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U.S. Girls

DiscoExperimentalIndie RockNoise

U.S. Girls

Half Free

4AD

Tower HMV Amazon

久保正樹   Nov 02,2015 UP

 突き抜けてぶっ壊れたローファイ・ストレンジ・ポップをマイク片手にひとり繰り出す「アメリカの女の子たち」ことメーガン・レミー。そんな彼女が、いよいよまさかの〈4AD〉から新作をリリースした。事件というよりも事故ですよ、これは。

 最初に彼女の音楽を聴いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、サイケでアシッドフォーキーな演奏に溶け入るように、エコーにまみれたフリーフォームな歌声を飛び回らせて美しいメロディをつづる宅録シンガーソングライター、アザリア・スネイル(90年代のUSローファイ・シーンを語るには絶対ハズせませんよね?)だったりした。もしくは、00年代でいうならブルックリンのフリークフォーク・デュオ、ココロジーとかラウ・ナウやイスラヤを輩出したフィンランドのアヴァン・ポップ・レーベル〈フォナル〉人脈だったりしたのだが、ここでは、グライムス、ジュリア・ホルター、ジュリアナ・バーウィック、グルーパーあたりの名前を出したほうが話をつかみやすいだろう。

 2008年にUKの変テコ音楽レーベル〈チョコレート・モンク〉より最初のCDRをリリース。その後、こちらも負けず劣らず変テコなレーベル〈シルトブリーズ〉から作品を出していた頃は、まだざらついたギターノイズ〜ジャンク〜ドローンの成分を多分に含み、暗い夜気に包まれた暗黒志向も垣間見えた。しかし、3枚めとなる『USガールズ・オン・クラアク』(2011)あたりから、挙動不審ともいえる彼女の音楽性が、突飛に突飛を重ねながらもより意識的にポップの意匠をまといはじめる(いや、アングラ志向を脱ぎ捨て、本来持て余していたポップ志向がむき出しになった、というほうが正しいのかも)。そして、続く〈ファットキャット〉からリリースされた『ジェム』(2012)ではついにすべての針がカキーンとポップ・サイドに振り切れ、ときにドギツくときにグラマラス(スペース・サイケ・プログレ・バンド=ダナヴァのカヴァー曲“ジャック”の歌い方なんてもろマーク・ボランですね)に立ち振るまう、バンド仕立てのUSガールズが完成する。

 そして、本作『ハーフ・フリー』である。「半分自由」というが「限りなく自由」である。いや、これはことメーガンの作り出す音楽に関してであって、彼女が生まれ育った「自由の国アメリカ」における自由なんて幻想は、もはや誰の目から見ても崩壊している。なるほど。だからこそこのタイトルなのだろうか……?

 閑話休題。アルバムの話に戻そう。本作でも、くぐもったシンセやざらついたリズムを軸とするヴィンテージ感に覆われたトラックは相変わらずで、あらゆる種類の音楽が飛び出そうとも、そこには懐かしくてキャッチーな感触がある──これはUSガールズの強力な武器である。しかも、恐れを知らないポップ志向にさらに磨きがかかり、本作ではこれまで以上にダビーでディスコティックなトラックに加え、ソウルフルな歌声もそこかしこで聴くことができる(といってもコブシを効かせた歌声は甲高く、どこかで何かがハズれている……いつになく無邪気だ)。

 戦争未亡人の心の内を描いたというアンチ・アメリカ・ソング“ダムン・ザット・ヴァレー”では四方八方に音とビートがこだまするダブ・ポップをかましながらアメリカを抗議し(メーガンがヒラリー・クリントンよろしく、パンツスーツにメッシュの入った髪をキメて、ゴールデン・マイク片手に歌い上げるPVも最高〜!)、パーカッシヴなリズムにオーケストレーションを織りまぜたエレガントな上ものが乗るハウシーなバラード“ウインドウ・シェイズ”ではポップスターのごとくしっとりとした歌を聴かせる。そして、“ニュー・エイジ・スリラー”“ネイヴィー&クリーム”“ウーマンズ・ワーク”では、トレードマークともいえるコラージュ感覚にすぐれたローファイ・シンセ・ポップで漂い遊んでみせ、不意打ちの“セッド・ナイフ”では前作ゆずりのグラマラスなギター・ロックでどどどっと畳み掛ける。

 それは、どことなく初期のケバケバしたブライアン・イーノが歌謡ポップスに出会ったような、異形の耳ざわりを残す。そして、まぶたの裏にはダンスホールに浮かぶミラーボールの残像がチカチカと焼きついて回り続ける。くるくるくるくる。ああ、この壊れた懐かしさはなんだろう。60年代ガールズポップ〜70年代ディスコ。80年代シンセポップ〜90年代インディ・ロック。さらには00年代のノイズ/ドローン〜バレアリック/シンセウェイヴなどなど、メーガンが繰り出すさまざまな音楽のなかに記憶されている良きアメリカの幻影がどこからか漏れ聞こえるているのだろうか? ともあれ、彼女はアメリカを憎む。そして、同時にアメリカを愛している、のかどうかは知らない……。

 誰もがよく知るスタジアム・ロッカー、ブルース・スプリングスティーンは、80年代の大ヒット曲“ボーン・イン・ザ・USA”でベトナム帰還兵によるアメリカ批判を歌にし、強く拳を振り上げながら熱唱した。それは規模の大きさこそケタ違いだけれど、いままさにメーガンが“ダムン・ザット・ヴァレー”を熱唱する状況とまったく同じではないか。
 アメリカ生まれのUSガールズ(現在はカナダ在住)。リアルに「ボーン・イン・ザ・USA」であるそんな彼女、どうやらやっぱりボスの大ファンだとか。

久保正樹