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倉本諒 May 22,2014 UP
インダストリアル・リヴァイヴァルにおける再評価が高まるリージス(Regis)ことカール・オコナーであるが、しかしリージスも彼の〈ダウンワーズ(Downwards)〉も90年代から徹頭徹尾ブレない美意識を探求してきたわけで、単なるリヴァイヴァルに回収されない強靭な核を有していると思うのだ。
とは言え、昨今のシーンの動向、具体的にはUSのニューウェイヴやミニマルウェイヴ流れのインダストリアルなアプローチにも柔軟に反応しているのが現在のカールの確固たる地位を維持してもいるわけで。〈ダウンワーズ〉は現在、活動拠点をNYに移し、スローペースながらも時代を反映した確実に良質なリリースを継続、昨年はレーベル20周年のコンピレーションをドロップ、また〈ダウンワーズ・アメリカ〉なるサブ・レーベルをサイレント・サーヴァント(Silent Servant)の協力の下に設立、カールの美意識の一旦であるノワールな世界観を共有するLAのポストパンク・ユニット、ディーヴァ・ダマス(Dva Damas)のリリースなんかも手掛けていたりする。
んで先月〈ダウンワーズ〉からリリースされたシカゴのデュオ、トーカー(Talker)の12インチをいま聴いているわけなんだけども、じつはあんまりピンときていない。前振りで〈ダウンワーズ〉は最近の流行とはちがうんだぜ! みたいなことを抜かしといて申し訳ないんだけども。けっこう前の紙『ele-king』のインダストリアル対談で、インダストリアルは鉄槌感とファッショ感でしょ! みたいなことを言ってしまってじつは最近ものすごく後悔していて、これだけインダストリアルってタームが完全に飽和化し、コンポジション云々よりもテクスチャーや雰囲気を重視したレコードが氾濫している現状を目の当たりにしているとさすがにゲンナリしてくるわけですよ。いや、何が言いたいかっていうと、けっしてこのレコードが悪いわけではなくて(むしろ完成度は高いです)、2014年現在、ビートやコンポジションをないがしろにしてインダストリアルな質感や雰囲気のトラックをつくってもべつにもう尖ってないよってことなんです。
先日ペインジャークの五味さんとそのあたりのシーンについていろいろとお話する機会があり、ウィリアム・ベネット(元ホワイトハウス)のカット・ハンズ(Cut Hands)なんかは、いい歳こいてぜんぜんいまの若手のノイズ→テクノなんかより尖りまくっているという意見には激しく同意したのが記憶に新しいわけで。個人的にもニューウェイヴ、ミニマル・ウェイヴ流れの雰囲気インダストリアル・テクノよりも、トライバルに、パーカッシヴに、プリミティヴに土臭い方向性を持った、暴力的な電子音楽のほうがいまは魅力的だ。と思っていた矢先に前述の雰囲気系インダストリアルのパイオニア、ドミニク・フェルノウの〈ホスピタル・プロダクション〉からこのイタリアのパーカッション・デュオ、ニノス・ドゥ・ブラジル(Ninos Du Brasil)がドロップ。ここでまた話の流れがふたたび崩壊してしまうわけですが、このアフロ・テクノ・パンク・サンバ祭りには有無を言わせずにブチあげられてしまう。夏には〈DFA〉からのリリースも控えている。
やっぱりレーベルを偏見的に捉えてしまうのはよくない、と思わざるをえない昨今の2枚。猛烈にあのインダストリアル対談をアップデートしたい。
ニノス・ドュ・ブラジルのYoutubeクリップを見ていて気づいた。この微妙にイケてない感じどっかで見たことがあるな。と思ってちゃんと調べてみたらやはりニコ・ヴァッセラーリ(Nico Vascellari)であった。ニコはもともとミラノのパンク畑のミュージシャンで、ミラノのスクワット・パンク・シーンをコンテンポラリー・アートに繋げたパイオニアである。サン(SUNN O))))のスティーヴン・オマリーとジョン・ウィーゼ等とおこなったカッコー(Cuckoo)や巨大なブロンズのモノリスをガンガン打ちまくり、ブリアル・ヘックス(Burial Hex)がフィードバッグをコントロールしたアイ・ヒア・ア・シャドウ(I hear a shadow)など、国内外のアーティストとのパフォーマンス・アートでのコラボレーションをおこなっている。
本人名義でのハーシュ・ノイズは過去にドミニクのプリュリエントとのスプリットもリリースしていたはずだ。てなわけでなぜ〈ホスピタル〉なのかも納得がいきました。
倉本諒