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interview with Keiichi Suzuki

interview with Keiichi Suzuki

レコードとメモリーの左岸で(後編)

――鈴木慶一、インタヴュー

   Dec 25,2015 UP

これは偶然だけど、私がサニーデイ・サービスを意識したのは1枚の写真なんだよね。

曽我部くんと慶一さんがいっしょにやると初めて聞いたときに、なんて絶妙な組み合わせを考えるんだ! と思いました。曽我部くんにとっては大先輩だけど、慶一さんとは人間的にも音楽的にも親和性が高いだろうから、変な遠慮なしに融合できるんじゃないかなと。

鈴木:たしかに曽我部くんに遠慮はなかったね。こちらも曽我部くんが言うんならそうなんだなと思うもん。

彼は、はちみつぱいから慶一さんの音楽を好きになっているので、それがかなり大きいのではないかと。どこから入るかでだいぶ感覚が違いますから。

鈴木:これは偶然だけど、私がサニーデイ・サービスを意識したのは1枚の写真なんだよね。ピアノのところにソロで座っていて、チェックのシャツを着てるんだよ。「あ、これははちみつぱいのころの俺の写真だ」と(笑)。まさにそれだと思ったの。

彼がライヴでカヴァーしているはちみつぱいの曲が、“僕の倖せ”だったりするのが、なおおもしろいなと(笑)。あれは慶一さんではなくて渡辺勝さんが歌っているフォーキーな曲。自分が歌って似合う曲を選んでいるんですよね。ムーンライダーズの曲からは「スカンピン」を歌うとか。三部作の最初のアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』(08年)がレコード大賞の優秀アルバム賞をとったことにびっくりしたんです。「レコ大ってそんなにロックに理解があったっけ?」と驚きましたね。

鈴木:私もソニーの方に「ノミネートされてますよ」って言われて、「あ、そう」って思っていたんだけど、優秀アルバム賞だったから「えー」と。私もすげぇビックリした。翌々年に細野(晴臣)さんとか大貫(妙子)さんとかも受賞したよね。なんかハナレグミをきっかけにそういう流れができたね。それで、賞を授与される式に行ったの。そしたら曽我部くんは革ジャンで来てさ。ふたりでもらうんだけど、レコード協会の会長さんがね「毎日聴いております」って言うんだよ。「ありがとうございます」って返したけど、なんで毎日聴くんだろうな、と(笑)。「最後に鴨長明の『方丈記』の一節を入れたせいだ」とかってふたりで言ってたんだけど(笑)。審査員の作曲家の三木たかし先生が推してくれたらしいんだよ。あのあと亡くなってしまうんだけど、病床ですごく聴いていたというお話は聞きました。

レコード大賞とムーンライダーズはあまり接点はなかったのに、ムーンライダーズではなくて、ご自身のソロ作品で賞をとったのは、やはり不思議な感じですか?

鈴木:不思議。「まさかぁ」って。挨拶が「おったまげー」ではじまりますから。便利なのが自分のプロフィールで4行はいけるぞと(笑)。あとは同総会に出たときの他人の目が変わるくらいだよ。そこで変わっちゃいけないんだけどね。

ワーカホリックじゃないよ。だっていっぱい遊んでるもん。

次は映画音楽でそういう慶事があるといいですよね。

鈴木:すげえうれしかったのは、シッチェス・カタロニア国際映画祭っていうスペインの映画祭で最優秀映画音楽賞をもらったんだよね。北野武さんの『座頭市』で。それに出演していた浅野忠信さんが行ってトロフィーを持ってきてくれたの(笑)。そのトロフィーがいかしてるんだよ。『メトロポリス』(27年/独/フリッツ・ラング監督)の(ヒロインの)マリアみたいなんだよね。それからなんの縁か知らないけど、アメリカ人から映画音楽を頼まれてね。これはいまだにどこにも発表されていないんだけど、それは去年。完成した映画を観てみたんだけど、変な映画だったなぁ。

それはホラーですか?

鈴木:ホラーではないね。女性ふたりがいて、ひとりが森を観測していて、もうひとり灯台守のじいさんがいなくなっちゃう。それでもうひとりの女性が森を観測する装置を守るみたいな話。なんか不可思議だったんだよね。

そんなふうにアグレッシヴにお仕事を受けるのは、やはりワーカホリックということでしょうか?

鈴木:ワーカホリックじゃないよ。だっていっぱい遊んでるもん。その映画の試写会をアメリカでやったときに、ニューヨークの知り合いが見に行ったんだよね。そしたら「変な映画だなぁ」っていっていたけどね。映画を作ったひとが『マザー』を好きらしいんだよ。あと日本の音楽に詳しくて、メモがいろいろあったね。なんであれがウケたんだろう。

インターネットの時代になってから、海外のひとたちが日本の音楽を発掘しはじめて、レコードを探していますね。

鈴木:そういう外国の友人がいたりするね。日本に来てSP盤を買い漁って帰ったりとか。

それこそムーンライダーズとか、日本のポップ・ミュージックを聴き込んでいるひとが海外に現れたと思うんです。

鈴木:逆もあるよね。そのへんのボーダーレス状態はインターネットが推進していると思うけど。おもしろいけど、記録が多すぎるといえば多すぎる。

いまは自分の基準が見えなくなっているひとが多くなっているかもしれないですね。

鈴木:基準が見えないところで何が生まれるかっていうのは興味深いけど。

60年代は世界中、ビートルズが基準だから、わかりやすかったですよね(笑)。

鈴木:そうそう(笑)。ビートルズが基準で、70年代はそれがなくなって非常に困るわけだよ。そのときに違うヒーローが生まれるわけで、ミュージシャンのなかではザ・バンドとか。ストーンズは相変わらずやっているし。私は一応基準があった時代にいましたけど、いまではCDを買う基準とかはとくにないね。でもビートルズ『1』がブルーレイで出たら買っちゃうけどさ。ディランのあんなに高いブートレック・シリーズの最新作とかも2万円だけど、買っちゃうなぁ(笑)。グレイトフル・デッドのライヴ音源はCD80枚組とか出てるよね。

亡くなった大瀧(詠一)さんに、私の携帯のアドレスに目をつけられて「お前はやっぱりサイケデリックだな」といわれたんです(笑)。

日本のポップ・ミュージックを俯瞰で見て、出発点にグレイトフル・デッドがあるひとが海外に比べて少ない気がして、デッドとマザーズがスタートラインにあった慶一さんはそこが大きいポイントだと思います。

鈴木:亡くなった大瀧(詠一)さんに、私の携帯のアドレスに目をつけられて「お前はやっぱりサイケデリックだな」といわれたんです(笑)。「はいそうです」って答えるしかないよね。

はっぴいえんどの入団試験に受からなかったのは、それも理由のひとつだったんでしょうか。

鈴木:はっぴいえんどは酒を飲まないからな。それはけっこう大きいですよ。俺らは酒を飲むためにライヴをやっていたようなもんだもん。

今度出る本の話もうかがいたいんですけれど、どうやって作られたんですか?

鈴木:本はインタヴューです。まだ作業中なので内容は見えないんですけどね。いま、ビートニクスとか、作詞についてとか。あとは機材とか、食べ物とか。そういったところに焦点を当てて私が語るものになる予定です。

ソロに絞ったものなんですか?

鈴木:ムーンライダースについてのインタヴューもありますね。3枚組のアルバムと対をなすイメージですね。

他のひとへの提供曲についても語っていますか?

鈴木:それはなかったな。途中なので何ともいえないんです。すいません。

あまり個人史的な本ではないんですか?

鈴木:それも語っているけど、どの部分をピックアップするかによりますよね。王道も語りつつ、なぜか「なぜ私はB級グルメなのか」というところだったり。街中華と駅前食堂というのがあって、その歴史かな。あとはファッション、サッカー、楽器。サッカーとか話したら話が長くなっちゃうからね(笑)。でも全部並列だよ。男女もサッカーも。

王道も語りつつ、なぜか「なぜ私はB級グルメなのか」というところだったり。街中華と駅前食堂というのがあって、その歴史かな。あとはファッション、サッカー、楽器。

では、恋愛の話もけっこうされている?

鈴木:してるね。恋愛の話に興味もってない?

いやいや(笑)。余談ですが、慶一さんは『ウルフェン』(81年米/マイケル・ウォドレー監督)というホラー映画がお好きだと。この間、『70年代アメリカ映画100』(13年/芸術新聞社)という本で慶一さんと対談させていただきました。主編者の渡部幻くんも『ウルフェン』が好きで、『ウルフェン』がツタヤ限定でDVDが出ていると慶一さんにお伝えしてください」と言っていました(笑)。

鈴木:わかりました(笑)。覚えておきます。

あれは『ウッドストック』の監督、マイケル・ウォドレーの唯一の劇映画なんですよね。狼男ものとエコロジーが混ざってる不思議な作品。そういう変わったセレクションが、慶一さんの映画談義には出てくるので楽しいです。

鈴木:『トランザム7000』(77年米/ハル・ニーダム監督)のテーマをTBSラジオでかけるからね(笑)。

この間、B.Y.Gにうかがったときの1曲めが、『トワイライト・ゾーン』(60年に日本テレビで第1シーズンが放送された際の邦題は『未知の世界』。ホスト役のロッド・サーリングの声の吹き替えを鈴木慶一氏の父君、鈴木昭生氏が担当した。61年から67年までは『ミステリー・ゾーン』と改題されてTBSテレビで放送された)のある回(第92話「死ぬほど愛して Come Wander With Me」)で、カントリー歌手が歌を探しに旅に出て、そこで出会った歌だと。そういうところからカヴァーする曲を選ぶのが慶一さんらしいなと思って。

鈴木:『ブラウン・バニー』(03年米/ヴィンセント・ギャロ監督)でヴィンセント・ギャロが使ってるね。あのサントラに入ってるよ("Come Wander With Me"/JEFF ALEXANDER)。音の現物として初めてちゃんと聴いたのはそれです。曲自体は覚えていたけど、ギャロが使っていてビックリした。それで音源も手に入ってよかったね。それから運よく『トワイライト・ゾーン』の再放送をエアチェックしていました。

密かにカヴァーしたいそういう曲もけっこうおありになるんですか?

鈴木:まだ探しきれていない曲が記憶にはあるよね。これだけは見つけないと、死んでも死に切れないぞと。

そういう曲をあつめてカヴァー集とか出されると楽しいですよね。

鈴木:手に入るまではわからないんだよね。東京太郎という私の変名では、河井坊茶さんの“吟遊詩人の歌”をやってますけどね。子どものときから頭のなかで鳴っている曲だったんだけど、三木鶏郎さんの曲だとわかった。

『Musicshelf』の「鈴木慶一のルーツを探る10曲」と題するプレイリストのなかに、細野さんから教えてもらった曲というのがありましたよね。

鈴木:あれは口笛の曲なんですけどね。おやじの劇団員のひとたちと海へいっしょに行くと、ウクレレでずっと弾いてたのね。あの曲なんだろうなって思っていて細野さんに訊いてみたら、「いま口笛で吹いてみ」といわれて吹いてみた。そしたら「『パペーテの夜明け』だよ」ってね。『南海の楽園』っていうイタリア映画(63年)のサントラだと、あとで知るんだけど。すみやっていうサントラ専門店が渋谷にあったでしょう? そこの店長さんとお客さんの懇親会みたいなのがあったの。そこに俺は行ったのよ。それで「頭のなかで電子音楽が鳴っているんですけどわからない」っていったら、「これじゃないですか?」ってデヴィッド・ローズを教えてくれたんだけど、それだった。各ジャンルのオーソリティがいて、そのひとたちにわからない音楽を訊くとすぐに教えてくれる。あれはありがたいね。

それもひとつの“レコード・アンド・メモリーズ”という感じですね。

鈴木:自分のなかだけで自分の謎が解けていく、みたいな感じだよね。まだまだありますよ。子どものときに観たアメリカのテレビ番組とかね。

ニューオリンズのリズムを異国情緒に見せていたからな。やっぱりドクター・ジョンの『ガンボ』に尽きると思うけどね。あれはいいショウ・ケースというか。

さっき細野さんと大瀧さんの話が出ましたが、出発点ではっぴいえんどと出会われて、ライヴにキーボードで参加されたり、もしくはメンバーにならないかという話も出たほど、慶一さんははっぴいえんどの近くにいらっしゃったわけです。細野さんと大瀧さんだと、どちらの方から大きい影響を受けられましたか?

鈴木:(即答で)両方。大瀧さんに「お前は細野派だろ?」っていわれるのも嫌だし(笑)。

最初のころ、歌い方はかなり大瀧さんに近かったという有名な話もありますが、両方から同じくらい影響を受けられたのですね。

鈴木:あの4人から影響を受けていますよ。大瀧さんからはときどきメールが来たり、何か意見を言われたりしてね。バッキングをやるときのリズム・セクションの作り方は細野さんから学習した。リズム・セクションから作っていってギターを決めていく。まるでポール・バターフィールドみたいだと思っていた。大瀧さんは4人の生ギターを聴いて、「お前、2弦が鳴ってないよ」って言い当てる(笑)。そこまで聞こえてないんじゃないのかって思うんだけど、ひとりずつ弾かせてみると2弦が鳴ってないんだよね。そうやってひとりずつを追求していくんだよ。奇しくも、ニューオリンズのリズムを強力に取り入れたものを、同じ時期にふたりとも作ったね。

ニューオリンズへの着目は、おふたりともかなり早かったですよね。

鈴木:ニューオリンズのリズムを異国情緒に見せていたからな。やっぱりドクター・ジョンの『ガンボ』に尽きると思うけどね。あれはいいショウ・ケースというか。あれはまさに72年だな。ヒッピーみたいに集団生活をしていたころ。レコードが大量にあったので、ベースの和田くんが高円寺で「ムーヴィン」という店をやっていて、なんでもあったわけだよ。そのなかに『ガンボ』もあった。

松本隆さんからはどのような影響を受けましたか?

鈴木:隆さんとはいっしょに歌詞を作ったりしている。あがた(森魚)くんの“キネマ館に雨が降る”という曲の歌詞を共作しているんですよ(74年、松本隆プロデュースによるセカンド・アルバム『噫無情(レ・ミゼラブル)』に収録)。時間軸と地平軸で歌詞が飛び回るんだ。自由にいちばん飛び回れたらいい歌詞なんだよ、と隆さんに言われて。そのときに見せてもらったのが“驟雨の街”だったのね。感想を訊かれて、「すごくいいなぁ」って答えたら、「はっぴいえんどが再結成したらこれをやるんだよ」って言ってましたね。そのあと一回録音して、この前のトリビュート盤(『風街であひませう』/15年)で初めて発表されたよね。あれは72、3年だ。

鈴木茂さんとは同い年ですが、どのような影響を受けましたか?

鈴木:あのあたりに同い年が多いんだよね。林立夫とか、松任谷正隆とか。やっぱり茂の影響はギターだよな。なんでこんな音が出るんだろうっていうロングトーンを出していたから。ライヴだとギターばっかり聴こえるの。のちのちだんだんスライドギターになっていって、ソロでは完全にスライドが中心になっていったよね。『風街ろまん』に茂が歌っている曲があるけど(“花いちもんめ”)、あれを初めて聴いたのは隆さんの家でだった。たまたま隆さんの家にいたんだよね。「これ誰が歌っているかわかる?」「えっ、隆さん?」「違うよ。茂だよ。」って話をしたのを覚えてるね。はっぴえんどに限らず、他のミュージシャンの曲を早めに聴けたんだよ。あれは百軒店時代と言えますかね。リトル・フィートがいいっていうと、バーっと広がる。口伝えだよね。それで実際に聴いて広がっていくんだから。そういう店もあったということですよね。

最近よく思うんですが、その時代のことを誰かがちゃんと映画にしたらおもしろい作品ができるのに、それを作れそうな監督が日本だと思いつかなくて。

鈴木:あのディランが最後に出てくるやつみたいに?

そうです! 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(13年米/コーエン兄弟監督)。まさにそれです。ああいう映画がいつまで経っても日本でできないのは悲しいです。

鈴木:ああいう映画を観るといいなって思うよな。そこにいる感じになるもんね。

70年代の渋谷百軒店って格好の舞台だなと思います。

鈴木:まだ残ってるもんね。B.Y.Gの地下は過去の写真をもとにして復元してるからね。

慶一さんが監督されてもいいんですよ?

鈴木:いや、私は映画はいいです(笑)。音楽を監修するのはいいけど。でもその百軒店のやつは自分と近すぎるから嫌だな(笑)。批評性を失うような気がする。

でも『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』のように半分ドキュメンタリーだけど劇映画で、ディテールをきちんと考証して作られた映画は海外にはたくさんあるのに、日本だとほとんど皆無なのは淋しくないですか。

鈴木:それは、でもさ、内輪のストーリーを知らないとね。誰と誰が付き合ってたとかさ(笑)。原作に協力はしますけど。

文句をいわれない原作をぜひ(笑)。

鈴木:作りませんが協力はします(笑)。誰か作ってくれたらうれしいけど。

取材・文:北沢夏音(2015年12月25日)

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