Home > Interviews > interview with Hot Chip - いいですか? 絶対に真実は言わないください
まずインターネットの性質として、絶対に間違いがないということ。インターネットに表示されるあらゆることはすべて真実であるということ。つまり、今日、僕たちに与えられている答えというのは......
■ご存知のとおり。昨年に僕がロンドンに行っておふたりに会う前には、日本では地震がありました。
アル:はい。
■地震と津波によって原子力発電所がとても危険な状態になって、現在でも日本に住んでいて安全なのかどうかが実際にはわかりません。イギリスは最初に原発事故を経験している国ですよね。そこで、おふたりの原子力についての見解を教えてください。
アル:これで本当の意見を言えないのは大変なことになるよ!
野田:俺もそう思う。
アレクシス:ある性質があって......。
アル:了解、大丈夫だよ。
アレクシス:僕が思うにはね、まずインターネットの性質として、絶対に間違いがないということ。インターネットに表示されるあらゆることはすべて真実であるということ。つまり、今日、僕たちに与えられている答えというのは......、エラーが起こる余地はなくて、現に僕たちもこうやってインタヴューで完全に真実を答えていることからも、それがわかるでしょう。
野田:ははははは。
アレクシス:インターネットは情報を発信していくのに最適な場所だから、なんのリスクもない。つまり言えることとしては......、僕たちは、原子力についての見解もインターネットの皆さんに任せます。
野田:そうきたか、なるほどねえ。
アル:ふふふふ......(苦笑)。
アレクシス:政治家っぽいでしょ。
アル&野田:だははははは。
野田:でも、ここはルールを解除して続けましょう。
■オッケー。嘘ではなくて本当のことを。
アレクシス:でも僕たちがそのルールに則っているかってどうやってわかるの?
野田:逆襲されたね。
アレクシス:真実かどうか推測しなくちゃならないよ。
■了解しました。
アル:日本ではすべての原発は止めたのだっけ?
■残念なことに再稼動されようとしています(註:取材は6月22日)。
アル:ジェームス・ラヴロック(James Lovelock)という科学者(環境学者)がいて、彼は『ガイア理論(Gaia Theory)』を提唱して、書物を発表してるんだ。そこには、事故が起きた際の怖さや危険性があるのは承知しつつも、必要とされている電気を供給するには、他に代替エネルギーがない限りは基本的に原子力を利用しなければならないとある。イギリスだけでなくヨーロッパでも原子力利用に反対するムーヴメントはあるんだけど、まだ誰も十分な代替案を伴ってはいないんだよね。
もちろん、原子力利用だけが答えじゃないよ。エネルギー使用を抑えるということもできると思う。この問題はもっと議論を深めないとならないことだよね。たとえば、チェルノブイリにしても、人間には大変な悪影響を及ぼしたけども、事故現場の周りでは自然の生態系は問題なく生きていた。そこでジェームス・ラヴロックが面白い提案をしていて、放射性廃棄物をアマゾンの奥地に移せばいいと言ってたんだ。そこに住む生物は構わないだろうし、ジャングルにも全体的に影響はない。人間はそこには絶対行かないしね。これもひとつの意見だよね......とはいえど、こういった話はミュージシャンが発言していいとは思わないけど......。
(註:ジェームス・ラヴロックは、コーンウォール在住のイギリスの環境学者で、地球をひとつの生命体という視点からエコロジーを論じた1979年の『地球生命圏 ガイアの科学』は日本でも話題となった。彼の理論に対しては批判もあり、温暖化に関する諸説には本人も過ちを認めている)
■ふむ。
野田:原発に関して言えば、日本には地震があるうえに、民間マターでダメだったのに行政も良いほうに機能してないし、電気料は根上がるし......深刻な状況にあるんです。でも、いまのような意見は日本ではなかなか言えないことのひとつだよね。
アル:たしかに僕がこういうことを言うのは簡単なことであって、日本では困難だと思うんだ。事故の記憶はまだ鮮明だから。ひとまず事故の記憶から距離を置けるようになってから判断をしていくべきかもしれない。何が起きているのかを明らかにしなければいけないし、政治家が結論を下すのも、事故からいくらか年数を経る必要があると思うんだ。
■ふむ。
野田:政府もこの数年でどんどん酷い事態になっているし......。
アレクシス:大きい規模の話のなかで意味があるかわからないけども......、あ、これは嘘じゃないよ、僕たちは津波の被災者のためのチャリティーに参加しているんだ。
■ふむ。
アレクシス:映像作家のグレゴリー・ルード(Gregory Rood)が明確な態度をもっているバンドを集めたミュージック・ヴィデオのシリーズがあって、そのうち一組がホット・チップなんだ。僕たちの曲"Look At Where We Are"のヴィデオを日本のアニメ監督に作ってもらって、ヴァースの部分でマヘル・シャラル・ハシュ・バズ(Maher Shalal Hash Baz)という日本のバンドをフューチャリングしたものを、今年の後半に出せればいいなと思ってる。レコーディングは済んでいるのだけれども、詳細がどうなっているかは分からない。この活動が、基金であったり、被災者にとって何らかの意味のあるものとして機能してほしいなと思っています。
■なるほど。Thank you!
アル:いいよ!(日本語で)「どういたしまして」。
■どうしよう、何か聞きたいことあったのにな......忘れちゃったな......。
アル:ふふふふ(笑)。
■これも嘘でなくて結構です。アレクシスはギターが上手いと答えてくれました。アレクシスはライヴのステージ上でギターを弾く時に"Hold On"でエフェクトを深くかけて弦をかきむしりノイズのような音を出したり、動きの小さいフレーズのみを弾いたりしていますね。ギターに対してコンプレックスがあるのかなと以前から感じていました。新曲の"Flutes"では「I put a prucked string today(今日は、弦楽器をひとつ乗せよう)/Beside a note you taught me play(きみが教えてくれた音色に合わせて)/A wooden box breathes away(木の箱が大きく息づいている)/Never again...Never again...(二度とない......二度とない......)」という歌詞がありますが、これはどういう意味なのでしょうか。実際のギターに関する体験なのですか?
アレクシス:これはギターに関して歌っているわけではないんだ。"Flutes"で僕が考えていたのは、僕の大好きなザ・ビーチ・ボーイズの音楽への認識についてで、あ、これも嘘じゃないよ。
アル:あはははは(笑)!
アレクシス:『ペット・サウンズ』は、音楽に何個も新しいタンブラーを導入して新しいテクスチャーを導入したアルバムだと思うんだ。ブライアン・ウィルソンは、普通だったらポップ・ソングでは同時に鳴らさないような楽器を重ねて、それぞれに同じラインを演奏させて、レイヤーを作ったからね。そこで僕がさっきの歌詞で考えていたのは、reed instrument(簧楽器)の隣でバンジョーみたいな「prucked string」(撥弦楽器)を鳴らすことで......。僕の音楽部屋にはペダルの付いたハーモニウムを持っていて、それが「A wooden box breathes away(木の箱が大きく息づいている)」の意味なんだ。だから僕が歌っていたのは、ブライアン・ウィルソンが僕の隣で演奏を聴いていて、アレンジを教えてくれている画なんだ。「wooden box」(ハーモニウム)を「prucked string」(撥弦楽器)の隣で鳴らすんだ、みたいにね。
■なるほど。
アレクシス:でも、なんで「Never again...Never again...(二度とない......二度とない...)」と歌ったのかはまったく憶えていないな。この曲の歌詞はジョーが新しい音楽を送ってくれることにとても関係してて......、だからたぶん、こんなに音楽的にエキサイティングな瞬間は二度とないかもしれないということを言っていたんだと思う。提供者であるジョーからこの曲を受けとって、唯一無二なクリエイションの時間に興奮しすぎてたんだね。
■ふふふふ。
アレクシス:そして、ギターに関して......ギターを弾くのは本当にとても好きだよ。いいサウンドは作れると思うんだけど、演奏に自信がない楽器は他にもあるんだ。アルはとてもいいギタリストだし、ロブ(Rob Smoughton。ホット・チップに初期から関わっており、現在もライヴやレコーディングに参加している。ソロ・プロジェクトはGrovesnor)もいいよね。ただ、オーウェン(Owen Clarke)も僕と同じで、あらかじめ決められた演奏はできるけど、ナチュラルにギターを弾くということができないんだ。でも、アルはスティール・パンとかフリューゲル・ホルンもここ数年で練習をはじめだしてステージでも演奏しているし、自信があって得意な楽器だけでなく、熟知してなくて自信がないような楽器にも挑戦していくことがいいと思っているよ。
アル:そうだね。
■なるほど。ありがとうございます。
アル:ありがとう。
■もう終わりの時間ですね。では、最後にひとつ嘘をついてくれますか?
アル&アレクシス:いいよ!
(アレクシス、声を抑えて笑う)
■いままでの人生で、嘘をついたことはありますか?
アル:ハハ、ハハハハハハハー......!
(沈黙、10秒)
(野田、耐え切れず声を抑えて笑う)
アレクシス:僕は嘘ばかりついて生きてきた。真実を話したのは、6月22日の12:20(註:インタヴュー開始時間)からだけで、それまでの32年間は嘘まみれの人生だった。
アル:ははは......そうだね(笑)。
野田:ふふふふふ(満足そうに笑う)!
アレクシス:付け加えておくと、僕はジャーナリストに真実を語ったことはないよ。
野田:うまい。Thank you very much for nice answers!
■ありがとうございました!
アレクシス&アル:ありがとう!
■Please take a rest(どうぞゆっくり休んでください)。
アレクシス:ははは!
司会と註釈:斉藤辰也(2012年7月09日)