「P」と一致するもの

Fennesz - ele-king

 嬉しいニュースが飛び込んできた。2001年に発表されたあまりにも美しい『Endless Summer』で、その後のエレクトロニカ~アンビエントの流れに大きな影響を与えたフェネス。以降もあまたの良作を送りだし、数えきれぬほどのコラボを試みてきた彼が、ソロ名義としてはじつに5年ぶりとなるニュー・アルバム『Agora』をリリースする。3月27日、日本先行発売。現在アルバムのダイジェスト音源が公開中だが……これは名作の予感がひしひし! なお、今回の新作にあわせて旧譜3タイトルもスペシャル・プライスにて再発されるとのこと。詳細は下記をチェック。

フェネス(Fennesz)ことクリスチャン・フェネス、5年ぶりのニュー・アルバム、3月27日、日本先行発売!

フェネスことクリスチャン・フェネス、途方もなく感動的な傑作『ベーチュ』(2014年)以来5年ぶりとなるニュー・アルバム! エレクトロニック・ミュージックを革新させつづけてきたフェネスがまたしても新たな地平を切り拓く!

■2001年にオーストリアの電子音響レーベル、〈ミゴ〉からリリースした今や絶対的名盤との誉れ高いアルバム『エンドレス・サマー』で一躍、その名前と評価を揺るぎないものにしたフェネスことクリスチャン・フェネス。その後、デイヴィッド・シルヴィアンや坂本龍一、YMO、大友良英、Sachiko M、中村としまるからスパークルホースやマイク・パットンにいたるまで、多岐に渡るアーティストとコラボレート/ライヴ演奏してきた彼が、古巣の旧〈ミゴ〉、現〈エディションズ・ミゴ〉から発表した通算第6作『ベーチュ』(2014年)以来5年ぶりにリリースするニュー・アルバム。
■英〈タッチ〉からのリリースとなるフェネスの通算第7作『アゴーラ』(ポルトガル語で「今」の意。古代ギリシャ語で「広場」「市場」といった意味もある)。フェネスは本作において、またしてもデジタル・ミュージックの新たな領域を開拓している。ここにはフェネスのすべてがある。グリッチ・ノイズ、アンビエント・ドローン、大胆に加工されたギター、ラディカリズム、ロマンティシズム、センチメンタリズム、ポップネス……。それらが比類なきセンスとバランス感覚をもって大胆かつ繊細に混合、編集され、圧倒的なまでに美しい音世界を構築している。おそろしく純度の高い音の粒子が渦を巻き、変調されたギターと交錯し、誰も聴いたことがないサウンドスケープを表出する。名状しがたい感動が押し寄せてくる。
■本作はフェネスの最高傑作である。

フェネスは語る。「単純な話なんだ。ちゃんとした作業ができるスタジオを一時的に失ってしまって、すべての機材を自宅の狭いベッドルームに移動しなくてはならなくなったんだ。そこでこのアルバムを録音したんだ。すべてヘッドフォンで作ったんだよ。最初はかなりフラストレーションがたまる状況だったんだけど、その後、1990年代にはじめてレコードを作った頃に戻ったように感じられたんだ。結局のところ、刺激的だった。ほんの少しの機材しか使ってないんだよ。自由にできるすべての機材や楽器を接続する勇気すら持てなかった。手元にあったものだけ使ったんだ」

以下にてアルバムの4曲をメドレーで試聴できます。
https://fenneszreleases.bandcamp.com/track/umbrella

フェネスはギターとコンピューターを使用して、広大かつ複雑な音楽性を持った、揺らめき、渦を巻くような電子音をクリエイトしている。「想像してほしい。エレクトリック・ギターがクリシェやそのあらゆる物質的な限界から切り離され、新しく大胆な音楽的言語を形作るさまを」(米シティ新聞)。彼の瑞々しく光り輝く楽曲は、けっして無菌のコンピューター実験のようなものではない。それらはむしろ、肉眼では見えないような熱帯雨林の昆虫の生活や、大気の自然現象、そして固有の自然主義がそれぞれの曲に浸透するさまを観察した繊細な記録に似ている。

www.fennesz.com

ARTIST: FENNESZ
Title: Agora
アーティスト:フェネス
タイトル:アゴーラ
レーベル:Pヴァイン
商品番号:PCD-25273
フォーマット:CD
価格:定価:¥2,500+税
発売日:2019年3月27日(水)
日本盤のみのボーナス・トラック1曲収録
日本先行発売

Track listing:
1. In My Room (12:28)
2. Rainfall (11:58)
3. Agora (12:09)
4. We Trigger the Sun (10:29)
5. Domicile* (6:38)

*Bonus Track

Recorded at Kaiserstudios, Vienna, August, September 2018
Rainfall: Vocals Katharina Caecilia Fennesz
Agora: Field recordings Manfred Neuwirth, vocals Mira Waldmann
Mastered by Denis Blackham @ Skye
Photography & design by Jon Wozencroft

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フェネスことクリスチャン・フェネス、約5年ぶりのニュー・アルバムのリリースを祝し、彼が〈ミゴ〉~〈エディションズ・ミゴ〉から発表した旧作3枚を期間生産限定のスペシャル・プライスにて同時発売!

ARTIST: FENNESZ
Title: Hotel Paral.lel
アーティスト:フェネス
タイトル:ホテル・パラレル~デラックス・エディション
レーベル:Pヴァイン
商品番号:PCD-18856
フォーマット:CD
価格:定価:¥1,850+税
発売日:2019年3月27日(水)
日本盤のみのボーナス・トラック1曲収録
初回限定生産

フェネスが1997年にリリースした記念すべきファースト・アルバムのデラックス・エディション(2007年)。

ARTIST: FENNESZ
Title: Endless Summer
アーティスト:フェネス
タイトル:エンドレス・サマー~デラックス・エディション
レーベル:Pヴァイン
商品番号:PCD-18857
フォーマット:CD
価格:定価:¥1,850+税
発売日:2019年3月27日(水)
日本盤のみのボーナス・トラック1曲収録
初回限定生産

フェネスが2001年にリリースした絶対的名盤『エンドレス・サマー』のデラックス・エディション(2006年)。

ARTIST: FENNESZ
Title: Bécs
アーティスト:フェネス
タイトル:ベーチュ
レーベル:Pヴァイン
商品番号:PCD-18858
フォーマット:CD
価格:定価:¥1,850+税
発売日:2019年3月27日(水)
日本盤のみのボーナス・トラック1曲収録
初回限定生産

フェネスの名を決定的なものにしたエポックメイキング作『エンドレス・サマー』(2001年)の流れを汲む大傑作(2014年)。

Jeff Tweedy - ele-king

 オルタナティヴという言葉はある時期まで、なにか真新しいものを指す響きを伴っていたはずだ。日本では「オルタナ」といえばイコールで(ある程度狭い範囲の)オルタナティヴ・ロックを指す時代もあった。主流派や多数派の主張、ロック・スターやその物語を崇めるだけでは感じることのないできない何か……いまでは言葉自体の新鮮さは失われ、オルタナと言えば右派の冠となって(alt-right)もっとも話題になっているようである。リベラリズムにネオがついて別の価値観を提示するようになったように、オルタナティヴもまた行き場所を失っているのだろうか。
 とはいえいま、だからこそと言うべきなのか、「オルタナ」は懸命に回顧されている。ライオット・ガールをはじめとした90年代の女性たちによるロック・ミュージックが再評価されるのは時流を考えれば当然のことだし、スネイル・メイル、コートニー・バーネット、ジュリアン・ベイカーといった現在脚光を浴びる「オルタナティヴ・ロック」の新世代のアイコンが非ヘテロの女性というのも象徴的だ。ビキニ・キルの再結成も、スリーター・キニーの新曲をセイント・ヴィンセントがプロデュースしているというのもいいニュースだと思う。いま、「なにか真新しいもの」は圧倒的に女性の表現だ。

 では男たちはどうだろうか。天野龍太郎くんには年末の紙エレキングのコラムで「木津はいま一番生きにくいのは白人男性だと言っている」と書かれてしまったが――いや実際に言っているのだが――、もう少し正確に言うとそれは白人ヘテロ男性で、具体的な経済的・政治的なことではなく、なんと言うか、発言力や表現の説得力のようなものを指している。いわゆるトキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)を男性側から糾弾したジレットのCM(https://youtu.be/koPmuEyP3a0)がいま海外では凄まじい議論になっているが(日本であまり話題になっていないのはなぜ?)、彼らヘテロ男性たちの肩身の狭さを見る想いがして何とも言えない気持ちになってしまった。
 かつて「オルタナ」だった男たちもすっかり中年になり、もはや新しくも何ともない。しかし……結論から言えば、ジェフ・トゥイーディとJ・マスシスというオルタナ中年男のソロ・アルバムがなんとも沁みるものがあるのである。それは多分にノスタルジーもふんだんに含みつつも、彼らの現在を懸けて鳴らされていることが伝わってくるからだ。

 どちらも飾り気のないフォーク・ロック・アルバムだ。ウィルコのフロントマンであるジェフ・トゥイーディの『ウォーム』ではドラムのグレン・コッチェや息子のスペンサーなどお馴染みのメンバーを招きつつ、お馴染みの彼の歌がパーソナルに展開する。フォーク/カントリー、いくつかのパワー・ポップ、ほのかなエレクトロニカやアンビエントの音響。90年代末から00年代頭にかける頃のウィルコの音のドラスティックな進化はすでに過去に得た語彙のひとつとなり、着古したシャツのように全体の一部として馴染んでいる。鳴りのいいギターを殊更強調するわけでもなく、かといって無理に加工したりしない率直さ・素朴さはキャリアの長さを思えばじつはすごいことのようにも思えるし、ジェフの声もメロディもいまふと沸いて降りてきたような親密さがある。
 キャッチーで軽やかなフォーク・チューンである“Some Birds”や“Don't Forget”も彼らしいチャーミングな曲だが、ラスト2曲にこのアルバムの良さがよく表れているように感じる。ビターなメロディと余韻を残すギターが重なる“Warm (When The Sun Has Died)”では「僕は天国のことを信じない」と老いや死についての内省が弱々しく呟かれ、力の抜けきったダウンテンポ・フォーク“How Will I Find You?”では「どうすれば君を見つけられるだろう? わからない」と繰り返す。僕には「You」が生きる目的やゴールを指しているように聞こえる。彼は天命を知るはずの50を過ぎてなお、途方に暮れる自分を包み隠そうとしない。

 ダイナソーJr.のマスターマインド=J・マスシスの『エラスティック・デイズ』もまた、オープニングの“See You At The Movies”のあまりにも瑞々しいギターのイントロの時点でハッとするものがある。よく歌うエレキのソロと、90年代の青春映画に一気にタイムスリップするような甘酸っぱいメロディ……「映画のなかで会おう」。だがそれは、彼が向き合い続けたロック・サウンドの蓄積でこそ実現しているのだとわかる。マスシスはここでギターだけでなくほとんどの楽器を自分でこなし、おそらく過去最高に親しみやすくパーソナルな一枚を作り上げた。ダイナソーJr.のギター・ノイズではなく、アコギを主体とした演奏はあくまで優しい。ほとんど3分台のナンバーがズラッと並び、エモの復権を象徴するように情熱的なギターの演奏が次々に現れては去っていく。ドラマティックなコントラストを持つ“Give It Off”、激しさを内包しながら疾走する“Cut Stranger”、叙情的アコースティック・サウンドで聴かせる“Sometimes”……思春期の少年たちの偶像劇のようでありながら、しかしこれはあくまで若くない男の内部にある柔らかい部分の表出である。
 何かと奇人とか変人とか言われるJだが、それは「普通」に器用に生きられるひとたちが見落としている何かが彼には見えているからだろうし、この飾り気のないソロ・アルバムを聴いていると、彼のほうこそその瞬間瞬間を生きているのだろうと思わされる。それが「オルタナ」なのだろうと。

 ふたりがまだ真新しかった頃を僕はリアルタイムで知らないので「いい年の取り方をしている」なんて偉そうなことは言えないのだけど、オルタナティヴとして年を重ねることの困難と勇敢さを感じることはできる。20年以上前に壁に貼ったライヴのポスターは剥がれてしまったし、誰かにもらったお気に入りのミックステープもなくしてしまった。だが、もう入らなくなってしまったTシャツとジーンズを棚から引っ張り出さなくても、30年以上弾き続けてきたギターを鳴らすことでふたりのJは僕たちをいまもビターでスウィートな気持ちにしてくれる。

TINY POPというあらたな可能性 - ele-king

 2018年、私は新しいポップスの気配を感じながら過ごしていました。明確にポップス構造を持った、しかし小さくささやかな音楽が生まれつつあるようです。何年か前に“あたらしいシティポップ"などと言われた音楽は、どうしてもフォークやロック的な価値観がそこにありましたが、インターネット以降に音楽を始めた世代の人たちはギター・ミュージックに迂回することなく直接ポップスに接続し、それを手元のプラグインで再現しています。ポップスを獲得して手元に置いておくささやかな喜び。表面的な粗さ、ローファイさ、デモっぽさはありますが、それすら魅惑的に思える曲たちを、ここではTINY POPと呼んでいくつか紹介させていただきます。


1.mukuchi – 冷蔵庫


mukuchiは兵庫県北部の日本海側沿岸にある漁村で1人音楽を作っている女性宅録ミュージシャン。
Teenage Engineering POシリーズ、KORG VOLCA-KEYSなどのガジェット系シンセを駆使して作られたこのトラックの隙間から普遍的なポップスが立ち上がるのが見えませんか。毎回1小節だけ挿入される聞き慣れない転調にも驚かされる。


2.NNMIE – 風は吹いていた方がいい


NNMIEは山形出身のミュージシャン。2011年からインターネット上に曲をアップし始め、彼の影響で音楽を始めたと公言する人も多い。2017年に入ってから東京でもライブ活動を始めている。この男女のユニゾンで歌われるメロディは2018年耳にしたもので最も美しいものの1つだった。


3. ゆめであいましょう - odayakani hisoyakani


ゆめであいましょうは5人のバンド編成では日本のフォークやサイケの影響を感じさせる演奏をするが、この打ち込み80年代歌謡の路線は現世を生きている人とは思えない歌詞とメロディだ。完全に構造を把握して作曲しているのがうかがえる。中心人物の宮嶋さんはヤマハのポプコンに出場するのが目標と言っていたがやはり現世を生きているとは思えない。女性ボーカルのJ-POP的な上昇志向とは無縁の真っ直ぐな歌声(これもJ-POP的な声の評価で使い古されている表現だがまさに)も本当に素晴らしい。2019年はこの打ち込み80s路線の音源を作るらしいので期待です。


4. どろうみ - 花よ花よ


どろうみは日本のオルタナティブフォークの伝統を受け継ぐユニットで、現在はボーカル・ギター・チェロ・アコーディオンの4人で活動している。この曲は天童よしみに歌わせるつもりで作ったとコメント欄にあるように演歌の構造を手元にトレースすることに成功している。関係ないが先日浅草の宮田レコード(演歌の営業・インストアライブでも有名な老舗レコード屋)に久しぶりに立ち寄った際、店内を見回してもまだ新譜を7インチで出すという文化は演歌界には届いていないことがわかった。インディー演歌という理論上は存在するジャンルのこの曲をレコードにしてどろうみのポスターと一緒に店頭に並べることは可能だろうか?


5. onett - 干されてもいい


onettは埼玉の宅録ミュージシャン。この曲は彼の代表曲ではないかもしれないが筆者の心に刺さり2018年の前半によく家で口ずさんでいました。エルヴィスコステロ、そして"日本のエルヴィスコステロ"の構造を譜割りから音色まで抽出することによって明らかにし、そこに平易な歌詞が載る(いきなり拙者という言葉が飛び込んでくると驚いてしまいますね)。この曲から、ポップスの構造把握には移入とは別にまだまだ可能性があると気づかされました。


6. アフリカレーヨン – 上海で逢いましょう


アフリカレーヨンはボーカルを担当するmimippiiiと作曲を手がけるmikkatororoのユニット。現在は活動を休止している。
ボーカルのmimippiiiも80年代初期グループアイドルを彷彿とさせるような曲を作る優れたソングライターだが彼女の楽曲は現在全て非公開になっている。(ナイーブさを持った作家の人も多いので曲がアップされたらすぐ聴かないと!という気になってしまいます。) mikkatororoが作詞作曲を手がけたこの曲はアフリカレーヨンが残した全6曲の中の最高傑作で、このまま他のシンガーが歌ってヒットになってしまってもおかしくないくらいのクオリティだ。活動再開としかるべき形でのリリースを期待したい。


7. Maho Littlebear – リスボンの夏


シンガー・トラックメイカーのMaho Littlebearは現在は京都からドイツ・フランクフルトに拠点を移して活動中。硬質なビートに自身のボーカルが乗るトラックが多数soundcloudに公開されているが、3年前のこの曲は趣を異にしている。これはリスボンへの郷愁を歌ったもので、ここで発せられるカリプソのパルスからは80年代後半のワールドミュージックブーム(トレンディエスノ by anòuta)を取り入れた日本のポップス(早瀬優香子、ANNA
BANANA、戸川京子、岩本千春の91年コンピレーション”World Beat Beauty”が有名)が偶然か聴こえてこないだろうか。


8. にゃにゃんがプー - おねむのくに


モバイル版GarageBandで制作したオケにチャイルディッシュなボーカルを載せるスタイルで"ニュー餅太郎(2015)"という名曲とともに世に登場したにゃにゃんがプー。その音色から日本のニューウェーブやテクノポップの文脈で語られることが多いが、一昨年に出たこの曲のイントロや間奏への転調、音色を使い分け交わされるインタープレイなどを改めて聴くとlate 80s歌謡を現代にトレースした最良の曲の1つだという確信をもった。今年アルバムが出るらしいので期待したい。


9. mori_de_kurasu – MIMOCA


“森で暮らす”氏はジャズスタンダードを素材にしたサックスの多重録音やジャズクラブでの演奏にも取り組むアルトサックス奏者。この曲はシンセを使ったフュージョン調でここ数年のVaporwaveやフュージョン再評価の流れに沿ったものではあるがジャズプレイヤー側から出てきたのは悲願というかやっと来たか!と唸ってしまいました。ジャズ出身の人でこの価値観をsoundcloudでやる人が出て来てほしいと思っていた人も多いだろう。サックスの音色が素晴らしい!今後の活動にも注目です。


10.Utsuro Spark – シーサイド


 Utsuro SparkはPIPPI・コロッケ・土萠めざめの3人によるユニット。昨年各所で話題になったネットレーベルLocal Visionsから出たEPは私の2018年ベストチャート1位でした。声・作曲・編曲全て素晴らしい。どの曲もアイデアがありながらオーセンティックな響きを持っているがこの曲だけ一聴しても異様で、様々なポップスの記憶に引っ張られそうになりながらもそれを裏切り続けて進むコード進行が素晴らしい。PIPPI氏は "最近もう「明日からアマチュアの曲しか聴けない」という制約を受けても余裕だと思えるな。音楽が商業化して大資本が管理してた時代が一段落して個人個人のもとに戻ってきたように思える"とツイートしていたがそれこそTINY POPの思想そのものです。


11. wai wai music resort - 夜の思惑〜Last Bolero


waiwai music resort は作曲と演奏を担当するエブリデと歌のLisaによる兄妹ユニット。ここ数年、日本でも起きているキューバのフィーリン再評価によってボレロという言葉がポジティブに響く時代になっているが、その反射がTINY POPS界にも届いている。この曲はそのボレロのリズムに乗って螺旋状に上昇していくブラジル寄りのメロディが素晴らしい。


12. feather shuttles forever - 提案 to be continued edit (feat. Tenma Tenma, kyooo, 粟国智彦, 入江陽,SNJO, 西海マリ)


 feather shuttles forever はhikaru yamadaと西海マリによるユニット。この曲は関西を代表する90年代シティポップディガーのinudogmask
aka.台車によるmix(https://soundcloud.com/inudogmask/inudogmask) にインスパイアされて書きました。多数のゲストを迎えたTINY POPSのチャリティーソング。2人でメロディを書き分けているので一度もループしないのが特徴です。


この他にも自薦・他薦に関わらずこれこそtiny popだと思うものがあったら連絡ください。ぜひ紹介させてもらいたいしリリースの手伝いなどもやります。

Merzbow - ele-king

 ノイズ/ミュージックとは物体の持つ「声」の残滓だ。いまは/いまも存在しない「声」でもある。発したモノがなにものかわからない「声」。しかし、その「声」は、かつて確かに世界に響いていた。音、音として。どんなに小さく、どんなに儚くとも、その「声」は世界に対して轟音のような己の意志を発する。そのようないまは消え去ってしまった「声」のすべてを蘇生すること。「声」とは存在や物体すべてが有している音でもある。「声」とは音だ。となれば刹那に消え去ってしまった「声」は「最後の音楽」といえないか。音。その音は小さく、しかし大きい。存在と幽霊。蘇生と爆音。となればノイズ/ミュージックとは「声」=音の存在を拡張する方法論だ。いまここでは幽霊になってしまった最後の「声」=音たちの蘇生の儀式なのである。

 メルツバウの新作『Monoakuma』を聴きながら、改めてそのようなことを思ってしまった。なんと想像力を刺激するアルバム・タイトルだろうか。「モノアクマ」。具体と抽象が同時並走するようなこの言葉は、先のノイズ/ミュージックというマテリアルな「音楽」の本質を見事に掴んでいるようにも思える。まず、このティザー映像を観て頂きたい。

 まるで黒い幽霊の「声」と「影」のごとき映像は、まさに「モノアクマ」ではないか。「モノアクマ」の発する「最後の音楽」としてのノイズ(の断片)。この感覚は、本作だけに留まらない。私は、メルツバウのノイズを聴いていると、いつも「最後の音楽」という言葉が頭を過ってしまうのだ。音楽から轟音/ノイズが生まれ、やがて音楽はノイズに浸食され、融解し、そのノイズの中にすべて消失し、やがて終わる。消失直前の咆哮のごとき「最後の音楽」。
 だが重要なことは、「最後の音楽」である以上、「最初の音楽」もあったという点である。その「最初の音楽」とはキング・クリムゾンの『アースバウンド』かもしれないし、ピンク・フロイドの70年代の演奏かもしれないし、ジミ・ヘンドリックスかもしれない。もしくはサン・ラーかもしれないし、ブラック・サバスかもしれない。あるいはデレク・ベイリーなどのフリー・インプロヴィゼーションかもしれないし、ヤニス・クセナキスなどの現代音楽/電子音楽かもしれない。
 しかしここで重要なことは、それぞれの固有名詞「だけ」ではない。メルツバウにとって「最初の音楽」が「複数の存在」であったことが重要なのだ。複数性からの始まりとでもいうべきか。ノイズという原初の音の中に複数の音楽聴取の記憶が融解し、生成変化を遂げている。いわばノイズ/ミュージックとは、千と一の交錯であり、音の記憶の結晶であり残滓なのだ。
 そこにマイクロフォンによる極小の音から最大への拡張があったことも重要である。マイクロフォンで音を拾い、拡張し、どんな小さな音も轟音へと変化させること。メルツバウがその活動最初期に掲げていた「マテリアル・アクション」は、そういったノイズの原初の音響を示していた。

 つまり、メルツバウというノイズ・プロジェクトは、その活動最初期から三段階の進化を一気に得ることでスタートしたといえる。まず、ロックやフリージャズ、現代音楽などの音楽の記憶、ついでマイクロフォンによる音の拡張、そしてそれらの意識/手法の融合としてのノイズ/ミュージックの生成。となると2010年代のメルツバウは、その進化の最先端/最前衛に位置しているともいえる。
 じじつ10年代のメルツバウは、まるで巨大なノイズの奔流と微細な神経組織が交錯するようなノイズ・サイバネティクスとでもいうべきノイズの生態系へと至っているのだ。それは実体と抽象が交錯するノイズ/ミュージックの必然的な進化=深化だろう。現在のメルツバウのサウンドを聴取すると、私などはローラント・カインの音楽を思い出してしまうほどである。40年近い活動の中で、メルツバウのノイズを生み、ノイズを越境してきたのだ。

 その意味で、00年代以降のドローン音響作家を代表するローレンス・イングリッシュが主宰するエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Room40〉からリリースされた『Monoakuma』は重要な作品に思える。まずここで重尾なのは「40」という数字だ。1979年から活動を開始したメルツバウ(初期は水谷聖とのユニット)は、2019年に活動40周年を迎える。
 その「40周年」を直前とした2018年12月に「40」という数字を持った名のレーベルからアルバムをリリースしたのだ。これは非常に意味深いことに思える。むろん、ローレンス・イングリッシュはヘキサとしてメルツバウとのコラボレーション・アルバムをリリースしているし、イングリッシュ自らが署名付きで執筆した本作のリリース・インフォメーションで、2000年代半ばにおけるメルツバウ/秋田昌美との出会いを書き記してもいた。つまり〈Room40〉との邂逅は10年以上前から準備されてはいたのだが、それゆえに「40」という数字を巡る必然には改めて唸ってしまう。アンビエントを基調とするレーベルからメルツバウのアルバムがリリースされたことは、やはり必然/運命だったのだろう。

 録音されている音自体は、2012年にブリスベンの Institute of Modern Art でおこなわれたライヴ録音だという。しかし一聴しただけでも10年代のメルツバウのノイズ音響そのもののような音だと確信できる。まさにメルツ・ノイズの現在形そのもののような素晴らしい演奏と音響なのである。
 マテリアルとアトモスフィア、モノと幽霊の交錯のような硬質なノイズが、激流のように変化を遂げている。加えて不思議な静謐さすら感じさせてくれた。爆音のノイズが生成するスタティックな感覚。具体音、ノイズ、エラー、モノ、アトモスフィア、生成、終了……。そう、この『Monoakuma』から、過去40年に及ぶメルツ・ノイズの時間の結晶を感じてしまったわけである。
 80年代のマテリアル・アクションからノイズ・コラージュ時代、90年代のグラインドコアの潮流と融合するような激烈なアナログ・ノイズ時代、00年代の〈メゴ〉などによって牽引されたグリッチを取り入れたデジタル・ノイズ時代のサウンドの手法と記憶と音響が、さらなるアナログ・ノイズの再導入と拡張によって結晶化し、聴いたこともないエクセレントな衝撃性を内包したノイズ音響空間が生成されている。まさしくノイズによる無数の神経組織の生成だ。そのような「神経組織の拡張」は、当然、コラボレーションに及び、アンビエントやフリージャズや電子音楽などの音響空間にも浸食し続けている。

 浸食するノイズ/ミュージックの巨大/繊細な神経組織としてのメルツバウ。むろん、マウリツィオ・ビアンキもホワイトハウスもラムレーもスロッビング・グリッスルも SPK もニュー・ブロッケーダースもピタもフランシスコ・メイリノも、すべてのノイズ音楽は「音楽」に浸食する存在だった。そもそも20世紀という時代は、ノイズと楽音の区別が消失した時代である。しかし、そのなかでもメルツバウは、ひとつの原初/オリジンとして20世紀音楽から21世紀の音響音楽に巨大なメルクマールを刻んでいるのだ。メルツバウは、まさに「ノイズ/ミュージック」のひとつの最終形態とは言えないか。

 メルツバウにおいて、「音楽」はノイズの波動と化した(「最後の音楽」だ)。そのノイズ=波の中には無数のノイズが蠢き、ひとつの/無数の音の神経組織を形成する。その聴取は驚異的な快楽を生む。そう、メルツバウを聴くことの刺激と快楽は、そのマクロとミクロが高速で生成されることに耳と肉体が拘束される快楽なのだ。ノイズはモノであり、そのノイズ=モノはアクマのようにヒトを拘束し、しかし魅惑する。
 本作もまた50分が一瞬で過ぎ去ってしまうような刺激と、永遠を感じさせるノイズ・コンポジションが発生している。その音はまさに「40」という時間を超える「22世紀のノイズ」の胎動そのものに思えてならない。

FEBB - ele-king

 昨年2月15日、不慮の事故により亡くなったラッパー/プロデューサーのFEBB。STRUGGLE FOR PRIDE の『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』や Gottz の『SOUTHPARK』にもそのラップやプロダクションがフィーチャーされていたけれど、24歳の若さで逝去してしまった彼の一周忌となる今年2月15日に、追悼イベント《STILL SEASON》が開催されることが決定した。彼と同じく Fla$hBackS のメンバーだった KID FRESINO や JJJ をはじめ、B.D.、DMF、DOWN NORTH CAMP など、多くのアーティストが出演する。会場は渋谷 WWW X。詳しくは下記をご確認ください。

2018年2月15日に逝去したラッパー/プロデューサー/DJの FEBB AS YOUNG MASON (享年24歳)の一周忌に、追悼イベント《STILL SEASON》が渋谷WWW Xで開催される。

JJJ、KID FRESINO と共にFla$hBackSのメンバーとして活動、唯一のアルバム『FL$8KS』が高く評価され一躍シーンの重要人物となった。
ソロ・デビュー・アルバム『THE SEASON』の発表、SPERB とのユニット CRACKS BROTHERS、A-THUG、KNZZ らとの DAWG MAFIA FAMILY など精力的に活動をしてきた。2017年10月に GRADIS NICE & YOUNG MAS 名義によるアルバム『L.O.C -Talkin' About Money-』を発表。
《STILL SEASON》の出演者には、JJJ、KID FRESINO のほか、B.D.、DMF、DOWN NORTH CAMP、MIKI&KIKUMARU (KANDYTOWN)、SPERB によるライヴ、ETERNAL STRIFE、日本横町 (Marfa by Kazuhiko Fujita) のDJが決定している。
SPACE SHOWER TV Black File によるドキュメンタリー番組『look back to FEBB AS YOUNG MASON』の上映のほか、Banri Kobayashi (Diaspora skateboards)、Daiky As Tosatsuma、Goro Kosaka によるギャラリーも併設。ROCCO'S NEW YORK STYLE PIZZAの出店も予定している。
1月26日(土)午前10時より前売券が発売される。

タイトル:STILL SEASON
日付:2019/2/15(金)
OPEN / START:18:00
会場:WWW X
前売券 / 当日券:3,000円+1D

LIVE:
B.D.
DMF
DOWN NORTH CAMP
JJJ
KID FRESINO
MIKI&KIKUMARU (KANDYTOWN)
SPERB

DJ:
ETERNAL STRIFE
日本横町 (Marfa by Kazuhiko Fujita)

上映:
Black File : look back to FEBB AS YOUNG MASON

GALLERY:
Banri Kobayashi(Diaspora skateboards)
Daiky As Tosatsuma
Goro Kosaka

FOOD:
ROCCO'S NEW YORK STYLE PIZZA

前売券(発売日:1月26日(土)午前10時):
e+、ぴあ、ローソン、トラスムンド店頭

Phony Ppl - ele-king

 先週初の来日を果たし、熱気あふれるパフォーマンスを披露してくれたブルックリンの新世代5人組ソウル・バンド、フォニー・ピープル(Phony Ppl)。「西がジ・インターネットなら、東はフォニー・ピープルだ!」と、大きな注目を集めている彼らのニュー・アルバム『mō zā-ik.』が、本日ついにCDでリリースされる。マーヴィン・ゲイやスティーヴィーなど70年代黄金期のソウルを彷彿とさせるその新作は、古き良きブラック・ミュージックの魂が現代においてもしっかり息づいていることを教えてくれる。聴かないと単純に損しちゃいますよ。

現代最高のヒップホップ~ソウルを響かせるフォニー・ピープルによる最新作『mō zā-ik.』が遂に本日リリース! KANDYTOWN の MASATO、KIKUMARU からの推薦コメントも到着!

これが現代最高のヒップホップでありソウルだ! 歌姫エリカ・バドゥとの共演も果たすブルックリンのヒップホップ・ソウル・コレクティヴ=Phony PPL(フォニー・ピープル)による最新作『mō zā-ik.』が念願の世界初CD化! さらに KANDYTOWN の MASATO、KIKUMARU からアルバムへ対する推薦コメントも到着!

https://www.youtube.com/watch?v=ri_3z0l1HMI

■MASATO(KANDYTOWN)
ジャンルに縛られないメロディとドラミングが Phony Ppl のオリジナルさだと感じる。
曲の展開はいい意味で期待を裏切ってくる。特に、“Move Her Mind.”がHookに入る前の引き的な感じでずっと進んで、気持ちよく終わって行くのがいい。アルバム通して聴ける作品。

■KIKUMARU(KANDYTOWN)
Phony Ppl は何よりもライブが良い。New Yorkでドラマーのマヒューと出会い、Blue Noteでの公演を見たあの日から完全に彼等のファンになってしまった。
何処と無く感じるNYのGroove。“Way Too Far”から“on everytinG iii love”までのSmoothな流れに誰もが心を踊らされるだろう。
今後の Phony Ppl に期待せざる得ない。


◆これまでに届いた豪華推薦コメントの数々も必読!

■DJ JIN(RHYMESTER, breakthrough)
連綿と続くソウル・バンドの系譜を思い起こしながら、いまの極上グルーヴをシミジミと味わう。やっぱ音楽最高。個人的には、あのヒップホップ・レジェンド、DJジャジー・ジェイの息子=マフューがドラムを務めていることにグッとくる。

■小渕 晃(元bmr編集長、City Soul)
ロスアンジェルスの The Internet、ロンドンの Prep、それに Suchmos らと同時進行で、いまの世界的なソウル・バンド・ブームを牽引するニューヨークの注目株の、注目しないわけにはいかない新作。
ポップさと、コンシャス具合のバランスがオリジナルで、繰り返し聴きたくなる1枚です。

■末﨑裕之(bmr)
西がジ・インターネットなら、東はフォニー・ピープルだ!
ジ・インターネットが「仲間」だと認め、マック・ミラーやドモ・ジェネシス作品に関わるなど西海岸からも支持を得るだけでなく、チャンス・ザ・ラッパーとも共演したブルックリンの音楽集団がさらなる成長と深化を見せるマスターピース。
メンバー個々の才能が混ざり合い、R&B、ファンク、ジャズ、ラテン、ヒップホップが自在に組み合わさった、ひとつのユニークなモザイク画として完成した。
フォニー・ピープル。彼らは間違いなく、知っておくべき“ホンモノ”だ。

■OMSB(SIMI LAB)
あらゆるジャンルを飲み込みながらも、絶妙で軽やかなポップセンスで、どこかレアグルーヴ的な懐かしさも残す本当の意味での王道neo soul。
恐らくそんなジャンル分けにも固執せず、純粋に phony ppl 式の心地良い音楽を作ろうと言う気概を感じます。
信頼のド直球なフリをして程よく裏切るフレッシュなバランス感が最高!
全曲心地良いですが、一押しはビートレスのアコギ一本にハスキーな子供の声風ピッチチェンジが効いたM7 “Think You're Mine”! 兎に角楽しんで!

【アルバム詳細】
PHONY PPL 『mo'za-ik.』
フォニー・ピープル 『モザイク』
レーベル:Pヴァイン
発売日:2019年1月23日
価格:¥2,200+税
品番:PCD-22412
[★解説:末﨑裕之 ★世界初CD化]

【Track List】
01. Way Too Far.
02. Once You Say Hello.
03. somethinG about your love.
04. Cookie Crumble.
05. the Colours.
06. One Man Band.
07. Think You're Mine.
08. Move Her Mind.
09. Before You Get a Boyfriend.
10. Either Way.
11. on everythinG iii love.

The 1975 - ele-king

 音楽においてはときに、そのサウンド以上にテーマやリリックが重要な役割を担う場合がある。去る2018年はコンセプチュアルな作品が目立つ年だったけれど、それはなにもアンダーグラウンドに限った話ではなくて、たとえばメインストリームのど真ん中を行くUKのバンド、ザ・1975のこのサード・アルバムも、そのような傾向のひとつとして捉えることができる。

 邦題は『ネット上の人間関係についての簡単な調査』。テーマは明白だ。イントロを聴き終えると、なんともご機嫌なポップ・チューン“Give Yourself A Try”が耳に飛び込んでくる。「近ごろ(modern)の議論では文脈が無視されて発言が取り上げられる」という印象的なフレーズ。続くシングル曲“TOOTIMETOOTIMETOOTIME”では軽快な4つ打ちに乗って「泣き」のコードがぐいぐいと進行し、SNSにおける恋人とのすれ違いが描写されていく。
 タイトルが端的に表しているように、オンラインで交わされるコミュニケイション、そしてそれによってもたらされる疲労やもろもろの弊害がこのアルバムの切りとろうとしている現代性である、とひとまずは言うことができる。テーマのうえで核となるのは9曲目の“The Man Who Married A Robot / Love Theme”で、Siri が「インターネットは彼の友達だった」と、ある孤独な男にかんするテキストを淡々と読み上げていく様は、すでに多くのメディアが指摘しているようにレディオヘッドの“Fitter Happier”を想起させる。一度この語りを耳にしてしまうと、一見ごくありふれたラヴ・ソングのようにしか聞こえないほかの楽曲も、すべてネットやPCについて歌っているように思えてくる。
 歌詞だけではない。イントロや4曲目の“How To Draw / Petrichor”、合衆国を諷刺した“I Like America & America Likes Me”では、昨今のオートチューンの流行に目配せするかのように加工されたヴォーカルが強調されていて、やはり今日的=モダンであろうと努めることがこのアルバムのリアリティを担保しているようだ。どこでどう繋がったのかわからないが、昨秋亡くなったロイ・ハーグローヴのトランペットがジャジーな装飾を施す“Sincerity Is Scary”では「人は極めてポストモダンな方法で自らの苦悩を隠そうとする」と歌われており、この曲からも彼らがモダンにこだわっていることがわかる。では彼らが追い求める「モダン」とは、いったいなんなのだろうか。

 ファンキーなムードが強めに打ち出されていた前作では、随所で80年代メインストリームのポップ・ミュージックを想起させる音作りが為されていたけれど、本作でもたとえば11曲目“It's Not Living (If It's Not With You)”や14曲目“I Couldn't Be More In Love”のように、レトロな音の構築が目指されている。なかでも注目すべきは5曲目の“Love It If We Made It”だろう。ここでも「誤解にもとづいたポジションを強固なものにする/あらゆるアプリにアクセスできる」と、スマホ文化から材を得たフレーズが登場するが、他方でブラックライヴズマターに感化されたと思しき言葉も顔を覗かせていて、「現代(Modernity)は俺たちを見捨てた」との歎きを経たリリックは、背後の80年代的なサウンドとは裏腹に、リル・ピープの追悼やカニエ~トランプの諷刺へとなだれこんでいく。興味深いのはその途中で「リベラルなキッチュ」という言い回しが差し挟まれるところで、これは人種差別のような深刻なテーマを、あたかも検索に引っかかることが目的であるかのように軽く歌詞のなかに滑り込ませてしまう、自分たち自身のことを揶揄した表現だと考えられる。

 ザ・1975がこのようにメタ的な態度を見せるのは今回が初めてではない。彼らはセカンド・アルバム制作時にボーズ・オブ・カナダからインスパイアされたことを明かしているが、しかしじっさいにはBOCを思わせる箇所などまったくなかったわけで(シューゲイズの要素はあったけど)、つまり彼らが参照したのはBOCのサウンドそれ自体ではなかったということになる。では彼らがBOCから受け取ったものとはなんだったのか。ずばり、ノスタルジーだろう。80年代的な音作りやアートワークのネオンサインはその何よりの証左である。ようするにザ・1975は前作において、10年代の音楽、とりわけメインストリームのロックやポップがレトロを志向せざるをえないことをメタ的に表現していたのだ。
 そう考えながら今回の新作を聴くと、いま彼らが何をやろうとしているのかがクリアになってくる。本作で聴くことのできるサウンドはそのほとんどが、合成音声など一部の例外を除けば(いやもしかしたらそれでさえ)、すでに80年代や遅くとも90年代の時点で出揃っていたアイディアに範をとったものだ。新しさはない。では既存の手法の組み合わせ方が斬新かというと、そんなこともない。このアルバムのおもしろさは、そのように懐古的なサウンドが「オンライン上のコミュニケイション」という今日的なテーマと組み合わせられるという、その不均衡にこそある。
 いまでもポップ・ミュージックにおいて、言葉の面でみずみずしいテーマを追求することはじゅうぶん可能であるが、他方サウンドの面でそれに見合う新しさを生み出すことはきわめて困難になっている──まさにそのような昨今の状況こそ、彼らが肉迫しようと試みているモダニティなのではないか。入念に練られたザ・1975のこのアルバムを聴いていると、強くそう思わずにいられない。

On-U Sound - ele-king

 いやー、嬉しいニュースですね。かなり久びさな気がします。〈On-U〉がそのときどきのレーベルのモードをコンパイルするショウケース・シリーズ、『Pay It All Back』の最新作が3月29日に発売されます。
 最初の『Vol. 1』のリリースは1984年で、その後1988年、1991年……と不定期に続けられてきた同シリーズですけれども、00年代以降は長らく休止状態にありました。今回のトラックリストを眺めてみると、ホレス・アンディリー・ペリーといった問答無用の巨匠から、まもなくファーストがリイシューされるマーク・ステュワートに、思想家のマーク・フィッシャーが『わが人生の幽霊たち』(こちらもまもなく刊行)で論じたリトル・アックスなど、〈On-U〉を代表する面々はもちろんのこと、ルーツ・マヌーヴァやコールドカットやLSK、さらに日本からはリクル・マイにせんねんもんだいも参加するなど、00年代以降の〈On-U〉を切りとった内容になっているようです。これはたかまりますね。詳細は下記をば。

Pay It All Back

〈On-U Sound〉より、《Pay It All Back》の最新作のリリースが3月29日に決定! リー・スクラッチ・ペリーやルーツ・マヌーヴァらの新録音源や未発表曲を含む全18曲入り! 日本からはリクル・マイ、にせんねんもんだいが参加!

ポストパンク、ダンス・ミュージックなど様々なスタイルの中でダブを体現するエイドリアン・シャーウッドが率いるUKの〈On-U Sound〉より、1984年に初めてリリースされた《Pay It All Back》シリーズの待望の最新作、『Pay It All Back Volume 7』のリリースがついに実現! リリースに先立ってトレイラーと先行解禁曲“Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich”が公開された。

Pay It All Back Volume 7 Trailer
https://youtu.be/Ro8QcLi5azg

Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich
iTunes: https://apple.co/2W5AA6l
Apple: https://apple.co/2R36YD1
Spotify: https://spoti.fi/2DmeqW0

今回の作品にはルーツ・マヌーヴァ、リー・スクラッチ・ペリー、コールドカット、ゲイリー・ルーカス(from キャプテン・ビーフハート)、マーク・スチュワート、ホレス・アンディといった錚々たるアーティスト達の新録音源、過去音源の別ヴァージョン、そして未発表曲などを収録した、まさにファン垂涎モノの内容となっている。また、日本からはリクル・マイ、にせんねんもんだいが参加している。

LPとCDには〈On-Sound〉のバックカタログが全て乗った28ページのブックレットが付属し、デジタル配信のない、フィジカル限定の音源も収録されている。また、アルバム・ジャケットにはクラフト紙が使用された、スペシャルな仕様となっている。

〈On-U Sound〉からのスペシャル・リリース『Pay It All Back Volume 7』は3月29日にLP、CD、デジタルでリリース。iTunes Storeでアルバムを予約すると、公開中の“Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich”がいち早くダウンロードできる。

label: On-U Sound / Beat Records
artist: VARIOUS ARTISTS
title: Pay It All Back Volume 7
cat no.: BRONU143
release date: 2019/03/29 FRI ON SALE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10072

TRACKLISTING
01. Roots Manuva & Doug Wimbish - Spit Bits
02. Sherwood & Pinch (ft. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich
03. Horace Andy - Mr Bassie (Play Rub A Dub)
04. Neyssatou & Likkle Mai - War
05. Lee “Scratch” Perry - African Starship
06. Denise Sherwood - Ghost Heart
07. Higher Authorities - Neptune Version*
08. Sherwood & Pinch ft. LSK - Fake Days
09. Congo Natty - UK All Stars In Dub
10. Mark Stewart - Favour
11. LSK and Adrian Sherwood - The Way Of The World
12. Gary Lucas with Arkell & Hargreaves - Toby’s Place
13. Nisennenmondai - A’ - Live in Dub (Edit)
14. African Head Charge - Flim
15. Los Gaiteros de San Jacinto - Fuego de Cumbia / Dub de Sangre Pura (Dub Mix)
16. Little Axe - Deep River (The Payback Mix)
17. Ghetto Priest ft. Junior Delgado & 2 Bad Card - Slave State
18. Coldcut ft. Roots Manuva - Beat Your Chest

ともしび - ele-king

 シャーロット・ランプリングは笑わない。少なくともそのイメージは強い。かつて桃井かおりは自分の演技に限界を感じてイッセー尾形の元に弟子入りした際、演技することが苦しいと感じるようになった理由は「桃井かおりが桃井かおりしか演じていないから」とかなんとか言われたそうで(いまなら木村拓哉とかほとんどの役者がそうだけど)、シャーロット・ランプリングも演じる役柄に幅がなく、同じイメージを厚塗りしていくことに息苦しさを覚えたりはしないのかと心配になってしまう。「シャーロット・ランプリングは笑わない」と最初に僕が思ったのは1974年のことだった。どっちを先に観たかは忘れてしまったけれど『未来惑星ザルドス』と『愛の嵐』を立て続けに観て、表情筋がピクリとも動かない彼女の表情がそのまま海馬の奥深くに焼き付いてしまったのである。当時、色気というものを覚え始めた僕はジャクリーン・ビセットがひいきで、胸の開いたドレスを吸い込まれるように凝視していたはずなのに、45年後のいまもインパクトを保っているのはシャーロット・ランプリングの方であった(偶然にもランプリングもビセットもデビュー作は『ナック』)。『マックス、モン・アムール』ではチンパンジーと愛し合い、『エンゼル・ハート』ではあっという間に殺されてしまう占い師、最近では『メランコリア』で結婚式の雰囲気を台無しにするシーンも忘れがたい。ショービズで無表情といえば元祖はマリアンヌ・フェイスフルで、日本だとウインクなのかもしれないけれど、老齢というものが加わってきたランプリングにはそれらを寄せ付けない迫力があり、やはり説得力が違う。クイーン・オブ・ポーカーフェイスが、そして最新主演作となる『ともしび』で、またしても表情からは何ひとつ読み取らせない老女役を演じた。

 「脚本の段階、しかもオーランド・ティラドと一緒に書いた最初の一言目の段階から、シャーロット・ランプリングのことを想定していました」と監督のアンドレア・パラオロはプロダクション・ノートに記している。オープニングはちょっとびっくりするようなシーンなので、監督の言葉が本当だとしたら、ランプリング演じるアンナを常識とはかけ離れた人物という先入観に投げ込み、観客とは一気に距離を作り出したかに見える。しかも、夫は何らかの罪を犯して自ら刑務所に足を向け、何が起きているのか掴みきれないままに話は進行していくのに(以下、ある種のネタバレ)その後はひたすらミニマルな日常だけが流れていく。だんだんとアンナの行動パターンがわかってくるので、時間の経過とともに特別なことは何もなく、むしろ日常的な惰性や疲れに引きずり込まれていくだけというか。一度だけ孫に会いに行こうとして息子らしき人物に拒絶され、トイレにこもって号泣するシーンがあり、そこだけは物語性を帯びるものの、それも含めて「伏線」や「回収」とは無縁の断片化された日常の継続。新しい日が始まると、喜びはもちろん、今日も生きなければならないのかという嘆きもなく、ただ淡々と日課をこなすだけである。近年の傑作とされる『まぼろし』では夫が波にさらわれて死んでしまったことを受け入れられず、夫が生きているかのように振る舞うマリーを演じ、4年前の『さざなみ』では結婚45周年を迎えたものの、夫婦関係がゆっくりと崩壊していくことを止められないケイトを演じ、これらに『ともしび』のアンナを加えることで、いわば物理的に、あるいは心理的に「夫と離れていく妻の日常を描いたミニマル3部作」が並びそろったかのようである。どれもが女性の自立からはほど遠く、夫への依存度が高かったことが不幸を招き、3作とも自分を見失う設定になっていることは興味深い。「笑わない」というイメージから連想する「強さ」やリーダー的存在とは正反対の役どころであり、それこそランプリングは女性たちに最悪のケースを見せることで逆に何かを伝えようとしているとしか思えない。

 アンナの視界は狭い。彼女以外の視点から語られる場面はないので、何が起きているのか観客にはわからないままの要素も多い。このように「神の視点」を排除した語り口やカメラワークは近年とくに増えている。最近ではイ・チャンドン『バーニング』やリューベン・オストルンド『ザ・スクエア』にもそれは部分的に応用されていたし、『ともしび』では他の人の感情や存在感もほとんど消し去られていた。これは一見、主観的な表現のようでありながら実際にはヴァーチュアル・リアリティを模倣しているのだと思われる。あらゆるものをあらゆる角度から見渡せるといいながら、自分の視点からしか見ることができない視野の狭さがヴァーチュアル・リアリティには常に付きまとう。他の人の視点を交えることができない時に、映画というものはどのように見えるのか。こうした客観性や間主観性の排除がトレンドとなり、いわば古臭い物語でもヴァーチュアル・リアリティのような体験として蘇らせることがフォーマット化されつつあるのである。それこそスマホやSNS時代の要請なのだろう。フィリップ・K・ディックの世界と言い換えてもいい。そして、そうした方法論を最初から徹底的に突き詰めていたのがハンガリーのネメシュ・ラースロー監督であった。彼のブレイクスルー作となった『サウルの息子』(16)はホロコーストに収容されたユダヤ人の眼に映る光景だけですべてが構成され、主人公はいわば一度も客体視されず、観客が主人公となってホロコーストを「目撃」し、あるいは「体験」するという作品であった。自分の背後や周囲で起きていることが完全には把握できないことが無性に恐怖感を煽り、70年以上前のホロコーストをリアルなものへと変えていく。

 ネメシュ・ラースローの新作が公開されると知り、偶然にもハンガリーでデモが起きた当日に試写室に押しかけた。ブタベストで起きたデモは残業時間を年間250時間から400時間に引き上げるという法案が議会を通過したことに対して抗議の声が上がったもので、当地では「奴隷法」と呼ばれているものである。デモは昨年末に5日以上続き、催涙弾が飛び交う悲惨な事態となったようである(日本ではちなみに先の働き方改革法案で残業時間は年間700時間と定められた)。冷戦崩壊後のハンガリーはソヴィエト時代を嫌うあまり王政復古を望む声の高かった国である。そのことが直接的に現在の右派政権につながったかどうかは軽々に判断できないものの、ラースローが『サンセット』で描くのはそうした王政の最後、いわゆるハプスブルク家支配の末期である。ユリ・ヤカブ演じるレイター・イリスが帽子店で働こうと面接試験を受けに来るところから物語は始まる。イリスはその外見をカメラで捉えられ、客体視はされているものの、しばらく見ていると『サウルの息子』よりも少しカメラの位置が後退しただけで彼女の眼に映るものがそのままスクリーンに映し出されているものとイコールだということはすぐにわかる。ほんとにちょっとカメラの位置が後ろにズレただけなのである。イリスが働こうとする帽子店はとても高級で、どうやら王室御用達であることもわかってくる。イリスは経営者と交渉するが、その過程で彼女の家族に関する大きな秘密を明かされる。イリスは経済的に困っていただけでなく、アイデンティティ・クライシスにも陥り、いわば何もできない女性の象徴となっていく。そして、歴史が大きく動き始めたにもかかわらず、自分がどうすればいいのかはまったくわからない。当時のオーストリア=ハンガリー二重帝国がその直後にフランツ・フェルディナンドが狙撃され(サラエボ事件)、第1次世界大戦が始まることは観客にはわかっているかもしれないけれど、イリス(=ヴァーチュアル・リアリティ)が体験させてくれるものはその中で迷子になっていく市民たちであり、とっさにどれだけのことが個人に判断できるかということに尽きている。このところハンガリー映画が面白くてしょうがないということは『ジュピターズ・ムーン』のレビューでも書いたけれど、ラースロー作品にはハンガリー映画をヨーロッパ文化の中心に近づけようとする強い意志も感じられる。

 『ともしび』のアンナも『サンセット』のイリスもどちらも名もない女性である。彼女たちの内面ではなく、その視点だけを通して、この世界を見るというのが両作に共通の構造となっている。時代の転換という大仕掛けを用意した『サンセット』とは違って『ともしび』には格差社会や人種問題といったマイノリティの理屈さえ入り込む余地はなく、アンナの目に映るものは実にありふれた光景ばかりである。にもかかわらず、そのラスト・シーンで僕は心臓が止まるかと思うようなショックを受けた。映画が終わるとともにいきなりヴァーチュアル・リアリティのヘッドギアを外されたように感じたのである。

映画『ともしび』予告編

Paulius Kilbauskas - ele-king

 まるでスティーヴ・ライヒとデリック・メイを同時に聴いているみたいだ。ガムランの響きに始まり、トライバル・ドラムが絡み、以後も同様な曲が続くものの、ところどころでクラブ・ミュージックのクリシェが面白いようにミニマル・ミュージックに加えられ、ライヒとは異質の高揚感が湧き出してくる。リトアニアにニュー・ウェイヴを紹介してきたゾーナ・レコーズから1年前にリリースされたエディションにオープニング曲を加えた8曲入りがライセンス盤として出回り始めたようで、シンプルな“Space”から始まる構成が余計にそうした演出度を高めてくれる。どこまでいっても低音は響かず、ガムランの音が密度を変化させながら空間性を担保していく。ブラシの抜き差しはどうしてもデリック・メイを強く想起させ、これで影響を受けていないといわれたら嘘でしょうとしかいえない。正月からデザイナーの祖父江慎がデリック・メイで朝の5時まで踊ったというから、余計にそう思えてしまうのかもしれない(なんて……しかし、祖父江さん、何歳よ~)。

 後半はデリック・メイをまさにガムランでカヴァーしていると捉えた感じになっていく。チャカポコという響きがほんとにそれらしく、デトロイト・テクノをここまでオーガニックに聴かせた例はないのではないかと思ったり。“Seven”にはハープ奏者も加わり、瑞々しさは一層増していく。“Space”と”Fire”にはゴングとメタロフォンという楽器で実際にインドネシアのガムラン奏者である通称バロットも参加し、とくに”Fire”は華やかで音が自由に乱舞しまくり(イントロとアウトロでポクポクと打ち鳴らされるのは木魚だろうか)。ぜんぜん知らなかった人なので、調べてみるとパウリウスはどうもリトアニアのギタリストで、リトアニア語をグーグル翻訳で読んだのではっきりしたことはわからなかったけれど、小学校もロクに行かなかったらしく、4弦ギターと出会うことから彼の人生は変わり始めたらしい。93年に結成されて、ドラムとキーボードが死んだために01年に解散せざるを得なくなったエンプティ(Empti)というバンドでプログラムなども手掛けていたそうで、それまではアシッド・ジャズの流れでトリップホップとかブロークン・ビートとカテゴライズされる音楽性を追求していたという(フェスティヴァル・オブ・ワースト・グループで優勝したとも)。ソロ活動は07年に『バンゴ・コレクティヴ』と題されたダンスホールとブレイクビーツを組み合わせたようなアルバムからスタート(これがまたなかなか)。続く『ペピ・トゥリー』(09)ではゲーム音楽、マリウスくんたちと取り組んだ『スタジオ・ジャム』(09)はいわゆるインプロヴィゼイション・ジャズと、音楽的にはなんの脈絡もない。2014年には2枚のサウンドトラック・アルバムを手掛け、それらがロックンロールだったり、現代音楽だったりするのは映画の種類に合わせたものだから仕方がないとしても、ダブリケイトの名義ではハードコアから発達したジャンプスタイルにもチャレンジしているらしく、これは昨年、イタリアのアドヴァンスド・オーディオ・リサーチが『ファースト・グレード』で極めて面白い展開を見せたジャンルとしても気になっていたので、がぜん興味が増してくる。これを2013年にはすでにやっていたとは。『Elements』に通じる作品としては09年の『スケッチ・トゥ・ペインティング』やマーク・マッガイアーをユルくしたような3枚のライヴ・アルバムがオーガニックなギター・アンビエンスを展開していて(『LRTオーパス・オーレ・ライヴ』“Part 2”の前半はベイシック・チャンネル風)、この辺りから少し『Elements』へと通じるものが見えてくる。しかし、決定的だったのは1年間、家族4人でバリに住んだことらしい。それはゴミが燃え、犬が飛び、色が現れる世界だたっという。

 バリで受けた影響は曲名が地水火風に基づいていることや「空気を吹き付けるような音楽を探していた」という表現などニューエイジに向かってもおかしくはないはずなのに、時間がなくてガムランをベースに音楽を組み立てるまでには至らず、ガムランに多大なインスピレーションを受けながらも伝統音楽との間に距離を感じたままのレコーディングとなったらしい。そのことがむしろ幸いしたのだろう。中途半端にクラブ・ミュージックの要素が残ったことが新たな道筋を切り開いたという気がしてしまう。彼はすでに次のアルバムのことも考えていて、ニューエイジに近づきかねない「軽くて明るい音楽」というヴィジョンを語っているから、良かったのはここまでだったということになりかねない恐れはあるものの、この瞬間が素晴らしいことはとにかく間違いがない。

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