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Flying Lotus

Flying Lotus

L.A. EP CD

Warp/Beat

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野田 努 Nov 12,2009 UP

 スティーヴ・エリソン、フライング・ロータスの名で知られるロスのトラックメイカーは、往々にしてJ・ディラ以降と位置づけられる(『ピッチフォーク』を参照)。が、本人がそれを歓迎している様子はない。たしかにエリソンは、神話化されはじめたデトロイトのトラックメイカーと違って、ダブステップやアンダーグラウンド・シーンとの太いパイプを持ち、その向こう側には広大なエレクトロニックな荒野も見渡せる。彼にとっての最高の影響がスヌープ・ドギー・ドッグの『ドギー・スタイル』(1993年)であろうと、彼の音楽は旧来のエクスペリメンタル・ヒップホップの領域のみならず、ダブステップはおろか、たとえばオウテカのアンビエントにまで拡張されているように思える。まずはこの幅広いアプローチにおいて、その活動領域において、彼はインスト・ヒップホップの最先端にいる。

 そして、その奇妙なハイブリッド感は、少なからず彼の育った環境によるものだと思える。「俺がヒッピーだって? そうさ、俺の連れの多くがビートニクのヴァイブを持ったヒッピーなんだよ」、エリソン、すなわちアリス・コルトレーンの甥は、『ガーディアン』がノー・エイジなど新しいLAシーンをレポートした記事のなかでこう語っている(2008年9月6日)。エリソンは続ける。「俺らはいま、経済と戦争の奇妙な移行期の真っ直中にいる。みんなが石けん箱を投げつけて、世間に向かって叫びたくなる時代なんだよ」

 彼の音楽が「世間に向かって叫ぶ」類のようなものかはわからないけれど、しかし、ロス・アンゲルスという街における独特の空気を彼が表現しようとしているのは、昨年のセカンド・アルバムのタイトルからもわかる。耳障りなビートが加速するかと思えば、それは空間に吸い込まれ、ゆったりとする。彼の特徴は、まるで静電気のようにパチパチと耳元で聴こえるノイズとスライドしてずれていくような、あるいは腐敗していくようなビートにあるが、それはラップトップの使い手とBボーイのあいだを往復するかのような感覚によって操られる。サイケデリックで実験的だが、しかしソウルフルでもある。そしてこれは、およそ10年前に同じ街でマッドリブがリサイクルしたソウルやファンクのループとは異なる、いまの時代における新たなムーヴメントの最良の部分なのだ。

 昨年の本当に素晴らしいアルバム、『ロス・アンジェルス』を発表後、スティーヴ・エリソンは、UKのダブステップ・シーンにおいていくつかの作品を発表している。ブリストルの〈テクトニック〉、ロンドンの〈ハイパーダブ〉や〈プラネット・ミュー〉、いまシーンでそれなりの力を持っているレーベルから、ファンの高まる期待に応える内容のトラックを提供している。そして『L.A. EP CD』は、昨年からこの夏にかけて彼が〈ワープ〉から発表した3枚のシングル(リミックスを含む)をまとめたものとなる。さすがに『ロス・アンジェルス』ほどの緊張感はないものの、リミキサーの人選もさることながら、このシーンの面白さがよくわかり、このジャンルの可能性を感じることができる好盤となった。リミキサーに関しては、まず彼の周辺で言えば、ラス・G、ノサジ・シング、サムアイヤ、イグザイルといった連中、ダブステップ系で言えば、ブレイケイジ、マーティン、クアトラ330......等々で、興味深いのはそれらリミックスがこのアンダーグラウンド・ミュージックをそれぞれの方向で拡張しようとしていることだ。例えば、マーティンはハウシーなダブステップに転換して、イグザイルのリミックスは〈プラグ・リサーチ〉流の歪んだ空間を創出するように。今年の夏にリリースされた3枚目「EP 3 X 3」の1曲目を飾ったディミライト――〈ソナー・コレクティヴ〉で作品を出している――によるポスト・ソウルのダウンテンポも相当面白かったけれど、そのシングルの最後を飾ったレベカー・ラフ(ビルド・アン・アーク:LAを拠点とするスピリチュアル・ジャズ集団)による美しいリミックスも印象的だった。ハープの音色を使って、アリス・コルトレーンへのオマージュとして"Auntie's Harp"を作りかえている。
 そういう意味で『L.A. EP CD』は、フライング・ロータス関係の15アーティストが参加したコンピレーションとしても楽しめる。新しいものに臆病にならなければ、やがて訪れる未来の兆候が聴こえるかもしれない。

野田 努