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曽我部恵一BAND

曽我部恵一BAND

トーキョー・コーリング

ROSE RECORDS

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竹内正太郎   Dec 26,2012 UP

 太陽が眠り、夜のとばりが静かに降りてくる。オフィスを出た人びとが、満員電車に揺られて家路についていく。秘密を抱えた人びとが路上に紛れ込む。街にいる人たちは、昼間のそれとはいつの間にか入れ替わったように見える。どこからか温もりに溢れた音楽が流れてくる......。ギター、シンセサイザー、そしてドラマーがハットを揺らす規則正しい音がする。救難信号のようなネオンの明滅音。ベースの重い出音が空間を広げていく。電子ストリングスが鳴くように、擦り切れながら流れていく。かつてのザ・フレーミング・リップスのような、あるいは現在のM83のような、曽我部恵一BANDらしからぬ雄大なサウンド・レイヤー。そして、男の語りがはじまる。

 「ねぇあんた、自分じゃないだれかの今日は生きられないよ絶対」"そして最後にはいつもの夜が来て"

 「東京/トーキョー」の問題(「東京」という記号の持つ特殊性が剥奪され、「トーキョー」に地方の断片が過密に集積されていくようなフィーリング)については、北陸からの上京組である橋元優歩が本誌年末号『vol.8』のコラム「音楽の論点」に寄せて書いているが、本作のタイトルに「トーキョー」と表記した男は、16年前に別のバンドで『東京』というアルバムをレコーディングしている。そこに何かしらの含意を読み込んでも面白そうだが、ここでのそれは、東京というポップ・カルチャーにおけるある種のブランド感とは遠く離れた、極めて個人的なレヴェルで鳴っている。あるいはとても非現実的に、ロマンティックに。"トーキョー・コーリング"は、上京サヴァイヴ組である曽我部が肩の力を抜いて歌う、6年後のラヴ・シティ、その姿である。

 "そして最後にはいつもの夜が来て"で予感させるシンセ・ポップの手触りは、是々非々を強く求めるようにしてアルバム全編に渡ってキープされる。もはや私たちの知っている曽我部恵一BANDではない。社会で暮らす多様な人びとを厳しいリアリズムで描いた前作『曽我部恵一BAND』と違って、『トーキョー・コーリング』は電子機材を操作して、華麗なポップスを展開している。リラックスしたAORのグルーヴ、エレクトロニックなファンク、ドリーミーなシンセ・サウンドの輝きとともに日付が変わる時間帯をゆっくりと通過していく。シャウトは控えめで、感情は抑制されている。例えばメロウでポップな"LOVE STREAMS"などは、チルウェイヴの甘い夢と遠く共振するように甘く鳴っている。

 魅力的なファンクの"ルビィ"、ドラムマシンと電子音がループする"ワルツ"がある一方で、"雪"のような彼らしいバラードも用意されている。タイトル曲の"トーキョー・コーリング"は、散り散りになったかつての同胞たちに近況を尋ねる。真っ直ぐに受け取るのなら、『トーキョー・コーリング』は、<We>になれなかったたくさんの<I>を包み込む、保温性の高いウインター・ポップのアルバムだ。日の沈んだ街を歩きながらiPhoneでこの音楽を聴いていると、大切な人に会いたくなってくる。ずっとこんな気持ちだけが続けばいいのにな、と思う。
 
 だが、ドリーム・ポップめいたクロージング"どうしたの?"が、夢の終わりを甘く淡々と伝えているのを聴くと、これは決して目を閉じてしまった音楽ではないのだと思える。発売日の設定にも、なにかクリスマス意識以上の含意があるのではと、つい想像してしまう。悪い季節がやってくるのかもしれない。怒っていても叫びたくはない、という人だっているだろう。『トーキョー・コーリング』は、政治的に言えばそのような位相で鳴っている。音楽は、<I>をどこまで守れるのだろうか。それはいまこそ切実な問いだ。

竹内正太郎