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Caterina Barbieri

ElectronicaPsychedelic

Caterina Barbieri

Myuthafoo

Light-Years

デンシノオト Sep 20,2023 UP

 イタリア・ミラノ在住の電子音楽家カテリーナ・バルビエリはシンセサイザーのアルペジオとドローンとディレイの組み合わせによって新しい電子音楽のモードを知らしめた音楽家である。バロック的電子音楽とロマン派的電子音楽を同時に生成する「電子音楽作曲家」とでもいうべきだろうか。
 とはいえ実験音楽レーベル〈Important Records〉のサブレーベル〈Cassauna〉からリリースした『Vertical』(2014)と、〈Important Records〉からリリースした『Patterns Of Consciousness』(2017)、『Born Again In The Voltage』(2018)などの初期作品は現在とはやや異なる作風であった。基本的なフォームはいまと変わらないが、より即興的に音を組み上げていたように聴こえるのだ。いま聴き直すとこの時期のアルバムは自身のサウンドを模索していた時期なのではないか。
 「電子音楽作曲家」として個性が定まってきたのは、2019年に〈Editions Mego〉からリリースされた『Ecstatic Computation』からではないかと私は考えている。アルペジオとクラシカルなコード進行を組み合わせることで「曲」として成立しはじめたのだ。
 テリー・ライリーやタンジェリン・ドリームなどを思わせるオーセンティックな電子音楽を継承しつつ、鋭い音と柔らかな電子音と鮮やかなコードチェンジを持ったポップな電子音楽サウンドに生まれ変わったとでもいうべきだろうか。

 『Ecstatic Computation』はカテリーナ・バルビエリの技法が即興的なモノの組み合わせから作曲的な方法論に変化した記念碑的なアルバムなわけだが、本作『Myuthafoo』はその『Ecstatic Computation』と同時期に制作された曲を収録した未発表音源作品である。つまり変換期の重要な音源なのだ。じっさいバルビエリは『Ecstatic Computation』と姉妹作品と位置付けているようである。
 リリースはカテリーナ・バルビエリ自身が主宰する〈Light-Years〉からだ。ちなみに〈Editions Mego〉よりリリースされていた『Ecstatic Computation』も本年(2023)、〈Light-Years〉より再リリースされている。
 アルバムは『Ecstatic Computation』と同じく全6曲で、収録時間も32分と近い(『Ecstatic Computation』は36分)。非常にタイトなアルバムの構成だが、1曲ごとのサウンドが濃厚なので短いという気がまったくしない。この点からも『Ecstatic Computation』と二部作という意識はあるのかもしれない。
 収録曲は鋭いアルペジオを主体とする曲と、柔らかなシンセサイザーを中心とするアンビントな曲を収めており、近年のカテリーナ・バルビエリのシンセサイザー音響を存分に聴くことができる。未発表曲でありながら、アルバム収録曲となんら変わらない出来栄えのサウンドである。何よりカテリーナ・バルビエリのサウンドは「曲」として魅力的だ。これはエクスペリメンタルな音楽家のなかでは稀ではないか。
 カテリーナ・バルビエリ的なアルペジオを主体とした曲が、2曲目 “Math Of You” と5曲目 “Sufyosowirl” である。鋭いシンセのアルペジオが反復し、変形し、より大きなサウンドを生成していく。ほかの4曲、つまり1曲目 “Memory Leak”、3曲目 “Myuthafoo”、4曲目 “Alphabet Of Light”、6曲目 “Swirls Of You” はアルペジオ主体ではなく、波のようなシンセサイザーが音響が次第に拡張していくサイケデリック・アンビエントな曲である。
 なかでも1曲目 “Memory Leak” は激しいノイズのような電子音がレイヤーされ、聴き手の意識を飛ばすようなサイケデリックな音響を展開する。1分18秒ほどの短い曲だが、強烈なインパクトだ。また、アルバム・タイトル曲である3曲目 “Myuthafoo” は、穏やかな波のようなシンセサイザーの音にはじまり、次第に音が拡張され、やがて激しくなり、まるで聴き手の意識をむこう側に飛ばしてしまうような音響空間を生成する……。

 この未発表曲集『Myuthafoo』を聴くと確信するのだが、カテリーナ・バルビエリの音楽性の肝は10年代以降の電子音楽の持っていた「作曲と即興と構築と拡張」を非常に分かりやすく展開した音楽家だったということである。同時に実験性も忘れていないというバランス感覚の良さもある。
 『Ecstatic Computation』収録の名曲(!)“Fantas” をリミックスでなく再構築する『Fantas Variations』に、カリ・マローンやカラ・リズ・カヴァーデールなどのエクスペリメンタルなアーティストが参加している点からもそれはわかる。
 トモコ・ソヴァージュやジネーヴラ・ボンピアーニと共に作り上げたサウンドアート作品『Il Calore Animale』などが本年リリースされていることからもカテリーナの実験性とポップの領域を越境するような活動もわかってくる。
 一方、2022年に〈Light-Years〉からリリースされた『Spirit Exit』ではビートのない電子音楽トランスとでも形容したいポップ・エクスペリメンタルな音楽(ときにヴォーカル/ヴォイスまで用いている)を展開していた。
 「実験とポップ」の領域を軽々と飛び越え、優雅に緻密に知的に、サイケデリックな電子音楽サウンドを作り上げていく音楽家、それがカテリーナ・バルビエリなのである。本作『Myuthafoo』は、その音楽性のもっともコアな面がわかりやすく提示されている。まさに貴重なアルバムといえよう。

デンシノオト