「Circle」と一致するもの

Ronin Arkestra - ele-king

 年明けに「日本」をテーマにした作品『Heritage』を発表したマーク・ド・クライヴ=ロウが、新たなプロジェクトを開始する。WONK や CRO-MAGNON、KYOTO JAZZ SEXTET や SLEEP WALKER などのメンバーたちと組んだ「浪人アーケストラ」がそれだ。『Heritage』に続いて彼のルーツである「日本」がテーマになっている模様。アルバム『Sonkei』は9月25日に発売。なお、明日7月27日にはマーク・ド・クライヴ=ロウ個人の来日公演も開催されるので、そちらもチェック。

マーク・ド・クライヴ=ロウ来日情報:
https://wallwall.tokyo/schedule/mark-de-clive-lowe-melanie-charles/

RONIN ARKESTRA(浪人アーケストラ)
Sonkei

MARK DE CLIVE-LOWE の呼びかけで、ジャズを中心に日本の精鋭プレイヤーが集結したニュー・バンド RONIN ARKESTRA (浪人アーケストラ)!!
WONK、CRO-MAGNON、KYOTO JAZZ SEXTET 等のメンバーが参加、待望のデビュー・アルバム完成!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/roninarkestra

マーク・ド・クライヴ・ロウが『Heritage』に続いて、自身のルーツである「日本」にフォーカスしたプロジェクトが、浪人アーケストラです。LAから東京へと場所を移し、日本人のプレイヤーたちと作り上げたアルバムは、日本のジャズの歴史に新しいページを刻む作品となりました。 (原 雅明 ringsプロデューサー)

アーティスト : RONIN ARKESTRA (浪人アーケストラ)
タイトル : Sonkei (ソンケイ)
発売日 : 2019/9/25
価格 : 2,800円 + 税
レーベル/品番 : rings (RINC56)
フォーマット : CD

Tracklist :
1. Lullabies of the Lost
2. Onkochishin
3. Elegy of Entrapment
4. The Art of Altercation
5. Cosmic Collisions
6. Circle of Transmigration
7. Fallen Angel
8. Tempestuous Temperaments
& Bonus Track 2曲収録決定!!

参加ミュージシャン:
MARK DE CLIVE-LOWE
荒田洸 (WONK)
コスガツヨシ (CRO-MAGNON)
藤井伸昭 (Sleep Walker)
類家心平 (RS5pb)
安藤康平 (MELRAW)
池田憲一 (ROOT SOUL)
浜崎 航
石若 駿
Sauce81

Pasocom Music Club - ele-king

 昨年『DREAM WALK』で一気にその名を轟かせた関西のDTMユニット、パソコン音楽クラブが9月4日にセカンド・アルバム『Night Flow』をリリースする。去る5月には Native Rapper の名ダンス・チューン“TRIP”をスウィート・エクソシストばりにブリーピィに再解釈した、あまりに切ないリミックス(とくにインストがヤヴァい)を発表している彼らだけに、いったいどんなサウンドに仕上がっているのか、いまから非常に楽しみだ。リリース・ツアーも決まっているので、下記より詳細をチェック。

tofubeatsも大注目する「パソコン音楽クラブ」、ゲストボーカルにイノウエワラビ、unmo、長谷川白紙、マスタリングエンジニアには得能直也氏を迎えた1年ぶり待望のセカンド・アルバム遂にリリース! トレーラーも公開!!

関西発DTMユニット・パソコン音楽クラブ。2015年11月に結成。80年代後半~90年代の音楽モジュールやシンセサイザー、パソコンで音楽を製作。ロング・ヒットした前作をより深化させてポップ・チューンが満載。ゲストボーカルにイノウエワラビ、unmo、長谷川白紙、マスタリングエンジニアには、tofubeats、cero、石野卓球等を手掛ける得能直也氏を迎えた快心作が遂に完成!! 今年のサマー・アンセム!

夜から朝までの時間の流れにおける感覚の動きを描いた9曲入りの2ndアルバムです。

時間の経過とともに、夜が深まり、日を跨いで朝になるまで、見知ったはずの街並みは刻一刻と表情を変え、その中にいる僕たちの感覚も変化していきます。僕たちは夜を歩き、その特別さへの高揚感、底知れなさへの不安感を覚えます。最後に朝になり、再びいつもの世界へと戻るとき、僕たちの感覚は新しいものへと移り変わっているように思います。 前作『DREAM WALK』では記憶やイメージに焦点を当てましたが、今作はもっと現実と地続きに感じる異質さ、日常的なものが特異になる様子に着目しました。
──パソコン音楽クラブ

アルバム・トレーラー映像
https://www.youtube.com/watch?v=30kmoqeb7MQ

■商品情報
アーティスト:パソコン音楽クラブ
アーティスト かな:パソコンオンガククラブ
タイトル:Night Flow
タイトル かな:ナイトフロウ
発売日:2019年9月4日
定価:2,000円+税
JAN:4526180491194
仕様:CD1枚組
レーベル:パソコン音楽クラブ

収録曲:
1. Invisible Border (intro)
2. Air Waves
3. Yukue [vocal:unmo]
4. reiji no machi [vocal: イノウエワラビ]
5. Motion of sphere
6. In the eyes of MIND [vocal: イノウエワラビ]
7. Time to renew
8. Swallowed by darkness
9. hikari [vocal: 長谷川白紙]

■パソコン音楽クラブ
https://pasoconongaku.web.fc2.com/Index.html

プロフィール
2015年結成。“DTMの新時代が到来する!”をテーマに、ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど90年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。2017年に配信作品『PARKCITY』を発表。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングなど幅広い分野で活動。2018年6月に自身初となるフィジカル作『DREAM WALK』をリリース。

Andrew Weatherall - ele-king

 言わずもがな、80年代からDJとして活躍し、数々のリミックスやプロダクションで名を馳せ、セイバーズ・オブ・パラダイスやトゥ・ローン・スウォーズメン、ジ・アスフォデルスなど多くのプロジェクトで素晴らしい音楽を生み出し続けてきたヴェテラン、ポスト・パンクとハウスとの間に橋を架けたUKテクノ番長、アンドリュー・ウェザオールが久方ぶりの来日を果たす。表参道のヴェニュー VENT の3周年を祝うパーティ《VENT 3rd Anniversary》の一環として開催される《Day2》への出演で(サークル・オブ・ライヴを迎える《Day1》についてはこちらから)、なんとオープンからクローズまでひとりでロングセットを披露するのだという。と、とんでもない。いま彼がどんな音楽に注目しているのか確かめる絶好の機会でもあるので、8月24日は予定を空けておきましょう。

伝説! Andrew Weatherall が表参道VENTの3周年パーティーDay2で、オープン・トゥ・ラストのロングセットを披露!

国内屈指のサウンドシステムと、こだわり抜いたブッキングで日本のナイトシーンに一石を投じてきた表参道VENT。8月17日と24日に3周年パーティーを開催! 8月24日のDay2には現代のミュージックシーンに計り知れない影響を及ぼしてきたリビングレジェンド、Andrew Weatherall (アンドリュー・ウェザオール)がオープン・トゥ・ラストのロングセットで登場!

Andrew Weatherall ほど多岐にわたる音楽ジャンルに影響を及ぼしてきたアーティストもなかなかいないだろう。10代の頃からポップカルチャー全体に傾倒し、音楽と洋服と本と映画に夢中になっていたという。音楽制作を始めてからは、ずば抜けた才能を発揮し、New Order、My Bloody Valentine、Primal Scream、Paul Weller、Noel Gallagher、Happy Monday などの制作に関わったり、リミックスを提供。デビュー前の The Chemical Brothers や Underworld などの素晴らしい才能をいち早く発掘したのも Andrew Weatherall 達だった。

アナログレコードをこよなく愛し、今でも幅広い音楽ジャンルのDJプレイを披露している。ロカビリーからテクノまでをプレイする、Andrew Weatherall にとっては音楽ジャンルの壁などは無いに等しい。数々の革命を音楽業界に巻き起こしてきた、真のイノベーターと共に迎えるVENTの3周年パーティーに乞うご期待!

更に超豪華特典! VENTの3周年を祝して Andrew Weatherall が、最新の Mix を2本提供してくれました!

・Mix #1はこちらでお楽しみ下さい!
Andrew Weatherall VENT 3rd Anniversary Mix #1
https://soundcloud.com/vent-tokyo/andrew-weatherall-vent-3rd-anniversary-mix-1

・Mix #2はVENTのメールマガジンに登録してくれたお客様にダウンロードリンクをお送り致します。
https://vent-tokyo.net/
こちらのトップページ中段にあるフォームにてご登録下さい。
※ 不定期にVENTの最新情報をお送り致します。

interview with Francesco Tristano - ele-king

日本はジャズの流れているカフェが多い。ヨーロッパでそんなところはもう存在しない。僕は子どものころ、ジャズ・ミュージシャンになりたかった。東京にいると、当時の思いがふたたび感じられる。東京はジャジーな街だ。

 街を歩くのが好きだ。安物の発泡酒を片手に、目的地もなく、ひとりで、ふらふらと都内をうろつくのが大好きだ。新宿、四谷、市ヶ谷、飯田橋あたりは殿堂入りである。秋葉原も良い。神田~大手町~有楽町も趣のあるラインだが、その先の銀座はとりわけすばらしい。昼間でもじゅうぶん魅力的だけど、夜はなお格別で、見上げ続けていると首が痛くなってくる高層ビルの群れ、きらびやかなネオン、せわしなく行き交う年収の高そうな労働者たち──それらを眺めながらとぼとぼ歩いていると、なんというか、生きている実感が沸いてくる。どこまでも明るく残酷なバビロンの風景は、「ここにいる連中と気が合うことは一生、絶対にないんだろうな」と、自分がどういう場所に生き、どういう角度から世界を眺めているのかを、明確に思い出させてくれる。そしてそれは、どこまでも個的な体験だ。

 リュクサンブール出身、現在はバルセロナを拠点に活動しているピアニスト、フランチェスコ・トリスターノの新作は、『東京ストーリーズ』というタイトルどおり、東京がテーマになっている。
 トリスターノといえば“Strings Of Life”のカヴァーで名を馳せ、デリック・メイとはじっさいにコラボも果たし、カール・クレイグの作品にも参加するなど、まずはデトロイト勢との交流が思い浮かぶ。かの地のテクノを吸収することで獲得されたであろうグルーヴ感は、ピアノが前面に押し出されたこの新作においても、たとえば冒頭の“Hotel Meguro”や“Insomnia”、ヒロシ・ワタナベを迎えた“Bokeh Tomorrow”などのトラックによく表れ出ているし、あるいは“Neon City”や“The Third Bridge At Nakameguro”といった曲のビート感はヒップホップとして享受することも可能だろう。他方で彼は一昨年、アルヴァ・ノト、フェネス、坂本龍一とともにグールド生誕85周年を機にセッションをおこなうなど、ダンスとはまたべつの角度からもエレクトロニック・ミュージックの文脈に切り込んでおり、着々とモダン・クラシカルの重鎮への道を歩み進んでいるように見える。
 そんなトリスターノが東京をテーマにしたアルバムをつくったと知ったとき、最初に気になったのはやはりその切り口だった。日本との接点も多い彼は、いったいどのような観点から東京を眺めているのか?
 今回の新作がおもしろいのはまず、最終曲“Kusakabe-san”の琴を除いて、表面的なオリエンタリズムをいっさい排している点だろう。「僕は日本人じゃないから、日本らしいものをつくる意味がない」と彼は言う。「日本人のミュージシャンがバルセロナに来て、バルセロナについてのアルバムをつくろうとして、カタルーニャの民族音楽みたいなサウンドのアルバムをつくるようなものだよ。それはあまりおもしろい作品とは言えない」。とはいえ、ご機嫌な3拍子“Electric Mirror”初っぱなの声優的な声のサンプルに代表されるように、アルバムには随所に日本語の音声が挿入されていて、ほらやっぱりエキゾティシズムじゃんと目くじらを立てることも可能なわけだけど、他方でスペイン語も聞こえてくるから、むしろそれらは彼自身の内的な何かを表現するものだと考えたほうがいい。「たいせつなのは何かパーソナルなものを持ち込むことだ」と彼は続ける。『東京ストーリーズ』は、ひとりの人間のどこまでも個的な──すなわち誰とも絶対に共有不可能な、でもだからこそ逆説的にもしかしたら共有できるかもしれない──記憶の風景を浮かび上がらせる。それはいったいどのようなものだったのだろう?


日本人のミュージシャンがバルセロナに来て、バルセロナについてのアルバムをつくろうとして、カタルーニャの民族音楽みたいなサウンドのアルバムをつくるようなものだよ。それはあまりおもしろい作品とは言えない。

目黒や新宿など東京の都市が曲名になっていますが、東京をテーマにしてアルバムをつくろうと思ったのはなぜですか?

フランチェスコ・トリスターノ(Francesco Tristano、以下FT):僕が初めて日本に行ったのは2001年だから18年前だった。それから少し間があって、2009年からは定期的に日本に行っていまに至る。初めて東京に行ったときも、東京という街にすごく感心したけれど、街が巨大すぎてクレイジーすぎて掴みづらい感じがした。だから、東京にハマるまで時間がかかったよ。東京に40回くらい訪れてからは、東京の友人や、行きつけの場所や飲食店などができてきた。ある意味、東京でレコーディングする時期を待っていたんだと思う。僕は6年前に京都でアルバムをレコーディングしているんだ。良い経験になったし、良い準備運動になった。けれど今回の東京をテーマにしたアルバムはとても特別なものになるとわかっていた。

曲名になっている赤坂や銀座などはどちらかといえば高級感のあるエリアですが、とくにそういう側面は意識しなかった?

FT:いや、これは僕の個人的な体験がもとになっている。たとえば銀座はたしかに高級感のあるエリアだけど、その一面は僕には関係ないことで、銀座にはヤマハがあったから、僕はピアノの練習のために銀座に行っていた。赤坂から自転車で銀座に行き、ピアノの練習をする。だから“Ginza Reprise”はピアノの練習曲みたいな曲なんだ。アルペジオがあったり、同じフレーズの繰り返しだったりする。銀座は僕の練習スペースだから。赤坂についての曲は……同じ場所に何度も滞在していると、そこが自分のホームのような感じになってくるよね? 赤坂には僕が滞在しているホテルがあって、とても落ち着いた感じのホテルで宣伝もされていない、変わったホテルなんだ。東京のホテルにしては珍しく部屋にバルコニーがついているから、おそらく、以前は居住用のマンションだったのだと思う。そこが偶然、僕の拠点になったんだ。じつはデリック・メイがそのホテルのことを教えてくれたんだよ! 10年くらい前に彼から教わって、それ以来、毎回そこに滞在している。だから赤坂は僕にとって、朝起きて、バルコニーのドアを開けて、外の音、車の音や、人の音、下にいる子どもの声なんかを聞いて、下に降りていき、そこでコーヒーを飲むところなんだ。つまり朝のルーティンだね。“Akasaka Interlude”という曲だけど、日本盤にはその「リズミック版」のボーナストラックが入っている。
 いま話したふたつ、銀座と赤坂は僕にとってのルーティンを表している曲なんだ。僕が東京にいるときに毎日おこなっていること。

ユザーン、ヒロシ・ワタナベ、渋谷慶一郎と、日本のゲストが多く参加していますが、東京についてのアルバムだから日本の人を使おうという前提があったのでしょうか?

FT:もちろんだよ。東京でレコーディングをするとなれば、日本人のミュージシャンの友だちにぜひ参加してもらおうと思っていた。ヒロシさんとはかなり前から友だちで、ヨーロッパでも何度か共演してきたし、彼にリミックスをしてもらったこともある。何年か前に彼と一緒に曲をつくりはじめたけれど、結局完成されなかった。僕が彼のスタジオに行って、一緒に作業して、彼が送ってくれたファイルに、今度は僕がレコーディングを追加してというように、ファイルのやりとりをしていたんだけど、「スタジオで生のレコーディングをしよう」と僕から提案した。そのほうがファイルをやりとりしているよりもずっと強烈な体験になるからね。
 ユザーンとは何年かお互いのことを知っていたんだけど、今回のスタジオ・セッション以前に共演したことはなかった。でも彼とは何か一緒にやりたいと思っていた。それが何かは具体的にわからなかったけど……。一緒にライヴをやろうと企画してもいたけど、それも流れてしまった。他にも一緒に何かをやる案があったんだけど、「スタジオ・セッションを一緒にやらないか?」と僕から提案したら彼は快諾してくれた。
 渋谷さんとは最近、1年前くらいに出会って、共通の友人が僕たちを紹介してくれた。東京は巨大な街だけど、世界は狭いなと思った。なぜなら、僕のジュリアードの同級生のマキヤさんが、渋谷さんと東京で同級生だったから! マキヤさんは、いまでもニューヨークに住んでいてヤマハで働いているよ。多くの人と出会えば出会うほど、世界を狭く感じるのは当たり前かもしれないけれど、 さまざまな人たちと一緒に音楽を演奏していくと、僕たちはみんなファミリーの一員なんだって気づくんだ。

エレクトロニクスと生楽器とを共存させるときに注意していることはなんでしょう?

FT:エレクトロニックの楽器を使うときは、アコースティックの楽器と同じように扱うようにしていたね。少なくとも今回のアルバムにおいては。シーケンスされている部分も少しはあるけれど、リズムやベースの部分を含む、エレクトロニクスの多くは生演奏している。エレクトロニクスの楽器をそのままの音として聴こえるように、エレクトロニックの楽器を直接的な方法で使いたかった。あまりプロダクションが過度にされていないようにしたかった。もちろんマスタリングやミキシングはおこなったけど、パソコンからトラックが1ヶ月間流れていて、それに合わせてミックスをするというわけではなかった。テイクやトラックを毎回録音して、それをミックスするというやり方だった。シンセサイザーに直接音を出させて、僕がそれを演奏して録音するという感じだった。僕以外にも、ヒロシさんやグティ、渋谷さんもシンセサイザーで参加してくれたけどね。

3曲目“Electric Mirror”はリズムが楽しく、疾走感があり、ユーモラスな曲ですが、これには何か参照元はあったのでしょうか?

FT:アルバムの曲の多くは日本で作曲したんだけど、これは東京で作曲しなかった数少ない曲だ。ジャン=フィルップ・ラモーのバロック・オペラ「カストールとポリュックス」がもとになっている。1800年代初期の作品で(註:正しくは1700年代)、僕はこのベースラインとその他の要素をいくつか拾って、エレクトロニックな楽器用に書き直した。作曲しているうちに、ある種の対話のようになっていったから「ミラー」というタイトルにした。鏡で自分の姿を見ると、そこには少し違う感じの自分が見える。この曲もバロック・オペラを使っているけれど、音は歪んでいるし、エレクトリックな響きがある。秋葉原や原宿で見られるクレイジーな日本の若者文化のイメージなんだ。表現力が豊かというのか、曲の最初の部分で、お店で何かを売っているような女の子の声が聞こえるだろう? 曲には、異文化間のアイデンティティが存在しているよね。秋葉原では自分たちの趣味に没頭して遊ぶ若者たちがいる一方で、他の国でも似たような美意識を持つ人たちが存在している。そんなイメージなんだ。ライナーノーツには「Impossible is nothing (=Nothing is impossibleを鏡で写した感じ)」って書いたと思うけど、バロック・オペラを原宿風に演奏することだってできるという意味なんだ。

6曲目“Lazaro”や8曲目“Insomnia”などには、ニューエイジ~アンビエント的なシンセが入っていますが、ふだんそういった音楽は聴くのでしょうか?

FT:あまり聴かないな。“Lazaro”で聞こえるのはアナログ・シンセサイザーだから、それがそういうふうに聴こえたのかもしれないね。“Insomnia”のアイディアは、シンセサイザーを特定な響きを持つ楽器として使っただけで、ニューエイジ的な感じを出そうと思ったわけではないよ。“Lazaro”では単純にシンセサイザーにとても柔らかい音の出るアナログパッドを使ってピアノのメロディの伴奏をしていたんだ。“Insomnia”のつくりはもう少し複雑で、グティがシーケンスしたシンセサイザーのパーツを持ち込んできたから、より複雑なサウンド・デザインが聴ける。“Insomnia”で僕が気に入っているところは弦楽器のピッツィカートな音だ。これは僕が子どものころから好きな音だった。オーケストラでもこういう音を書くことができるけれど、今回はそれをシンセサイザーのために書いた。するとより直接的で差し迫った感じの音になる。

僕が東京の街を楽しみはじめたのは地下鉄を使うことを止めてからだった。自転車だけで移動するようになったんだ。街を本当に知りたいなら、自転車を使うほうが良い。

9曲目“Cafe Shinjuku”にはクラリネット奏者のミシェル・ポルタルが参加しています。彼はどのような経緯で参加することに?

FT:ミシェル・ポルタルも健在するアーティストのなかの偉人のひとりだ。僕は彼の音楽を聴いて育ったから、彼の音楽は昔から聴いている。 彼と共演できたことも、やはりこのうえなく光栄なことだった。僕たちは4年くらい前に共演をして、その一度限りの共演からは何も発展しなかったのだけれど、僕が作った曲で、彼にぜひ演奏してもらいたい曲があったから、彼にスタジオに来てくれるようにお願いした。そこで“Cafe Shinjuku”をレコーディングしたんだ。
 僕には新宿での記憶が明確にあるから、彼に曲がどのようなものなのかを説明した。僕は新宿のカフェに座って人を待っていた。外は雨がひどくて、だからその人は遅れていた。僕はコーヒーを何杯もお代わりしながらカフェのラジオを聴いていた。日本はご存じのとおり、ジャズが流れているカフェが多い。ヨーロッパでそんなところはもう存在しないから、それはとてもクールなことだと思う。ヨーロッパではどこに行っても、ジャズがかかっているところなんてもうない。とくにカフェなんかではメインストリームのラジオしかかかっていなくて、ジャズはいっさいかかっていない。僕は子どものころ、ジャズ・ミュージシャンになりたかったんだ。即興で演奏して、自由に弾くジャズ・ミュージシャンになるのが夢だった。そういう思いを僕はずっと抱いてきた。 東京にいると、当時の思いがふたたび感じられる。東京はジャジーな街でもある。ラジオでかかっているところも多いし、少し高級感のあるジャズ・クラブもある。ジャズの街である東京にオマージュを捧げたいと思った。だからミシェルにバスクラリネットを吹いてもらいたかった。これはアルバムのなかでもとくにお気に入りの曲なんだ。

今回のアルバムでもっともフロアでかかってほしい曲はどれですか?

FT:アルバムはダンスフロア向けではないけれど、いまアルバムの曲のリミックスをしているところで、自分がリミックスしたものもいくつかある。ダンスフロアで、あるいはリミックスとしてもっとも可能性のあるのは“Insomnia”、“Bokeh Tomorrow”、“Nogizaka”の3曲だ。“Nogizaka”の原曲ヴァージョンは遊び心がいっぱいでピアノっぽいけれど、僕が作ったリミックスは観客の反応も良いし、みんな踊ってくれるからいちばんフロア向けなのは“Nogizaka”だと思う。

逆に、もっともコンサート・ホールで聴いてもらいたい曲はどれですか?

FT:“Yoyogi Reset”か“Lazaro”だと思うな。とても親密な曲だし、僕の個人的な経験がもとになっているし、とても繊細なところに触れているから。“Yoyogi Reset”は僕が日本でブレイクダウンを体験したときの曲だ。僕が東京の街を楽しみはじめたのは地下鉄を使うことを止めてからだった。自転車だけで移動するようになったんだ。それは6年くらい前の話だけど、街を本当に知りたいなら、自転車を使うほうが良いと思った。僕は自転車が大好きで、どこの街でも、どこに行くときにも自転車を使う。最初は東京で自転車に乗るのは難しくて危険だと思ったけれど、勇気を持って乗ってみたら、東京をまったく違った形で楽しめるようになった。代々木公園は、僕の拠点からあまり遠くないところにあったから、代々木公園まで自転車で行ったり、そこでジョギングしたりしていた。僕は毎日ジョギングをしていて、東京では代々木公園で走っていた。でもこの曲はジョギングについてではなくて、2年前、僕の妻の父親が亡くなったときの曲だ。そのとき、僕はちょうど日本行きのフライトに乗っていたから、この体験は日本と深く関わりのある出来事になった。フランクフルトで乗り継ぎをしていたときに電話がかかってきて、「父親が亡くなりそうだから戻ってきて」と妻に言われた。だから僕は妻のもとに戻り、翌日は義父の葬儀でピアノを演奏した。バッハの曲を弾いたよ。東京に行くスケジュールを立て直し、2日後に日本へ向かった。その当日に演奏をしなければいけなくて大変だったよ。夕方5時に到着して、その日の8時にはもうステージにいなければいけなかった。シャワーを浴びる時間もじゅうぶんになかったくらいだ。その後も公演が続き、僕が葬儀で弾いた曲も含まれていたから、僕にとってはとても辛い体験だった。そのツアーは非常に大変なツアーだった。東京での僕の体験は、楽しいことや、愛情を感じていることや、美味しい食べ物を食べることばかりではない。孤独を感じたり、家族や故郷と離れていることから、物事をしっかりと受け止められない辛さを感じたりすることもあった。だからこのときに代々木に行ったのは、呼吸をするため、マインドをリセットするためだった。だからこの曲がいちばんパーソナルな曲だね。

バロック音楽には現代の音楽と共通するものがある。すべてはベースの音が基本になっているだろう? テクノの曲からキックドラムとベースラインを取ったら、もうあまり何も残っていない。要となっているのはベースだ。

今回のアルバムは東京をテーマにしつつも、いわゆる「和」の要素やエキゾティシズムに頼った部分はほとんどないですよね。

FT:そうだね、偉大な監督、小津安二郎の言葉に次のようなものがある。「I'm Japanese so I make Japanese things (俺は日本人だから日本らしいものをつくる)」。僕だったらこう答える。「僕は日本人じゃないから、日本らしいものをつくる意味がない」。 東京が僕に与えてくれたものや、東京で出会った人たちのおかげで、僕は東京が大好きだ。でも僕が日本人になることはけっしてないし、いつか東京に住む機会があるかもしれないけれど、ずっと日本に暮らしているわけでもない。今回のアルバムは僕の、謙虚な気持ちからの、とてもパーソナルな体験がもとになってつくられたものだ。だから日本っぽい音にしようとか、江戸の感じを真似したりするようなことはいっさいしなかった。今回のアルバムでは、フィールド・レコーディングもたくさんしたし、琴の音が入っている曲もアルバムの最後の方にある。あれは、たんに琴の音が好きだからというエピソードとして入れたんだ。とにかく日本らしいサウンドのアルバムをつくろうとはしなかったよ。それは間違っていると思う。それはまるで日本人のミュージシャンがバルセロナに来て、バルセロナについてのアルバムをつくろうとして、カタルーニャの民族音楽みたいなサウンドのアルバムをつくるようなものだよ。それはあまりおもしろい作品とは言えない。やはりたいせつなのは何かパーソナルなものを持ち込むことだと思う。だからこのアルバムは、東京での僕の個人的な体験や、街から受けたパーソナルなインスピレイションがもとになってつくられた。

今回のアルバムを「日本」や「東京」、「寿司」などの単語を使わずに言い表すとしたら?

FT:「ラーメン」はどうかな(笑)? 今回のアルバムにはラーメンについての曲はなかったね。こういう質問には、「その空間にあるピアノ(Piano in space)」と答えることが多い。これはピアノ・アルバムで、ピアノの音がアルバムの曲すべてから聴こえる。そこにエレクトロニック機材がオーケストラのように伴奏してくれている。〈ソニー〉からリリースされた僕の前の作品『Circle Songs』は100%ピアノ・ソロだったけれど、今回のアイディアとしては純粋なピアノ・ソロの音から、フル・オーケストラによる、エレクトロニックなサウンドに移行するというものだった。

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バッハは楽器に強いこだわりがない人だった。彼が作曲する音楽の言語は絶対的だった。彼は楽器という表現方法をもとにしていない。だからバッハは技術の進歩には興味を示すと思う。シンセサイザーにも興味を示していたと思うよ。

クラシカルは歴史が長い分、バロックや古典派、ロマン派、印象主義などさまざまなスタイルがありますが、そのなかでもとくに影響を受けたのはなんでしょう? バッハはよく取り上げていますし、あなたの大きなルーツのひとつだと思いますが、できればそれ以外で。

FT:僕はバッハを毎日聴くし、バッハを毎日聴いて育ってきたからバロックが第一のインスピレイションになっているね。でももうひとつの理由として、バロック音楽には現代の音楽と共通するものがあると思うからなんだ。とても遊び心があって非常にリズミカル。テクノやエレクトロニック・ミュージックと同じようにベースがとても重要で。すべてはベースの音が基本になっているだろう? テクノの曲からキックドラムとベースラインを取ったら、もうあまり何も残っていない。リズムの要素が少し残っているかもしれないけれど、やはり要となっているのはベースだ。だからバロック音楽には間違いなく強い影響を受けているね。

ピアノはいまでこそ古典的な楽器とみなされていますけれど、発明された当時の人びとにとってはとてもハイファイでデジタルな音に聞こえたのではないか、それこそ今日におけるシンセサイザーのように聞こえたのではないかと想像しているのですが、この考えについてピアニストとしてはどう思いますか? たしかバッハはピアノ曲をひとつも書いていませんよね。

FT:ピアノは非常に複雑な楽器だ。どう言えばいいのかな……。ピアノは未来から来た楽器だと当初から考えられていた。とても複雑で巨大で、出る音も大きかったから、作曲家はどうやってピアノを扱っていいのかわからなかった。バッハが弾いてみたピアノはおそらく最高級のものではなかったと思うんだけど、彼はピアノを好まなかった。そのときバッハはかなり高齢だったということもある。正直な話、バッハは楽器に強いこだわりがない人だった。キイボード楽器向けのバッハの音楽でも、ヴァイオリン向けのバッハの音楽でもまったく同じに見えるよ。彼が作曲する音楽の言語は絶対的だった。楽器という表現方法をもとにしていない。だからバッハは技術の進歩には興味を示すと思うよ。当時もそうだった。当時もっとも技術的に進歩していたのはオルガンだった。教会がすばらしいオルガンを所有していた。それはきわめて優れた技術を持つ楽器だった。バッハはオルガンに強い興味を持っていた。オルガンの技術に強い関心を持っていたから、彼は現代の考えに近い考えを持っていたと思う。シンセサイザーにも興味を示していたと思うよ。

あなたは2011年のアルバム『BachCage』でバッハとケイジを同時に取り上げていましたけれど、その2組を一緒に取り上げようと思ったのはなぜ?

FT:このふたりは対話しているんだ。互いに対してね。彼らは数多くの点でつながっている。ふたりの作曲家の対話というか、卓球のラリーのようなプレイリストをつくって、このふたりをつなげる要素を探していた。たとえば、各作曲家の作品に共通するメロディや、ある特定の音やリズムの参考になるような音の要素。僕が先ほど話したバッハについての内容は、バロック音楽全般に当てはまることだ。現代の音楽との共通点が非常に多い。だからケイジの音楽や自分の音楽と、バロック音楽のあいだに共通点を見つけることは僕にとって容易なことなんだ。

ケイジだと“4分33秒”に注目が集まりがちですが、彼はピアノ曲や数々の電子音響の実験も残しています。あなたにとってケイジのベストな作品は?

FT:そうだな……ケイジが何を作曲したということよりも、彼が作曲したということ自体が重要なことだと思う。彼のヴィジョンは、緊迫性や現代的という意味では、他の作曲家のヴィジョンよりはるかに先を行っている。ジョン・ケイジ前とジョン・ケイジ後がある。彼はすばらしい音楽をたくさんつくったけれど、重要なのは、彼の作品の底には非常に強力な概念的な基盤があったということなんだ。そのせいで音楽の影が薄れてしまった。彼は自分でも言っているけれど、ジョン・ケイジ後は著作者という概念が消えてしまった。ジョン・ケイジの登場により、作曲家という概念が消滅した。僕たちは、作曲家であれ演奏者であれ一般の観客であれ、みな同じ体験の一部である。同じ体験の一部であり、体験を共有している。作曲家が独裁的権力を持ち、演奏者は作曲家の忠実なメッセージを観客に伝えなくてはいけなくて、それを聴く観客も静かに従うべき、という構造/ヒエラルキーはもう存在しない。それがケイジの思想だ。ケイジ以降、僕たちは音楽をまったく新しい思想として捉えている。だから彼は20世紀における超重要人物だったと思う。彼のベストな作品にかんしては、僕はケイジの作品で大好きなものがいくつもあるけど、“In A Landscape”というピアノ曲はとても美しい作品だと思う(*『AMBIENT definitive』をお持ちの方は22頁を参照)。

バッハとケイジの作品で、ピアノで録音されたもののなかでは、それぞれどの演奏家によるものがおすすめですか? 前者はできればグールド以外で。

FT:僕はグールド以外のバッハ演奏家をあまり知らないから、おすすめするとしたらやはりグールドだな。それ以外だと誰がおすすめできるかな……坂本龍一も僕が好きなバッハを弾いていたかもしれない。でも、彼はむしろキュレイター的なことをしているのかも。ケイジにかんしては、ケイジ専門の演奏家という人がいないから答えるのは難しい。それにケイジはピアノ作曲家として有名なわけではないからね。でも、ひとりだけケイジのピアノ音楽をよく演奏していた人がいた。ケイジを聴くには、スティーヴン・ドゥルーリーという人がおすすめで(*『AMBIENT definitive』をお持ちの方は22頁を参照)、バッハを聴くならやはりグールドをおすすめするね。

昨年は『Glenn Gould Gathering』でアルヴァ・ノト、フェネス、坂本龍一と共演していますが、それ以前から彼らの音楽は聴いていましたか? それぞれどのような印象を持っています?

FT:現代に健在するアーティストたちのなかでもっとも偉大な3人だと思う。坂本龍一と共演することになったと聞いたときは、信じられなかったよ。僕にとっての3大インスピレイションのひとつに入るからね。だから彼と、アルヴァ・ノト、フェネスと共演できたということはほんとうにすばらしい体験だった。もちろん以前から彼らの音楽はよく知っていたよ。何年も前から彼らの音楽を聴いてきたから。だからこの共演は僕にとってとてもたいせつで、共演した1週間の期間は充実した時間を過ごすことができた。それも、もうひとつの「東京ストーリー」になるよね。あの3人と一緒に東京で1週間を過ごした。そのとき、彼らには強い影響を受けたよ。

デトロイト・テクノは都会の悲しみをもっともうまく捉えた音楽だと思う。僕たちは本来の故郷である地球や自然界とはまったく切断された世界に暮らしている。僕たちが見るもの、触るもの、つくるものはすべて僕たち自身が発明したものだ。デトロイト・テクノはその悲しみをいちばん上手に表現している。

2016年の『Surface Tension』はデリック・メイをゲストに迎え、彼の〈Transmat〉からリリースされました。彼とはいつ、どのような経緯で?

FT:デリックとは10年くらい前に出会った。カール・クレイグがデリックのことを紹介してくれたんだ。僕たちは車でデトロイトの街を走っていて、一緒に時間を過ごしていた。互いにいろいろなアイディアが浮かんで、一緒に音楽をつくろうという話になっていた。初めて彼と一緒に仕事をしたのはオーケストラのプロジェクトだった。5年くらい前にベルギーでやった公演だったけれど、とても良い出来で、デリックとは結局、オーケストラ公演をその後もデトロイトやパリなどでもやることになった。彼と共演した後、僕は毎回こう言っていたんだ。「デリック、今度一緒にスタジオに入って制作しようよ」って。デリックは「うーん、どうかな。音楽のレコーディングはもう何年もやっていないから、わからないな」と言っていたから僕は、「じゃあ、こうしよう。スタジオに来てくれさえすれば、僕が適当に録音しておくから、何か良いものができたら、そのときにまた考えよう」と伝えた。そうやって彼を僕のスタジオに呼んだ。そしてスタジオで僕は、彼が演奏したものをすべて録音したんだ。彼が僕のスタジオに入るなり、録音ボタンを押してずっと録音していた。僕たちはアルバムを1枚リリースしたけれど、まだまだ音源はたくさんあるから、その音源だけであと2枚はアルバムがつくれるよ。現時点では、あの8曲がリリースされるのにふさわしい音だと思うから、残りの音源は保留にしているけれどね。

デトロイト・テクノが成し遂げた最大の功績はなんだと思いますか?

FT:個人的に思うのは、デトロイト・テクノは、人類の都会の悲しみをもっともうまく捉えた音楽だと思う。あなたも東京に住んでいるからわかると思うけれど、僕たちは都会という、僕たちの本来の故郷である地球や自然界とはまったく切断されてしまった世界に暮らしている。僕たちが見るもの、触るもの、つくるものはすべて僕たち自身が発明したものだ。僕たちは、自然の要素というものに触れてはいないんだよ。水道から流れる水道水を自然のものと捉えるならべつだけど、たとえば手を洗って石鹸を使うときも、なんらかの化学物質が入っているし、手を拭くときにタオルを使うけれど、そのタオルも、綿を織ったり、工場で染められたりという技術が使われている。そういった、自然界の要素から切断されているという状態。僕だって建築物などのつくられたものは好きだし、モノが嫌いだと言っているわけではない。ただ、僕たち人間がそういうモノに溢れた環境に暮らしていて、自然の要素に触れていないという状態に悲しみを感じるんだ。デトロイト・テクノは、その悲しみをいちばん上手に表現していると思う。僕にとっては、とてもエモーショナルでポエティックな音楽だ。同時にとてもグルーヴィで、他の感情が付随してくるときもあるけど、悲しみを感じられる音楽でもあると思う。

2年前には『Versus』でカール・クレイグともコラボしていますが、近年はジェフ・ミルズがオーケストラとやったり、デトロイト・テクノがクラシック音楽と結びつく例が目立つ印象があります。それ以外でも、ここ10年くらい、クラブ・ミュージック~エレクトロニック・ミュージックとクラシカルが融合するケースが増えてきていますが、そういう動きにかんして「カウンター・カルチャーが正統なハイ・カルチャーの地位にのぼり詰めようと背伸びをしている」、あるいは「ハイ・カルチャーの側がカウンター・カルチャーの良いところをかすめとろうとしている」、そういう側面はあると思いますか?

FT:その両面があると議論できると思うけれど、それはあまり関係ないことだと思う。たいせつなのは、音楽に限界はないということだから。音楽を、ジャンルやスタイルがあるものだと捉える必要はないと思う。なんらかの基準を満たすからこれは○○の音楽だ、という考え方は必要ないと思う。僕は、音楽に限界や辺境というものはないと思っている。だから、オーケストラを使ってエレクトロニック・ミュージックを演奏したいと思うのは自然なことだと思うし、エレクトロニック・ミュージックのアーティストたちがクラシック音楽のミュージシャンを使って自分を表現してみたいと思うのは自然なことだと思う。そういう試みにたいしオープンな姿勢でいることは、さらに豊かな体験ができるということだから。エレクトロニック・ミュージックにもアジェンダがあって、クラシックな音楽ホールで演奏会をやりたいと思うだろうし、その一方でクラシック音楽も観客の層を広げたいと思っているだろう。だからいま挙がったような側面はたしかに正論として存在すると思うけれど、僕個人の意見としてはとくに気にしていないな。

いま注目している若手のテクノ・アーティストはいますか?

FT:もちろん! 最近は才能あるプロデューサーが大勢活動している。ほんとうにたくさんの作品がリリースされているから、僕はそのすべてをフォロウすることはできないし、すべてを知るなんてことは不可能だけど、たとえば日本だけでもシーンは盛り上がっているし、すばらしい音楽をつくっている人たちがいる。メインストリームな音楽や、ダンス・ミュージックでいまいちばんホットなものを知りたいのであれば、僕はそこまで知らないけれど、ライヴ・セットで最近いちばん気に入っているのは、ブラント・ブラウアー・フリック。最近新しいアルバムが出たんだ。『Echo』というタイトルで先週リリースされたばかりだ。すごくおすすめだよ! 彼らも東京が大好きなんだ。

ふだんテクノやエレクトロニック・ミュージックを聴いている人におすすめの、最近のクラシカルの音楽家を教えてください。

FT:僕がおすすめするのは、僕のメンターであるブルース・ブルベイカー。ピアニストであり、偉大な人でもある。すばらしいアルバムを何枚か出しているよ。フィリップ・グラスのようなアメリカのミニマル・ミュージックに傾倒しているけれど、僕がいちばん好きなのは『Codex』というアルバムで、2年前にリリースされた作品。『BachCage』同様、とても昔の音楽と、アメリカのミニマリスト作曲家のテリー・ライリーの作品とを行き来しているんだ。すごくクールだよ。


Logos - ele-king

 これは最新のダンス・ミュージック・レコードだ。「えっ、いったいどこが?」と思われる方もいるかもしれない。たしかにどのトラックもほぼビートレスだし、あってもビートは断片化されている。その意味で相当にエクスペリメンタルな音楽であることには違いない。しかしこの『Imperial Flood』は、あのロゴスの新作アルバムである。となればここにはリズム/律動の拡張があると考えるべきではないか。
 ロゴス(ジェームス・パーカー)はかつて「ウェイトレス=無重力」というサウンド・スタイルによって、インダストリアル/テクノやアンビエント以降のUKグライムの新しいビート・ミュージックを創作した人物である。彼の関わったアルバムをざっと振り返ってみても、2013年にソロ作品『Cold Mission』(〈Keysound Recordings〉)、2015年にマムダンスとのコラボレーション作品『Proto』(〈Tectonic〉)、2016年にロゴスとマムダンスが主宰する〈Different Circles〉のレーベル・コンピレーション『Different Circles』などを継続的に送り出し、しかもそのどれもが先端的音楽マニアたちの耳と身体の律動と感性を刺激する傑作ばかりであった。いわば「テクノ」の概念を拡張したのだ。
 そんな先端音楽シーンの最重要人物のひとりであるロゴスの新作『Imperial Flood』が、自身の〈Different Circles〉からついにリリースされたわけだ。となれば「新しい律動への意志」が問われているとすべきではないか。じじつ、『Cold Mission』以来の待望ともいえるソロ・アルバムであるのだが、そのサウンドは6年の月日の流れを反映したかのようにわれわれの予想を超え、新しい電子音響空間が生成していたのだ。〈Different Circles〉から2018年にリリースされたシェヴェル『Always Yours』のビート・ミュージックの実験性を継承しつつ、ビートにとらわれないモダンな先見性に富んだ電子音楽に仕上がっていた。ここにはリズムと持続への考察と実践がある。では、それはいったいどういうものか。このアルバム全体が、一種の「問い」に私には思えた。

 アルバムには全9曲が収録されている。どのトラックもビートよりも電子音のミニマルな持続や反復を基調にしつつ、加工された具体音・環境音がレイヤーされている構造となっていた。インダスリアルのように重厚であり、アンビエントのように情景的でもある。いわゆるシネマティックなムードも濃厚だ。とはいえチルアウトが目的のアルバム/トラックではない。耳のありようを規定しない「緊張感」が持続しているからだ。
 曲を順にみていこう。まず1曲め“Arrival (T2 Mix)”と2曲め“Marsh Lantern”のビートレスにしてオーセンティックなシンセ・サウンドからして、その意志を明瞭に聴きとることができた。つまり彼が「UKグライム以降」という立ち位置すら超越し、まったく独自の「電子音楽の現在」を刻印するような作品を生み出そうとしていることが分かってくる。
 続く3曲め“Flash Forward (Ambi Mix)”はアシッドなシーケンスが反復し、薄いリズムがレイヤーされるシンプルなトラックである。2019年におけるアシッド・リヴァイヴァルだ。4曲め“Lighthouse Dub”では“Arrival (T2 Mix)”と“Marsh Lantern”の波打つように反復するオーセンティックな電子音楽が継承され、断続的/性急なグライム的ビートがレイヤーされる。どこか不穏なムードを醸し出す極めて独創的なトラックである。
 5曲め“Omega Point”では環境音・具体音と霞んだ電子音が折り重なり、シネマティックかつダークなムードが生成されていく。わずか2分57秒ほどのトラックだが、アルバムのコア(中心)に位置し、本作のムードやテーマ(曲名からして!)を象徴する曲に思えた。続く6曲め“Zoned In”は盟友マムダンスが参加した本作のビート・トラックを代表する曲だ。まさにアシッド・テクノな仕上がりで、本作中もっともストレートなダンス・トラックである。
 7曲め“Occitan Twilight Pyre”は微かにノイジーな音が生成変化する実験音楽的トラック。何かを静かに押しつぶす音と高音域のスプレーのようなノイズによるASMR的な快楽が横溢している。8曲め“Stentorian”はリズムの連打とアトモスフィアな電子音が交錯する。名作『Cold Mission』を思い出させるトラックであり、「ウェイトレス」の現在形を提示しているようにも思えた。やがてビートは(「オメガ・ポイント」の先に)消失・融解し、9曲め“Weather System Over Plaistow”へと辿り付く。この終曲でも波打つように反復する霞んだ電子音が展開されていく。どこか懐かしく、しかし聴いたことのないサウンドだ。
 本作の電子音は70年代のドイツの電子音楽(クラウトワークやタンジェリン・ドリーム)のごときサウンドでもあり、同時に10年代以降/グライム以降ともいえる未知のサウンドがトラック内に溶け合っているのだ。

 知っている。だが聴いたことがない。本作には「未聴感」が濃厚に漂っている。UKのグライム以降の最先端のビート・トラックを提示したマムダンスとロゴスのシングル「FFS/BMT」(2017)に横溢する「新しさ」の「その先」を見出そうとする強い意志を強く感じる。それはいわば「複雑さ」から「単純さ」を選択し、電子音/音のマテリアルな質感へと聴き手の意識を向かわせようとする意志だ。むろん「素朴さ」への反動ではない。ロゴスは常に「聴きなれた音」から「未知の音」のプレゼンテーションを行ってきたアーティストではないか。その意味でジェームス・パーカーはもはや「ウェイトレス」だけに拘っていないし、その先を意識しているのだろう。
 じっさい、本作『Imperial Flood』は、ビート・ミュージックとミュジーク・コンクレートとドイツ電子音楽とアシッドテクノの融合/交錯するような作品に仕上がっていた。じじつ、あるトラックはオーセンティックな電子音楽であり、あるトラックはアシッドテクノのモダン化であり、あるトラックはインダストリアル/テクノ以降のモダンなミュジーク・コンクレートである。こう書くと多様な音楽性によるトラックが収録された雑多なアルバムのように思うかもしれないが、アルバム全体はモノトーンのムードで統一されてもいる(このクールなミニマリズムはロゴスとマムダンス、〈Different Circles〉からリリースされた音楽に共通する)。
 同時に聴き込むほどに乾いた砂が手から零れていくような「つかみどころのなさ」を感じてもくる。これはネガティブな意味ではない。そうではなく新しい音楽を聴いたときによく感じる現象である。提示された音の遠近法がこれまでの聴き手のそれに収まっていないのだ。この「とりとめのなさ」「つかみどころのなさ」にこそ新しい電子音楽の胎動があると私は考える。
 「とりとめのなさ」「つかみどころのなさ」「未聴感」。「未聴感」は、いわば過渡的な状態を意味するものだ。「新しさ」をいわば「不定形な状態」とすると、「新しさ」とは「過渡的」な状態を常に/意識的に選択し、その絶え間ない変化のただ中に身を置こうとするタフな意志の表出といえる。そう、ロゴスは、そのような「未知の新しさ」を希求・提示する稀有なアーティストなのだ。

Kelsey Lu - ele-king

 歓喜雀躍とはこのことです。先日、待望のファースト・アルバムのリリースがアナウンスされたばかりのケルシー・ルー、なんと来日公演が実現しちゃいます。こんなにもはやくそのステージを体験することができるなんて……5月29日は渋谷WWW Xに集合決定ですね。いったいどんなパフォーマンスを披露してくれるのか、楽しみに待っていましょう。

Solange、Blood Orange から OPN まで、数々のアーティストからラヴ・コールを受ける才媛が放つ甘美なオブスキュア・ソウル。
LA拠点のアヴァン・チェリストでありヴォーカリスト/プロデューサーの Kelsey Lu (ケルシー・ルー)が、待望のデビュー・アルバムを来週 4/19 にリリースし、日本初となる単独公演を 5/29 WWW X にて開催。

Kelsey Lu は現在LAを拠点に活動。間も無く4月19日にリリースされる彼女のデビュー・アルバム『Blood』は、2016年に発表されたEP 「Chruch」(ブルックリンの教会でライヴ録音された作品)に続く待望のリリースとなる。共同制作者に The xx や Sampha、David Byrne などのプロダクションで知られるイギリス人プロデューサー Rodaidh McDonald を迎え、Jamie xx、Skrillex や Adrian Younge らも参加。「Church」以降に公開されたシングル“Due West”や 10cc の名曲カヴァー“I'm Not In Love”も収録される。

これまで Solange や Florence + the Machine、Blood Orange、さらには OPN のライヴ・プロジェクト M.Y.R.I.A.D. など数々のアーティストからラヴ・コールを送られ、彼らのライヴや作品でミュージシャンとしての才気を発揮してきた Lu による注目のソロ・プロジェクトは、彼女のトレードマークとも言えるチェロの旋律に導かれながらもマルチ・インストゥルメンタリストとしてそのイメージを更新していくサウンド、力強くもデリケートでしなやかな歌声、ミストのように空間を覆うジェントルでダイナミックなプロダクションが生み出す、甘美なオブスキュア・ソウル。

今まさに世界から注目を浴びはじめた Kelsey Lu の、リリース後絶好のタイミングとなる来日公演をお見逃しなく。
チケットは明日 4/13(土)10:00より発売。

Lu の嫋やかなダンスに彩られた奇妙な短編映画のような仕上がりのミュージック・ビデオの数々もぜひチェックを。

Qrion - ele-king

 現代的でありつつどこか叙情的なダンス・チューンを次々と送り出す、札幌出身サンフランシスコ在住のDJ/プロデューサー、クリョーン(Qrion)。これまでスロウ・マジックやトキモンスタなどのリミックスを手がけ、デイダラスとも共演、ポーター・ロビンソンやライアン・ヘムズワース、カシミア・キャットらのツアーに帯同してきた彼女だけれど(初音ミクを使った曲もあり)、このたびなんと、昨年リリースされたEP「GAF 1」「GAF 2」の12インチ化を記念してリリース・パーティが開催される運びとなった。日時は4月30日、会場は CIRCUS Tokyo。当日は Taquwami、Submerse、ピー・J・アンダーソンらも出演するとのことで、これは見逃せない!

札幌出身で現在はサンフランシスコを拠点に活動しているDJ/プロデューサー、Qrion (クリョーン)が、スタイリッシュかつディープなハウス・サウンドをみせた2018年のEP「GAF 1」、「GAF 2」の楽曲が待望の 12 inch 化が決定。
平成最後の4月30日に CIRCUS TOKYO にてリリースを記念したパーティーを開催!

TITLE: PLANCHA × CIRCUS presents Qrion 『GAF』 Release party
DATE: 2019.4.30 (TUE/HOLIDAY) OPEN 18:00

LINE UP:
Qrion
Taquwami
Submerse
Pee.J Anderson

ADV: 2,800yen
DOOR: 3,300yen
(別途1ドリンク代金600yen必要)

TICKET:
Peatix:https://qrion.peatix.com/
イープラ:https://eplus.jp/
チケットぴあ:P-CODE (149133)

VENUE: CIRCUS Tokyo
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-26-16
03-6419-7520
https://www.circus-tokyo.jp

▼ Qrion

札幌出身、現在はアメリカ・サンフランシスコを拠点とするトラックメイカー/プロデューサー。10代の頃からオンラインを中心に音源をリリースし注目を集め、Ryan Hemsworth、How To Dress Well、Giraffage、i am robot and proud ら海外のプロデューサーとの共作が一挙に話題となり、瞬く間に世界中に Qrion の名が広がり、海外からのオファーが殺到、〈Fool’s Gold〉、〈Carpark Records〉、〈NestHQ〉、〈Secret Songs〉などの世界中のレーベルからリリース、「Trip」、「Just a Part of Life」といった自身の作品のほか、TOKiMONSTA、Slow Magic などのリミックス作品もリリースしている。

さらに Qrion は世界中をツアーしており、Slow Magic との28日間の北米ツアーを終えた、Porter Robinson、Ryan Hemsworth、Cashmere Cat, and Giraffage のツアーにも帯同、この秋の自身の最新EPとなる「GAF」のリリース・ツアーでは、LA、ニューヨーク、サンランシスコ、札幌、東京など、アメリカと日本で全8公演を成功裡に収め、更には、世界最大級のダンス・ミュージック・フェス Tomorrowland 2018 出演を始め、HARD Summer、Holy Ship、Moogfest、NoisePop、SXSWのショーケース、Serentiy Fest、更には日本の TAICOCLUB’ 18 など、多くのフェスティバルでもプレイ。 2018年に世界基準でさらなる話題を集める、今最も注目すべきアーティスト。

▼ Taquwami

作曲家。これまでにいくつかのEPといくつかのmp3をインターネット上でリリース。その他プロデュースワークやリミックスワークも多数手がける。

▼ submerse

イギリス出身の submerse は超個人的な影響を独自のセンスで消化し、ビート・ミュージック、ヒップホップ、エレクトロニカを縦横無尽に横断するユニークなスタイルを持つDJ/ビートメーカーとして知られている。これまでにベルリンの老舗レーベル〈Project: Mooncircle〉などから作品をリリースしている。SonarSound Tokyo2013、Boiler Room、Low End Theory などに出演。
また、Pitchfork、FACT Magazine、XLR8R、BBCといった影響力のあるメディアから高い評価を受ける。2017年に90年代のスロウジャムやヒップホップを昇華させたニューアルバム『Are You Anywhere』をリリース!

▼ Pee.J Anderson

Pee.J Anderson (ピー・ジェイ・アンダーソン)は Al Jarriem (アル ジャリーム)と JOMNI (ジョムニ)による関西出身の Deep House ユニット。
2017年末のハウス・シーンに突如現れ、精力的にリリースやライブ活動を行い東京のダンスフロアを彩り続ける。PCライブをベースに、ボーカルや楽器による生演奏と併せて4つ打ちを鳴らすスタイルからクラブ界隈で異才を放つ。

Lori Scacco - ele-king

 ロリ・スカッコの音楽を聴くと、いつも「波紋」のようなサウンドだと感じる。水滴と波紋。その水面での折り重なり。いわば「丸と円」のレイヤーのような音楽。もしくは「輪」のような音のアンサンブル。それはカタチや現象の問題だけではなくて、どこか人と人との関係性、つまり「縁」を表しているのではないか。
 じっさい2004年にスコット・ヘレン(プレフューズ73)が運営し、あのサヴァス・アンド・サヴァラスのアルバムなどもリリースしていたレーベル〈Eastern Developments〉から発表された彼女のソロ・ファースト・アルバムも『Circles』というアルバム名だった。このアルバムを制作する前、ロリ・スカッコはバンド、シーリー(Seely)の解散を経験していたわけだし、それなりに人間関係の大きな変化の只中にいたのだろう。
 ちなみにシーリーは、1996年にトータスのジョン・マッケンタイア・プロデュースのファースト・アルバム『Julie Only』を〈Too Pure〉からリリースしたバンドである。シューゲイザーからステレオラブまでのエッセンスを持ちながらミニマル/ドリーミーなポップを展開し、熱心なリスナーも多かったと記憶している。ロリはこのシーリーのピアニスト/ギタリストだった。シーリーは2000年にアルバム『Winter Birds』をスコット・ヘレンとの共同プロデュースでリリースし、そして解散してしまったが、その解散から4年の月日をかけて彼女はソロ・アルバム『Circles』をリリースしたわけだ。
 そしてその音楽性はバンド時代から大きく変わった。ギターやピアノ、弦楽器などにエレクトロニクスが控えめにレイヤーされた「アコースティック・エレクトロニカ」とでも形容したい作品に仕上がっていたのだ。日曜の朝とか晴れた日の夕暮れ時を思わせる穏やかで美しいクラシカルなアルバムである。永遠に耳を澄ましていたいような心地良さがあった。もちろん聴き込んでいくと、音と音の重なりは和声感も含めて、実に繊細に織り上げられていることに気が付く。まさに「サークル」の名に相応しい作品である。このアルバムは熱心な聴き手に深く愛され、リリースから10年後に日本盤CDが〈PLANCHA〉からリイシューされ、新しいリスナーからも歓迎された。
 『Circles』リリース以降のロリ・スカッコは、ダンス、映画、ビデオ・アートの音楽制作を行いつつ、サヴァス・アンド・サヴァラスのメンバーのスペインのアーティスト Eva Puyuelo Muns とのストームス(Storms)としても活動し、2010年にはアルバム『Lay Your Sea Coat Aside』をリリースした。そして2014年にはデジタル・リリースのソロ・シングル「Colores (Para Lole Pt.2)」を発表。加えて先にも書いたように〈PLANCHA〉から『Circles』がリイシューされた(ボーナス・トラックを追加収録)。

 新作『Desire Loop』は、14年ぶりのセカンド・ソロ・アルバムである。リリースは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点とするアンビエント・レーベル〈Mysteries Of The Deep〉から。〈Mysteries Of The Deep〉は、ニューヨーク・ブルックリンのエクスペリメンタル・バンド、バーズ・オブ・プリティのメンバー、グラント・アーロンによって運営されており、Certain Creatures、William Selman などの作品をリリースしている。
 本作も生楽器主体の『Circles』から一転し、シンセサイザーをメインに据えたアンビエント/トライバルな電子音楽に仕上がっていた。この変化には一聴して驚いてしまったが、しかし何度も聴き込んでいくと、どんどん耳に馴染んでくる。『Circles』と同じように波紋のような音がレイヤーされていく構造になっているからか、聴くほどに耳と身体に浸透するような音楽なのだ。音と音が泡のように生成しては変化し、持続やリズムをカタチづくっていく。あの見事なコンポジションは、形式を変えても健在であった。いや、深化というべきかもしれない。
 シンセ中心のサウンドのムードは、どこか現行のアンビエントやニューエイジ・シーンともリンクできる音楽性だが、浮遊感に満ちた和声感覚と音のレイヤー感覚などから、やはりロリ・スカッコという「作曲家」の個性が強く出ている電子音楽にも思えた。

 とはいえ、あざとい作為は感じられない。ごく自然にミニマルな音とミニマルな音が重なり、そこにコードやリズムが必然性を持って生まれていた。1曲め“Coloring Book”には、本作の特徴が良く出ている。やや硬めの電子音の持続から音が分岐するようにいくつかのループが生まれ、やがて糸がほぐれるように変化したかと思えば、それらはループを形成し、トライバルなビートが鳴り始めもする。持続と反復。その中断と非連続性の美しさ。まるで確かに水の波紋のように、一種の自然現象のように、電子音たちが踊っている。続く2曲め“Strange Cities”はニューエイジなムードのシーケンスから幕を開け、それらが電子音の層へと溶けるように変化を遂げていく。この最初の2曲に象徴的なのだが、ロリ・スカッコの作曲は音の反復を持続の中に「溶かす」。電子音という生成変化が可能な音響だからこそ実現する反復と非反復の融解とでもいうべきか。
 アルバム中、重要な曲は5曲め“Back To Electric”ではないか。トライバルなリズムが鳴らされていくのだが、もう1階層、別のリズム/ビートがレイヤーされており、そこに規則的な電子音と民族音楽がグリッチしたような旋律が鳴る。聴いていくと時空間が「ゆがんで」いくようなサイケデリック感覚を味わうことができた。続く6曲め“Tiger Song”は細やかなノイズと、どこか日本的な旋律に反復的なビートが重なる印象的な曲だ。7曲め“Red Then Blue”もノイズのレイヤーからミニマルな反復が生成し、ゆるやかに聴き手の知覚を変化させるような見事なトラックである。アルバム・ラストの8曲め“Other Flowers”では、それまでサイケデリックに歪む時空間が、次第に知覚の中で整えられていく。まさに「花」のような端正な電子音楽である。

 こうして14年ぶりとなるロリ・スカッコの新作アルバムを聴いてみると、やはりこの歳月は必要だったのだと痛感する。反復と非反復の往復。知覚の遠近法を変えてしまう音のゆがみ。それらを曲として成立させること。作曲と即興のあいだにある音と音の自然な生成の追求。そのための時間。何より音楽それじたいが聴き手に対しても長い時間をかけて浸透するような時を内包しているのだ。それは自分の音楽を作り続けた人だからこそ獲得することができる「時の流れ」の結晶ではないか。そんな感覚を『Desire Loop』の隅々から聴き取ることができた。

 かつてはアトランタで建築を学ぶ学生であった彼女だが現在はニューヨーク在住という。いまのアメリカの政治や社会状況には憤りを感じているというが、音楽にそのような感情は直接には反映されていないように思えた。しかし、彼女の音楽に耳を澄ましていると見えてくるのは、脆さや弱さ、そして美や強さに向かい合いつつ、極めて誠実に音楽=世界と向かい合っている音楽家/作曲家の姿だ。この酷い世界を音楽によって肯定すること。音と人の関係性を、その弱さを脆さと共に感じ取ること。そんな意志が音の粒子に舞っているのだ。

 本作は繰り返し聴取することで、どんどんその魅力が増してくるようなアルバムだ。ぜひとも「電子音楽家としてのロリ・スカッコ」が鳴らす音の波に耽溺してほしい。世界の事象が溶け合っていくような見事な作品である。


Yoshino Yoshikawa × ONJUICY - ele-king

 これはおもしろい。〈Maltine Records〉からのリリースもあるプロデューサーの Yoshino Yoshikawa と、グライム~ベース・ミュージックを軸にしつつジャンルレスに活躍の場を広げているMCの ONJUICY が11月7日にコラボレーション・シングルをドロップ。ゲーム音楽由来の電子音とグライムをポップにかけあわせた“RPG”は繰り返し聴きたくなる1曲です。要チェック。

RPG - Yoshino Yoshikawa with ONJUICY
〈Maltine Records〉や〈ZOOM LENS〉でのリリースや、FPM、東京女子流、南波志帆を始めとするアーティストへのRemixを提供する等、Ultrapopを提唱し根強いファンを持つプロデューサー「Yoshino Yoshikawa」と、気鋭UKベース・ミュージック・レーベル〈Butterz〉からのリリースや、最近ではアジアからイギリスをめぐるツアーを成功に収め、mixmagやHypebeastに取り上げられる等、多方面に活躍するMC 「ONJUICY」とのコラボレーション・シングル「RPG - Yoshino Yoshikawa with ONJUICY」が2018/11/7にリリース! 本楽曲はYoshino Yoshikawaが得意とするゲーム・ミュージックからも多く影響を受けたエレクトロニックな質感のサウンドと、Grimeの基礎であるBPM 140をベースにポップにアレンジされた表題曲“RPG”と、爽やかなシンセが印象的且つグルービーな仕上がりとなっている“Green Hill”の2曲が収録されている。また、ジャケットには、 ロンドンを拠点とし、エルメスやコンバース、ビームズ等でも作品を提供しているアートレーター 「Charlotte Mei」が担当している。

RPG - Yoshino Yoshikawa with ONJUICY
1. RPG
2. Green Hill
2018年11月7日 17:00 (日本標準時) 配信開始

価格 : 3 USD
Bandcamp : https://yosshibox.bandcamp.com/album/rpg-ep
Apple Music : https://itunes.apple.com/jp/artist/383575881
Spotify : https://open.spotify.com/artist/21T30ALYp9IYZlvhnGLeos?si=vpWj0kAyR_qIU5kmrZYJQg

Yoshino Yoshikaw
東京在住のプロデューサー。Ultrapopを提唱し、ダンス・ミュージックからポピュラー・ミュージック、アニメやゲーム・ミュージックまで幅広い領域をカバーした楽曲を、ソフトウエアと共にシンセ、ガジェットを駆使しフラットな電子音楽的質感に落とし込む作風は国内外に根強いファンを持ち、これまで東京の〈Maltine Records〉やLAを拠点とする〈ZOOM LENS〉といったレーベルから複数のEP、LPをデジタル・リリース。これまでに、FPM、東京女子流、南波志帆などのアーティストにRemixを提供する一方で、音楽ゲーム「maimai」シリーズや、アニメ『きんいろモザイク』のキャラクターソング提供なども行った。2017年には初となる海外ライブを韓国Cakeshopで行い、盛況のうちに終了。英字新聞The Japan Timesや、OWSLA主催のメディア「NEST HQ」にも記事掲載あり。来年には初となるフィジカル・リリースも計画中。ライブ出演多数。

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ONJUICY
Grime・Bass・Hip Hopを中心としつつも、ジャンルレスに活動するMC。たまたま遊びに行っていたGrimeのパーティをきっかけに、2015年からMCとしてのキャリアをスタート。最近では、〈TREKKIE TRAX〉からCarpainterに続き、Maruとの楽曲に加え、UKを拠点とする気鋭ベース・ミュージック・レーベル〈Butterz〉からRoyal - Tとのコラボレーション楽曲を発表。上海/香港/ロンドンを拠点とするパーティ・コレクティブYETIOUTからリリースされた「Silk Road Sounds」に参加し、Hypebeastやmixmagに取り上げられる等、世界からも注目を集める。また、新木場ageHaにて開催されている「AGEHARD」でのアリーナMCや、ULTRAを始めとするフェスへの出演、イベント/ラジオ番組でのMC、イベントのレジデント等、その活動は多方面に渡る。Grime MCとしては、BOILER ROOMによる「Skepta Album Launch」や「JP Grime All-Stars」、「Full Circle: Grime In Japan」への出演から名が知られる様になり、英国雑誌mixmagへ、インタビューの掲載もされた。2018年にはロンドン、バンコク、中国へのツアーを実施。国内外多数のアーティストとのコラボレーション楽曲やアルバム・リリースも控えている。持ち前のフットワークを活かした、らしさ溢れるMCはジャンルを問わず様々なビートを乗りこなし、フロアを最高の空間へと導いてくれる。

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Bliss Signal - ele-king

 今、音楽の先端はどこにあるのか。むろん、その問いには明確な答えはない。さまざまな聴き手の、それぞれの聴き方よって、「先端」の意味合いは異なるものだろうし、そもそも音楽じたいも現代では多様化を極めており、ひとつふたつの価値観ですべてを語ることができる時代でもない。
 だが、少なくともこれは「新しいのでは」と思えるという音楽形式がごく稀に同時代に存在する(こともある)。たしかに、その場合の「新しさ」とは、「歴史の終わり」以降特有の形式の組み合わせかもしれないし、音響の新奇性かもしれないが、ともあれ今というこの情報過多の時代において音楽を聴くことで得られる「新鮮な感覚」を多少なりとも感じられるのであれば、それは僥倖であり、得難い経験ではないかとも思う。
 聴覚と感覚が拡張したかのようなエクスペリエンスとの遭遇。例えば90年代から00年代初頭であれば、池田亮司、アルヴァ・ノト、フェネス、ピタなどの電子音響のグリッチ・ノイズから得た聴覚拡張感覚を思い出してしまうし、10年代であれば、アンディ・ストットやデムダイク・ステアによるインダストリアル/テクノのダークさに浸ってしまうかもしれないし、近年では今や大人気のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの新作や音楽マニア騒然のイヴ・トゥモアの新作が、われわれの未知の知覚を刺激してくれもした。
 ここで問い直そう。ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーらの新譜においては何が「新しい」のか。私見を一言で言わせて頂ければ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーもイヴ・トゥモアもノイズと音楽の融解と融合がそれぞれの方法で実践されている点が「新しい」のだ。ノイズによって音楽(の遺伝子?)を蘇生し、再生成すること。彼らのノイズは、旧来的な破壊のノイズではなく、変貌の音楽/ノイズなのである。そう、今現在、音楽とノイズは相反する存在ではない。
 その意味で、2018年においてインダストリアル/テクノとメタルが交錯することも必然であった。むろん過去にも似たような音楽はあったが、重要なことはインダストリアル/テクノ、ダブステップ、グライムの継承・発展として、「インダストリアル・ブラック・メタル」が浮上・表出してきたという点が重要なのである。ジャンルとシーンがある必然性をもって結びつくこと。それはとてもスリリングだ。

 ここでアイルランドのブラック・メタル・バンド、アルター・オブ・プレイグスのリーダーのジェイムス・ケリーと、UKインスト・グライムのプロデューサーのマムダンスによるインダストリアル・ブラック・メタル・ユニットのブリス・シグナルのファースト・アルバム『Bliss Signal』を召喚してみたい。彼らのサウンドもまた音楽の「先端」を象徴する1作ではなかろうか。いや、そもそも「Drift EP」をリリースした時点で凄かったのが、本アルバムはその「衝撃」を律儀に継承している作品といえよう。
 アルバムは、闇夜の光のような硬質なアンビエント・ドローンである“Slow Scan”、“N16 Drift”、“Endless Rush”、“Ambi Drift”と激烈なインダストリアル・メタル・サウンドの“Bliss Signal”、“Surge”、“Floodlight”、“Tranq”が交互に収録される構成になっており、非常にドラマチックな作品となっている。ちなみにリリースはエクストリーム・メタル専門レーベルの〈Profound Lore Records〉というのも納得である。なぜなら同レーベルはプルリエントの『Rainbow Mirror』をリリースしているのだから。
 メタル・トラックもアンビエント・トラックもともに、ジェイムス・ケリーの WIFE を思わせるエレクトロニックなトラックに、マムダンスの緻密かつ大胆な電子音がそこかしこに展開されるなど、ブラック・メタリズムとウェイトレスなポスト・グライムが融合した音楽/音響に仕上がっており、なかなか新鮮である。もしもこのアルバムが2016年に世に出ていたらポスト・エンプティ・セットとして電子音楽の歴史はまた変わっていたかもしれないが、むろん「今」の時代にしか出てこない音でもあることに違いはない。

 ロゴスとの『FFS/BMT』などでも聴くことができた脱臼と律動を同時に感じさせる無重力なビートを組み上げたマムダンスが、すべての音が高速に融解するような激しいメタル・ビートの連打へと行き着いたことは実に象徴的な事態に思えるのだ。これは00年代後半にクリック&グリッチな電子音響が、ドローン/アンビエントへと溶け合うように変化した状況に似ている。そう、複雑なビートはいずれ融解する。ただその「融解のさま」が00年代のように「静謐さ」の方には向かわず、激しくも激烈なノイズの方に向かいつつある点が異なっている。エモ/エクストリームの時代なのである。
 いずれにせよブリス・シグナルのサウンドを聴くことは、この種のエレクトロニックな音楽の現在地点を考える上で重要に違いない。彼らの横に Goth-Trad、Diesuck、Masayuki Imanishi による Eartaker のファースト・アルバム『Harmonics』などを並べてみても良いだろうし、DJ NOBU がキュレーションした ENDON の新作アルバム『BOY MEETS GIRL』と同時に聴いてみても良いだろう。
 今、この時代、電子音楽たちは、メタリックなノイズを希求し、ハードコアな冷たい/激しい衝動を欲しているのではないか。繰り返そう。ノイズと音楽は相反するものではなくなった。そうではなく、音楽との境界線を融解するために、ただそれらは「ある」のだ。それはこの不透明な世界に蔓延する傲慢な曖昧さを許さない激烈な闘争宣言でもあり、咆哮でもある。「今」、この現在を貫く音=強靭・強烈なノイズ/音楽の蠢きここにある。

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