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インサイド・ルーウィン・デイヴィス名もなき男の歌

インサイド・ルーウィン・デイヴィス
名もなき男の歌

監督 / ジョエル&イーサン・コーエン
出演 / オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン 他
配給 / ロングライド
2013年 アメリカ 104分
TOHOシネマズシャンテ 他にて、全国公開中。

公式サイト http://www.insidellewyndavis.jp/

木津毅   Jun 03,2014 UP

 この映画を観てから先日のボブ・ディランの来日公演に行ったものだから、ステージ上の「フォークの神様」(……それとて彼のいち部でしかないわけだが、)の余裕綽々ぶりには思わず笑ってしまった。抑制の効いたバンドの演奏は疑いようもなく素晴らしく、その上でディランは声を張り上げることもなくつぶやくように、時折笑みを見せながら歌っていた。そうだ、半世紀前からフォーク・ソングを歌っていたこの男の以前にも同じようにアメリカに眠る伝承を歌っていた連中はいて、ディランは彼らの遺産を存分に吸収した結果そこにいるのだ。自分が負っているものなんてもちろんわかってるさ、そんな笑い。この映画、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』はディランが負っている物語のひとつ……歴史の隙間に埋もれていった連中の姿を映し出している。
 NYはグリニッジ・ヴィレッジの売れないフォーク・シンガーであるルーウィン・デイヴィスのある冴えない1週間を本作は綴るのだが、彼のモデルはディラン登場直前にNYで活動したデイヴ・ヴァン・ロンクであるという。宣伝では「ディランになり損ねた男」だとも紹介されているが、要するに1960年代初め頃のNYのフォーク・リヴァイヴァル・シーンにいたひとりであり、いま歴史を振り返ったときにピート・シーガーやアーロ・ガスリーらよりもほとんど見過ごされがちなミュージシャンである。映画が描く「1週間」という短さは、彼らのほんのひとときの人気を示しているようで何とも切ない。

 が、冷静に考えてみれば「ディランになり損ねた男」なんてディラン以外全員なわけで、これは特別な話でも何でもない。そうして見れば、ミュージシャン志望のダメな青年のグダグダな日々を描いている「だけ」の普通の青春映画と言ってよく、そしてその普通さこそがいい。カネのない青年が寝泊まりする場所がないから仕方なく元カノの家に行ったらぞんざいに扱われ、しかも「妊娠したから」と金を要求されるなんて、いまでも身近で聞きそうな話ではないか……。たしかに60年代の冬のNYという舞台は絵になっている、が、時代も都市も必ずしもそこでなくていい。ただひとつだけ、ダメな青春の傍らには音楽があってほしい、そう思えてくる映画だ。彼らにとってそれがたまたまフォークだったのだ。
 コーエン兄弟の映画はどうにも技巧が技巧として目立ちすぎるのもが多くちょっと入りづらい思いをしてきたが、『ノーカントリー』を経て『トゥルー・グリット』から少し何かが変わったように感じる。制作総指揮にスピルバーグがいたことも関係したのかもしれない、「ただのアメリカ西部劇」みたいな普通さになっていて、そうすると名優ジェフ・ブリッジスが歴代のガンマンからの血を受け継ぐように見えたのである。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』におけるオスカー・アイザックもまた、映画が何度となく描いてきた未来に迷う若者のひとりに見えてくる。(本作も、脚本などはちょっと凝りすぎかなーとは思うものの)コーエン兄弟は自らのテクニックを提示することから少し離れ、ただ大きく広がる「映画」に身を任せはじめたのかもしれない。
 どうして映画が繰り返しダメな若者の日々、その迷いを描かなければならないのかと問われれば、それが映画の宿命としか言いようがないのではないか。なぜなら彼らは「未決定」そのものだからである。次に鳴らされる音を探すために音楽を聴くように、次に映し出されるものを夢見ながら僕たちはスクリーンに目を凝らす。それはつねに「未決定」であったほうがいい。僕たちは歴史のあとにいるから彼らのあとにボブ・ディランがいることを知っているが、画面のルーウィン・デイヴィスはそんなことも知らず、ラスト、スクリーンから僕たちに挨拶を交わす。彼らはその瞬間を生きた、それだけのことだ。

 Tボーン・バーネットが監修したサウンドトラックもオーセンティックなフォーク・ソング集としてなかなかよく出来ていて、オスカー・アイザックもマムフォード&サンズのマーカス・マムフォードもジャスティン・ティンバーレイクも頑張っている。が、ラスト2曲、ディランの正式音源としては初となる“フェアウェル”とデイヴ・ヴァン・ロンクがしゃがれた声で歌う“グリーン、グリーン・ロッキー・ロード”が全部持って行ってしまう、そんな一枚だ。ここはやはり、かの時代を封じ込めたミュージシャンたちの迫力勝ちといったところだろう。

予告編

木津毅