「IO」と一致するもの

Koji Nakamura - ele-king

 先日《Hardcore Ambience CH.》の映像作品を公開したばかりのナカコーからまたも嬉しいお知らせです。なんと、ワンマン・ライヴが決定しました。11/24と11/25に下北沢440にて、11/27に茨城は取手Atelier ju-touにて開催。ドラムに沼澤尚、ベースに345を迎えたトリオ編成で、ナカコーはギターとヴォーカルに専念します。セットリストもすでに公開されています(下記参照)。これは楽しみ!

interview with BADBADNOTGOOD (Leland Whitty) - ele-king

 トロント出身の3人組のバンド、バッドバッドノットグッド(以下BBNG)の、5年ぶりとなるニューアルバム『Talk Memory』がリリースされた。
 BBNGは、トロントの有名大学、ハンバーカレッジのジャズ・プログラムで出会った、アレックス・ソウィンスキー(ドラム)、チェスター・ハンセン(ベース)、リーランド・ウィッティ(サックス、ギター)から成るバンドで、数多くのアーティストとのコラボレーション活動で知られている。2010年結成以後、ヒップホップを中心とした楽曲のインストゥルメンタル・カヴァーが注目され、その後自身の作品リリースと並行して、ゴーストフェイス・キラーと共作アルバムを発表し、ケンドリック・ラマーをはじめとする人気アーティストの楽曲プロデュースを手がけるなど、彼らはつねにバンドの外の世界と混じりあいながら活動を進めてきた。MFドゥームダニー・ブラウンサンダーキャットフランク・オーシャンからスヌープ・ドッグ、ブーツィー・コリンズまで、彼らの共演者は枚挙に暇がない。
 2014年、彼らが初めてレーベルと契約したアルバム『III』のリリース時、大阪にある小規模ライヴハウス、CONPASSで彼らのライヴを見た。当時、彼らを形容する新世代ジャズという言葉が指す音楽は、いまほど振り幅が広くなく、ヒップホップのビートを強調する生演奏といったイメージがあったが、実際見たライヴはむしろロック・バンドの印象に近かった。レイドバックするグルーヴよりも、前に前に繰り出す音の波動が、衝動的なエネルギーと同時に発散されていて、演奏する彼らもオーディエンスも同じようなフィーリングを交換し合っていた。終演後もバンド・メンバーは観客と写真を撮り合い、自分たちの写真をコラージュした手作り感満載のステッカーを手渡しで配っていた。
 数年が経ってリリースされた2016年のアルバム『IV』には、作り込まれた緻密な作風があり、ライヴのカジュアルな印象との違いに驚いたが、その後の大規模な世界ツアーの反響を見ると、彼らの演奏は大きな会場になっても以前のライヴと変わらないテンションを持っていることがわかった。そして、なぜここまで多くのアーティストが彼らとコラボレーションしてきたのか合点がいった。
 インタヴューでも答えてくれているが、ツアー中にウッドブロックを紛失してしまったことがあり、空になったウィスキーの瓶を用いた、「ジムビームのパーカッション」の演奏が盛り上がりメディアでも取り上げられていた。その曲はケイトラナダと作った “Lavender” だったのだが、この曲を聴いた筆者の子供たちが、手元にあった割り箸をとっさに掴み、思い思いにリズムを取りはじめたのには驚いた。この様子に、瓶を叩く彼らの姿が重なり同じ音楽を共有するというリアルな感覚を覚えたからだ。なるほど、彼らの音楽には、共に音を出したくなる魅力があるのだろう。今年 TikTok で大ヒットした “Time Move Slow” のリメイク動画も、同じような衝動から生まれたに違いない。BBNGの音楽がここまで広がりを見せるのは、音楽への衝動を引き出す力が、彼らの活動の中に備わっているからなのだと思う。
 さて、今回のニュー・リリースは、どんなメンバーがコラボレーションに加わっているのだろう。過去と現在を繋ぎ新たな文脈で自己を表現する、地域も時代性も異なるアーティストが集結している。ブラジルの伝説的なアレンジャー/プロデューサーのアルトゥール・ヴェロカイ、マンチェスター出身で現代のUKシーンを代表するプロデューサー、フローティング・ポインツ、アンビエント/ニューエイジの巨匠、ララージ、デトロイトのジャズとクラブ・ミュージックを体現するドラマー、カリーム・リギンス、そのデトロイトでハープをジャズに取り入れた先駆者、ドロシー・アシュビーを継承するブランディー・ヤンガー、Pファンクの真髄を知るLAのプロデューサー/サックス奏者、テラス・マーティン。さらに、UKからジョー・アモン・ジョーンズ、日本では Ovall といった世界中のミュージシャンが先行シングルをカヴァーし、このリリースは大きなプロジェクトへと発展しはじめている。
今回のインタヴューは、サックスやギターなど複数の楽器を操るマルチプレイヤー、リーランド・ウィッティが担当してくれた。非常に温和な対応が印象的だった。

メロディに関しては、歌えるようなメロディを作ろうと心がけているよ。歌えるようなら愛着も湧くし、記憶に残りやすいと思うから。その代わりテクスチャやサウンドをユニークなものにしたり、ハーモニーを少し複雑なものにしたりする。

少し前の話からはじめたいのですが、前作の『IV』の成功で世界を飛び回ってツアーをしてきたと思います。その中で印象的な経験を教えてください。

リーランド・ウィッティ(Leland Whitty、以下LW):そうだね、僕たちは確かにツアーで世界各地を回ることができた。その思い出はひとつひとつが特別なものだけど、特に印象に残っているのは、ホームのトロントにある Massey Hall という会場でやったギグ。レッドブルが主催のイベントで、たくさんの友人を誘って彼らと一緒に演奏することができて、弦楽部門も入れることができた。トロントを象徴する、とても美しい会場なんだ。僕たちは今までに Massey Hall で数多くの公演を見てきたから、自分たちがそこでギグをやるということは僕たち全員にとって特別なことだった。もうひとつ印象に残っているのは、サンパウロでアルトゥール・ヴェロカイの前座を務めたとき。彼のセットはオーケストラが入っていて、その最後の4曲で僕たちもジョインして、僕たちがいままでずっと大好きな曲として聴いてきた、アルトゥール・ヴェロカイの曲を、彼のオーケストラと一緒に演奏した。感激するほど素敵な体験だったよ。あの機会があったから、アルトゥール・ヴェロカイとの関係性を確立できたと思う。

この数多くの経験が『Talk Memory』にフィードバックされていると思いますが、曲作りからレコーディングまでのプロセスを教えてください。

LW:様々な場所でライヴをしてきたという経験は、今回のアルバムの大きなインスピレーションになっている。僕たちは、とても長い間、アルバム『IV』のツアーをしていたから、その期間に、アルバムの曲を進化させて、形を変化させていったり、即興演奏を長く取るようにしていった。そうしたことで、曲がさらに自由になっていったという実感があったから、それを今回のアルバムの音楽に反映させたかった。今回のアルバムの考え方としては、全てが前もって作曲され、練習されているということだった。レコーディングの2ヶ月前に曲が完成されていたものが多かったと思う。だから曲は、とても新鮮なもので、かつ、丹念に練習されていたから、レコーディングのプロセスはとても手短に、シームレスにおこなうことができた。自分たちがどういう演奏をして、何を成し遂げたいのかということが既に明確になっていて、自信もついていたからね。だからレコーディングのときは、ライヴでおこなう即興演奏のような感じはあまりなかったんだ。

でも今回のアルバムには即興された部分も収録されていますよね?

LW:その通り。全ての曲は、それぞれメロディ、ハーモニー、形の構成が全てでき上がっているんだけど、そこに大抵、ひとりかふたり分のソロを入れられる余白が残してあるから、そこで即興ができるようになっているんだ。元々の構成をしっかり作って、それに自信を感じられるようになっていたからこそ、即興をするというときに、より自由に演奏することができたと思う。

ツアーのインスピレーションと言えば、新録に収録されている “Open Channels” ではウッドブロックのリズムが印象的でしたが、もしかすると、ツアーでお馴染みになったジムビームのボトルパーカッションを使っていまか?(笑)

LW:ハハハ! アルバムでもそうすれば良かったね! 実際に使ったのは本物のウッドブロックだよ(笑)。“Lavender” という曲をライヴで演奏したときに、曲にはサックスのパートがないから、僕はパーカッションをやったんだけど、パーカッションが行方不明になっちゃったから、ジムビームのボトルをシンバルのスタンドにくっつけて、それを使ったんだ。

盛り上がっていましたよね。BBNGの曲を聴いていると、耳に残るメロディがあって、70年代のレコードと重なるようなときがありますが、過去のそれとは異なる何かが混じって新鮮な響きなり、それがBBNGの個性になっている気がします。曲作りではどんなことを意識していますか?

LW:感情に訴えかけるような音楽を作ろうという意識はある。メロディに関しては、僕たちそれぞれのアプローチがあると思うけれど、僕個人としては、歌えるようなメロディを作ろうと心がけているよ。メロディに関しては、知性に訴えるものである必要はないと思っていて、歌えるようなら愛着も湧くし、記憶に残りやすいと思うから、僕個人はそういう面を大切にしている。その代わりテクスチャやサウンドをユニークなものにしたり、ハーモニーを少し複雑なものにしたりする。それが君の言っていることかもしれないね。メロディを、より現代的で個性的なものへと昇華させる。それにしても、僕たちの音楽が古くて馴染みのある感じに聴こえるというのは嬉しいことだね(笑)

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僕たちはアルトゥール・ヴェロカイの大ファンだから、一切のディレクションをしなかったんだ(笑)。そしたら彼はアレンジの音楽を作曲して、スタジオを予約して、ミュージシャンを雇って、録音した音楽を僕たちに送ってくれた。それを聴いた僕たちは一瞬で圧倒されたよ。

新作について、話を移しますが、今作はBBNGの初期の作品の影響となったアーティストのオマージュとのことですが、まずその点についてお聞きしたいです。

LW:僕たちがアルトゥール・ヴェロカイを知ったのは、MFドゥームが彼をサンプリングしていたのがきっかけだった。だからこのふたつのコネクションは非常に強い影響だと思う。特にBBNGの初期の影響はジャズとヒップホップだからね。ジャズをサンプリングしたという影響も大きかったし、サンプリングという技術のおかげで、僕たちは、ブラジル音楽や、その他のジャンル──MFドゥームを発見していなかったから聴いていなかったかもしれないジャンル──の音楽という世界への扉が開けた。だからアルトゥール・ヴェロカイとMFドゥームからは強い影響を受けている。今作に関して言えば、僕個人としてはブラック・サバスやマハヴィシュヌ・オーケストラ、マイルス・デイヴィス、フローティング・ポインツなどもたくさん聴いていたよ。

他にもたくさんの共演者がいますが、過去の音楽を継承しながら自分の色を作っている現在のアーティストや、現在の音楽シーンで新たなイメージで活躍しているベテランがいて、地域も世代も幅広い人選になっていますね。

LW:人選についてはその通りだと思うね。実際に会ってレコーディングしたのは、テラス・マーティンカリーム・リギンスのふたりだけで、それは僕たちがロサンゼルスでこのアルバムをレコーディングしていて、彼らがロサンゼルスにいるアーティストたちだったという理由から。元々彼らとはツアーをしているときに知り合って、交友がはじまった。もちろんそのずっと前から彼らのことは知っていたけど、彼らのライヴを実際に聴いてから、より刺激を受けた。だからこのふたりと一緒にレコーディングできたのはラッキーなことだった。その後に、アルバムのメイントラックを全て撮り終えたんだけど、パンデミックが発生してしまったから、残りのゲストたちとのやりとりは全てEメールだったんだ。まあそれもあって、国や地域性を特に意識せずに、誰とコラボレーションしたいかということを自由に考えることができた。でもやっぱり、ゲストたちと仕事をするときは、同じ空間で一緒に音楽をやる方が断然いいよ。今回はララージブランディー・ヤンガー、そしてアルトゥール・ヴェロカイに自分たちの音楽を送ってという形になったけれど、彼らとコラボレーションできたのは素晴らしい体験だった。

ゲストとはそれぞれどんなやり方でレコーディングをしたのでしょうか? コンセプトやイメージを共有するために取った方法を教えてください。

LW:最初に(リモートで)コラボレーションしたのはアルトゥール・ヴェロカイだった。僕たちは当初からストリングスのアレンジを音楽に加えたいと思っていて、自分たちでアレンジをしようかと考えていたんだけど、誰かがアルトゥール・ヴェロカイに頼んでみようと提案したんだ。アルトゥール・ヴェロカイは非常に多作な人で、いまでも数多くのアーティストたちのプロジェクトを手掛けているにもかかわらず、僕たちのプロジェクトに関わることに対しても快諾してくれた。僕たちはアルトゥール・ヴェロカイの大ファンだから、彼に対して「あなたが手がけるものなら何でも、僕たちの音楽にぴったりとはまると思います」と言って一切のディレクションをしなかったんだ(笑)。そしたら彼はアレンジの音楽を作曲して、スタジオを予約して、ミュージシャンを雇って、録音した音楽を僕たちに送ってくれた。それを聴いた僕たちは一瞬で圧倒されたよ。
 その次に依頼したのはララージだったかな。僕たちはララージの音楽もずっと聴いてきていて、今回の “Unfolding” という曲に彼の美しいテクスチャを全体的に加えたら、素敵なアンビエントな曲になって、とても合うと思った。彼とはZoomで連絡を取り合っただけで、実際にはまだ会ったことがないんだ。ララージは自宅にスタジオのセットアップができていたから、そこで録音してもらった。
 ブランディー・ヤンガーも、彼女の自宅でレコーディングしてもらったんだけど、彼女は僕たちにいわゆる「贅沢な悩み」を与えてくれた。彼女は “Talk Meaning” の演奏を3テイク分、送ってくれたんだけど、3つともすごく素晴らしくて、ひとつずつが個性的なものだったから、選ぶのがすごく難しかったんだ。しかもそれが、アルバムを完成させてミックスへ送る直前の、パズルの最後のピースだったんだ。

アルトゥール・ヴェロカイに関しては何の指示もしなかったということですが、他のゲストたちとはコンセプトやイメージを共有したのでしょうか? それとも音楽をゲストに送るだけで後はゲストに任せるという感じでしょうか?

LW:ほとんどの場合、ゆるい感じの指示しかしない。例えば、ララージのときは、彼特有のドローンな感じを曲全体に纏わせてくれたらいいと思って、そういう漠然とした感じを伝えた。僕たちの指示がなくても、ララージは自分で選択した道を歩んで、最終的にあの仕上げ方をしていたと思うけれどね。ブランディーの演奏に関しては、ジャズで言う「コンピング」という、メロディーに合わせて伴奏する形式に近かった。ハープはとても美しい響きを持つ楽器だし、彼女の演奏も素晴らしいから、僕たちの漠然とした指示だけでも良いコラボレーションになった。“Unfolding” と “Talk Meaning” はどちらもオープンな曲というか、余白が十分に残された曲だったから、ララージもブランディーも自分たちが望むような演奏ができたと思う。

アーティストのたまごのような人たちにとって、他の人たちとアイデアを共有したり話し合ったりすることのできるコミュニティがあるということは、お互いの成長を助けるという意味でとても大切だと思う。

前作は自分たちのスタジオでのレコーディングで、今回はLAのヴァレンタイン・スタジオでの録音ですが、どんな違いがありましたか?

LW:前作『IV』は自分たちのスタジオでレコーディングしたから時間的な余裕があった。前作も今作もテープに録音されたものなんだけど、テープ録音をするときは、ある特定の姿勢でその録音方法に取り組まないといけないんだ。だけど、前作は時間的な余裕があったから、細かいことを気にして直したり、セッティングを変えたり、完璧なシンセのトーンを見つけようとしたりして、時間を贅沢に使っていた。僕はオーバーダブを何度もやって、自分のパートや演奏に対して過剰に批判的になって、完璧なものが撮れるまで録音を延々とおこなっていた。でも、LAのヴァレンタイン・スタジオでレコーディングしたときは、状況は全く違うものだった。主な理由としては、スタジオ・エンジニアのニックがものすごく早いペースで仕事をする人で、僕たちがどんな提案や難題を彼に投げても、つねにレコーディングする準備ができているというタイプの人だったからなんだ。だからニックはバンドのもうひとりのメンバーみたいな感じだったよ。さっきも話したように、今回のアルバムでは、曲を事前にしっかりと練習していたから、自分たちがやりたいことが明確になっていた。だから今回のレコーディングの方が、前回よりもずっと少ないテイク数で終了した。通常なら、僕たち全員が満足するものが撮れるまで何度もレコーディングするんだけど、今回は全ての曲が4テイク以下で済んだ。

前回のように、レコーディング機材のセッティングは頻繁に変えて工夫しながら録ったのですか?

LW:セッティングは少し変えたけれど、全ては僕たちがアクセスしやすいようにセッティングされていた。機材に関しては、ヴァレンタインは60年代に作られたスタジオだから、そこにあった機材の多くは、僕たちが最も好きな60年代という時代からのものなんだ。そういう機材に囲まれてレコーディングできたのもアルバムに影響を与えたと思うよ。保存状態が完璧なヴィンテージのマイクや、美しいミキシング・コンソールや外付け型のプレアンプやイコライザーなどは、アルバムのプロダクションに大きな影響を与えたと思う。楽器に関しては、僕たちはトロントからLAに行ったから、必要最低限のものしか持っていかなかった。僕はサックスとフルートを持っていき、チェスターはベースを持っていき、アレックスはシンバルを持っていったけれど、それ以外のものは全てスタジオに完備してあった。ギターやアンプなど素晴らしいコレクションが備わっていたよ。僕がいままでに触ったピアノや聴いたピアノの中で最も美しい音を出すスタインウェイのグランド・ピアノもあったし、フェンダーローズもあった。そういう素晴らしい楽器がたくさんあったから、実際に自分たちでそういう楽器を弾いてみると、とても良い刺激になった。

いまの時代は技術革新が進んでいるから、スマートフォンやノートパソコンを使える人なら誰でも、良い作品を作ることが可能だと思う。でも僕は音楽というものは、それ以上に、コラボレーションが基盤となっている活動だと思っている。様々な人たちと様々な環境で一緒に仕事をしていくという技術を身につけることは非常に重要なことだと思うから、それが将来、不要なものとしてなくならないことを願うよ。

全体の音質作りに関して参考にした作品はありますか?

LW:今回のアルバムのプロダクションや音質作りに関しては、ディアンジェロを参考にした部分があった。だからアルバムをディアンジェロのアルバム『Voodoo』を手掛けたラッセルに仕上げてもらったことはとても重要な意味合いがあった。それから、ブラック・サバスやマハヴィシュヌ・オーケストラ、ジミ・ヘンドリクスといったもう少しヘヴィーな音楽も参考にしたし、ルディ・ヴァン・ゲルダーが手掛けた昔のジャズ、例えばコルトレーンやウェイン・ショーターなどによる素晴らしい音響のレコードも参考にした。プロダクションやアレンジメントやテクスチャや即興に関しては、アルトゥール・ヴェロカイのレコードを今回も参考にしているよ。

ラッセル・エレヴァードはこの新作にどのように関わっていますか?

LW:彼は素晴らしい音楽をたくさん手掛けてきたレジェンドだ。そんな人と一緒に仕事ができたということ自体が光栄で素晴らしい経験だった。彼とスタジオに入って、彼の作業を実際に見ることができたら最高だったんだけど、パンデミックの影響で残念ながら、彼と実際に会って仕事をすることはできなかった。アルトゥール・ヴェロカイとララージとブランディー・ヤンガーがオーバーダブをしたパートはデジタルでレコーディングされたんだけど、それ以外の僕たちのパートは全てアナログでレコーディングされたものだった。それをラッセルに送ることによって、ラッセルはそのプロセスを引き継いでくれた。彼はミキシングのときはプラグインを一切使わないし、素晴らしいアナログ処理の機材を所有している。彼は僕たちの素材を全て上手にまとめ合わせてくれて、温かみのある層を加えてくれた。それにミキシング・エンジニアとしての絶妙さというのにも長けていて、アルバム全体にかけて、テクスチャやトーンのニュアンスを絶妙に調節してくれた。曲を書いて演奏した僕たちでさえあまり気づかない箇所も彼は微妙な処理をしてくれて、音楽全体を素晴らしいものに仕上げてくれた。

ところで、新作から逸れますが、初期の活動場は、アレックスのお父さんが持っていて提供してくれた地下室だったり、チェスターのお父さんがあなたたちの好きなヤマハ・シンセサイザーの CS-60 を探し回って見つけてくれたりと、ファミリーの応援が垣間見られるエピソードを記事で読みました。家族やコミュニティとの関わりもBBNGの活動の重要な点だと感じますが、あなたたちが家族やコミュニティとどのように関わり合ってきたのか教えてください。

LW:そうだね、家族は僕たちにとってものすごく重要な存在だ。アレックスの父親のビルは、昔からバンドのいちばんの支援者だった。ビルはいつも僕たちのことをライヴ会場まで車で連れていってくれたんだ。ライヴのときは、機材を車に積んだり、降ろしたり、会場内へ運んだりしないといけないから、彼のサポートは本当に心強かったよ。最近はパンデミックの影響であまりバンドの家族と会うことができなくなってしまったけれどね。僕の両親はカナダにいるんだけれど、かなり遠く離れているから、ここ2年くらい会っていないんだ。でも今度トロントにまた引っ越してくるからもうすぐ会える。僕の両親も僕の音楽活動をずっとサポートしてくれているよ。コミュニティに関しては、アーティストのたまごのような人たちにとって、他の人たちとアイデアを共有したり話し合ったりすることのできるコミュニティがあるということは、お互いの成長を助けるという意味でとても大切だと思う。ただそれも最近のパンデミックのせいで、ライヴが開催されなくなってしまったから、友人に会う機会も減ってしまったし、友人のアーティスト活動をサポートするのも難しくなってしまった。でも、通常の状況においては、そういうコミュニティ内でサポートをし合って、成長していくということが僕にとってはとても大切なことだったね。

最後に、これからの音楽シーンに関して思うことを教えてください。

LW:いまの時代は技術革新が進んでいるから、スマートフォンやノートパソコンを使える人なら誰でも、良い作品を作ることが可能だと思う。それはすごいことだと思うし、多くの人にそのアクセスがあるということは良いことだと思う。でも僕は音楽というものは、それ以上に、コラボレーションが基盤となっている活動だと思っている。様々な人たちと様々な環境で一緒に仕事をしていくという技術を身につけることは非常に重要なことだと思うから、それが将来、不要なものとしてなくならないことを願うよ。人と一緒に音楽をやることの良い点というのは、コミュニティが育まれ、広がっていくということ。そのコミュニティが、個人やアーティストとして成長できる場になるし、活躍する機会も増えて行くと思う。お互いの成長や発展をサポートし合っているコミュニティに多く広く所属している方が、成功する機会も増えていくと思うんだ。音楽業界で成功するのは難しいことだと思うけど、人と関わっていく技術や、コミュニティを大切にするということは成功する上でとても役に立つと思うよ。

スマーフ男組 - ele-king

 スマーフ男組、その名前からしてマッチョイズムのパロディになっているこの3人組——マジアレ太カヒRAW、コンピューマ、アキラ・ザ・マインド——は、90年代に活躍した実験的ラップ・ユニット、Asteroid Desert Songs (A.D.S.)を母体とし、よりエレクトロ(彼らは初期トミー・ボーイなど、オールドスクールのエレクトロ狂でもあった)にフォーカスしたグループとして1997年に始動、そして2007年に1枚だけアルバム『スマーフ男組の個性と発展』を発表、やがてシーンから消えていった。しかしながら彼らのあまりにも独創的なその音楽は、忘れられることはなかった。むしろ年を追うごとに彼らのユーモアと実験精神たっぷりのその音楽は、町の酒場の片隅で、あるいはネット上で、ことあるごとに語られ続け、そして10月20日に未発表曲を3曲加えたかたちでリマスタリングされ発売されることになった。封入されるブックレットには、活動当時のアーカイブ、パーティー・フライヤー、CD発売当時のお祝いコメント、マジアレ太カヒRAWの楽曲解説、磯部涼による解説入りという豪華盤。売れ切れ必至なので、早めにどうぞ。

スマーフ男組
スマーフ男組の個性と発展

Lastrum / MUSICMINE / JET SET

※2LP+Download Code付き
ゲスト・ミュージシャンはZEN-LA-ROCK(FNCY)、Nanao Del Monaco (FATHER)、AYA (OOIOO)。デザインは前田晃伸

House music - ele-king

 ハウスは12インチの文化とよく言われる。それは、僕がハウスを気に入っているひとつの理由でもある。ロックを聴いていた高校生のころは「フルレングスのアルバム以外認めない」なんて謎にオラついていたけれど、いまではアルバムという単位にちょっと重く感じてしまうときがある。その点、12インチは気軽に針を落とせるし、基本的には音がいいし、なにより安いのだ(あくまで、アルバムと比べて)。僕のサウンド・パトロールではアルバムに縛られず、お気に入りの12インチ、EPやコンピレーションなど、さまざまなフォーマットでリリースされたダンス・ミュージックを定期的に紹介することをコンセプトに据えている。それらにはアルバムと違った聴きかた、楽しみかたがあると思うので、以下に紹介する5枚をぜひ聴いてみてほしい。


V.A - BEAUTIFUL PRESENTS: BEAUTIFUL VOL 1 〈Beautiful〉

 ロンドンの〈Beautiful〉は、Reprezent RadioやBBC Radio1で活動しつつ、かたや『Fabric Presents』では、モーター・シティ・ドラム・アンサンブルやオーヴァーモノに続いてそのミックス・シリーズに抜擢されるなど、いま勢いに乗りまくっているシェレリが新たに設立したレーベル。その第一弾となるコンピレーションは、「ブラック・エレクトロニック・ミュージックをセレブレートするためのホーム」と言う通り、ロレイン・ジェイムズ、イーロン(:3LON )、ティム・リーパー、カリーム・アリなど、性別を問わずエレクトロニック・ミュージックの若い才能たちが一堂に会している。コンピレーションで曲数が多いから通して聴くのは大変かもしれないが、騙されたと思ってオープナー“Sirens”と続く“THE PSA”だけでも聴いてみてほしい。〈Beautiful〉は黒人、クィア、女性であるひとびとの良きプラットフォームを目指しているようだが、それはこのコンピの人選を見ても明らかだ。シェレリの野心的な試みにはこれからも目が離せない。


V.A - Melodies Record Club #002: Ben UFO selects 〈Melodies International〉

 フローティング・ポインツによる、リイシュー専科の〈Melodies International〉。このレーベルの『Melodies Record Club』シリーズは、DJやアーティストが12インチで過去のレアな音源をキュレーションする企画で、記念すべき第一回はフォー・テット、そして今回はベン・UFOがセレクトするなど、フローティング・ポインツと馴染み深い面々が担っている。電子音楽の先駆者のひとりとして数えられるローリー・シュピーゲルによる、“Drums”の実験的な7分間のアフリカン・マシン・リズムが最高なのは言うまでもないが、僕は B面のオロフ・ドレイジャーによる“Echoes From Mamori”のほうにさらなる衝撃を受けた。これは、彼の友人が企画したエキシビジョンのためにCDでリリースされた音源だそうで、アマゾンとベルリンで録音したカエルや鳥のサウンドから始まる、およそ13分もの長大なハウス・ミュージックに仕上がっている。『Melodies Record Club』のこれからのラインナップとして、ハニー(〈Rush Hour〉)、ダフニ(カリブー)、ジャイルズ・ピーターソンなどをそのキュレーターとして予定している。非常に楽しみだ。


Kush Jones - Rugrats / Basic Bass 〈FRANCHISE〉

 シカゴで生まれた正真正銘のアンダーグラウンドなダンス・ミュージック、ジューク/フットワーク。しかし、ご紹介するものはシカゴでなくニューヨークで、もはやこれをジューク/フットワークと呼んでいいのかと思うくらいの変異ぶりを感じる。ブロンクスで生まれ育ったクッシュ・ジョーンズは、シカゴにおける猥雑でゲットーな同ジャンルの正統な旗振りというより、そのフォームをよりエクスペリメンタルに前進させようと試みるDJと言うべきかもしれない。彼と同じ〈Juke Bounce Werk〉のクルーであるDJノアール、EPが待たれるマンチェスターのアンズ、そしてブルックリンのDJマニーと、リミックス陣も抜かりなく豪華な面々が揃えられているところもポイント。ベスト・トラックはDJマニーによる不協和音ギリギリを狙っていくかのような“Rugrats”のリミックスかな。


effgee - Good Morning 〈fellice records〉

 ドイツはハンブルクを拠点とする、エフギーことフェリックス・ガスによるモダン・ハウス。彼自身によって2021年に設立された〈fellice records〉のレーベル第一弾で、イタリアでの生活をもとに、fellice(フェリーチェ、イタリア語で「幸せ」を意味するらしい)なフィーリングを伴った音楽を提供している。“Place”のオーガニックで温かみのあるハウス・グルーヴは、彼のソウルやジャズを背景としたドラマーとしての出自がおそらく関係しているのだろう。奇妙で不確かないまの時代において、自分のサウンドとデザインをアウトプットするための必要性を感じたことがレーベル設立の動機で、その通り今作のサウンドとアートワークはエフギー自身がすべてを手がけている。ウクライナのヴァクラをいち早く紹介したことでも知られるUKの〈quintessentials〉から、2009年のレーベル・コンピレーションに登場していたらしいが、まったく知らなかった。要チェックです。


Project Pablo - Beaubien Dream 〈Sounds Of Beaubien Ouest〉

 前回にならって、最後はまたもや再発物で締めよう。〈Sounds Of Beaubien Oust〉(SOBO)から、記念すべきカタログ第一番が約5年ぶりのリイシュー。カナダはモントリオールを拠点に活動するプロジェクト・パブロことパトリック・ホランドの出世作。デジタルですでに持っていたので、今回のリプレスをヴァイナルで買うか迷っていたけれど、あたふたしているうちに売り切れ……。なにはともあれ“Closer”を聴いてほしい、ふわふわした夢見心地なディープ・ハウスが鳴っている。モントリオールは極寒の地だと聞くが、たしかにどこか寒々しいテクスチャも感じられ、これは秋が終わった冬に聴きたいハウス・ミュージックかもしれない。

Dub Meeting Osaka Soundsystem Special - ele-king

 大阪のPARTITTA(名村造船所跡地)にてふたつの大型サウンドシステムを導入したDubイベントが開催される。UKスタイルのDub/Rootsイベントを展開するDub Meeting Osakaの久々のイベントは、サウンドシステム・スペシャルと題して東京からEastaudio SoundsystemとBim One Productionを招聘する。大阪側では関西最強のサウンドシステムとして知られる最高音響を導入し、最高音響側ではDub Meeting Osakaクルーがプレイ、EastaudioサイドではBim One Productionが交互にプレイしセレクションと重低音の鳴りを競い合う。

2021年10月24日 日曜日
@STUDIO PARTITA (名村造船所跡地)

adv 1000yen and 1drink
adm 1500yen and 1drink
15:00 start
20:00 close

“Dub Meeting Osaka Soundsystem Special”

Bim One Production
(e-mura,1TA)
with
eastaudio SOUNDSYSTEM

VS

Dub Meeting Osaka
(Element, Dub Kazman, Sak-Dub-I)
with
最高音響SOUNDSYSTEM

Shop by grassroots
Food by mr.samosa
* 前売り詳細は来週中に追って更新予定です。
*新形コロナウイルス感染症拡大防止の為、入場時の検温、マスク着用、消毒等の感染対策にご協力願います。

チケット販売リンク
https://eplus.jp/sf/detail/3502650001-P0030001?fbclid=IwAR17dVA1IelXwMHX14nDWcVfkvF5tRtn3CwenoSptDeUhnoHrcL78YzSIOU

Radiohead - ele-king

 本日10月2日は『Kid A』リリース21周年。ということで、11月5日に発売を控える話題のリイシュー盤『Kid A Mnesia』の、高音質ライヴ上映会の開催がアナウンスされている。
 発売日の前日に当たる11月4日、東京のヒューマントラストシネマ渋谷、大阪のシネリーブル梅田の2館で開催。完全招待制とのことで、詳しくは下記を。

RADIOHEAD
今日は何の日?

世紀の名盤『Kid A』発売21周年!!
話題の再発盤『Kid A Mnesia』リリースを記念して
東京/大阪の超高音質映画館でライヴ上映イベント開催決定!!

レディオヘッド4thアルバムにして “音楽史における20世紀最後の名盤” とも謳われる『Kid A』が本日10月2日に発売21周年を迎えた。

来月11月5日には『Kid A』とその双子作品である『Amnesiac』の発売20/21周年を記念して、未発表/レア音源を追加したひとつの3枚組作品『Kid A Mnesia』のリリースが控える中、発売日前日の11月4日に東京はヒューマントラストシネマ渋谷、大阪はシネリーブル梅田の映画館2館でライヴ上映イベント(無料/完全招待制)が開催されることが決定。本日よりBEATINKのTwitterにて参加者の募集が開始。当選した来場者には当日非売品ポスターがプレゼントされる。

なお、ヒューマントラスト渋谷およびシネリーブル梅田に導入されている音響システム「odessa」は、映画の魅力を最大限引き出すため専用に開発されたカスタムメイドのスピーカーシステム。音の輪郭はもちろんのこと、音の余韻・消え際まで繊細に再現できるのが特徴となる。映画館の音を最適に調整するプロ集団ジーベックス協力のもと、今回の条件下でレディオヘッドのライヴが映画館上映されるのは世界初となっており、ファン必見のイベントとなっている。

[イベント内容]
RADIOHEADライヴ上映会
○日時
2021年11月4日(木)*スタート時間は会場によって異なる
○場所
・東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
〒150-0002東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocotiビル 8F
*上映開始時間は決定次第ご案内

・大阪:シネ・リーブル梅田
〒531-6003 大阪府大阪市北区大淀中1丁目1-88 梅田スカイビルタワー イースト 3F・4F
*上映開始時間は決定次第ご案内

○上映内容
未定

○応募方法
BEATINKのTwitterアカウントの該当ツイートにて募集
https://twitter.com/beatink_jp?s=21

11【注意事項】
※ご来場の際は、当館にて行われているマスク着用をはじめとした新型コロナウイルス感染症予防対策へのご協力をお願いいたします。
ご協力いただけない場合には、ご鑑賞をお断りさせていただく場合がございます。
※当館の『新型コロナウイルス感染予防の取り組み』については下記URLをご覧ください
https://ttcg.jp/topics/2020/05201300_10996.html

※新型コロナウイルス感染拡大の状況によって、開催日時を変更させていただく場合がございます。予めご了承ください。

※イベント内容は、予告なく変更または中止になる場合がございますので、予めご了承ください。

■その他、混雑状況など詳細につきましては、劇場までお問い合わせ下さい
ヒューマントラストシネマ渋谷 TEL:03-5468-5551
シネリーブル梅田 TEL:06-6440-5930

HTC渋谷
https://ttcg.jp/human_shibuya/topics/2021/07272157_13653.html  

CL梅田
https://ttcg.jp/cinelibre_umeda/topics/2021/03121449_13989.html

label: XL Recordings / Beat Records
artist: RADIOHEAD
title: KID A MNESIA
release date: 2021.11.05 FRI ON SALE


国内盤3CD:
XL1166CDJP ¥3,500+税(税込 ¥3,850)
[国内盤特典]歌詞対訳・解説付/ボーナス・トラック5曲収録
高音質UHQCD仕様

輸入盤3CD:XL1166CD
限定盤3LP(レッド・ヴァイナル):XL1166LPE
通常盤3LP(ブラック・ヴァイナル):XL1166LP

日本盤3CD+Tシャツ:
XL1166CDJPT1(日本盤3CD+Tシャツ)*サイズS-XL ¥7,500+税

限定レッド・ヴァイナル+Tシャツ:
XL1166LPET1(限定レッド・ヴァイナル+Tシャツ)*サイズ S-XL ¥11,250+税

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https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12094

Little Simz - ele-king

 2019年に発表した前作『GREY Area』が非常に高く評価された Little Simz。StormzyHeadie One とも肩を並べるUK屈指のラッパーとなった彼女の最新作『Sometimes I Might Be Introvert』は、歌詞とサウンド両面で、自身のルーツと向き合いながら、同時に現在の自分をも表現した作品となった。

 彼女の本名は Simbiatu Ajikawo。フッドの仲間は「SIMBI」と呼ぶ。タイトルを和訳すると「たまに内向的になるの」。本作は、ラッパーとして成功した「Simz」と素の「SIMBI」というキャラクターとパーソナリティの乖離と融和を描いている。ちなみにタイトル(『Sometimes I Might Be Introvert』)の頭文字を取ると「SIMBI」になる。

 サウンド面をサポートするのは幼なじみの Inflo こと Dean Josiah Cover。その正体は長らく謎に包まれていたが、実は Little Simz 作品では常連のシンガー・Cleo Sol(Cleopatra Nikolic)、Kid Sister(Melisa Young)とともに活動する SAULT のメンバーであった。アフロ、ファンク、ジャズ、ヒップホップ、パンク、ニューウェーヴ、ハウス、ガラージ、ドラムンベース……さまざまな要素をロンドンらしくミックスして、バンドのダイナミックな演奏で表現しているのが特徴だ。

 話はアルバムから少しだけ逸れるが、Little Simz が昨年配信したEP「Drop 6」に収録されていた “one life, might live” のベースラインは、Roni Size & Reprazent のクラシック “Brown Paper Bag” へのオマージュ。これがオバマ夫妻のプレイリストに入ってたというエピソードはなんというかいろいろ想像力が広がって最高だった。ちなみに同曲のプロデューサー・Kadeem Clarke はおそらく SAULT 周りのコレクティヴのメンバーで、Discogs を見ると『Sometimes I Might Be Introvert』の “Standing Ovation” にも参加しているとのこと。

 私は当初、このサウンド・プロダクションや、“Introvert” と “Woman” の豪華絢爛なMVに夢中になった。だが本作はリリックも素晴らしい。

 冒頭を飾る “Introvert” の1ヴァース目ではコンシャスなラッパー「Simz」として世界中でいまも続く差別について心を痛める。2ヴァース目は「SIMBI」として27歳の女性としての心の弱さをさらけ出す。そしてアウトロに女優のエマ・コリン(Netflix のドラマ『クラウン』でダイアナ妃を演じている)による、後に続くストーリーの幕開けを予感させるナレーションが入る。

 続く “Woman” はナイジェリアの血を引く彼女がアフリカ系の女性をエンパワメントするナンバー。この曲のリリックは、サウンドに負けず劣らず、言い回しがかわいくてしゃれているのだ。ナイジェリア、シエラレオネ、タンザニア現地の話題を交えながら「Woman to Woman I Just Wanna See You Glow/Tellen What’s Up(女性同士 あなたが輝くのを見たいの/みんな元気でやってる)」と語りかけたり、ブルックリンのレディーたちに「Innovative just like Donna Summer in the 80’s/Your time they seeing you glow now(80年代のドナ・サマーみたいに革新的/最盛期のあなたをみんな見てる。輝いてるよ)」と言ってくれたり。男性ですらこんなにテンションが上がるんだから、女性ならブチ上がることは必至だろう。

 だがおそらくこれは社会的な「Simz」の言葉。もちろん「SIMBI」自身もそう感じているんだろうけど。“Two Worlds Apart” では徐々に「SIMBI」の顔が見えてくる。なかなか結果ついてこなかった活動初期。昼の仕事をしながらラップを書き続けていた。“I Love You I Hate You” ではアーティスト活動が厳しい反面、音楽への捨てきれない愛を語る。そのリリックに、なんらかの問題を抱えている実父との関係を重ねるあたりが彼女がリリシストとして評価される所以だろう。

 いとこの Q によるモノローグ “Little Q Part 1” を経て、名曲 “Little Q Part 2” では彼女が育った地域がどんな場所であったかをラップする。Q は14歳で一家の主にならざるを得なかった。兄は刑務所で、父は行方不明だから。ストリートで銃を突きつけられ、病院で二週間も意識不明だったという。だが Little Simz の最近の Instagram には、その Q が大学を卒業する写真がアップされていた。Q は彼女とは違う方法で貧困から抜け出したのだ。

 “Speed” はアルバムで最も攻撃な1曲。サウンドは SAULT 的だ。緊迫感あるタイトなベースラインからは活動初期に彼女が切磋琢磨してきたことが思い起こされる。リリックも自身を認めないシーンに対するフラストレーションに満ちている。次の “Standing Ovation” へは曲間なくシームレスにつながる。自らのラップでクィーンになった彼女は、「スタンディング・オベーションを受けてもいいと思う。10年間じっと耐えて働いてきた」と胸を張る。1st アルバム『A Curious Tale of Trials』のジャケットには、王冠をかぶった女性が描かれているが、それを実際に手に入れたのだ。いま改めて 1st アルバムを聴くと、サウンドの本質はあまり変わってないように思える。“Standing Ovation” には「Still running with ease marathon not a sprint(軽々走ってるの/マラソンみたいに/徒競走じゃないよ)」というラインがある。つまり目先のトレンドを資本主義的に追いかけるのではなく、自分の信じる表現を突き詰めるということ。だからこの曲はことさらゴージャスでエモーショナルなのだ。「どうだ!見たか!」と。

 おそらくここまでが『GREY Area』で成功するまでの彼女。“I See You” はラヴ・ソング。「Simz」ではなく完全に「SIMBI」の瞬間。この瞬間がないと不安で押しつぶされそうになる。活躍し続けるためには自由(完全に「SIMBI」の瞬間)を犠牲にしなくてはいけない。周りもみんな王座を狙ってるから。“The Rapper That Came To Tea” では Little Simz の心情をエマ・コリンが代弁する。本作の狂言回しであると同時に女神でもある彼女は、困惑する Little Simz を「いまのままでいい。そのままでスターになれる」と励ます。“Rollin Stone” は非常にユニークな曲で、前半は「Simz」で、後半は「SIMBI」になる。この曲から彼女はこれまで二律背反だった概念を統合して自己肯定する方向に歩みはじめる。“Rollin Stone” 後半のサウンド感が次の “Protect My Energy” のリリックの内容につながる。群れない。本当の仲間のみ、あるいはひとりでいることでポジティヴなエネルギーを蓄える。以前、彼女の Instagram で、車での移動中に編み物をしてる動画が上がっていた。何も考えずに集中して心を落ち着ける瞬間なのかな、と思った。

 結局彼女は自分自身を信じて進むしかないと気づく。もしくは言い聞かせる。その過程がインタールードの “Never Make Promises”。そしてアフリカのブルータルな舞踏の躍動を感じさせる “Point and Kill” へ。彼女の中にある表現への強い欲求が、アフロ・ルーディな Obongjayar のヴォーカルとともに、ひしひしと伝わってくる。次の “Fear No Man” へも曲間なくつながる。こちらはアフロビート。呪術的なパーカッションとコーラスに乗せて、ポジティヴな自信をラップする。さらにインタールード “The Garden Interlude” でも自分を信じるように念を押すように言う。このあたりに Little Simz の本質があるような気がする。自分を信じると言うのは簡単だが、多層的に思考が走り続ける脳内でそれを実行し続けるのは難しい。そんな繊細な本音は、これまで「SIMBI」が言ってきた。だがいまはもう「Simz」として言える。それが “How Did You Get Here” だ。

 ラストの “Miss Understood” は自分と世間のギャップに病むこと、さらに極めて個人的な家族とのトラブルについて歌っている。結局、自分自身の問題が片付いても、次から次へと新しい苦悩は外からやってくる、ということなのかもしれない。神話的なスケールで己の葛藤を歌いながら、最後をシニカルなコメディーのように締めるあたりに、やはり彼女はUKのアーティストであるなと感じてしまう。

 『Sometimes I Might Be Introvert』は昨年のロックダウン中に Inflo とスタジオに籠って制作された。その間、世界は分断していた。そこで何を歌うか。彼女はあえてフォーカスを自分自身に絞った。ナイジェリアにルーツを持つ、ロンドンで生まれ育った、27歳のラップする女性。強くて弱くて大胆で繊細。矛盾すら自分の一部。誰の中にもあるカオスと向き合って作品に落とし込んだ。自分を世界に合わせるのでなく、自分を信じて、自分の世界を作り出す。それが本作のメッセージだ。

 それはサウンドにも顕著に表れている。彼女はロンドンにいながらUSのヒップホップ/R&Bに強く影響されてきた。同時に『GREY Area』でUSツアーを経験した。憧れの Lauryn Hill のツアーにも参加した。そんな彼女のサウンド的バックグラウンドを前述の SAULT 的解釈、つまりさまざまな人種で溢れかえり、レゲエやグライム、アフロなど、世界各国の有名無名の音楽が鳴り響く、2021年のロンドンのストリートの視点から表現したアルバムなのだ。そこに「Simz」と「SIMBI」の物語をミュージカル的に聴かせるオーケストラ・アレンジが加わる。個人の内面を語っているのに、神話的なスケール感と奥行きがある。ゆえに『Sometimes I Might Be Introvert』は2021年を代表するアルバムだ。そして Little Simz をさらなる高みに導く作品となる。

Seimei - ele-king

 東京を拠点に精力的に活動をつづけるコレクティヴ/レーベルの〈TREKKIE TRAX〉。この夏は仮想空間サーヴィスの VRChat 内でワールド・ツアーを敢行したことも話題になった彼らだが、旗揚げからの中核メンバーである Seimei がなんと、キャリア初のソロ・アルバムをリリースする。
 タイトルは『A Diary From The Crossing』、レーベルはカナダの〈WET TRAX〉で、本日10月1日発売。パンデミック下で書き溜められたトラック9曲が収録され、オールドスクールなテクノやハウスなど4つ打ちがメインの内容になっている。10月24日にはリリース・パーティも開催予定。
 ちなみに、10月29日発売の『ele-king臨時増刊号 仮想空間への招待──メタヴァース入門』では Seimei(&futatsuki)のインタヴューを掲載しています。ぜひそちらもチェックを。

Seimeiがキャリア初の1stテクノアルバム「A Diary From The Crossing (ア・ダイアリー・フロム・ザ・クロッシング)」をカナダのWET TRAXからリリース!

東京を拠点に活動するレーベルTREKKIE TRAXを主宰する傍ら、DJ/トラックメーカーとして日本のみならず、これまでアメリカや中国、韓国など世界各国でDJを行い、自身のレーベルナイトのオーガナイズや、OUTLOOK FESTIVAL JAPAN LAUNCH PARTY、EDC Japan等のフェスに出演してきた『Seimei (セイメイ)』。block.fmでのTREKKIE TRAX RADIOやイギリスのGilles Petersonがスタートしたラジオステーション、Worldwide FMでのマンスリープログラムのホストを務め、さらに直近のニュースではロンドンのラジオ局Rinse FMのBen UFOがホストを務めるプログラムにゲストミックスの提供も行ったそんな彼が、2021年10月1日(金)満を辞してデビューアルバム『A Diary From The Crossing (ア・ダイアリー・フロム・ザ・クロッシング)』を自身のレーベルではなくカナダの『WET TRAX (ウェット・トラックス)』からリリースした。

Nina KravizやEllen Allienといった著名なDJも楽曲をサポートするWET TRAXとSeimeiの交流は、Seimeiが書くマンスリーチャート内で同レーベルの看板アーティストであるdj genderfluidの楽曲をレビューしたことから始まった。コロナ禍でDJのブッキングが次々とキャンセルされる中、作りためていたというDJユースなテクノトラックをWET TRAXのA&Rにデモとして送ったところ、アルバムリリースを提案され、今回のリリースへと繋がった。

タイトル通り、コロナ禍における社会の閉塞感を打開したいというアーティストの気持ちが込められた『Don’t Bend My Life (ドント・ベンド・マイ・ライフ)』や、本人に多大な影響を与えたというデトロイトテクノのシンセワークを彷彿とさせる『Kaleidoscope (カレイドスコープ)』、SeimeiのDJスタイルにも通ずるエモーショナルかつトランシーなハードテクノの『Log In Log Out (ログイン・ログアウト)』、『Another Dimension (アナザー・ディメンション)』など、今年始めのロックダウン中に彼が感じ取った想いや情緒が反映されたアルバムとなっている。また、シカゴゲットーテックの要素を含んだミニマルトラック『Clap Your 808 (クラップ・ユア・エイト・オー・エイト)』や硬いヨーロピアンテクノを思い起こさせるアシッドチューン『HABK (エイチ・エー・ビー・ケー)』など、オールドスクールなハードテクノやハードハウス、そしてアップリフティング・トランスに影響を受けた四つ打ちダンストラックが9曲収録されている。

10月24日には、レーベル公認のアルバムリリースパーティーをCarpainterと主催するハードテクノパーティー『Lost Memories (ロスト・メモリーズ)』の第二回を兼ねて『渋谷Another Dimension (アナザー・ディメンション)』にて開催されるのでこちらも要チェックだ。

Seimeiからのリリースコメント

このアルバムは、2021年頭に宣言された緊急事態宣言とそれに伴うロックダウン中に作られました。タイトルにもある通り、渋谷近くの自宅でコツコツ日記的に作った曲をコンパイルしています。そもそもSeimei名義でテクノをリリースするのが初めてでリリースしてくれるレーベルがなかなか見つからなかったんですが、WET TRAXという素晴らしいレーベルがサポートしてくれることになり、本当に感謝です。閉塞感にまみれた昨今ですが、ぜひ楽しんで聴いて下されば幸いです。

dip in the pool - ele-king

 近年ヴィジブル・クロークスとのコラボなどを機に再評価の高まっているdip in the pool。木村達司と甲田益也子から成るこのデュオが、なんと、ラリー・ハードをカヴァー。曲はミスター・フィンガーズ名義で89年にリリースされた“What About This Love”。10月20日に発売されるアルバム『8 red noW』に収録されます。
 また10月8日・11月13日・12月5日には東京・京都・札幌での公演も決定している。あわせてチェックしておこう。

Sarah Davachi - ele-king

 カナダのカルガリー出身の音楽家/作曲家サラ・ダヴァチーの新作がリリースされた。サラ・ダヴァチーは、近年重要な新世代のドローン・アーティスト/音楽家である。今作『Antiphonals』は、サラの2021年新作である。本作もまたバロック音楽とミニマル・ミュージックとドローン音楽の領域を融解させるようなアルバムに仕上がっている。

 サラ・ダヴァチーの音楽は、アルバムをリリースするごとに音楽的・音響的な境地が深まっていった。特に2018年に〈Students Of Decay〉から発表された『All My Circles Run』、同年の〈Ba Da Bing!〉から出た『Gave In Rest』以降から、サラ・ダヴァチーのサウンドのテクスチャーから「硬さ」がとれはじめ音が柔らかくなり、ドローン作家として個性が自律してきたように思う。
 加えて作曲家としての深度・練度も深まってきた。まるでバロック音楽を思わせるような優美な音楽性を纏いはじめているのである。バロック音楽的な古典的な技法を駆使した音楽性や響きに、現代的なドローンを対置する手法がより際立ってきたのだ。
 じっさい2018年の『For Harpsichord / For Pipe Organ And String Trio』や、2020年の『Cantus, Descant』などの楽曲には、クラシック音楽の伝統を継承しつつも、サウンドとして刷新するような面が多くみられた。
 それもそのはずでサラ・ダヴァチーは哲学を学んだのち、カリフォルニア州「Mills College」で電子音楽やレコーディング・メディアの修士号を修了し、現在は「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)」にて、ポピュラー、実験音楽、古楽などにおける楽器と音色の美学的影響についての研究を行なっているというのだ。いわば研究者である。
 もしかすると初期のドローン・サウンドの「硬さ」は、バロック音楽のチェンバロや弦楽器の音を引き伸ばしたようなものとも言えるかもしれない。そこから彼女は、より親密な音響空間をめざして、サウンドの研磨していったのだろう。毎年複数枚リリースされるアルバムも、その研究成果の途中報告という意味合いもあるのかもしれない。むろん、創作への意欲の結晶といえるだろう。

 ともあれサラ・ダヴァチーは多作なのである。2013年に最初のアルバム『The Untuning Of The Sky』以降、毎年欠かすことなくアルバムを発表しているし、2015年以降は、年に二作の以上もリリースしている。
 2018年には『For Harpsichord / For Pipe Organ And String Trio』、『Gave In Rest』、『Let Night Come On Bells End The Day』など代表作ともいえるアルバムも3作も送り出し、2019年は、Ariel Kalmaとの共作『Intemporel』、『Pale Bloom』などの傑作を、2020年には『Figures In Open Air』、『Gathers』、『Cantus, Descant』など充実した3作のアルバムをリリースしたのである。最初に書いたように、ここ数年、その作品の成熟度、充実度・達成度には目をみはるものがある。
 2020年は、サラ・ダヴァチーは自ら主宰するレーベル〈Late Music〉を設立した。過去作に加えて、『Figures In Open Air』や『Cantus, Descant』などのアルバムをリリースした。新作『Antiphonals』もまた〈Late Music〉からのリリースだ。

 『Antiphonals』ではこれまで追及・実践・実験されてきた「バロック音楽(古楽)とドローン/ミニマル音楽などの現代音楽の交錯」がいよいよ完成の域に達してきたような印象を持った。これまでの作風を継承しつつ、その音楽世界を深めているのである。2枚組『Cantus, Descant』の中で自らの音楽技法を試行錯誤した結果、より浄化された音楽が生れてきたとでもいうべきか。
 じじつ、『Antiphonals』冒頭、“Chorus Scene” ではヨハン・セバスチャン・バッハのような、もしくはバロック音楽のごとき楽曲を展開している。しかも微妙な半音の使い方には、楽曲の調性を浮遊させるような効果があり、現代音楽的ともいえる響きの残滓を、バロック的な楽曲に忍び込ませているのだ。実に秀逸な曲だと思う。ギターのための曲というのも興味深い。
 同時にまるでコリン・ブランストーンなどの70年代のシンガーソングライター・アルバムのようなムードも醸し出している(歌のないシンガーソングライティング・アルバムのように?)。続く2曲目 “Magdalena” では、透明なカーテンのゆらぎのようにアンビエンスな音が往復し、次第に、より大きなアンビエント・ドローンに変化していく。これも見事な曲である。

 この冒頭の2曲は本アルバムの個性をよく表している。簡素な楽器による古楽的な楽曲と霞んだ質感のドローン風の楽曲の往復だ。まるで西洋音楽史の300年を往復するようにアルバムは構成されていくのである。余談だが古楽とドローンの交錯という意味では、アンビエント・ドローンの名匠とも言えるドイツのシュテファン・マシューの楽曲に通じるように感じられた。
 加えて楽曲の向こうでかすかに聴こえる(鳴っている)小さな音のノイズも良い。まるでカセットを再生したときのような小さなヒスノイズがどの曲にも流れているのだ。本作特有の霞んだ音色の音響空間が、このノイズによって巧みに演出されていることはいうまでもない。録音には名機 RE-501 Chorus Echo と TEAC A-234 が用いられ、ミックスをサラ・ダヴァチー本人が手がけている。マスタリングは〈Recital〉主宰するカリフォルニアのアンビエント作家のシーン・マッキャンが行なっていることも忘れてはならないトピックだろう。

 このアルバムは単に実験的であったり、高尚で堅苦しい音楽ではまったくない。「プログレッシヴ・ロックのキーボード・パートのみで構成されているアルバム」とアナウンスされているように、本作にはバロック的・クラシック的な楽曲のみならず、ドローンやエクスペリメンタルな楽曲にもある種の親しみやすさ、聴きやすさがあるのだ。クラシカルな音楽がよりシンプルな音像のドローンへと変化したような楽曲とでもいうべきか。このような傾向は新世代のドローン音楽家全般に見られる。例えばスウェーデンのストックホルムを拠点とするカリ・マローンのオルガン・ドローンを思い出して欲しい。
 新しい世代の音楽家にとってはなにより「音楽」であることが重要なのであり、実験も古典も分け隔てなく存在するのかもしれない。このフラットな感性にこそ新しい時代/世代の知性を感じる。
 いずれにせよ、ドローンとしての透明な魅力と、モダン・クラシカルとしての曲の練度など、この『Antiphonals』は、2010年後半以降のエクスペリメンタル・ミュージックとモダン・クラシカルの交錯の結果として生まれた素晴らしい作品である。2019年にリリースされたカリ・マローンの『The Sacrificial Code』と並べつつ、何度も繰り返し聴きたい名品だ。

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