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三田 格   Aug 02,2012 UP
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E王

 マカオからダブステップ・ヴァージョンのコクトー・ツインズによるセカンド。ソニア・カ・イアン・ラオ(ヴォーカル)、ブランドン・L(ギター)、フェイ・チョイ(プログラム)からなる3人編成。クアラ・ルンプールのミュー・ネストやジャカルタのワハナと並んで注目されるシンガポールのキッチンから。デザイン・チームがはじめたレーベルだけあって折り紙式のジャケットもフェティッシュ係数が高い。

 都会と自然というのか、交通事故を思わせるようなクラッシュ音と人里離れた場所から聞こえる幽玄な響きがけっして溶け合うことなく、共存しながら互いを引き立て合っていく。なんだろう、これは。人種政策でいえばフランス式の同化政策ではなく、アメリカ式のサラダ・ボウルを思わせる見事なミックス・センス(......レコーディング技術の頂点とか最先端がポップ・ミュージックのかたちをとって表れたような気までしてきた)。ミュージック・コンクレートやダブもひとつの楽器のようにして扱われ、しかも、ポップ・ミュージックから大きく踏み出すこともない。『空中キャンプ』も『ファンタズマ』もすっかり過去のものになっていく。日本、終了。水戸藩の皆様、ご苦労様でした(ボーナス・トラックには日本からオカモトノリアキら3組がリミックスを提供)。

 試聴(ダイジェスト)→http://soundcloud.com/(詳しいバイオグラフィーも)

 オープニングは昔日のフォーテックを思わせる「忘」、ジョン・ケージも沈黙してはいられない「無題夢」、空中遊泳のようなレゲエを聞かせる「尋抜佛洛依徳的虚無瓢翔(フロイトを探して)」......と、日本でも人気のあるマレーシアのフリカやシンガポールのアスピディストラフリーとは次元がまったく違うし、もしかすると、そうやって日本のエレクトロニカなりを模倣し続けたアジアのミュージシャンから、そのような試行錯誤を踏み台にして、その上を行く才能が開花したということなのだろう。つまり、日本のミュージシャンにもこれをつくるだけの条件は同じように整っていたはずで、もっといえば、なんのために、日本は『空中キャンプ』や『ファンタズマ』を生み出してきたのかということでもある。

 10年前、世界で人気のあるゲームの人気投票をやれば100位中93本が日本のゲームだったという(いまはゼロに近い)。アジア中で放送されていた日本のTVドラマはもちろん韓流にとって代わられた。日本の映画が海外に売れることは皆無に近い。アニメもマンガもまるで人気がなくなり(トロントでは5年ぐらい前から大学で日本語の授業を取る学生が減り出したと聞いた)、ストリート・ファッションは少しがんばっているようだけど、〈アタ・タック〉や〈サブライム・フルクエンシーズ〉が沖縄民謡や演歌のコンピレイションをリリースすることはあっても、ボアダムズのように海を越えて影響を与える現在進行形の音楽も存在しない。責任の一端は政府にある。クール・ジャパンを持ち上げていたのに、その才能に投資することもなく、どこからか搾り出した予算を大企業の宣伝費に回していたことがすっぱ抜かれたのである。そのことを知ったのだろう。今年の1月、村上隆は以下のようなツイートをしている。「大手広告代理店の皆様! 行政の皆様! 告知です。村上に「クールジャパン」関連のイヴェントへの参加、インタヴュー、諸々のオファーはしないでください。村上は「クール・ジャパン」とはいっさい関係がありません」と。ル・モンドが「いまや日本文化は世界で1人勝ちだ」と書いたのも10年前。音楽だけでなく、あらゆるジャンルで日本にはクリエイターが育たず、せっかくの文化的蓄積を食いつぶしてしまったのである。そして、いまはガラパゴスを決め込み、J・ポップを聴いていれば洋楽を聴く必要はないと開き直っている。......動物化とはよく言ったかもしれない(いいものだってある。でも、それが日本で人気を集められないことはさらに深刻な事態を意味していないだろうか)。

 香港に続いてポルトガルから中国に返還されたマカオがどんな文化的背景を持っている国なのか不勉強でよくわかっていないので、ここで彼らがレゲエを巧みに引用したり、ノイズを混ぜてみたりするときに、どのような文化的意味が生じているのかということが僕にはまったく理解できていない。いわゆる無国籍サウンドとして響くだけだし、それが余計に日本との距離を縮めて感じさせる。イヴェイドとは「回避する」という意味である。何を? どうやって?

三田 格