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Columns

ハテナ・フランセ

第19回 かつてこのような人物はエリートの頂点である大統領府にはいなかった

山田蓉子 Apr 01,2019 UP

 みなさんボンジュール。今日はフランス国民を唖然とさせると共に、メディアを大い湧かせているベナラ事件の続報を。この騒動は、登場人物のキャラの濃さとスパイ・ドラマじみた展開からドラマ風に「ベナラ、シーズン2」などと呼ばれている。
 まずは昨年夏にお伝えした事件のおさらいから。選挙時からボディガードを担当し、事件当時マクロン大統領官房長官補佐であったアレクサンドル・ベナラは、2018年5月1日に行われたメーデー恒例のデモに参加していた若者カップルに暴行を働いた。一般市民に身体的制裁を加える法的権利を持つのは、フランスでは警察のみである。アレクサンドル・ベナラは機動隊員でもなければ警察でもないのに、事件当日機動隊の装備と警察の腕章を付け、一般市民に暴行を加えた。大統領府がその制裁として下したのは、2週間の業務停止だ。7月18日大手新聞『ル・モンド』の報道により、大統領側近アレクサンドル・ベナラの暴行事件が明るにみ出ると、大統領府は慌てたように彼を解雇した。また、ベナラと共に若者カップルに暴行を働いた予党「La République en Marche(共和国前進)」の警備担当ヴァンサン・クラスも解雇された。この事件は国会でも大きく批判され、当時不支持率が支持率を上回っていたマクロン大統領のイメージをさらに悪くした。「マクロン君主制」と揶揄されていた政権の傲慢さをさらに浮き彫りにしたのだ。7月22日に、アレクサンドル・ベナラとヴァンサン・クラスは若者カップルへの暴行とその様子を捉えた動画を渡すように働きかけた罪で起訴された。また、その際に司法審査会により2人は面会を禁止された。その時点ではこの事件は、それだけで終了したかに見えた。


(リベラシオン紙:内閣のベナラコネクションという見出し)

 ところが2018年末に今度はベナラが外交パスポートを使用して、アフリカのチャド共和国を訪れたことが発覚。12月27日付の大手紙『Le Monde』と独立系Webメディア『Mediapart』の記事によると、投資目的のビジネスマン一団とプライベート・ジェットでチャドに降り立ち、大統領の弟などと会合したという。外交パスポートは、本来なら解雇された時点で返還するべきで、大統領府や外務省も回収するべきものだ。7月26日に返還するように外務省から通達がベナラに届いていたが、彼はそれを無視した。その後もベナラは外交パスポートを23回に渡り使用し続けた。しかも大統領府のレターヘッドを無断で使用し、ボールペン手書きで大統領府命令を偽造。外務省に複数の外交パスポートを申請し、最終的には4冊も持っていたという。そんなに簡単に大統領府命令が偽造できることも、それに対し外務省が外交パスポートを4冊も発行してしまうことも、にわかに信じがたい。だがベナラはそれをやってのけたのだ。
 この外交パスポートの件を皮切りに、ベナラの豪胆な無法ぶりが次々と明らかになっていく。
 年が明けて2019年1月31日に『Mediapart』が新たなベナラ・ネタをスクープ。7月22日の起訴の際、アレクサンドル・ベナラとヴァンサン・クラスは面会を禁止された。にも関わらず、7月26日に両者は密会し、証拠隠滅の相談をしたというのだ。『Mediapart』はその会話を録音した音声データを公開。ベナラが「昨日ボスからSMS来たぜ。“お前なら奴らを負かす。お前は奴らより強いからな。だからお前を側においたんだ”って」と言うとクラスが「ってことはボスは俺たちの味方ってことか?」と問いかけ、ベナラは「味方なんてもんじゃないぜ!」と大笑い。その後、証拠隠滅とメール・サーバーで下書き機能を使い痕跡を残さずにやり取りを続けるやり方など、詳細に相談する様子が捉えられている。この音声をきっかけに、パリ検察局はベナラとクラスによる証拠遺棄に関する調査を開始し、2人は一時拘留された。だが、同時に検察は『Mediapart』に任意の家宅捜索も試みたのだ。もちろん『Mediapart』側は拒否。あくまでも合法な予備調査で私的情報の侵害には当たらないという法的根拠を提示した。これは、当事者の『Mediapart』はじめ多くのメディアから、検察が政権に「忖度」し、情報提供者を特定するために行なった行為だと非難された。
 また、この音声データでもう一つさらに重要な案件が暴露された。それが通称「ロシア取引」。ベナラがクラスに「“Mars”からお前の名前を削除しろ」と指示しているのだが、この「Mars」というのはクラスが2017年8月に立ち上げた警備会社のことだ。なぜこの会社を立ち上げたかと言えば、ロシアの富豪イスカンダル・マフムドフのモナコにある家の警備を引き受けるためだ。そしてその契約を引っ張って来たのがベナラなのだ。「Mars」は2018年6月、この契約により約29万ユーロ(約3,600万円)を受け取っている。このイスカンダル・マフムドフという人物もいわく付きで、自動小銃製造会社カラシニコフ社の株主で、プーチンに非常に近いとか、ロシア・マフィアとの関係が疑われているとか言われている。このデータが公表されたことにより、マクロン大統領の側近がプーチン大統領に近い人物との契約を仲介していたことが発覚したわけだ。2月1日に右寄り政治雑誌『Le Point』のインタヴューで、マクロン大統領は「ジレ・ジョーヌ」はロシア・メディア『Russia Today』『Sputnik』を通じてプーチンに操られていると断言している。根拠は何も上げていないが、とにかくフランスは「ジレ・ジョーヌ」を通じてロシアの脅威に晒されていると強い懸念を表明。だが、自らの側近が大統領府で働いている期間に、プーチンに近い人物とのビジネスを行なった証拠が出て来たことには、大統領は何もコメントしていない。
 そもそもイスカンダル・マフムドフは、すでにそれまで別の警備会社と契約があったのに、なぜ警備会社としてまだ未認可の会社にわざわざ警備を変更したのか。「Mars」は警備会社として認可すら受けておらず、会社としては請け負ったものの、以前ベナラが勤めていた警備会社「Velours」に警備を下請けに出さなければならない状態だった。そして7月18日の『ル・モンド』報道を受けて、「Velours」はこの取引から手を引いた。10月にはベナラの18歳の異父兄弟(各方面から狙われてもおかしくない大富豪を警備する会社のトップが18歳の少年に務められるとは信じがたいが)が「France Close Protection」を立ち上げる。ベナラの友人が経営者となったこの会社が「Velours」の代わりを務める。そして新たに70万ユーロ(約8,600万円)をイスカンダル・マフムドフから受け取っている。また、12月にはこれまたロシアの富豪ファルハド・アフメドフと警備契約を結び、「France Close Protection」は98万ユーロ(約1億2000万円)を受け取っている。このような報道を受け、フランス国家財政検事局は2月7日、ベナラ、クラスの「ロシア取引」にまつわる汚職容疑について捜査を始めた。
 また一連のベナラ事件はフランスの上院議会が調査会を立ち上げ、7月から34回に渡る審査会を開いた。ベナラとクラスは9月19日と1月21日、2回召喚された。その審査会で、イスカンダル・マフムドフとクラス警備会社「Mars」との取引の仲介をしたかと問われ、ベナラは「クラスさんが会社を立ち上げたことも、取引のことも聞いていました。友人ですから。皆さんに隠すつもりはありません。ただ私は彼の取引の仲介をしたことも、したいと思ったこともありません」と涼しい顔で言ってのけた。クラスは「起訴された際にアレクサンドル・ベナラとは面会を禁止されているので、7月22日以降一切会っていません。彼の近況はメディアで知りました」と証言。これらの証言は1月31日『Mediapart』の音声データ公開により全て覆され、上院調査会はベナラとクラスの偽証の疑いを検察に報告した。
 ベナラは上院で、他にもトンデモ発言をしている。彼が銃携帯許可を受ける前、マクロンの大統領選挙活動中の2017年4月、地方のビストロでウェイトレスと一緒に撮ったセルフィーがある。若い女性ウエイトレスは満面の笑顔、ベナラは少々おどけて女性に銃を突きつけている。このセルフィーがまたもや『Mediapart』によって公開され上院で不法所持に対する質問が出た。これに対しベナラは「嘘みたいな本当の話なんですが、これは水鉄砲です」とギャグとしか思えない証言をしてのけた。


(上院調査会での証言するベナラ。一部始終がテレビ中継されてワイドショーのようだった)


(上院調査会での証言するクラス。ベナラよりも心なしか自信なさげな様子)

 このような人物は、エリートの頂点である大統領府にはかつていなかったのではないだろうか。どうやらベナラはリセ時代に大統領府で研修をしたことをきっかけに、警備、それも華やかな世界の警備に憧れるようになったようだ。2007年15歳の頃、カブールの映画祭でマリオン・コティヤールらセレブリティの警備のバイトをする。19歳の時、軍隊予備学校に入学。学校での彼の評価は「学年でも一番優秀な一人。規律正しく、非の打ちどころがない。軍隊に強い興味を持ち、その向上心に見合った素晴らしい結果を残した」という最上級のものだ。この評価を書いたのが彼の上官で15歳年上のヴァンサン・クラスだった。その後、ベナラは2010年に社会党の警備をしている会社に入る。セゴレーヌ・ロワイヤルやフランソワ・オランドなど数々の政治家の警備に参加。2012年にフランソワ・オランドが大統領に当選すると警備会社を辞めた。そしてアルノー・モントブー生産再建大臣の官房で運転手の職に付く。だが職に就いて早々、大臣不在の際に公用車を無断使用したうえ交通違反をし「次はない」と大臣官房長から警告を受ける。そして数週間後には大臣が同乗中に、駐車してある車に当ててしまう。「人に怪我を負わせていないか確認しなさい」と指示した大臣に対し、とっさにベナラがとった行動は大臣の頭を押さえて「隠れてください!」と言うことだった。ベナラが頑として逃げようとすることに業を煮やした大臣は、車から降り、歩いて官邸に帰った。その足で大臣はベナラをクビにするように大臣官房長に指示。ベナラは3ヵ月でクビになった。上院調査会では、大臣の運転手をクビになった理由も改めて問われた。ベナラの答えは、大臣が環状道路をベリブ(パリ市のレンタサイクル)で走ろうとしたのを止めたから、だった。そんなことをしたらスマフォで撮影、即拡散される時代に、だ。もしも大臣が敢えてそのような行動に出たならば、それは正気を失ったとしか言いようがないだろう。運転手をクビにする前に、大臣の精神状態がむしろ心配だ。
 どのエピソードをとっても面白すぎるベナラ。自己顕示欲、金銭欲、権力欲に満ちたバッドボーイがエリート集団の大統領府で好き放題やらかしたのだ。彼が、ここまでできた理由は、マクロン大統領が直々に雇ったという究極の免罪符があったからだろう。そのツケをベナラは、これから行われる裁判で払うことになるのだろう。だが、そのような法の無視を許したマクロン大統領の責任も、本来なら問われて然るべきだろう。フランソワ・リュファンを中心とした野党議員やエマニュエル・トッドのような反マクロン派のインテリはもちろんマクロン大統領を糾弾している。だが、今のところ大統領の座が脅かされるような動きはない。

これも『Mediapart』のスクープ。本物の銃そっくりの水鉄砲(!?)を手にするベナラ


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