「E E」と一致するもの

Jaimie Branch - ele-king

 2017年の『Fly Or Die』で注目を集め、その野心的なスタイルで将来が期待されていたものの、昨年亡くなってしまったジェイミー・ブランチ。才あるこのジャズ・トランぺッターが生前ほぼ完成させていたというアルバムがリリースされることになった。パンクやノイズからアフロ・カリビアンの要素までが含まれる作品に仕上がっているようだ。CDの発売は9月6日。注目しよう。

Jaimie Branch『Fly or Die Fly or Die Fly or Die』
2023.09.06(水)CD Release

2022年8月22日39歳という若さで亡くなった、ダイナミックなジャズ・トランペット奏者/作曲家ジェイミー・ブランチによる、瑞々しく、壮大で、生命力に溢れた遺作となるアルバムが完成。メンバーには、チェリストのレスター・セントルイス、ベーシストのジェイソン・アジェミアン、ドラマーのチャド・テイラーが参加。

ジェイミー・ブランチが亡くなった時、彼女が率いたフライ・オア・ダイの新作はミキシングを残すのみで、ほぼ完成していた。遺族と共に完成までこぎ着けたこのアルバムは、デビュー作『Fly Or Die』から変わらないメンバーと制作されたが、その音は随分と遠いところへと我々を導く。パンク・ジャズのダイナミズムとノイズから、アフロ・カリビアンの陽気なポリリズムまでがここには刻まれている。かつてないほどにフィーチャーされているジェイミーのヴォーカルは、ハードコアとソウルの間を深く揺れ動く。美しいという形容こそが相応しいアルバムだ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

ミュージシャン:
jaimie branch – trumpet, voice, keyboard, percussion, happy apple
Lester St. Louis – cello, voice, flute, marimba, keyboard
Jason Ajemian – double bass, electric bass, voice, marimba
Chad Taylor – drums, mbira, timpani, bells, marimba

with special guests-
Nick Broste – trombone (on track 5 & 6)
Rob Frye – flute (track 5), bass clarinet (track 5, 6 & 7)
Akenya Seymour – voice (track 5)
Daniel Villarreal – conga and percussion (track 2, 5, 6 & 7)
Kuma Dog – voice (track 5)

[リリース情報]

アーティスト名:Jaimie Branch(ジェイミー・ブランチ)
アルバム名:Fly or Die Fly or Die Fly or Die

リリース日:2023年09月06日(水)
フォーマット:CD
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC109
価格:2,700円+税
販売リンク:
https://ringstokyo.lnk.to/WQEQcd

オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/jaimie-branch-fly-or-die-fly-or-die-fly-or-die-world-war/

DMBQ × NO BUSES - ele-king

 DMBQが各地のクアトロでおこなっている2マン企画「DMBQと…」シリーズの最新公演が決定した。今回は名古屋クアトロにて NO BUSES との2マン。独自の路線をひたすらに突き進む稀有な2バンドの競演は今回が初で、かなり珍しい組み合わせといえよう。チケットはチケットぴあ、e+、ローソンチケットなどで7月22日より発売予定。

公演情報:
「DMBQとNO BUSES」
9月20日(水)
名古屋クアトロ
開場18:45 開演19:30
チケット:前売¥4,000 当日¥5,000
お問合せ:名古屋クラブクアトロ
TEL.052-264-8212

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[7月20日追記] * NEW!!
 本日、新たに2公演の情報がアナウンスされた。梅田と渋谷の両クアトロでの開催で、前者ではドミコと、後者ではエンドンジム・オルーク石橋英子と競演する。これは豪華です。見逃せません。

公演情報:
「DMBQとドミコ」
10月5日(木)
梅田クアトロ
開場18:45 開演19:30
チケット:前売¥4,000 当日¥5,000
お問合せ:梅田クラブクアトロ
TEL.06-6315-8150

「DMBQ, ENDON, Jim O'Rourke & Eiko Ishibashi」
10月10日(火)
渋谷クアトロ
開場18:45 開演19:30
チケット:前売¥4,000 当日¥5,000
お問合せ:渋谷クラブクアトロ
TEL.03-3477-8750

Manja Ristić - ele-king

 音楽のはじまりが4万5千年前だとされているのは、ドイツ南西部のとある洞窟で発見された最古の楽器、としか解釈のしようがない人工的に穴が開けられた骨の推定年から来ていると、音楽学者のポール・グリフィスは書いているけれど、しかしながら、ジョン・ケージの “4分33秒” を真に受けて議論するなら、ホモ・サピエンスが誕生した数十万年前からそれ(音楽)はすでにそこにあったということになるわけだ。いや、だけどね、やっぱ音楽ってのは、ある明確な周波数や空気圧の振動が時間のなかで規則的/不規則的に発せられてこそそれを音楽と認識するのだろうし、だからこそ楽器ってものが発明されたんじゃないの。いや、違う、だからその考え方が間違っているとケージは言っているんだよ、いやいや、それは理屈だって。いやいや、そもそも音楽が記譜され制度化したことで云々かんぬん。このエリート主義め! なんだとこのわからず屋!(以下、2時間続いた)……この手の話を酔っ払った者同士がしてはいけないことは、もう何十年も前から知っていたというのに、最近またやってしまった。口論になり、そしてなだめ合い、まあこういう話ができるのも●●(名前が入る)だから嬉しいよ、などと憐憫めいたことを言っては、なにかのきっかけでふたたび口論になるという、ウロボロス状態が続くのであった。(はぁ〜、疲れた疲れた)

 フィールド・レコーディングというのは、そういう意味では、これが音楽か否かという疑問をつねに内包しながら、録音された自然音/環境音などを音楽として提示する面白いスタイル/ジャンルである。水の音を聴く。数十万年前のホモ・サピエンスも水の音を聴いていたことだろう。1686年の松尾芭蕉もそうだ——「古池や蛙飛び込む水の音」。しかしながらタイムマシンを使って17世紀の江戸の俳人に『Selected Ambient Works, Volume II』を聴かせようものなら、4万5千年前のドイツ南西部の洞窟のなかの笛を吹いている人たちの前でベートーヴェンの交響曲を聴かせようものなら、ぶったまげるどころの騒ぎではないだろう。人間の感受力、音楽を聴き取る能力は時代のなかで拡張されてきている。万博博覧会の時代では、ショトックハウゼンの演奏や電子音楽は人びとを不快にさせもしたというけれど、21世紀のいまならより多くの人が受け入れることができるのだ。ただ、4万5千年前の人類と1686年の松尾芭蕉と21世紀の我々とでは、水の音の聞こえ方は違っているのかもしれない。そして水の音は4万5千年前も現在も同じであって、しかしじつは局面においては同じではなくなっているのかもしれない。

 セルビア共和国のベオグラード出身で、旧ユーゴスラビアの女性作曲家リュビツァ・マリッチ(Ljubica Maric)から多大な影響を受けたマニャ・リスティッチは、クラシック音楽出身のヴァイオリン奏者であり詩人でありサウンド・エコロジストであり、いくつかの作品ではフィールド・レコーディングを多用している。彼女は、クロアチアの南アドリア海に浮かぶコルチュラ島——ぼくとしては美しい景色を思い浮かべるが、マニャに言わせれば、そこは「何世紀にもわたるヨーロッパの権力と資本の変遷を調査するのに最適な場所」で、「一種の辺境の歴史的中心地であり、比喩的に言えば、神に見捨てられた王国」——を拠点にアンビエント的感性の豊かな作品を制作している。去る4月、彼女がLAの〈LINE〉(アルヴァ・ノトやウィリアム・バシンスキーなどの作品で知られるレーベル)からリリースした『Awakenings(目覚め)』は、水の音のアルバムである。
 水……といっても、オーシャンブルーな海辺でもリゾート・ホテルのプールでも深い自然のなかの渓流でもない。廃墟となった旧ユーゴスラビア軍施設、古代の採石場、古代の水族館、村の水路などといった、彼女が暮らしている島のいろんな場所の(水の音というより)水中の音で、綺麗な水も綺麗ではない水もあって、快適さとはだいぶ違う。ほとんどの音は水中マイクによって録音されている。水中の音ばかりだが、曲によっては、壊れたピアノやおもちゃのシンセサイザーの音が重ねられている。とはいえアルバムは始終、水の音、ただただ水の音が鳴っている。彼女はそれを曲として編集し、並べて、1枚のアルバムにした。まずは、これを音楽として感受できるかどうか、試してみるのは一興である。このクソ暑いなか、涼しそうなアルバムを選んでいるように思われた方もいるかもしれないが、そういう意図はないのであります。

 2時間の口論に疲れた帰りの電車で、後味の悪さを少しでも解消しようとメールをしてみる。「まあ、本音で話し合えたってことで」「まだ言い足りない」「……」「今度会ったらボコボコにしてやる」「……」。そういえばマニャ・リスティッチは、ロンドンの俳句コミュニティ兼レーベルの〈Naviar Record〉から、俳句を主題としたアルバム『The Nightfall』(これも良い。ぜひご一聴あれ)を2018年にリリースしている。「俳句は、三行で構成される日本の伝統的で短い形式の詩です。俳句は、人生と自然についてのより深い考察につながる客観的な経験の瞬間についてのものです」——このような文言がレーベルのサイトには記されているのであるが、ジョン・ケージも俳句が好きだったし、芭蕉の俳句は録音こそされてはいないが、アンビエント的感性の表出であることは間違いない。閑さや岩にしみ入る蝉の声……を聴きに旅に出ようかな、マジで。

Overmono - ele-king

K まず1曲目にびっくりした。最近のポップスの模倣というかクリシェをやっているけれど、これはギャグなのか本気なのか。3曲目とか5曲目のヴォーカルもすごくいまっぽいから、本気かな。

W たしかに1、3、5曲とめっちゃポップスですね。でも言われるまで気づきませんでした(笑)。ぼくはこういう、UKのビートにいまっぽいポップスのヴォーカルが乗ることって、そこまでびっくりしないんですよね。

K 感じ方に世代の差が出たね(笑)。

W 世代差じゃないでしょ。

N なんでも世代差にしちゃいかんね。

W なぜなのか考えてみると……たとえば「planet rave」というスポティファイのプレイリストがあるんですが、これはいわゆるY2K的な視点から再定義したダンス・ミュージックを集めたプレイリストで……

K Y2K的な視点って? 2000年になるとコンピュータが1900年と勘違いして大変なことになるぞって騒がれたやつ?

W いや、00年ごろの音楽のリヴァイヴァルってことです。その代表とも言えるピンクパンサレスとかピリは、UK産のビートにめっちゃポップスのヴォーカルが乗っかってます。最近だと、エリカ・ド・カシエールが作曲に加わったニュー・ジーンズの新曲 “Super Shy” もビートが明らかにUKで、さすがにコレはびっくりしました。

K (ピンクパンサレス、ピリ、ニュー・ジーンズを聴いてみる)なるほど、00年ころっていわれてウーキーあたりを思い浮かべたけど、どちらかというとジャングルのリズムを崩した感じ、ジャングルのフィーリングが大きいね。万能初歩くんが好きなアイドルのニュー・ジーンズは検索するとやたらジャージー・クラブって出てくるけど、この曲はジャングルとUKガラージの部分のほうが強いように聞こえる。

W 自分はこういう曲もたくさん浴びている。なのでUKダンスの真打ちたるオーヴァーモノがいまのポップスのメロディをとりいれていることは、彼らがデビュー・アルバムを送り出すうえで、つまりより広いフィールドにかちこむうえでは自然なことだと映ったし、スッと入ってきましたね。

K インタヴューでオーヴァーモノの片方、トム・ラッセルが、最近聴いているのはアメリカのR&Bやポップスで、自覚的にUKのアンダーグラウンドからは距離をとったって言っていたけど、ぜんぜんUKらしい要素は入っているよね。現役のクラバーとしてはどう? 個人的には2曲目とか終盤の “Is U”、“So U Kno 2”、“Calling Out” とか、やっぱりUKガラージのリズムを聴かせてくれる曲がぐっとくるんだけど。

N 2000年代以降のUKは、インディ・ロックでもダンスでもUSのR&Bとヒップホップが大好き。ただ、その背後には依然としてジャングルがあって、これはいまでもほんと大きい。いまもっともイキの良いジャングルを聴きたければ Tim Reaper や彼のレーベル〈Future Retro〉をチェックするといいよ。オーヴァーモノはすでにポップ・フィールドにいるけど、活力あるアンダーグラウンドがその土台にはある。

W 偉そうな言い方になってしまいますが、まずハウスやテクノのDJがフルレングスでアルバム1枚分、カッコよく仕上げるのってすごく難しいことだと思ってます。でもそこを軽々と超えたオーヴァーモノはすげーなあと、いちリスナーとして素直に感じました。

N それはホントそうだね。

W インタヴューにもあるとおり、場所問わずまさに車で流せるような雰囲気もありますよね。ぼくは最後のスロウタイの使い方にしびれました。スロウタイをフィーチャーしたなら、そりゃもうディスクロージャー “My High” 的な、超ラジオ向けシングルをつくりたくなりそうなものですが、あくまでビートが主体でありつつ、きっちりヴォーカルも料理されてる(笑)。

K スロウタイ、5月にレイプ容疑で法廷に呼び出されていたけれど、その後どうなったんだろう。無罪を主張していて、裁判は来年に開始されるみたいだけど……事実だとしたらすごく残念だよね。

W そうですね……。他方で “So U Kno” は京都拠点の Stones Taro がリミックスしたり、まさにゴリゴリのバンガーですよね。

K この曲めちゃくちゃかっこいいよね。ダークさもありつつの、声のサンプルの反復に降参してしまう。

W だけど全体としてはクラブ・バンガーの12インチをただ寄せ集めただけという感じにはなってない。このシーソー感覚は不思議でした。このバランスにかんしてはジョイ・Oよりも好みかもしれない。あのミックステープは最高ですが、ちょっとだけアンセム感が物足りないと思っていたので。その点、オーヴァーモノはバッチリって感じでした。

K オーヴァーモノのもう片方、エド・ラッセルのテセラはチェックしていた? ぼくが最初に聴いたのは “Nancy's Pantry” (2013)で、といっても12インチで買ってたわけではなくて、〈ビート〉から出ていた〈R&S〉のコンピ『IOTDJPN』(2014)で聴いたんだけど、けっこうロウなブレイクビーツをやっている印象だった。オーヴァーモノも “BMW Track” (2021)とかはその延長線上に置ける曲だと思うけど、今回のアルバムはやっぱりだいぶポップさが増していると思う。ヴォーカル入りだからかな。UKらしく加工されてはいるけれど。

W テスラは正直、あまり積極的にはチェックしてなかったですね。「硬派」ってことばが出ましたけど、そこが自分的にあまりハマらなかった理由かもしれません。「ポップさ」「キャッチー」というのはすごく乱暴にまとめると、要はより開けた感じですよね。テセラの12インチから感じる硬派さは狭い空間で男たちが踊る汗臭さを感じます。だけど、今回のオーヴァーモノのサウンドは男も女もいる感じです。なぜかって考えたとき、やっぱりUKガラージ/2ステップはひとつのキーじゃないかと。サイモン・レイノルズが『WIRE』で、UKガラージでは「the girls love that tune(女の子たちがあの曲を気に入ってる)」が宣伝文句になるんだ、と指摘しています。その文句はテクノやドラムンベースだと基本的にディスになると(笑)。「たしかに」って思いました。男だけじゃなく、女性も含めて、いろんな人に開けてる音楽。

N それは偏見、テクノもジャングルも女性リスナー/クラバー多いって(笑)。

K ともあれ日本でもこういう素朴に良質なダンス・ミュージックがもっと市民権を得られるようになるといいな。

Hidefumi Toki Quartet - ele-king

Teruo Nakamura - ele-king

Bendik Giske - ele-king

 サックスの音がとにかく軋んでいる。古いドアを開けているような音。ギーギーと耳障りで世界が壊れていく気分。ノルウェイ(現ベルリン)のサキソフォン奏者によるソロ3作目は、パベル・ミリヤコフやローレル・ヘイローといった近年のコラボレーターとの作業が反映された様子もなく、基本的なフォーマットは5年前のデビュー・シングル “Adjust”に立ち返ったような7曲入りとなった。前作のようにダブやドローンと組み合わせることもなく、シンプルにサックスの演奏を聴かせるかたちで、オーヴァーダビングもなし。それこそ原点に戻ったという意味で自分の名前をアルバム・タイトルにした……のかなと。ミニマルの要素を強めて、前作『Cracks』のような物語性を回避し、一部だけを拡大する醍醐味。鎖骨を強調したアルバム・ジャケットはレヤ『Eyeline』の別カットみたいなテイストで、いわゆるクィア・アートを強調している。

 管楽器では圧倒的にトランペットが好みなので、これまでサックスの演奏に深く親しんできたとはとてもいえず、サックスがメインの曲で僕が忘れられない曲といえば(立花ハジメ『H』のようにサックスを別な楽器に置き換えると別な味が出そうな曲は除外して)アルトラボックス “Hiroshima Mon Amour”やフィリップ・グラス “Are Years What? (For Marianne Moore)”など数えるほどしか思い浮かばない。ベンディク・ギスケのサックスはそうした数少ない曲のどれにも似ていず、むしろエルモア・ジェームズのブルース・ギターなどを想起してしまう。気持ちよく吹くわけではなく、内面の葛藤が音に出るタイプ。でも、どうやらそういうことではないらしい。幼少期をインドネシアで過ごしたギスケはディジェリドゥーが身近にあり、それに慣れ親しんだせいで、現在のような吹き方になってしまったものらしい。内面ではなく、身体性に導かれた結果だと。

 とはいえ、今回はプロデューサーにベアトリス・ディロンが起用され、弾むようなテンポがこれまでとは一線を画す作風になっている(“Adjustt”はもっとダウンテンポの部類だった)。ウラ・シュトラウス “I Forgot To Take A Picture”を倍速にしているような曲が多く、いつものようにサックスが軋み、重く沈み込もうとしても、リズムが停滞を許さない。ディロンらしくトライバルな妙味を効かせたパーカッションが、おそらくはループされているせいで、サックスも一気には調子を変えようがないといった曲の進み方。ループ(多分)なので、グルーヴにも限界があり、ダンス・ミュージックにもインプロヴィゼ’ションにも着地しない。同じ方法論を繰り返すことでリズムに支配されない身体性を探り出そうとしているというか、“Rusht”ではテンポを変えていく試みなどもあり、J・リンのバレエ音楽『Autobiography (Music From Wayne McGregor's Autobiography)』に近いものが感じられる。そうか、観念的にはジュークへのアンサーなのか。オープニングからやたらとテンポが速いのはそのせいだったか。アカデミックな舞台に進出したジュークをフォローし、アコースティックに特化したかたちで発展させる試み。そう考えると個人的にはかなりすっきりする。久々にブラック・ミュージックとは異なる身体性の追求で面白い音楽を聴いたかもしれない。力任せに踊る世界ではあるけれど、そのことがまったく美しくないというわけではない。

“Startt”“Rise and Fallt”“Rusht”“Slippingt”と身体性を強く感じさせるタイトルに混ざって1曲だけ違和感を覚えるのが“Rhizomet”。ドゥルーズのアレだろうか。それとも単に「根っこ」という意味だろうか。このところツイッターが自滅していくのでよく考えることだけれど、ツイッターがダメになったのはイーロン・マスクがCEOになってからではなく、トレンドを表示するようになってからだったのではないかと。ツイッターというのはそれこそ根っこのようにあちこちに広がって誰と誰がつながっているのかよくわからなかったから情報がアナーキーな価値を持つことができたのに、多くの人が集まっている場所や話題を可視化してしまったことで、ドゥルーズのいう「ツリーからリゾームへ」を逆行し、旧来の情報システムと同じ凡庸なヒエラルキー思想に絡め取られてしまったのではないかと。ツイッターの利用者も自由な表現から情報のコマに格下げされてしまったというか。逆にいえば大多数がどこにいるのかを把握していないと権力というのはやはり不安なんだろうな(大衆自身も「権力」に含まれる)。まったくの余談でした。

 エンディングのみビートレスで、軋んだサックス音が地を這い、戦い済んで日が暮れていく感じでしょうか。ここだけはトランペット奏者のジョン・ハッセルが思い浮かぶ。

Mary Afi Usuah With The SES Cultural Centre Band - ele-king

ULTIMATES - ele-king

Cornelius - ele-king

 『Sensuous』から『Mellow Waves』までに11年がかかったことに比べると、6年というインターヴァルは短いように思える。しかも、その間には、2020年から現在に至るまでの新型コロナウイルス禍の3年が含まれてもいる。ともあれ、ここにコーネリアスの6年ぶりのニュー・アルバム『夢中夢 -Dream In Dream-』が、ついに届けられた。

 『夢中夢』は、コーネリアスのディスコグラフィの中で、独特の新鮮さを湛えている。たとえば、アルバム・タイトルが日本語なのは初めてだし、10曲中7曲には邦題が付されており、それらが英題より先に位置づけられている。
 今年5月21日、福岡の野外フェスティヴァル「CIRCLE ’23」に出演した直後、栗田善太郎によるインタヴュー(https://open.spotify.com/episode/4sxpkxvv0iJcLS9yZtlDku?si=288221ab8b864b83)を受けた小山田は、アルバムについて「多重世界的なイメージ」、「シンガーソングライター的なアプローチというか、自分で歌って歌詞も書いて、みたいな」、「今まであんまりやってこなかったんで。前回、坂本慎太郎くんに何曲か歌詞を書いてもらったりとかしてたんですけど、あんまり頼っちゃいけないなと思って」と語っている。『夢中夢』は、コーネリアス/小山田にとって、「シンガーソングライター的な」アルバムなのだ。
 坂本が歌詞を書いたのは、オープナーの “変わる消える – Change and Vanish” だけ。これはもともと mei ehara が歌ったシングルとして2022年に発表されたものだが、アルバムでは今年2月にリカットされた、キーを落として小山田自身が歌ったものになっている。これ以降、『夢中夢』では、自作自演的な、ある意味でパーソナルで内面的な世界が広がっていく。
 それゆえに、どこか他者の介入を退け、あるいは他者を恐れているかのようにも見える『夢中夢』は、「夢の中の夢」にトラップされたがための自己完結性や閉鎖性──複層化された夢の中であがくクリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』を思い出させなくもない──に特徴づけられている。そういえば、『Mellow Waves』には “夢の中で” という曲があったが、『夢中夢』に収められている曲は、あのかわいらしいポップ・ソングよりも、かなり深く遠い世界にさ迷いこんでしまっているようだ。
 歌ものに傾倒した『Mellow Waves』よりもインストゥルメンタルの比重が再び増え、3曲(“TOO PURE”、“NIGHT HERON”、“霧中夢 – Dream in the Mist”)も含まれている。そして、そういった点は、たしかにあの『Point』や『Sensuous』の透徹した世界への回帰のようでもある。

 けれども、『夢中夢』は、聴き手を退けることはない。『Point』や『Sensuous』よりもっとずっと親しみやすくて不思議と温かい、歌のアルバムでもあるからだ。コーネリアスがこれまでに築き上げてきたサウンド・ヴォキャブラリーを用いたシンプルなポップ・ソング集、と呼んでもいいようなレコードかもしれない。ブライアン・イーノがその長いキャリアにおいて何度か歌に回帰してきたように、ここには明瞭で起伏に富んだ旋律があり、いつになく雄弁なギターがあり、アブストラクトでアンビエント的に浮遊する電子音に彩られながらもポップ・ソングらしい構造があり、そして何よりも叙情的な言葉がある。
 なかでも “火花 – Sparks” は、コーネリアス/小山田の告白のような曲に聞こえる。90年代のインタヴューでの発言をめぐって過去の出来事と行動、さらには自身が発した言葉を否が応でも振り返り、向き合わざるをえなかった2021年以降の苦悩の時間が、「火花」には直接的に表れているように思えるのだ。「過ぎてった 瞬間が/突然に 蘇る/脳の中 消去した/思い出が 顔出す」。極限まで削ぎ落とされた言葉であるにもかかわらず、そこにはコーネリアスというペルソナが剥がれた小山田圭吾という個人の顔が、はっきりと、生々しいほどに、剥き出しのままで映りこんでいるのではないだろうか。しかし、これについて小山田は、本誌のインタヴューで「でもね、騒動のことを考えて書いた歌詞は、じつはそんなにないんです。“火花” も、古い曲で、もっと前に書いていたんですよ。ただ、いま読むとそのことを歌っているようにしか思えないと思うんですけど……じつはそういうわけでもないんです」と明言している。
 とはいえ、『夢中夢』は、やはりとても叙情的なアルバムである。まったりとした微温のメランコリアが充満していて、けっして明るくはないものの、エモーショナルであることには変わりない。それがもっとも顕著なのは、METAFIVE の曲を再演した “環境と心理 – Environmental” だろう。ここでは、時間の経過と風景や景色の変化にともなって気分が前向きになっていく、という心情の遷移が描写されている。コーネリアスらしからぬ、あまりにも素朴な、主情主義的な詞だ。
 言葉を即物的に扱い、音と響きへ極度に還元していった『Point』や『Sensuous』のようなアプローチも、たとえば “DRIFTS” にはある。しかし、そこで歌われる言葉は、「気配 匂い/空気 香り」、「糸口 ヒント」、「手がかり 暗示/含意 想い」、「感情 感触/浸透 伝達/伝搬 残像」といった、心情や感情に強く結びついたものだ。“DRIFTS” からは、“火花” のリリックと地続きの感覚や、ソーシャル・メディアのよどみとうねりに翻弄される心理的なイメージが、どうしても浮かび上がってきてしまう。

 『夢中夢』が最後に流れつくのは、“無常の世界 – All Things Must Pass” という優しいポップ・ナンバーである。しかし、ここでも短い詞が多くのことを語っている。「誕生 消滅/繁栄 衰退」、「地水火風空/諸行無常/始まり 終わり/繋がり 巡り」。まるで『平家物語』である。
 そういえば、前作『Mellow Waves』をめぐるインタヴューで、小山田はこんなことを話していた。

──「いつか / どこか」は小山田さんの作詞ですが、坂本さんの歌詞の世界に通じるものがありますね。穏やかな虚無感というか。

「結局、みんな死んじゃう」みたいな(笑)。

──坂本さんが書いた次の曲「未来の人へ」に通じる世界です。

坂本くんも僕と同世代だし、お互い中年感が深まってる感じ(笑)。去年、デヴィッド・ボウイとかプリンスとか子供の頃に憧れてた人が死んだりしたし、この歳になったら身の回りの人が死んだり病気になったりすることが多くなってくるじゃない? そういう感じが歌詞に出てるよね。遠くのほうに死が見えてきちゃったみたいな。

──世界が終わるとかじゃなくて、自分の体が滅びていくという実感が。

うん。そういうリアルな感覚。だんだん目が見えなくなってきたとか。

Cornelius「Mellow Waves」インタビュー|10年半ぶりのアルバムをより深く楽しむためのサブテキスト(音楽ナタリー) https://natalie.mu/music/pp/cornelius06

 前作に続いて『夢中夢』には、こういった実感が確実に反映されている。
 この世界に存在するものは、なにもかも変化を逃れることはできず、いつしか過ぎ去っていく。ひとはいまこの瞬間も老い、死に向かっていっているし、それに抗うことはできない。仏教的な諦観や不可逆性が『夢中夢』にはたしかにあるが、それが不思議と心地よいような、奇妙で柔らかいリラックスしたムードがある。

 『Point』や『Sensuous』には、どこにもないポップ・ミュージックの未来のようなものがあった。しかし、『夢中夢』にあるのは、20世紀的な革新性と前衛性、一方向的な進化というよりも、そんなものにまるで拘泥していない達観のようなものである。夢の中の夢に閉じこめられ、そこでまどろみ、その外側で移ろいゆくひとやものを他人事として眺めているような。
 “蜃気楼 – Mirage” には、『Fantasma』の “Star Fruits Surf Rider” へのセルフ・オマージュがサプライズとして仕込まれている。それは、単なる自己言及というよりも、多重化され入れ子状になって圧縮された時間や空間の表出のようだ。フランキー・ナックルズの “The Whistle Song” を彷彿とさせる夢見心地の “時間の外で – Out of Time” は、とりわけ象徴的である。なぜなら、ここでは、過去・現在・未来のちがいが存在しない、人間の一般的な認知の外にあるループ量子重力理論的な世界観が奏でられているからだ。
 “火花” のミュージック・ビデオについて、小山田はこうも語っている。「まあ、100年後とか、一連の出来事が忘れ去られたとき、あれを観ていまとはまた別の解釈ができるんだったらそれはそれでいいのかな、と」。現在という時間の外へ出て、過去を飛び越え、あるいは未来の人へ。
 死と不在がこだまし、20世紀的なるものの終わりが、いよいよ突きつけられている。『夢中夢』は、そんな無力感に満ちた気怠い2023年のサウンドトラックとしてこのうえ上ない、あらゆるものの外にあるポップ・レコードだ。

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