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interview with Mhysa

interview with Mhysa

ジャネット・ジャクソンとブランディが好きな〈NON〉~〈ハイパーダブ〉のシンガー

──ミサ、インタヴュー

質問・文:小林拓音    通訳:原口美穂 Photo by Elle Perez   Jul 04,2020 UP

Mhysa
Nevaeh

Hyperdub / ビート

PopExperimental

Tower

 どこまでも素朴なまま、さりげなく尖っている。けっして頭でっかちなわけではない。自然体でちょっと実験的──近年エレクトロニックなブラック・ミュージックの文脈で、そういうアーティストが増えてきている。道を用意したのはおそらくクラインだろう。フィラデルフィア(からブルックリンへ引っ越したばかり)のミサも、そのタイプの音楽家だ。
 2017年にラビットの〈Halcyon Veil〉からリリースされたファースト・アルバム『Fantasii』は、浮遊的な声とシンセの残響がすばらしい宝石のようなアルバムだった。3年ぶりのセカンド・アルバム『Nevaeh』は、ポップさを携えつつも、よりエッジィさを増している。“sad slutty baby wants more for the world” における声の反復や “w_me” の打撃音、“Sanaa Lathan” のキャッチーなコードや “brand nu” の天上的なハープなど、聴きどころはたくさんあるが、とりわけ注目すべきは “ropeburn”、“breaker of chains”、“no weapon formed against you shall prosper” の3曲だろう。ぎりぎりまで音数を減らした余白あふれる空間のなかで、ドローンや鈴、電子音がつつましげにヴォーカルと並走していくさまは、まるで沈黙それ自体が歌を歌っているかのようで、息を呑むほど美しい。しかも、それらがジャネット・ジャクソンやナズ&ローリン・ヒル、シャーデーのカヴァーだったりするから驚きだ(元ネタはそれぞれ “Rope Burn”、“If I Ruled The World”、“It's Only Love That Gets You Through”)。
 もっとも耳に残るのは、そして、二度にわたって挿入される “聖者の行進” のメロディである。「天国」の逆読みを題に冠した本作、その鍵を握るのはこの黒人霊歌~ルイ・アームストロングのカヴァーであるにちがいない。聖者が街にやってきたら、わたしもその列に加わりたい──そう彼女は語っているが、はたしてその真意とは? 〈Hyperdub〉が満を持して送り出すミサ、本邦初のインタヴューを公開。

セインツが来て平和になり、世の中のすべてが良くなる。わたしはそれを待っている。そして、彼らが来てくれるなら、そのなかに入りたい(笑)。一緒にいま世の中で起こっている問題と戦って、より良い世界をつくりたいと思うの(笑)。

まずは「Mhysa」の発音を教えてください。

ミサ(Mhysa、以下M):「ミサ」って読むのよ。

音楽活動をはじめることになったきっかけはなんでしたか?

M:活動をはじめたのは25歳くらい。まわりにミュージシャンの友だちが多くて、彼らがすごくサポートしてくれた。彼らと一緒に演奏するとき用に名前もつけてくれたり。スーパーヒーローのキャラクターみたいな名前にしたかったのよね(笑)。なにかと戦えるような名前を考えたの(笑)(註:「Mhysa」は『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャラクターの愛称に由来)。子どものころは、教会の聖歌隊に入ってた。学校でも聖歌隊で歌っていたし、母親も歌っていたし、祖父も楽器を演奏して歌っていた。歌は、聖歌隊と母親から学んだの。

以前あなたは〈NON〉のいちばん最初のコンピ『NON Worldwide Compilation Volume 1』(2015)にチーノ・アモービとの共作で参加していました。その後〈NON〉からはEP「Hivemind」を出してもいますね。

M:エンジェル・ホがわたしをレーベルに紹介してくれて、あのコンピに参加する機会をつくってくれた。チーノと出会ったきっかけもエンジェル・ホよ。エンジェル・ホとはオンラインで知り合ったんだけど、そのときはチーノのことはぜんぜん知らなかった。わたしがフェイスブックにクレイジーなスピーカーの写真をポストしたんだけど、それをエンジェルが見て、「何それ!?」って反応してきて(笑)。そこから話しはじめて、その流れで「曲をつくるのか?」って聞かれたから、わたしのサウンドクラウドを教えたの。そこからコラボするようになった。チーノとは1曲だけだけど、エンジェルとはチーノとよりも作業しているわ。

今回〈Hyperdub〉からリリースすることになった経緯を教えてください。

M:前のレーベルが「じぶんたちは小さいレーベルだから、次のレコードのために、もう少し大きいレーベルに移ったほうがいい」って勧めてくれたんだけど、2018年の秋にヨーロッパをツアーしているとき、〈Hyperdub〉からアプローチがあって、彼らの「ゼロ(Ø)」パーティでプレイしないかというオファーがきたの。そこから彼らと話すようになって、わたしの新しいプロジェクトの音楽を聴いてみたいと彼らが言ってくれて、アルバムのリリースが決まったのよ。みんなほんとうにいいひとたちで、あのレーベルは大好き。ディーン・ブラントとか、ファティマ・アル・カディリとか、長年尊敬してきたアーティストがたくさん所属してるのも魅力。だから、コード9がわたしの音源を気に入ってくれて信頼してくれたのはほんとうに嬉しかったわ。彼ってほんとうにすばらしいひとだし、アーティストが活動しやすいよう居心地をよくしてくれるの。彼はわたしのメンターみたいな存在。

もっとも影響を受けたアーティストを3組あげるとしたら?

M:「もっとも!」って難しすぎる(笑)! いま出てくる名前は、R&Bシンガーのブランディとジャネット・ジャクソンね。あとは……思いつかない(笑)。

前作はジャネットの『Velvet Rope』にインスパイアされたそうですが、今回も “ropeburn” で彼女を引用していますね。

M:あの作品は、音ももちろんすばらしいんだけど、彼女がディープなテーマに触れている作品でもある。そこに魅力を感じるの。あのアルバムでは、同性愛だったり、エイズだったり、人間や人間関係の複雑さが表現されている。あの作品はすごく興味深くてパワフルだと思う。あのアルバムは、確実にわたしのお気に入りのジャネット作品のひとつだから、その作品の収録曲 “ropeburn” はカヴァーしてみたかったのよね。とうてい彼女みたいにはなれないけど、ちょっとジャネット感をもたらしたかったの(笑)。

ほかにナズ&ローリン・ヒルやシャーデーのリリックも引かれていますが、彼らのことばのどういうところに惹かれたのでしょう?

M:あの歌詞がツアー中にすごく響いてきたのよね。なんでかわからないけど涙が出てくる。だからライヴでも歌ってたんだけど、それをレコーディングすることにしたの。デーモンと戦っている様子をあんなに美しく表現しているところに惹かれたんだと思う。

本作では二度にわたってルイ・アームストロングの “when the saints” のカヴァーが登場しますね。この曲のどういうところにインスパイアされたのですか?

M:あの曲は、子どもヴァージョンみたいなものもあって、小さいときからずっとわたしの頭のなかにあって、あの曲について考え続けていたの。母親とピアノであの曲を弾いたりもしてた。あの曲は、変化が起こるって歌でもあるでしょ? セインツが来て平和になり、世の中のすべてが良くなる。わたしはそれを待っているの。セインツたちを待ってる。そして、彼らが来てくれるなら、そのなかに入りたい(I want to be in that number)(笑)。一緒に、ブレグジットとか、いま世の中で起こっている問題と戦って、より良い世界をつくりたいと思うの(笑)。だからカヴァーしたのよ。

制作はどのように進められるのでしょう? lawd knows との共同プロデュースとなっていますが、役割分担のようなものはあるのでしょうか?

M:曲によるわね。インストをつくるときは、いろんなサウンドをつなげていってかたちにしていくんだけど、コードパッドとか、MIDIキーボード・コントーローラーなんかを使っていろいろ試していくの。その過程でいいなと思うものができたらそこを深めていくわ。ヴォーカルにかんしては、まず歌詞から先に書く。ホントはビートから書くべきなんだけどね(笑)。でもわたしの場合は先に詩みたいなのを書いて、それがメロディックになっていくのよね。Lawd は、良い意味でルールを決めてわたしをジャンルのなかに留めてくれる。わたし、ときどきルールを忘れてじぶんがつくりたいものをただつくってしまうことがあるんだけど、彼が、「それもいいけど、こういうのをつくろうとしてるんじゃなかった?」って思い出させてくれるの。今回のアルバム制作では、ボードの前に隣り合わせに座って、わたしがまず何かやって、それを彼が正してくれるって感じだったわ。あと、作曲でも彼が役に立ってくれることもあった。作業中に彼がピアノでコードを弾いていて、彼はただ遊びで弾いていたんだけど、それがすごくよかったからわたしが使いたいと言って曲に使わせてもらったり。彼はドラム・プログラミングでもたくさん作業してくれているんだけど、リズムのセンスがすごく良くて、知識になる。彼のドラムってホントにクールなのよ。

本作をつくるにあたり、「こういう方向にしたい」など、事前に指針のようなものはありましたか?

M:あったほうがいいんでしょうけど、ぜんぜんなかった(笑)。頭にあったのは、じぶんの境界線を広げたいということだけ。フィーリングに従ってまず数曲つくって、そこからかたちを整えていったの。

もっともポップなのは先行シングル曲 “Sanaa Lathan” です。なぜ俳優のサナ・レイサンをタイトルに? 前作には宝石泥棒のドリス・ペインに捧げた曲がありましたけど、おなじくトリビュートでしょうか?

M:彼女が美しいから(笑)。スタイルもいいし(笑)。一般的に美しいといえばハル・ベリーもそうだと思うんだけど、サナ・レイサンのほうが彼女独特の美しさを持っていると思ったの。彼女が出ているバスケットの映画があるでしょ? あれに出てくる彼女が、この曲の美しい黒人女性のイメージなの(笑)。

わたしはなにを感じてなにを求めているのか。最初のアルバムはその答えの探索の旅のはじまりだった。2枚目は、それをもっと深く探っている。わたしにとっては、曲を書く、作品をつくるということが、黒人としての自分を理解するエクササイズなの。

プレスリリースによれば、『Nevaeh』は「黒人女性であることの経験の反映」であり、「黒人女性たちが終末的状況から抜け出し、より良い新しい世界を見つけるための祈り」だそうですね。“BELIEVE Interlude” でも「世界をより良く」ということばが繰り返されます。黒人でありかつ女性であることは、合衆国においてどのような経験なのでしょう?

M:それはアメリカに住んでいてもよくわからない。数年前にセラピーに通ってて、セラピストから「あなたはどう思う? どう感じる?」って聞かれたけど、わからなかったの。そんな質問初めてだったし。曲を書くということが、その答えをみつけるのに役立つの。わたしはなにを感じてなにを求めているのか。最初のアルバムはその答えの探索の旅のはじまりだった。2枚目は、それをもっと深く探っている。わたしにとっては、曲を書く、作品をつくるということが、黒人としての自分を理解するエクササイズなの。

冒頭のスキットでは、詩人ルシール・クリフトンの詩「won’t you celebrate with me」が朗読されています。現物は未確認なのですが、日本では彼女の児童書『三つのお願い(Three Wishes)』が小学校の教科書に載っているそうです。彼女はどのような詩人なのですか?

M:あの詩は、ここ数年インスタグラムにたくさん載っていたの。最初に読んだとき、ちょうどサンドラ・ブランドとかエリック・ガーナーの事件(註:前者は2015年、警官により暴力を受けた後、独房で死体となって発見された黒人女性。後者は2014年に警官の絞め技により殺された黒人男性)なんかについて考えさせられていたときで、どうやって黒人たちがこの状況を生き延びて、世界をより良くできるのか考えていた。そんなとき、あの詩を読んですごく美しいと思ったのよね。読んでいて涙が出てきたくらい、つながりを感じた。あの詩を使ったのは、わたしがこのアルバムで表現しようとしている空間の枠をつくり出す良い方法だと思ったからよ。

原詩の「バビロンに生まれた/非白人であり女性(born in babylon / both nonwhite and woman)」の「nonwhite」の部分を「black」に言い換えていますよね。それは非白人全般ではなく、あくまで黒人であることを強調したかったから?

M:そう。彼女が詩を書いたのは90年代だったから、「black」ということばをダイレクトに書けなくて、「nonwhite」にすることで意味をより開けたものにしたんだと思う。でもいまは2020年だから、黒人として生まれ育ったなら、そのひとの主張は黒人の主張だとハッキリ言えるし、「nonwhite」だと白人が中心っぽくなってしまう。わたしはその詩を白人だけが中心に聞こえるようにしたくなかったから、少し変えたの。

おなじくフィラデルフィアを拠点に活動しているムーア・マザーについてはどう思っていますか?

M:わたし、じつは去年の11月にブルックリンに引っ越したところなの。ムーア・マザーの音楽は好きよ。いいと思うわ。

※本インタヴューは、ジョージ・フロイド事件以前の2月におこなわれたものです。

質問・文:小林拓音(2020年7月04日)

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