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interview with MARIA

interview with MARIA

音楽と、ちょっとセクシーな話

――マリア、インタヴュー

橋元優歩    Dec 13,2013 UP

MARIA・ザ・マザー
境遇、について
ヒップホップは近道ではない
欲深くて、愛しい
音楽と、ちょっとセクシーな話
人任せじゃダメなジェネレーション
アンチ・アンチ・エイジング
音楽と、けっこうセクシーな話

音楽と、ちょっとセクシーな話

セクシーさね。それは超大事。親子の愛はピースだけど、男女の愛はピースじゃない。お互いが夢中になったら最高に気持ちいいわけじゃないですか、それって。


Maria
Detox

SUMMIT

Tower HMV Amazon iTunes

最近、音楽にあまりセクシーさを感じないですよね。いや、セクシーな音楽もあると思うんですが、とくに国内は音楽カルチャー全体がそういうフェイズじゃないっていうか。MARIAさんの音楽には生々しい男女観があったりもして、そこが少し異質でもありますし、音楽のなかに確実にダイナミズムを生んでいるとも感じます。だからMARIAさんに訊きたかったんですが、音楽にとってセクシーさって何だと思います? あと、愛っていろんなニュアンスがありますけど、セクシーさに関係あります?

MARIA:セクシーさね。それは超大事。親子の愛はピースだけど、男女の愛はピースじゃない。お互いが夢中になったら最高に気持ちいいわけじゃないですか、それって。盲目なものだしね。それは人間の欲の部分でもあるし、ピュアな部分でもある。欠点だらけの男女の結びつきが大事だってこの本(『街のものがたり』)のなかで言ったと思うんだけど、それは崇高なものだと思うんだよね。どうでもいい相手なら何も思わないけど、どうでもよくない相手なら苦しい。自分を苦しめる人ほど大事な人だったりする。
 ただ、そこで勘違いしちゃいけないのが、その人だから苦しいのか、故意に苦しめられてるのかっていうことだけどね。でも結局、……あんまり大きい声で言っていいのかわかんないけど、あたしは少なくともセックスが好きなんですよ。

……あ、えっと、かっこいい。それはなんというか……、いいお話ですね。本質的というか。

MARIA:うん、マジで本質ですよ。どうでもいい奴とやったら、それこそ惨めになるだけですけど、べつに、付き合う付き合わないはともかく、大事だと思う人ならばその瞬間に最高に満たされるし、その後もいい思い出として終わるし。そのときだけの関係っていうのもいいと思うよ、とは言ってるんですよ、“ゴッド・イズ・オフ・オン・サンデイ”で。「See ya later 朝までmommy」っていうのは、「mommy」ってセクシーな女の人のことを言ったりするんですけど、「朝までmommy」ってことは、その人に朝まで呼ばれるってことなんですよ。でもそれは「よっぽどいい男んときの話」。

これはたしかにセクシーな曲ですね。

MARIA:そう、でもこの「よっぽどいい男」っていうのは見た目とかの話ではなくて、その人をリスペクトしているか、大事か、後悔しないか、みたいなこと。性的なものとアートはすごく結びついているから。愛情にしても恨みにしても、黒い気持ちってあるじゃないですか。愛とそういう黒い気持ちとは似ていると思うんですよ。ふつふつと沸きあがる感じとか。だから、そういうものと音楽を結びつけたらもう無限なんだろうなって思って作ってる。

なるほど。

MARIA:だから、アーティストはセックスとオナニーをいっぱいしたほうがいいんですよ。

なるほど!

MARIA:ほんとに(笑)。『ブラック・スワン』(ダーレン・アロノフスキー監督/2010年)って観ました? 映画。あれで、先生が「お前の表現力で足りない部分はそこだ」って言うじゃないですか。あたしめっちゃ共感できて。それは人間の本質だから。それを動かすものを知らないと、表現みたいなところでも出せないと思う。

わかります。でも、お訊きしたいんですが、時代はもうずいぶんしばらく「草食系」が引っ張ってきましたよね。音楽だって、ポップ・マーケットに限って言えばボカロ音楽やアニメ音楽がオルタナティヴに機能していて、それはめちゃくちゃざっくり言えば「いい男」ではなくてメガネ男子が象徴する世界なわけです。

MARIA:うんうん。

彼らは性的なものから疎外されているわけではけっしてないですけど、かといって『Detox』に出てくるようなワイルドで生々しいセクシーさに肉迫することもないと思うんです。そういうメガネ男子たちはどんなふうに見えているんですか?

MARIA:そうですねー、どうだろう。草食系の友だちもいるけど、実際、そういうふうに見えるだけで、意外とフタを開けると違ってたりね。それに自分が気づいてない、見えてないだけかもしれない。そういうものを受け止めてくれる人が出てきたときに、はじめて見えてくるものかもしれないし。……でも、正直、やっぱり自分には何も言えないですね、そのへんは。

なるほど、そうですよね。わたしはこんな仕事をしていなかったら、もしかしたらシミラボやMARIAさんを知らないままだったかもしれないトライブの人間なんですが、やっぱりなかなかそのワイルドさセクシーさに距離があって……。聴いて触れればすごくかっこいいのに、触れるまでに超えなきゃいけないものがあってちょっと時間がかかったんです。

MARIA:うーん、そうだよねー。あたしは直接話すしかないと思ってて。2ヶ月に1回シミラボでやっている〈グリンゴ〉っていうイヴェントがあるんだけど、そこではあたし、酒の瓶持って客全員に話しかけますからね。「どう、飲んでる? 楽しんでる~?」って。だから、ラップとかしてる人間ではあるけど、みんなと何にも変わらないよって思ってる。小学校行ったし、中学校行ったし、やなことあったし、みたいな。でもヒップホップはいろんな音楽の要素を入れることができるから、そのよさは壁を越えて伝えたいとは思う。


シミラボの男たちはみんな痛みを知っているし、嘘をつかないし。自分の信念とか自分の意志がちゃんとしてるから、すごい魅力的だと思う。

MARIAさんらしい、って言ってもいいでしょうか。とてもリスペクタブルなことだと思います。ところで、では世の中全般のこととして男子がどうかっていうふうに訊き直したいんですが、いまMARIAさん的に「いい男」っていうのはどんな感じなんですか。

MARIA:ぶっちゃけ少ないね。少ない。でも最近なんかキてるのかもしれないけど、マジやべえって思う男がふたりいた。

へえー。そういう男の特徴って何なんでしょう?

MARIA:なんだろう、やっぱり自分の意見をはっきり言える?

それは一般論として、日本男子には少ないイメージですよね。

MARIA:そうだね。あと、下心があったとしても、ちゃんと自立した男だったら、それがずる賢い感じで伝わってこないの。最近会ったその男たちに関して言えばそうだね。いやらしくないし、ずるくないの。正々堂々としてる。自立心と自分の意見、それが大事かな。

それはそのままMARIAさんの理想の男性像と考えてもいいですか?

MARIA:それももちろん含まれる。あとは人の痛みだよね。そういうことがわかるのが最高に理想。それを知らないで育って人を傷つけてたら意味がない。

シミラボの男性たちはその意味ではかなり理想の方々ではないですか?

MARIA:あ、シミラボのメンバーはね、メンバーだからこそ何もないけど、もう最高だと思いますよ。彼氏探してるいい女の子がいたら全然推す。シミラボやばいよって。シミラボの男たちはみんな痛みを知っているし、嘘をつかないし。もちろん相手との関係によって少し差は出てくるかもしれないけど、自分の信念とか自分の意志がちゃんとしてるから、すごい魅力的だと思う。

よく、こんな人たちが揃うなあって、人間性や個人的な特徴ももちろんだし、音楽のセンスとかスキル、ルーツみたいなことも含めてけっこう奇跡ですよね。

MARIA:たぶんいまのシミラボのなかで「なんかちがくない?」みたいな人がいたら、すぐいなくなると思う。

日本はやっぱり、海に囲まれつつほぼひとつの民族で歴史を紡いできた国なわけですし、みなさんそれぞれの出自というのがさまざまに摩擦を生んできた場面も多いと思います。そういった個人の背景にあるものが、絆を支える上で大きく関係していたりするんでしょうか?

MARIA:同じような環境にいるから、価値観が合うのかな。だから、なんでそんなことができるの? っていうような違和感もないし。みんな優しいんですよ。

その優しさっていうのも、自分に気持ちのよいことをしてくれる、という意味ではなくて、もっと自立した強さのあるものって感じがしますね。

MARIA:うん、愛情深いですよ。それに、あたしはヒップホップについてDJみたいに詳しいわけじゃないし、音楽がよければ聴いてる、みたいな感じだったんだけど、それを誰かと共有するということがいままでなかった。それをはじめて共有できたのがシミラボですね。


人任せじゃダメなジェネレーション

ちょっと遊んだらその月ギリギリみたいな。それでこの国終わってるよねーとかって言ってるくらいなら、あたしはあたしのまわりの少人数を動かすから、お前はお前のまわりの少人数を動かせよ。

OMSB(オムスビーツ)さんとかのインタヴューを読んでいたら、逆にMARIAさんが思ってもみなかったような、自由な発想を持ってきてくれるっていうようなことを言われてましたよ。音楽に凝り固まっていない人だからこそ見えるものっていうことなんでしょうね。

MARIA:そうなんだ(笑)。自由かどうかはわかんないけど、それはあるかも。音楽に入り込みすぎると、自分のなかでやばいと思う方向にしか行かないときがあって、それだとリスナーがついてこれなくなったりするんじゃないかと思う。

そっちの方にもっと突き進んでいくっていう選択肢はないんですか?

MARIA:あたし自身が、どっちかいうと楽しみたい派というか。あんまり深くというよりも、楽しみたいという感じ。内側からぐわーって出てくるものとか、頭が固くならないもののほうが好きかな。だから「あたしはこういうスタイルなんだ」っていうのはあんまりない。

このアルバムのなかにだって、メンツ的に見ればほとんどシミラボだなっていう曲もありますけど、そうじゃなくてMARIAのアルバムなんだっていう部分は、ご自身としてはどんなところだと思いますか?

MARIA:なんだろう……。“ムーヴメント”(“Movement feat. USOWA, OMSB, DIRTY-D”)とか、“ローラー・コースター”。パーティーしようよ、そんな固い話やめようよ、っていう。

MARIAさんだからこそシミラボから引き出せたっていうような部分ですかね。そういうところは他にもありませんか?

MARIA:“ローラー・コースター”に関しては、ファンキー感。みんなファンクが好きなので。シミラボの輩(ヤカラ)感?

あはは、そんな言葉があるんですね。ヤカラ感。なるほど。

MARIA:みんなね、殺してやろうみたいな考えが強いんですよ。「ぶっ殺そうぜ!」「何も言わせねえよ!」みたいな感じだから「えっ」ってなるんだけど、“ローラー・コースター”に関しては「まあ、まあ」みたいな。楽しくやりたくない? って。JUMAはもともと楽しいやつだけど、オムスもまあハッピーなやつなんだけど、よりハッピー感出せたんじゃないかなって思う。結局、シミラボ自体がすごく高い適応能力を持っているから、深く注文とかつけなくてもいいかってなるんですよね。USOWAとかも入っているけど。

せっかく“ムーヴメント”のお話が出たのでお訊きするんですが、「人任せじゃダメなジェネレーション」って詞が出てきますよね。これはMARIAさんの実感ですか?

MARIA:これはあたしが書いたフックなんです。やっぱり、政治とかでもそうですけど、自分が動かないと何もはじまらないじゃないですか。何かしたいと思う気持ちが、「でも自分ひとりが何かしたって(どうにもならない)……」って諦めの気持ちに消されて、ムーヴメントを起こそうとしない人が多いと思うの。自分の意見も言えないし。でも結局そんなんじゃ何にも動かないし。経済的にも、ちょっと遊んだらその月ギリギリみたいな。それでこの国終わってるよねーとかって言ってるくらいなら、あたしはあたしのまわりの少人数を動かすから、お前はお前のまわりの少人数を動かせよ、それではじめてムーヴメントが起こるんじゃないの? って。ちっちゃいところから動かしていけば絶対変わるよ、って気持ちがある。

その「変える」っていうのは、どんなこと、どんなイメージですか?

MARIA:さっき言ってたような人種問題とかがそうですね。ちょっと変わってると目立ちやすいじゃないですか、日本って。でもそれぞれの主張が強くなることで、バラエティのある国になると思う。あと、あたしストレートに言ったり書いたりしたことないんだけど、動物がマジ好きで、殺処分とか、本当に嫌なんですよ。ドイツとかだと保健所もないし、ペットショップもないんです。生体販売を行ってなくて。日本はオリンピック開催が決まったけど、そんな金につながりそうなところばっかり見てて、もっと大事なところを見てない。ペット業界もお金が入るからってことで産ませるし、売れ残ったら殺す。ゴミみたいな扱いだよね。あたしはそういうところでもムーヴメントを起こしたいって思ってるし、署名活動とかもやるし。あとは風営法。クラブなくなっちゃったら、もうヤバイじゃん。脳科学者も言ってるんですよ、ストレスをなくすには歌と踊りがいちばんって。それなのにクラブで踊れないって何だよって、ねえ? でも、その陰にはこっち側のマナー違反だてあるわけだし、人任せじゃなくて自分がしっかりしなきゃ。ちゃんとしてれば楽しいことも制限されないんだし。だから、ちょっとシャキッとしてくれよって思いますね。

なるほど。それぞれが自立しよう、小さいところから動きを起こそう、というのは年齢に関係のない普遍的なメッセージだと思うんですが、それが「人任せじゃダメなジェネレーション」ってふうに世代の問題として書かれてますよね。そこが興味深かったのですが、他じゃなくて、とくに自分たちの世代にそれが必要だって思うんですか?

MARIA:なんか、友だちにこういうこと言っても、「へー、すごいね。そんなこと考えてるんだ。」で終わっちゃう。「すごいねー」じゃない、お前たちのことなんだって思うんだよね。

それはうちらの世代特有、という感じですか?

MARIA:とくに多いんじゃないですか。逆に、自分たちより下の高校生とかのほうがちゃんと考えてるみたいに見えるんですよね。うちらの、いわゆるゆとり世代はちょっとどうかなって思うときはある。

快速東京の哲丸さんも自分たち「ゆとり」について興味深いお話をされていたんですが(『ele-king vol.10』参照)、やっぱりわりと強い横の意識があるんですね。

MARIA:自分と同じくらいの年のほうが意見が聞きやすいってこともありますけどね。

あ、それはそうですね。

MARIA:あと、あたしは一応、社会に出た経験もあるからね。親くらいの世代にもちゃんとしろよって思うことけっこうあった。大人になればほんといろんなことが「しょうがない、しょうがない」ってなっていく。あと、金に換算したりね。これだけ払ってるんだから、これだけのことをやれ、って。人間が、気持ちのあるものがそれをやってくれてるわけなのに、そこを考えないよね。人と人とのつながりが薄くなってきてるって感じる。

大人っていう問題は、他人事ではないですね。人間としてもそうですが、ミュージシャンとしてどう歳をとっていくかっていう問題もあると思います。さっき言っていたかっこいい男子たちやミュージシャンは、かっこよく30代、40代になれるのか。

MARIA:シミラボのみんなはそれなりに……なれるんじゃないですか(笑)。

あ、そうですね。

MARIA:いい味出るんじゃないですかね。少年の心を忘れないと思う。だからずっと若々しくいられると思う。あたしはわかんないな……もともと精神年齢が45(歳)とかって言われてるから。

はははは!

MARIA:自分がどうなるかはわかんないですね。

取材:橋元優歩 写真:小原泰広 (2013年12月13日)

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