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ギーク母さんの21世紀女児カルチャー観察記 ピンクに塗れ!~現代女児のキラデコ事情~

ギーク母さんの21世紀女児カルチャー観察記 ピンクに塗れ!~現代女児のキラデコ事情~

第4回:馬に恋する女の子たち

文:堀越英美 Jan 24,2014 UP

 ドイツで女の子を育てている旧友から、ドイツの女児には昔から馬が人気らしいと聞きました。おもちゃコーナーでも絵本コーナーでも、馬キャラものが大プッシュされているとか。


ファンシーな馬グッズ売り場


絵本コーナーにも馬キャラがいっぱい

 なるほど、馬とふれあう機会の多い国では、馬がファンシー・キャラ扱いされることもあるんですね。そういえばうちの子も、ファンシーな仔馬たちが活躍するアメリカの女児アニメ『マイリトルポニー〜トモダチは魔法〜』(ハズブロ・スタジオズ)を喜んで観ていますし。

 などと言っていたら、ファンシー・グッズだけじゃないとのこと。女児向けの馬DSゲーム、馬ボードゲーム、馬ポスター付きの馬のグラビア雑誌などが、普通に販売されているといいます。

 明らかにこれは私の理解を超えた世界。ゆるふわエアリー・ヘアのイケメン馬たちが、あたかもティーン・アイドルのようにセクシーにこちらを見つめているではありませんか。白馬の王子様ならわかりますが、馬そのものを王子扱いするなんて聞いたことがありません。いったい何が起きているのでしょうか。

 左はドイツの少女向け馬雑誌『WENDY』。8~14歳の女の子が対象読者で、ドイツのほか、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーで発行されています。馬を愛するイギリス人少女の冒険マンガ『WENDY』、6人の少女が登場し、その飼い馬同士がおしゃべりする日本のジュエルペットのようなコミック『Horseland』、2匹の馬が主人公のギャグマンガ『Snobben & Skrutten』の3本のコミックがメイン・コンテンツだそう。

 真ん中の『LISSY』も、馬マンガがメイン・コンテンツであるドイツの少女雑誌。チェコでも販売されているようです。対象読者は7~13歳の女の子。乗馬学校や馬の育て方に関する美しい馬の写真付きレポ、読者投稿ポエム、ポスターなども掲載されています。

 右の『Min Häst(私の馬)』は、スウェーデンの馬雑誌。対象読者は7~14歳の女の子。公式サイト(http://www.minhast.se/)をのぞくと馬と少女がチュッチュしているイメージが散見され、言葉はわからないながらもただの愛玩動物雑誌ではないことが察せられます。

 これらの雑誌に共通しているのは、前思春期の女の子を対象としていること、コミックがメイン・コンテンツであること、ポスターや写真も多く、馬の美しさがフィーチャーされていること。日本のような少女向けコミック市場はよその国にはないんじゃないかと思っていましたが、あるんですね。(少なくともスウェーデンでは、少女向けの中でも馬マンガは冒険マンガに次ぐ一大ジャンルを成しているようです)。

 それにしてもなんでまた、馬なんでしょう。海外のYahoo! 知恵袋的なサイトでもそんな質問がいくつか寄せられていたので(1, 2, 3)、かいつまんで見ていくことにしましょう。

 「男の子がなんで車が好きかって訊くようなもんだよ」「男の子がアクション・フィギュアやヘビを好むのと一緒じゃない? 遺伝子に組み込まれてるのよ」「カワイイからに決まってる」「馬は金持ちしか飼えないだろ。女の子が好きなのは本当は金持ちなのさ」「メディアの刷り込みでしょ」「マンガの中でかわいく描かれてるから」「犬猫と違ってウンチが臭くないからじゃないかな。草食だし」

 女の子が馬好きというのは疑うまでもない当たり前のことらしく、質問の答えも相当ぼんやりしています。少なくとも、アジア圏の私にはピンとこないものばかり。「私は少女時代、馬なんか好きじゃなかったけど」という反論もちらほら見受けられます。そこで、馬好きであるという少女たち自身の回答を拾ってみることにしました。

「馬は私の背中に鼻を押しつけて休んだり、たとえエサを持っていなくても私を見て興奮するの。そんな家畜ほかにいる?」
「美しくて、勇敢で、雄大な動物。馬に乗っていると自由を感じる」
「どんな男の子よりも正直だし、女友だちみたいに陰口をたたいたりしないから。馬と私は対等なの」
「思春期前に女の子が恋をする疑似ボーイフレンドという説もあるみたい。思春期に入ったら男の子が馬に取って代わるんですって」
「説明するのが難しいけど、馬に乗り風を切って走るとき自由だと思えるの。馬と私の間には破れない絆がある。私にはない翼を貸してくれる存在」
「男性的な姿形。危険から守ってくれそう。信義に厚く、勤勉で、誠実(たぶん)」

 「疑似ボーイフレンド」「男性的」。犬猫ウサギではなく、馬でなくてはいけない理由が見えてきました。馬とは自分より大きく男らしく、かつ自分に危害を与えることなく、いついかなるときも自分を愛し守ってくれる誠実な存在。と書くと、まるでお父さんのようです。いくらお父さんが居心地のよい存在であったとしても、いつまでも家庭の中で守られているわけにはいきません。7~8歳といえば、親の束縛が煩わしくなり、家庭の外にある自由やときめきへの憧れも芽生えるお年頃。でも本物の男の子はまだ怖い。そんな少女たちにとって、自らより大きくてたくましい馬こそが、そうした憧れを満たしてくれる対象となるのではないかと推察できます。いわばイケメン馬とは、「お父さん」と「ボーイフレンド」の橋渡しをしてくれる存在なのかもしれません。

 一方、日本の少女たちは同時期、ジャニーズなどの中性的な美少年アイドルや、線の細い男の子が登場する少女マンガ・BLに入れ込むのが一般的です。なぜ日本には体毛ボーボーで筋肉ボーンな男性性に憧れる少女が少ないのか。もしかしたら、男性の育児参加率の低さに原因があるのかもしれません。母親、祖母、幼児教育・保育従事者といった女性ばかりに取り巻かれて育つ日本の女児は、大人の男性から無条件の愛情を与えられるという機会をしばしば逸してしまいがちです。そのため異性に興味を抱く年代になっても男性性を忌避し、男の子に女性性を求める……あながちありえない話ではなさそうです。

 ところで、馬雑誌のコンテンツはコミックがメイン。イケメン馬写真以上に、馬との物語が重視されているようです。いったいどのような物語が好まれているのでしょうか。できればすべて取り寄せて中身を確認したいところですが、私の語学力と財力では難しいので、物語の類型を収集しているサイト「tvtropes」(http://tvtropes.org/pmwiki/pmwiki.php/Main/PonyTale)で調べてみます。同サイトによれば、少女と馬の物語には、以下のような共通点があるのだそうです。

  • ・環境にうまく順応できない少女が主人公。イギリス発の物語ではなくても、舞台はイギリスであることが多い。

  • ・ひょんなことから馬に出会い、馬術を通して成長していく。

  • ・ヒロインは馬のための努力はしても、女子力アップには無関心。化粧はせず、ドレスを着ることを厭う。

  • ・ヒロインは学校で男子の存在を意識することはない。

  • ・社交やデートにいそしむ級友たちとなじめず、学校に居心地の悪さを感じている。

  • ・ライバル女子騎手と争う競技会や自分を忠実に愛してくれた馬の喪失を経て成長し、トラウマを抱えた馬たちを癒す特別な女性となる。
  •  おそらくキーとなるのは、性的存在であろうとする自意識を持たない無垢なヒロイン像。女児がピンクやプリンセスにどっぷり浸かる4~7歳は、俗に「プリンセス期」と呼ばれます。この時期を過ぎると、女の子たちは家族・保育者・友達だけで完結していた狭い世界から、徐々に社会を意識するようになっていきます。女の子でありさえすればプリンセスになれると信じていた女の子たちは、性的存在として値踏みされる視線を感じはじめるのです。だからといって皆が皆、そうした視線に合わせた振る舞いができるようになるわけではなりません。他人の欲望に合わせて意識的に媚びることは、無垢であった自己像を傷つけます。親に大切に育てられた女の子ほど、この落差に苦しむであろうことは想像に難くありません。そこで性的存在ではなくても、愛情の相互作用が期待でき、自分という存在を受け入れてくれる馬というファンタジーが必要とされるのではないかと想像します。すべてを受け入れてくれる父性的な存在は、いつかは訣別しなくてはならないもの。馬を失った少女は、馬の弱さを受け入れる側となる。そうしたフィクションをいくつも読んでいくことで、現実へと踏み出す強さを身につけていくのでしょう。

     4~7歳の女の子が好むものは、世界的に共通しているように見えます。ハローキティもミッフィーもバービーも『マイリトルポニー』も、国境を越えて女児に愛されています。しかし社会を意識しはじめる年代の少女文化にはそれぞれの国の事情が反映され、先鋭化していくのが面白いところ。ところで最近、女子小学生向けマンガ冊子の付録にも「そのまんまの自分でモテたいなんて甘い!」「ちょっぴりおバカなフリで男子を落とせ!」といったフレーズが踊るようになってきたとか。もはや少女マンガの世界も安住の地ならず。そろそろ我が国でも、イケメン馬がさっそうと少女を救いに現れる頃合いかもしれません。

    ギークマム 21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア
    (オライリー・ジャパン)
    著者:Natania Barron、Kathy Ceceri、Corrina Lawson、Jenny Wiliams
    翻訳:星野 靖子、堀越 英美
    定価:2310円(本体2200円+税)
    A5 240頁
    ISBN 978-4-87311-636-5
    発売日:2013/10 Amazon

    Profile

    堀越英美堀越英美
    1973年生まれ。2007年生まれの長女と2012年生まれの次女の育児に追われつつ、いろいろなことを複雑に考えるのが趣味。10月に訳書『ギークマム~21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア』(共訳)刊行予定。

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