ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. MIKE - Showbiz! | マイク
  2. FESTIVAL FRUEZINHO 2025 ——トータス、石橋英子、ジョン・メデスキ&ビリー・マーティンらが出演する今年のFRUEに注目
  3. The Weather Station - Humanhood | ザ・ウェザー・ステーション
  4. Whatever the Weather - Whatever the Weather II | ホワットエヴァー・ザ・ウェザー
  5. 「土」の本
  6. caroline ——キャロラインが帰ってきた(どこかに行っていたわけじゃないけれど)
  7. interview with Roomies Roomiesなる東京のネオ・ソウル・バンドを紹介する | ルーミーズ
  8. Columns ♯12:ロバータ・フラックの歌  | Roberta Flack
  9. Damo Suzuki +1-A Düsseldorf ——ダモ鈴木+1-Aデュッセルドルフがついに発売
  10. story of CAN ——『すべての門は開かれている——カンの物語』刊行のお知らせ
  11. Oklou - choke enough | オーケールー
  12. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインがブランド「Supreme」のためのプレイリストを公開
  13. 別冊ele-king ゲーム音楽の最前線
  14. すべての門は開かれている――カンの物語
  15. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第二回 ボブ・ディランは苦悩しない
  16. R.I.P. Roy Ayers 追悼:ロイ・エアーズ
  17. Columns ♯11:パンダ・ベアの新作を聴きながら、彼の功績を振り返ってみよう
  18. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  19. はじめての老い
  20. Mike - War in My Pen

Home >  Reviews >  Album Reviews > 廻転楕円体- 奈落の虹

廻転楕円体

BreakcoreElectronicaIDM

廻転楕円体

奈落の虹

Self-Released

Kaitendaentai Store Amazon

しま   Oct 21,2017 UP

 廻転楕円体は、2015年7月よりブレイクコアのトラックに音声創作ソフトウェアの「ONE(オネ)」を歌わせるコンセプトのもと、創作活動をはじめたアーティストだ。同年にブレイクコアなどを扱うネット・レーベル〈edsillforRecordings〉からEP「双頭の零」をリリースし、同楽曲がブレイクコア文化の発信・啓蒙をしているネット・レーベル〈OthermanRecords〉の「ブレイクコアイヤー2015」ベスト楽曲に選出されている。
 この“双頭の零”は、『初音ミク10周年――ボーカロイド音楽の深化と拡張』に掲載されている対談で語られているように、グランジと変拍子ブレイクコアを合わせ、人工音声をのせた斬新な作品だ。ブレイクコアは、サンプリング素材を細かく切り刻み再構築しためちゃくちゃな音楽、という印象を持つひとが多いだろう。しかしながら、廻転楕円体の作風はどこかスマートだ。壊されていてもその断片が整然としているようで、細部を見れば見るほどすべての音が意図をもってそこに配置されているような印象を受ける。アートのようだ、と言ってしまえばそれまでだが、より具体的に言えばフラクタル図形を見ているような感覚だ。

 フラクタル図形とは、簡単に言ってしまえば一部が全体と自己相似な構造を持っている図形だ。一般的な図形は複雑な形状でも極限まで拡大してしまえば滑らかな形状として観測されるが、フラクタル図形はどれだけ拡大しても同じように複雑な形状が現れる。その中でもより高度なものになると、螺旋や相似といった多様な図形要素で構成されるものもある。
 廻転楕円体の作品の一部分を拡大してみると、その前後で同じものが見られるかというと必ずしもそうではない。ブレイクコアのビートひとつとっても同じビートはなく、拡大する部分によって異なるものが見られる。作品を全体像から細部へと作り込んでいったのか、また細部から全体像を構築していったのかはわからないが、途方もない制作作業であったことは容易に想像できるだろう。
 “双頭の零”をはじめ、こうした作品が多数収録されているのが1stフル・アルバムである『奈落の虹』だ。創作言語と3次元フラクタル映像による“文字禍”や、サイケデリック系の細分化されたジャンルであるpsycoreとブレイクコアを合わせた“幻肢痛”、複雑なビートを追求しながらもはじめから終わりまで連続性が保たれている“白色矮星”、変拍子のビートが歌のメロディに寄り添う“劫の韻律”など、いずれの曲もビートの繊細さとメロディとの対比、そしてそれを邪魔しないONEによる歌・朗読がバランス良く配置されている。

 また、アートワークに関してもアナログとデジタルの技法で幾度も重ね合わせた緻密なデザインが施されており、端々に執念とも思えるような創作へのこだわりがうかがえる。自主制作だからこそ、ここまで徹底的に作り込むことができたのかもしれない。ブレイクコアの新たな世界を切り開くことができると言っても過言ではない傑作だ。

しま