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DJ FULLTONO

Jun 07,2013 UP

DJ file(8)

DJ FULLTONO

取材:野田 努

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なんか欧米では、(ジュークというより)フットワークと呼ぶことのほうが多いように見受けられますが、どちらの呼称が一般的で、呼び方がふたつあるのは何故でしょうか?

DJ FULLTONO:呼び方はシカゴのアーティストあいだでも異なるくらい実は曖昧なんですが、足を速く動かすダンス「シカゴ・フットワーク」のバトルのために作られたトラックがフットワーク。パーティのために作られたトラックが「ジューク」という風に使い分けているようです。
 でも最近は、フットワークがクラブでプレイされることも多くなってきたので、UKではフットワークと呼ぶのが一般的みたいですね。僕個人としては、フットワークって呼んじゃうとそれまでのジュークと切り離された感じがするので、ジュークでいいんじゃないかなと思います。地方によって呼び方が異なるとか、一般に良くあることですしね。ただ、曲のレヴューとか書くときは使い分けますね。変則的なビートはフットワーク、反復的なビートはジューク。

なるほど、わかりやすい説明ですね。ところで、トラックスマンの来日時の良い話があったら教えてください。

DJ FULLTONO:それより先日のトラックスマンの事件はビックリしましたね。街で強盗に足を撃たれたということだけしかわからないので、本当に世界中のファンが心配してると思います。

そんなことがあったんですか。

DJ FULLTONO:「心配無い、元気だ」とエイプリルのほうには連絡があったみたいですが、心配です。しかし本人はその後も、いつものようにフェイスブックでオススメ音源を紹介し続けてるんです。すごいなあと。
 で、来日時、ホテルが一緒だったんですが、朝に一緒にマクドナルドに行ってハンバーガーふたつ買って、ひとつ店で食べて後はホテルで食べるってすぐに戻ったんです。「ハンバーガーとYoutubeがあればいいんだ」って言ってドアを閉めて、その後もひたすらフェイスブックでYoutubeをシェアし続けてました。シカゴの音楽を世界に紹介するという使命感がハンパないんです。
 パーティ中はパーティ中で学ぶことは多かったです。ほとんど控え室には行かずフロアにいました。東京公演の時はオープンからステージでマイク持ってましたからね(笑)。〈BOOTY TUNE〉のメンバーでゲットー・ハウスをプレイしてると、マイク持ってアーティストをシャウトアウトしてるんですよ。メインゲストが前座のMCもやるという前代未聞の光景でした。大阪では、自分の番が終わったらすぐにうちらの物販スペースに座ってくれて、その後の僕のDJのときもマイクで盛り上げてくれました。帰国後かな、「いますごく疲れてる。でも俺はバッド・ミュージックから世界を守らなければいけないから休んではいられない」ってコメントしてたそうです。熱すぎるでしょ(笑)。

とても良い人なんですね(笑)。僕はあの、クールさを売りしてない、一種のプロ根性にやられたのですが、ああいうリアルな感覚はフルトノ君も共感するところですか?

DJ FULLTONO:僕なんて好きなようにやってるだけですよ(笑)。でもDJはじめたときから心がけてるのは、まだクラブの雰囲気に慣れてないようなアウェイな人たちに衝撃を与えられるようなプレイをしようとつねに心がけてます。

あのとき、お手本にダンスをやっていた日本人の方はどういう人なのでしょうか? あんな風に動けて、羨ましかったです。

DJ FULLTONO:タクヤとウィージーですね。ふたりともシカゴ・フットワークを独学でやってます。あのダンスを取り入れてる人はいままでもダンスの世界にいたと思うんですけど、クラブで本格的に踊ってるのは彼らだけじゃなかと思います。俺の方が上手いって人は現場でどんどん勝負すればいいと思います。あと、そうしないと彼らもしんどいみたいです。フットワークってめちゃくちゃ疲れるんですよ。ふたりともノリがいいもんだから要望あればどんどん踊っちゃって、最後ぐったりしてるという(笑)。

ハハハハ。酒飲んだら無理っすよね。ところで、フットワーク/ジュークは、わりと大ネタのサンプリングを使ってますが、サンプリングはやはりこのジャンルでは重要な要素ですか?

DJ FULLTONO:サンプリングのないトラックものも多いんですが、大ネタ多いですね。大阪のファンクDJのピンチさんが言っておられたんですが、ジュークのいいところは、誰でも知ってる大ネタを使うところ。つまり、マニアのためにやってる音楽じゃないってことだと。僕は音楽を広く聴いてないのでほとんど元ネタわかってないんですが、DJ終わってお客さんに、「○○ネタ最高でしたよ!」とか良く言われるんで、なるほど有名なネタなんだなと気付かされます。

黒人音楽の大ネタを使うのは、それがブラック・コミュニティで生まれたものだからでしょうかね?

DJ FULLTONO:その辺は逆に野田さんに手ほどきいただきたいですわ(笑)。

デトロイトのゲットー・パティで、DJがマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」を高速でミックスしているのを見たとき、この音楽は本当に大衆音楽なんだなと思いました。踊っていた人たちも、子供から中年まで、幅広い世代にまたがってましたね。庶民的な音楽ですよね。おばさんから若い子まで行くような、チリ紙売ってるような雑貨屋で売っているミックスCDがその手のものでしたから。〈BOOTY TUNE〉では、日本におけるこの音楽の広がりについてはどう考えていますか?

DJ FULLTONO:そうですね。最近ネットで、ジュークが盛り上がってると良く耳にするんですが、あれはツイッター上だけの話であって、まだまだ少数派だと思うんです。現に僕は毎日自転車でアメ村を通るんですけど、服屋からジュークが聴こえて来たこと一度も無いですよ。そのくらいまだ認知されてないんです。情報が先行しすぎちゃったのかな。これから面白くなるんですが......。卑屈な意味で言ってるんじゃないです。それくらいいろんな人に聴いて欲しいと思ってるんです。いかに普通に耳に入ってくるかがこれからの課題。そのためにはもっと現場でプレイし続けて広げていかないと。
 いまジュークが好きでDJやライヴやってる人は、まわりで自分だけしかやってないとか、この客層では無理とか、なるべくそういうコンプレックス捨てて、この音楽の力を信じて、自分が描く最高のプレイをして欲しいです。オファーが来なければ家で磨いて準備してればいい。もしくはパーティはじめちゃえばいいと思う。時間は掛かるけど自分はそれが大事だと思ってます。ファッションやポップ・ミュージックの源流を辿ればクラブから生まれてたってこと多いですよね。クラブであんまり聴けないのに上辺だけのシーン作ったって薄っぺらいのはすぐリスナーにバレます。そんなものすぐ終わっちゃう。クラブからいろんな場所に繋がっていくって流れが自然だと思う。いろんなやり方があるんだろうけど、僕にはそれしかできません。

いま、日本で起きている面白いことがあれば、ぜひ教えてください。

DJ FULLTONO:世界で起きていることになるのかもしれませんが、最近海外のメディアが日本のシーンを紹介してくれるケースが多くなってきました。UKのリンスFMでIGカルチャーが日本のジュークをメインに紹介する放送があったり、アメリカの音楽メディア『The FADER』が「Japanese Juke」ってタグ作って、日本のアーティストを立て続けに紹介してくれたり、海外のフォロアーも少しづつ増えてきました。逆輸入で日本に広まるということが起これば楽しそうですね。

〈BOOTY TUNE〉はレーベルですが、やはり、フットワーク/ジュークというジャンルにこだわってのリリースを考えていますか? それとも、もっと幅広く考えているんでしょうか?

DJ FULLTONO:基本〈BOOTY TUNE〉は、僕が使いたいと思うものしかリリースしません。なのでおのずとジューク/フットワーク、ゲットー・テックといった音になります。自分のレーベルでリリースしたものを僕がプロモーターとなって現場でプレイするという構図です。小さいレーベルってそれでいいと思うんです。でも、EPで出すなら1曲くらい遊んでもいいかなと思うので、エレクトロとかゲットー・ハウスとか、何やってくるかわからない感じでも面白いですね。

先ほどの話にも出ましたが、インターネットがあることで、現在は日本のシーンが海外と繋がりやすくなっています。〈BOOTY TUNE〉が受けているネットの恩恵について話して下さい。

DJ FULLTONO:マイスペースで海外のアーティストと繋がれたことは大きいです。いまはマイスペースはゴーストタウン化しちゃってますが、フェイスブックで毎日世界のクリエイターと情報交換してます。翻訳ソフトが手放せません。昔は〈ダンス・マニア〉の盤面の少ない情報でしか知り得なかった謎の人たちと普通にスラング用語ばっかでコミュニケーションが取れてるっていうことはホントにネット様々です。
 一方、距離が縮まり過ぎて厄介なこともあります。シカゴの面白エピソードをネットにうかつに書けなくなくなってしまったことです。翻訳ソフト使ってる人もいますからねえ。直訳されたら茶化してるようにしか見えませんので。でも、こう言うと汚く聞こえるかもしれないんですが、シカゴのアーティストが日本人に対してこれほどウェルカムなのは、日本人がちゃんと金を払うからだと思います。そうじゃない人もいるけど、基本ビジネス・パートナーなんです。そこが他の国の人たちとシカゴの違うところ。でもそうあるべきだと思います。paypalで金送って新曲と交換。今週末パーティがあるから、いいのあったらすぐに送ってくれ! とか、とくにヤバイ曲があればリリースしようかって取り引きが結構日常的になってきました。手法は違えど昔からそういう感じだったのかなあと思ったりします。ネットがそれほど普及していなかった時代、日本の〈サブ・ヴォイス〉とかテクノのレーベルがシカゴのアーティストと密接に繋がっていたことは相当な労力と愛情があってのことだったんだろうなあと。比べることもおこがましいですが、ホントに頭が下がる思いです。

お下品なところとお上品なところとの両方がシカゴ・ハウスにはありますが、フットワーク/ジュークにも同様なことを思いました。ある意味では、お下品なところはわりと取り入れやすいと思います。しかし、あのエレガントさはなかなか出せるものではないと思います。日本では、お下品なところは拡大再生産しやすいんじゃないかと思っているのですが、そうしたバランス感覚についてはどう思われますか? 僕は、トラックスマンのバランス感覚の良いところに惚れたのですが......。

DJ FULLTONO:いやー、お下品な部分ですらなかなか真似できないです(笑)。最近広島のCRZKNY(クレイジーケニー)が、「ジュークは誰でも作れる」と良く言ってるんですが、ホントにその通りなんです。誰でも作れる。けどシカゴのフィーリングを出すのは難しいんです。日本のイメージとして、シカゴの人はドラムマシン適当に叩いて作った。みたいなのが昔から定番となっていますが、それは手法だけの話であって、聴けば聴くほどめちゃくちゃ拘っていることに気付かされます。音の良さとかそういうことではなく、ダンスそのものへの拘りです。
 フットワークで言えば、スネアの場所、タイミング、展開が変わるときの変化の具合。ベースはひとつの種類じゃなくて2種類3種類使う。見過ごしがちな細かい変化が随所に施されてるんです。トラックスマン、ラシャドあたりは本当に完璧だなあと感心します。RPブウに関しては、本当に頭のいい人なんだなあと聴けば聴くほど思います。わざとベタな打ち込みをして、そのビートを騙す為にオトリを挿入してきますから。この表現、全然伝わらへん(笑)。まあアルバム買ってみてください。

わかりました。フルトノ君のソロ・アルバムの予定はまだないのでしょうか? 待っているファンも多いかと思いますが......。

DJ FULLTONO:次に自分がリリースするものがリスナーの想定範囲内の音ではダメだと思っているので、実はここ1年くらい、作っては捨てるの繰り返しでした。自分の頭のなかで鳴っているビートを表現することができなかったんです。それがここ最近、いろんな所でプレイさせてもらったおかげで少しづつ表現できるようになってきたんです。自分で現場でプレイしてみて、コレだというものが揃ったタイミングでリリースできればと思ってます。おそらくまったく色気の無いトラック集になると思います。お店がそれを扱ってくれるのかという問題がありますが。

大丈夫でしょう(笑)。最後にフルトノ君の今後の予定、〈BOOTY TUNE〉の活動の予定などを教えてください。

DJ FULLTONO:間もなくデジタル配信でリリースされる、京都のアーティスト、グニョンピックスのEPはなかなかの力作なので是非聴いて欲しいです。彼の作品はとくに海外からのリアクションがすごくいいんです。あと近況では、7月にシカゴの若手プロデューサー、K.ロックのアルバムをCDでリリースします。これも最高。その他にもリリース予定はたくさんありますのでご期待ください。
 レーベル主催パーティはまだ予定はありませんが、いずれ東京でやりたいと思ってます。まだ企画段階ですが、大阪で、ケイタ・カワカミ君とパーティをはじめるかもしれません(言ってしまったのでもうはじめないといけませんね)。あと、8月31日に〈BOOTY TUNE〉クルーが初めて仙台に遠征します。他、大阪、京都、神戸、東京などでやってますんで、bootytune.com のスケジュールをチェックしてください。

ありがとうございました。また飲みに行きましょう。最後にフルトノ君のオールタイム・ベスト10枚を教えてください。

01) ALL RELEASE (DANCE MANIA & RELIEF)
02) KRAFTWERK / ROBOTS(91'ver.)
03) JEFF MILLS / PURPOSE MAKER 1 (PURPOSE MAKER)
04) JOEY BELTRAM / START IT UP (TRAX)
05) RED PLANET 7 
06) DJ HYPERACTIVE / LOCOMOTIVE (CONTACT)
07) DJ FUNK / KNOCK KNOCK (COSMIC)
08) DJ ASSAULT / ASS-N-TITTIE (ELECTRO FUNK)
09) LEGOWELT/ FIZZCARALDO (BUNKER)
10) DJ RASHAD / BETTA MY SPACE (JUKE TRAX)

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取材:野田 努