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Bliss Signal

AmbientMetalNoise

Bliss Signal

Bliss Signal

Profound Lore

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デンシノオト   Oct 23,2018 UP

 今、音楽の先端はどこにあるのか。むろん、その問いには明確な答えはない。さまざまな聴き手の、それぞれの聴き方よって、「先端」の意味合いは異なるものだろうし、そもそも音楽じたいも現代では多様化を極めており、ひとつふたつの価値観ですべてを語ることができる時代でもない。
 だが、少なくともこれは「新しいのでは」と思えるという音楽形式がごく稀に同時代に存在する(こともある)。たしかに、その場合の「新しさ」とは、「歴史の終わり」以降特有の形式の組み合わせかもしれないし、音響の新奇性かもしれないが、ともあれ今というこの情報過多の時代において音楽を聴くことで得られる「新鮮な感覚」を多少なりとも感じられるのであれば、それは僥倖であり、得難い経験ではないかとも思う。
 聴覚と感覚が拡張したかのようなエクスペリエンスとの遭遇。例えば90年代から00年代初頭であれば、池田亮司、アルヴァ・ノト、フェネス、ピタなどの電子音響のグリッチ・ノイズから得た聴覚拡張感覚を思い出してしまうし、10年代であれば、アンディ・ストットやデムダイク・ステアによるインダストリアル/テクノのダークさに浸ってしまうかもしれないし、近年では今や大人気のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの新作や音楽マニア騒然のイヴ・トゥモアの新作が、われわれの未知の知覚を刺激してくれもした。
 ここで問い直そう。ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーらの新譜においては何が「新しい」のか。私見を一言で言わせて頂ければ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーもイヴ・トゥモアもノイズと音楽の融解と融合がそれぞれの方法で実践されている点が「新しい」のだ。ノイズによって音楽(の遺伝子?)を蘇生し、再生成すること。彼らのノイズは、旧来的な破壊のノイズではなく、変貌の音楽/ノイズなのである。そう、今現在、音楽とノイズは相反する存在ではない。
 その意味で、2018年においてインダストリアル/テクノとメタルが交錯することも必然であった。むろん過去にも似たような音楽はあったが、重要なことはインダストリアル/テクノ、ダブステップ、グライムの継承・発展として、「インダストリアル・ブラック・メタル」が浮上・表出してきたという点が重要なのである。ジャンルとシーンがある必然性をもって結びつくこと。それはとてもスリリングだ。

 ここでアイルランドのブラック・メタル・バンド、アルター・オブ・プレイグスのリーダーのジェイムス・ケリーと、UKインスト・グライムのプロデューサーのマムダンスによるインダストリアル・ブラック・メタル・ユニットのブリス・シグナルのファースト・アルバム『Bliss Signal』を召喚してみたい。彼らのサウンドもまた音楽の「先端」を象徴する1作ではなかろうか。いや、そもそも「Drift EP」をリリースした時点で凄かったのが、本アルバムはその「衝撃」を律儀に継承している作品といえよう。
 アルバムは、闇夜の光のような硬質なアンビエント・ドローンである“Slow Scan”、“N16 Drift”、“Endless Rush”、“Ambi Drift”と激烈なインダストリアル・メタル・サウンドの“Bliss Signal”、“Surge”、“Floodlight”、“Tranq”が交互に収録される構成になっており、非常にドラマチックな作品となっている。ちなみにリリースはエクストリーム・メタル専門レーベルの〈Profound Lore Records〉というのも納得である。なぜなら同レーベルはプルリエントの『Rainbow Mirror』をリリースしているのだから。
 メタル・トラックもアンビエント・トラックもともに、ジェイムス・ケリーの WIFE を思わせるエレクトロニックなトラックに、マムダンスの緻密かつ大胆な電子音がそこかしこに展開されるなど、ブラック・メタリズムとウェイトレスなポスト・グライムが融合した音楽/音響に仕上がっており、なかなか新鮮である。もしもこのアルバムが2016年に世に出ていたらポスト・エンプティ・セットとして電子音楽の歴史はまた変わっていたかもしれないが、むろん「今」の時代にしか出てこない音でもあることに違いはない。

 ロゴスとの『FFS/BMT』などでも聴くことができた脱臼と律動を同時に感じさせる無重力なビートを組み上げたマムダンスが、すべての音が高速に融解するような激しいメタル・ビートの連打へと行き着いたことは実に象徴的な事態に思えるのだ。これは00年代後半にクリック&グリッチな電子音響が、ドローン/アンビエントへと溶け合うように変化した状況に似ている。そう、複雑なビートはいずれ融解する。ただその「融解のさま」が00年代のように「静謐さ」の方には向かわず、激しくも激烈なノイズの方に向かいつつある点が異なっている。エモ/エクストリームの時代なのである。
 いずれにせよブリス・シグナルのサウンドを聴くことは、この種のエレクトロニックな音楽の現在地点を考える上で重要に違いない。彼らの横に Goth-Trad、Diesuck、Masayuki Imanishi による Eartaker のファースト・アルバム『Harmonics』などを並べてみても良いだろうし、DJ NOBU がキュレーションした ENDON の新作アルバム『BOY MEETS GIRL』と同時に聴いてみても良いだろう。
 今、この時代、電子音楽たちは、メタリックなノイズを希求し、ハードコアな冷たい/激しい衝動を欲しているのではないか。繰り返そう。ノイズと音楽は相反するものではなくなった。そうではなく、音楽との境界線を融解するために、ただそれらは「ある」のだ。それはこの不透明な世界に蔓延する傲慢な曖昧さを許さない激烈な闘争宣言でもあり、咆哮でもある。「今」、この現在を貫く音=強靭・強烈なノイズ/音楽の蠢きここにある。

デンシノオト