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Lusine

ElectronicaIDM

Lusine

Sensorimotor

Ghostly International/PLANCHA

bandcamp Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   May 02,2017 UP

 昨年は、キルンの『ダスカー』(2007)や、テレフォン・テル・アヴィヴの『ファーレン・ハイト・フェア・イナフ』(2001)がリイシューされるなど、にわかに「00年代エレクトロニカ」再評価の機運が高まりつつある。
 近年ではIDMと称されることも多いエレクトロニカだが、テクノをルーツとしつつ(初期〈ワープ〉、エイフェックス・ツイン、初期オウテカなどのインテリジェント・テクノ)、ルーム・リスニング主体の音楽であったこと、サウンドにハードディスク制作以降の多層性や複雑さがあったということ、それゆえの細やかなサウンドレイヤーゆえ電子音楽の進化を感じることができたことなど、あの時代(90年代末期から00年代中頃まで)のエレクトロニカには不思議な固有性があった。それは90年代のダウンテンポやアブストラクト・ヒップホップなどがサンプリングからHD制作や録音の電子音楽/音響へと変わった時代ともいえよう。

 では2010年代中期である現在、「90年代末期から00年代中期のエレクトロニカ」は、どのような形で受け継がれているのだろうか。近年人気のアンビエント/ドローンにもその流れを聴きとることもできる。となればビートの入ったテクノ以降ともいえるエレクトロニカの系譜は?(それは〈ラスター・ノートン〉などのグリッチ/電子音響の系譜とも違う)と思っていた矢先、今年、ルシーン、4年ぶりの新作『センソリモーター』がリリースされたわけである。
 エレクトロニカ的にはこのリリースは事件といえる。「00年代エレクトロニカ」の技法をここまで継承・洗練させているアーティストやアルバムは、なかなか見つけることができないからだ。00年代の〈n5MD〉、〈U-カヴァー〉、〈メルク・レコード〉などのサウンドを受け継いでいるというべきか。

 ルシーンはジェフ・マキルウェインのソロ・プロジェクトである。1998年からカリフォルニア芸術大学で20世紀エレクトロニック・ミュージックとサウンド・デザイン、映画を専攻していたというジェフ・マキルウェインのサウンドには、実験性と聴き手の心理に寄り添うようなポップさが同居しており、ファースト・アルバム(L’usine名義)『L’usine』から聴き手を惹きつけてきた。続く、ルシーン Icl(Lusine Icl)名義で、〈U-カヴァー〉から『ア・スード・ステディ・ステート』(2000)やライヴ・アルバム『コアリション 2000』(2001)、〈ハイマン・レコード〉から名盤『アイアン・シティ』(2002)をコンスタントにリリースし、エレクトロニカ・リスナーからの信頼と高評価を得た。
 ルシーン(Lusine)名義として2004年に〈ゴーストリー・インターナショナル〉からリリースした『シリアル・ホッヂポッヂ』が最初で、以降は〈ゴーストリー・インターナショナル〉よりいくつものアルバムを送り出していくことになる(ルシーン Icl名義では2007年に〈ハイマン・レコード〉からリリースした アンビエント・アルバム『ランゲージ・バリア』などがある。そのほかレーベルを超えてのリミックス・ワークや本名での映画音楽制作など、その活動は多岐にわたっている)。

 彼のサウンドの特徴は、緻密なビート・プログラミングをベースにしながら、細やかな電子音をレイヤーさせている点にある。フロアとリスニング、聴きやすさと実験性を絶妙なバランスで成立させているのだ。まさに00年代エレクトロニカの特徴を体現しているような存在といえよう。
 そのダウンビート・エレクトロニカとも称したい作風は、4年ぶりの新作となる『センソリモーター』でも変わらない。2009年の『ア・サートン・ディスタンス』で結実した自身のサウンドをより磨き上げているのだ。どうやら「MPC1000、アナログ・シンセ、ハンド・パーカッション、グロッケンシュピール、フィールド・レコーディング、ライヴ・インストゥルメンツのサンプル」などを駆使しつつ、端正にサウンドメイクをおこなっているようで、細やかな電子音をレイヤーさせ、ポップなサウンドに仕上げる。
 なかでも格別にポップな4曲め“ジャスト・ア・クラウド”と8曲め“ウォント・フォーゲット”に注目したい。2曲とも Vilja Larjosto のヴォーカルを細かくエディットし、緻密なサウンドレイヤーの中に馴染ませるように構成・作曲され、どこか都会の夜の孤独な感覚と不思議なサウダージ感が同居し、本アルバム中、格別な存在感を放っている。

 ほかにも、カラカラと乾いた鈴の音のような音から次第にドラマティックなサウンドへと変化する1曲め“キャノピー”、彼の妻サラ・マキルウェインをフィーチャーしたエディット・ポップな2曲め“ティッキング・ハンズ”も良い。また、ミニマル・ミュージックのようなノンビートの音響空間を展開する7曲め“チャター”、ヴォイスなどを加工したノイジーなドローン・トラックの10曲め“トロポポーズ”などから、ジェフ・マキルウェインの幅広い音楽性を垣間見る(聴く)ことができるだろう。
 全曲、端正に作り込まれた、繰り返し聴いても飽きのこない普遍的なエレクトロニカ/エレクトロニック・ミュージックであった。まさに15年以上に及ぶ彼のキャリアを代表する傑作アルバムといえよう。

デンシノオト

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