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Milena Casado

Jazz

Milena Casado

Reflection Of Another Self

Candid

土佐有明 Jul 23,2025 UP

 これが初リーダー作とは俄かには信じ難い。スペイン出身でバークリー音楽大学で学んだトランペット/フリューゲルホーン奏者=ミレーナ・カサドの『リフレクション・オブ・アナザー・セルフ』は、そらおそろしいほどの完成度を誇る野心に満ちた傑作である。まず注目したいのは豪華な参加メンバー。ベーシスト/ヴォーカリストのミシェル・ンデゲオチェロ、ハープ奏者のブランディー・ヤンガー、フルート奏者のニコール・ミッチェル、ドラマーのテリ・リン・キャリントンらが多方面で多大なる貢献を果たしている。

 これだけの傑物が揃えばいいものができるのは当たり前じゃないか、なんて声が聞こえてきそうだが、誰にどの曲でどんなプレイをするかという采配をふるったのは彼女だろう。なんせ一騎当千のプレイヤーばかりである。下手をすればミレーナの影が薄くなってしまう可能性だってあったはずだ。だが、むしろ彼女が堂々と主役を張っているのだ。参りましたという他ない。

 スペイン人の母とドミニカ共和国出身の父の間に生まれ、現在はNYを拠点にする彼女の音楽は、有体に言えばコスモポリタンなものと言えるだろう。だが、地理的にはもちろん、本作は時代も超越しているように思う。筆者が彼女の演奏から連想したのは、夭逝したサックス/フルート奏者エリック・ドルフィーのサイドを張ったブッカー・リトルやフレディ・ハバード、ファンキー・ジャズの立役者であるリー・モーガン、ネオ・ソウルとコンテンポラリー・ジャズを架橋したロイ・ハーグローヴなどである。
 また、全体のサウンドもビバップからフリー、アシッド・ジャズ、ネオ・ソウル、ブラジル音楽、ラテン、ヒップホップまで、新旧や国籍を問わず様々な要素がモザイク状に織り込まれている。いや、正確には、ビバップ以降のジャズやその隣接ジャンルを巧みに分析/統合し、自家薬籠中のものとしているのだ。学究肌とまでは言わないが、研究熱心な人なのだろう。その分析力は的確であり、多ジャンルを統合する手さばきは実に慣れたもの。DJがジャズからヒップホップまでを繫ぐように、多種多様なタイプの曲が継ぎ目なく奏される。   

 “O.C.T(Oda to the crazy times)”はラッパーのKokayiをフィーチャーしたヒップホップ・ソウル。“Uncondional Love”はイージー・リスニング色の濃いスムース・ジャズ、“IntrospectionⅡ-Preguntas”はウッドベースとトランペットのみの演奏で、マイルス・デイヴィスを想わせるミュートの効いたソロが耳を惹く。当然のようにスクラッチも挿入されるし、メロウなうたものも複数ある。しかも、1曲だけ収められているカヴァーが、新時代の変拍子ファンクを標榜したM-BASE派出身のジェリ・アレンの曲だというのが、その音楽的な射程の長さを物語っているではないか。

 現代のジャズ界はカリスマ的巨匠不在の時代と言われる。むろん、複数のシンガーをフィーチャーしたアルバム『ブラック・レディオ』でブレイクしたロバート・グラスパーや、スピリチュアル・ジャズを今様にアップグレードしたカマシ・ワシントン、エレクトロニック・ミュージックとジャズを混合したフライング・ロータスなどが登場してからは、一概にそうとも言いきれなくはなっている。だが、彼らも過去の豊穣な音楽遺産を分析/統合する能力に長けていたからこそ、シーンの最前線に躍り出た側面があるのは否めない。そして、そうした潮流の筆頭にいるのが、ミレーナなのは間違いないと思う。

土佐有明