「Low」と一致するもの

ハテナ・フランセ - ele-king

 みなさんボンジュール、今回は音楽の話題を取り上げたく。2016年世界の音楽市場でストリーミングやダウンロードなどのデジタルの収益が、全体の45%とCDやヴァイナルなどのフィジカルの売り上げを初めて上回った。フランスではまだ音楽市場の59%をフィジカルが占めているが、それでもデジタルは右肩上がりに数字を伸ばしている。このように音楽の聞かれ方が変わりつつある今、主にストリーミング配信が世界の市場で重要な位置を占め、音楽の聞かれ方は変わりつつある。音楽の好みは細分化し、音楽の聞き方も細分化しているようだ。それでも多くの人が共通してあげるツールがYoutubeだ。
 そんなYoutubeで楽曲をアップするやいなやあっという間に1千万回を超える再生数を獲得し(現在は5千万回を超えている)彗星のようにフランスの音楽シーンに現れたのがPetit Biscuit(プティ・ビスキュイ)だ。

 音楽性から取り巻く雰囲気までEDMを「下世話すぎて、音楽とは言えない」と最初から懐疑的に捉えていたフランスのインテリ層にもこの「Sunset Lover」は受けた。ロマンチックで聴きやすいけれどコード進行もちゃんとあると。この曲を発表した2015年当時、Petit Biscuitことメディ・ベンジョルンはまだ15歳だった。そして2017年11月10日、フランスでの成人年齢となる18歳の誕生日にファースト・アルバム『Presence』をリリース。18歳というのは、フランスではとても意味のある歳で、記念に残るような(裕福な家庭では高価な)プレゼントをする習慣があり、わざわざこの日に当ててリリースしたというほっこりした逸話を持つメディくん。フランスのバカロレアという高校卒業+共通一次試験のような試験で最上級評価「Tres bien(大変よろしい)」を取るような学業にも秀でた若者で、両親の方針で音楽、しかもエレクトロニック・ミュージックのような浮ついた世界でのキャリアより学業優先の姿勢を最初から貫いている。現在は大学に入学したが「あ、その月は期末テストがあるからフランス国外でのライヴはしません」とエージェントが平気でフェスティバルのオファーを蹴るような恐ろしい真似をやってのける。それもこれも2018年のコーチェラ・フェスティバルへのいいスロットでの出演が早々と決まるなど、ヨーロッパのみならず最重要マーケット、アメリカでもブレイクしたゆえの強気さと、アメリカのエージェントだときっと理解できないから、と学業優先を理解し実行するフランスのエージェントをキープする両親の厳格な管理があってからこそ。

 そんなPetit Biscuitと「Gravitation」を共作したのがMøME(モーム)。

 ニース出身現在28歳のMøME(モーム)ことジェレミー・スイラーは「Aloha」が2016年の”夏のアンセム”となり一躍トロピカル・ハウス・シーンの最前線に躍り出た。

 フランスは6月末に学期末を迎え、そこから一気に社会全てがヴァカンス・モードになる。フェスティバルやイビザ型リゾート地でのパーティなどが本格化、素人から大型フェスのDJまでいわゆるパーティ・アンセムが必要だし、スーパーからラジオまでここぞとばかり浮ついた気分を盛り上げようと今年の夏の1曲をヘビーローテーションする。その流れに乗ったMøMEはEDMとは一線を画したいけれど、オーディエンスも盛り上げたいフェスティバルにブッキングされまくった。

 そういった意味では、ダヴィッド・ゲッタのバックアップを受けたKungs(クングス)は、時に不当な扱いを受けることがあった。現在21歳のヴァロンタン・ブリュネルは2016年に発表したクッキング・オン・3・バーナーズのリミックス「This Girl」がYouTubeの再生回数で1億回を超え、ダヴィッド・ゲッタのベルシー(2万人キャパシティ)公演の前座に抜擢され、デビュー・アルバム『Layers』がフランスのグラミー賞ことLes Victoires de la Musiqueでエレクトロニック・ミュージック部門を受賞するなど、一気に大きな成功を手にした。

 先に挙げた「This Girl」はまだしもその後メジャーのレコード会社と契約し作られたMVは、Petit BiscuitやMøMEとはギリギリ同じトロピカル・ハウスというジャンルに入れられるものの、音楽的にもMVの表現としても明らかにEDMのフェスティバルで何万人ものオーディエンスが盛り上がることを想定したものになっている。そして現に彼はEDM、ロック、両方のフェスティバルでヘッドライナーの1人としてオーディエンスを最高に盛り上げている。だが、こうなるとフランスのスノッブなインテリ層に「下世話な音楽」のレッテルを貼られてしまうのもまた事実なのだ。
 そんなインテリ層に逆に愛されているのがパリのレーベル、Roch Musiqueだ。
Roch Musiqueはパリでその名前を冠したイヴェントをオーガナイズするたびに感度の高いオシャレ&音楽好きパリジャンが確実に集結し、カルチャー誌『Les Inrockuptible』では「フレンチタッチを彼らが復興させる!?」などとぶち上げるほどもてはやされている。レーベルとしては2012年にスタートしたもののその歩みは至ってマイペースで、日本でも大変な人気FKJに続いてようやくアルバムを作り上げた2人目のアーティストがDarius(ダリウス)ことテレンス・ンギュエンだ。ルイ・ヴィトンやカルティエなどのCMやM83などのMVを手がけきたLisa Paclet(リザ・パクレ)監督によるアーティスティックなMV「Lost In The Moment」も大好評を得ている。

 ベルリン在住のナイジェリア人シンガー、ウェイン・スノウをフィーチャーした浮遊感溢れるメランコリックなこの曲を含む1stアルバム『Utopia』は11月24日にリリースされる。
 フランスのエレクトロニック・ミュージック・シーンは、カッパ頭の愉快な実験家Jacques(ジャック)から芸術的だけど社会的視点も含まれた短編映画のようなMVを自ら作るTha Blaze(ザ・ブレイズ。あのハウスの大御所ではなく)までなかなか活気があるけれど、日本まで届くアーティストは稀なのでこれからも定期的に紹介していければ。


KIKUMARU - ele-king

 KANDYTOWNには夜のムードがある。先月、新曲“Few Colors”のMVが公開され話題となったかれらだけれど、今月はそのKANDYTOWN所属のKIKUMARUが、新作EP「Focus」より“4 My feat. Dony Joint”のMVをドロップしてくれた。夜のムードはここでも横溢している。このヴィデオのように夜の港をバイクで駆け抜けるというヴィジュアルは、これまで日本のヒップホップではあまり見られなかった光景だ。こうしてまたヒップホップは更新されていくのである。

KANDYTOWN所属のKIKUMARUが新作EP「Focus」より、クルーからDony Jointを招いた楽曲“4 My feat. Dony Joint”のMUSIC VIDEOを公開!

新曲“Few Colors”も好評な東京の街を生きる幼馴染たち、総勢16名のヒップホップ・クルー:KANDYTOWN所属のKIKUMARUによる9月11日発売の新作EP「Focus」より、JazadocumentのトラックにKANDYTOWNからDony Jointを招いた楽曲「4 My feat. Dony Joint」のMUSIC VIDEOが完成! この映像はDaiki kikkawaが手掛けている。

8曲入りEP「Focus」は全曲で所属するクルー:KANDYTOWNのメンバーがフィーチャリングで参加。更にNeetzやMASS-HOLE、FEBB、Gradis Niceなど国内のトップ・プロデューサーによるトラックが並ぶなど、クルーでの活動と並行して、リリースやMCバトルへの参加など精力的な活動を続ける彼のポテンシャルの高さが発揮された1枚となっている。

配信では作品の一部を聴くことができるが、唯一8曲すべてを聞けるCDでの販売は“777”枚のみで、disk union、CASTLE RECORDS、COCONUTS DISKの3店舗でのみ購入することができる。

(商品情報)

■KIKUMARU――『Focus』
artist: KIKUMARU
title: Focus (Limited Edition "777" only)
release date: now on sale
handling store
1.diskunion https://diskunion.net/sp/clubh/detail/1007465697
2.CASTLE RECORDS https://www.castle-records.net/products/detail.php?product_id=8214
3.COCONUTS DISK https://coconutsdisk.com/webstore/catalog/product_info.php?products_id=38732

TRACK LIST
1. All night long feat. Gottz & DIAN Produced by Neetz
2. 4 My feat. Dony Joint Produced by Jazadocument Scratched by Minnesotah
3. What u want feat. MUD Produced by FEBB
4. You make my dreams come true feat. BlackShortCake Produced by Gradis Nice
5. The Other feat. Holly Q Produced by Moito
6. BARlust feat. Gottz & Dony Joint Produced by Neetz
7. All i need feat. Neetz Produced by Scratch Nice
8. Pathos feat. MASATO Produced by MASS-HOLE

interview with doooo - ele-king

doooo ”Pain feat. 仙人掌”


doooo
PANIC

Pヴァイン

Hip Hop

Amazon Tower HMV

 「あのビデオに出てる高津のレゲエバーで飲んでるの?」そんな話題からゆっくりとインタヴューははじまった。ちなみにその店は台風で少し壊れたりもしたらしい。CREATIVE DRUG STOREに所属。昨年、ファースト・シングル「STREET VIEW feat. BIM & OMSB」をリリースしたdoooo。1年と少しの時間を経てファースト・アルバム『PANIC』は噂のMPCと共に世に公開された。dooooというアーティスト、そしてその音楽を知ることは「PANIC」という言葉の新しい意味を知ること。陽気な狂気の渦巻く世界へようこそ。


これは、普通に聴いた人をパニックにおとしいれたいという理由で。曲作ってる時に、作ってる自分もパニックになってしまったり。自分が「どうしようみたい」になったりもしたんで(笑)。自分もパニックになってるし、聴いてる人もパニックになって楽しんで欲しい。

doooo 君は出身は盛岡ですよね?

doooo ( 以下D ) : そうです。22まで盛岡にいて、大学卒業してこっちに来ました。

盛岡から出てすぐにいま住んでる川崎辺りに引っ越してきた感じですか?

D:はい。

それでCREATIVE DRUG STOREのメンバーと知り合っていく?

D:そうですね。最初にDJ のMIX をサウンドクラウドにあげてたんですけど、僕とBIMの共通の知り合いが気に入ってくれて、それでBIMにも彼が聞かせて気に入ってくれて。そこからですね。BIMと僕と家が500mくらいしか離れてなくて、それで、僕が「うちに遊びに来る?」って。BIMもフットワーク軽いからすぐに遊びに来て。デモを作ってるからビートを聴かせて欲しいという話をして、その時にMPCに入ってた曲がTHE OTOGIBANASHI`Sのファーストに入ってる“KEMURI”って曲ですね。

それで気がつけば一緒にやってるような感じ?今までにトラックを提供してるのはTHE OTOGIBANASHI’Sが多い?

D:圧倒的ですね。

ん。他のアーティストの作品への参加って何があります?

D:ほとんどないです。KANDYTOWNのRYOHUくんもラップしてたりするグループ、Aun Beatzのリミックスくらいですね。リリースされてるの。僕、インストで完結するビートがばっか作ってて。岩手時代それしか作ってない。リミックスを最初に作り出して、そこからオリジナルで作りたいって思うようになって、そういういいタイミングでBIMとかにも出会って作るようになった。そのときは本当に知り合いのラッパーがCREATIVE周りしかいなかったんですよ。インストの曲はたくさん作ってますね。

トラックメイクは盛岡のときからしてたんですね。

D:はい。曲も作ってましたけど、活動はDJばっかって感じですかね。

どういうDJっていう聞き方もなんか趣き無いですけど(笑)、どういうDJをしてたんですか? それと最近はビートライヴ以外のDJってしてますか?

D:最近はDJしてますけど、回数減りましたね。DJのときはソウルとかディスコからテクノとか、それこそ色々かけてます。盛岡がレコードが色んな種類あるんで。イベントも何でもかかるイベントばかりだったんで、自然にそうなりました。そのなかで、もちろんヒップホップかけるんですけどね。とにかく好きなものをなんでもかけるDJが多かったですね。

盛岡のときに制作したビートで発表してるものってありますか?

D:THE OTOGIBANASHI'Sの1stに入っている曲で“Froth On Beer”って曲があるんですけど、それが岩手で作ったビートですね。

DJはいつからはじめたんですか?

D:19ですね。高校出た時から始めました。

きっかけは?

D:兄ちゃんがいるんですけど、兄ちゃんが僕が13歳の時にターンテーブルを買って。ずっとICE CUBEが流れてたんですけど。ICE CUBEの“YOU CAN DO IT”だけずーっと(笑) 。それでかっけーってなって。その時まで知らなかったんですけど、それでかっこいいなってなりまして。俺もやりたいってずっと思っていて、高校出てターンテーブルを買って始めました。

ターンテーブルを買う前にレコードは買ってましたか?

D:レコードはたまに買ってて、ほとんどCDでしたね。ほとんどTSUTAYAでしたね。TSUTAYAで借りまくってました。

TSUTAYAで借りまくってた時代、俺もあります。渋谷のTSUTAYAって入れて欲しい作品リクエスト出来たんですよ。

D:僕いまでも渋谷のTSUTAYA結構行くんですよ。

音楽の聴き方の話なんですけど、自分の場合は、買うもの以外はストリーミングで聴く感じになってきてるんですよね。持っていたいもの以外はデータでもいらないやとか思ってきてしまっていて。

D:あー。僕はDJでかける用に借りてるのがほとんどなんで。レコードしか持っていないものであったりとか、昔持っていたけどどっかいってしまったものとかそういう作品を借りることがほとんどです。借り直してるものが多いですね。タイトルが揃ってるので、レコードで探すのが難しいものもあったりするじゃ無いですか。例えば和物のJAZZとか。そういうのも借りてますね。

なるほど。そう考えるとレンタルCDって確かに便利ですね。


 気づくとレンタルCDについて考える良い機会に恵まれてしまった。dooooはフットワークが軽く色々なとことに行くイメージの人物だ。目に見える選択肢の中から自由に選んで楽しむ。そんなイメージが浮かぶ。


今回のアルバムの話をさせてください。1曲目に収録されている“STREET VIEW”ですが、これはアルバムのなかでは一番最初に作った曲になるんですか?

D:1年前の夏ですね。そもそもが僕、最初に作る曲はG FUNKが作りたいってずっと思っていて。この曲のビデオ作って、レコード出したときに、どうせならアルバムを作りたいと思って。だからこの曲が軸になってますね。他にもやりたいことがたくさんあったなかで最初に作った曲で、その制作があってやりたいことを全部やろうって思うようになりました。

doooo "Street View feat. BIM,OMSB & DEEQUITE"

“STREET VIEW”でゲスト参加しているBIM、OMSBはどのように決めたの?

D:オムス君はこういうビートにすごく映えるラップをするイメージがあって最初に頼みました。どうせやるなら、もう1人はテイストの違うラッパーに頼みたくて、攻撃的じゃないラップがいいかなと思って、BIMに。意外なんだけど、バッチリハマるイメージあってそれ通りに出来ました。

そこからアルバムの制作で色々とゲストも参加してますが、イメージは?

D:全体のイメージは、本当に好きなこと全部やってやろうと思うって。ビートメイカーですけど、DJとしての自分も出してやろうって思って。自分の全部入ってるものにしたくて。

色んなゾーンが散りばめられていて流れもあって、濃いけど聴きやすいアルバムだと感じました。

D:やりたい曲を作りつつ。DJとしての自分も出したかったので曲順はすごくこだわりました。フューチャリング陣もこういうアーティストが自分は好きなんだぜっていうのも見せてくて。

HUNGERはやっぱり東北地方で元々つながりがあったんですか? この曲すごく印象に残りますよね。

D:HUNGERさんは僕がすごく好きで。ライヴとかに行きまくって追っかけて、向こうも「また来たんだ」みたいな感じで(笑)、それで参加してもらいました。

MONY HORSEの参加はすごく意外な気がしました。

D:MONY君も大好きだったのですが元々は面識が無くて、JUNKMANさんが繋げてくれて(JUNKMANは青森出身) 。MONY君のいままでの曲も聴いていて、それで、自分のビートでやったら面白いかなと思って頼みました。

うん。面白いですね。そして、このアルバムはゲストが出てくるたびに、新鮮な面白さを感じます。

D:それはプロデューサーとしては嬉しい意見ですね。

過度に尖った音作りにはしてないように感じます。

D:そうですね。普段のライヴ用の音源は攻撃的なものを作っちゃったりするんですけど、アルバムは長く聞いて欲しかったのでそこは気をつけてますね。あとはTSUBOIさん( ILLICIT TSUBOI ) がうまくバランスを整えてくれてますね。

曲順はどのように決めたんですか?

D:最初にやりたい曲をだーっと作って、ある程度揃った時に選んでいきました。最初から全体の構想があったというよりは出来た曲を並べて作っていった感じです。

アルバムの曲にもありますけどdoooo君は酒のイメージがあります。

D:最初に、仙人掌と会ったときにすごく飲んでしまって、その印象ですよね。今回参加してもらった曲でもその話がリリックに出てきていて嬉しかったです。

個人的にも、そのエピソード仙人掌から聞いてたので、あのリリックは凄く面白かったです。ビールのなくなり方がおかしいっていう。俺もたまに言われるんですけどね。スタジオに買ってきたビール全部飲んでしまったりとか。ちなみに酒って作業の時のみますか?

D:そうですね。飲むとめちゃくちゃはかどりますね。

没頭できる感じですよね?文章書くとき夜中に酒ずっと飲んでることあります(笑)。

D:昼間っから酒飲むことありますね。本当、24時間近く飲み続けることとか。

家で?

D:はい。

どれくらい家にストックしてますか?

D:いま、家にASAHIの350が20本くらいありますね。

それ凄いね。

D:困らないくらいの量が。

前に仙人掌とERAとCREATIVEのメンバーと飲んだことがあって、そのときはdooo君いなかったんだけど、その後、仙人掌のツアーで会って、いまがあるのってなんか面白いですね。

D:そういうリンク、岩手で見てて憧れてたんで嬉しいですね。

こういうリンクを繋げていけたら面白いですよね。

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 仙人掌のアルバム『VOICE』のリリースに伴いおこなわれた「BACK 2 MAC TOUR」の東北場所の盛岡MAD DISCOで、dooooというアーティストに初めて出会った。凄まじいテンションでの最高なビートライヴと、ファニーな人柄がとても印象的だった。その後、聴かせてもらったビートはdooooという人間そのものを感じた。

機材巡りが好きで、ハードオフ行って使い方わからないけど面白そうな機材を買ったり。レコード8円 ~ 108円で売ってるんですけど、そういうの買うのが好きですね。それみんなで聞いたりとか。それこそ、仙人掌君とのPVにも出てくるんですけど、赤白の線差すのが両方にあるだけの箱。使い方はわかりません。


doooo
PANIC

Pヴァイン

Hip Hop

Amazon Tower HMV

アルバム作ってみて、次にやってみたいこととかって生まれました?

D:もう次のを作りたいです。いまある曲のなかでも続きを勝手に考えてるものがあるし。それはAru-2とモンキー君とやってるビートメーカーだけで作った曲があるんだけど、そこにもっと色んな人に参加してもらって、ビートメーカーのマイクリレーみたいなものを作ってみたい。ビートだけで成立するビートメーカーって意外にいない気がしていて。そういうビートメーカーを集めて曲やったら面白いなと思っていて。

それ面白そう。ぜひ聴きたいです。

D:スピードは遅いですけどやってきたいです。

ビートメーカーの作る音源でなかなか再現難しいと思うんですよ。ゲストが入ると。そこでどういう風にライヴをやりたいとかってありますか?この音源を聴いてdoooo君を知った人は、この音源のイメージを持ってdoooo君のライヴに来ると思うんです。

D:ライヴのときは、自分という人間を見て欲しいという形で。一番好きなものはDOPEな感じというか、ぶっ飛んでる感を凝縮したくて、それがアルバムなんですけど。和物で気持ちい良いミックスも作ってるんで、そういうこともやってるんだよっていうのも知って欲しいし、とにかく色んな自分を見に来て欲しいですね。

アルバム・タイトルの『PANIC』を決めた理由は?

D:これは、普通に聴いた人をパニックにおとしいれたいという理由で。曲作ってる時に、作ってる自分もパニックになってしまったり。自分が「どうしようみたい」になったりもしたんで(笑)。自分もパニックになってるし、聴いてる人もパニックになって楽しんで欲しい。

いいパニックですよね。遊園地みたいな、色々あるけどパニック。

D:CREATIVE DRUG STOREで活動してるので、聴いてる人がヒップホップのファンが多いと思うんですが、ヒップホップ以外の音楽も入れて作ったと思ってます。こういう音楽もあるんだよっていう、驚きを与えられたらなって。上から目線みたいな意見になっちゃってるかもしれないですけど、そんな気持ちで作りました。

たしかにいままでとテイストがかなり違いますもんね。そして作品のなかでも変わっていく。

D:今回の作品は、参加してもらう人によって変えたのもあるので、それはあるかもしれません。それもDJとしての自分を見て欲しいっていうのがあって、このラッパーならこのビートが合うなとか。ビート決まった後に、展開を変えたりして。そいういのでまた変わるってったかもしれない。

アルバムはれくらいの期間で作ったビート?

D:制作期間は1年半くらいですかね。それぞれの長さはバラバラですね、1曲1週間かかったのもあれば、1日でできたものもありますし。

この作品がリリースされたことによってdoooo君の謎が解き明かされますね。

D:それは嬉しいですね。

OMSBとかdoooo君は狂ってるっていつも嬉しそうに言ってますね。

D:オムスくんとは人肉MPCの事とか楽しく話せて嬉しいです。

このMPCライヴで使って欲しいですけどね。

D:渋谷音楽祭で飾ったときもみんなめっちゃ写真で撮ってくれて嬉しかったです。本当に気持ち悪いんで、笑っていない人も多くて。写真だと洒落た感じだけど、(といってdooooのinstagramにある全体像の動画を見せる)この端の部分いつか触って欲しいんですけど。気持ち悪いんですよ。端っこが。何回もやり直して作ってもらいました。

総制作費は……?

D:結構お金はかけました(笑)。だから触ってほしくて。一番長く使ってたのがMPC 2000XLなんですけど、だから。僕っぽさも出したくて、マッド・サイエンティスト感を。で、人肉にして。仙人掌さんとのビデオでHEIYUUの肉にして。

トラックメーカーのアルバムのジャケットって機材が出てるもの多いけど、これは新しいですよね。そうだ、ホラー映画ってどういうのが好きですか?

D:生々しいというか、ヒューマン・ドラマというか。『オールナイトロング』っていう映画があるんですけど。かなりトラウマ系ですね。上手に人を嫌な気持ちにさせる。女の子がアキレス健を切られる描写とかがすごく上手いというか。

俺、日本のホラー苦手なんですよ。やな気分になるやつ。ホラーとかそういうの以外でライフワーク的に好きなもの何があります?

D:コミックですね。曲作るきっかけも漫画とか映画とか音楽以外のものが多い。こういうの作りたいっていう。

そう思う時って頭の中に曲の設計図があるんですか?

D:最初は感覚でこういう。日野日出志の「日野日出志の地獄変」って漫画を読んだときに、漫画の世界観、地獄絵図みたいな曲を作りたいって思って、その段階ではあまり考えてないんですけど、音を入れていくなかでヒップホップにしようとか、まあ、感覚ですね。

日野日出志。苦手だったけど、ここ1年くらいで結構はまってきて。

D:おどろおどろしい絵いいですよね。

おどろおどろしいけどファニーですよね。

D:おどろおどろしいだけじゃなくて、そういうさじ加減が良いんですよね。ただただ気持ち悪いんじゃなくて、ちょっとファニーさもあるのに惹かれるんですよね。それこそ、曲も、怖いなかにファニーな感じ。仙人掌の曲でもそういうのも意識していて。

たしかにそうですね。リリックも含めてそういう印象がある。

D:怖そうなテンションのわりに、面白いですよね。そして、なんというか、僕のことをわかりやすく言ってくれて。めっちゃ嬉しかったです。

ラッパーがトラックメーカーを紹介してる構成も面白いと思う。

D:アルバムの曲で僕のことをここまで歌ってるのこの曲だけですね。

この曲でdoooo君のことはわかりますよね。酒の情報とか余計な情報はあるけど。それありきでdooo君を見ると面白い気がします。

D : 笑。


 まだ発表できない予定の話を聞いて、テープを一度止めて。気がつくと機材の話をしてた。ジャンクというよりは何かの塊というような。なんだか禍々しい話。でもdooooとの会話には禍々しさよりも、なんだかファンシーなイメージ。


D:機材巡りが好きで、ハードオフ行って使い方わからないけど面白そうな機材を買ったり。レコード8円 ~ 108円で売ってるんですけど、そういうの買うのが好きですね。それみんなで聞いたりとか。それこそ、仙人掌君とのPVにも出てくるんですけど、赤白の線差すのが両方にあるだけの箱。使い方はわかりません。

それはいくらだったの?

D:108円でしたね。形がかっこいいから買いました。いまも何かわからないですね

アルバムでそういう面白い機材制作に使ったものあります?

D:ありますね。ノイズとかそういう音が出るだけですけど。本当に気づかれないくらいのノイズだけなるシンセの音をサンプリングしていじって入れてますね。

dooo君が制作するコクピットはどうなってるの?

D:台所に機材とかレコードとかの物置があるんですけど、ガラクタが積んであるみたいな。そこに人肉MPCもあるんですけど。

それおぞましいですね(笑)。メカ的なのも好きですよね!? ギーガー好きだよね?

D:ギーガー!! 重厚感がありますね。

ギーガーもえぐさありますよね。バイオメカ。

D:いかついですよね。ゴツい。エイリアンもそうなんですけど重厚感があるものに影響を受けてて、そういう。

金属音とか?

D:影響を受けてますね。

バイオMPC。

 dooooの作り出す空間はやはりどこか歪んでるような気がする、だけれど心地よい、遊んでいて心地よいような空間だ。余計なものがたくさんあるけど、それで遊べる。説明とか書いてない。その感覚って音楽のひとつの魅力なんじゃないかなって思った。そんな感覚を持って『PANIC』を楽しくパニックしてください。ちょっとまだ公開しちゃいけないinfoが多かったのですが、今後もdooooのまわりは楽しそうだ。

D:ゲストを呼んだリリース・ライヴをいくつか考えていて。全員呼んだパーティもやりたいと思ってます。来年またアルバムからビデオを公開する予定です。

doooo 『PANIC』 Teaser

(了)

Flying Lotus - ele-king

 きました。今年はアンダーソン・パークとのコラボを仄めかしたり、あるいは『KUSO』や『ブレードランナー ブラックアウト 2022』といった映像関連の仕事で話題を振りまいてきたフライング・ロータスが、去る11月2日、ついに自身の新曲をMVとともに公開しました。ああ、このビート感……まぎれもなくフライローです。ヴィデオの監督はウィンストン・ハッキング。これは、いよいよ新たなアルバムのリリースが近づいている、と考えていいのでしょうか。続報を待ちましょう。

[11月13日追記]
 2年ぶりとなるMV“Post Requisite”を公開したばかりのフライング・ロータスですが、去る11月10日に新たなショート・フィルム「Skinflick」が公開されました。

https://www.nowness.com/series/define-beauty/skinflick-flying-lotus

 これはアート/カルチャー・メディア『NOWNESS』の企画「Define Beauty」のための作品で、フライロー自身が監督を務めています(使用されている楽曲も彼によるもの)。内容は、フライローの長編デビュー作となった映画『KUSO』に出演していた友人、“バブル”ボブ・ヘスリップ("Bubble" Bob Heslip)に捧げるものとなっており、神経線維腫症(1型)による皮膚神経線維腫を抱えたボブの美しさにフォーカスしたものだそうです。

FLYING LOTUS
新曲“POST REQUISITE”をミュージック・ヴィデオとともに公開!

今年7月に、3Dを駆使した新たなオーディオ・ヴィジュアル・ライヴをFYFフェスティヴァルで披露し、今週から全米ツアーがスタートするフライング・ロータスが、新曲“Post Requisite”をミュージック・ヴィデオとともに公開! フライング・ロータスにとって、2年ぶりの新作ミュージック・ヴィデオとなる。

Flying Lotus - Post Requisite
https://s.warp.net/PostRequisite

監督/アニメーション/操作:Winston Hacking
ストップ・モーション・アニメーション:Jeremy Murphy
追加コラージュ:Andrew Zukerman
プロデューサー:Flying Lotus, Eddie Alcazar
制作会社:Brainfeeder Films

この3Dツアーには「Red Bull Music Academy Festival Los Angeles」の一環として開催され、サンダーキャットも参加するハリウッド・フォーエヴァー・セメタリーでの公演や、ソランジュとアール・スウェットシャツも出演するバークリー公演も含まれる。

2017年はフライング・ロータスにとって、特に映像面において飛躍的な1年となっている。自作の長編デビュー映画『KUSO』が、サンダンス映画祭で初上演されたほか、日本でも公開を迎えた話題の映画『ブレードランナー2049』と、前作『ブレードランナー』の間を繋ぐストーリーとして、渡辺信一郎が監督した短編アニメーション『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の音楽を担当したことも大きな話題となった。

Flying Lotus - Kuso (Official Trailer)
https://youtu.be/PDRYASntddo

「ブレードランナー ブラックアウト 2022」
https://youtu.be/MKFREpMeao0

音楽はもちろん、映像面でも進化を続けるフライング・ロータスから今後も目が離せない!




ばぶちゃん - ele-king

 ばぶちゃんは謎のアーティストだ。
 発言は赤ちゃんことば。表記はひらがなに統一され、Twitterでは「だぁだ」や「ばぶばぶ」などのつぶやきで埋め尽くされている。『初音ミク10周年--ボーカロイド音楽の深化と拡張』に掲載されている対談での発言の数々を読んでいただければ、その異質さをしかと感じられるだろう。
 ばぶちゃんが活動しはじめたのは2011年初頭からだ。今でこそ主に初音ミクなどのボーカロイドを用いた作品を公開しているが、活動初期にSoundCloudに投稿された作品はインストが中心だった。ピアノやノイズ、赤ちゃんの泣き声などをいびつに組み合わせ、非現実的で夢うつつな風景を描いている。“ままがやさしくつつみこんでくれるでちゅ”や“ぱぱがしらないばしょにつれてってくれたでちゅ”などは最たる例で、いずれも不安感を煽ってくる作品だ。

 それからまもなくして、初音ミクがヴォーカルとして歌う作品を公開。初期の作品を集めた1stアルバム『はじまりのおわり』は退廃的な美しさをもつエレクトロニカ、ノイズ・ミュージックが主体となっており、初音ミクの無垢な歌声が強烈に印象を残している。
 続く2ndアルバム『おわりのはじまり』は、『はじまりのおわり』と対の作品となっているのか、一変して狂気的で残酷な作風になっている。これまでのノイズやピアノを軸としたエレクトロニカは存在しつつも、ダブやブレイクコアなど攻撃的な音がおそってくる。初音ミクの歌声も強烈に歪み、異常な音となって耳に入り込んでくる。『はじまりのおわり』が心地よい夢だとすれば、『おわりのはじまり』は悪夢といった趣きだ。
 ばぶちゃんは夢や悪夢のような壮大な空間を描いているが、夢であるが故に閉鎖的でもある。そしてばぶちゃんは夢を通して、悲しんだり、怒ったり、絶望したりしている人たちと対話し、癒やそうとしているのだ。

 そして、そうした夢を集めて作ったものが最新アルバムの『Babuland』で描かれている。テーマとしているのは遊園地だ。上記の1stと2ndに加えて病気をテーマにした3rdアルバム『みんなのびょうき』は夢を通して対話する、癒やすという個人に向けた作品であるため、場所を挙げるとするならばベッドが適当であろう。そうした3作とは打って変わって、本作では遊園地という大勢の人が集まる場所を挙げている。夢を通してばぶちゃんの世界へ遊びに行く、そしてばぶちゃんは夢を通して癒やすという関係は変わらないが、遊園地という場所にすることで第3者の存在を匂わせている。対象が個人からマスへと変化したためか、本作はポップな曲も多い。“ばぶらんど”や“ばぶぱれーど”は園内のショーでも流れていそうなメロディだ。だがポップといってもノイズや強烈なダブを入れたり、不気味で狂気的な表現がもちろん混在しているところは揺るがない。

 また、遊園地のキャストのように、今作でははじめて客演を迎えている。Miliのmomocashewは園内アナウンスを担当し、“ブロークン・トイ・マニア”ではきくおの“物をぱらぱら壊す”のフレーズを引用している。トラップのビートを敷いたATOLSとの“死ニ願イヲ”や廻転楕円体との“糞ったれた世界”など、交流の深い人たちも参加しており、来園者を楽しませるために強力な陣を敷いているのも注目したい。

 ばぶちゃんは本作のリリースを皮切りに全国でライヴ・ツアーを開催している。これまで表に出ることは少なかったが、『Babuland』の影響もあり露出が増えている。しかしながら、いまだに正体は明かされていない。だが謎な存在・赤ちゃんだからこそ、色眼鏡なしに作品と向き合えるのかもしれない。


Robert Aiki Aubrey Lowe - ele-king

 インテリア・デザイナー/彫刻家であり、音響彫刻作家でもあるハリー・ベルトイア(Harry Bertoia)。彼は1970年代に巨大な金属のオブジェによって生成される「金属の擦れ」の音響/残響による「Sonambient」という音響作品を11作品ほど遺している。近年、そんなベルトイアの音楽/音響の再評価が続く。
 まず昨年、2016年に〈インポータント・レコード(Important Records)〉から10枚組という音響モノリスのようなボックス・セット『Complete Sonambient Collection』がリリースされた。同年、先のボックス・セットを補完するように1971年と1973年に録音された『Clear Sounds/Perfetta』も発売。くわえて2016年には彼の功績をふりかえるエキシヴィジョン「Atmosphere for Enjoyment」もニューヨーク・アートミュージアムで開催されている。さらには2017年にリリースされた坂本龍一のニュー・アルバム『async』においても、ベルトイアの音響彫刻がもちいられるなど多方面から彼の音響空間の現代性が証明されつつある。響きの「現前性」と、マテリアルな「モノ性」と、「非同期の」融解といった点からか。
 デムダイク・ステアが運営するレーベル〈DDS〉からリリースされたロバート・アイキ・オーブリー・ロウ(Robert Aiki Aubrey Lowe)『Levitation Praxis Pt. 4』もまた、そんなハリー・ベルトイアのサウンドを現代に蘇生する試みのひとつだ。『Levitation Praxis Pt. 4』は、さきに書いたエキシヴィジョン「Atmosphere for Enjoyment」にて、ロバート・ロウによるベルトイアの「Sonambient」彫刻を用いておこなわれた「演奏」の記録である。アルバムにはA面とB面で長尺1曲ずつ収録しているのだが、「Sonambient」彫刻とロバート・ロウの特徴的なヴォイス/音響が溶けあい、まさにベルトイアのサウンドを継承するようなサウンドスケープを実現している。マスタリングを手掛けたのは名匠マット・コルトン(Matt Colton)。

 ここでロバート・アイキ・オーブリー・ロウについて述べておきたい。1975年生まれの彼はもともと〈サザン・レコード(Southern Records)〉から2000年代初頭にリリースされていた90デイ・メン(90 Day Men)のベース/ヴォーカルであった。ドゥーム/ストーナー・バンドOMに参加していたことでもしられる(2012年には〈ドラッグ・シティ(Drag City)〉からリリースされたアルバム『Advaitic Songs』に参加し、特徴的なヴォイス/ヴォーカル・スタイルを披露している)。
 電子音響作家としてはライカンズ(Lichens)名義で2005年に〈クランキー(Kranky)〉からアルバム『The Psychic Nature Of Being』を発表。この時点で今に至る電子音とヴォイスによるドローン的サウンドの基本形はすでに完成していた。2007年には同〈クランキー〉からアルバム『Omns』をリリース。00年代後半から10年代初頭にかけては自主レーベルや〈Biesentales Records〉、〈Morc Records〉などからアルバムを発表する。
 一方、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウ名義では、2010年に〈スリル・ジョッキー(Thrill Jockey)〉から出たローズ・ラザール(Rose Lazar)との共作『Eclipses』をリリースし、声やドローンの要素を基底にしつつ、リズミックなエクスペリメンタル・テクノを展開。そして2012年には傑作『Timon Irnok Manta』を〈タイプ(Type)〉から発表した。2015年には伝説的なニューエイジ・シンセストとして近年再評価も著しいアリエル・カルマ(Ariel Kalma)との共作『We Know Each Other Somehow』を、〈リヴィング・インターナショナル〉(Rvng Intl.)からリリースし、現行ニューエイジ・リヴァイヴァル・シーンにも接近し話題をよんだ。
 また、2015年にはポスト・クラシカル(現在では映画音楽の大家とでもいうべきか)のヨハン・ヨハンソン(Jóhann Jóhannsson)の『End Of Summer』〈Sonic Pieces〉に Hildur Guðnadóttirと共に参加した。ちなみにヨハンソンが音楽を手掛けたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』にロバート・ロウはヴォイスで参加している。映画を観た方なら、だれもがつよい印象をのこしているはずの、あの音響の「声」だ。そのせいか映画体験後に『Levitation Praxis Pt. 4』を聴くとまるで『メッセージ』のサウンドのような錯覚をおぼえてしまうから不思議である(ちなみに『メッセージ』は、現代的SF映画であるのみならず、優れた「音響映画」でもある)。
 以上、ドゥーム、電子音響、ニューエイジ、ポスト・クラシカルなどジャンルを超えていくロバート・アイキ・オーブリー・ロウのアーティストとしての歩みは、ひとことでは掴みきれない独特の遊動性・浮遊性がある。そこに私などは安住を拒否するボヘミアン的な彷徨性を感じてしまう。なにかひとつのイメージを拒否し続けるような歩み、とでもいうべきか。

 そんなロバート・アイキ・オーブリー・ロウが、本年2017年にリリースしたもうひとつのアルバムが『Two Orb Reel』である。このアルバムもまた同時期にリリースされた『Levitation Praxis Pt. 4』とは異なるサウンドを展開する。『Timon Irnok Manta』的なエクスペリメンタル・テクノの雰囲気を一掃されているし、あえていえばアリエル・カルマとの『We Know Each Other Somehow』の系譜にあるニューエイジ/コスミックなシンセ音楽の系譜にあるアルバムといえるが、瞑想性がもたらすトリッピーな感覚は希薄である。どちらかといえば冷めた作風で彼のシンセストの側面を展開する電子音楽の室内楽・小品集(全14曲にして39分)といった趣なのだ。『Levitation Praxis Pt. 4』がすばらしいのは大前提としてもこれはこれで悪くない。
 オリエンタルにして人工的な旋律が魅力的な1曲め“Yawneb Pt.1”からして奇妙な作品世界にひきこまれる。2曲め“The Crystal World”以降は、飛びはねるようなチープなシンセ・サウンドの短い尺のトラックが展開し、6曲め“The Dead Past”のような心ここにあらずの夢の中の夢のようなシンセ・アンビエントへと至る。B面1曲め“Nabta Playa”以降は、テリー・ライリー的なミニマリズムをシンセ音楽に置きかえたようなトラックが続くのだが、同時にYMO結成直前に発表された『コチンの月』(あのジム・オルークも愛聴盤・名盤に掲げている傑作シンセ・アルバム)の頃の細野晴臣を思わせもする。

 『Levitation Praxis Pt. 4』と『Two Orb Reel』。この二作は、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウという才能ゆたかな音楽家が抱えこんでいるふたつの側面(サウンド・アーティストとシンセスト)を満喫できるアルバムである。それは「実験」と「ポップ」の両極が進行している電子音楽/エクスペリメンタル・ミュージックの「現在」を体現してもいるといえよう。

Nightmares On Wax - ele-king

 月が変わり、いよいよ秋も深まってきた今日この頃……そうです、秋と言えばナイトメアズ・オン・ワックスです。はい、いま決めました(だってNOWってば、いつも秋に新作を出しているような印象があるから)。そんなNOWが年明けにニュー・アルバムをリリースします。って、その頃はもう冬じゃありませんか! ……はしゃいじゃってスミマセン。しかし前作から数えること、4年ぶり? 昨秋EP「Ground Floor」のリリースはありましたが、フル・アルバムは久しぶりですね。その新作のアナウンスとともに、新曲“Citizen Kane”が公開されています。

 おお。これはちょっとした新機軸かも? いぶし銀のビートにモーゼズによるヴォーカルとアラン・キングダムによるラップが絡み合って、なんとも当世風の味わいが醸し出されております。翻って9月に公開された“Back To Nature”の方は、じつにNOWらしいぬくもりのあるトラックに仕上がっていましたよね。

 いやあ、たまりません。NOW大好き。アルバムには上述のふたりの他にも、アンドリュー・アショングやジョーダン・ラカイ、セイディ・ウォーカー、おなじみのLSKなどが参加しているとのこと。待望の新作『Shape The Future』の発売日は2018年1月26日。首を長くして待ちましょう。

[11月22日追記]
 リード曲の“Citizen Kane”がなんと、シカゴ・ハウスのレジェンド、ロン・トレントによってリミックスされました。このトラックは12月1日発売の限定12インチに収録されるとのこと。こちらも楽しみです。

Nightmares on Wax
カニエ・ウェストのコラボレーターとしても知られる新鋭ラッパー
アラン・キングダム参加の新曲“Citizen Kane”を公開!
待望の最新アルバム『Shape The Future』のリリースを発表!

ソウル、ヒップホップ、ダブ、そして時代を越えたあらゆるクラブ・ミュージックを取り込んだトリッピーかつチルアウトなエレクトロニック・ミュージックで独自のキャリアと世界観を確立し、そのキャリアを通して多くのアーティストに多大な影響を与えてきたレジェンド、ナイトメアズ・オン・ワックスが、待望の最新アルバム『Shape The Future』のリリースを発表! 合わせて新曲“Citizen Kane feat. Mozez & Allan Kingdom”をミュージック・ヴィデオとともに公開した。

Nightmares on Wax - Citizen Kane ft. Mozez, Allan Kingdom
https://youtu.be/DQJG4hKkX0c

公開された楽曲は、ジャマイカに生まれ、ロンドンを拠点に活躍するSSW、モーゼズのほか、カニエ・ウェストやフルームのコラボレーターとして知られるラッパー、アラン・キングダムをフィーチャーしたラップ・ヴァージョンとなり、国内盤CDとデジタル・フォーマットにボーナストラックとして収録される(アルバム本編にはオリジナル・ヴァージョンを収録)。

コンテンポラリーなサウンドを積極的に取り入れた“Citizen Kane”のほかにも、すでに公開されミュージック・ヴィデオも話題となった“Back To Nature”といったナイトメアズ・オン・ワックスの代名詞とも言えるチルアウトでリラクシンな楽曲ももちろん満載。またセオ・パリッシュとの共作で注目を集め、ロイ・エアーズやビル・ウィザースを引き合いに高い評価を受けるSSW、アンドリュー・アショングや、ディスクロージャーやFKJの楽曲にもフィーチャーされた新世代ネオ・ソウルの注目株ジョーダン・ラカイ、長年のコラボレーター、LSK、女性ヴォーカリスト、セイディ・ウォーカーがヴォーカルで参加している。

Nightmares on Wax - Back To Nature
https://youtu.be/Vc-XzhnwpVc

ナイトメアズ・オン・ワックスの8作目となる最新作『Shape The Future』は、2018年1月26日(金)世界同時リリース! 国内盤CDには初CD化音源“World Inside feat. Andrew Ashong”と“Citizen Kane feat. Mozez & Allan Kingdom”がボーナストラックとして追加収録され、解説書が封入される。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Nightmares On Wax
title: Shape The Future

cat no.: BRC-565
release date: 2018/01/26 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価: ¥2,200+税

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商品詳細はこちら:
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Nightmares-on-Wax/BRC-565/

パーティで女の子に話しかけるには - ele-king

 1977年のクロイドンを舞台に初期パンクの佇まいや心情を描いた映画だと思って観ていたら、ちょっと違った。クロイドンはロンドンの南に位置し、当時だとXTC、最近ではベンガやスクリームなどダブステップのシーンで知られる住宅街。オープニングからしばらくはアレックス・シャープ演じるエンが生粋のパンク・キッズとしてジュビリー(女王在位25周年)を祝う大人たちにケンカをふっかけたり、友だちとライヴハウスに潜り込んで大騒ぎはするものの、バンドの打ち上げに紛れ込めなかったエンたちがどこからか音がする方向に導かれて奇妙な一軒家に迷い込むと、そこからはSF映画に話がすり替わっていく。その家にいた奇妙な人々は実は宇宙人であり、48時間後には地球から退去しなければならないことが次第にわかってくる。彼らが宇宙人だと判明するまでがまずは楽しい。ブロードウェイで大成功を収めたジョン・キャメロン・ミッチェル監督が舞台演出をコンパクトにまとめた美術や衣装で彼なりのヴィジョンを矢継ぎ早に見せていく。ナゾがナゾを呼ぶというパターン。僕は最初、ロシアのバレエ団かと思った。未来派のようなコスチュームで優雅に踊っているし、群舞だし、全員が同じ衣装というのは当時、共産圏の比喩みたいなものだったし。宇宙人ということになってはいるけれど、そう、彼らはまるでパンクの3~4年後に姿を現すニューロマンティクスのようにも見えなくはなかった。等しくエドワード朝ファッションだったり、英国病にうんざりしていたという共通点があるにも関わらず、パンクとニューロマンティクスは同質の文化とは見なされていない。この距離を縮めてみることもまたSF的発想だったといえる。

 ジョン・キャメロン・ミッチェルは彼の名を一躍有名にした『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(01)でもやはり時間軸を巧みに操作していた。東ドイツでニューヨークのロック文化にアイデンティファイしていたヘドウィグはトランスジェンダー化することで西側への越境を果たす。そして、ベルリンの壁崩壊後に70年代のニューヨーク文化を音楽によって再現しようとするものの、アメリカには往時の熱狂を思い出す者はいなかった。よく言われているように70年代のニューヨークは文化的にひとり勝ちで、それには世界中が嫉妬していた。そのために90年代以降、誰もがニューヨークの凋落を指して、その事実を過剰に言い募った。同地からは!!! “ミー・アンド・ジュリアーニ・ダウン・バイ・ザ・スクール・ヤード”がそのアンサーとなり、『ヘドウィグ』もアメリカはもはや苦労してまで来る意味はなかった場所なのかと、その変貌を際立たせつつ、かつて自分が自由の国から得た熱狂を人々に回復させようとする。90年代の風景に70年代の精神を置くことでアメリカが失ったものを可視化したともいえる。時間的な差は短いとはいえ、パンクとニューロマンティクスにも決定的な違いがあり、前者が女性たちに独自の表現を促したのに対し、ホモ・ソーシャルであることを気取っていた後者は女性の参入そのものをほとんど許さなかった。エンが奇妙な家で出会ったザン(エル・ファニング)に「パンク」という言葉を教えると、ザンがすぐにも自分の衣装をハサミで切り刻み始めたことはなかなか象徴的である。そして、ザンはエンを追って奇妙な家から飛び出し、そこからしばらくは「1977年のクロイドンを舞台に初期パンクの佇まいや心情を描いた映画」になっていく。

 選曲が面白い。ファンジンを編集しているエンたちは音楽にも幅広い興味を示し、パンク一本やりではなく、レコードショップでクラウトロックを漁り、レジデントのDJにはペル・ウブをリクエストする。確かにパンクしか聴かないという哲学が生まれるのはもう少し後のことだろう。パンク・ロックしか鳴らない映画は必ずしもパンク・ロックの時代を描いているとはいえないともいえる。とはいえ、この映画のために作られた新曲も多く、その辺りはぐっちゃぐちゃ。宇宙人のBGMにはニコ・マーリーとマトモスがあたり、この場面は高解像度のカメラで画面の調子も変えてある。またパンクといえばどうしてもスウィンドルのようで、ヴィヴィアン・ウエストウッドからクビを言い渡されたという設定のボディシーア(ニコール・キッドマン)がちょっとした思いつきでザンをステージに上がらせ、それが受けると「私がプロデュースしたのよ!」とマルカム・マクラーレンばりの仕掛け人を気取る。スージー・スーを思わせる彼女のファッションもなかなか見せるものがあり、ほかもデレク・ジャーマンの衣装デザインを手掛けてきたサンディ・パウエルが初期パンクをなるべくリアルに再現したそうで、服もヘアも77年のデザインに限定し、78年以降のアイテムはまったく出てこないという。そのようにしてリアリズムに徹したのは宇宙人パートをファンタジーとしてくっきりと対比させるためで、ニコラス・ウィンディング・レフン『ネオン・デーモン』でもエキセントリックなメイクを盛られまくったばかりのエル・ファニングがなかなかそれらしい宇宙人キャラを演じている(僕はつい『荒川アンダー ザ ブリッジ』の桐谷美玲を思い出してしまった)。宇宙人たちのことを最初は移民の比喩かなとも思ったりもしたけれど、どちらかというとアスペやサヴァン症候群を描きたがる流れと同じ性質を持つものなのだろう。そういう意味ではそれほど徹底した表現にはなっていない。ザンの振る舞いを真似たエンがゲイリー・ニューマンとしてデビューしたという後日談を付け足せばよかったのに(なんて)。

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は、ヘドウィグがトランスジェンダーの手術に失敗していたことが後半部分のキーになっていた。それはいわば生殖機能にかかわる問題で、『パーティで女の子に話しかけるには』も後半で明らかになるのは宇宙人たちの世代交代や存続にかかわる問題だった。ザンにはある種の運命が課せられ、エンと過ごした時間がそのことに影響を与える。奇妙な家を抜け出し、エンの隠れ家で朝を迎えたザンは父親のいない家庭でエンの母親と出会う。エンの母親は昔はモデルだったと自慢げに話し、ダイアナ・ドースのポートレイトを指差しながら「彼女の足はアップに耐えられないので私がその代わりを務めていた」と言い放つ。そして、ソウル・ミュージックをかけてザンと楽しく踊り出す。ビートルズ『サージェント・ペパーズ』やザ・スミス『シングルズ』のジャケット写真にも使われているドースは、簡単にいってしまうとマリリン・モンローの代役を務めていたイギリスの女優で、莫大な遺産がいまだに行方不明という謎だらけの存在である。一般的にはドースはポルノ女優に近い存在とみなされているので、その足の代わりを務めていたということは、エンの母親はイギリスに置ける性的な存在としてかなり重要なパートを占めていたという意味になる。そのセリフの後でザンと踊り出すのだから、ザンにはすなわち性的なポテンシャルが手渡されたことになり、ヘドウィグのような性的に中途半端な存在であることをやめ、さらにはエンとの交流を通じてザンは親と子という「世代」の持つ意味を学ぶことになる(これ以上はネタバレ)。ザンは踊り、歌い、そして、宇宙人の存続にとって大きな変化をもたらす契機をつくり出す(ちなみにザ・スミスが『シングルズ』で使用しているドースのポートレイトは彼女が唯一、シリアスな映画に出演して評価を得た作品から選ばれている。マリリン・モンローでいえば『ノックは無用』と重なる)。

 ジョン・キャメロン・ミッチェルの作品にはいつも父がいないか、いても陰が薄い。父が欲しければ自分がなればいい。『パーティで女の子に話しかけるには』は他愛もないボーイ・ミーツ・ガールものだけど、ヘドウィグの手に入らなかったものがすべてここにあるともいえる。ラスト・シーンは予想外だった。

interview with Mount Kimbie - ele-king

 ケンドリック・ラマーは今年リリースした新作で、驚くべきことにU2をフィーチャーしている。さらに彼は来年、ジェイムス・ブレイクとともにヨーロッパを回るのだという。いまでも黒人たちの一部は心の底から白人たちを嫌っているという話も聞くが、どうやらケンドリックはそうではないらしい。彼の選択はたぶん、そういう対立を少しでも突き崩していこうという試みなのだろう。それがどこまで成功するのかはわからない。過度な期待はいつだって裏切られる。そう相場は決まっている。
 そんなケンドリックの果敢な試みに代表されるように、近年ブラックのサイドが積極的にホワイトのサイドへとアプローチしていく動きが目立っている。その起点となったのはおそらく去年のビヨンセのアルバムだろう。彼女はその力強く気高い作品で、ジャック・ホワイトやジェイムス・ブレイクといった白人のアーティストたちを積極的に起用した。その横断的なチャレンジは、エリオット・スミスやギャング・オブ・フォーをサンプリングしたフランク・オーシャンや、デイヴ・ロングストレスとの共作を試みたソランジュへと受け継がれることになる。そして今春、ついにジェイ・Zまでもが自身のアルバムにジェイムス・ブレイクを招待するに至った。そのトラックでブレイクとともにプロダクションを手掛けていたのが、マウント・キンビーの片割れ、ドミニク・メイカーである。つまり、引く手あまたのブレイクだけでなく、その盟友たるマウント・キンビーもまた、そのような越境ムーヴメントの一端をホワイトの側から支える存在になったということだ。
 そんな背景があったので、以下のインタヴューではドミニクにそういう昨今の傾向について尋ねているのだけれど、どうもうまく質問の意図が伝わらなかったようで、「近年はUSのメジャーとUKのアンダーグラウンドが結びついていっているよね」という話になってしまっている。こうして期待は裏切られるのである。


Mount Kimbie
Love What Survives

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 それはさておき、最初にマウント・キンビー4年ぶりのアルバムがリリースされると聞いたときは、それはもう胸が躍った。“We Go Home Together”や“Marilyn”といったトラックが公開される度に、勝手にイメージを膨らませては「今回はぐっとR&B~ソウルに寄った作品になるんじゃないか」「いや、彼ららしいダウンテンポなムードをより洗練させたものになるんじゃないか」などと予想を繰り返していた。そうして迎えた夏の終わり、いざ蓋を開けてみると――これがクラウトロックなのである。冒頭の“Four Years And One Day”からしてそうだ。完全にやられた。アルバム全体が、何やらパンキッシュなエナジーに満ち溢れている。いや、たしかにバンド・サウンドそれ自体は前作『Cold Spring Fault Less Youth』でも試みられていたけれど、それがここまで大胆に展開されるとは思いも寄らなかった。こうして期待は裏切られるのである。
 クラウトロックだけではない。マウント・キンビーの新作『Love What Survives』には、さまざまな音楽の断片がかき集められている。本作を聴き込めば聴き込むほど、それらの断片たちが要所要所で効果的な役割を果たしていることに気がつくだろう。そういえば本作をインスパイアした楽曲を集めたという彼らのプレイリストでは、ロックからアフリカ音楽まで多様な楽曲がセレクトされていたし、彼らがやっているNTSのラジオ番組には、ジェイムス・ブレイクやキング・クルールといったお馴染みの面子に加え、ウォーペイントケイトリン・アウレリア・スミスアクトレスからウム・サンガレ(!)まで、じつに興味深いアーティストたちがゲストとして招かれていた。つい先日も、アルバム収録曲の“You Look Certain (I'm Not So Sure)”をケリー・リー・オーウェンスがリミックスしたばかりである(彼女はマウント・キンビーの欧州ツアーのサポート・アクトにも抜擢されている)。そんな彼らのレンジの広さや音楽的探究心の断片を、クラウトロック~ポストパンクというムードのなかにさりげなく、だがこの上なく巧みに落とし込んでみせたのが、この『Love What Survives』というアルバムなのだ。

 10月9日、この取材の後に渋谷WWWXにておこなわれた彼らのライヴは、荒削りな部分が目立つ場面もあったものの、アルバム以上にエネルギッシュな熱を帯びており、まるで新人ロック・バンドのステージを観覧しているような気分になった(ファーストやセカンドの曲が新たに生まれ変わっている様もじつにスリリングだった)。いや、じっさい、4人編成という点において彼らは新人である。つまり……マウント・キンビーは今回のアルバムやパフォーマンスで、いわゆる「初期衝動」のようなものを演出しようとしているのではないか。そう考えると、なぜ彼らがこの新作に『Love What Survives』という意味深長なタイトルを与えたのか、その動機が浮かび上がってくる。「生き残るもの」とは要するに、かれらが最初に音楽を作り始めたときに抱いていた気持ちや勢い、刺戟のことだったのである。
 そんなわけで、「生き残るもの」というのはきっと政治的・社会的に虐げられている人びとを暗示しているのだろう、という小林の浅はかな先入観は見事に覆されることとなった。そして、ファースト・アルバム『Crooks & Lovers』のジャケに映っていたのはおそらくチャヴだろう、という編集部・野田の予想も外れてしまった。こうして期待は裏切られるのである。そんな素敵な裏切り者ふたりの言葉をお届けしよう。

 

よくわかっていないからこそ、そういう音楽のスペースのなかで、自分たちなりの解釈で何かをやってみるのもおもしろいんじゃないかと思ったんだ。 (カイ)

マウント・キンビーの音楽について、日本ではいまでも「ポスト・ダブステップ」という言葉が使われることがあるんですが、UKでもまだそう括られることはありますか?

カイ・カンポス(Kai Campos、以下カイ):いまその括りは死につつあるね(笑)。たしかに、僕らが初めてのアルバムを作った2010年当時、その言葉と一緒にその手の音楽がバーッと出てきて、ほんの短期間のうちにダブステップという音楽の概念がガラッと入れ替わった時期があったと思うんだけど、いまはだいぶ死に絶えてきているね。たぶんこのアルバムが出たあとには完全になくなるんじゃないかな(笑)。

これまでそう括られることにストレスは感じていましたか?

ドミニク・メイカー(Dominic Maker、以下ドム):いや、けっしてその呼び名に納得はしていなかったけど、とくに気にもしていなかったよ。とにかく自分たちの音楽がひとつの箱に収まりきらないようなものであってほしい、ジャンルの境界を跨いでいるようなものであってほしいという意識で音楽を作ってきたし、じっさいいろんなことをやっているから、それが「ポスト・ダブステップ」だろうがなんだろうが、ひとつの言葉で括ってしまうのは僕らの音楽にはふさわしくないんじゃないか、という思いはつねにあったね。

今回のアルバムからはクラウトロック~ジャーマン・ロックの影響を強く感じました。

カイ:たしかにいままでやっていたエレクトロニック系の音楽よりも、ちょっと前の時代のエレクトロニック・ミュージックに遡ったようなところはあるよね。クラウトロックやジャーマン系の音に聴こえるというのは僕らも認めるところだけれども、僕らはけっしてそのジャンルに詳しいというわけではないんだ。(クラウトロックを)ずっと聴いてきてよくわかっているからそれをいまやってみた、ということではないんだよ。逆に、よくわかっていないからこそ、そういう音楽のスペースのなかで、自分たちなりの解釈で何かをやってみるのもおもしろいんじゃないかと思ったんだ。「セミ・エレクトロニック・ミュージック」とでも言うのかな。過去を振り返って、リズムや楽器の編成といったところからアイデアを引っ張ってきて作ったのが今回のアルバムかな。

他方で本作からは80年代のポストパンク~ニューウェイヴの匂いも感じられます。そのあたりの音楽も参照されたのでしょうか?

カイ:その手の音楽はUKではかなり広く愛されていたから、僕らも自ずと踏んできてはいると思う。当時はブリティッシュ・ミュージックのなかでもおもしろい時代だったと思うし。ただ僕らの場合、たとえばスクリッティ・ポリッティとか、ああいったバンドは最近になって聴いているんだよね。あの頃の音楽が持っていた、とくにパンクのアティテュードに見られるようなポジティヴな要素を自分たちのアルバムの制作過程に持ち込んだというか、そういうことは今回あったような気がする。あと他にもこのアルバムには、自分たちの音のパレットが幅広くなればと思って、ソウルやディスコみたいなものも組み込んだつもりなんだ。だからいろんな音が聴こえてくると思う。でもけっして後ろばかり振り返っているわけではなくて、あくまで前に進もうとしている作品だと思っているよ。

昨年リリースされたパウウェルのアルバムはお聴きになりました?

ドム:聴いたと思う。バンドっぽいやつだよね? 僕は好きだったよ。聴いていて楽しかった。

エレクトロニック畑の人がパンキッシュなサウンドをやるという点で、今回のアルバムと繋がりがあるように思ったんですよね。

カイ:そりゃそうだろうね。だってこういう発想は僕らが思いついたものではないし、大きな流れのなかで、いろんな人が同時発生的にやってみたくなった時期なのかもしれないからね。


Photo by Masanori Naruse

じつを言うとキング・クルールとの曲の歌詞はいまだに意味がわかっていないんだ(笑)。まだ解読中だね(笑)。 (カイ)

今回のアルバムに影響を与えた楽曲のプレイリストが公開されていますが、そこではロバート・ワイアットやアーサー・ラッセル、スーサイドやソニック・ユース、ウィリアム・バシンスキからアフリカのバンドまで、かなり多様な楽曲がピックアップされていました。それらはおふたりが今回のアルバムを作っていく過程で発見していったものなのでしょうか?

ドム:あれはじつは、僕らはラジオ番組をやっていたんだけど、それ用のプレイリストという側面が大きいんだ。曲をかけるためにいろんなものをチェックして聴いていくなかで幅が広がっていったんだけど、その作業で見つけた曲もプレイリストに入っている。番組をやっていく過程でかなり大量の音楽を吸収して消化したんだ。それは今回のアルバムにも影響を与えていると思う。あと、番組に来てくれたゲストから教えてもらったものもあるね。僕らがリスペクトしている人が来てくれたんだけど、どんなふうに音楽を作っていくのか聞いていくなかでおもしろいものと出会ったりして、そういうこともすべてあのプレイリストには詰め込まれているんだよね。

カイ:そうやって考えるとおもしろいね。そういう流れがあってあのアルバムに至っている、ということがプレイリストからもわかるよね。

今回のアルバムには4組のゲストが招かれています。キング・クルールは前作にも参加していましたが、4曲目の“Marilyn”にフィーチャーされているミカチューはどのような経緯で参加することになったのでしょう?

カイ:ミカチューは、僕らふたりが音楽を作り始める前からファンだったんだ。知り合ったときに「いつか一緒にやろう」という話をしていたんだけど、それから2年くらい話が続いていて(笑)。今回いよいよ一緒にやる機会に恵まれたわけだけど、作ってみたらあっという間で、すごく相性がいいのかなと思える時間だったよ。だから、僕らにとってはようやく実現できたスペシャルなトラックなんだ。

その“Marilyn”はアルバムの他の曲と趣が異なっていますが、7曲目の“Poison”や、ジェイムス・ブレイクが参加している8曲目の“We Go Home Together”と11曲目の“How We Got By”の2曲も他の曲と雰囲気が異なっているように感じました。本作をこのような構成にしたのはなぜですか?

ドム:今回のアルバムは全体を通してすごくヴァラエティに富んでいると思う。いま挙げてくれた曲に限らず、個性的な曲ばかりが詰まっていると思うんだけど、それだけにアルバム全体の流れというか、全体で聴いたときの消化具合がうまくいくように、ということをすごく考えて曲順を決めたんだ。ミカチューとの曲もジェイムスとの曲もそうだけど、自分の頭のなかで曲順を組んでみたときに、“Marilyn”は突出しているという印象があって。(この曲は)アーサー・ラッセルの影響がすごく大きいと思うんだけど、とくにユニークな曲だからアルバム全体の流れのなかで活かしたいと考えたんだ。

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ジェイ・Zから「ジェイムス(・ブレイク)に歌ってほしい」というオファーがあったんだ。そのときちょうど僕がジェイムスが歌うことを想定して書いていた曲があって、それをやろうかってことになったから、僕も関わることになったんだよ。 (ドム)


Mount Kimbie
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春頃から少しずつアルバムの収録曲が公開されていきましたが、先行公開曲のセレクションに関しては何か意図があったのでしょうか? 公開された曲からぼんやりとアルバムのイメージを膨らませていたのですが、蓋を開けてみると想像していたのとはまったく違い、とてもパンキッシュで驚きました。

カイ:最初に何を公開するかみんなと話し合ったときに意見が一致したのは、ゲスト・ヴォーカルの入っている曲から公開するのが理に適っているんじゃないか、ってことだった。やっぱりヴォーカルが入っているというのはみんなに伝わりやすいだろうし、わかりやすいよね。それを聴いて「アルバムはどんな感じなんだろう」という期待感を煽る狙いで最初の2曲(“We Go Home Together”、“Marilyn”)を選んだんだ。でも、その2曲はみんなが消化するのにちょっと苦労する曲だったかもしれない。それをあらかじめ出しておいて、他の曲より先に聴いてもらうことによって、あとでアルバムを聴いたときに、その曲のあいだにあるどの曲もフィットしたものに聴こえるようになる、という枠組みを提示することができたかもしれないね。

ドム:ジェイムスの曲もミカの曲もそうだけど、僕らはしばらく鳴りを潜めていたから、タイトルのなかにそういう有名な人の名前(ビッグ・ネーム)が入っていることによって注目を集めることができるんじゃないか、という意図もあったね。

いまヴォーカル曲の話が出ましたが、今回のアルバムにはハードな生活を送っている人たちの登場する曲が多いように感じました。リリックに関して何かコンセプトやテーマのようなものはあったのでしょうか?

カイ:歌詞は、僕らと客演してくれたシンガーとで一緒になって作ったんだけど、基本的には彼らが伝えたいストーリーをそのまま語ってもらえればいいと思っていたんだ。だから僕らが影響を与えたというか、注文をつけたことがあるとすれば、「この曲にはこういうふうに(言葉を)乗せてほしい」という、歌い回しやフレージングに関することだね。「ここに乗せるためには音節はこうじゃないほうがいい」とか、そういう注文はしたけれど、歌詞の内容に関しては自由にやってもらったよ。だから、(それぞれの)曲のメッセージには一貫性がないんだ。でも、そういうふうにやってもらったほうが幅の広さという意味でいいレコードになるんじゃないかと思って。ただ、レコーディングの段階では僕らも完全には歌詞を咀嚼しきれていなくて、じつを言うとキング・クルールとの曲の歌詞はいまだに意味がわかっていないんだ(笑)。まだ解読中だね(笑)。でもライヴでやるときは、あくまでも僕らのものとして消化してやっているから、歌詞の内容もレコードよりももっとフォーカスした内容になっているんじゃないかな。

ドミニクさんはいまLAに住んでいるんですよね。

ドム:そうだね。

LAへ移住したのはなぜ?

ドム:ガールフレンドが向こうに住んでいたからだよ。(移住して)もう2年になるね。天気もいいし、楽しんでいるよ。

ということは、今回のアルバムの制作はカイさんとデータをやり取りする形で進めていったのでしょうか?

ドム:いや、行ったり来たりしながら作ったよ。(UKには)しょっちゅう行くから。ノルウェー航空とかの安い航空券を買ってね(笑)。

なるほど。ではおふたりはわりと頻繁に会われているんですね。

ドム:そうだね。メインのスタジオはロンドンにあるんだけど、レコーディングの終盤には感覚やリズムを取り戻したいと思ってライヴを始めたんだ。今度のバンド編成はわりかし新しいものだから、アルバムが出る前からライヴに打ち込みたくて、ロンドンでライヴ活動はしていたよ。そういう意味ではLAに住んでいるからどう、ということもないかな。

ドミニクさんはジェイムス・ブレイクと一緒に、今年出たジェイ・Zの新作『4:44』に参加しています(“MaNyfaCedGod”)。それはどういう経緯で実現したのですか?

ドム:そもそもはジェイ・Zから「ジェイムスに歌ってほしい」というオファーがあったんだ。そのときちょうど僕がジェイムスが歌うことを想定して書いていた曲があって、それをやろうかってことになったから、僕も関わることになったんだよ。結局2曲で参加する形になったけど、作り方が僕らの慣れているやり方とぜんぜん違っていて、でもそれだけ勉強になったね。いい経験だったよ。


Photo by Masanori Naruse

音楽を作るときの刺戟って僕らがファーストを作ったときと何も変わっていないんだよね。そういう気持ちや勢いが「Survive(生き残る)」ってことなんだ。 (カイ)

ジェイムス・ブレイクは昨年ビヨンセのアルバムに参加していました。また、昨年話題になったフランク・オーシャンのアルバムではエリオット・スミスやギャング・オブ・フォーなど、いわゆる白人の音楽がサンプリングされていて、今回のドミニクさんとジェイ・Zとのコラボもそうなのですが、最近ブラック・ミュージックのビッグなミュージシャンたちが積極的にホワイトの文化を取り入れていっている印象があります。10年前や20年前にはあまりなかったことだと思うのですが、そういう昨今の流れについてはどうお考えですか?

ドム:ドレイクもジャマイカのアクセントを真似して歌ってみたり、グライムが好きで聴いていたりするから、そういう流れはたしかにあるよね。

カイ:カイラの“Do You Mind”(2008年)というUKファンキーの曲があって、むかしUKでビミョーに、ちょっとだけヒットした曲なんだけど、ドレイクの“One Dance”(2016年)ではそれをバックトラックに使っているんだ。もとの曲自体はUKでは大して注目されなかったんだけど、それがいまになってUSの超メインストリームの曲のなかで鳴っているというのはすごくおもしろいことだと思ったよ。そういうのって、(もとの曲に)興味を持ったR&B系のプロデューサーなんかが引っ張ってくるんだろうけど、たとえばビヨンセとかもそうで、メインストリームの人なのにオープンにいろんなものに興味を持ってそれらを取り入れたりしていて、彼女がやればそれに続く人が出てくるし、UKのアンダーグラウンドとUSのメインストリームのあいだにあった大きな壁が、ここ5年、10年くらいのあいだに崩れていっているという実感はあるね。

今作のタイトル『Love What Survives』は「生き残るものを愛せ」ということで、とても意味深長なのですが、これにはどのような思いが込められているのでしょう?

カイ:今回に限らず、レコードを作っているときに考えすぎてしまうのはよくないと思っているから、いつも感覚でいいと思うものを作っていくんだけど、いざどういうタイトルにするか考える際には、「何がモティヴェイションとなって自分たちはこれを作ったのか」ということを振り返るんだ。今回ふたりでこのアルバムを作りながら話していたのは、とにかく(これまでと)違うことをやりたいということや、変化が訪れたらそれをどんどん受け入れて前に進んでいこうということだった。そういう音楽を作るときの刺戟って僕らがファーストを作ったときと何も変わっていないんだよね。そういう気持ちや勢いが「Survive(生き残る)」ってことなんだ。新しいことをやったり、刺戟を絶やさないことで生き残っていくというか、自分たちのまわりにあるものを受け入れて、ケアをしながら大事に音楽を作っていくというか。そういう気持ちを可能にするには好奇心が必要だったり、変化に対するオープンな気持ちが必要だったり、あとは違うアプローチを恐れないということが必要だったりして、(『Love What Survives』は)そうやって生き残ってきたものを大事にするというような作り方に対する考えなんだ。でもこれは僕の解釈であって、聴いた人がどう解釈しても構わないんだけどね。

ドム:同感だね。

今回のアルバムはアートワークもユニークですが、被写体の彼は何をしているんでしょう?

ドム:いい質問だね(笑)。

カイ:本当は実際にアートワークを制作してくれたデザイナーのフランク(・レボン)に聞いてもらうのがいいんだけどね(笑)。フランクは今回のヴィデオもほぼすべて手がけることになっているんだ。このジャケットは彼が撮影してくれたものをもとにデザインしたものなんだけど、僕らと彼とではアルバムに対する見方がちょっと違っていて、だからこそおもしろいんだと思う。レコードにあのジャケットが付いたことによって、作品として僕らふたりのアイデア以上の存在になったんじゃないかなと思っている。けっこうインパクトは大きいよね(笑)。見た目もそうだし、フィーリング的にも。僕らだけの作品じゃなくなった気がして好きなんだ。まあ詳しいことはフランクに聞いて(笑)。彼はキャラクターになって何かをやるのが好きなんだ。

このジャケットを見て、ファースト・アルバムのジャケットを思い出したんですが――

カイ:フランクはファーストのアートワークを手がけたタイロン(・レボン)の弟なんだ。

へえ!

カイ:ファーストから今回のアルバムまでのあいだに僕らのなかですごくいろんなことが変わったんだけど、そこ(アートワーク)で繋がっているというのはおもしろいよね。

ファースト・アルバム『Crooks & Lovers』の被写体の女性は、いわゆるチャヴなのでしょうか?

ドム:あの女の子? ぜんぜんわからないな(笑)。

カイ:デザイナーに聞かないとわからないし、たぶんデザイナー本人もわかってないよ(笑)。

いまはこうして来日されて、ツアーの真っ最中だと思いますが、それが一段落ついたら何かやってみたいことはありますか?

カイ:ここ4年はけっこうおとなしくしていたから(笑)、いまは動きたくて、このツアーができるのが嬉しいよ。もうオフはいいや(笑)。

ドム:僕はこのあとホリデイで、フィリピンに行くんだ。日本ではカイとツアー・メンバーみんなで一緒に京都に行く予定だよ。そうやってちょっと休んで、また動き出したいね。


Ninos Du Brasil - ele-king

 イタリア人DUOユニットNinos Du Brasilの3枚目のアルバム。1曲目の“O Vento Chama Seu Nome”で驚いたのは、ヴァーカル・スタイルが大阪のSUSPIRIAやbonanzasの吉田ヤスシ氏に似ていることで、以前SENYAWAが出てきた時もそっくりだと皆が声を揃えていたことを思い出します。この抑えたヴォーカル・スタイルがダークな雰囲気を醸し出すのに一役買っています。シームレスに2曲目へと移行し、BPMはそのままで同じフレーズまで使われているので中盤のブレークまで気付かないこともしばしば。なのでそのままDJで2曲続けてかけても誰も気付かないでしょう。

 A4“Algo Ou Alguém Entre As Àrvores”は先行12”「Para Araras」にも収録されている楽曲ですが、グッとBPM(100)を抑え、持続する詠唱、演説めいた声、原始的な吠えるような声などが挿入されながら、儀式的旋律が高まるに連れてピークを迎えるこの楽曲は、個人的にお気に入りです。B2“A Magia Do Rei II”が「II」と題されているのは、先ほどと同じ先行12”のA面に「I」が収録されていて、そちらにはヴォーカルが入っていません。細かく動き回るベースラインなどの骨格は同じで、そこにヴォーカルやパーカッションで肉付けしたものが「II」となっています。なので「I」はDUB versionという感じで、尺も1分ほど長いです。どことなくオリエンタルなムード漂う旋律がテーマとなっているB3“Em Que O Rio Do Mar Se Torna”はBPM110でどっしりと重いイーヴンキックが刻まれ、その上をポコポコとパーカッションが鳴り、テーマ旋律が現れては消えていきます。

 Ninos Du Brasilのアルバムでfeat. Arto Lindsayという記述を見れば、誰もがあの痙攣ギターの音色とNinos Du Brasilのアグレッシヴな楽曲の融合を期待すると思いますが、最後の曲という点で、そうではないだろうという予想もしていました。アートはアルバム中で最も落ち着いた、若干アブストラクトなサウンドの上でパーカッションが響く楽曲に、官能的な歌声を添えています。彼らのコラボレーションがどのようにして実現したのか、その経緯がひょっとすると載っているかもしれないと、13年ぶりにソロ・アルバムを発表したアートを丸々特集した本『アート・リンゼイ 実験と官能の使徒』を読んでみましたが、見当たりませんでした。しかしこの本の充実ぶりは素晴らしいと思います。カエターノ・ヴェローゾとアートがゴダールやジェイムス・ブレイク、ディアンジェロについて語っている部分などはとても刺激的で、アートファンのみならず、音楽ファン必読の内容となっています。

 2014年に初めて〈Hospital Productions〉から発表した2ndアルバム『Novos Mistérios』では、そのユニット名にふさわしくブラジルのカーニバルの影響色濃いパーカッシヴな疾走感のあるサウンドで、このレーベルにしては陽気なサウンドと言えるものでした。その後〈DFA〉から12”「Aromobates NDB」を、そして再び〈Hospital Productions〉から12”「Para Araras」をリリース。作品を追うごとに少しずつダークなサウンドへと、あたかもレーベルカラーに染まっていくかのように、傾倒していっているように感じます。依然としてパーカッシヴではあるものの、カーニバル感は後退し、何かの儀式めいた音楽のような感じが強まっています。そのように感じる要因は何なのかと考えました。

 まずひとつにはクイーカの音の使用の有無が考えられます。この楽器の音が入ると一気にカーニバル感が出ますが、クイーカと言われてもどんな楽器なのか、どの音がクイーカの音なのか、わからない方もいらっしゃると思いますので、参照リンクを貼り付けておきます。音だけ聴いてもどんな楽器なのか想像しづらいと思います。2ndアルバムでは“Miragem”と“Essenghelo Tropical”の2曲でクイーカの音が使われていますが、それ以降クイーカの音は一切使われていません。

https://www.youtube.com/watch?v=t9xlRJbIfmk

 もうひとつは音のバランスが変わっていて、前作ではパーカッションが主体のMIXでしたが、今回はベースドラムの音がより重く、より太くなり、大きな音でMIXされていて、それに加えて前作よりも不穏な和声がそこかしこに登場し、ベースドラムにまとわりつくかのように持続することがダークな儀式感を強めている要因と考えられます。パーカッションからベースドラムへと音の比重が移ることによって、全体的に重心がグッと下がっています。前作は比較的乾いた、カラッとしたサウンドの印象でしたが、今作ではやや水分を含んで重たくなったかのような、ジメッとした熱帯雨林、60%はブラジルの領土にあるというアマゾンを想起させるサウンドになっているのも、その比重の変化と怪しげな持続音の多少によるものでしょう。

 事実“Condenado Por Un Idioma Desconhecido”のPVは、どことも知れぬジャングルの奥地にふたつの棺桶が転がっていて、その中でふたりが歌い、最後には棺桶から出てくるという趣で撮られていて、それはアルバム・タイトルの『Vida Eterna(永遠の命)』を表現しているものと思われますが、ジャケットの絵はおそらくコウモリ。とするならば、彼らはヴァンパイアなのかもしれません。ヴァンパイアといえば、『パターソン』も素晴らしかったジム・ジャームッシュの回転するレコードのクローズアップで始まる『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を思い出しますが、音楽映画としても興味深い作品ですので、オススメです。

 このアルバムのタイトルの意味を調べていて、イタリア語とポルトガル語が同じ綴りで同じ意味である場合があるということを知り、イタリアとブラジルという遠く離れた国同士の共通点が垣間見えました。最後の曲にカエターノ・ヴェローゾをプロデュースしたこともあるアートをゲストに迎えたのも、彼らなりのブラジルという国で生まれた音楽への敬意の表れなのかも知れません。

 短い言葉でこのアルバムを表するなら、トライバル・ダーク・ウェイヴでしょう。次作ではベースラインがうねり始める事を期待します。

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