを発散しようと思って “すあま” と “Dracula” に込めました。ちょっと自分を解放するというか、こういう変なことをする自分も忘れずにいようと。

入江さんの活動に関わっているKotetsu Shoichiroのええ声なんかも聞こえますが、関係者や友人が参加しているのでしょうか?

YI:姉や甥のような家族、制作期間に会った友だち、恩師や同級生、〈P-VINE〉の前田(裕司)さんとか、全方位的に入江と関わってくれている方々の声です。あと、飼っている猫のすあまも「入江さん」と言っています(笑)。「プロジェクトセカイ」でお世話になっている初音ミクさんの声も入っていますね。

LPはヴァージョンちがいで、CDと配信が “にぎやかVer.” となっているのは?

YI:LPは尺がちょっと短くて人が減っているんです。単純にCDのほうが納期が長かったので、その間に人が増えたんですね(笑)。LP版でフィックスしてもよかったんですけど、諦めきれなくて。

次の “Dracula” はヴォーカルの変調が特徴的ですね。それこそ初音ミクのようにも聞こえますが。

YI:ムーグのアナログ・ヴォコーダーを入手して、そのリッチな音と自分の声を重ねています。ジョルジオ・モロダーの “E=MC²” なんかで使われているヴォコーダーの復刻版らしいですね。林田さんがセッティングに詳しいので、お力添えいただきました。

ポップなアルバムの中で、“Dracula” は最もエレクトロニックで実験的ですよね。

YI:この曲もビート・スウィッチさせるために、前半と後半で音の作家さんが別々なんです。前半が黄倉未来さんで、後半が耶麻ユウキさんというhikaru yamadaくんのサークルの先輩で、アンビエントをつくっている方ですね。おふたりにはどうなるかを知らせずにつくってもらって、それを強引に繋ぎました。歌詞もぐちゃぐちゃしているので、やりたい放題、楽しんだ曲ですね。

“Dracula” の歌詞、すごいですよね。「ウーバー」という言葉が耳に残ります。

YI:Uberで知り合った人たちをモチーフに、いろいろな意味でのマイノリティ、社会からちょっとはぐれている者たちの出会いを描きたかったんですよね。あと、「目を見りゃわかる」って暴力的な表現が好きで。僕は他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。“ときめき” でも、そういうことは歌っているんですけど。

恋愛に引きつけるなら、一目惚れがありますよね。

YI:一目惚れとか、気が合うと思っていたけど全然そんなことなかったとか、そういう勘違いを含めて豊かなことだなと思うんです。
よく考えたら、息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

4月6日にタワーレコード渋谷店のTOWER VINYL SHIBUYAで、4月13日にタワーレコード梅田NU茶屋町店でインストア・ライヴの開催が予定されていますね。

YI:ライヴはリハビリも兼ねてなんですけど、自信がなくなってきたので、ギタリストの小金丸慧さんにサポートしてもらいます。小金丸さんは「プロジェクトセカイ」でもお世話になっているし、このアルバムでも “ごめんね” のアレンジとか、かなりがっつりといろいろな形で参加してもらっています。“海に来たのに” では、ラブサマさんのギター・テックもやってもらっていますね。ほんとに、小金丸さんなしでは成り立っていない作品です。

小金丸さんって、メタラーでありながらジャズ・シーンでも活躍されていて、ユニークなミュージシャンですよね。先日、ちょうど取材しました(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/36890)。

YI:もともと音大を次席で卒業するくらい優秀なミュージシャンなんですけど、ジャズ科の卒制がメタル作品だという破壊的な部分もあり、人柄はすごく優しくて、最高におもしろい方ですね。

入江さんのひさびさのライヴ、楽しみですね。

YI:今年からは、ライヴもやっていけたらと思ってます。全然やっていないくて、今回のインストアはかなりひさしぶりなので、入念に準備して、「絶対にできる!」って確信した状態じゃないとできない(笑)。

【入江陽『恋愛』 リリース記念 ミニライブ&サイン会】
◎TOWER VINYL SHIBUYA
日時:4/6(土) 15時~
場所:タワーレコード渋谷店6F
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://towershibuya.jp/2024/04/06/193759

◎タワーレコード梅田NU茶屋町店
日時:4/13(土) 14時~
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店(NU茶屋町 6F)
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://tower.jp/store/event/2024/4/096003
※ミニライブ・サイン会の参加方法は各店のHPをご参照ください。

【ライヴ情報】
「入江陽 New Album「恋愛」Release Event in 愛知」
日時:4/14(日)open18:00 start18:30
会場:金山ブラジルコーヒー
https://kanayamabrazil.net/index.html

出演:
・入江陽(れんあいset)
・森脇ひとみ(その他の短編ズ)
・The Kota Oe Band

予約:¥2500(+1d¥600) 当日¥3000(+1d¥600)
予約窓口:nqlunch@gmail.com(金山ブラジルコーヒー)

Savan - ele-king

 今年のクンビアはどうかしている。驚くほど飛躍がある。近年だとクンビアとレゲトンを交錯させたアトロポリスやマンボとクロスオーヴァーさせたソニド・ガロ・ネグロなど可能性を広げてきた人たちは少なからずいたものの(アルカも『KickⅢ』『KickⅣ』で導入)、それらとは少し次元が違う。ディスコ・ミュージックがアシッド・ハウスに変化した時のような発展があり、少なくとも原型は消し飛んでいる。今年の初め、ハイパー・フォーク・ブリコラージュと銘打って『Levure』をリリースしたアルゼンチンのヨトがスラップスティックなフォークトロニカとしてクンビアを刷新したとしたら、本家コロンビアからのエントリーとなったサヴァンこと環境保護活動家のホセ・ミゲル・ナバスによる『Antes del Amancer(夜明け前)』はサイケデリックなフォークトロニカというのか、ガレージ・ロックをどこかに置き忘れた『スクリーマデリカ』……というのはさすがに言い過ぎか。アルゼンチンが高度な音楽教育を背景にヘンなことをやらかす人たちだとしたら、コロンビアはストリートワイズがそのすべてで、理屈では導けないダイナミズムが本家を本家たらしめている。サヴァンは、南米の人にはありがちだけれど、熱帯雨林の医療儀式とやらに録音方法を委ねたそうで、先住民の語る神話やそのなかで鳥が果たしている役割にインスパイアされた音楽であり、アルバム全体を通してコロンビア北部にある山地(シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ)を歩き回るシミュレーションになっている。確かに〝Pensar Bonito〟を聴いていると高いところに舞い上がっていくような、それこそ〝Higher Than The Sun〟を思い出す感じがある。

 医療儀式というのは平たくいうとヤゲと呼ばれる先住民の下剤を服用することでトリップすることのようで(推測)、感情のブロックを取り除いて無意識に没頭することを意味しているという。ハーモニカを演奏しているデヴィッド・フェリペは毎週末にヤゲを使った医療儀式に参加し、彼の演奏に導かれて儀式の再現に勤めているようで、それはどうやらシャーマンが鳥になるという幻覚状態の再現らしい。サヴァンはフクロウやコンドルなど神話と深く関係している鳥たちの声の周波数スペクトルを分析し、それらをフルート版のガイタ(ジャジューカで使われている木管楽器)で吹くメロディに応用し、それらが織り成すハーモニーを音の彫刻と称している。演奏者の視点は鳥に同化し、遠くまで見通す能力を得て、自然の再生に意識を向けることが目的になる。ヤゲはちなみにテレンス・マッケナでおなじみアヤワスカに似たものだという。また、南米のプロデューサーたちが鳥に過剰な思い入れを持っているのは『A Guide To The Birdsong Of South America』にもよく表れていた通り。

 クラフトワークを自然志向に向かわせたようなオープニングからデヴィッド・フェリペのハーモニカが重用され、これがブルースを思わせる響きを放つ。続く〝Halcón(夜鷹)〟ではヴォーカルにマイタラを起用し、本格的な儀式へと没入していく。アンデス民謡とクンビアを混ぜ合わせたようなフォークトロニカは、ふわふわと宙を舞い続け、続く〝Pagamento(自然への捧げもの)〟が最初の白眉。変調させたカエルと鳥の声を何層にもレイヤーさせ、得も言われぬモヤモヤ感に導かれる。〝Búho(フクロウ)〟は初めて楽器の音がストレートに使われ、マイタラが再び断片的なヴォーカルを吹き込んでいく。さらに〝Pensar Bonito(美しさを思う)〟はきらびやかな弦の響きを組み合わせ、ヴォイス・サンプル(?)が優雅に空を駆け巡る。ここまで自然の描写に努めてきたサヴァンは〝Condor Madre(コンドルの母)〟で躍動感に満ちた一歩を踏み出し、循環コードを執拗に繰り返すせいか、これがまたどことなくプライマル・スクリーム〝Loaded〟のアコースティックな展開に聞こえて。空へ、空へ、コンドルは舞い上がる。一転して〝Colibrí(ハチドリ)〟はオープニングに戻ったようなハーモニカの乱舞。背景に挿入されたノイズの量がハチドリの小ささを浮かび上がらせる。最後は〝Aguíla de Paramo(吹雪の鷲)〟。意外にも厳しい自然の風景でエンディングを迎える。ヤゲによって浄化され、カタルシスを得て解放された人々は心が強くなっているはずだということだろうか。あくまでも医療儀式ということだから、まあ、そういうことなのだろう(最後に〝Pagamento〟を短くリプライズさせていればアルバムの構成としては完璧だったんじゃないかなと思う)。いや、しかし、「和みました」。音楽に限らずなんらかの手段でリラックスできた時、90年代後半に「癒し」という言い方が広まる前は「和んだ~」というのが一般的だった。なんで、日本人は「和んだ~」という表現を捨ててしまったのかな。サリン事件の後で被害者意識が増大したことと関係があるのだろうか。

 コロナ禍で税制が変わり、新自由主義に苦しめられたコロンビアでは毎週のように市民によるデモが起こり、2年前にコロンビア史上初の左派政権が誕生している。現職のペトロ大統領は左翼ゲリラ出身で、親米路線が揺らぐことは必至とされるなか、通貨をドルに変えると宣言したアルゼンチンのミレイ大統領から「テロリストの人殺し」と呼ばれ、早くもコロンビアがアルゼンチンの外交官を国外追放するなど、今月に入ってから不穏な動きが活発化している。ミレイはメキシコやヴェネズエラにも批判を加え、いまや南米の治安を掻き乱す最大級の不安要因であり、アルゼンチンやコロンビアの音楽にもさらなる変化が起きることは間違いない。『Antes del Amanecer』のリリースにあたってサヴァンは「私たちがどんな状況に置かれても、私たちは常にポジティブな思考を働かなければならない」とコメント。ミレイ大統領はちなみにイスラエル支持である。

『成功したオタク』 - ele-king

 2012年から世界的な広がりを見せたK-POPのなかでもトップを切り、16年には韓流グループで初めてフォーブス誌の「世界で最も稼ぐ有名人100人」に選ばれたBIGBANGは日本の観客動員数も(2位の嵐をダブルスコアで抑えて)1位となるなど破竹の勢いで10年間を駆け抜けた……と思いきや、その年の暮にメンバーのV.Iがケータイを没取して女性たちとパーティをやっているという報道が出たと思ったら、そこからスキャンダル報道がとまらなくなり、翌年にはT.O.Pが大麻で逮捕、事務所の株価暴落、兵役で特別扱いに非難、19年2月にはV.Iが経営するクラブ、バーニング・サンで暴行事件、同クラブで麻薬と性犯罪の疑惑も取り沙汰され、V.Iは警察に出頭、3月に入ると隠し撮りしていたセックス・ヴィデオを芸能関係者8人がアプリで共有していたことが発覚し、V.Iは引退を発表、韓国よりも日本のファンがV.Iを擁護したことも話題になった。さらにアプリを運営していた歌手のチョン・ジュニョンも逮捕され、同アプリに登録していたHIGHLIGHTやFTISLANDのメンバーもグループを脱退もしくは引退。この時も日本のファンが脱退阻止を働きかけて話題となり、V.Iは資金の横領など計9件の容疑(売買春あっせん、買春、違法撮影物の流布、業務上横領、常習賭博、外国為替取引法違反、食品衛生法違反、特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反、特殊暴行教唆)で実刑を課され、昨23年には早くも出所、チョン・ジュニョンには7年の刑が言い渡された。一連の事件はバーニング・サン事件もしくはスンリゲート事件と呼称され、V.Iと警察の癒着も明らかになったため警察幹部も立件されたことで疑惑は警察組織全体へと広がっていった。韓流衰退の合図だったともされる同事件を題材に『ガールコップス』や『量子物理学』といった映画もつくられ、うまく逃げおおせたと考えられている特権階級に対しては手段を選ばずに追及する姿勢がいまも続いている。

 ここまでのことは韓国では誰もが知っていて、それを前提につくられたドキュメンタリーが『成功したオタク』。チョン・ジュニョンがアイドルとして人気を博していたシーンを冒頭にちょっとだけ置いた以外は事件以後の余波が扱われ、彼らのことを「推し」ていた監督のオ・セヨンや他の女性ファンが自分たちの気持ちに整理がつけられず、怒りや虚無感、あるいはどう名づけていいのかわからない感情に振り回される場面が延々と記録されている。「成功したオタク」というのは「推しに覚えられるほど熱心なファンになった」という意味で(英題は『FANATIC(熱狂的)』)、セックス・ピストルズの親衛隊だったスージー・スーがデヴィッド・ボウイのようなメイクで有名になったプロセスとまったく同じ。そのようにして他のファンにも認識されるほど目立つファンになったことが、しかし、推しが(ここではバーニング・サン事件によって)ロクでもない存在になった途端に仇となり、「成功したオタク」だったことを悔いるようになっていく(ファンダムが崩壊した時に事態をどう受け止めればいいのかというケース・スタディというか)。「推し」というのは説明するまでもないけれど、ひいきのアイドルのことで、アイドルの応援を生きがいにすることは「推し活」や「推しごと」などと呼ばれている。「推し活」は人生を豊かにし、生き生きとしたものにしてくれ、たとえば鈴木愛理のソロ曲〝最強の推し!〟(https://www.youtube.com/watch?v=k8YRcE6BPNY)を観ると、「推し活」が無限大のパワーを与えてくれ、会社で出世し、政治家として成功する原動力になるものとして描かれている。基本的に「推し活」の背景には労働環境が劣悪で、働くことに喜びが感じられないという前提があり、そのような社会とのつながりを強化する効果が期待されている。社会に背を向けるような感覚は微塵もない。

 オ・セヨンは他の女性ファンたちと語り合い、彼女たちの声を記録し、慰め合い、裁判を傍聴しに遠くまで出かけ、買い集めたグッズの葬式を行う。捨てられるようで捨てられない。過去に対する複雑な感情が思いもかけない角度から滲み出す。セヨンはバーニング・サン事件を報道したパク・ヒョシル記者に最初は罵声を浴びせたことを反省し、謝りに行く。ヒョシル記者はセヨンを優しく慰めてくれ、このような事件が起きてもなお「推し」を擁護するファンは「パク・クネ元大統領の支持者たちに似ている」と言われる。セヨンはパク・クネを支持する人たちの集まりに足を運び、「ファナティック」を客観視することができ、かつてのファンたちにこれ以上、カメラを向けても仕方がないことを悟る。どんどん内省的になっていくセヨンは、さらに自分の母親もまた#Me Too運動で自分と同じように「推し」が犯罪者として糾弾され、自殺したことに苦しんでいることを知る……

 チョン・ジュニョンもパク・クネもいわば間違った指導者である。セヨンの言葉を借りると「推し活」というのは「(推しを)自分自身と同一視し限りなく信頼するという経験」で、「〝推し〟その人になりたい」という欲望へ発展していくという。それはおそらく指導者が他者ではなくなることを意味し、一種の神秘体験と同じ意味を持っている。ナチズムを研究した思想家、エリアス・カネッティは社会を構成する個々人には潜在的に接触恐怖があり、その恐怖から解放されたくて人々は群衆を形成するという(『群衆と権力』)。コミュニケーションがSNSなどの間接的な場で行われる頻度が増えれば、当然のことながら現実の生活において接触恐怖は増すだろうし、「群衆」も小規模なものが生まれやすくなる。「推し活」が増えるのもむべなるかなで、そうすれば間違った指導者と自分を同一視する機会も増えていくのは明らか。チョン・ジュニョンの例とパク・クネの例をここで重ね合わせているのはおそらく偶然ではないし、『成功したオタク』で描かれているのは、共同体が壊れたことで、むしろ、様々な接触が生まれていくプロセスである。複数で多様なコミュニケーションの増大。セヨンが最後に出会うのが、そして、母親だったという流れはそれこそ彼女がなぜ「推し活」に向かったかを示唆しているようで、かなりやるせない。

Sadistic Mika Band - ele-king

 日本のロック史にその名を刻むバンドのひと組、加藤和彦、高中正義、小原礼、高橋幸宏、今井裕、後藤次利らから成るサディスティック・ミカ・バンド。そのボックスセットが本日3月27日発売されている。
 MIKAがヴォーカルを務めた第1期および桐島かれんヴォーカル時代の第2期に発表されたオリジナル・アルバム&ライヴ・アルバム全6作に最新リマスタリングが施され(うち2枚は砂原良徳が担当)、新たに発見された京都でのライヴ音源を収める1枚、レア音源で構成される1枚を加えた計8枚のCDが封入される……のみならず、さらにBlu-rayとブックレットまで同梱という、なんとも豪華な仕様だ。
 また、ロキシー・ミュージックのフロントアクトとして演奏した際の音源として名高い『Live In London』、そのアートワークをあしらったTシャツの予約も開始されているので、そちらもチェックしておきましょう。

アーティスト:サディスティック・ミカ・バンド
タイトル:PERFECT! MENU
レーベル:Universal Music
品番:UPCY-90244
仕様:CD8枚組+Blu-ray+ブックレット
発売日:2024年3月27日
価格:22,000円(税込)
公式ページ

3月のジャズ - ele-king

 ジョン・コルトレーンアリス・コルトレーンの音楽や思想を後世に伝えるために設立された非営利団体のジョン&アリス・コルトレーン・ホームは、コルトレーンの一族や〈インパルス〉レコード、デトロイト・ジャズ・フェスティヴァル、ハマー・ミュージアム、ニューヨーク・ヒストリカル・ソサエティなどと提携し、今年2024年と2025年を「アリスの年」と位置づけ、さまざまな企画や催し、出版などをおこなっていくとしている。2月22日にはコルトレーン夫妻の息子であるサックス奏者のラヴィ・コルトレーン、アリスの娘であるシンガーのミシェル・コルトレーンに、アリス・コルトレーンに多大な影響を受けたハープ奏者のブランディ・ヤンガーらが集まり、夫妻とも縁の深いニューヨークのライヴ・ハウス、バードランドで記念コンサートがおこなわれた。そして、これら企画の一環としてアリス・コルトレーンの未発表ライヴ盤が発表された。


Alice Coltrane
The Carnegie Hall Concert

Impulse! / ユニバーサル

 ジョンの死後から4年経った1971年2月21日、ニューヨークのカーネギー・ホールでおこなわれたコンサートの模様を収録しており、もともと〈インパルス〉からリリースする予定で録音していたものの、諸事情でお蔵入りとなっていたものだ。アリスはインドのヨガの教祖であるスワミ・サッチダナンダ・サラスワティに師事しており、そのスワミ・サッチダナンダの統一ヨガ研究所の設立基金にコンサートの収益金は充てられた。アリスにとってはバンド・リーダーとして初めてのカーネギー・ホールでのコンサートとなり、参加メンバーはファラオ・サンダース(テナー&ソプラノ・サックス、フルート、パーカッション)、アーチー・シェップ(テナー&ソプラノ・サックス、パーカッション)というジョンの弟子たちと、コルトレーン楽団のベーシストだったジミー・ギャリソン、そしてセシル・マクビー(ベース)、エド・ブラックウェル(ドラムス)、クリフォード・ジャーヴィス(ドラムス)というラインナップで、そのほかに現代インド音楽の演奏家のクマール・クレイマー(ハーモニウム)、トゥルシー・レイノルズ(タンボーラ)も参加。アリスは1970年12月に5週間ほどインドに滞在し、その体験やサッチダナンダの教えをもとに1971年2月に『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』をリリースした。このコンサートはアルバムの発表から1週間後におこなわれ、アルバムの演奏メンバーだったファラオやセシル、トゥルシーらも加わりし、『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』のお披露目にも当たるものとなった。

 全体で1時間20分ほどに及ぶコンサートだが、演奏するのは『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』から表題曲と “シヴァ・ロカ(シヴァ神の領域)”、ジョン・コルトレーンの代表ナンバーである “アフリカ”、“レオ” と長尺の4曲のみ。“ジャーニー・イン・サッチダナンダ” と “シヴァ・ロカ” は、スタジオ録音盤からおよそ2倍の長さにまで伸ばされた即興演奏が続く。まさにミュージカル・ジャーニーとも言うべき瞑想的で深遠な演奏で、銀河を思わせるアリスのハープの流れのなかを、ファラオやアーチーのサックスが泳いでいく。この2曲でアリスはハープを演奏しているのだが、“アフリカ” ではピアノを演奏している。当初のアリスは1965年にジョンのグループにマッコイ・タイナーの後任ピアニストとして参加していて、その当時を彷彿とさせる演奏である。原初的なアフリカの太鼓を思わせるダイナミックなドラム、モーダルななかにときおりセシル・テイラーのように鋭く覚醒したフレーズを挟むピアノ、激情的な咆哮を上げるサックスと、モード・ジャズとフリー・ジャズの狭間を行くような演奏が30分近く続く。瞑想的な『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』の世界とは真逆の激しいパフォーマンスだ(ちなみに、数年前にこの “アフリカ” の演奏部分をA、B面に振り分けたブートレッグが発売されたことがある)。

 “レオ” はジョンの1966年の来日公演でアリス、ファラオらとともに演奏したナンバーの再演。1978年のロサンゼルスでのライヴ・アルバム『トランスフィギュレーション』でも演奏していて、そのときに「獅子座生まれの人が持つ根源的なエネルギーについてジョンが作曲したナンバー」だとナレーションを入れていた(このライヴ盤でも曲紹介はしているが、音声が小さくて不明瞭)。獅子座生まれのアリスに捧げた曲とも言える。『トランスフィギュレーション』のアリスはすべてオルガン演奏だったが、こちらではピアノ演奏なのでかなり印象も異なる。“アフリカ” の流れを引き継ぎつつ、よりフリーキーに振り切った演奏となっている。中間の鬼気迫る中にも緻密さを孕んだピアノ・ソロは圧巻だ。“アフリカ” と “レオ” はアリスの世界というより、ジョンとアリスが共同で作り出した世界の再現と言えるもので、このライヴを観た人はそこにジョンも存在したと思ったのではないだろうか。


Jahari Massamba Unit
YHWH Is Love

Law Of Rhythm

 マッドリブとカリーム・リギンズによるプロジェクト、ジャハリ・マッサンバ・ユニットのデビュー作『パードン・マイ・フレンチ』から2年ぶりの新作。アルバム・タイトルの “YHWH(ヤハウェ)” は「神」や「創造主」という意味だ。カリームのビートメイカー的なセンスは本作でも健在で、実際にはドラムを演奏していてもヒップホップのビートのように聴こえるし、またJディラ風のよじれやズレを意図的に生み出している。そして、“JMUズ・ヴォヤージ” でのエレピ、“ザ・クラッパーズ・カズン” でのトロンボーン、“ボッピン” でのフルートとマッドリブの楽器演奏は前作よりもさらに充実しており、ミュージシャンとしての熟練ぶりが感じられる。“ストンピング・ガミー” はアフリカ的な色彩を湛えたジャズ・ファンクで、エイドリアン・ヤングとアリ・シャヒード・ムハマンドの『ジャズ・イズ・デッド』プロジェクトに近い感触。“マッサンバ・アフダンス” はサンバのリズムで、1960年代のブラジルのジャズ・サンバ・トリオを現代的にアレンジしたものとなっている。


Tour-Maubourg & Ismael Ndir
The Panorama Sessions

Pont Neuf

 ツール・マーブルグはベルギー出身で現在はパリを拠点とするプロデューサー。ハウス系のDJプロデューサーだが、ジャズ的なピアノ/キーボード演奏を取り入れるなどジャズ・ハウス・クリエーターとして評価が高い。これまで『パラディス・アーティフィシャル』(2020年)、『スペーシズ・オブ・サイレンス』(2023年)と2枚のアルバムを発表していて、それらではディープ・ハウスなどにとどまらず、ダウンテンポやジャズ・ファンク、ブロークンビーツ調と幅広さを見せ、いずれにしてもキーボード演奏が楽曲の軸となっている。『スペーシズ・オブ・サイレンス』では2曲ほどサックス奏者のイスマエル・ンディールが参加した曲があったが、この度そのイスマエルと組んだEPをリリースした。ブリュッセルにあるパノラマ・スタジオでのセッション音源で、ドラマーのフレジュス・メアがサポートしている。ツールにとって、これまでのエレクトロニックな作品群に比べて生演奏に大きく舵を切った意欲作となっている。哀愁に満ちたサックスが心象的なメロウ・フュージョン調の “オープニング・テーマ”、ジャズ・ボッサのリズムを取り入れた “ラ・ベルセウス・デ・ヴュー・アマンツ”、ブロークンビーツ的なリズムにディープなピアノとサックス演奏がフィーチャーされた “サン・テ・ア・ラ・メンテ”。1990年代後半から2000年代のクラブ・ジャズやフューチャー・ジャズの時代、フランスでは〈イエロー・プロダクションズ〉を中心に、DJカム、サン・ジェルマン、レミニッセンス・カルテット、マイティ・バップなどが登場し、ジャズ・ハウス、ブラジリアン・ハウス、トリップ・ホップなどのサウンドが隆盛を極めた。そうした頃の雰囲気を感じさせる作品集である。


Amaro Freitas
Y'Y

Psychic Hotline / unimusic

 ブラジル出身のピアニスト、アマーロ・フレイタスの通算4枚目のアルバム。これまで〈ファー・アウト〉などから作品をリリースしてきたが、今回はアメリカの〈サイキック・ホットライン〉というレーベルからのリリースで、それに伴ってかアメリカのミュージシャンたちと共演する。ブランディ・ヤンガージェフ・パーカーのほかに1970年代からフリー・ジャズ方面で活動してきた大ヴェテランのハミッド・レイクも参加。アメリカ人以外にもシャバカ・ハッチングスやキューバ出身のアニエル・ソメイランが参加するなど国際色豊かなセッションとなっている。2020年にアマーロはアマゾン流域のマナウスという街に居留していたことあがり、そこでの経験が作品にインスパイアされている。アマゾンの自然やそこに住む先住民がモチーフとなり、以前のピアノ・トリオを軸とした作品から、より多彩な楽器群を交えた複合的な作品集となっている。アマーロ自身もピアノだけでなくカリンバ(ムビラ)やパーカッション類を演奏し、アフロ・ブラジリアン的な極めてルーツ色の強いサウンドだ。“エンカンタドス” は野趣に富んだアフロ・サンバ、もしくは隣国ウルグアイのカンドンベ調の作品で、シャバカのバンブー・フルートとアマーロのピアノの絡みは、ブラジルが生んだ奇才のエルメート・パスコアルを思わせるようだ。ブラジルからはエルメートはじめ、アイアート、ナナ・ヴァスコンセロスといった世界的なミュージシャンが登場しているが、彼らはブラジルとその源流であるアフリカの先住民たちのリズムとジャズを結びつけ、土着性に満ちた音楽を発信してきた。アマーロ・フレイタスのこのアルバムも、そうした系譜に繋がる作品と言えよう。

interview with Keiji Haino - ele-king

俺はラリーズに関しては、皆がけなすとほめたくなるし、絶賛すると批判したくなる。そういうフラットな立場でずっと接してきた。なにごとも、神話化されることが嫌いだし。

 灰野敬二さん(以下、敬称略)の取材を始めてからちょうど3年が経った。周辺関係者インタヴューも含めて今なお継続中である。この取材は、「灰野さんの本を書いてくれ」というエレキング編集部からの依頼がきっかけだが、私自身の中にも「灰野さんの軌跡をちゃんと残さなくてはならない」という思いがずいぶん前からずっとくすぶっていた。灰野敬二ほどオリジナルな世界を探求し続けてきた音楽家は世界的にも稀、というか他にいないという確信があったから。半世紀以上にわたり、自分だけの音楽を追い求め、膨大な数の作品を残してきた彼の評価は、日本よりもむしろ海外での方が高いし、灰野の全貌を知りたがっているファンが世界中にいる。この貴重な文化遺産をできるだけ詳細かつ正確に文字として残さなくてはならないという一種の使命感に背中を押されて、私はこの仕事を引き受けた。

 灰野と私の関係についても少し説明しておく。私が灰野の存在を知ったのは1979年、彼が不失者を結成して間もなくの頃で、私は大学2年生だった。10月14日に吉祥マイナーで初めて不失者のライヴを体験し、続く27日にも法政大学学館ホールで観た。当時の不失者のベイスはガセネタの浜野純。その後も80年代には不失者だけでなくソロなどいろんな形態での彼のライヴに通い続けた。85年頃からは個人的なつきあいも始まり、不失者のライヴ・ツアーを主催したこともあったし、互いの家でレコードに聴き浸ることもしばしばだった。90年代以降は、ライヴを観る機会がめっきり減り、雑誌の取材などで時々会う程度の希薄な関係になったが、レコード・リリースやライヴ・ツアーなど海外での活躍が目立つようになった彼を遠くから眺めつつ、「ようやく灰野敬二の重要さが認められる時代になってきたな」とうれしく思っていた。そして、ここ3年間、100回以上のライヴに通い、彼の自宅でのインタヴューを続けてきた。

 今年秋に出すつもりで進めている本は、灰野敬二の音楽家としての歩みをまとめた、伝記的なものになるだろう。2012年に出た『捧げる 灰野敬二の世界』(河出書房新社)は、灰野が音楽家としての哲学を語った対談集とディスク紹介、年譜という内容だったが、今回の本では自身の言葉で音楽活動の軌跡を詳細に語ってもらっている。また、私生活や様々な交友関係など音楽からちょっと離れたことにもできるだけ触れてもらい、人間・灰野敬二の全体像、それを取り巻く時代の空気を描くことをめざしている。雑談的に語られるエピソードが彼の本性を照らし出すことは少なくないはずだ。まだリストアップされていないが、灰野が好きな音楽家やレコードを紹介するページは、私も楽しみにしている。

 というわけで、今月から、本の前宣伝を兼ねて、これまでにおこなってきた灰野インタヴューの中からちょっと面白いエピソードをランダムに紹介していく。単行本にする際は、膨大な発言を整理、編集しなくてはならないわけだが、ここではできるだけ対話を素起こしのまま(若干の補足説明を加えつつ)紹介したいと思う。単行本には載らないであろう言葉も多いはずだ。第1回目は、「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」、そして「ダムハウス」について。

■《エレクトリック・ピュア・ランド》と水谷孝

 《エレクトリック・ピュア・ランド》は、ロスト・アラーフのヴォーカルの灰野とドラマーの高橋廣行=通称オシメ、そして裸のラリーズの水谷孝が共同で企画したライヴ・イヴェント・シリーズで、73年から74年にかけて計5回開催された。ロスト・アラーフ(当時はキーボードの須田とベイスの斉藤も随時参加)とラリーズ以外に出演したのは、頭脳警察、カルメン・マキ&OZ、セブン(アシッド・セブン)、紅とかげ、南正人などである。

《エレクトリック・ピュア・ランド》の第1回は73年7月3日、池袋シアターグリーンですね。

1秒をどれぐらい自由自在に操れるかの訓練を自分でやった。別の言い方をすれば、間と呼吸の訓練。それは、生易しいもんじゃない。

灰野敬二(以下、灰野):1回目の出演者はロスト・アラーフと裸のラリーズだけだったけど、その後、南正人さんなどいろんな人たちに出てもらった。中心になって企画を進め、現場を仕切っていたのはオシメ。彼は元々プロデューサー志向が強い人だったからね。

灰野さん自身とラリーズとの接点は?

灰野:水谷氏と初めてちゃんと話したのは70年、7月に富士急ハイランドで開催された《ロック・イン・ハイランド》の少し後だったと思う。場所は、ちょうど楽器セールをやっていた渋谷道玄坂のヤマハだった。「君の声と僕のファズ・ギターを絡めたい」と言われたんだよ。でも、俺が初めて彼を見たのは、70年3月の南正人さんの《魂のコンサート》の時だった。俺が学生服姿で飛び入り参加したそのコンサートでは、南さんが「渋谷を歩いていたら雰囲気のある奴がいて、シンガーだというから連れてきた」と言って水谷氏をステージに上げ、彼は弾き語りをしたんだよ。俺はそれを観ていただけで、彼との会話はなかったけど。水谷氏が俺を初めて認識したのはさっきの《ロック・イン・ハイランド》にロスト・アラーフが出た時だったみたいだね。「ラリーズが会場に着いた時ちょうどロスト・アラーフをやっていた」と、後日、山口富士夫がオシメに言ったそうだよ。だから、水谷氏はヤマハで俺に話しかけたのかもしれない。あと、俺がロスト・アラーフに加わって最初に練習した(70年7月)のが渋谷の宮益坂のミウラ・ピアノ・スタジオという場所だけど、後にラリーズもそこをよく使っていたね。
 当時の我々の行動パターンは、道玄坂のヤマハでレコードを買って、ブラックホークかBYGかムルギーに行くという流れだったから、そのあたりで音楽関係者と顔見知りになることが多かった。水谷氏と道玄坂ヤマハで立ち話をした時、俺は下の部分がない中途半端なフルートとコンガを買ったのを憶えている。持って帰るのが大変だった。フルートはその頃から練習し始めたけど、人前で吹き出したのは80年代以降だね。

オシメはロスト・アラーフ解散後の75年には、一時期、ラリーズのドラマーとしても活動してましたよね。水谷さんと仲が良かったのかな?

灰野:《エレクトリック・ピュア・ランド》からのつきあいに加え、オシメが経営していた渋谷のアダン・ミュージック・スタジオをラリーズがよく使っていたからね。ラリーズはちょうど、ドラムの正田俊一郎が脱退した頃だったから、オシメが代わりのドラマーになったんだよ。で、オシメの後にサミー(三巻俊郎)がドラマーになった。

ヤマハで水谷さんから「君の声と僕のファズ・ギターを絡めたい」と言われた時、灰野さんはラリーズに関してはどの程度知ってたんですか?

灰野:ほとんど聴く機会はなかったけど……まあ、普通の8ビートのロックだなと思っていた。《ロック・イン・ハイランド》の時も俺は観ていない。ライヴをちゃんと聴いたのは、《エレクトリック・ピュア・ランド》の第1回(1973年7月3日 池袋シアターグリーン)の時だった。その時俺は水谷氏に「ヘタだけど好きです」と言ったんだ。水谷氏は「ヘタは余計じゃないか」とあの口調で言った。俺はいつも正直に言うからね。それに、上手い下手よりも、好きかどうかが大事だし。気持ちって、隠そうとしても、どうしても伝わってしまうからね。ラリーズはロックの新古典派だと思っている。

水谷さんは灰野さんの歌に関してはどう言ってました?

灰野:その頃ではなく、『わたしだけ?』(81年)が出た頃のことだけど……彼とは《エレクトリック・ピュア・ランド》の後もずっとつきあいがあり、時々会ったりもしていたし、喧嘩も何度もした。アルトーとマラルメのことでもめたり(笑)。で、『わたしだけ?』が出た後、「歌詞もしっかり読んだよ」と彼に言われてうれしかった。


灰野敬二『わたしだけ?』

 俺と水谷氏はみんなが思っているほど仲が良かったわけじゃないし、みんなが思っているほど仲が悪くもなかった。俺はラリーズに関しては、皆がけなすとほめたくなるし、絶賛すると批判したくなる。そういうフラットな立場でずっと接してきた。なにごとも、神話化されることが嫌いだし。
 時間と共に、皆、優等生になっていってしまう。90年代に流行ったロウファイとかヘタウマも、そういうスタイルの優等生にすぎない。自分たちの世界を作り上げたがゆえに、それを保険にして、その枠から出ようとしなくなる。俺は絶対に自分の形を守ろうとはしないよ。

[[SplitPage]]

あの体験がなかったら、ポップ・スターになっていたかもしれないよね。音楽の何に着目するかで、その後の音楽家としての生き方が全然違ってしまったわけで。

■ダムハウスのアニキ

73年に京都にしばらく滞在していたそうですね?

灰野:銀閣寺の近くにあるダムハウスという喫茶店ね。俺がアニキと呼んでいるそのマスター飯田さんと最初に会ったのは渋谷のアップルハウスだった。オシメが浅海さん(ロスト・アラーフの初代ピアニスト浅海章)と出会い、ロスト・アラーフ結成のきっかけにもなった場所で、ビートルズ・シネ・クラブの本部があった場所。俺も時々行ってて、京都からふらりと遊びに来たアニキとそこで出会った。ジャズやブルースに非常に詳しい彼から、「ジャズを聴いた方がいいよ。君だったらいつ来てもうちに泊めてあげるから」と言われたんだ。当時俺はジャズにはほとんど興味がなかったんだけど、時間もあったので、京都まで行ってみた。結局ダムハウスの2階に一ヵ月半滞在し、ひたすらジャズとブルースのレコードだけを聴いていた。店の手伝いをしながら。店が1階で、2階が住居。毎日、定食もごちそうになって。隣が風呂屋だったから便利だったな。バックパッカーみたいな連中もよく泊まってた。音楽中心のちょっとしたコミューンみたいな感じだった。後の「どらっぐすとぅあ」などにつながってゆく感じだね。

京都では演奏はしなかったんですか?

灰野:いや、その一ヵ月半は一切しなかった。レコードを聴くだけ。でも、ライヴを観に行ったりはしたよ。思い出深いのは、京都大学西部講堂での山下洋輔トリオだね。アニキはチャーリー・パーカー以上はいないと言い切るほどのパーカー信者で、巷間「フリー・ジャズ」と呼ばれているものにはまったく興味ない人だったけど、なんとなく一緒に観に行ったの。オシメが山下洋輔ファンだったから、俺も彼から『木喰』(70年)だけは借りて聴いていたけど、あまり惹かれなかった。既に聴いていたセシル・テイラーの二番煎じみたいだな、という印象で。彼らはステージ上ではなく、フロアで演奏しており、俺は一番前、彼らのすぐ目の前で聴いていた。21才の若造が、フーン、なるほどね……みたいな感じで。で、演奏の途中で突然ブレイクして音が一瞬止まった時、俺はジャンプしたんだ。彼らを試してみたくなって。でも、彼らはまったく動揺することなく、また演奏が始まった。その時、彼らの覚悟を見た気がした。これは違うなと。

その時のメンバーは?

灰野:山下洋輔(p)、坂田明(as)、森山威男(ds)。30年ぐらい後、一緒にやるようになってから坂田さんにその時のことを話したけど、彼は全然憶えてなかった。


山下洋輔トリオ『Clay』

で、ダムハウスでは具体的にどういうレコードを聴きこんだんですか?

灰野:ジャズとブルースだけ。毎日、何度も何度も聴き続けた。これだけを徹底的に聴けば他は必要ないと、アニキが12枚のLPを選んでくれたんだよ。その12枚は、チャーリー・パーカー『"Bird" Symbols』(61年)、チャーリー・パーカー・クァルテット『Now's The Time』(57年)、ピアニスト/シンガーのリロイ・カーとギタリストのクラッパー・ブラックウェルのデュオ作『Naptown Blues 1929-1934』(73年)、ファッツ・ナヴァロ『The Fabulous Fats Navarro Volume 1』(57年)、セロニアス・モンク『Genius Of Modern Music Vol. 1』(56年)、ブラインド・レモン・ジェファーソン『The Immortal Blind Lemon Jefferson』(67年)、ジョン・リー・フッカー『No Friend Around』(69年)、T-ボーン・ウォーカー『Stormy Monday Blues』(70年)、ゴスペルのコンピレイション盤『Ain't That Good News』(69年)。タイトルがすぐ出てこないけど、レスター・ヤングとグレン・グールドもあったな。彼にとってはグールドもジャズというとらえ方だった。あっ、一番肝心なのを忘れてた。チャーリー・クリスチャン & ディジー・ガレスピー 『Dizzy Gillespie / Charley Christian 1941 (Minton's Playhouse & Monroe's Uptown, New York City)』(53年)。これは特に徹底的に聴かされた。

アニキとはその後のつきあいは?

灰野:ずっとある。いつだったか、ダムハウスはその後閉店したんだけど、アニキとは10年に1度ぐらい連絡を取り合い、うちにも遊びに来たことがあった。彼はその後、新たな店を始めたんだ。バロック音楽しかかけない「ロココ」という喫茶店。

このダムハウスでの修行的な集中リスニング体験は、その後のミュージシャンとしての活動にどのような影響を与えたと思いますか。あるいは、土台になってますか?

灰野:もちろんなっているんだけど、特にジャズは勉強として聴いたし、こうあるべきだという聴き方をしたせいで、ジャズが楽しくなくなっちゃたんだよね。ずっと呪縛があった。反対に、スワン・シルヴァートーンズなど50年代のゴスペルはロックとして聴けるようになったけど。

でも、モンクやチャーリー・クリスチャンなどは大好きだとずっと言ってきたじゃないですか。昔、僕にもずいぶん勧めましたよね。実際僕は、80年代半ばに灰野さんに言われてチャーリー・クリスチャンのレコードを買ったし。

灰野:ジャズの美しい形として聴くべきだと言ったの。なんでもそうだけど、ひとつのことをやると、もう一方のことを忘れてしまいがち。俺の場合は、ジャズの色を楽しむということを遮断されちゃった感じなの。音の表と裏の関係は深く理解できたけど。だからこそ俺は、表と裏の真ん中を自分で勉強したわけ。そこから生まれたのが不失者だよ。微妙なタイミングのとらえ方は、この時のジャズとブルースの勉強が土台になっていると思う。そこから更に、1秒をどれぐらい自由自在に操れるかの訓練を自分でやった。別の言い方をすれば、間と呼吸の訓練。それは、生易しいもんじゃない。俺は京都から戻ってから、この12枚を自分で揃えて、更に徹底的に聴いて学習した。冬、コタツに入って夜中にずっと聴き続けてそのまま寝落ちして、明け方牛乳配達の音や小鳥のさえずり、通りを箒で掃く音などで目が覚めるんだけど、そういった一つひとつの音を裏、表、裏、表……と感知して、頭がおかしくなりそうだった。物と物が触れているか触れていないか、その関係を無限に探求し続けるぞと思った。

京都での一ヵ月半は、その後の音楽家人生にとってものすごく重要だったわけですね。

灰野:そう。笑っていいけど、あの体験がなかったら、ポップ・スターになっていたかもしれないよね。音楽の何に着目するかで、その後の音楽家としての生き方が全然違ってしまったわけで。俺はあの時から、音楽の根源を知りたいと思うようになったの。あれが本当の始まりだったと思う。当時、アニキは「君は既にやっているよ、無意識で」と言っていたけど。よせばいいのにということをやっちゃう、それでしか得られないことがある。アルバート・アイラーはやったけど、コルトレインはやっていない。だから俺はずっとアイラー派なの。アニキと俺の関係は、ボクシングの名トレーナーが一つの才能を見つけて育てたようなものだと思う。間違いなく恩人だよ。彼と出会わなくてもモンクもチャーリー・クリスチャンも聴いただろうけど、彼はそこに違う見方や回路を示してくれたんだから。

灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回「ロリー・ギャラガーとレッド・ツェッペリン」そして「錦糸町の実況録音」について

Rafael Toral - ele-king

 「アンビエント/ドローンの歴史の中で、重要なアルバムを上げてみよ」と問われたら、私は1994年のラファエル・トラルの『Sound Mind Sound Body』と2004年のシュテファン・マチューの『The Sad Mac』の二作は必ず入れると思う。ノスタルジックなムードのドローン音という意味で、現在まで続くアンビエント/ドローン・ミュージックの源流のように聴こえてくるから。
 そして1994年から30年後に発表された『Spectral Evolution』は、ラファエル・トラルがアンビエント/ドローン的な「音楽」に久しぶりに回帰した作品であり、彼の音響実験の成果が見事に結晶したアルバムであった。いや、もしかするとアルバム『Spectral Evolution』は、ラファエル・トラルの30年に及ぶ活動・経歴のなかでも、「最高傑作」と呼べる作品ではないか。むろんそんなことを軽々しくいうものではないことは十分に承知しているけど、しかし本作は彼が1995年の『Wave Field』以来、さまざまな音響の実験を経て、ついに新たな「音楽」へと辿り着いたといってもいいほどのアルバムに思えたのだ。

 ラファエル・トラルは、ポルトガルの実験音楽家でありギタリストである。1995年に実験音楽とシューゲイザーがミックスされたような『Wave Field』をリリースした。この二作はいまだ名作として語り継がれている。
 トラルは以降も、旺盛な活動を展開し、多くのアルバムを送り出してきた。2004年には日本の〈Headz〉からリリースされた『Harmonic Series 2』を覚えている音楽マニアの方も多いのではないか。近年ではギターから距離をとり、自作の電子音楽器で自在に即興的な電子音を生成する音響作品を制作している。この『Spectral Evolution』は、そんなトラルがギター/音響/アンビエントに、ついに「回帰」したアルバムとひとまずは言えるかもしれない。

 そして『Spectral Evolution』は、ジム・オルークが〈Drag City〉傘下で運営する〈Moikai〉からリリースされたアルバムなのだ。〈Moikai〉は、ポルトガルの電子音楽家ヌーノ・カナヴァロ『Plux Quba』を再発したことで知られるレーベルである。ちなみに〈Moikai〉からはトラルのファースト・アルバム『Sound Mind Sound Body』もリイシューされていた。
 ヌーノ・カナヴァロ『Plux Quba』と『Spectral Evolution』を並べてみると、どこか共通点を感じる方も多いのではないか。ポップで、人懐こく「親しみのある実験音楽」という風情が共通しているとでもいうべきか(ジム・オルークとラファエル・トラルの共演は、トラルの運営する〈Noise Precision Library〉から2010年に『Electronic Music』というアルバムとしてデジタル・リリースされている)。

 むろん、この『Spectral Evolution』に限らずラファエル・トラルはずっと音楽の実験と音響の生成を続けてきたし、どのアルバムも大変に興味深い出来栄えだった。なかでもここ数年、〈Room40〉からリリースされた『Moon Field』(2017)、『Constellation in Still Time』(2019)などは、静謐なサウンドの実験音楽・電子音楽作品として、どれも素晴らしいものだった。
 また、2018年の『Space Quartet』などは即興的な電子音響の生成によって、どこか20世紀、スペースエイジ・レトロフューチャー的な50年代の電子音楽をジャズ化したような独創的なアルバムであった。これは〈Staubgold〉からリリースされていた「Space Elements」シリーズが源泉かもしれないが。

 私が思うに、本作『Spectral Evolution』は、この『Space Quartet』(および「Space Elements」シリーズ)で展開された電子音楽・即興・音楽という要素を、さらに拡張した作品に仕上がっていた。むろん『Spectral Evolution』にはジャズ的な要素・演奏はない。どちらかといえばフェネスの『Endless Summer』(2001)ともいえる電子音響/ドローンを展開している。しかし鳥の声のような電子音の即興/生成によるピッコロのような音が作品内に展開し、それがサウンドの生成変化の「起爆剤」になっているさまに共通項を感じるのだ。ジャズに展開するか、電子音響/ドローンに展開するかの違いとでもいうべきだろうか。まるでふたつの音楽・音響世界が、出発点を同じとする並行世界であるかのように聴こえてしまったのだ。
 じっさい『Spectral Evolution』は、この地球の自然現象や野生生物の発する音をスキャンしながらも、まるでこの地球ではない別の「地球」を生成していくような音響空間を構成しているように感じれた。最初は印象的なギターのフレーズからはじまり、そこに電子音が絡まり、レイヤーされ、次第にスケールの大きな(もしくは顕微鏡を覗き込むようなミニマムな)音響へと変化を遂げていくさまは、まさに2024年の『Endless Summer』。永遠の夏への希求がいまふたたび電子音楽・実験音楽として立ち現れてきたというでもいうべきか。まさに『Sound Mind Sound Body』『Wave Field』的なアンビエント/ドローン・サウンドの系譜にある作品なのだ。
 00年代以降、ギターから離れ、独自の電子楽器で自在に電子音を生成=演奏してきたトラルが、ギターをふたたび手にとったこと。その傾向は、先に書いたように、『Moon Field』から聴くことができたが、本作『Spectral Evolution』ではついに全面的に回帰した。しかも90年代以上の音響空間を生成しての回帰である。それは反動としての回帰ではなく、進化=深化としての回帰でもある。なぜなら、そこには20年以上におよぶ音響実験が経由されているのだから。

 アルバムは、CD/LPは全12曲にトラック分けされている。デジタル版は1トラックにまとめられている。これはどちらがオリジナルというわけではなく、それぞれのメディアの特性に見合った選択をしたというべきだろう(私としてはトラック分けされている方が好みではあるが)。
 じっさい『Spectral Evolution』は、47分で1曲とでもいうように、シームレスに音響が変化していく。音と音がつながり、変化し、そしてまた別の音響へと連鎖されていくさまは圧巻だった。その音響の変化の只中に聴覚を置くとき、リスナーは深い没入感を得ることになるはず。
 トラルのこれまでのアルバムをいっさい聴いたことがなくとも、アンビエント/ドローンに興味のあるリスナーならぜひ聴いてほしい。かつて「アルヴィン・ルシエ・ミーツ・マイブラ」と呼ばれたトラルの魅惑的な音響世界がここにある。

exclusive JEFF MILLS ✖︎ JUN TOGAWA - ele-king

 子どものころTVを観ていたら「宇宙食、発売!」というコマーシャルが目に入った。それは日清食品が売り出すカップヌードルのことで、びっくりした僕は発売初日に買いに行った。ただのラーメンだとは気づかずに夢中になって食べ、空っぽになった容器を逆さまにして「宇宙船!」とか言ってみた。カップヌードルが発売された2年前、人類は初めて月面に降り立った。アポロ11号が月に降り立つプロセスは世界中でTV中継され、日本でもその夜は大人も子どももTV画面をじっと見守った。翌年明けには日本初の人工衛星が打ち上げられ、春からの大阪万博には「月の石」がやってきた。秋にはイギリスのTVドラマ「謎の円盤UFO」が始まり、小学生の子どもが「宇宙」を意識しないのは無理な年となった。アポロが月に着陸した前の年、『2001年宇宙の旅』が1週間で打ち切りになったとはとても思えない騒ぎだった。

 ジェフ・ミルズが2008年から継続的に続けている「THE TRIP」は宇宙旅行をテーマにしたアート・パフォーマンスで、日本では2016年に浜離宮朝日ホールでも公演が行われている。COSMIC LABによる抽象的な映像とジェフ・ミルズの音楽が混じり合い、幻想的な空間がその場に満ち溢れていた。このシリーズの最新ヴァージョンがブラックホールをテーマにした「THE TRIP -Enter The Black Hole-」で、ヴォーカリストとして初めて戸川純が起用されることとなった。公演に先駆けてアルバムも録音されることになり、戸川純は2曲の歌詞を書き下ろし、ジェフ・ミルズがあらかじめ用意していた4曲と擦り合わせる作業が年明けから始まった。レコーディングはマイアミと東京を結んでリモートで行われ、ジェフ・ミルズによる細かい指示のもと〝矛盾〟と〝ホール〟の素材が録音されていく。当初は〝コールユーブンゲン〟のメロディが検討されていた〝ホール〟には新たなメロディがつけられることになり、様々なエデイットを経てまったくのオリジナル曲が完成、オープニングに位置づけられた〝矛盾〟には最終的にギターを加えたミックスまで付け加わった(それが最初に世の中に出ることとなった)。
 レコーディングを始める前からジェフ・ミルズに戸川純と対談したいという申し出を受けていたので、本格的なリハーサルが始まる前に機会を設けようということになった。ジェフ・ミルズがオーストラリアでトゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェストのライヴを終えて、そのまま日本に到着した翌日、2人は初めてリアルで顔を合わせた。戸川純がソロ・デビューして40年。ジェフ・ミルズが初めて日本に来て30年。2人にとってキリのいい年でもある2024年に、2人はしっかりと手を取り合い、短く声を掛け合った。初顔合わせとなるとやはりエモーションの渦巻きが部屋中に満ち溢れる。それはとても暖かい空気であり、2人の話はアポロ11号の月着陸から始まった。

ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。――戸川純

ジェフにコンセプトを訊く前に、戸川さんはこれまで宇宙についてどんなことを考えたことがありますか?

戸川純:いまの宇宙について、どんなことが問題かとか、そういうことは考えたことがありませんでした。子どものころの宇宙観と変わらないままです。私は1961年生まれだから、60年代の未来観のまま来ちゃいました。

今回、「ブラックホール」というテーマで歌詞を書いて欲しいというオファーがあった時はどんな感じでした? オファーがあった日の夜にすぐ歌詞ができましたね。

戸川純:はい。ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。

「恐れと憧れ」でしたね、確かに。ジェフはどうでしょう。同じ質問。ブラックホールに最初に興味を持ったきっかけは?

ジェフ:もともと宇宙科学にはすごく興味があったし、僕は1963年生まれなんだけど、僕が子どもの頃、アメリカはNASAとかアポロ計画とか、アメリカ人には避けて通れない騒ぎとなっていて、子ども心にすごく影響を受けました。あと、アニメとかコミックス、映画やSFにと~~~っても興味があった。ブラックホールについて具体的に考え始めたのは、92年にマイク・バンクスとアンダーグラウンド・レジスタンスというユニットをやっていて、その時にX-102名義で土星をテーマにしたアルバム『Discovers The Rings Of Saturn』をつくって、その次に何をやろうかと考えた時、ブラックホールはどうだろうという話をしたんです。その時から企画としては常に頭にありました。

最初にかたちになったのは〝Event Horizon〟ですよね(DVD『Man From Tomorrow』に収録)。

ジェフ:どうだったかな。曲が多過ぎてもうわからない(笑)。

戸川純:63年の生まれなんですね。60年代の終わりまでにアメリカは月へ行くと大統領が宣言していて、ぎりぎり69年にアポロ計画が遂行されました。あれを中継で観ていて、宇宙ブームが全世界で起きて、日本も同じでした。NASAもそうだし、60年代の風景はアメリカと同じじゃないかな。日本はアメリカの影響をすごく受けてますから。子ども向けの「宇宙家族ロビンソン」とか「スター・トレック」(*当時の邦題は「S.0401年 宇宙大作戦」)、あと、私は観てはいけないと言われてたけれど、遅い時間に起きてTVでこっそり観た『バーバレラ』とか。

お二人はSFを題材にすることが多いですよね。ジェフの『メトロポリス』へのこだわりと戸川さんが参加していたゲルニカは同じ時代を題材にしていたり。

ジェフ:SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。自分の経験を有効活用することができるんです。アポロが月面着陸した時は学校中の子どもが講堂に呼び出されて、みんなでTVを観ました。

戸川純:Me too.

ジェフ:僕はそれにとても感銘を受けたんですけれど、ほかの子どもたちは全然、興味なくて。

戸川純:ええ、そう?

ジェフ:まったく違う方向に行ったりと、受け取り方は人それぞれですよね。僕はその時のことが現在に繋がっていますね。

2人とも月面着陸を観た時は宇宙旅行に行ってみたいと思いました?

戸川純:Of course.

ジェフ:小学生にはそれがどんなに大変なことだったかはわからなくて、マンガとかSFではもうどこにでも行くことができていたから、僕はやっと本当の人間が行ったんだなと思いました。

戸川純:大変なことだというのは私もわからなかった。宇宙旅行に行くにはどれだけ訓練しないといけないとか、耐えるとか、何年も地球に帰ってこれないとか、精神が持たないとか、そういうことはわからなかった。

ジェフ:うん(微笑)。

〝矛盾〟の歌詞では宇宙旅行が「13度目」ということになっていますけれど、この数字はどっちから出てきたんですか?

戸川純:(手を挙げる)

どうして13だったんですか。

戸川純:不吉だから。

ジェフ:初めて知った(笑)。

戸川純:謎めいた感じにしたかったんです。

ジェフ:アポロ13号は事故を起こしたよね。

戸川純:ああ。

ジェフ:アメリカにはエレベーターに13階がないんです。

戸川純:日本のホテルにもそういうところはあるかもしれない。リッツ・カールトン・東京は13階には人が泊まれなくて、会社が入っています。

[[SplitPage]]

SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。――ジェフ・ミルズ

前回の「THE TRIP」では「地球がもう住みにくくなった」から宇宙旅行に行くという設定でしたよね。

ジェフ:どちらかというと地球が住みにくくなって宇宙に出ざるを得なかったというよりは宇宙に出ればもっといろんな答えが出てくるという考えでした。

戸川純:うん。

ジェフ:宇宙に出て、ここまで来ちゃったら、もう戻れない。「THE TRIP」というのはそのポイントから先のことを指しています。地球と自分がまったく別の存在になっちゃって、そこから何が起きるのか。リアリティとフィクションを混ぜ合わせることが「THE TRIP」のコンセプトなんです。

戸川純:もっとポジティヴなんですね。

ジェフ:そう、そう。でも、ノー・リターンなんです。帰ることはできないと悟った時点で、そこから冒険が始まる。進むしかないんです。

ノー・リターンは厳しいな(笑)。

戸川純:そこがどんな場所か、ですよね。帰りたくないと思うような場所かもしれないし……

ジェフ:いまはまだ空想上の話にしているけれど、現実的に片道切符で宇宙に行くという必要は出てくるんじゃないかな。

戸川純:そうですよね。

ジェフ:ワン・ウェイ・ジャーニーだとわかっていても火星に行きたい人を募集したら、けっこう集まってたでしょう。地球上でもたとえばイギリスからオーストラリアに島流しにあった人たちは、そこまでたどり着かないと思っていたのに、たどり着いた人たちは生き残ってオーストラリアという国をつくったじゃない?

戸川純:そうなんだ。へえ。

ジェフ:昔から地球規模では起きていたことですよ。

戸川純:面白いですね。ポジティヴでいいですね。

ジェフ:うん。

戸川純:私はネガティヴに考えているところがあるなと反省しました。

ジェフ:いや、それはある意味、当然のリアクションじゃないかな。やっぱりすごく大変なことですから。現実的に宇宙には酸素がないわけだし、酸素がなければ人間は生きられないし。

戸川純:うん。

ジェフ:そういうことを全部克服していかなければならないから。

じゃあ、イーロン・マスクが進めている火星移住計画には賛成ですか? 同じ質問をブライアン・イーノにしたら、そんな金があったら地球環境をよくするために使えと怒っていました。

ジェフ:僕は賛成です。火星に行くことによって地球のこともわかると思うし、地球環境の研究も進むんじゃないかな。

戸川純:なるほどね。

ジェフ:火星も昔は地球みたいな星だったから、どうしてああなったのかという変遷がわかれば地球を救えるかもしれないし。

戸川純:興味深い考え方ですね。

イーロン・マスクはロケットの名前をすべてイアン・バンクスのSF小説からつけていて、SFが現実になっていくという感覚はジェフと似ているかも。

ジェフ:そうなのかな。

では、なんで、今回は行き先がブラックホールになったんですか?

ジェフ:僕にとってブラックホールは自然な現象で、スパイラルというものに僕は関心があるんです。地球が回っているように、太陽系も回っているし、銀河系も回っているし、物理的に回ってるだけでなく、時間や自分たちのライフ・サイクル、昔の考え方ではリーインカーネション……?

戸川純:輪廻転生。

ジェフ:そう、輪廻転生。すべてがサイクルになっていて、その大元はなんだろうと考えた時に、もしかしたらそれはブラックホールなんじゃないかと。ブラックホールがすべての源だとしたら、それに影響を受けない人は誰もいないんじゃないかということをテーマにしています。

壮大ですね。

戸川純:ビッグ・バン。

ブラックホールとビッグ・バンにはなんらかの関係があると多くの学者は考えています。

ジェフ:そうです。こういうことを考える人はほかにもいると思うんですけれど、この世の中にあるものが全部回りながら動いているのは事実ですから。

戸川純:それは科学的根拠に基づいた事実だと思うんですけれど、私が思う矛盾のひとつに、死んだら意識が闇のなかに消えてしまって、何にもなくなってしまうという感情を持ちつつ、お寺では亡くなった人に祈ったりもするんですね。そういうところが私は矛盾しているんですよ。信じているのか信じていないのか。

ジェフ:そうですね。両方あるのかも。

素粒子の性質も矛盾していますよね。物質なのか、波なのか。

ジェフ:生まれる前に何もなかったとしたら、死んだら何もないと考えるのは自然な考えだし、すべてのものが回っているなら、命も回っていると考えるのも自然なことです。古代のマヤ文明とかで輪廻転生が信じられていたのも何かしら理由があるんじゃないかな。

戸川純:マヤ文明にしても、科学的に立証されている事実として物事が回っているにしても、私はさみしいなと思っていたんですよ。自分が死んだらすべてが終わってしまうということは、自分がこの世に未練が何もないみたいで。また、生まれ変わってこの世に生まれ落ちたいと思う自分の方がポジティヴだから。そうなりたいと思ってはいたんですよ。だからジェフさんの哲学には、すごく影響を受けます。

ジェフ:実際に自分たちの感覚とかサイエンスでは本当のことはまだ知り得ないと思うんですけれど、古代の人たちの知恵というのは無視するべきじゃなくて、そこには何かしら理由があったんじゃないかと思うから。すべてのものが回っているということは、みんなで考えるに値するテーマじゃないかなと思います。

私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。――戸川純

ジェフから年末に「戸川純とコラボレートしたい」というオファーが届いた時、あまりに意外な組み合わせでびっくりしたんだけど、ある種の根源的なものというか、戸川さんのヴォーカルに生きる力みたいなものを感じたのかなと。実際に戸川さんとコラボレートしてみて、オファー前と印象が変わったということはありますか。

ジェフ:いや、思っていた通りでした。ジュンさんのことはかなりリサーチして、音楽を聴いて、映像もたくさん観たんですけれど、複雑な事情をうまく表現できる方だと思いました。そのことはコラボレーションして、さらに実感が深まりました。

戸川純:ありがとうございます。私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。

ジェフ:ジャンルで差別するようなことはしないようにしていて、なんでも聴くようにしてるから、ひとつのことだけをやっていればいいとは思っていないんです。

常にチャレンジャーですよね。

ジェフ:人によってはそういうのは好きじゃないとか、がっかりしたという反応も当然あるんですけど、カテゴライズされたものをやるよりは自分のクリエイティヴィティはいつもチャレンジすることに向かわせたい。

戸川純:ジェフさんほどスケールは大きくないですけれど、私もチャレンジしてきたつもりです。ポップだったり、前衛的だったり。それでがっかりされることもあったのは同じですね。でも、新しく支持してくれる人を発見して、その都度やってきたつもり。私もチェンジしていく方が好きです。たまたまだけど、いま着ているTシャツは21歳ぐらいの時に撮った写真で、いまはこんなことはしないんですけど(と、舌を出している図柄を見せる)、リヴァイヴァルというか、チェンジし続けていたら、それこそまわりまわって、ここにまた戻ってきて。いまの若い人たちがこの頃の、80年代の私を支持してくださるので、その人たちにありがとうという気持ちでつくったTシャツなんですね。そういう回帰みたいなことはありますね。

ジェフ:いいものは時代を超えて評価されるということですね。

戸川純:わあ。

ジャンルとはまた別に、戸川さんがスゴいなと僕が思うのは、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの区別がないというか、国民的な映画やCMに出演したかと思うとパンクはやるわノイズ・バンドともコラボしたりで、なのに戸川純というイメージに揺るぎがないこと。

ジェフ:究極のアーティストなんですね。

戸川純:ありがとうございます。

では最後に、自分にはなくて相手は持ってると思うことはなんですか?

戸川純:アートですね。いま、究極のアーティストと言っていただきましたけれど、自分では自分のことをエンターテインメントな人間だと思っています。いつもどこかショービズに生きている。アクトレスとシンガー、それから文筆業としてやってきましたけれど、エンターテインメントはそれなりに大変だし、アートとエンターテインメントのどっちが偉いとも思わないし、突き詰めて考えたこともありませんが、私はエンターテインメントで、ジェフさんはアート、この組み合わせが今回のコラボは面白いんじゃないかと思います。

ジェフ:ああ、僕ももっとエンターテインメントできればいいんだけど(笑)。もうちょっとオーディエンスを楽しませるとか、そういうことができれば。

ぜんぜんやれてると思うけど(笑)。

ジェフ:ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。僕とジュンさんは2歳しか違わないけれど、やはり61年生まれと63年生まれでは60年代の記憶がだいぶ違うと思うんです。60年代に起きたことの記憶が僕にはあんまりなくて、60年代のことをもっと実感したかった。60年代のことをアーティスティックな視点から理解することができなかったことは自分としてはかなり残念なことです。60年代というのは現在の音楽シーンや文化のスターティング・ポイントだったと思うので、いろんなことを繋げて考えていくと、どうしても60年代に回帰していく。ジュンさんの声には60年代が感じられます。

ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。 ――ジェフ・ミルズ

ちなみに、お互いに訊いてみたかったことって何かありますか?

ジェフ:……。

戸川純:……。

一堂(笑)。

戸川純:たくさんあるけど……。

ジェフ:80年代や90年代から現在までずっと、音楽やファッション、あるいは発言によっていろんな人、とくにいろんな女の子たちに強い影響を与えてきたことを本人はどう思っています?

戸川純:いや、自分で言うのは照れますよ。実際に影響を受けましたと言ってくれる人もいるんですけど、それについて自分でいざ何か言うのは……

一堂(笑)。

戸川純:こんな和やかな場で言いたくはないんですけど、去年亡くなった最後の家族……お母さんが、えーと、暗い影響を私に与えたんですけれど、そのことによって私は奮起してきたんです。お母さんは私に「産まなきゃよかった、産まなきゃよかった」って私に言い続けて、小さい頃から、50代になってもずっと言い続けたんです。私は認めてもらおうと思って、がんばって活動してきて、その時々で喜んではくれるんだけど、ついポロっと「産まなきゃよかった」って。それに負けまいとして、なんとか、その言葉を覆そうとしてやってきたんです。ずっとやってきたので、これからもやり続けることに変わりはないんですけど、だから、なんて言うのかなあ、ジェフさんの話を聞いていて、ほんとにいろんなところでポジティヴだし、タフでらっしゃるし、今日は良き勉強をさせていただきました。Thank you.

ジェフ:こちらこそThank you.

(3月19日 南麻布U/M/A/Aにて)

「COSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』」 Supported by AUGER
会 場:ZEROTOKYO(新宿)
日 程:2024 年 4 月 1 日(月) 第 1 部公演: 開場 17:30 / 開演 18:30 / 終演 20:00 第 2 部公演: 開場 21:00 / 開演 21:45 / 終演 23:15 ※第 2 部受付は 20:30
出 演: Sounds: JEFF MILLS  Visuals: C.O.L.O(COSMIC LAB) Singer: 戸川純  Choreographer: 梅田宏明  Costume Designer: 落合宏理(FACETASM) Dancer: 中村優希 / 鈴木夢生 / SHIon / 大西優里亜
料 金: 一般前売り入場券 11,000 円
チケットはこちらから https://www.thetrip.jp/tickets
主 催:COSMIC LAB 企画制作:Axis Records、COSMIC LAB、Underground Gallery、DEGICO/CENTER
プロジェクトパートナーズ(AtoZ):FACETASM、株式会社フェイス・プロパティー、日本アイ・ビー・エム株式会社、一般社団法人ナイトタイム エコノミー推進協議会、株式会社 TST エンタテイメント
オフィシャルサイト:https://www.thetrip.jp

サウンドトラック盤『THE TRIP -Enter The Black Hole-』

■配信
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全12曲収録
リリース日:2024年3月20日 0時(JST) ダウンロード価格:通常¥1,833(税込):ハイレゾ:¥2,750(税込)
配信、ダウンロードはこちらから https://lnk.to/JeffMills_TheTripEnterTheBlackHole

■CD
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全13曲収録  ※CDのみボーナストラックを1曲収録
リリース日:2024年4月24日 (4月1日開催のCOSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』会場にてジェフ・ミルズ サイン特典付きで先行販売) 価格:¥2,700(税込) 品番:UMA-1147
[トラックリスト]CD, 配信
01. Entering The Black Hole 02. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * 03. Beyond The Event Horizon 04. Time In The Abstract 05. ホール* 06. When Time Stops 07. No Escape 08. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Long Radio Mix)* 09. Time Reflective 10. Wandering 11. ホール (White Hole Mix) * 12. Infinite Redshift CDのみ収録ボーナストラック 13.矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Mix)*  *戸川純 参加曲

■アナログレコード
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全8曲収録 LP2枚組、帯・ライナー付き、内側から外側へ再生する特別仕様、数量限定
リリース日:2024年5月下旬 価格:¥7,700(税込) 品番:PINC-1234-1235
[トラックリスト]
A1. Entering The Black Hole A2. Time In The Abstract B1. Wandering B2. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * C1. When Time Stops C2. Time Reflective D1. Infinite Redshift D2. ホール*  *戸川純 参加曲

戸川純 ライヴ

3/31 渋谷プレジャープレジャー(ワンマン)
https://pleasure-pleasure.jp/topics_detail.php/2492

4/12 台北THE WALL(プノンペンモデルとツーマン)
https://www.ptt.cc/bbs/JapaneseRock/M.1709920228.A.4E3.html

ele-king books 既刊

新装増補版 戸川純全歌詞解説集──疾風怒濤ときどき晴れ 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007905/

戸川純エッセー集 ピーポー&メー 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/006617/

戸川純写真集──ジャンヌ・ダルクのような人 池田敬太+戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007462/

Kelela - ele-king

 まるで太陽神かなにかみたいだった。直視することがはばかられる、物理的な光の反射。ブラック・カルチャーでよく参照される古代エジプトと関連があるのだろうか。2023年9月3日、胸に円形の鏡を装着して神田スクエアホールの舞台にあらわれた彼女は、「わたしは光をまとって立っている」という “Contact” の歌詞どおり巧みに照明を利用し、文字どおり光を放っていた。
 黒人文化の入念な研究を経て送り出されたセカンド・アルバムは、ブラックであることと女性であることの両方をエンパワメントする作品だったわけだけれど、光を駆使するケレラはいまみずからが世界を変革するための道しるべになることを引き受けようとしているのかもしれない。好評を得た『Raven』から1年。そのリミックス盤『RAVE:N, The Remixes』もまた彼女の輝きを広く知らしめる作品となっている。

 ケレラがリミックス盤を制作するのはもはや恒例行事だ。ミックステープ『Cut 4 Me』(2013→2015)、EP「Hallucinogen」(2015→2015)、ファースト・アルバム『Take Me Apart』(2017→2018)……今回もングズングズやLSDXOXOといったこれまで一緒に仕事をしてきた面々から、おそらくはフックアップの意図もあるのだろう、まだそれほどリリース量が多いわけではないプロデューサーたちまで幅広く招集されていて、ある種のショウケース的な様相を呈している。
 最大のトピックは、今日もっとも無視することのできないエレクトロニック・プロデューサー、ロレイン・ジェイムズの参加だろう(“Divorce”)。彼女らしい独特のビートにケレラの歌声が絶妙に絡んでいくさまを聴いていると、ふたりのさらなるコラボを期待せずにはいられない。〈Hyperdub〉にも作品を残すカレン・ニャメ・KGによるアマピアノ(“Contact”)、シャイガールのラップをフィーチャーしたJD・リード(“Holier”)、フットワークとジャングルそれぞれのおいしい部分を同居させるDJマニー(“Divorce”)にDJ LHC(“Far Away”)、力強いダンス・テクノでフロアに火をつけるKYRUH(“Missed Call”)、原曲のジャングルから骨格を強奪し幽霊化してみせるA・G・クック(“Happy Ending”)、テイハナによるご機嫌なレゲトン(“Enough For Love”)などなどヴァラエティに富んだ内容で、それこそ先日コード9が言っていたような、現在クールとされているビートを全部用いた鍋料理のごとき1枚に仕上がっている。参加者たちはかならずしもブラックや女性のみで固められているわけではないものの、どのリズムもブラック・カルチャーが育んできたものばかりなのは見過ごせないポイントだろう。
 全篇にわたってたゆたいつづけるヴォーカルのおかげか、これほど多くのプロデューサーが関わっているにもかかわらず音の触感やムードはきれいに統一されている。もはやオリジナル・アルバムと言ってもいいくらいの完成度で、これまでのリミックス盤と比べても群を抜いてるんじゃなかろうか。

 本盤にも参加しているトロントのプロデューサー、バンビー(“Closure”)との対談でケレラは、「まったく異なるアレンジをクリエイトすることが大好きなんです。おなじテーマについて異なる方法で考えることを促してくれるから」と語っている(https://www.interviewmagazine.com/music/kelela-and-bambii-on-the-power-of-the-remix)。彼女にとってリミックスとは、べつの角度から世界を眺めることなのだ。そしてそれは新しい世界を切りひらくことでもある。「メインストリームから外れていたり簡単には理解されないといつも感じてきた人びとのための世界をつくりたい」。ないものにされているなら自分で世界をつくるしかない──そう述べる彼女は、カラリズム(同人種間において比較的明るめの肌色の人間がより濃い肌色の人間を差別すること)とミソジノワール(黒人女性嫌悪)と資本主義の交差が人びとの選択肢を狭めている、だったら自分自身で選択肢をつくるしかない、と提案してもいる。
 多様な才能たちが放つ光をみずから鏡となって反射すること。『RAVE:N, The Remixes』という「べつの選択肢」を用意することで彼女は、『Raven』で見せた新世界の可能性の断片をより遠くまで届けようとしているのかもしれない。荒れ狂う海原でいちるの希望となるような、灯台の光そのものとなることによって。

Kim Gordon - ele-king

 キム・ゴードンの2枚目のソロ・アルバム『The Collective』、このアルバムを聞いてからというものその断片がずっと頭の中にひっかかり続けている。
 もちろん先行曲 "BYE BYE" を聞いたときから予感はあった。暗く、頭のなかの狭いところからやってきたかのようなインダストリアルなビートと空間に点を記していくような言葉、もはやキム・ゴードンという名前の持つイメージや、元ソニック・ユースという枕詞、1953年生まれ70歳であるなんて情報はかえって邪魔ではないかと思ってしまうくらいこのアルバムの持つ不穏で暗いサウンドスケープには魅力がある。もしキム・ゴードンのことをまったく知らないでこの音楽を聞いていたとしたらどうだっただろう? あるいは違う名前でなんの前触れもなくスピーカーから流れだしてきたとしたら? キム・ゴードンが活躍してきた時代、それが80年代、90年代のラジオやTVからだったらきっと名前を言うその瞬間を逃すまいとドキドキしながら待ちかまえていたはずだし、インターネット以降だとしたら情報を求めてそれらしいキーワードを打ち込んで検索した。このジャケットに描かれている現代のスマホも時代ならおそらくぼんやりと方向性を考えながらShazamする。それが味気ないとか便利になったという話ではなく、いつの時代でも変わらず大事なのは目の前の音を気にかけこれはなんなんだと考える時間ときっかけを与えてくれるということだ。狭い場所からやってきたある種の音楽は広がりを持っている。イメージを想起させ、心を動かし、次々に様々なものを繋いでいく。これはなんなんだ? どこから来たものなのか? どこに向かっていくのか? そうやって考える時間は何ものにも代えがたい。

 このアルバムのサウンドの方向性から、自分の頭にはザ・スウィート・リリース・オブ・デスやネイバーズ・バーニング・ネイバーズなどのバンドで活躍するオランダのアーティスト、アリシア・ブレトン・フェレールがコロナ禍ロックダウンの最中で作り上げたソロ作『Headache Sorbet』のことが浮かんだのだが、キム・ゴードンの本作はよりインダストリアルでもっと言葉の響きの要素が強く出ているのかもしれない。いずれにしてもノイズにまみれるアヴァンギャルドなギター・バンドで活躍していた人物がビートが主体の、自身の頭のなかの世界で鳴り響いているかのような音楽を指向しアプローチしたものがなんとも魅力的に思える。“The Believers” では暗くひび割れたインダストリアルなビートと金属的な打撃音が不穏な空気を生み出し、そこに不安を煽るようなトーンのギターが重なる。キム・ゴードンのスポークン・ワードとシュプレヒゲザングの間みたいなヴォーカルは何かを訴えかけるというよりは、少しだけ熱を帯び目の前の事実を述べているかのような雰囲気で、それが焼け跡から立ち上る煙のような空気を作り出している。悪夢の世界に迷い込んでしまったような “I'm A Man” のドローンのループのなかで聞こえる声もやはりそうで、暴力的とも言える不穏なバックトラックと比べるとどこか醒めていて距離があるように思える。そのコントラストがなにか異様に感じられ、誰かが書いた秘密のノートを見つけそれを盗み見ているような気分になるのだ。小さな部屋で背徳感を抱くような出来事が巻き起こる、どこか後ろめたさがあり落ち着かずゾクゾクと心を下から撫で上げるようなスリルがやってくる。地を這う弦のフレーズとノイズ、言葉と、エレクトロニクスで作られた衝動の静かな爆発、その断片を繋ぎ合わせたコラージュ・アートみたいな “It’s Dark Inside” は最たるもので、このアルバム、そしてキム・ゴードンがいま、いる地平を教えてくれる。
 そこにいるのが当たり前のように余裕があって、あざとく見せつけるような様相はなく、ただ美学や価値観を提示する。40分と少しのこのアルバムは、ボリューム過多、情報過多に陥らずコンパクトで聞きやすくもあり『The Collective』というタイトルの通り、頭に残り続けるバラバラのトピックの断片が、どこかで繋がるような抽象的で奇妙な象を描き続けている。

 誰かが価値観を提示しそれを聞いたものが受け取り考え、そうして時間が経って変化してまた新たな価値観が生まれていく。そんなオルタナティヴのサイクルのなかで、さらりと提示されるキム・ゴードンの当然、頭がそれに揺さぶられる。 刺激とイメージ、格好良さとはやはりこういう場所にあるのかもしれない。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026 1027 1028 1029 1030 1031 1032 1033 1034 1035 1036 1037