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 interview with  Richard H. Kirk(Cabaret Voltaire)

interview with Richard H. Kirk(Cabaret Voltaire)

キャバレー・ヴォルテールの完全復活

──リチャード・H・カーク、インタヴュー

質問:野田努    通訳:坂本麻里子   Nov 16,2020 UP

 ドイツ人のフーゴー・バルがチューリヒにダダイズムの拠点として〈キャバレー・ヴォルテール〉を開店したのは第一次大戦中の1916年のことだったが、イギリス人の当時18歳のリチャード・H・カークがシェフィールドでスティーブン・マリンダーとクリス・ワトソンの3人でキャバレー・ヴォルテールなるバンドをはじめたのはロックがますます拡張しつつあった1973年のことだった。そもそもキャブスは、イーノが提言する〈ノン・ミュージシャン〉の考え(楽器が弾けなくても音楽はできる)に共感して生まれたミュージック・コンクレートのガレージ版だった。テープ・コラージュ、そして電子ノイズとドラムマシンとの交流によってスパークするそのサウンドが、やがては“インダストリアル”と呼ばれることになるものの原点となる。
 それから歳月は流れ、リチャード・H・カークがキャバレ-・ヴォルテールの26年ぶりのアルバムをリリースするのはコロナ禍の2020年11月のこととなった。ほかの2人はとうにバンドを離れている(ワトソンは録音技師。マリンダーは大学の教職)。いまや、というか20年以上前からキャブスはカークのユニットになっているし、カークはいまもシェフィールドで暮らしている。

 キャブスにとっては、サーカスティックな楽器演奏よりも機械じみた単調なビートのほうが、煌びやかな音色よりもノイズのほうが、こ洒落たカフェよりも灰色の廃墟のほうがスタイリッシュで魅力だった。そうした美学/コンセプトを守りながら、時代に応じてそのサウンドを変えてきたキャブスだが、喜ばしいことに新作『Shadow Of Fear』においてまたあらたな局面を見せている。聴いて思わず、ワォって感じである。つまり、音が鳴って1分後にはその世界に引きずり込まれているのだ。初期のざらついたサウンドコラージュに強力なインダストリアル・ファンクが合体したそれは、ひと言で言えばパワフルで、圧倒的だ。26年ぶりに駆動したエンジンは、錆びていないどころか、むしろ活動休止前よりも、烈しく回転している。
 リズムの根幹にあるのはエレクトロやテクノだが、アルバムにおいてブラック・ミュージックからの影響が伺えることは、キャブスの新作を聴くにあたって興味深かった。1曲目の“Be Free”などは“Nag Nag Nag”をシカゴ・ハウスに落とし込んだかのようだし、最後の曲“What's Goin' On”は、その曲名からも70年代ソウル/ファンクのキャブス版とさえ言える。つまり、ディストピアを描いてはいるが、『Shadow Of Fear』は素晴らしくエモーショナルだったりするのだ。
 彼に電話した坂本麻里子さんよれば、取材中は苦笑いが多く、いかにも北部人らしいアイロニーとペーソスが感じられたとのこと。要するに、あんま偉そうなことは言わないし、尊大でもない。それがまあ、インダストリアル・サウンドのゴッドファーザーの言葉なのだ。

あからさまなスローガンをやるのは自分はごめんだ。なにもかもが政治的なんだしね……。ただ、いまの状況の在り方というのは……人びとも政治を意識せざるを得なくなっているんだと思う。

もしもし、カーク氏ですか。

リチャード・H・カーク(RHK):やあ!

今日はお時間いただきまして、ありがとうございます。

RHK:どういたしまして。

まずはアルバムの完成とリリース、おめでとうございます。

RHK:うん。

ソロ名義でも長らく活動され、なおかつご自身のレーベル〈Intone〉からは多数の名義での作品を出されているあなたが、26年ぶりにキャバレー・ヴォルテール名義でのアルバムを出すとは嬉しい驚きでした。

RHK:ああ、それはよかった。君が作品をエンジョイしてくれたらいいなと思っているよ。

はい、とても楽しんでいますので。

RHK:そうか、それはいい!

(笑)で、2014年にベルリンのフェスティヴァルで行われたキャバレー・ヴォルテールの12年振りのライヴが契機となったそうですが、もはやオリジナル・メンバーがひとりとなったキャブスと、あなたのソロ活動との違いについて、どのように考えていたのですか?

RHK:フーム、まあ、かなり区別しにくいってことももたまにある。ただ、今回の作品に関しては……主にキャバレー・ヴォルテールとして作ったね。というのも、いま言われたように、2014年以来、わたしは毎年ライヴをやってきたし、1年ごとにキャバレー・ヴォルテール向けのライヴ・セットをアップデートし続けていたんだ。で、その結果として3時間にのぼる新たなマテリアルが、純粋にキャバレー・ヴォルテールとしての音源が手元に集まった、と。キャバレー・ヴォルテールとして、ステージ上で、実際に生で演奏してきた素材がね。
 ただ、この話題についはあまり長く引きずりたくないな。というのも、この点(キャバレー・ヴォルテール名義を用いること)について自己正当化をやる必然性は感じないから。実際、キャバレー・ヴォルテールの他のメンバーの2名は……うちのひとり、クリス・ワトソン、彼は1981年にやめてしまったんだし(苦笑)──

(笑)大昔ですね。

RHK:(笑)そう、その通り。だから彼はまったく関与していない。それにもうひとりのスティーヴン・マリンダー、彼も1993年にはバンドをやめている。というわけで、自分の立ち位置を正当化しようとするのは自分にとって意味のないことだ、ほとんどそれに近い思いをわたしが抱いているのはどうしてかを君にも理解してもらえるはずだよ。それに、彼ら2名が関わるのをやめて以降の歳月のなかで、わたしは旧カタログの再発や(ゴホッ!と咳き込む)リミックス制作といった諸作業をこなしてきたし……キャバレー・ヴォルテールの過去全体を管理監督してきたんだよね。
 だから、この段階に進むのは自然なことと思えた──いやもちろん、このプロジェクトをライヴの場で再び提示することに興味を惹かれた、というのはあったよ。でも、わたしはこれまでキャバレー・ヴォルテールのキュレーションを担当してきたわけで……とにかく思ったんだよ、(「すまないね」とゴホンと咳き込みつつ)……となれば、次のステップとして理にかなっているのは、過去に留まるのはもうやめにして新たなレコーディング音源をいくつか作ることだろう、と。その結果生まれたのが『Shadow Of Fear』というわけだ。(ゴホゴホッと咳き込む)

1曲目の“Be Free”を聞いたときに、正直感動しました。紛れもなくキャブスの音でしたし、しかも、そのリズムにはフレッシュで力強いモノを感じました。

RHK:なるほど。

また、ナレーションのカットアップがありますよね。部分的に聴き取れる「I did it, I killed it, by mistake(俺はやった。間違えて殺した)」「This city is falling apart(街が崩れ落ちていく)」といった言葉があって、ディストピックなイメージをもたせながら──

RHK:うん、思うにあれは……おそらくあれは、偶然ああなったのかもしれないし、あるいはもしかしたら自分には……なにかが起こりつつある、そうわかっていたのかもしれない。で、ほら、我々はいまやああいうディストピア的な立場に立たされているわけだろう? ブレクジットがあり、そしてミスター・トランプが登場し……そのアメリカは、(苦笑)あと4年も彼につきあわされるかもしれない、と。

それは考えたくないです。

RHK:どうなるかわかないとはいえ、実に憂鬱にさせられる。それにヨーロッパでは──日本に行ったことはないけど、あちらではウイルス禍を越えたようだよね? でも、こちらでは……いままさに……本当に、何千人もが日々感染している状態で、病院のベッドが足りなくなるかもしれない。要するに、コロナ禍の初期段階のイタリアがどうだったか、という状態に戻りつつあるということだよ。一方、イギリスでは、政府が……やれやれ(苦笑)、英政府はこれにどう対処すればいいかさっぱりわかっていないらしくて。無能だね(苦笑)。

ええ……。で、先ほどの質問の続きなのですが、暗いムードに抗うように「be free」という前向きさ/楽天性を仄めかすような言葉がミックスされる。強度のあるビートのなか、相反するふたつのヴィジョンが衝突しているかのようなこの1曲は、今回のアルバム全体を象徴しているように思うのですが、いかがでしょうか?

RHK:うん、それは非常にいい解釈だよ! ただまあ、わたしはあまりはっきりとさせたくない方だし(苦笑)──

ですよね。

RHK:それよりも、聴いた人間がそれぞれに解釈し、自分自身で判断してもらう方が好きなんだ。そうした解釈の方が、(苦笑)わたし自身が言わんとすることよりもはるかに興味深いことだってときにあるからね。わたしのやっていることというのは、実のところ、「ムード」を作り出しているに過ぎない。そうやって、雰囲気であったりテーマめいたものを設定しようとトライしているし、その上で、それがどこに向かっていくかを見てみよう、と。

今作を制作するうえでのあなたのパッションの背景にはなにがあったのでしょうか? ひとつは、とにかく新しいキャブスを2020年代に見せることだと思うのですが──

RHK:もちろん。

テーマであったりコンセプトを決めるうえで、あなたにインスピレーションを与えたものになにがありますか?

RHK:(ゴホンゴホンと咳き込む)失礼……あー(と、言いかけて再び激しく咳き込む)。

大丈夫ですか?

RHK:水を飲み過ぎて……あー、そのせいで(盛んに咳払いしながら)喉がいがらっぽくなってしまったな……ウイルスに感染してはいないはずなんだが(苦笑)。

咳が落ち着くまで、少し待ちましょうか?

RHK:いや、大丈夫だ、続けよう! で……そう、インスピレーションはなにか?という質問だったよね。んー、わからない。

はあ。

RHK:(苦笑)。だから……作っていくうちになにかが浮かび上がってきた、としか言いようがないというのかなぁ。先ほども言ったように、素材の多くはライヴ・ショウ向けに作り出したものだったわけで、それは本当に、非常に……実に剥き出しの未加工な状態であって、いま、君がアルバムとして耳にしているものほど聴きやすくて、磨かれたものではなかったから。
 というわけで、このプロジェクトのそもそものインスピレーションは、ライヴ・パフォーマンスのために作り、書いたコンポジション群をCDなりヴァイナル・アルバムの形で何度でも繰り返し聴くことのできるものに作り変えよう、というものだったんだ。したがって、その素材からなにかを取り去る一方で、特定のヴォイス群を始めとする様々なディテールをそこにつけ足していく、という作業になった。でも……うーん、「ああ! そう言えばこれにインスパイアされたっけ」といった具合に、この場でちゃんと君に答えられるようななにか、それは本当に、とくにないんだ。

なるほど。いや、特定したくないということであれば構いませんのでお気になさらず。

RHK:いやだから、言えるのは……直観にしたがって作った、ということだね。ほとんどもう……スタジオに入った時点で、自分はなにをすべきかがわかっていた、みたいな? ただし、その直観がどこからやって来たのか、その出どころは自分でもわからない、という(苦笑)。

(笑)あなたにはシャーマンや霊媒みたいなところもあるのでは?

RHK:ん~~? うん……まあ、その考え方はあんまり間違っていないかもしれない。とにかく自分自身の意識のなかで起きていること、そしてその次元を越えたところで起きていることとチャネリングしているだけだし……で、それらを自分以外の他の人びとも理解し、そのなかに飲み込まれることのできるなにかへと翻訳していこうとしている、という意味ではね。

質問:野田努(2020年11月16日)

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