「Low」と一致するもの

Session Victim - ele-king

 レコード屋のセールス文句では「若き日のナイトメアズ・オン・ワックスやDJシャドウを連想させる」と表現され、RAでは「ドイツ人のデュオがダウンテンポへ、これは果たして成功か?」という見出しで語られるが、どんな表現をされようが超マイペースな彼らには関係のないことだ。昨年クルアンビンとリオン・ブリッジズのアルバム『Texas Sun』のリリースも好調なレーベル〈Night Time Stories〉(〈LateNightTales〉の姉妹レーベルでもある)から、ハウス・プロデューサー、セッション・ヴィクティムの最新アルバム『Needledrop』がリリースされた。

 ドイツ人プロデューサーのハウケ・フリーアとマティアス・レーリングのふたりはどちらも大のレコード・ディガーで、DJプレイもヴァイナル・オンリー。アーティストからのプロモ音源もレコードでなければほとんど受け取らない程の徹底ぶり。リリースの大半もいわゆる「ヴァイナル・オンリー」が大半を占め、過去に発表したアルバム3枚はジンプスター主宰のレーベル、〈Delusions Of Grandeur〉からのみ(アルバムはデジタルもリリース)という、とてつもなく限定的な活動を展開するが、エネルギッシュなライヴ・パフォーマンスと、独特なサンプリング・センスと生音を融合させたプロダクションが人気を集め、ハウス/ディスコ・シーンでは安定の位置を確立。今回は一気に舵を切り全編に渡りスローなジャムを展開している。

 11曲中10曲がインスト・トラックで、唯一のヴォーカル曲には98年にリリースされたエールのファースト・アルバム『Moon Safari』にも参加したベス・ハーシュをフィーチャー。“Made Me Fly (Ft. Beth Hirsch)” としてアルバムのリード・トラックに。なるほど、ハウス方面に限らず、エールを聴いていたようなリスナーにとってもどこか共感が持てるような角度をこのアルバムは潜めているかもしれない。というよりも元々彼らの聴いてきた音楽的なバックグラウンドや趣味嗜好がより反映されたアルバムになっているのかもと感じさせてくれる。

 個人的なオススメは6曲目の “Waller and Pierce” と9曲目の “Cold Chills”。ライヴでもベースを担当するマティアス・レーリングのレイドバックなベースラインと絶妙な雰囲気で重なる音のレイヤーは繰り返し聴いても飽きが来ない。アルバムとはいえ全編通して聴いても約30分程度。一周した後に「もう終わり?」と思いながらもう一度頭から針を落とす。(レコードはグリーンカラーのクリアヴァイナル。もちろんCDやデジタル、ストリーミングだってなんでも構わない。)

 トラックのタイトルには「Bad Weather」「Pain」「No Sky」「Cold」など決して明るくポジティヴなメッセージが込められているとは思えないが、楽しいだけが人生じゃない、あえて暗いムード、落ち着いた雰囲気のときに選んでほしい1枚な気がする。

Clear Soul Forces - ele-king

 2012年リリースのアルバム『Detroit Revolution(s)』によってデビューし、これまで 2nd 『Gold PP7s』、3rd 『Fab Five』を経て、昨年(2019年)には4年ぶりのアルバム『Still』をリリースした、デトロイトを拠点とする4人組のヒップホップ・グループ、Clear Soul Forces。ゴールデンエイジとも呼ばれる90年代のヒップホップから強い影響を受けた、いわゆるブーンバップ・ヒップホップの流れにあり、アメリカ国内だけでなく、ヨーロッパにも根強いファンを持っている彼らであるが、今回リリースされたこのアルバム『ForcesWithYou』をもって、グループとしての活動に終止符を打つという。

 グループのメンバーでもあるメイン・プロデューサーである Ilajide に加えて、7曲目 “Watch Ya Mouth” にもクレジットされている Radio Galaxy が2曲プロデュースを手がける本作だが、Clear Soul Forces のトラックの肝となっているのは、やはりビート(=ドラム)の部分だ。以前、筆者が彼らのアルバム『Fab Five』のライナーノーツを書いた際に、Ilajide のサウンドに関して「A Tribe Called Quest の後期の作品などにも繋がるような、’90年代後半の空気を強く感じる」と表現したのだが、シンプルでありながらも非常に練られたドラムの音色とパターンに、シンセを多用したシンプルな上ネタ、そしてベースのコンビネーションによって極上のファンクネスが生み出されている。同じくデトロイト出身である故 J Dilla からの強い影響を受けているのは、彼らの過去のインタヴューなどからも明らかであるが、さらに4MCによる巧みなマイクリレーが乗ることで Clear Soul Forces にしか出しえないグルーヴが完成している。

 アルバムの幕開けを飾るバトル・チューン “Gimme the Mic” やオリエンタルな雰囲気漂うキャッチーな “Chinese Funk”、PVも公開されているリード曲の “Chip$” など、アルバムの軸となっている曲はいくつかあるが、全体的にはミディアム・テンポが貫かれ、一定のトーンで進んでいくのが実に心地良い。全体のテンションもアゲすぎたり、また極端にレイドバックしたりということもなく、個々のフロウの変化でコントラストをつけながら、彼らの好きなゲームやSF、アニメの世界観が見え隠れし、それと同時にヒップホップへの愛というものがストレートに感じ取れる。

 すでに個々にソロでの作品リリースや客演などを展開しており、今後はソロ活動がますます盛んになっていくであろう彼らであるが、いずれまたリユニオンを果たして、4人での新作を出してくれそうな気がしてならない。そんな思いの残る、まだまだ何かが続きそうな Clear Soul Forces のファイナル・アルバムである。

Dominic J Marshall - ele-king

 現在のUKのジャズではサウス・ロンドン・シーンが注目を集めるが、その中にもいろいろなミュージシャンがいるわけで、すべてをシーンの一言で括ってしまうことはできない。たとえばドミニク・J・マーシャルもロンドンで活動するミュージシャンだが、シャバカ・ハッチングスモーゼス・ボイドらがいるトゥモローズ・ウォリアーズ周辺のサークルとは異なる出目である。そもそも彼はスコットランドのバンノックバーン出身のピアニスト/キーボード奏者で、2010年にリーズ音楽大学を卒業してプロ・ミュージシャンとなってからは、オランダのアムステルダムで始めたドミニク・J・マーシャル・トリオ(DJMトリオ)で活動してきた。このピアノ・トリオはその後ロンドンへと拠点を移すのだが、ジャズとインストゥルメンタル・ヒップホップの中間的なことをやっていて、『ケイヴ・アート』というシリーズ(2014年と2018年にリリース)ではJディラ、MFドゥーム、マッドヴィラン、フライング・ロータス、スラム・ヴィレッジ、9thワンダーなどのヒップホップ・トラックを人力でジャズへ変換した演奏をおこなっている。こうしたスタイルの作品自体は珍しいものでもないが、ジャズの緻密な演奏力とヒップホップ・センスの高さはなかなかのもので、同世代のアーティストではゴーゴー・ペンギンとかバッドバッドナットグッドあたりに比するものを感じさせた。

 ドミニクはソロでもいろいろ作品を作ってきて、そちらでもインストのヒップホップ的なことはやっているが、よりビートメイカーに近い作風となっている。2016年リリースのソロ名義作『ザ・トリオリシック』は、現DJMトリオのサム・ガードナーとサム・ヴィカリー、オランダ時代の旧DJMトリオのメンバーであるジェイミー・ピートとグレン・ガッダム・ジュニアも加わったトリオ編成を踏襲する部分もあるが、アコースティック・ピアノだけでなくシンセやいろいろなキーボード、そしてサンプラーやエレクトロニクスまで駆使し、全体としてはビート・ミュージックやエレクトロニカ的な方向性となっている。ロンドンを拠点とするピアニスト兼ビートメイカーではアルファ・ミストが思い浮かぶが、彼に近いセンスを持っているだろう。さらに2018年のソロ・アルバム『コンパッション・フルーツ』では、アナログ・シンセやビート・マシンを軸としたエレクトリック・サウンドの比重が増しており、ジャズとヒップホップの融合という世界からさらに進化し、1980年代的なエレクトロとフュージョンが結びついたシンセ・ウェイヴ~ヴェイパーウェイヴ的な新たな展開も見せていた。

 トリオとソロ活動以外でもドミニクの交流範囲は幅広く、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、ベンジャミン・ハーマン、スチュアート・マッカラム、タウィアーらと共演している。スチュアート・マッカラムとの交流がきっかけになったのだろうか、近年はザ・シネマティック・オーケストラでも演奏していて、最新作の『トゥ・ビリーヴ』(2019年)にも参加していた。そして『コンパッション・フルーツ』から2年ぶりの新作ソロ・アルバムとなるのが『ノマズ・ランド』である。『コンパッション・フルーツ』の世界を発展させた作品と言えるだろうが、前回は元DJMトリオのジェイミー・ピートが1曲にフィーチャーされる程度で、ほぼひとりで作り上げたアルバムだったがゆえの一本調子な面も否めなかったけれど、今回はヴォーカリストや楽器プレイヤーなどいろいろな手助けを借りている。メンバーはジェイミー・ピート(ドラムス)のほか、同じく新旧DJMトリオのハンローザことサム・ヴィカリー(ベース)とグレン・ガッダム・ジュニア(ベース)、エレクトリック・ジャラバやフライング・アイベックスなどのロンドンのバンドで活動するナサニエル・キーン(ギター)、アムステルダムの新進R&Bシンガーのノア・ローリン(ヴォーカル)、ドラムンベースのプロデューサーとしても活動するセプタビート(エレクトリック・ドラムス)で、彼らの参加によってオーガニックなサウンドとエレクトリックなサウンドの融合が増え、音楽的にもより広がりと深みを感じさせるものとなっている。

 冒頭の “コールドシャワー(Coldshwr)” から驚かされるのだが、今回のアルバムはドミニク自身が全面的にヴォーカルをとっている。ノア・ローリンもデュエットというよりバック・ヴォーカルに近く、あくまでドミニクの歌が主役という感じだ。どのような理由からドミニクが歌を歌うに至ったかはわからないが、サンダーキャットが単なるベース・プレーヤーから脱却して、近年はシンガーとしても新境地を開拓している姿に重なるものだ。“ハーブ・レディ” での歌はヒップホップのラップからネオ・ソウル調へと遷移するもので、トム・ミッシュとかロイル・カーナーなどロンドンのシンガー・ソングライターにも通じる。全体的にはソウルフルな曲であるが、中盤以降はガラっと様相を変えてフライング・ロータスのように幻想的でコズミックな世界となる。ラップ調のヴォーカルをとる “タイム・アンリメンバード” は、シンセウェイヴとビート・ミュージックが融合したような曲。温もりのあるピアノやキーボードがエレクトロなサウンドやビートとうまく一体化していて、最近の作品ではカッサ・オーヴァーオールのアルバムと同じ感触を持つ。“ライオネス” とかもそうだが、ラップ・スタイルの歌が多い点や、自身の生演奏や歌をサンプリングして変化させたりループさせている点もカッサと重なる。

 “DMT” はセプタビートのエレクトリック・ドラムスが織りなす有機的なビート上で、ドミニクが美しいピアノ・ソロを展開する。ヴォーカルのテイストも含め、ジャズとソウルとヒップホップの中間的な作品だ。“フィーリング” はウーリッツァー・ピアノがどこかレトロなムードを奏でるインスト主体の曲で、ハービー・ハンコックやチック・コリアなどの1970年代前半のフュージョンにも通じるが、終盤でヴォーカルが入るあたりではロバート・グラスパー・エクスペリメント風にもなる。そして浮遊感に富むコズミック・ソウルの “オン・タイム” や “イニシエーション”、ティーブスジェイムスズーなど〈ブレインフィーダー〉勢やLAビート・シーンにも繋がるような “ストーリーライン”、ジャズ・ピアニストとしての神髄を見せるスピリチュアルな “ハイパーノーマライズ”。ロバート・グラスパー、フライング・ロータス、カッサ・オーヴァーオールなどいろいろなアーティストからの影響や通じる部分を感じさせるものの、それらを単なる模倣や物真似でなく自身の音楽にまで高め、オリジナルな世界を作り出した非常に密度の濃いアルバムだ。

Mahito The People - ele-king

 コロナ禍を受け、各地でさまざまなアイディアが試行錯誤されるなか、マヒトゥ・ザ・ピーポーによる無観客ライヴの配信が決定した。これは、もともと5月14日に WALL&WALL で予定されていた大友良英との公演の中止を踏まえての試みで、同日20時より開催される。CANDLE JUNE によるろうそくに囲まれて、弾き語りのパフォーマンスが披露される模様。配信サイトはこちら


マヒトゥ・ザ・ピーポー 配信ライブ開催のお知らせ

5月14日(木)、表参道 WALL&WALL で開催予定の「にじのほし15『one×one』大友良英×マヒトゥ・ザ・ピーポー」公演は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、残念ながら一旦中止とさせていただきます。払戻の対応に関しての詳細は販売サイト Peatix より個別にご案内いたします。

これを受けて、同会場よりマヒトゥ・ザ・ピーポーによる無観客の電子チケット制ライブ配信を開催することになりました。
会場には日本のキャンドルアーティストの第一人者、CANDLE JUNE によるキャンドルの炎を囲んだ弾き語りライヴをお届けします。
普段のバンドサイドでの烈しさに内包された繊細さが顕になる、うたの世界とキャンドルの静かに燃え上がる美しいコラボレーションにご期待ください。

[ライブ詳細]
にじのほし16
Mahito The People × CANDLE JUNE "one" live streaming

出演:マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)
装飾:CANDLE JUNE (キャンドル)
2020年5月14日(木)
配信開始20:00より
TICKET:¥1,000
配信サイト:https://nijinohoshi14.zaiko.io/_item/325805

チケット販売開始/終了日時:2020年4月23日20時~2020年5月17日21時
配信アーカイブ公開終了日時:2020年5月17日21時

※当日は会場の表参道 WALL&WALL にはお入り頂けません。
* 配信のURLは購入した ZAIKO アカウントのみで閲覧可能です。
* URLの共有、SNSへ投稿をしてもご本人の ZAIKO アカウント以外では閲覧いただけません。
* 途中から視聴した場合はその時点からのライブ配信となり、生配信中は巻き戻しての再生はできません。
* 配信終了後、チケット購入者は72時間はアーカイヴでご覧いただけます。

Bladee - ele-king

 ヒップホップが異形のサウンドだった頃が懐かしい。本当に懐かしい。いまとなってはそうは思えないだろうけれど、ランDMCでさえ「大丈夫なのかな、これで」と思うほど曲になっていないというか、途中で放り出したような音楽に聴こえたし、中村とうようではないけれど、最初は僕もとても長続きする音楽だとは思えなかった。初めてTVで観たのがファット・ボーイズのライヴだったせいで、余計にイロモノに思えてしまい、僕が本気になったのはLL・クール・Jを聴いてからだった(記憶が定かではないのだけれど、初めて観たラップはやはりTVで「サラリーマンが会社帰りに円陣を組んでその日あったことを思い思いにリズムをつけてマイクで順番に歌っています」というニュースの方が先だったかもしれない←このニュースのせいで、ラップの起源は長い間、ニューヨークのサラリーマンが始めたのかと思っていた)。

 途上国を見渡せば異形のサウンドを聴かせるヒップホップがまったくないわけではないし、ヒップホップの影響がないものを探す方が難しいと思うほどあらゆる音楽にヒップホップは浸透しきっているとは思うものの、異形のヒップホップはあきらかにメインストリームとは断絶していて、フィードバックの関係をつくりだすことはないこともわかっている。枝分かれしすぎてしまうと、もはや繋がりようはないということか。それこそメインストリームの新人に「新しさ」は感じても、初めてヒップホップを聴いた時の「異形さ」に想いがぶっ飛ぶことはない。オーヴァーグラウンドな音楽として認知されてしまうということはそういうことだろうし、ましてやロックよりも消費量では上回ったというのだから。それでもヒップホップに「異形さ」を求めてしまうのは……自分でも? ちなみに僕のオールタイム・ベストはそれぞれ1作目で、1にニッキー・ミナージュ、2にサイプレス・ヒル、3・4がアトモスフィアと4にTTCで、5がアール・スウェットシャーツで~す!(次点でスクーリー・D)。誰にも共感されなさそー。

 ブレイディー(またはブレイドと発音)のサード・ソロ・アルバムが、そして、どこにも辿りつかないクラウド・ラップと化していた。ファッション・デザイナーとしても知られるベンジャミン・ライヒヴァルトはミックステープがサウンドクラウドで注目され、スウェーデンではオート・チューン使いの代表格のようなものになったらしい。同じく2010年代のスウェーデンだと(冗談のようだけれどブレイディみかこが反応していた記憶があるスウィング・ヒップホップのモーヴィッツ!はなかったことにして)ディプロがプロデュースしたギャングスタ・ガールズのエリファント(Elliphant)とは好対照をなし、それこそブレイディーは彼女たちと入れ替わるようにして出てきた感もあり、初めからクラウド・ラップを志向しているぐらいで、まったく力強さはなく、抒情性に重きが置かれ、そこは素直にカーディガンズやトーレ・ヨハンソンの国だという感じではある(頻繁にコラボレイトしている同郷のヤング・リーンはノンクレジットでディーン・ブラント『Zushi』にも参加)。正直、だらだらし過ぎていて、弱さとフラジャイルを混同しているタイプだったと思うし、マンブル・ラップでさえもっと覇気があると思うようなものが、いきなり突き抜けて「異形」なトーンを醸し出すまでになってしまった。徐々にではなく、いきなり。

『Exeter』は冒頭からネジが緩んでいる。続く“Wonderland”でお花畑度は一気に上がる。クニャクニャと擦られるスクラッチ音にポワンポワンと浮かんでは消えるベース・シンセ。『Good Morning』や『Now Is The Happiest Time Of Your Life』をつくっていた時期のダヴィッド・アレンがもしもアシッド・フォークではなくヒップホップをやっていたらこうなったかなと。”Rain3ow Star (Love Is All)””Every Moment Special”“DNA Rain”と続く3曲はあまりにもスモーカーズ・デライトで、電子音のお風呂で体ごと溶けてしまいそう。前作にも参加していたグッド(Gud)が全曲でプロデュースにあたったことで、ここまで一気に変化したのだろうか。よくわからない。スウェーデンといえば昨年のベスト・ソングが僕はオートチューン全開のタミー・T“Single Right Now”であった。クィアーたちに局所的な喝采を浴びたタミー・Tも切実な思いをチープな曲にのせるという発想は同じで、スウェーデンのアンダーグラウンドでは何かクネクネとした音楽性が静かに押し寄せてるのだろうか。そんなことはないか……(ちなみに2010年代の個人的なベスト・ソングはアジーリア・バンクス“212”で、ベスト・ポップスはロード”Royals”です!)。

 時代を超えて存在するタンブリマンたちに『Exeter』は1曲も期待を裏切らないだろう。ブーツの踵がさまよい出すのを待っている。魔法の船に乗って旅行に行きたいね。自粛要請も出ていることだし、その場から一歩も動かずに旅をするとなると……(イギリスやニュージーランドで買い占められたのはトイレット・ペーパーだそうだけれど、オランダで買い占められたのはマリファナだったそうで……)。

Bim One Production - ele-king

 Bim One Productionが久しぶりの新作を出す(https://project.bim-one.net/)。ブリストルのグライム/ヒップホップMC、RIder Shafiqueをフィーチャーした10インチのアナログ盤、プレオーダーは本日(23日)から開始、デジタル/ストリーミングでも聴くことができる。スコーンと抜けたリズムにストイックな空間および瞑想的な言葉が格好いい曲で、映像(by 鷹野大/Tabbycat)があるのでまずはどうぞ。

 RIder Shafiqueは過去、BSOのために何度か来日しており、Bim One Productionとはかねてより親交あり。このコラボは2作目になり、映像には下北沢Disc Shop Zeroの店内がばりばりに写っている。曲の最後のほうには亡き飯島直樹さんも登場、じつはこの映像は飯島さんがまだ生きていたときに本人も確認しているという話で、Bim One ProductionとしてはZEROの27周年にあたる4月27日のリリースを前もって考えていた。
 新型コロナの影響で現在店舗は開けられず、無念のリリースとなったが、彼らのソウルが籠もったこのシングルは、たくさんの人に飯島さんのDIY精神をうながすことだろう。チェックよろしくです。
 

Bim One Production - Guidance feat. Rider Shafique
カタログ番号:BIMP003
デジタル配信:Bandcamp / Spotify / Apple Music / Amazon / ReggaeRecord Downloads 他 *4/24配信開始
レコードフォーマット:10inch Vinyl / スタンピング、ナンバリング付き 
限定100枚 *4/24プレオーダー開始 4/27発売
配信サイトまとめ: https://kud.li/bimp0003 (4/24公開)

Moor Mother & Mental Jewelry - ele-king

 怒りのことばはおさまらない。昨年は自身のアルバムアート・アンサンブル・オブ・シカゴゾウナルイリヴァーサブル・エンタンガルマンツにと、三面六臂の活動で大躍進を遂げたフィラデルフィアの詩人=ムーア・マザーが、ノイズ・プロデューサーのメンタル・ジュウェリーとタッグを組みバンド・プロジェクトに挑戦、初のフルレングス『True Opera』をリリースしている。
 両者によるコラボは今回が初めてではなく、2017年に一度「Crime Waves」なるEPが送り出されているが、エレクトロニックなエクスペリメンタル・ミュージックだった前作とは打って変わり、今回は彼らの音楽的ルーツのひとつであるパンクにぐっと寄った、荒々しいサウンドに仕上がっている(ムーア・マザーがヴォーカルとギターを、メンタル・ジュウェリーがドラムスとベースを担当)。2020年の見逃せないリリースのひとつ、ふたりの新たな船出に注目しよう。

artist: Moor Jewelry
title: True Opera
label: Don Giovanni
release date: April 20, 2020

Tracklist:
01. True Opera
02. No Hope
03. Look Alive
04. Judgement
05. Eugenics
06. Working
07. Westmoreland County
08. Le Grand Macabre
09. Boris Godunov
10. Shadow

Jay Electronica - ele-king

 Just Blaze が手がけるトラックのインパクトも含めて、2009年を代表するクラシック・チューンとなった “Exhibit C” から、なんと10年以上の時を経てようやくリリースされた Jay Electronica のファースト・アルバム『A Written Testimony』。彼自身が完璧主義すぎるがゆえに、これほどリリースが遅くなったというのもなんとも皮肉な話であるが、ファン以上にここまで待った所属レーベル、〈Roc Nation〉の社長である Jay-Z の忍耐力もなかなかのものである。そんな鬱憤を晴らすかのように……というわけではないだろうが、なんと本作にはフィーチャリング・アーティストとしての表記など一切ないにもかかわらず、Jay-Z がほとんどの曲に参加しており、Jay Electronica 名義のアルバムでありながらも、まるでふたりのデュオ作かのような構成になっている。したがって、Jay Electronica にとってのデビュー・アルバムとは素直に言いにくいのだが、非常にレベルの高いヒップホップ作品であるのは間違いない。

 信心深いイスラム教徒としても知られる Jay Electronica であるが(ジャケットのカバーデザインにもアラビア語が用いられている)、オープニングを飾るイントロ曲 “The Overwhelming Event” では、ネーション・オブ・イスラムの最高指導者であり過激な言動で知られる活動家の Louis Farrakhan (ルイス・ファラカン)による演説の一部がそのまま収録されており、「アメリカの黒人こそが本当のイスラエルの子供である」というスピーチが展開されている。前出の “Exhibit C” でも一部でアラビア語のラインを織り交ぜて、イスラム教徒としてのスタンスを明確に示していた Jay Electronica であるが、本作ではその姿勢がより強固なものとなり、アルバムの中のひとつの大きなテーマとなっていることも、このイントロ曲から伝わってくる。そして、その勢いのまま、2曲目の “Ghost of Soulja Slim” もまた、より過激なファラカン師のスピーチでスタートするのだが、そこからの Jay-Z、Jay Electronica と続くマイクリレーが凄まじく格好良い。この曲はタイトルの通り、Jay Electronica とも同郷(ニューオリンズ出身)であり、2003年に銃殺されたラッパーの Soulja Slim をテーマにしているのだが、Jay Electronica 自らがプロデュースするサンプリングを駆使したトラックとふたりのラップの相性も完璧で、この曲での張り詰めたテンションの高さはアルバムを通して見事に貫かれている。

 アルバムの核になっている曲を幾つかあげるとすれば、まずは Travis Scott をフィーチャした “The Blinding” がその筆頭に挙がるだろう。Swizz Beatz、Hit-Boy、AraabMuzik という、3人の名だたるプロデューサーがクレジットされているこの曲は、曲の前後半でトラックが全く別のものになるという変則的な構成で、Travis Scott によるコーラスを挟みながら、Jay-Z と Jay Electronica の掛け合いが非常にスリリングに展開し、複雑に絡み合うリリックの中にふたりのタイトな関係さえも伺える。この “The Blinding” の曲中では、本作がたった40日間で作られたことにも触れられているが、おそらく数少ない例外であるのが、2010年にインターネット上にて初めて発表されていたという “Shiny Suit” だ。Pete Rock & C.L. Smooth の名曲 “I Got A Love” と全く同じサンプリングネタ(The Ambassadors “Ain’t Got The Love Of One Girl (On My Mind)”)を大胆に使用し、自らのルーツである90sヒップホップのフレイヴァを放ちながら、すでに10年前には Jay-Z と Jay Electronica のコンビネーションができ上がっていることがよくわかる。No I.D. がプロデュースを手がけ、スペイン語も交えながら、いま現在も続くアメリカという国の問題について言及する、本作中、唯一の Jay Electronica のソロ曲である “Fruits Of The Spirit” を経て、後半のピークとも言えるのが、The-Dream をフィーチャした “Ezekiel’s Wheel” だ。旧約聖書から引用された “Ezekiel's Wheel” というワードはUFOを表しているとも言われているのだが、Brian Eno と King Crimson の Robert Fripp によるアンビエント作品からのサンプリングがこの曲名とも絶妙にマッチし、プロデュースを手がけた Jay Electronica 自身のセンスの高さにも驚かされる。

 Jay-Z とのコンビネーションの良さにケチをつける気は毛頭ないが、次はぜひプロデューサーとしての Jay Electronica のバリューも最大限に活かした上で、本当の意味での彼のソロ・アルバムもぜひ聞いてみたいと思う。

Tony Allen & Hugh Masekela - ele-king

 シャバカ・ハッチングスとジ・アンセスターズによる新作『ウィ・アー・セント・ヒア・バイ・ヒストリー』は、人類の絶滅をテーマとしたまさに今の時期にリンクするような示唆的な作品となっているが、ジ・アンセスターズのメンバーであるンドゥドゥゾ・マカシニも同時期にリーダー・アルバムの『モーズ・オブ・コミュニケーション』を発表するなど、南アフリカ共和国のミュージシャンたちの活躍は続いている。そうした南アフリカが生んだジャズ・ミュージシャンの先人で、国際的に活躍した人物として、まずはアブドゥーラ・イブラヒムとヒュー・マセケラの名前が挙がる。デューク・エリントン、セロニアス・モンク、ルイ・アームストロングなどアメリカのジャズに影響を受けた彼らは、1950年代末にジャズ・エピッスルズというバンドを結成し、ヨハネスブルグやケープタウンを拠点に演奏活動をしていた。その後、アブドゥーラ・イブラヒムはヨーロッパ、そしてアメリカへと進出・移住して演奏活動を行なうようになるが、ヒュー・マセケラもニューヨークに音楽留学し、ハリー・ベラフォンテなどと交流を持つようになる。ヒューは正統的なジャズ・トランペット奏者を出自としながら、ロック、ポップス、ファンク、ディスコなどを早い段階で取り入れてきた先駆的存在である。1968年の “グレイジング・イン・ザ・グラス” などポップ・チャートにも入るヒット曲を出し、モントレー・ポップ・フェスティヴァルにも出演し、ザ・バーズやポール・サイモンのアルバムにも客演するなど、ジャズの枠を超える活動を行なってきた。1977年に元妻のミリアム・マケバとプロテスト・ソングの “ソウェト・ブルース” を発表し、1987年のヒット曲 “ブリング・ヒム・バック・ホーム” がネルソン・マンデラの支援アンセムとなるなど、反アパルトヘイトを貫いたことでも知られる。欧米の音楽の影響を受けつつも、祖国のアフリカ音楽を核として持ち続け、ハイ・ライフやアフロビートなどが底辺に流れているのがヒューの音楽である。

 1990年代以降は南アフリカへ戻って活動を続け、2016年に地元のミュージシャンと『ノー・ボーダーズ』を録音したのを最後に、2018年1月に78歳の生涯を終えたヒュー・マセケラだが、1970年代初頭にはフェラ・クティと出会って交流を深めていった。その中でアフリカ70のメンバーだったトニー・アレンとも親しくなり、フェラ・クティの没後も両者の関係は続いた。アフロビートの創始者で、現在もジャンルを超えて多くのミュージシャンに影響を与え続けるトニー・アレンだが、両者のコラボはずっと念願であり、いつかアルバムを一緒に作ろうと話し合っていた。そして、2010年にふたりのツアー・スケジュールがイギリスで重なったことをきっかけに、〈ワールド・サーキット〉の主宰者のニック・ゴールドが彼らのセッションをロンドンのリヴィングストン・スタジオで録音した。この録音は当時未完成のままニックのアーカイヴに保管されたのだが、2018年にヒューが亡くなった後にトニーと一緒にオリジナル・テープを発掘し、2019年夏に再びリヴィングストン・スタジオで残りの録音が完了された。そうしてできあがった『リジョイス』は、新たな録音部分についてはエズラ・コレクティヴジョー・アーモン・ジョーンズココロコのムタレ・チャシ、アコースティック・レディランドやジ・インヴィジブルのトム・ハーバートなどサウス・ロンドン勢が参加し、さらにかつてジャズ・ウォリアーズのメンバーとして鳴らしたスティーヴ・ウィリアムソンも加わっている。トニー・アレンのアフロビートはモーゼス・ボイドやエズラ・コレクティヴなど、サウス・ロンドンのミュージシャンにも多大な影響を及ぼしており、『リジョイス』ではその繋がりを見ることができるだろう。またスティーヴ・ウィリアムソンはジャズ・ウォリアーズ~トゥモローズ・ウォリアーズの繋がりで、やはりサウス・ロンドン勢にとっては大先輩にあたる。そしてルイス・モホロやクリス・マクレガーなど南アフリカ出身のミュージシャンとも共演が多く、ヒュー・マセケラと共通の音楽的言語を持っているので、今回の参加は自然な流れと言える。『リジョイス』はヒュー・マセケラとトニー・アレンの貴重なセッションに加え、新旧のロンドンのミュージシャンも巻き込んだ録音となっているのだ。

 “ロバーズ、サグズ・アンド・マガーズ(オガラジャニ)” はトニー・アレンのトライバルなドラムとヒュー・マセケラのフリューゲルホーンを軸とするシンプルな構成で、ときおりヒューのチャント風のヴォーカルが差し込まれる。ジョー・アーモン・ジョーンズがピアノ、トム・ハーバートがベースでサポートするが、いずれも最小限にとどまり、ドラムとフリューゲルホーンの引き立て役に回っている。“アバダ・ボウゴウ” に見られるように、トニーのドラムは基本ゆったりとしていて、ヒューのフリューゲルホーンも派手に立ち回ることなく、ロングトーンで奥行きのある音色を奏でている。これがアルバムの基本となるスタンスで、“アバダ・ボウゴウ” や “スロウ・ボーンズ” ではスティーヴ・ウィリアムソンのテナー・サックスも参加してどっしりと深みのある演奏を披露している。“ココナッツ・ジャム” や “ウィーヴ・ランディッド” はトニーらしいアフロビートだが、キーボードのように横でコードやメロディを奏でる楽器が入ってこないぶん、ドラムの細かな動きが際立って伝わってくる。バスドラ、スネア、タム、シンバルひとつひとつが異なった音色を持ち、それらが立体的に重なってトニーの独特のビートが生まれてくることがよくわかるだろう。“ネヴァー(ラゴス・ネヴァー・ゴナ・ビー・ザ・セイム)” はある種フェラ・クティへのトリビュート的な楽曲となっていて、ヒューのヴォーカルも踊ったり、飛び跳ねたりと体を動かすことを求めるものだ。改めてヒューとフェラ、トニーの交流がどんなものだったのかが伺える。オバマ前アメリカ大統領をイメージしたと思われる “オバマ・シャッフル・ストラット・ブルース” は、ベースが入らない代わりにキーボードがベース・ラインを奏でるが、それが独特の土着性とミニマルな感覚を生み出していて、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオとトニー・アレンの共演を思い浮かべるかもしれない。この曲に象徴されるが、一般的にアフロビートやアフロ・ジャズは熱く扇情的な演奏を思い浮かべがちだけれど、本作はそれと反対のクールなトーンに貫かれている。トニーによると『リジョイス』は「南アフリカとナイジェリアを繋ぐスイング・ジャズのシチューのようなもの」とのこと。トニー・アレンはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのトリビュート・アルバムを出しているが、本作もそのラインに近いものと言える。仮にマイルス・デイヴィスとフェラ・クティが共演していたら、恐らくこうしたアルバムとなっていたのでは、そう思わせるのが『リジョイス』である。

Thundercat - ele-king

 家の外の世界へ出づらい、という状況がいまもなお続いている。これからも当分続くだろう。少し前だったらサンダーキャットが歌う歌詞も「あー生きてるとたしかにそういうつらいこともあるなぁ」と、楽観的に共感したり、楽しめたりしていた。なので今回のニュー・アルバムからの先行リリース曲“Black Qualls feat. Steve Lacy & Steve Arrington”を聴いたときも、新しいアルバムはきっと前作の『Drunk』(2017)より突き抜けたハッピーでマッドな雰囲気を更新したイケイケな感じなのだろう、とそのときは思っていた。発売日、CDをゲットして一度スピーカーで流し聴きした。「なんか地味だな……」それが第一印象。日が落ちて、バスに乗って出かける用事があり、全部ヘッドホンでもう一度通して聴いてみる。今度は歌詞カードも一緒に。すると、アルバムのラストを飾る曲“It Is What It Is feat. Pedro Martins”に差し掛かったところで、泣きたい気持ちになっていた(というかちょっと泣いた)。え、このアルバム、この終わり方はめっちゃせつなくないか……ここで終わり?! Pedro Martinsの哀愁漂いまくりのギターとバスの窓からの少し肌寒い風も余計にそういう気持ちに拍車をかけていた。まるでストーリーが解決していない映画を見終わったような感覚。間違いない、サンダーキャット史上もっとも完成されたアルバムで、これからも大事にしていきたいと思える1枚だ。もう一度初めから聴いてみよう。

 最初に彼の作る音に触れたのは2010年過ぎたころあたりだろうか。今回のアルバムでも話さないわけにはいかない共同プロデューサーのフライング・ロータスがリリースしたアルバム『Cosmmogramma』(2010)での参加においてだ。ちなみにフライング・ロータスは、ヒップホップとかブレイクビーツ、といった音楽しか聴かなかった人びとにも新しい扉を開放した1人だと思っている。その『Cosmmogramma』では要所要所でベースの鬼のようなプレイや渋い演奏が聴こえ、前作『Los Angeles』(2008年、これも名盤)にはなかったファルセットで歌う男性の声も収録されていた。のちのち、どうやらサンダーキャットなる人物がかかわっているらしい、とわかってYoutubeで調べたら、ドラゴンボールのコスプレをした男性が目をハートにして、猫のトイレでうんこしているわけのわからないヴィデオがヒットした。なんだこいつは……『Cosmmogramma』のスピリチュアルでコズミックな世界観に正直少々スピっていた僕は拍子抜けした。

 そのフライロー(フライング・ロータスの愛称)はLAの2010年代のビート・ミュージックにおいてもっとも重要なレーベルのひとつ、Brainfeeder(Ras G “R.I.P.”、Samiyam、MONO/POLY、等のビート・ミュージックのヒーローが所属)を発足させた。これもサンダーキャットを語る上では欠かせない要素の一つだと思う。2011年、彼はフライローのレーベルから1stソロ・アルバム『The Golden Age of Apocalypse』(2011)を出した。フライロー経由でBrainfeederを知り、なおかつビートメイカーとして音楽を作りはじめていた自分にとって、このレーベルはとても可能性があり、新しい未来を予感をさせるものであった。そんなビート・ミューックのレーベルから出た、ベーシストのアルバム。打ち込みと生演奏のコラボというのはそれまでにもいろいろあったろうけど、どれもクールでかっこいいものという印象だったし、そこには演奏の妙、という打ち込みばかりを聞いてきた者にしてみれば少し難しい未知の領域……の、すこし語弊があるかもしれないが「なんとなくのかっこよさ」を与えていた。『The Golden Age of Apocalypse』はそういう「クールでかっこいい」がもちろん全編を通してありながらも、同時に近年の彼の作品にも通ずる「バカバカしいほどのふざけた感じ」がすでに同居していた(このころのヴィデオで言うなら「Walkin’」を見ればわかると思う)。個人的には彼に対して「猫のトイレでうんこ」という印象が正直いまでもあるが、そういうユーモア感覚は「クールでかっこいい」や「高尚なもの」とばかり勝手に思っていた音楽を聴いたり語ったりすることに対する敷居を下げ、音楽を楽しむ、という頭で聴くのではない、もっともピュアで原初的な楽しさを明示してくれた。Brainfeederが試みてきたこの約10年にわたるさまざまな実験がもたらした、ジャズとビート・ミュージックの融合、ということもたしかに大事ではあるが、いま述べたような部分もかなり大きいと思っている。それに大きく貢献した1人がサンダーキャットだった。

 そういう「すごいけどバカバカしい、とっつきやすい」というような感覚を同じBrainfeederレーベルで共有しているであろう人物は間違いなくLouis Coleだ。今回のニュー・アルバムにも“I Love Louis Cole feat. Louis Cole”(タイトルのふざけた感じが良い)で参加している。彼のBrainfeederからのソロ・アルバム『Time』(2018年、サンダーキャットも参加している)のリリースの時期あたりに出た自宅セッションを見ていただければ、なんとなくその「すさまじい演奏技術をバカバカしく、楽しいものに見せる感覚」というのはわかりやすいかもしれない。

 彼がサンダーキャットに歌唱やソングライティングの点で大きい影響を与えているような気がしてならない。前作『Drunk』でいうならば、彼がプロデュースした“Bus In The Street”なんかがそうで、この曲のファルセット感はLouis Cole自身のそれとかなり近しい。それ以前よりファルセットを披露してきたサンダーキャットだが、前述のアルバム『Time』なんかを聴くとそれがよくわかる。僕は正直『Time』を聴いたとき、この人はサンダーキャットのゴーストライターなんじゃないの? くらいのことは正直思った。それくらい親和性がある。こういう曲はそれまでのサンダーキャットにはあまりなかった作風だったので、すごい意外な曲だなこれ、とアルバムが出るもっと前(調べたところ2016年なので、約1年前)シングルがリリースされたときに感じた。Louis Coleのコンポーザーとしてのポップさは、近年のサンダーキャットの「突き抜けた感じ」の大きい要素のひとつだと思う。

 そんなLAの太陽のように明るい性格で人柄のよさそうなサンダーキャットの良さはもうひとつあって、それは意外とその反対の陰の部分である。これはBrainfeederからの2作目『Apocalypse』(2013)からじょじょに作品に滲みはじめてきた。数々のインタヴューでも彼は言及していることように、その原因は彼自身が都度抱えてきた「喪失感」にあり、今回の『It Is What It Is』でもっとも重要なファクターといえる。“Apocalypse”は、同じBrainfeeder所属だったAustin Peraltaという友人のキーボーディストが2012年に逝去したことに対するフィーリングが反映されており、彼のそれ以降の作品は「死」や「喪失感」といったテーマが通底している。それはサンダーキャットも大きくプロダクションに関わったフライング・ロータスのアルバム『You’re Dead!!』(2014)や『Drunk』の夜明け前かのようなEP「The Beyond / Where the Giants Roam」(2015)にて感じることができる。なので、当時の個人的な所感を思い出すと、「もしかしてこのままダークで落ち着いた作風へ向かうのか?」というのが正直なところであった。

 『It Is What It Is』はそう考えると、いままでのサンダーキャットの総仕上げのようになっているように思う。前半はとても前向きで楽しく、バカバカしいような歌詞の内容もあるが、後半はダークでシリアス。暗い部分はフライング・ロータスの近年の死生観からも大いに影響を受けていると思う。しかし、いままでと決定的に違うのはアルバムのラストを飾る表題曲“It Is What It Is feat. Pedro Martins”だ。僕がこの曲を聴いたときに泣きたくなったのは、「どれだけ自分ががんばっても何かや誰かを失う。それは避けられないし、そういうものだよ」というある種達観したようなメッセージにある。一見してみればこのメッセージは諦めにしか聞こえないが、これはとても前向きなものではないだろうか。たとえ時間が解決しないことだろうと、それ自体を「間違ったこと」としてとらえるのではなく「そういうものだよ」と肯定的にとらえている。そうでなければ、その「間違っている」という、正常な状態への途中段階にある自己を作品として明確に表現することは難しいように思う。自分を含めてたいていの人は、「何も起こっていなく、安全な状態」を正しいものとし、それ以外は間違っている、というバイアスが無意識のうちにかかりがちではないだろうか。誰だって、ネガティヴなことはふつう避けたい。しかし、その痛みさえも生きていることの一部であり、そこに目を向けるということの重要性をサンダーキャットは伝えているように感じてならない。もちろん、間違っている常識や習慣は存在するし、そういうのは正していかなくてはならないが、心持としてはこの考え方で生きていきたいものだ、と強く思わされる。そう思うと、前半の“Overseas feat. Zack Fox”や“Dragonball Durag”のような妙にピンプでイケイケな感じも、アルバム全体として考えたとき何か含みのあるような曲に思えてくる。本人にはきっとそんなつもりは一切ないのだろうけども。

 いままでならポジティブなヴァイヴスで世界をよくしていこう! とシンプルに思うことも可能だったが、実際はもっと複雑で現実的な問題が各地で噴出しはじめた。もちろんのことながら、彼がこのアルバムを制作していた頃はいまみたいな世界の状況ではなかった。しかし、彼がこのアルバムを通じて語り掛けてくれる、「楽しいことも、悲しいこともあるけどすべて「It Is What It Is」(そういうものだよ)」という優しい言葉にはいまの世界ではなにか救われるものがある。

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