ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns #15:「すべてのロックンロールに反対してやる」 ──『UKインディ・ロック入門』刊行のお知らせ
  2. Cornelius ——コーネリアスがアルバム『Refractions』のリリースと新曲“Aeons”の配信開始を発表
  3. GEZAN - I KNOW HOW NOW
  4. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  5. Masabumi Kikuchi ──リイシューされた菊地雅章の幻の『六大』、デジタル配信がスタート
  6. Columns 5月のジャズ Jazz in May 2026
  7. Free Soul × P-VINE ──好評だったコラボTシャツが受注再開
  8. Ana Roxanne - Poem 1 | アナ・ロクサーヌ
  9. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  10. Loraine James - Detached from the Rest of You | ロレイン・ジェイムズ
  11. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  12. Cornelius ──コーネリアスが動き出した! 新シングル「夢寝見」がリリース
  13. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  14. heykazma ──デビューEP「15」のリリース記念パーティが開催
  15. MODE 2026 ──豪華面々が集結、灰野敬二+ダニエル・ブランバーグ、エレン・アークブロ+伶楽舎、シャルルマーニュ・パレスタイン、ジム・オルーク&石橋英子
  16. interview with Weirdcore 謎のヴィジュアル・アーティスト、ウィアードコアへの質問
  17. Boards Of Canada ──ボーズ・オブ・カナダ、13年ぶりのアルバムがリリース
  18. Haruomi Hosono ──細野晴臣7年ぶりのアルバムがリリース、海外では〈Ghostly International〉から
  19. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  20. オールド・オーク - THE OLD OAK

Home >  Reviews >  Album Reviews > 廻転楕円体- 奈落の虹

廻転楕円体

BreakcoreElectronicaIDM

廻転楕円体

奈落の虹

Self-Released

Kaitendaentai Store Amazon

しま   Oct 21,2017 UP

 廻転楕円体は、2015年7月よりブレイクコアのトラックに音声創作ソフトウェアの「ONE(オネ)」を歌わせるコンセプトのもと、創作活動をはじめたアーティストだ。同年にブレイクコアなどを扱うネット・レーベル〈edsillforRecordings〉からEP「双頭の零」をリリースし、同楽曲がブレイクコア文化の発信・啓蒙をしているネット・レーベル〈OthermanRecords〉の「ブレイクコアイヤー2015」ベスト楽曲に選出されている。
 この“双頭の零”は、『初音ミク10周年――ボーカロイド音楽の深化と拡張』に掲載されている対談で語られているように、グランジと変拍子ブレイクコアを合わせ、人工音声をのせた斬新な作品だ。ブレイクコアは、サンプリング素材を細かく切り刻み再構築しためちゃくちゃな音楽、という印象を持つひとが多いだろう。しかしながら、廻転楕円体の作風はどこかスマートだ。壊されていてもその断片が整然としているようで、細部を見れば見るほどすべての音が意図をもってそこに配置されているような印象を受ける。アートのようだ、と言ってしまえばそれまでだが、より具体的に言えばフラクタル図形を見ているような感覚だ。

 フラクタル図形とは、簡単に言ってしまえば一部が全体と自己相似な構造を持っている図形だ。一般的な図形は複雑な形状でも極限まで拡大してしまえば滑らかな形状として観測されるが、フラクタル図形はどれだけ拡大しても同じように複雑な形状が現れる。その中でもより高度なものになると、螺旋や相似といった多様な図形要素で構成されるものもある。
 廻転楕円体の作品の一部分を拡大してみると、その前後で同じものが見られるかというと必ずしもそうではない。ブレイクコアのビートひとつとっても同じビートはなく、拡大する部分によって異なるものが見られる。作品を全体像から細部へと作り込んでいったのか、また細部から全体像を構築していったのかはわからないが、途方もない制作作業であったことは容易に想像できるだろう。
 “双頭の零”をはじめ、こうした作品が多数収録されているのが1stフル・アルバムである『奈落の虹』だ。創作言語と3次元フラクタル映像による“文字禍”や、サイケデリック系の細分化されたジャンルであるpsycoreとブレイクコアを合わせた“幻肢痛”、複雑なビートを追求しながらもはじめから終わりまで連続性が保たれている“白色矮星”、変拍子のビートが歌のメロディに寄り添う“劫の韻律”など、いずれの曲もビートの繊細さとメロディとの対比、そしてそれを邪魔しないONEによる歌・朗読がバランス良く配置されている。

 また、アートワークに関してもアナログとデジタルの技法で幾度も重ね合わせた緻密なデザインが施されており、端々に執念とも思えるような創作へのこだわりがうかがえる。自主制作だからこそ、ここまで徹底的に作り込むことができたのかもしれない。ブレイクコアの新たな世界を切り開くことができると言っても過言ではない傑作だ。

しま