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Erika de Casier

R&B

Erika de Casier

Essentials

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木津 毅、高橋勇人   Dec 30,2019 UP
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 時節柄2010年代の振り返りをすることが最近多いのだけれど、ことメインストリームとアンダーグラウンドの間のグラデーションのなかでは、R&Bがきわめて重要な働きを務めた10年だったのだと思う。たとえばジェイムス・ブレイクのファースト(11)はリリース当初R&Bと呼ぶか否かという議論が巻き起こったわけだが、あのアルバムから派生したものがこの10年のR&Bの流れのひとつを作ったことは間違いないし、その音響意識が他ジャンルにまで波及したことは(ジャンル・ミックスの10年と言われたことも相まって、)「Quiet Wave」なるタームが指し示すものから考えても、そう見当違いでもないはずだ。僕たちは昨年ティルザのアルバムを愛聴したし、(メインストリームではやや難解だと受け止められたようだが)ソランジュの新作のアンビエンスにも身を浸した。そしていま、どこかそれらの反響音のようにやって来たデンマークはコペンハーゲンのシンガー、エリカ・ド・カシエールの囁く声に耳を傾けている。

 まずオープニング “The Flow” のくぐもった音響のなかで茫洋と広がっていく歌を聴くだけで、いまの音だなと直感する。残響音を極小まで鳴らして消えるパーカッション。さりげないオリエンタルな意匠。音の面ではデンマークのハウス・シーンで浮上したセントラルとその弟DJスポーツがプロデュースを務めており、ビートのルースさなどにローファイな感覚をやや残しつつも、細部のタッチにこそ意識が向いたものとなっている。エリカ本人もプロデュースとソングライティングでかなりの部分で参加しているようで、自分のアンニュイな声がどういう響きと合うかよくわかっているということだろう。とにかくアトモスフェリックな、とろけるようなサウンドに包まれるR&Bだ。10年代なかごろならアンビエントR&Bと呼ばれていただろうが、いまだとやはりこれも「Quiet Wave」になるのだろうか。
 ただ、“Do My Thing” や “Little Bit” などに顕著だが、歌自体には独立した主張や起伏があり、それこそティルザのようにサウンドにヴォーカル全体が溺れていく感覚はあまりない。そこは彼女がアリーヤやデスティニーズ・チャイルドなど90年代(~00年代前半)R&Bのビッグ・スターたちに強い影響を受けていることが関係していると思われるが、歌い上げはしないものの、やや粘っこくシンコペートするメロディ・ラインはたしかに「あの時代」のディーヴァたちの影を思わせる。“What U Wanna Do?” なんかは、90年代のUSヒット・チャートが10年代の音響を経て蘇ったようだし。だからこのアルバムの脇の片方にはソランジュのように現代的な音響のR&Bを置くべきだとは思うのだけれど、もう片方には90年代R&Bの王道を堂々とやって大ヒットしたエラ・メイ辺りを置いてもいいと思う。『Essentials』からは、つまり、ベッドルームのテレビに映っていたアメリカのR&Bに憧れた少女の「夢」が聞こえてくる。

 アルバムは “Story of My Life” で、そんなかつての「少女」の秘密をそっと差し出すように、パーソナルな物語が綴られて終わっていく。そこで、彼女の声はどこか幼さを覗かせる。“Little Bit” や “Intimate” というタイトルにも如実に表れているが、そうした90年代へのノスタルジーをあくまでも小さなもの、個人的なものとして愛でる感性がこのアルバムにはある。『Essentials』というタイトルはデビュー作に対する自身の表れでもあるだろうが、音楽の喜びの「本質」が彼女にとってどこにあるかを仄めかすようでもある。そう、どこまでも甘美な音の記憶の海に……。

木津毅

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