ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns 大友良英「MUSICS あるいは複数の音楽たち」を振り返って
  2. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  3. Milledenials - Youth, Romance, Shame | ミレディナイアルズ
  4. Loraine James ──ロレイン・ジェイムズがニュー・アルバムをリリース
  5. Dolphin Hyperspace ──凄腕エレクトリック・ジャズの新星、ドルフィン・ハイパースペース
  6. KMRU - Kin | カマル
  7. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  8. 坂本慎太郎 - ヤッホー
  9. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  10. Deadletter - Existence is Bliss | デッドレター
  11. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
  12. ele-king Powerd by DOMMUNE | エレキング
  13. HELP(2) ──戦地の子どもたちを支援するチャリティ・アルバムにそうそうたる音楽家たちが集結
  14. ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯
  15. Jill Scott - To Whom This May Concern | ジル・スコット
  16. Free Soul × P-VINE ──コンピレーション・シリーズ「Free Soul」とPヴァイン創立50周年を記念したコラボレーション企画、全50種の新作Tシャツ
  17. Flying Lotus ──フライング・ロータスが新作EPをリリース
  18. Cardinals - Masquerade | カーディナルズ
  19. Laraaji × Oneohtrix Point Never ──ララージがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの来日公演に出演
  20. R.I.P. Steve Cropper 追悼:スティーヴ・クロッパー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Thomas Fehlmann- Gute Luft

Thomas Fehlmann

Thomas Fehlmann

Gute Luft

Kompakt

Amazon iTunes

三田 格   May 11,2010 UP

 ドイツのニューウェイヴ(=ノイエ・ドイッチェ・ヴィレ)の時期を知る者にとって、モーリツ・フォン・オズワルドやトーマス・フェルマンがブレイクビーツやテクノに関心を示すだけでなく、ドイツではそれらの牽引者でもあったことは、けっこうな興奮を引き起こす事実だった。「かつて最先端にいた人たちがまたしても最先端にいる」という発見は懐かしさと新しさを同時に体験できる貴重なモーメントであり、レイヴ・カルチャーというものが単なるバカ踊りではないという保障を得たようなものでもあった。マラソン、レディメイド、ペリー&ローダン......と、どれだけ彼らが名義を使い捨てようが僕たちは振り落とされなかった。ましてやベーシック・チャンネルだった。

 フィッシャーマンズ・フレンドのデビュー・アルバムは「トイトニック・ビーツ」という曲ではじまる。シカゴ・ハウスでも、デトロイト・テクノでもなく、彼らは1989年にはそれらを(日本式の読み方では)「チュートン人」のビートと呼んでいた。チュートン人とは古代ローマに滅ぼされたゲルマン系の民族名で、日本人が自分たちのことを大和民族と呼び習わす感覚に近いだろうか。史上もっとも攻撃的な民族とされたチュートン人にジャーマン・テクノの先駆者たちはアイデンティファイしながらレイヴ・カルチャーに突入していった......らしい。勝手な推測になるけれど、ジャーマン・ロックが「クラウトロック」ならば、ジャーマン・テクノは「トイトニック・ビート」だという差別化の意識が働いたのかもしれない。つまり、大きな壁は「ロック」に向けられていたということだといえなくもない。

 マーキュリー傘下に〈トイトニック・ビーツ〉を設立したフェルマンはアレックス・パタースンとのリレイションシップを得て、ウエストバムや元DAFのガビ・デルガドーをフューチャー・パーフェクトなどの名義で〈EG〉にライセンスし、自身はベルギーの〈R&S〉とソロ契約を結ぶ。デトロイト・テクノを洗練させ、さらにはアシュ・ラ・テンペルやクラスターなど、70年代のジャーマン・プログレッシヴ・ロックとも連続性を持たせた表現に移行したのはこの時期からである(ジ・オーブのメンバーとしても活動していることはとくに指摘する必要もないだろう)。

 レディメイド名義から数えて通算7作目となるソロ・アルバムは『24Hベルリン』と題されたTV番組のサウンドトラックにあたるらしい。ベルリンに足を踏み入れたことがない僕は、ここで繰り広げられている音楽がベルリンらしいサウンドなのかどうなのかはまったく見当がつかない。『グッド・フリッジ』(98)のように壮大なヴィジョンが展開されるわけではなく、アンダーグラウンド・ヒップホップへの接近を試みた『ロウフロウ』(04)のようなヒネりもなく、たしかに地に足がついているような印象は強い。これがベルリンの日常だといわれれば、あー、そうなんですねーとしかいいようがない。もしくはパブリック・イメージ通りのフェルマン・サウンドが飽きずに展開されているといったほうがわかりやすいだろうか。最初から最後までイヤなところがひとつもなく、それこそ空気のように流れるだけ。シューシューとどこかに溶けていくようなアトモスフェリック・ダブ・テクノ。これは何も変わらない良さだと言い切りたい。

 最近のコンパクトはアナログ盤を買うと、必ずCDもおまけで付いているようです。

三田 格