Home > Reviews > Album Reviews > Klara Lewis- Live In Montreal 2018
2022年1月。エクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Editions Mego〉から本年最初となるアルバムがリリースされた。クララ・ルイスのライヴ録音アルバム『Live in Montreal 2018』である。その名のとおり録音場所はカナダのモントリオール、録音時期は2018年。
4年前の録音か、などと思うなかれ。ここで繰り広げられているエクスペリメンタル・サウンドには、2022年のいまだからこそ刺さるゴシックのムードに満ちているのだ。この時代に〈Editions Mego〉がリリースする意味は十分にある音源といえよう。
スウェーデンのサウンド・アーティストであるクララ・ルイスは、ワイアー/ドームのグラハム・ルイスの娘でもある。彼女は1993年生まれで、これまでソロ作品『Ett』(2014)、『Too』(2016)、『Ingrid』(2020)の三作、デジタル・リリースのライヴ録音『Ingrid (Live at Fylkingen)』を一作、サイモン・フィッシャー・ターナーとのコラボレーションアルバム『Care』(2018)をリリースしている。
加えて昨年2021年にはペダー・マネルフェルトとの共作EP『Klmnopq - EP』を〈The Trilogy Tapes〉から発表した。ちなみにクララ・ルイスはペダー・マネルフェルトのレーベルから2014年に『Msuic EP』をリリースしてもいる。
決して多くはないが、充実したリリース作品ばかりだ。なかでも2016年にリリースした『Too』は10年代中期のエクスペリメンタル・ミュージックを代表するアルバムである。暗く霞んだ質感の音色のなか、さまざまなサウンドが細やかにコラージュされていくサウンドスケープは絶品のひとこと。クララ・リスは、この『Too』で新世代サウンド・アーティストとしての存在感をマニアに見事に突きつけた。
さて、『Too』が世に出た2016年から2年後、つまりは2018年のライヴ音源が本作『Live in Montreal 2018』である。その2年でクララ・ルイスのサウンドがどう変化したのか。そのさまが『Live in Montreal 2018』には実に鮮明に記録されている。よりダークになっていったとでもいうべきか。逆に考えればダーク/ゴシック的音響空間は、『Too』に既に横溢していたともいえる。これが『Too』をもって2010年代の重要エクスペリメンタル・ミュージックの重要作といえる理由でもある。
では『Live in Montreal 2018』と『Too』の違いは何か。『Live in Montreal 2018』はライヴ音源であってオリジナル・アルバムではない。いわば「場」でサウンドが生成変化を繰り返すような音響である。アーティストの意志によって音が配置され構成され定着されたアルバムとはそこが違う。そのことを差し引いても、まずいえることは、『Too』と比べるとコラージュされる音と音がより細やかになり、かつ大胆に接続されているという点である。
アルバムは長尺1曲だが曲自体は三つのブロックに分かれている。不穏・不安をベースにしつつ、全体を包み込む空気やムードが生成されていく。讃美歌のような音楽の断片、霞んだインダストリアルなリズム、ゴーストのようなノイズやドローンなどが、ゴシックのムードを損なわずに、ループされ、コラージュされる。
幽霊のように実体を欠いた音が音響全体に揺らめき、世界への不安が音響の美しさへと結晶している。彼女はどこか不定形な「不気味さ」に取り憑かれているようにすら思えるほどに。
私はクララ・ルイスが2018年に発した不気味で美しいサウンドのコラージュを、まるで霧の中に立ちすくみ、微かな光に目を凝らすように、手を差し伸べるかのように、耳をそばだてて繰り返し聴き込むだろう。闇夜の迷い子のように。それほどの聴取体験が『Live in Montreal 2018』にはある。そう私は信じている。