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K. Locke

FootworkJuke

K. Locke

The Abstract View

Booty Tune

Amazon

野田 努   Aug 28,2013 UP

 3年以内にリリースされた新譜しか聴かないことを目標にしよう。20世紀の音楽のようなファナティックな物語を持たない音楽ばかりを聴こう。音楽への幻想のないこの街で新しい音楽ばかりを聴いていれば自分の音楽へのアプローチも変わるかもしれない。ナイトライフとは無縁の人間となった僕がシカゴのジューク/フットワークのCDを家で聴いているのは単純に音が面白いからだが、夜には聴かない。小心者の僕は、近所からの苦情を恐れて昼に聴くのである。そんな生活をこの2年続けていたら、自分にとってジューク/フットワークは休日の音楽となった。日本の〈BOOTY TUNE〉からリリースされたケーロックのアルバム『The Abstract View』には、いまもっともしっくりくる音が録音されているが、しかも、この方はトラックスマンの愛弟子だそうで、しかも、ジェイディラやフライング・ロータスを愛しているらしく、いまにも襲撃されてしまいそうなジューク/フットワークとはひと味違った、エモーショナルな感覚に特徴を持っている。
 たとえば"Muy Bien"や"The Barrio Sun"のような曲を聴いたら、クラブ・ジャズが好きな人も「何これ?」と訊いてくるだろう。とくに"The Barrio Sun"。これはとんでもない名曲で、90年代半ばのロン・トレントのディープ・ハウスとスピリチュアル・ジャズとジュークが合わさったような......と書いていると、結局は、20世紀の音楽と地続きのものを自分は聴いているのだとわかる。"Roll Sum Weed"のサンプリングとルーピングはジェイディラをジュークで再現したようだし、"The Piano's House"なんかは80年代のピアノ・ハウスの再解釈だし、音感が良い人なのだろう、サンプリング音楽でもハーモニーがしっかりある。
 下品でクズで、同時にエレガントで崇高なるものという対極の往復がシカゴにはあって、それがいまも受け継がれている。ディストピアとユートピア、大げさにいえば死と生。ただ生きているだけではつまらないからと見つけた楽しみ。ちんぴらもちんぴらじゃない人も、成績の良い子も悪い子もいっしょに楽しめる音楽。こうしたゲットー・ミュージックが資本のない日本の小さなレーベルと共振して、たんなるライセンスではなく、歴然とした新作を出すことは20世紀にはなかった。90年代、そういうことはヨーロッパのレーベルがやることだった。
 ケーロックは「若干21歳にしてすでに200曲を超えるジューク・トラックを制作」だそうで、『The Abstract View』が〈プラネット・ミュー〉や〈ハイパーダブ〉から出ていないだけで遠慮している人がいたらもったいない話だ。なお、アートワークはシミラボでお馴染みのMA1LL。〈BOOTY TUNE〉、グッドジョブ。

野田 努