「TTã€ã¨ä¸€è‡´ã™ã‚‹ã‚‚ã®
ある意味、このアルバムを紹介するのは簡単だ。まずは1曲目を聴いてくれ。その曲の、とくに2分ぴったりに入るドラミングに集中して欲しい。もちろん同曲は、入りのシンセサイザーの音色もその沈黙も美しい。だが、ドラムが入った瞬間にその曲“Gentle Confrontation(穏やかな対決)”には風が吹き抜け、宙に舞い、曲は脈動する。彼女は「私はものすごく疲れているし、退屈だ」と繰り返しながらも、そのサウンドは唐突に走り出し、ものすごいスピードで駆け抜ける。スクエアプッシャーとエイフェックス・ツインのドリルンベースを受け継いで、独自に発展させたのがロレイン・ジェイムスであることにいまさら驚きはないが、あらためてここには彼女の魅力が凝縮されている。夢見る旋律と躍動するリズムが合成され、世界が開けていくあの感覚だ。
ロレインの音楽にはつねにメランコリアがつきまとっている。今作はまさにその内的な「穏やかな対決」がサウンドと言葉に、さらに繊細に表れている。ロンドンの、ストリートやその地下からわき上がるグライムやドリルのリズムは、ここではアンビエント/エレクトロニカのフィルターを通り、ほかのものに生まれ変わっている。ときにはジャジーに、ときにはソウルに聞こえるが、しかしその背後には必ずロンドンの薄暗い香気が漂っているのだ。“Glitch The System”などはまさにそれで、このグライム化したドリルンベースは、90年代の〈Warp〉が踏み込めなかった領域である(もっとも、ブレア以前のロンドンには今日ほどの格差はなかったろうし、今日ほどの荒廃はなかっただろう)。
それはそうと、ここでぼくがあえて特筆したいのは、モーガン・シンプソンとの共演、“I DM U”なる曲だ。ブラック・ミディがまさかここにいるとは想像だにしなかったが、彼がドラムをたたくその曲“I DM U”は90年代なかばくらいのジャズに傾倒したカール・クレイグを彷彿させる。“Cards With The Grandparents” のちょっとしたリズムの遊びも素晴らしいし、ハードコアなリズムとドリームポップが併走する“While They Were Singing ft Marina Herlop”もまた素晴らしい。
エレクトロニック・ミュージックがいまも進化しているのだとしたら、多かれ少なかれ埃にまみれながら、ロレインのアルバムのように一歩踏み出すのだろう。言うまでもなく、この音楽はベッドルームから路上に繋がっているし、路上から夢想へと、そしてその夢想からまたリアルなこの薄汚れた世界へと繋がっている。彼女は疲れてもいるが、動いてもいるし、退屈だが、夢見てもいるのだ。「穏やかな対決」という、すなわち相反するモノ同士が同居する両義性を秘めたこのアルバムをぜひ聴いて欲しい。今年のベストな1枚だ。
100万回聴いたことがあるようなものは作りたくないなって。ただどっかで聴いたことがあるようなものがやりたいときもあるけどね。そこに自分なりのひねりを加えるのが好きだから。
■昨年のあなたの東京でのライヴは素晴らしく、オーディエンスの反応もとても良かったと思いますが、日本での思い出を聞かせてください。
ロレイン:驚きがいっぱいあって、たくさんのものを見聞きして、日本語が喋れないから覚えたいなあと思った。とにかくすごく美しくて、会った人はみんな優しくしてくれて、オーディエンスも音楽を楽しんでくれてる感じだったし、ライヴ後にちょっと話したりサインしたりして、本当に楽しかった。
■あなたの新譜がこんな早く聴けるとは思っていなかったので、これは嬉しい驚きでした。ライヴやツアーで忙しいなか、よくこんなにそれぞれが凝っている曲が16曲も入ったアルバムを完成させましたね。これら楽曲はおそらく作り貯めていたもので、それをいっきにブラッシュアップしてしまった感じですか?
ロレイン:何というか、いつも、ある日アルバムを作りはじめようと思い立って、あまり時間をかけるのが好きじゃなくて最長半年くらいで作るんだけど、その期間は書ける時に書くという感じ。今回は確かにライヴで忙しかったからいつもよりも少し大変というか、時間がかかったかもしれないけどね。
■そして、1曲目の“Gentle Confrontation”を聴いたとき、これは素晴らしいアルバムに違いないと確信しました。美しくて、力強くて、エモーショナルです。とくにこのドラム・プログラミングが自分には突き刺さりました。そしてアルバムを最後まで聴いたら、作品全体が、自分がそのとき予感した以上に素晴らしくて、すっかり打ちのめされてしまいました。レーベルのプレス資料には「10代のロレインが作りたかったであろうレコードだ。アルバムの音楽的傾向も、その時代を反映している」と書かれています。たしかにここにはDNTEL、ルシーン、テレフォン・テル・アヴィヴといった10代のあなたの影響を与えた人たちのサウンドが入っていますが、それだけではないでしょう? 2曲目の“2003”の歌詞にあるように、自分のルーツを見つめたかったというのはあったと思いますが。
ロレイン:たしかに“2003”はこれまででもっとも自分の弱い部分が出ているというか、あれは父についての曲で、これまで彼について曲を書いたことがなかったから。もちろんDNTEL、ルシーンといったサウンド以上のものが含まれているし、あれはティーンエイジャーの頃に通学のときに聴いてたりしたもので、音楽の部分での今の自分を形成したもので。彼らの音楽については、ソフトでエモーショナルなものを感じていて、そういう部分を自分自身のなかから引き出して音楽に取り入れるのを助けてくれたというか。何だろう、去年はいろいろ考えることが多くて……家族とか、人生ってあっという間だなとか。今回のアルバムは7歳くらいの頃から現在の27歳までに受けてきた影響が入っている、ある意味タイムカプセルみたいなもの。DNTEL、テレフォン・テル・アヴィヴはもちろんロックやR&Bもあるというね。
■ぼくは、ワットエヴァー・ザ・ウェザー名義の作品やジュリアス・イーストマンにインスパイアされた『Building Something Beautiful For Me』を発表した後に続くアルバムとしては、ものすごく自然に感じました。(ドラムベースからIDM、アンビエント、ベース・ミュージック、R&B、シンセポップ、エレクトロニック・ミュージックのいろんなスタイルが混在し、またときに生演奏も取り入れながら、あなたの自身のサウンドとなって展開されている)あらためてこのアルバムのコンセプト、生まれた経緯などについて話してもらえますか?
ロレイン:まず作りはじめたのが去年の5月くらいで、その時点ではまだどういう感じにしたいのかは自分でもわかっていなくて。というか毎回、アルバムが何についてのアルバムになるか、最初は全然わかってない。ただ今回は、いつもコンピュータ内で作ることが多いから、ちょっとそこから出たいなっていうのはあった。だからペダルを買って、いままでアルバムで使ったことはなかったけど使ってみたりした。テクニカル面でいうと自分が最後まで面白がって作れるものがやりたいというのがあったと思う。実験的なものというか。参加してほしい人のアイデアもいろいろあって、でもそれが途中で変わったりもして。とにかく、いろんなものを入れるんだけど、その辻褄が合うように、ランダムにならないようにしたいっていうのは思ってた。そこは実際まあまあ達成できたんじゃないかなと思ってる。ひとつのアルバムに全部入れて融合させるっていうね。16曲もあるから実はちょっと心配だったんだけど、「そこは気にせず楽しもう」ということにして(笑)。新しいことをやってみたり、自分にとっては作っていて一番楽しいアルバムだったよ。
■まだ聴けてないのですが、mouse on the keysとも一緒にやったそうですね。その曲はどんな風に作られていったのでしょうか?
ロレイン:mouse on the keysはずっと大ファンで、10年くらい前にロンドンで観たことがあって。それで、メッセージを送ってみたらどうなるかやってみようと(笑)。「あなたたちの大ファンです。アルバムに参加してくれませんか?」という感じで。実は去年の東京でのライヴで2秒くらい会ったんだけどね。とにかくまずこちらからキーボードを演奏したものを送って、そしたら彼らから音源が送られてきて、それを合体させたという。もしよかったら取材のあとその曲送るね。
通常のドリルの感じも好きだけどね。でも自分はそれを再現できないのがわかっているというか、元々の文脈があるわけで、自分がそこに属していないのに、そこで生まれたものをそのまま盗むっていうことはできないし。
■最初は1曲目の“Gentle Confrontation”が圧倒的に好きだったんですが、アルバムを何回も聴いていると、中盤に集めた、実験色が強いいくつかの楽曲が好きになりました。“Glitch The System”、“I DM U”や“One Way Ticket To The Midwest ”、“Cards With The Grandparents”のような曲ですが、これらは、それぞれ曲のコンセプトも違っていて、たとえば“I DM U”ではブラック・ミディのMorgan Simpsonの生ドラムとの共演があって、“One Way Ticket〜 ”は穏やかなアンビエント風で、“Cards With〜”はラップが入ったコラージュ的で実験的な曲です。実験的なドラムンベースとアンビエントと歌のコラージュの“While They Were Singing ft Marina Herlop”も素晴らしい。こうした曲を聴いていると、あなたには、エレクトロニック・ミュージックのなかで、何か斬新なことをやろうという野心があるんだなと思うのですが、今回あなたがやった音楽的探求について話してもらえますか? 個人的に“I DM U”は、とくに好きです。シンプルだけど、ものすごい推進力があって、深いエモーションも感じます。
ロレイン:“I DM U” はライヴのドラマーが欲しいと思っていて、モーガンのことは大ファンだし、彼のドラムって普通じゃないというかクレイジーでしょ(笑)。元々あの曲には電子ドラムを使っていたんだけど、なんかもっとライヴ感が欲しいと思ってそれで彼にお願いした。“Cards With The Grandparents” は私と祖父母がカードゲームをしているところを録音してカードを切ってる音をスウィープサウンドっぽくしたり、曲にテクスチャーと動きを出して、それを楽器みたいにするのが面白かった。それからマリーナ・ハーロップとの曲は、たとえばいい感じのシンセがあって、でもドラムが必ずしも1,2,3,4じゃなくてちょっと動くとか、そこで一瞬だけ混乱させたりして。そこにマリーナの歌が重なって、その軽やかさとドラムのハードな感じがミックスされるっていう。とにかく実験しつつ遊びながらやってみて、「ああこのリズムパターンはいままでやったことないかも」ということが起こったり、たまに自分自身も混乱しちゃったりして、でもそれも面白いっていう、一番はそこだった。
■野心についてはどうですか?
ロレイン:うーん……頭の隅にはあるかもしれない。というか、100万回聴いたことがあるようなものは作りたくないなって。ただどっかで聴いたことがあるようなものがやりたいときもあるけどね。そこに自分なりのひねりを加えるのが好きだから。
■“confrontation(対決)”という言葉があり、アルバムには力強さもありますが、同時にメランコリックで、内省的なところもあると感じました。『Reflection』も内省的でしたが、あのときとは違う感情が注がれていますよね。あなたはいまアーティストとしては順風満帆で、悲しくなるようなことはないと、おそらくあなたの表面しか知らない人間は思うでしょう。じゃあ何があなたをメランコリックな気持ちにさせるのか、話してもらえますか? そしてこの“confrontation”の意味についてもお願いします。
ロレイン:どうだろう、私の心はいつもあっちに行ったりこっちに行ったりしているからなあ……。ああでも父が亡くなって今年で20年だから、去年作っているときも、このアルバムが発売されるのがちょうどその年になるんだなっていうのは意識していたと思う。別にそれについて話そうと思っていたわけじゃないけどね。“2003”を作っているときに、元々はラッパーを起用しようかと思ってたけど、結局は自分ひとりで歌詞を書いて完成させることにして。でもそうだね、子どもの頃のことは結構考えていたかもしれない。よく理解できていなかったこととか、幼すぎてきちんと消化しきれていなかったこととか。だからアルバム制作が進むにつれて、特にメランコリックにしようと思ってないのに気づくとメロディがそうなっていたみたいな部分はあったかもしれない。ああでも元々DNTELとかにもメランコリーな部分があるし、そういうサウンドに惹かれがちなんだと思う。
■Confrontationの意味については?
ロレイン:まず過去と向き合うということ。これまでちゃんと向き合ったことがなかったし、自分の気持ちについて語ってこなかったから。音楽はそういう気持ちを吐き出させてくれるものだから、言葉があってもなくてもね。あと時間が経過したことで、自分の気持ちを以前よりも作品に込められるようになってきたのかもしれない。
■歌詞を書いて16曲あるうちの9曲であなたは歌を歌っています。言葉でも伝えたいことがあるからだと思いますが、今作でとくに重要な歌詞はどの曲なのでしょうか? やっぱり“2003”ですか?
ロレイン:うん、絶対そうだと思う。実はあの曲を何度かライヴでやったんだけど、何回か、歌わなくていいかってなったんだよね。ちょっと恥ずかしいというか、弱さを曝け出す感じがして、それでインストゥルメンタル・ヴァージョンにしちゃったり。あとクラブとかでやると、曲の内容に対して演奏する状況が合ってないというか、そういうのもあったし。でもアルバムが出たらもっと歌う場面が増えると思うから、まあ楽しみだけど、どうなるんだろう(笑)。
■曲名にメッセージがこもったダブステップ風の“I’m Trying To Love Myself”に歌詞/歌がないのは、なぜでしょうか?
ロレイン:何だろう、自分のことが好きになれない時期ってあると思うんだけど、大人になるにつれて少しずつ自信が出てくるっていう。あとはこの曲でDNTELの“Anywhere Anyone”って曲のサンプルを少し使っていて、その曲に“How can you love me if you don’t love yourself”って歌詞があって、その曲を元にしているというか。とにかく口数が多い感じの曲にはしたくないっていうのがあったんだよね。
進化してると思う。たとえばいまドラムンベースの新時代になっていたり……まったくの、本当に新しいっていうものはないと思うけど、20年前のものを、影響を残しつつ新しくするっていうことは起こってるんじゃないかな。
■今回のアルバムを制作するに当たって、あなたをもっとも感動させた出来事があれば教えてください。
ロレイン:“Cards with The Grandparents”を作ったこと。ふたりとも高齢で、でもなかなか会えてなくて、特にパンデミック中は彼らを感染させないように、っていうのもあって2年くらい会えてなかったから。曲を作り終わって聴いたときにはグッとくるものがあったし、今後ライヴでやるときもちょっとエモーショナルになりそうな気がする。
■“Tired of Me”のリズムはおそらくドリルから来ていると思うのですが、あなたは昔から、ある意味ストリートでもっとも悪評の高いこのスタイルをあえて用いています。それはあなたがドリルの音楽的なおもしろさに着眼しつつも、ドリルにまつわる偏見を打破したいというのもあるんじゃないかと思うのですが、どうなんでしょうか?
ロレイン:そう、別の文脈に嵌めるのがすごく好きだから。もっとエレクトロニックで実験的な感じにするとか。通常のドリルの感じも好きだけどね。でも自分はそれを再現できないのがわかっているというか、元々の文脈があるわけで、自分がそこに属していないのに、そこで生まれたものをそのまま盗むっていうことはできないし。でもサウンドとしてすごく興味深くて、面白いドラムパターンがあったり、もう明らかにドリルだとわかったり。それに対して「これをもっとグリッチっぽくしたらどうなるだろう」とか、「ディストーションかけたらどうなるだろう」とか、そうやっていろんなジャンルの音楽をいじってみるのが楽しい。
■“Speechless”のイントロのシンセサイザーの音が大好きで、まさにあなたのサウンドだと思いますが、あなたにとってエレクトロニック・ミュージックは、いったいどんな意味を持っているのでしょうか? 大きな質問ですが、エレクトロニック・ミュージックというのはこんなにも素晴らしいものだということを、あなたの言葉で説明して欲しいのです。
ロレイン:そうだなあ……私にとっては……私は自分が聴いたものを自分自身の音楽に作り替えるのが好きで、これまで刺激を受けてきたたくさんのエレクトロニック・ミュージックもそうだし、たとえば40代の白人男性が作ったものだったり、でも自分は明らかにそうではないから、影響を受けた音楽を自分の人生の視点から再分脈化するというか、つまりそれは彼らとはかなり違う視点だったりする。あと一般的にエレクトロニック・ミュージックっわりと冷たい印象というか、エモーショナルじゃないし無防備でもない感じがあるでしょ。でも自分はそれとは違うことがしたいと思って、そこに自分の気持ちを込めてもいいし、すごく温かいものにだってできるし、真面目なことを語ってもよくて、別に機械的なものである必要はない、コンピュータっぽいものである必要もない。機械的がダメってことではなくて、それ以外のものであってもいいっていうことなんだけど。それでもいいし、それ以上でもいいと思うんだよ。うん、だから、エレクトロニック・ミュージックはこうであるっていうのを広げるというか。だってエレクトロニック・ミュージックはコンピュータだけでも冷たいだけでもなく、それ以上の部分がもっとたくさんあるから。
■あなたから見て、エレクトロニック・ミュージックはいまも進化していると思いますか?
ロレイン:進化してると思う。たとえばいまドラムンベースの新時代になっていたり……もちろん自分が好きなもの、好きじゃないものっていうのはあるけど、いま嫌いでも今後大好きになるかもしれないし、あといまって90年代を彷彿させるものだったり、00年代っぽいものが来ていたり、だから新しいけど懐かしい感じのものとか。まったくの、本当に新しいっていうものはないと思うけど、20年前のものを、影響を残しつつ新しくするっていうことは起こってるんじゃないかな。
■とにかく、最高のエレクトロニック・ミュージックのアルバムをありがとうと言いたいです。また、お会いできる日を楽しみにしています。さよなら。
ロレイン:来年また行きたいと思ってる。それじゃあ、また。
30年以上のキャリアを誇る大ベテラン。インディ・ロック・バンド、エレクトリック・グラス・バルーンのシンガーとしてキャリアをスタートさせ、90年代からロックもハウスも呑みこんでひたすらダンス・ミュージックを追求してきた男。イビサやマンチェスターでもプレイ、これまで9枚のアルバムを送り出しているDJ。スギウラムが新たな一歩を踏み出す。なんでも、カテゴリーを超えた音楽を発信すべく、新プロジェクトをはじめるという。
その挨拶がわりの一発目が新曲 “All About Z” だ。〈キリキリヴィラ〉より9月13日にリリース、10月11日には YODATARO によるリミックス・ヴァージョンの配信も予定されている。同名舞台のテーマ曲を再構築した曲だそうで、壊れかけのテープレコーダーズや Have a Nice Day! などで活躍するシンガー、ソロ・アルバムも記憶に新しい遊佐春菜がフィーチャーされている。長い長いスギウラムのキャリア史上、初の日本語詞によるオリジナル曲だ。
これはスギウラム、アルバムも期待しちゃっていいんじゃないだろうか。首を長くして続報を待て。

SUGIURUMN feat.遊佐春菜 / All About Z
https://big-up.style/Gjhnun9ldK
イタリア・ミラノ在住の電子音楽家カテリーナ・バルビエリはシンセサイザーのアルペジオとドローンとディレイの組み合わせによって新しい電子音楽のモードを知らしめた音楽家である。バロック的電子音楽とロマン派的電子音楽を同時に生成する「電子音楽作曲家」とでもいうべきだろうか。
とはいえ実験音楽レーベル〈Important Records〉のサブレーベル〈Cassauna〉からリリースした『Vertical』(2014)と、〈Important Records〉からリリースした『Patterns Of Consciousness』(2017)、『Born Again In The Voltage』(2018)などの初期作品は現在とはやや異なる作風であった。基本的なフォームはいまと変わらないが、より即興的に音を組み上げていたように聴こえるのだ。いま聴き直すとこの時期のアルバムは自身のサウンドを模索していた時期なのではないか。
「電子音楽作曲家」として個性が定まってきたのは、2019年に〈Editions Mego〉からリリースされた『Ecstatic Computation』からではないかと私は考えている。アルペジオとクラシカルなコード進行を組み合わせることで「曲」として成立しはじめたのだ。
テリー・ライリーやタンジェリン・ドリームなどを思わせるオーセンティックな電子音楽を継承しつつ、鋭い音と柔らかな電子音と鮮やかなコードチェンジを持ったポップな電子音楽サウンドに生まれ変わったとでもいうべきだろうか。
『Ecstatic Computation』はカテリーナ・バルビエリの技法が即興的なモノの組み合わせから作曲的な方法論に変化した記念碑的なアルバムなわけだが、本作『Myuthafoo』はその『Ecstatic Computation』と同時期に制作された曲を収録した未発表音源作品である。つまり変換期の重要な音源なのだ。じっさいバルビエリは『Ecstatic Computation』と姉妹作品と位置付けているようである。
リリースはカテリーナ・バルビエリ自身が主宰する〈Light-Years〉からだ。ちなみに〈Editions Mego〉よりリリースされていた『Ecstatic Computation』も本年(2023)、〈Light-Years〉より再リリースされている。
アルバムは『Ecstatic Computation』と同じく全6曲で、収録時間も32分と近い(『Ecstatic Computation』は36分)。非常にタイトなアルバムの構成だが、1曲ごとのサウンドが濃厚なので短いという気がまったくしない。この点からも『Ecstatic Computation』と二部作という意識はあるのかもしれない。
収録曲は鋭いアルペジオを主体とする曲と、柔らかなシンセサイザーを中心とするアンビントな曲を収めており、近年のカテリーナ・バルビエリのシンセサイザー音響を存分に聴くことができる。未発表曲でありながら、アルバム収録曲となんら変わらない出来栄えのサウンドである。何よりカテリーナ・バルビエリのサウンドは「曲」として魅力的だ。これはエクスペリメンタルな音楽家のなかでは稀ではないか。
カテリーナ・バルビエリ的なアルペジオを主体とした曲が、2曲目 “Math Of You” と5曲目 “Sufyosowirl” である。鋭いシンセのアルペジオが反復し、変形し、より大きなサウンドを生成していく。ほかの4曲、つまり1曲目 “Memory Leak”、3曲目 “Myuthafoo”、4曲目 “Alphabet Of Light”、6曲目 “Swirls Of You” はアルペジオ主体ではなく、波のようなシンセサイザーが音響が次第に拡張していくサイケデリック・アンビエントな曲である。
なかでも1曲目 “Memory Leak” は激しいノイズのような電子音がレイヤーされ、聴き手の意識を飛ばすようなサイケデリックな音響を展開する。1分18秒ほどの短い曲だが、強烈なインパクトだ。また、アルバム・タイトル曲である3曲目 “Myuthafoo” は、穏やかな波のようなシンセサイザーの音にはじまり、次第に音が拡張され、やがて激しくなり、まるで聴き手の意識をむこう側に飛ばしてしまうような音響空間を生成する……。
この未発表曲集『Myuthafoo』を聴くと確信するのだが、カテリーナ・バルビエリの音楽性の肝は10年代以降の電子音楽の持っていた「作曲と即興と構築と拡張」を非常に分かりやすく展開した音楽家だったということである。同時に実験性も忘れていないというバランス感覚の良さもある。
『Ecstatic Computation』収録の名曲(!)“Fantas” をリミックスでなく再構築する『Fantas Variations』に、カリ・マローンやカラ・リズ・カヴァーデールなどのエクスペリメンタルなアーティストが参加している点からもそれはわかる。
トモコ・ソヴァージュやジネーヴラ・ボンピアーニと共に作り上げたサウンドアート作品『Il Calore Animale』などが本年リリースされていることからもカテリーナの実験性とポップの領域を越境するような活動もわかってくる。
一方、2022年に〈Light-Years〉からリリースされた『Spirit Exit』ではビートのない電子音楽トランスとでも形容したいポップ・エクスペリメンタルな音楽(ときにヴォーカル/ヴォイスまで用いている)を展開していた。
「実験とポップ」の領域を軽々と飛び越え、優雅に緻密に知的に、サイケデリックな電子音楽サウンドを作り上げていく音楽家、それがカテリーナ・バルビエリなのである。本作『Myuthafoo』は、その音楽性のもっともコアな面がわかりやすく提示されている。まさに貴重なアルバムといえよう。
今秋の注目作となりそうなリリース情報をお知らせしよう。もともとは故プリンス・ファーライのバックとして出発したレゲエ・バンド、クリエイション・レベル。エイドリアン・シャーウッド初のプロデュース作品でもある『Dub from Creation』(1978)や『Starship Africa』(1980)といった代表作を持つ彼らは、以降もさまざまな活動をつづけてきた(たとえば故スタイル・スコットはダブ・シンディケートやニュー・エイジ・ステッパーズでも活躍している)。
このたび、エスキモー・フォックス、クルーシャル・トニー、そしてマグーの3人が、40年以上ぶりにクリエイション・レベル名義を復活。シャーウッドとともに7枚目のアルバム『Hostile Environment』を送り出すことになった。かつてバンド・リーダーだったプリンス・ファーライのヴォーカルもフィーチャーされている新作は、力強いメッセージも搭載している。発売は10月6日。
なお、アフリカン・ヘッド・チャージとの帯同および単独での来日公演を目前に控えるエイドリアン・シャーウッドが、急遽サイン会をやるそうです。詳しくは下記をご確認ください。
CREATION REBEL
クリエイション・レベルが40年振りの新作『HOSTILE ENVIRONMENT』より、プリンス・ファー・ライとダディ・フレディ参加の新曲「THIS THINKING FEELING」を公開!
アルバムのプロデューサーであり、来日間近のエイドリアン・シャーウッドによる解説書付き国内流通仕様盤CDは10月6日発売!
『Dub from Creation』や『Starship Africa』などの名作を生んだ〈On-U Sound〉の代表的バンド、クリエイション・レベルが、実に40年以上振りとなる最新作『Hostile Environment』から新曲「This Thinking Feeling」を公開!
本楽曲には、バンド・メンバーのエスキモー・フォックスのヴォーカルの他、バンドのかつての師でありバンドリーダーだったプリンス・ファー・ライの歌声、そして世界最速MC、ダディ・フレディのゲスト・パフォーマンスがフィーチャーされている。

Creation Rebel - This Thinking Feeling
https://youtu.be/Rh0qyglLjJI
偉大なる故プリンス・ファー・ライのバックバンドとして結成され、ザ・クラッシュ、ザ・スリッツ、ドン・チェリーらとステージを共にしてきたクリエイション・レベル。最新アルバムのタイトルは、テリーザ・メイ前英国首相の物議を醸した亡命希望者に対する政策と、2018年に起こったウィンドラッシュ事件に対するものであり、歴史的な過ちに対して驚くほど短い記憶しか持たない旧植民地大国の暗い影で一生を過ごしてきたジャマイカ出身のミュージシャン・グループの真に迫ったメッセージが込められている。
クリエイション・レベルの40年振りとなる新作『Hostile Environment』は、CD、LP、デジタル/ストリーミング配信で10月6日 (金) 世界同時リリース!CDにはボーナストラック「Off The Spectrum」が追加収録され、国内流通仕様盤CDには、エイドリアン・シャーウッドによる解説書「The Creation Rebel Story」が封入される。またLPはイエロー・ヴァイナル仕様となっている。
プロデューサーのエイドリアン・シャーウッドは、リー・スクラッチ・ペリーやホレス・アンディのキャリア後期の名盤を手がけ、いよいよ来週アフリカン・ヘッド・チャージと共に来日し、日本のGEZANを迎えて『ADRIAN SHERWOOD presents DUB SESSIONS 2023』を開催、その後には札幌、岡山、東京でソロ公演も行う。
そんなエイドリアン・シャーウッドの来日に合わせて、現在〈On-U Sound〉のGallery & Pop-up Storeが、HMV record shop 渋谷内にオープンしたギャラリースペースBankrobber LABOで開催中。〈On-U Sound〉設立初期にはレーベルの運営にも携わった日本人フォト・ジャーナリスト、キシ・ヤマモトが撮影した当時の貴重な写真や、石井利佳が手掛けたエイドリアンのソロ作のアートワーク、近年の〈On-U Sound〉作品のアートワークやミュージックビデオを手掛けるピーター・ハリスのアートプリント、〈On-U Sound〉緒作品のアートワーク、ポスター、貴重なグッズ等が展示され、〈On-U Sound〉所属で日本が世界に誇るダブバンド、オーディオ・アクティブの展示も登場する。
期間中には〈On-U Sound〉作品のCD/LPはもちろんの事、〈On-U Sound〉Tシャツ、ロゴ・グッズ等が販売され、更にマーク・スチュワートがデザインしたオーディオ・アクティブ『FREE THE MARIJUANA』の復刻ポスターも販売。エイドリアン・シャーウッドととボンジョ(アフリカン・ヘッド・チャージ)のサイン会の開催も決定!
------------
【サイン会情報】
〈On-U Sound〉Gallery & Pop-up Store開催を記念して
HMV record shop 渋谷店にて、〈On-U Sound〉の総帥エイドリアン・シャーウッドと、
アフリカン・ヘッド・チャージのボンジョによる超貴重なサイン会が緊急開催決定!!!
[開催日時] 2023年9月13日(水) 時 (19時開始予定)
[会場] HMV record shop 渋谷
[出演] (予定)
・エイドリアン・シャーウッド
・ボンジョ・アイヤビンギ・ノア(アフリカン・ヘッド・チャージ)
[イベント内容] サイン会
[対象店舗] HMV record shop 渋谷
[参加方法]
Bankrobber LABO で開催中の〈On-U Sound〉Pop-up Storeで商品をご購入いただいたお客様に先着でサイン会参加券を配布
*サイン券は無くなり次第終了
[対象商品]
〈On-U Sound〉Pop-up Storeでの販売全商品
【イベント注意事項】
・イベントにお越しいただく際はお渡ししたサイン会参加券を忘れずにお持ちください。
・サイン対象物は参加券1枚につき1点のみとさせて頂きます。当日は忘れずにお持ちください。
・サイン会参加券はいかなる場合も再発行はいたしません。
・写真撮影・録画・録音行為は禁止とさせて頂きます。
・諸事情により、イベント内容等の変更・中止となる場合がございますので予めご了承ください。
------------
〈ON-U SOUND〉GALLERY & POP UP STORE
【開催概要】
2023年9月7日(木)~ 9月26日(火)
at Bankrobber LABO Shibuya Tokyo
11:00?21:00
@bankrobber_labo
150-0042 東京都渋谷区宇田川町36-2 ノア渋谷 1F/2F HMV record shop 渋谷
入場料:無料
※ 〈ON-U SOUND〉の一部のグッズは9/9土曜以降に順次販売予定








------------

label: On-U Sound
artist: Creation Rebel
title: Hostile Environment
release: 2023.10.06
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13571

CD / Digital Tracklist
01. Swiftly (The Right One)
02. Stonebridge Warrior
03. Under Pressure
04. That’s More Like It
05. Jubilee Clock
06. This Thinking Feeling
07. Whatever It Takes
08. Salutation Gardens
09. Crown Hill Road
10. The Peoples’ Sound (Tribute To Daddy Vego)
11. Off The Spectrum *CD Bonus Track

Vinyl Tracklist:
A1 Swiftly (The Right One)
A2 Stonebridge Warrior
A3 Under Pressure
A4 That’s More Like It
A5 Jubilee Clock
B1 This Thinking Feeling
B2 Whatever It Takes
B3 Salutation Gardens
B4 Crown Hill Road
B5 The Peoples’ Sound (Tribute To Daddy Veigo)
リオデジャネイロ出身でLAを拠点に活動するファビアーノ・ド・ナシメントが来日する。今年は2枚のアルバム──イーゴン主宰〈Now-Again〉からの『Lendas』と、マシューデイヴィッド主宰〈Leaving〉からの『Das Nuvens』──を発表している彼は、ブラジル音楽の豊穣なる遺産をLAの音楽風土のなかで新たな形へと昇華するギタリストだ。今回は伝統曲のカヴァーや未発表の新曲を演奏する予定だという。10月13日@南青山BAROOM。貴重な機会をぜひ。
JAZZ at BAROOM ー ファビアーノ・ド・ナシメント ー
南青山のBAROOMにて開催される、“ジャズを核としたその周辺のグッドミュージック”を取り上げるライブシリーズ<JAZZ at BAROOM>
7月にスタートしたこのシリーズには、これまでマーク・ド・クライヴ・ロウ × 真鍋大度、笹久保伸、菊地成孔5、BIGYUKI、4Acesなど多彩なミュージシャンたちが出演してきました。
そして今回、ロサンゼルスを活動拠点とするリオデジャネイロ出身のギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメントの5年ぶりの来日ソロコンサートとして、出演が決定しました。
6弦・7弦・10弦・ミニギターなど様々なタイプのギターで、伝統曲のアレンジカバーから未発表の新曲などを演奏予定です。
BAROOMのインティメートな円形空間で、ファビアーノの繊細なサウンドを感じてください。
ファビアーノ・ド・ナシメントのソロ・ギターを聴けるのは、喜び以外の何物でもない。リオデジャネイロでギターを習得し、ロサンゼルスでギタリストとしてデビューした彼は、ブラジル音楽の豊かなレガシーと、LAのシーンのオープンマインドな音楽性を併せ持つ稀有な存在だ。エルメート・パスコアールやイチベレ・ズヴァルギの音楽を愛し、朋友サム・ゲンデルにブラジル音楽を教えて演奏を共にしてきた。そして、近年は瞑想的なサウンドスケープやリズミカルでモダンなグルーヴを生み出してもいる。ギター・ミュージックの可能性を拡げる演奏を堪能できるまたとない機会だ。ぜひ、お見逃しのないように! 原 雅明

■日時 / DATE&TIME
2023.10.13.fri
OPEN 18:00|START 19:30
■料金 / PRICE
HALL TICKET(自由席) ¥5,000 *ワンドリンク別
・受付にてワンドリンク代を別途お支払いいただきます。
チケットは下記サイトにて発売中
https://jab231013.peatix.com/
■出演 / CAST
Fabiano do Nascimento(ファビアーノ・ド・ナシメント)
リオデジャネイロ出身|ギタリスト、作曲家、プロデューサー。
音楽一家に生まれ、幼少期からピアノ、音楽理論などの教育を受け、10歳でギターを手にする。
ブラジルの豊かな音楽環境によって育まれた卓越した演奏技術をベースに、サンバやショーロといったブラジルの伝統と、ジャズ、実験音楽、エレクトロニカなどの要素を取り入れた、独自の清らかで繊細な音楽を常に開拓し続けている。
https://fabianomusic.com/
■会場 / VENUE
BAROOM
東京都港区南青山6-10-12 1F
Tokyo, Minato City, Minamiaoyama, 6-10-12 1F
https://baroom.tokyo/
六本木通り南青山七丁目交差点角
・「表参道」B1,B3出口より 徒歩約10分
・「渋谷」東口/都バス01系統「新橋」行き青山学院中等部前バス停下車 徒歩約3分
21世紀も20年以上が経過した現在、20世紀の遺物のひとつであるパンク・ロックをやることも、楽しむことも、それが生まれて間もないおよそ45年前の記憶を有する老人からすると、これがなかなか素直にはなれなかったりする。ぼくが10代の頃のパンク・ロックの現場には、起きてはならないことが起きてしまうかもしれないというあやうさがあり、これは90年代初頭のクラブやレイヴ・カルチャーにあっていま失われてしまったものでもあるのだけれど、だから、そう、いかなる革命的なジャンルも時間のなかで経験することなのだ。パンク・ロックなるものの享受の仕方のおおざっぱな公式がずいぶん前にできあがり、ある程度そこで起きることがわかってしまっていることは仕方あるまい。と、こんな面倒なことを思考している老人の前で、メルボルンからやって来たパンク・バンド、アミル・アンド・ザ・スニッファーズは、パンク・ロックがいまもなお意味があり、いや、むしろいまこそやってやるといわんばかりの強烈なパンチを食らわしたというわけである。
エイミー・テイラーは、たしかにボクサーのように小刻みに動き、動き回り、飛びはね、舌を出して、倒れ込み、いやもう、とにかく動きっぱなしなのだが、しかもその動きにコミカルさを忘れることもない。そこに疲れ知らずのザ・スニッファーズの演奏(ドラム、ベース、ギター)が連動し、いままで何万回も聴いてきたおなじみのパンク・サウンドに新たな生命力が吹き込まれるのだ。正直に言うが、ぼくは最初の2曲を聴いただけでこのライヴが最高のものであることがわかった。結局のところ、敢えてこういう言い方をすることを許して欲しいのだれど、負け犬、落ちこぼれ、冴えない人たち、喧嘩も弱いだめ人間……こうした、35年前よりはさらに疎外されている人たちの自尊心に火をつけるのは、パンク・ロックのような敷居が低いフリークス歓迎の音楽なのだろう。ザ・スニッファーズの面々のたたずまいは、いつの間にかファッショナブルになったインディ・シーンとは別世界の住人たちのようでもあり、彼らはぼくのなかのパンク愛を引き出し噴出させるには十分なロケット発射めいた演奏を繰り広げる。これぞ(ぼくにとっては)望外の僥倖というやつだ。パンク・ロックは生きている。

露出の多い服装やセクシャリティを強調する服装を着る女性に対しての「(性暴力に遭うのは)そんな格好するからだ」という男の声に抗する表明として、私らはただ自分たちが好きな服装をしているだけと、「スラット・ウォーク」は、2011年にカナダではじまり、ほとんどの先進国に広まった女性運動のひとつである。ビキニ・トップで腰に布を巻いただけの格好を好むエイミー・テイラーがこの動きに(意識的かどうかは知らないが)リンクしているのは明らかだし、その堂々たる様がこのバンドを21世紀のパンク・ロックとして見せていることもハズれではないだろう。だからオーディエンスのなかに日本人女性が目立っているのは当然のことだと思うのだけれど、この日のライヴはぼくがいままで日本で見てきたライヴのなかで際だって日本人以外の人たちの割合が多く感じられた。早い話、どこの国のライヴだというくらいの光景だったのだ。まあ、これもまたこの10年、与党のとってきた政策がもたらした一場面であり、これが標準化されるのも遠い未来のことではないのだろうけれど、いや、誤解しないで欲しい。ぼくはアホな人間ではあるが、エリック・クラプトンやモリッシーのようにはならない自信くらいはある。ただ、いまもっともパンクが必要なのが日本で生まれ育った人たちなのは間違いないのだから、もっと多くいてもよかった。少しは元気になれただろうし、アミル・アンド・ザ・スニッファーズは、すべてのオーディエンスを釘付けにしたおよそ1時間のステージのなかで、パンクが得意とする憤怒とあの奔放な喜びをがっつりと表現したのだから。
マーク・フィッシャー評論選集
文学/映画/ドラマ編
私たちの生をむしばむ、政治的、心理的、対外的、対内的な抑圧に立ち向かい、聡明で、常に燃え続け、獰猛な激しさをもって今日における「失われた未来」を調査し、知性を磨く努力を怠らなかった思想家、マーク・フィッシャー。21世紀でもっとも重要な政治的テクストであり、すべての人にとっての必読書『資本主義リアリズム』を上梓し、1979年以降の資本主義が独自の「リアリズム」様式を押しつけ、それが左派リベラルにおいても内面化されていることを暴きながらも、社会主義という、いまとなっては「リアリズム」を喪失した大義を捨てずに思考し続けた批評家。スラヴォイ・ジジェク、ラッセル・ブランド、オーウェン・ジョーンズらが絶賛し、マーク・スチュアートやベリアルをはじめ多くのミュージシャンに刺激を与えた思想家。
ポスト左翼がブレグジットに直面した際に、旧来の左翼の惰性を非難し「右傾化」することが「大人」だとされたときも、マーク・フィッシャーはその惰性をどうしたら脱却できるのかと向き合い、安易な「右傾化」に同調することもなかった。
アカデミックになることなく、つねにポピュラー・ミュージックや映画、大衆文学を出発点としながら大衆迎合主義に陥ることも回避しつづけてきた知性の、彼の人気を決定づけた原点にしてすべて──それが彼の伝説のブログ『K-PUNK』だった。
その『K-PUNK』から精選されたコレクションが全三冊に分けられ、ついに翻訳刊行される。まずはその第一弾は「文学/映画/ドラマ編」。序文はサイモン・レイノルズ。
幸いなことに、こうして私たちは彼の文章に立ち返ることができるし、その文章のなかには、情熱的で、たとえどんなに悲観的になろうとも、未来を諦めてはいないマーク・フィッシャーがつねにいるのだ。
本書に登場する作家や作品など:
カフカ、W・S・バロウズ、J・G・バラード、スティーヴン・キング、マーガレット・アトウッド、パトリシア・ハイスミス、デイヴィッド・ピース、トニ・モリスン、カズオ・イシグロ、リチャード・マシスン、クリストファー・ノーラン、デヴィッド・クローネンバーグ、『スター・ウォーズ』、『シャイニング』、『ブレイキング・バッド』、『トイ・ストーリー』、『ウォーリー』、『バットマン』、『ターミネーター』、『アバター』、『ハンガー・ゲーム』、ブライアン・フェリー、ジョイ・ディヴィジョン、ほか多数
マーク・フィッシャーの『K-PUNK』ブログは一世代の必読書だった。 ──『ガーディアン』
誰にとっても理にかなった新しい世界を発明するための不可欠なガイドブックである。 ──ホリー・ハーンドン(電子音楽家)
フィッシャーは、この時代のもっとも信頼できるナヴィゲーターである。 ──デイヴィッド・ピース
今世紀、これほど興味深い英国人作家は現れていない。 ──『アイリッシュ・タイムズ』
21世紀の文化批評の書き方の入門書。 ──『LA レビュー・オブ・ブックス』
当代の文化は、公衆的なるものの概念および知識人の姿、その双方を排除してしまった。かつて──物理的/文化的の両面で──公共の場だったものは、いまや遺棄されたか、広告の植民地と化している。阿呆な反知性主義が支配し、それに声援を送る多国籍企業に雇われた私立高学歴の売文家は、退屈した読者に対し、あなたがたはわざわざ相互受動的な朦朧状態から目覚める必要はありません、と安心させる。後期資本主義の文化労働者によって内面化され、広められた非公式の検閲は、スターリン主義のプロパガンダ長官すら人々に強制できたらどんなに素晴らしいだろうと夢見るほかない、陳腐な順応主義を生み出す。(本書より)
序文 (サイモン・レイノルズ)
編者からのはしがき (ダレン・アンブローズ)
なぜKか?
第一部
夢を見るためのメソッド:本
本のミーム
空間、時間、光、必要なもののすべて──『J・G・バラード特集』(BBC4)についての考察
私はなぜロナルド・レーガンをファックしたいのか
移動遊園地の色鮮やかなスウィング・ボート
退屈の政治学とは?(バラードのリミックス2003)
あなたのファンタジーになりたい
ファンタジーの道具一式:スティーヴン・マイゼルの「非常事態」
J・G・バラードの暗殺
不安と恐怖の世界
リプリーのグラム
夢を見るためのメソッド
アトウッドの反資本主義
トイ・ストーリーズ:あやつり人形、人形、ホラー・ストーリー
ゼロ・ブックスの声明
第二部
スクリーン、夢、幽霊:映画とテレビ
ひとさじの砂糖
あの人は僕の母さんじゃない
ナイジェル・バートン、起立しなさい
ポートメイリオン:理想の生き方
ゴルゴタの丘の唯物主義
この映画じゃ僕は感動しない
第三帝国ロックンロールの恐怖とみじめさ
我々はすべて欲しい
ゴシックなオイディプス王:クリストファー・ノーランの『バットマン ビギンズ』における主体性と資本主義
夢を見るとき、我々は自分たちをジョーイだと夢見るのか?
クローネンバーグの『イグジステンズ』の覚書
撮影したから自分で思い出す必要はない
マルケルの幽霊と第三の道のリアリティ
反アイデンティティ政治
「あなたは昔からずっとここの管理人です」:オーバールック・ホテルの幽霊的空間
カフェ・チェーンと捕虜収容所
理由なき反抗
廃墟のなかの歴史家ロボット
『マイク・タイソン THE MOVIE』評
「彼らは彼らの母親を殺した」:イデオロギーの症状としての『アバター』
雇用不安と父権温情主義
贈り物を返品すること:リチャード・ケリーの『運命のボタン』
社会への貢献
「とにかく気楽に構えてエンジョイしましょう」:BBCに登場した被投性
『スター・ウォーズ』は最初から魂を売り飛ばしていた
ジリアン・ウェアリングの『Self Made』評
バットマンの政治的な右派転向
敵は誰かを思い出せ
善悪の彼岸:『ブレイキング・バッド』
階級の消えたテレビ放送:『Benefits Street』
味方してしまう敵:『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』
手放す方法:『LEFTOVERS/残された世界』、『ブロードチャーチ 〜殺意の町〜』、『ザ・ミッシング 〜消えた少年〜』
英国風刺の奇妙な死
『ターミネーター:新起動/ジェニシス』評
名声が建てた家:『セレブリティ・ビッグ・ブラザー』
アンドロイドを憐れんで:『ウエストワールド』のねじれた道徳観
索引
[著者プロフィール]
マーク・フィッシャー(Mark Fisher)
1968年生まれ。ハル大学で哲学の修士課程、ウォーリック大学で博士課程修了。ゴールドスミス大学で教鞭をとりながら自身のブログ「K-PUNK」で音楽論、文化論、社会批評を展開する。『ガーディアン』や『ワイアー』に寄稿しながら、2009年に『資本主義リアリズム』を発表。2014年に『わが人生の幽霊たち』を、2016年に『奇妙なものとぞっとするもの』を上梓。2017年1月、48歳のときに自殺。邦訳にはほかに講義録『ポスト資本主義の欲望』がある。
[訳者プロフィール]
坂本麻里子(さかもと・まりこ)
1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。訳書に『バンドやめようぜ!』『アート セックス ミュージック』『エイフェックス・ツイン、自分だけのチルアウト・ルーム』『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも』『レイヴ・カルチャー』『ザ・レインコーツ』『ヴァイナルの時代』『自転車と女たちの世紀』ほか。ロンドン在住。
【オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧】
◆amazon
◆TSUTAYAオンライン
◆Rakuten ブックス
◆7net(セブンネットショッピング)
◆ヨドバシ・ドット・コム
◆Yahoo!ショッピング
◆HMV
◆TOWER RECORDS
◆紀伊國屋書店
◆honto
◆e-hon
◆Honya Club
【全国実店舗の在庫状況】
◆紀伊國屋書店
◆三省堂書店
◆丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
◆旭屋書店
◆有隣堂
◆くまざわ書店
◆TSUTAYA
◆大垣書店
◆未来屋書店/アシーネ

