Home > Interviews > interview with Evade - マカオで僕たちはゆっくりと殺されていく……
Evade Destroy & Dream Kitchen |
11月下旬に発売予定のレコード・カタログ、『テクノ・ディフィニティヴ 1963−2013』を野田努と共に書き進めていて、最後の章に設けられた「PRESENT」があと1枚書ければ終わりというところで僕は迷っていた。カナダのピュリティ・リングにするか、マカオのイーヴェイドにするか。香港が中国へと返還されたタイミングで法律が変わることを怖れた弁護士や医者はほとんどがヴァンクーヴァーに移住したという話は聞いたことがあるけれど(いまやホンクーヴァーと呼ばれている)、続いてポルトガルからマカオが返還された際にモントリオールに人が動いたという話は聞いたことがないから、カナダとマカオには何ひとつ接点はないだろうし、どちらもいわゆる4ADタイプのサウンドだという以外、共通点はない。この比較は難しい。強いていえばどちらがよりテクノかなーということを考えるだけである。どちらにしたかは...発売日を待て(なんて)。
前号のエレキングに載せるつもりで『デストロイ&ドリーム』をリリースしたばかりのイーヴェイドにインタヴューを申し込み、さっそく質問を送った直後に尖閣問題が浮上。東京都民が4度に渡って選んだ男が中国との戦争も辞さずなどと快気炎を上げてしまったためか、中国での暴動は官製デモというやつだったらしいけれど、肝心のイーヴェイドからもまったく返事が来なくなってしまった。チン↑ポムに聞いたところでは上海ビエンナーレにも日本の芸術家はほとんどが欠席だったそうで(林くんは夜の街で大変なことに...!)、政治と芸術が絡み合う楽しい季節の到来かと思いきや、質問に対して真剣に考えていたら遅くなってしまったということで日中問題を超えて届けられたインタヴューを以下にお送りいたしましょう。ヴォーカルと歌詞を担当するソニア・カ・イアン・ラオ、ギターのブランドン・L、プログラム担当のフェイ・チョイの3人がそれぞれに答えてくれました。
ソニア
"インサイド/アウトサイド"は、自分たちの運命をコントロールできない人たちについて書きました。時々、私たちはなぜこの世界に存在しているのかわかなくなります。たくさんの疑問に取り囲まれていて、たくさんの状況が私たちの心や価値を苦しめます。
■マカオではあなた方は突然変異? それとも同好の音楽仲間はけっこういるんですか? マカオの音楽状況も併せて教えてください。
ブランドン:マカオは人口50万の小さな都市なので、大きな音楽シーンはありません。ほとんどの人は広東のポップ・ミュージックを演奏していて、ほんのわずかな人たちがエレクトロニックやインディを演奏しています。でも、幸運な事に状況はここ数年良くなってきていて、たくさんの若者たちが音楽で新しい事に挑戦し、発展しているところです。将来は、より大きな音楽シーンができるだろうと信じています。
ソニア:私見ではマカオのミュージック・シーンは多様だといえます。しかし、それは音楽の砂漠ともいえます。多様な理由はたくさんのポップス、ロック、ポスト・ロック、メタルロック、ジャズなどのミュージシャンがいるからです。そして、音楽の砂漠という意味は、お金になる音楽しか作らなかったり演奏しないミュージシャンが多く、そのような人たちは政府の助成金を利用することが可能なのです(マカオの政府はアートのグループや、ミュージシャン、ドラマ制作などに助成金を出しています)。助成金のせいで自分の作品に自己満足してしまうアーティストたちがいて、私はそのような状況に不安を覚えます。
■マカオが中国に返還されて13年。マカオでは日常的にポルトガル文化と中国文化がせめぎあったりしているんでしょうか? 可能ならあなたがたの文化的バックボーンを教えて下さい。
ソニア:過去、マカオはとても平和な場所で、マカオの人たちはとても純粋でした。現在、マカオにはたくさんのカジノが建ち、たくさんの観光客が毎日訪れていますが、そのことによって私たちは平穏を失ってしまいました。さらにマカオの人たちは物の考え方も変わってしまったようです。健康、家族、友情、愛とは対照的に、彼らはお金や地位がすべてに勝ると思っています。この社会が発展しているのか後退しているのか私にはわかりません。私は昔の平穏なマカオが好きでした。一方では、複雑になったマカオについて深く考えさせられることもたくさんあり、それは私の音楽にいろいろなアイデアを与えてくれます。もしマカオが昔のように平穏だったら、社会や世界の問題についておそらくはあまり考える事はなかったでしょう。
(注*外側から見ればマカオはいま、カジノができたりして様々なことが起きつつあり、「もっとも面白い街」といったようなことが言われているけれど、住んでいた人たちにとっては単に「面白い」では済まない変化だということが彼女の答えからは察せられる。東京都民が4度に渡って選んだ男が東京にカジノをつくろうとしているのは、彼が目の敵にしているパチンコ店を壊滅させ、ウソかホントか半島への送金を止めさせたいのが主な動機で、要するに人種差別が発想の根幹にはある。それは東京に「面白い」変化をもたらすだろうか)
■8年前にイーヴェイドを結成したきっかけは? 〈4daz-le Records〉というのは、あなたたちのセルフ・レーベル?
ブランドン:最初はソニアと僕が同じバンドで演奏していました。2004年に僕らはダンス・ミュージックのパーティでフェイと出会い、お互いエレクトロニック・ミュージックを作りたかったので、イーヴェイドを結成しました。〈4daz-le Records〉はマカオのエレクトロニック・ミュージック・レーベルで、有名なマカオのミュージシャン(Lobo lp)のレーベルです。僕たちのファーストEPは2009年に〈4daz-le Records〉からリリースされました。
ソニア:私たち3人の相性はぴったりです。みんな音楽が大好きで、音楽を作るのも大好きです。自分たちのやりたい事ができることをとてもラッキーだと思います。
■ファーストEPに収録された"シーサイド"では「会社にいて、窒息しそう(In the company,I can't breath)」、"インサイド/アウトサイド"では「外に出たくない(I don't go outside)」「先のことは考えたくない(I don't see the future)」と、追い詰められて死にそうな人たちに思えるのですが、辛い毎日を送っているのですか?
ソニア:私が両方の曲の歌詞を書きました。"シーサイド"は、毎日、オフィスで働いている女性がいつか海辺に行って休暇を取りたいと思っていることを書きました。でも、実際には思っているだけで仕事のせいで海辺に行くことができなかかったのです。"インサイド/アウトサイド"は、自分たちの運命をコントロールできない人たちについて書きました。時々、私たちはなぜこの世界に存在しているのかわかなくなります。たくさんの疑問に取り囲まれていて、たくさんの状況が私たちの心や価値を苦しめます。私たちは自分たちの人生を理解するために「外側」へは行けなくて、ただ漠然と「内側」に留まっているのです。私は本を読んで、人生、死、魂、運命、UFO、昔の宇宙人、神秘的なことなどを調べるのが好きです。自分が書いた曲のどれかがリスナーにちょっと重いと思わせるのは、たぶんそのせいだと思います。
フェイ:僕の意見では、"イエス"と言えます。人生は難しいし、この社会にはうんざりすることがあります。もしこの街で生き延びたいのなら、自分の人生を意味のない仕事や教育に費やす必要があるでしょう...。しかし、悲しいことにそれが高水準な生活をもたらすわけではないのです。たとえ一生懸命働いたとしても。なぜなら、僕たちの街ではすべての物価が狂ったように高いからです。この社会に僕たちはゆっくりと殺されていくでしょう。でも、他に選択がないのです...。
■「回避する」というバンド名は逃避的な気分を表していますか?
ブランドン:バンド名は僕がつけました。実のところ、この名前には特別な意味はなく、聴く人の解釈に任せています。
文:三田 格(2012年11月16日)