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過去の作品よりもっとピュアな作品になるといいな。僕のバックグラウンドを知らないリスナーに、「“アナコンダ”を作ったやつがこれを作ったのか!」って思われたい。
Untold Black Light Spiral Hemlock Recordings / Beat Records |
■あなたが表れたとき、すごくミステリアスな人物だと思いましたし、同時に強いアティチュードも感じました。“アナコンダ”についての回答でも触れていましたが、当時のシーンがつまらないとか何かを変えたいとか思っていましたか?
U:そうすることへの責任感を感じるときもあるし、そうでないときもある。アーティストとコラボレーションするとき、僕はかなり自由に相手に物事をまかせるんだけど、同時にもっとクリエイティヴに相手を前に押すこともあって、それが一種のゲームだと感じている。2007年から現在に至るまで、僕は多くのサウンドに挑戦してきた。でもこれからは、過去に自分がしてきたことを振り返って掘り下げようと思うんだ。こうすることによって、次の10年間で自分はもっと前進できると思う。過去の作品よりもっとピュアな作品になるといいな。僕のバックグラウンドを知らないリスナーに、「“アナコンダ”を作ったやつがこれを作ったのか!」って思われたい。
いままで出してきた僕のシングルはその時々での自分の挑戦が反映されているから、リリースごとに違ったスタイルの曲も多い。だけど、いまはひとつのスタイルと向き合ったもっと長いアルバムのリリースしたいんだ。『エコー・イン・ザ・ヴァリー』のようにUSBのデジタル形式で、時間制限がないものを考えているよ。去年の段階で僕はサウンドの探索に見切りをつけた。いままで作った曲のキーポイントを見直して、それらを新しい方法で鳴らしていくつもりだ。
■先ほどコラボレーションについても触れていましたが、あなたは2010年代の最初、リミックスをたくさんしていました。クラブ・ミュージックだけではなく、ジ・XXやレディオヘッドのようなバンドの曲まで手がけていました。そこにはどのような意図が音楽があったのでしょうか? エイフェックス・ツインは「クソみたいな曲を一曲でも減らしたいからリミックスをする」と言っていましたが。
U:エイフェックス・ツインより素晴らしい回答は思いつかないな(笑)。レディオヘッドのリミックスはいろいろあってリリースはしなかったんだけどね。2012年の4月にやったのが最後のリミックスだったんだけど、何だったかな。レディオヘッドのリミックスをやっていたときに、僕は同時に4つのリミックスを手がけていた。メジャーの仕事もいくつかやっていて、ケシャの“ティック・トック”のリミックスもやったね。それが僕のベスト・リミックスだね。僕の友人のトム・ネヴィルはテック・ハウスのプロデューサーだけど、彼とは大学で知り合った。彼はケシャのアルバムを出掛けていて、彼にリミックスをしないかと誘われたんだ。僕はまだまだアンダーグラウンドな存在だと思うけど、そんなメジャーなアーティストのリミックスをやるなんてね。だけど思う存分、自分のサウンドを入れまくったよ。
ケシャの“ティック・トック”のリミックスもやったね。それが僕のベスト・リミックス。
小さなレーベルはそうでもないんだけど、メジャーなレーベルからのリミックスに関するリクエストにはうんざりすることもある。自分風のサウンドを少し押さえろとか、ヴォーカルの量を増やせとか、もっとわかりやすくしろとか……。ビートポートみたいなデジタル領域が盛り上がってきたときに、オリジナルの曲だけでは儲からないからレコード会社はリミックスにも手を出すようになったと思う。そのころから発表されるリミックスがとてもチープに感じるようになったな。ジェイムズが言っていたんだけど、スティーヴィー・ワンダーの曲はリミックスする必要がないらしい。リミックスをするときって、もともと曲の象徴的な部分を残すものだけど、スティーヴィー・ワンダーの曲でそれをやってもオリジナルの完成度が高いからうまくいかないらしい。この例が示すように、僕はオリジナルの精度を上げていきたかったから、リミックスにはそれほど魅かれなくなった。ジェイムズ・ブレイクやパンジェアが手がけた僕のリミックスは素晴らしいと思うけどね。
■もっと早くアルバムを作ってほしかったというのが本音なんですが、リリースまでに時間がかかったのは、情報化社会で音楽の変化が激しく、多くの曲が消費されていくような現在と間合いを取ろうとした意図もあったんですか?
U:どんなアーティストもそのことからプレッシャーを受けていると思う。アルバムを出すまでに時間がかかったけど、その間に僕はヴォーカリストといっしょにレコードを作って、さまざまなミュージシャンとコラボした。媚を売ることなく、自由に制作して音楽的に優れたアルバム目指したんだけど、それが逆に重荷になったりもした。『ブラック・ライト・スパラル』の収録曲を2、3曲作るまではそんな感じだったな。そんなある日、奇妙的なことが起きたんだ。その数曲のデモをクラブで流したら、会場のサウンド・システムが壊れてしまってね。サブ・ベースが低過ぎたらしい。エンジニアはDJミキサーのインジケーターが真っ赤に振り切れていたと思ったらしい。だけどそんなことはなくて、僕はいつも通りに曲を流しているだけだった。サブ・ベースが低すぎると、サウンドが跳ね上がって、クラウドのひとたちはエネルギーを感じると思うんだけど、そのときはただただ会場がパニックになっていた。これは自分にとっては新しい発見だった。
そのとき、会場には〈メタルヘッズ〉のパーティを思い出させるようなダイナミズムがあった。プレッシャやフォーテックが新しいダブプレートをかけるとき、聴いたこともない音で会場はパニックになっていた。
そのとき、会場には〈メタルヘッズ〉のパーティを思い出させるようなダイナミズムがあった。プレッシャやフォーテックが新しいダブプレートをかけるとき、聴いたこともない音で会場はパニックになっていた。
そこで感じたエネルギーこそが『ブラック・ライト・スパイラル』には必要だと確信したね。その出来事を境にプロダクションはとても早く進んでいったよ。最長でも1曲に2週間しかかからなかったからね。2年はこのデビュー・アルバムに関して悩んでいた。でもやっと自分を奮い立たせるような作品ができたよ。待たせてしまってごめん(笑)。
■クレイジーで素晴らしいアルバムだと思います。
U:ありがとう。ただ、曲はもうちゃんと調整してあるから、安心してクラブでかけられると思うよ(笑)。
■ジャケットの豚は何かのメタファーなんですか?
U:リー・モードスリーが写真家だね。広告デザイン業界で働いているひとだよ。このカヴァーは“アナコンダ”のようなトラックと同じようなユーモアを持っている。この豚をよく見てほしい。豚は破壊されている真っ最中なんだけど、これはただの豚の貯金箱としては目には映らないと思う。だって、壊されているのにも関わらず、豚自身は笑っているんだからね。この写真からは破壊を楽しむようなイメージが伝わってくると思わない?
■なるほど。いまおっしゃったようにあなたの曲でユーモアはとても大事な役割を果たしていると思います。今作に収録された“シング・ア・ラヴ・ソング”はタイトルとは裏腹に、かなりカオティックに曲が進行していきますもんね。
U:たしかにユーモアは重要な要素だ。かなり危険な綱渡りでもあるけれどね。ユーモアがあってもコメディとして見られるのはまずい。IDMが出てきたときから、世間をからかっているような作品がリリースされるようになった。今回はそのようなテイストを出したくはなかったんだ。だけどマジメ過ぎることも避けたかった。ユーモアがあってシリアスなサウンドのバランスを取ることに注意を払ったね。サウンド的に今回はあまりユーモアがないかもしれないけれど、ジャケットにはしっかりと表れている。もし豚が笑っていなかったら、カヴァーの見られ方は大きく文脈を変えてしまうだろうね。
サウンド的に今回はあまりユーモアがないかもしれないけれど、ジャケットにはしっかりと表れている。もし豚が笑っていなかったら、カヴァーの見られ方は大きく文脈を変えてしまうだろうね。
■歌詞の音楽に興味があるとしたら、好きなリリシストを教えてください。
U:もちろんあるよ! ボブ・ディランとトム・ウェイツだね。
■UKでは?
U:うーん、レディオヘッドとニック・ドレイクかなぁ。
■なんでモリッシーじゃないんですか?
U:40歳になったらモリッシーを開拓すると思う(笑)。まだちょっと早いかな。いろんな音楽を何年かにわけて開拓しているんだけど、このぶんだとジャズにとどりつくのは70代に入ってからだね(笑)。
■UKには多くのリリシストがいると思うんですが。
U:そうだよね。僕もヴォーカル・アルバムを出せたらいいなと思うこともある。歌詞を書こうとしたこともあるんだけど、トラックをつくることに力を入れたほうがうまくいくからね(笑)。
■『ブラック・ライト・スパイラル』のあとに、あなたはUSBフォーマットで『エコー・イン・ザ・ヴァリー』というアンビエント作品をリリースしました。どのような意図があったのでしょうか? 前作の続編のようなものなんですか?
U:『ブラック・ライト・スパイラル』を作っていたら、作品に二重性みたいなものが見えてきた。“シング・ア・ラヴ・ソング”や“ウェット・ウール”のような曲のノイズには発展の余地があると思って作業を進めたんだよ。そしたらアイディアがけっこう形になって、マネージャーもリリースに前向きになっていた。ちょうどそのときにモジュラー・シンセを購入したことも影響しているね。『ブラック・ライト・スパイラル』はコンピュータで作った作品だけど、『エコー・イン・ザ・ヴァリー』は新しい引越先の田舎でシンセサイザーを実験しながら完成させた。『ブラック・ライト・スパイラル』のインスピレーションからあとふたつはアルバムが作れるだろうな。それがつまらないものにならないといいけどね。
数に100個の限りがあったのは作品がハンドメイドで作るのに一か月近くかかったから。このアナログ感が好きだからまたやると思うよ。この作業は一種の瞑想みたいな感じもするんだ。
ここ数年はデジタルの力が強いけれども、それに対抗するようにレコードのような非デジタルの勢いもある。僕自身もデジタルだけで楽曲制作をしたくないと思っているよ。DJをするときにUSBも使うけれど、自分の曲は全部ヴァイナルで持っているしね。デジタルがどんなに発達してもアナログとの関係は捨てたくはないね。『エコー・イン・ザ・ヴァリー』でも自分の手で作ったものをリリースで使いたかったから、USBメモリーのケースは自分で作った。材料の木や石やスタンプは全部自分でオーダーしたんだよ。インターネットで作り方を勉強しながら家族で作ったね(笑)。ネット上で注文を募る段階も全部僕がやったから、かなりの達成感を感じたよ。数に100個の限りがあったのは作品がハンドメイドで作るのに一か月近くかかったから。このアナログ感が好きだからまたやると思うよ。この作業は一種の瞑想みたいな感じもするんだ。
■OPNの一連の作品から、ハウス・レーベルの〈ミスター・サタデー・ナイト〉まで、現在多くのシーンでアンビエント作品が作られています。あなたがアンビエント作品を出したことはそういった時代性と同調している部分があると思いますか?
U:音楽にはサイクルのようなものがあって、ちょうど20年前にエイフェックス・ツインは『アンビエント・ワークス・ヴォリューム・2』をリリースした。もし現在ロンドンにアンビエントだけを流すクラブがあればぜひとも行ってみたいね。
いま挙げたようなアーティストたちのように、興味深いことはいつも多くのシーンで起こっている。だけど世界のシーンを見ていて思うのが、それがあまりにもローカルで短期的なスパンで起こっているということ。ゴミみたいな音楽が溢れているからこそ、いい音楽同士がもっともっと繋がっていくべきだと思うな。
■最後の質問です。僕のまわりには仕事をしながらもDJをして曲を作りつづけているひとが多くいます。彼らにとっては、仕事をしながらもミュージシャンの道を選んだあなたの言葉はためになると思うんですが、何かアドバイスはありますか?
U:仕事を辞めて夢を追え。
仕事を辞めて夢を追え。
■(笑)。それだけですか!?
U:冗談だよ(笑)。僕はデザインの仕事をしていたときフォット・ショットを使ったり、ジョブスクリプトを書いたりしていた。東京と同じように、一日の労働時間がかなり長かった。朝8時に働きはじめて、ラッキーならば夜の8時に上がれる。僕はいつも締切に追われていた。もうウンザリだったよ。家に帰ってデザインの続きや音楽を作るためにはかなり無理をして起きていなければいけなかった。でもそこまでしないといいものはできなかったんだよ。具体的なアドヴァイスがあるよ。多くのひとはレーベルに自分のデモを送るのが早すぎるんだよ。アマチュアな曲を送ってもなんの意味もない。たしかジェフ・ミルズは、くだらない99曲じゃなくて本気の500曲のデモを送ってこいって言っていたな(笑)。これは僕が言いたいこととまったく同じだよ。まず時間を確保して、お金を貯める。そして自分の曲やスキルがこれで充分だと思えるときがきたら、自信を持ってジャンプすればいい。
取材:髙橋勇人 撮影:小原泰広(2014年11月21日)