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Home >  Interviews > interview with MARIA - 音楽と、ちょっとセクシーな話

interview with MARIA

interview with MARIA

音楽と、ちょっとセクシーな話

――マリア、インタヴュー

橋元優歩    Dec 13,2013 UP

MARIA・ザ・マザー
境遇、について
ヒップホップは近道ではない
欲深くて、愛しい
音楽と、ちょっとセクシーな話
人任せじゃダメなジェネレーション
アンチ・アンチ・エイジング
音楽と、けっこうセクシーな話

ヒップホップは近道ではない

やっぱり、みんながオラオラしてるあたしを期待してるわけじゃないですか。そして実際問題、あたしはそれに応えたくてしかたないんですよね。

そうなんですね。そういった話が引き出されてくるのも、シミラボではなくソロだからこそという感じがします。逆に、せっかくのソロだからということで、意識して取り組んだ部分っていうのはありますか?


Maria
Detox

SUMMIT

Tower HMV Amazon iTunes

MARIA:やっぱり、ビートですね。シミラボで作るってなると、やっぱり男が多いから男のセンス寄りになってると思う。みんなには悪いけどね(笑)。“ローラー・コースター”って曲があって(“Roller Coaster feat. JUMA,OMSB”)、超ノリノリなんだけど、たぶんシミラボでああいう曲をやることはないと思う。どちらかというと、「自分はこうで、お前はこうで、世界はこうなんだぜ」って言い聞かせるのも大事かもしれないけど、それよりもその場の一体感が好きで。みんなで楽しもうよっていう曲を意識したかもしれないです。

ああ、なるほど。わりと後半はアブストラクトな流れになるというか、サイケデリックでぼんやりとした曲調になっていきますよね。それは、より内面に向かっていくっていうようなこととリンクしていたりしますか?

MARIA:そうですね、ビート自体ははじめからこのテーマでいこう、というのがあって。ふだんいろいろと考えることが多くって、自分のアルバムだから自分の価値観で書いたっていうのが、後半は出ているかもしれない。もともとあった気持ちと、入ってきたビートがたまたまぴったり合ったっていうこともあるかも。後半の“ユア・プレイス”っていう曲と、“ディプレス”(“Depress feat. ISSUE”)、このふたつはちょうどぴったりきた感じですね。

後半のほうが、その意味ではストレートというかナイーヴな部分に触れるものなのかもなと思いました。

MARIA:そうですね。“キャスカ”とかは実際強く見られるけど、いまシミラボを何千人もの人が知ってくれるようになって、そのひとりひとりに「ちょっと待って、じつはあたしはこういう人で……」とかって説明できないじゃないですか。だから(自分のことは)言いたいように言ってくれよって思ってるんだけど、実際にラップをやってなかったら、あたしは超ふつうの人なわけだから――いまもふつうの人だけど――奥さんとかになって、彼氏とかに献身的に尽くしてたと思いますね。

うーん、尽くす。でも実際にラップをやってなかったら……って選択肢はあったんでしょうか?

MARIA:いまはほんと、そういうふうには考えられないけど、でもいまだにラップやってることが不思議なことはあるかな。子どもの頃がいちばん弱かった時期だから……。家庭もそうだし、自分が置かれている環境(米軍基地と日本の学校との往復)もそうだし、自分を打ちのめす出来事が多くて。でもそんななかで、ヒップホップの「ワルそう」な感じにはインスパイアされたんですよ。自分をオラオラさせてくれる。

そうか、本当に必要に迫られた、武装の手段でもあったわけですね。

MARIA:そうそう。だからいまでもそうなんですけど、ライヴするたびにすごく緊張するんですよ。やっぱり、みんながオラオラしてるあたしを期待してるわけじゃないですか。そして実際問題、あたしはそれに応えたくてしかたないんですよね。もちろん楽しんでほしいとも思うし、あたしのことを、あたし自身が憧れてきたラッパーたちみたいに思ってくれる子がいたらうれしいし。逆に、ヒップホップは自分にとっては武装だし居場所でもあったから、今度はあたしが逃げ場になってもいいなって思ってるかな。

ああ、すごい。MARIAさんは担いだ神輿に乗ってくれるんですよね。そして、ふだん多くの人が抱えている負の思いを引き受ける存在。まさにスターとかヒーローの役割です。言い方が少し大げさになりますが。


ヒップホップは自分にとっては武装だし居場所でもあったから、今度はあたしが逃げ場になってもいいなって思ってるかな。

MARIA:やっぱり同じ人間だからね。そういうネガティヴなこととか文句とか、同じような気持ちになることは多いと思うんですよ。ヒップホップはそういう方向で発信しやすいというか。

たとえば、細かい事情は抜きにして、わたしだったらMARIAさんのお父さんを許せるだろうか、とか素朴に思うわけです。でもMARIAさんはそういうことをひとつひとつ許していく。そしてその一方で、“ヘルプレス・ホー(Helpless Hoe)”みたいに攻撃もするわけですよね。その攻撃性っていうのはやっぱりヒップホップのひとつのフォームとして演じているものなんでしょうか? それとも分裂しているものなんでしょうか?

MARIA:最近、考えていたんですよ、矛盾について。人間って結局のとこ矛盾してるなって。その意味では演じているというよりは、このアルバム自体が人格で、だから矛盾してるって感じ。あたしってけっこう気分がコロコロ変わるから、いいときには「みんなおいで~」って感じだけど、そうじゃないときは、何か言ってやろうって思うこともあるんですよね。
この“ヘルプレス・ホー”に関しては女性だけじゃなくって、男性についても言えることなんですよ。なんか、自分のゴールに向かって努力するのはいいことだと思うんだけど、その努力の仕方ってものがあるじゃないですか。たとえば女だったら媚を売って、すり寄って、玉の輿を狙って……って、近道しようとする人たちがいるじゃないですか。そういう感じが好きじゃなくて。要は真実じゃない愛とか真実じゃない気持ちっていうのが嫌い。すごく嫌いです。それは男の人にとってもそうで、上っ面しかないものが嫌ですね。

MARIAさんの気高さですね。こうしたリリックのなかに出てくる「あなた」とか「you」っていうのは、特定の対象を指していたりしますか?

MARIA:曲によりますけどね。たとえば、“ユア・プレイス”なんかは完全に過去の男たちですね(笑)。やっぱり、もとからラップをやっている人間って知ってて、そこを認めてもらった上で付き合いはじめる人ばっかりじゃないから。男の人って、女のほうがグイグイ前に出るのは嫌じゃないですか、たぶん。だからプライドの高い人と一緒になると、なんか、終わるっていうかね……。お互い疲れちゃうんですよ。あの曲はやっぱり、そういうときに頭に浮かんでた男性について書きました。

ああー。そういう「you」も、曲になると普遍的なものに聴こえてきますよね。ヒップホップがとくに歌い手と「I」とが一致しやすい表現フォームだということなのかもしれませんが、音楽とか文学とかアートとかって、自分っていうものを切って売っていかなきゃ成立しないものだって思いますか?

MARIA:それは思わないですね。ヒップホップ=ストリートから生まれたもの、リアルなものっていう話になるけど、自分は妄想とか想像力があるんだかなんだか、ひとりで家にいてもマジでファンタジーな感じなんですよ。もちろんリアルな自分の気持ちとか言葉を発信するんだけど、でもやっぱり邪念とかそういうのをなくして、理性とかも捨てて、楽しい気分になりたいときがあるじゃないですか。そういう意味ではけっこうファンタジックで無責任な言葉もあるのかなって思います。

自分の思ったこととか感じたことを書いてるだけなんで、結局スーパー・ストレートなだけなのかもしれない。ただ自分は、自分のスーパー・ストレート自体が他の人とは少し違うのかなって思うところはあります。けっこうマイノリティっていうか、信念とかの話になるとけっこうみんなとズレてるって感じ。大人になると汚れるとは言わないけど、どんどんしゃあない、しゃあないって流していくようになると思うんですよ。でもその「しゃあない」ってなってるときに、気高いほうの自分がそれを見たらめちゃくちゃ食らうっていうか……。どうしてこんなにブレちゃったんだろうって、呆然としたことがあったんですよ、前に。そこから、何が何でもブレないようにって思うようになって。


欲深くて、愛しい

どんなに理性でいまこんな話をしていても、実際に人間でいる上は罪深い、っていうか。人として生きていく限り、絶対最悪な部分を持ってるから。
――でもやっぱり、愛が答え。それしかないって思った。

去年やっていたアニメなんですが、人々の心のなかの負の感情とか暴力衝動みたいなものを数値化できるテクノロジーがあって、その数値に沿って人間を管理することで自治と平和を守っている社会が舞台なんですよ。その数値が一定以上上がると自動的に処罰とか処刑の対象になるっていう……

MARIA:あ、何でしたっけ、それ? 知ってる! 見てないけど、友だちがおもしろいって言ってた。

『サイコパス』ですね。

MARIA:あ、言ってた。それだ。あたし、それらしいよ。

それ……? あ、主人公ですかね! そう、いままさに主人公に似てるって言おうと思ったんですよ。罪を犯しちゃうような心の数値が上昇するはずのところで上昇しない。「くそっ、こいつムカつく、死ねっ」みたいに思っても、そこで殺意とか暴力衝動みたいなものに結びつかない人って設定なんです、主人公は。その子のことを指して、作中に「(世界を)よしとしている」って表現が出てくるんですが、MARIAさんはまさにそれですよ。「よしとしている」。

MARIA:ただね、何でもかんでもよしとしててもアレだから、撃つとこは撃たないと。これとかもそうだけど(“ボン・ヴォヤージュ”)、「欲深い生き物め」ってところの一行めと三行めを男性、二行めと四行めを女性に向けて書いたんだよね。結局、男も女も欲深くて、女は自分の住みかや心が満たされたりするならそれのために何でもするっていうようなところがあるし、男は男で性欲とかを満たすために何でもする人が多い。女の人と男の人で、欲の種類は違うけど、それを満たすために何でもするところは同じ。戦争だってそうだし。だから、そういう意味では人間が大っ嫌いとも言える。

この「欲深い生き物」っていう言い方自体がすでに男とか女とかっていう区別を超えて、人間について言及されたものなんだろうなとは思いました。

MARIA:その欲のせいで力のないものが傷ついている ――動物とか子どもとか――と思うと許せないけど、でもやっぱり、愛が答え。それしかないって思った。結局そこに行きつくしかないって。

みんな強くも完璧でもない。その人間の欠けた部分を埋めるものは愛しかない、というようなことでしょうか? 

MARIA:そう、みんなそうじゃないからこそ、その部分を認めないと。自分にばっかり意識がいきがちだと思う。愛するっていうと大げさに聞こえるかもしれないけど、あたしけっこう何でも愛しいと感じる瞬間が多くて。仲間とか、動物なんてとくにそうですけど、対象物に対する愛しいっていう気持ちを持てるようになったら、みんなハッピーなんじゃないのって思う。まあ、感謝の気持ちを忘れないっていうような、学校の先生みたいな話になっちゃうけど。本当にそう思うんですよ。

すごくよくわかりますね。ただ、音楽がすごく生き生きとしていたり、何かがすごく魅力的だったりするのは、強烈に欠けた部分があるからだっていうふうには思うんですよ。絶対条件というわけではありませんが。

MARIA:それは絶対ある。どんなに理性でいまこんな話をしていても、実際に人間でいる上は罪深い、っていうか。人として生きていく限り、絶対最悪な部分を持ってるから。だから結局、衝動に負けることもあるし、衝動で楽しい方をえらんじゃたりとか。それはわかってるんだけど、でもやっぱりここに行き着くんじゃない? っていうような。

取材:橋元優歩 写真:小原泰広 (2013年12月13日)

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