「S」と一致するもの

MOMENT JOON - ele-king

Moment Joon は間違いなくリングに上がっている

 SKY-HI “Name Tag feat. SALU & Moment Joon”で、私は Moment Joon に出会ってしまった。

俺はプロフェッショナル外人
日本では見えないの言えないので飯食ってる毎日

俺の財布には札束の代わりに在留カード

あ、銃の話 撃ったこともないくせに
暴力が好きでいれるやつと絡むことは無し
(SKY-HI “Name Tag feat. SALU & Moment Joon”)

 自らを〈プロフェッショナル外人〉と言い、見たことのない鮮烈な権力批判を繰り広げる Moment Joon に、一瞬で惹かれた。特筆すべきは混じり合う言語の面白さだ。日本語/関西弁を中心に、韓国語、英語、ロシア語(私が聞き取れないだけで、彼が発音する日本語以外の言語にも「方言」が含まれているのかもしれない)……Moment Joon の言葉は無二の軌跡を描き出している。あまたの土地の言葉が一曲に収まり、チャーミングかつ好奇心をそそる響きを生み出す。このラッパーはどこをどんなふうに歩いてきたのだろうと勘ぐらずにいられない。
 ただし、己を疑わなくてはならない。テレビをつければ「外国人」に「日本」を褒めさせるグロテスクな番組がえんえん放映されているし、新聞広告や本屋の店頭をざっと見て回るだけで「日本」を無批判に称揚しほかのアジア諸国を見下す本がずらりと見つかる。これだけ移民がいるのに政府は移民の存在を認めない。入局管理局、技能実習生、セックスワーカー、人権って何なんだマジで? 「外国人」はいつまでも「外国人」で、都合のいいときだけ利用して面倒になれば使い捨てる。在日コリアンがそもそもどうして列島まで連れてこられたのか考えもせずに「嫌なら帰れ」と言い放つ。社会がそういう地獄のうえに成り立っている以上、相手が「外国人」であるがゆえに尋ねる「あなたはどこから来たのか」は、どんなに悪意がなかったとしても相手を受容する気のさらさらない「値踏み」に転化する可能性を大いに伴うのだ。移民の受容は Moment Joon 自身が精力的に対峙しているトピックであり、Moment Joon が「移民者ラッパー」を名乗る背景でもある。

大阪池田井口堂 グリーンハウスの25号 (“井口堂”)

 Moment Joon が曲のなかで繰り返し口にするのは、Moment Joon が住んでいるマジの自宅の住所だ。リスナーはみな Moment Joon がどこに住んでいるのか知っている。ヘイトを撒き散らす匿名アカウントの主にはできない生身のファイティングポーズだ。かつて「匿名性」が放っていたアナーキーな魅力はいつしか薄れ、マジョリティの暴力について責任の所在をぼかす道具と化している。だからこそ Moment Joon は住所を晒して「文句があるやつは会いに来い」と宣言したのだと思う。

緑のパスポートでビンタしたろうか? (“井口堂”)
お前らが嫌いなチョン そいつが俺です (“マジ卍”)
入管が疑った通りやっぱMomentってやつはImmiGangGang (“ImmiGang”)

 自らに投げかけられた差別語「太え鮮人」を自らが発行する雑誌のタイトルにしてしまったアナキスト・朴烈のごとく、Moment Joon は全てを浴びた上でそれを挑発の道具に変えて見せる。
 Moment Joon は間違いなくリングに上がっている。他ならぬこのファッキン列島に横たわる差別構造を前に、人間を使い潰して君臨し続ける権力を前に、Moment Joon は拳を構えて立ち向かっている。これを聴いてまだ傍観者でいていいとは思えない。聴けば聴くほど、このファイターの叫びに対してリングの外から金を賭けて無責任に「頑張れ」と言うような向き合い方はしたくないと思う。オーディエンスとしてではなく、ファイターとして自分自身のリングに上がらねばならない。自ら痛みを引き受けながら、権力、レイシズム、ファシズム、とにかく種々の敵に違う場所から攻撃を加える必要がある。Moment Joon のラップが突きつけているのは「で、お前はどうする?」という本気の問いであり、挑発なのだ。

 こう書いていると攻撃全振りのアルバムかと思われるかもしれないが、半分以上は日々の痛みを歌うナイーヴなテイストの曲で占められている。人によっては盛り上がりに欠けるように感じるかもしれないが、むしろここで弱さや苦痛を歌うことが、戦う人の一生活者としての側面を浮かび上がらせる。誰だって無傷では戦えない。社会変革のために戦う人が「強い人なんですね」という単純な理解によって「他者の日常」から遠ざけられていく悲劇を防ぐよい構成ではないかと思う。現実への絶望が淡々とあらわれる“Mother Tongue”、日々の落ち込みを控えめな手つきで開陳する過程を歌った“Hold Me Tighter”は、日が落ちてからため息をこぼしつつ聴くとなおさら染み渡る。戦いと生活、ある意味相反するこれらのムードは、結局のところ一人の身体の上で切り離し難く続いている。やるしかない、まだやれる。そういう勇気を与えてくれる一枚である。

Jamie 3:26 - ele-king

 故Frankie Knucklesと双璧をなす伝説のDJ、Ron Hardyがレジデントを務めたクラブ「MUSIC BOX」。シカゴの326 Lower North Michigan通りに面したこのヴェニューで、ダンス・ミュージックとは何か? を学び、今ではRonの意思を継ぐ現役最後のDJとも称されるJamie 3:26。
 彼を知るアーティストの仲間やプロモーターの誰もが「Jamieは特別」と口を揃え、圧倒的なキャラクター、そしてDJの姿勢からはハウスミュージックへの愛とリスペクトが心の底から伝わってくる。
 そんなJamie 3:26が2年越しに日本へカムバック!!
 東京、盛岡、名古屋、神戸と4都市をまたぐジャパン・ツアーを開催。
 全てのダンスフロアに極上の多幸感と熱量をもたらす唯一無二の存在。
 全公演VIBES ONLYでお届け、お見逃しなく!!!!

釣心会例会 - ele-king

 これはよだれだらだらの組み合わせです。食品まつり a.k.a foodman が地元・名古屋にて続けているパーティ《釣心会例会》がなんと渋谷 WWWβ で開催、しかもシカゴのフットワークの巨星 RP Boo を招きます。名古屋からはツチヤチカら、Free Babyronia、東京からは脳BRAIN も参加するとのことで、なんとも贅沢な一夜になりそうです。6月15日はβに集合~。

食品まつり a.k.a foodman が名古屋にて主宰するロングラン・パーティ「釣心会例会」が最新アルバムを引っさげ再来日のシカゴの魔人 RP Boo と地元から 6eyes のフロントマンでもあるツチヤチカら、〈AUN Mute〉のFree Babyronia、東京からコラージュDJ 脳BRAIN を迎え WWWβ にて再始動。

- 食品まつり a.k.a foodman a.k.a 樋口爆炎 より

2004年から名古屋にて不定期開催している私主催のパーティー「釣心会例会」を渋谷WWWβにてスタートする運びとなりました。名古屋で開催時は地元の友人と一緒にクラブや路上、人の家、山の中など場所/ジャンルを変えながら開催してきましたが、今回15年の歴史の中で初めて県外での開催になります。

1発目はシカゴからジューク/フットワークのオリジネーターの一人であり3年ぶりの来日となるRP BOO師匠をお迎えして、「都会的な土着感」をテーマにしたパーティーを行いたいと思います。

国内のゲストとして名古屋からはレジェンド的ポストロックバンド6eyesのフロントマンであり、呂布カルマさんとのコラボも話題のツチヤチカらさんのソロプロジェクトと、名古屋拠点のレーベル〈AUN Mute〉を主催し、CampanellaさんやNero Imaiさんなどのビート提供もしつつビート・ミュージックをベースにしたノイズ/エクスペリメンタルなスタイルのライブが凄まじいFree Babyroniaさん。東京からはコラージュ、アバンギャルド的なスタイルでDJの概念を超えたパフォーマンスで話題の脳BRAINさんをお呼びました。

名古屋でやってた時の雰囲気そのままにお届けしたいと思っておりますので、肩の力を抜いてフラっとお越し下さいませ♨

釣心会例会
2019/06/15 sat at WWWβ
OPEN / START 24:00
ADV ¥1,800@RA | DOOR ¥2,500 | U23 ¥1,500

RP Boo [Planet Mu / Chicago]
Free Babyronia [AUN Mute / Nagoya]
ツチヤチカら [6eyes / Nagoya]
食品まつり a.k.a foodman [Nagoya]
脳BRAIN

※You must be 20 or over with Photo ID to enter.

RP Boo [Planet Mu / from Chicago]

本名ケヴィン・スペース。シカゴの西部で生まれ、80年代に南部へと移住し、 多くのジューク/フットワークのパイオニアと同じようにシカゴ・ハウス/ジュークの伝説的なダンス一派 House -O-Matics の洗礼を受け、〈Dance Mania〉から数多くのクラシックスを生み出したゲットー・ハウスのパイオニア Dj Deeon、Dj Milton からDjを、Dj Slugo からはプロデュースを学び、それまであった Roland のドラム・サウンドの全てにアクセス、またパンチインを可能にした、現在も使い続ける Roland R-70 をメインの機材にしながらトラックを作り始め、1997年に作られた“Baby Come On”はフットワークと呼ばれるスタイルを固めた最初のトラックであり、その後1999年に作られたゴジラのテーマをチョップしたゴジラ・トラックとして知られる“11-47-99”はシーンのアンセムとなり、数多くのフットワークのトラックに共通する無秩序にシンコペートするリズム・パターンは RP Boo のトラックに起因すると言われる。地元では秘蔵っ子 Jlin も所属するクルー D'Dynamic を主宰し、〈Planet Mu〉よりリリースのフットワーク・コンピレーション『Bangs & Works Vol.1』(2010)、『Bangs & Works Vol.2』(2011)に収録され、2013年にデビュー・アルバム『Legacy』、2015年にセカンド・フル『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』を同レーベルより発表。2016年には初期のクラシックスを収録した「Classics Vol. 1」や新録「The Ultimate」を発表。フットワークの肝である3連を基調とした簡素なドラム・マシーンのレイヤーとシンコペーションによる複雑かつ大胆なリズムワークに、コラージュにも近いアプローチでラップのような自身のヴォイスとサンプリングを催眠的にすり込ませ、テクノにも似たドライでミニマルな唯一無二の驚異的なグルーヴを披露。古代から発掘されたフューチャー・クラシックスとも称され、先鋭的な電子音楽やアヴァンギャルドとしてもシーンを超えて崇められるフットワークの神的存在。2018年に最新アルバム『I'll Tell You What!」を〈Planet Mu〉より発表。

https://soundcloud.com/rp_boo

Foodman [Nagoya]

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンス・ミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの〈Orange Milk〉よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、真部脩一(ex相対性理論)、中原昌也などとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory 出演、Diplo 主宰の〈Mad Decent〉からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に〈Orange Milk〉からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』は Pitchfork や FACT、日本の MUSIC MAGAZINE 誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月に〈Sun Ark / Drag City〉からLP『ARU OTOKONO DENSETSU』、さらに11月にはNYの〈Palto Flats〉からEP「Moriyama」を立て続けにリリース。2019年3月には再び〈Mad Decent〉からEP「ODOODO」をリリースした。

https://soundcloud.com/shokuhin-maturi

Free Babyronia [AUN Mute / Nagoya]

ペルー、リマ出身、日本在住。2005年頃より楽曲制作を開始。名古屋を拠点にライブ活動を行い、様々な名義で創作活動を行う。2012年にレコード・レーベル〈AUN Mute〉を設立。Campanella、Nero Imai などラッパーへのトラック提供や、Red Bull Music Academy Bass Camp への参加、イギリスの大型フェス Bloc が主宰したドキュメンタリー・フィルムに楽曲を提供、未来科学館で行われたインスタレーション「INSIDE」のサウンドを担当するなど活動は多岐に渡る。2018年には RCSLUM の MIX CD 部門、ROYALTY CLUB から「MUSIC OF ROYALTY SELECT」をリリース。同年にフルアルバム「PARADE」を〈AUN Mute〉よりリリースする。

https://soundcloud.com/yukiorodriguez

ツチヤチカら [6eyes / Nagoya]

ロック・バンド 6eyes のフロントマンとして活動。2018年10月半ば突如、ツチヤチカら名義で自身の iPhone 内のアプリ GarageBand で制作したオリジナル曲を SoundCloud にアップし始める。100曲アップロードを目標とし作られた Big Beat for 201x という名のプレイリストには様々なジャンルの曲が約半年で65曲がアップされるというハイスピードなペースで更新され続けている。ツチヤチカら曰く「現代にポケットに入ってる iPhone の GarageBand で曲を作るということは文字通り、60's の若者達がエレキ・ギターを手に取りガレージでバンドを組んで衝動に任せて演奏していたのと同じ事なんだ。」

https://soundcloud.com/chikara-tsuchiya

脳BRAIN

東京都在住。78年生まれ。10代後半から現代音楽、実験音楽の音盤収集と同時にカセットMTRにて宅録を始める。1st『Cock Sucking Freaks』、2nd『L.S.D BREAKS』、初のミックスもの『WHITEEYES』を2019年初頭にリリース。各タイトルのCD-R版をロスアプソン、ディスクユニオンにて販売中。幡ヶ谷フォレストリミット『K/A/T/O MASSACRE』『ideala』を中心にDJを行なう。

https://acidamanner.bandcamp.com/track/--2

øjeRum - ele-king

 デンマークのコペンハーゲンを拠点とするダーク・アンビエント・アーティスト øjeRum の新作『On the Swollen Lips of the Horizon』が、音響作家リチャード・シャルティエが主宰する音響系レーベルの老舗的存在の〈LINE〉からリリースされた。
 このニュースを知ったとき øjeRum をリリースするというレーベルの審美眼に唸ってしまった。いっけん意外なキュレーションだが、音響レーベルの老舗〈LINE〉が送り出す必然性があるように思えたからだ。彼の音楽/音響にはエクスペリメンタル、アンビエントにおける2010年代後期的な「何か」がある。ダーク/ゴシックな感覚とでもいうべきか。これは極めて現代的なセンスである。

 øjeRum、本名はポウ・グラボウスキー(Paw Grabowski)という。2007年頃にフランスの〈Rain Music〉から音響フォーク『There Is A Flaw In My Iris』という作品をリリースしているが、現在のようなダーク・アンビエントへと変化を遂げ、大量のリリースを実践するのは、2014年に『He Remembers There Were Gardens』をセルフリリースしてからのことだ。以降、『Sange Til Døende』(2014)、『The Blossoming Of The Nothingness Trees』(2016)、『Needleshaped Silence』(2017)『Sometimes I See Myself Sleeping In A Stone Of Falling Eyes』(2018)、『Træerne & Intetheden』などのアルバムやEP、カセット、CDや7インチ盤の超限定盤リリースを膨大におこなってきたわけだ。
 くわえてヴィジュアル・アーティストでもある彼によるアートワークも美麗で、ゴシックな美意識で統一されている。CD-Rとアート写真をセットにした『A Certain Grief』(2018) のように75部しかコピーしないような私家盤に近い作品もあり、コレクションへの欲望を喚起してきた。ちなみにフランスのレンヌにあるギャラリー「Le Bon Accueil - Lieu d'arts sonores」において個展が開催されるなどヴィジュアル・アーティストとしての評価も高い。

 彼の膨大な作品の中で、2017年に発表された『Skygge』はCD作品であり、多くの耳に触れられる機会のあったアルバムである。美しい悪夢のようなゴシックなサウンドスケープがまとまったコンポジションで展開しており、「øjeRum の膨大なディスコグラフィの中で最初に聴くべきアルバムはどれか」と問われたら、「これまで」ならば『Skygge』と答えたであろう。
 この『Skygge』も含めて、øjeRum のフィジカルはほぼ売り切れとなっているものの、その多くは bandcamp などで聴くことができる。2019年もすでに『Silent Figure With Landscape』、『Syv Segl』、『Sange Til Døende {Pladeselvskab Reissue}』、『Nattesne』、『There Is A Flaw In My Iris』、『Don't Worry Mother, Everything Is Going To Be Okay』などの作品を送りだしてしているが、〈LINE〉にピックアップされたことで、さらに多くのアンビエント・音響マニアの耳に届くことになるのではないか。
 むろん著名レーベルからのデジタル・リリース作品だからといって、これまでの彼の作風となんら変わっているわけではない。そのサウンドは、闇夜で祈るかのごとき「崇高さ」を感じさせるアンビエンスだが、『On the Swollen Lips of the Horizon』も「ゴシック・ノスタルジア・アンビエント」とでも形容したいサウンドに仕上がっていた。〈LINE〉は、彼の作品・楽曲を「手書きのコラージュの視覚的な対応物を用いて、大気中および感情的に帯電した環境記録を作成する」とインフォメーションしているが、まさにそのとおりの音といえる。デイヴィッド・トゥープの語る「エーテルトーク」のようなアンビエントだ。
 アルバムには30分に及ぶ“on the swollen lips...”、22分35秒にわたる“...of the horizon”の長尺2曲と5分8秒ほどの“on the swollen lips... (excerpt)”が収録されている。ドローン、電子音、環境音が交錯し、まるで記憶にのみ存在する映画の音響空間のように霞んだ質感のサウンドスケープを生成していく。レーベルは「ウィリアム・バシンスキーとセラーのファンのための催眠的な周期的感情ジェスチャー」と書いているが、確かにバシンスキーセラーのように記憶を融解させてしまうような音響的質感を感じた。深いノスタルジアが、エーテルのように漂っているとでもいうべきか。記憶の夢、夢の記憶。夢幻のサウンドスケープ。そのアンビエンス、アンビエント……。

 本年2019年はザ・ケアテイカー、ザ・フューチャー・イヴ・フィーチャリング・ロバート・ワイアット、ヤン・ノヴァク、フェネス、サンO)))、ティム・ヘッカーの新作など、個性は違えどもアンビエントやドローンの傑作が多くリリースされているが、本作も負けず劣らず重要なアルバムだ。『Skygge』に次ぐ øjeRum の新たな代表作がここに生まれた。

Emily A. Sprague - ele-king

 覚えていますか? フロリストのあのいまにも壊れそうな、だがそれでいてどこか生命の力強さのようなものを喚起させる音楽を。同バンドでなんともはかないヴォーカルを響かせていたのがエミリー・スプレーグである。彼女はフロリストの活動を続けるかたわらアンビエント作品の制作も進めていて、すでに『Water Memory』『Mount Vision』という2作をカセットで発表しているのだけれど、即完したというそれら2作がなんとテイラー・デュプリーの手によってリマスタリングを施され、〈RVNG〉によって復刻されるというのだから落ち着かない。日本盤ボーナストラックには工藤キキも参加しているらしい。詳細は下記よりチェック。

大注目のアンビエント・アーティスト、Emily A. Sprague が自主カセット・リリースし即完したアンビエント作品2作がリマスター&ボーナス・トラック追加してリリース!
シンセサイザーを駆使してアンビエント~ニューエイジを横断する夢幻/無限の桃源郷サウンドスケイプ!
日本盤のみオリジナルのアートワークを使用した独自紙ジャケット、ボーナス・ディスク付き2枚組仕様!

Mitski、Frankie Cosmos、Hatchie なども輩出してきた、〈Double Double Whammy〉から作品をリリースしている、ブルックリンのローファイ・フォーク/ポップ・バンド、Florist のフロントマン、でヴォーカル、ギター、シンセサイザーなどをマルチに担当する Emily Sprague。2017年から2018年にかけて彼女がバンド活動の合間を縫って録音し、自主リリースしていたアンビエント作品2作『Water Memory』『Mount Vision』が、彼女の才能に着目したNYの最先鋭レーベル〈RVNG〉よりリマスター、ボーナス・トラックを追加してフィジカル化。

エミリーのサウンドは全ての繋がりに関係しており、地上の活動に人との触れ合いを導く神秘的な力に生き生きとした中心的形を与えている。
音と詩を通して、エミリーは水晶の透明性の束の間の瞬間に焦点を合わせ、複雑な意味作りのために拡張された人生について瞑想する。このビジョンは間違いなく美しく、やさしく、そして深い。
この2つの作品は海と山というタイトルからも分かるように対をなす鏡のような構造を持ち、書かれた詩によって補完される2つの章として機能している。

『Water Memory』はエミリーによる初めてのロングフォームのインストゥルメンタル・アンビエント・ミュージックで、マサチューセッツとニューヨークの間でユーロラック・モジュラー・シンセサイザー(Monome、Mannequins、Mutable Instruments、ALM Bust Circuits、4ms、Xaoc、Verbos Electronics)、Teenage Engineering OP1、および Valhalla VST Reverb を使用し、1年間の自己と音の探求によって生まれた。
古代の格言集のように展開する。時々遊び心があり、幻想的でさえあるが、常にきらびやかでリアルだ。タイトルのように、意味は水性であり – 決して固すぎず、あくまで実態がある。
対照的に、『Mount Vision』はカリフォルニア北部でもっと短い期間で録音された。シンセサイザーを駆使し、ディープに配された拡張トーンのコンポジションが天空へと漂っていくようなサウンド。ニューエイジ調のシンセ・ドローン、センシティティヴなピアノ、ミニマル・アンビエントが3編に渡って構成されている。

この惑星におけるエミリーの使命は、人間の最も深い知識と知的な性質との間の接続を容易にする、または明るくすることであろう。そして、『Water Memory』、『Mount Vision』は、この共有経路に沿った最も確かに記念碑的作品である。

今回のリリースにあたりリマスターは Taylor Deupree が担当。日本盤には追加ボーナス・トラックに加え、エミリーがそれぞれの作品に書いたポエムを Anthony Naples によるレーベル〈Incienso〉からも作品をリリースしているNY在住の日本人アーティスト/ライター、工藤キキが日本語で朗読したタイトル・トラックの日本語バージョンも収録。

Artist: Emily A. Sprague
Title: Water Memory / Mount Vision (Special Japanese Edition)
Cat#: ARTPL-116
Format: 2CD

※解説:佐々木敦(HEADZ)
※オリジナルのアートワークを使用した独自紙ジャケット
※ボーナス・ディスク付き2枚組仕様

Release Date: 2019.06.07
Price (CD): 2,300 yen +税

TRACKLIST:
01. Water Memory Poem
02. A Lake
03. Water Memory 1
04. Water Memory 2
05. Dock
06. Your Pond
07. Mount Vision Poem
08. Synth 1
09. Piano 1
10. Synth 2
11. Huckleberry
12. Synth 3
13. Piano 2 (Mount Vision)
14. Outdoor (Bonus)

BONUS DISC FOR JAPAN:
01. Water Memory Poem (Japanese – Kiki Kudo)
02. Blessings
03. Mount Vision Poem (Japanese – Kiki Kudo)
04. Untitled

■ Emily A. Sprague

幼少期に母の教えでピアノを始める。11歳の頃からギター・レッスンを受け始めたものの、一旦やめてしまうが、14歳の時に再びギターを弾き始め、本格的にソング・ライティングに興味を持つ。その後バンド Florist を結成し、2013年に6曲入りEP「We Have Been This Way Forever」でデビュー。もう1枚の自主制作EPを経て、〈Double Double Whammy〉と契約し、2015年にリリースしたEP「Holdly」で Stereogum の「50 Best New Bands Of 2015」に選出される。2016年に『The Birds Outside Sang』、2017年に『If Blue Could Be Happiness』の2作のアルバムを発表し、インディ・ミュージック・リスナーから多くの支持を受ける。その活動と並行し、Emily はモジュラー・シンセサイザーを用いたアンビエント・ミュージックの制作を開始しセルフ・リリースした『Water Memory』、『Mount Vision』が高い評価を得ている。

Angel-Ho - ele-king

 『Death Becomes Her』は南アフリカ共和国ケープタウンを拠点に活動するアーティスト、エンジェル・ホのキャリア通算2枚目のアルバムである。2017年に自身も設立に関わったレーベル/共同体である〈NON〉から1枚目の『Red Devil』を、そして今作はロンドンの〈Hyperdub〉からのリリースとなった。
 ここで時間を2015年に巻き戻す。当時21歳だったアンジェロ・アントニオ・ヴァレリオは、植民地主義の爪痕や人種主義がアパルトヘイト後も色濃く残る南アフリカの政治に憤りを感じながら、ケープタウン大学でファイン・アートを専攻していた。『FADER』による当時のインタヴューによれば、同学部の自学年で、有色人種は彼しかいなかったという。ヴァレリオは、この年に実施された同校のキャンパスに建っていた植民地主義の象徴であるセシル・ローズの銅像を撤廃する運動などにも参加している。
 彼の創造力はローカルにとどまることなく、サイバースペースへとトランスコーディングされ、アメリカ合衆国リッチモンドのチーノ・アモービとフェイスブックで知り合い、ロンドンのアーティスト、キシとも出会う。人種、政治、ジェンダー、ディアスポラなどのトピックで共振した彼らは、2015年に〈NON〉を始動させる。
 ヴァレリオは幼い頃からのあだ名である「Angel-Ho」を自身に冠し、エンジェル・ホとしてデビューEP「Ascension」をラビットのレーベル〈Halcyon Vale〉と〈NON〉の共同リリースとして発表。このEPはアルカがマスタリングを担当している。ぶつ切りにされた多種多様な事物の音が、波形をねじ曲げられたパーカッションやシンセサイザーとリズムを構築するミュータント・サウンドが反響を呼んだ。グライムのウェイトレスな感覚を暴力的に発展させた前述のラビット、『Xen』(2014)以降のアルカ、インターネットの暗黒面をサーヴェイする M.E.S.H らのダーク・ベースミュージックらと共振しつつ、2015年の音を作り出していたといえるだろう。
 2017年、アルバム『Red Devil』を〈NON〉から発表。「Ascension」の流れを汲みつつ、南アフリカが生んだダンス・ミュージックであるゴムのような、低重心ファンクネスを内包する形で独自のテクスチャーを編み出している。この間、エンジェル・ホは「彼」から「彼女」になっている。2018年には同じく南アフリカ拠点のクイアラップ・ユニット、フェイカ(FAKA)の“Queenie”のプロダクションを手がけた。
 そして2019年、自身の声で歌うことによって生まれたのが今作『Death Becomes Her』である。「VICE」のインタヴューによれば、タイトルが物語るように、ここに様々な「死」が交差している。「ポップの死、アイデンティティの死、政治の死、すべての死。私の音楽はポップとそれらの出会い」であると彼女はいう。そして、それは「大きな葬式」であるとも。
 ゲイの男性から、トランス・ウーマンへの変化。リズムからメロディを主軸にした音楽的変化(本人は「Ascenssion」はサウンド的には自身の分岐点だったとも述べている)。「死」を「A」が「非A」へと変化するミューテーションのプロセスと捉えるならば、このアルバムはその結実だともいえるだろう。
 たしかに『Death Becomes Her』において、声は重要な要素である。クリス・ケッツ(Chris Kets)のディレクションによって制作され、アルバムに先立って公開された“Pose”のヴィデオでは、『エヴァンゲリオン』のクリップをコラージュした映像で、ガイカとボンによってプロデュースされたゴシックなベース・トラックでラップをする。ここで煽られた期待通りにアルバム冒頭の“Business”では、スロー・テンポなリズムに、ダブやエコー、波形をハックされた彼女自身の声のコーラス上でエンジェル・ホが歌う。アメリカのシンガー、Kリズをフィーチャーしたポップ・ダンスホール“Like a Girl”、ケープタウンの Qweezy と放つ声帯ノイズのトンネル“Good Friday Daddy”、同じく地元のラッパー、K-$と歌う淡いアーバンなR&B、“Baby Tee”。
 アンダーグラウンド・ダンスミュージックの作り手が、このようなダイナミックな変化の渦中で歌うのは、愛について、セックスについて、そしてトランスとして生きることについて、などである。「DAZED」のインタヴューにおいて、「トランスであることは、そうであることによる苦難を体験することを必ずしも意味しない。人生とは驚きとともに経験するもの」と、エンジェル・ホは答えている。声という身体/アイデンティティのフィルターは、彼女のマニフェストを加速させる。さらには苦痛を想定外の驚きをもってして中和し、ポップネスへと転換する装置として機能しているようだ。
 今作においてトラックそのものもかなりの強度を持っている。 “Drama”はトラップ、ゴム、トライバルの中間項を見事に射抜いたリズム・トラックであり、“Jacomina”はスラップするベース・ラインが跳ね回る生ドラムスやパーカッションの分子と接合し、極めてファンキーにグルーヴする。 “Cupid”では1分間の間に、光沢感のあるシンセとノイズが音の真空地帯を生む。彼女は音においてもトランスであること、つまり横断的かつダイナミックであることをやめてはいない。
 『Death Becomes Her』は、南アフリカのルポルタージュでも、アパルトヘイト以降の政治や人種主義との闘争でもなく、パーソナルであることをトラックと声で突き詰めて表現したアルバムである。そこで歌われるのは、アモービ『PARADISO』(2017)におけるポスト・アポカリプスでも、キシ『7 Directions』(2019)のアフロ・コスモロジーでもなく、現在に濃縮されたエンジェル・ホの「生」そのものだ。ポップでファンキーでケオティックなサウンドによってアルバムの統一感は希薄に映るかもしれない。けれども、彼女の言葉にあるように「驚き」に満ち触れた人生に、そんなものはハナから必要ないのだろう。

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 今年は2019年。つまり? はい、1989年から30年が経ちました。つまり? ブリープ・テクノのクラシックのひとつ、フォージマスターズ“Track With No Name”のリリース30周年です。つまり? そう、〈Warp〉設立30周年なのです!
 それを記念しなんと、6月8日・9日の2日間限定で原宿にポップアップ・ショップが出現します。目玉商品は現代美術家の大竹伸朗によるデザインTシャツ! もちろんオフィシャルの30周年グッズも登場。さらに、昨年話題をさらったエイフェックスのグッズも再販売、新作を出すフライング・ロータスプラッドのグッズも揃っている模様。どうしよう、ぜ、ぜんぶ欲しい……

〈WARP〉30周年記念ポップアップストア開催大決定!
大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズ
エイフェックス・ツインやフライング・ロータスなどのアーティスト・グッズも販売!
東京・原宿にて、6月8日、9日の2日間限定オープン!

音楽史に計り知れない功績を刻み続け、今年30周年を迎えた偉大なる音楽レーベル〈Warp〉。エイフェックス・ツイン、オウテカ、プラッド、スクエアプッシャーらエレクトロニック・ミュージックの大御所が今もなお第一線で活躍し、バトルスやチック・チック・チックといったバンド勢も加わり、フライング・ロータス、ビビオ、ケレラ、マウント・キンビー、イヴ・トゥモアらが続くなど、次々と新たな才能を世に送り出している。30年に及ぶ〈Warp〉の輝かしい歴史と功績を称え、6月8日と9日の2日間に渡って、東京・原宿にて、30周年を記念したポップアップストアが開催決定!


目玉アイテムとして、現代美術家:大竹伸朗によるデザインTシャツが販売される。そしてTシャツやキャップなどの30周年記念公式グッズ、さらに昨年発売され話題となったエイフェックス・ツインの輸入オフィシャル・グッズの再販(2日目のみ)、フライング・ロータス最新作『Flamagra』グッズ、プラッド最新作『Polymer』グッズといった最新アーティスト・グッズやレアな輸入グッズなど、ここでしか手に入らないアイテム満載!(アイテムにより購入制限がございます)



6/8(土)、6/9(日)、それぞれ整理券優先での入場となり、本日より、BEATINK.COMにて整理券の抽選受付がスタート(先着順ではございません)。なお、エイフェックス・ツイン・グッズの販売は、6月9日(2日目)のみとなる。

抽選受付はこちら
hyperurl.co/wxaxrxp_popup

WxAxRxP POP-UP STORE
開催日程:6/8(土)~6/9(日)
6/8 (土) 11:00〜20:00
6/9 (日) 11:00〜18:00

場所:JOINT HARAJUKU 2nd.(東京都渋谷区神宮前3-25-18 THE SHARE 104)
詳細・お問い合わせ:www.beatink.com

【入場整理券の応募方法および入場に関するご案内】
・6/8(土)用、6/9(日)用、それぞれ抽選で入場整理券を発行いたします。
・抽選受付ページ:hyperurl.co/wxaxrxp_popup
・応募期間:5/17(金)~5/27(月)
・携帯電話等の受信設定でドメイン指定受信を設定している方は、「@zaiko.io」からのメールを事前に受信できるように設定してください。
・ご応募は各日お1人様1回までとさせていただきます。
・先着ではございません。
・当選者へのご案内は、5/29(水)を予定しておりますが、多少前後する場合もございますので、あらかじめご了承ください。
・ご当選された方にのみ当選のメールをお送りいたします。
・抽選結果のお問い合わせにはお答えできません。
・応募フォーム内の入力必要事項に不備がある場合、ご登録のメールアドレスに不備がある場合は、応募が無効になります。
・応募フォーム内容を送信後に自動で受付メールが届きます。このメールが受信できない場合は応募ができていません。
・整理券をお持ちでない方の入場は、整理券をお持ちの方の入場が終了し次第となります(整理券の配布数に関しましては、開催までに弊社WEBサイトにてご案内いたします)。
・開店15分前になりましたらスタッフの案内に従って整理券番号順に列形成を開始してください。それ以前のご来店・整列はご遠慮ください。
・当日入口にて随時、入場中の整理券番号のご案内をいたします。

Ruby Rushton - ele-king

 ロンドンのジャズ・シーンはいろいろなミュージシャン同士の交流が盛んで、ときにトム・ミッシュロイル・カーナージョーダン・ラカイといった人たちの演奏にジャズ・ミュージシャンがフィーチャーされることも多々あるのだが、そうした中で独立独歩というか、インディペンデントな活動を大切にしているのがテンダーロニアスと彼のレーベルの〈22a〉だ。シャバカ・ハッチングスモーゼス・ボイドらトゥモローズ・ウォリアーズ出身者が形成するサークルとは一線を画し、テンダーロニアスのほかモー・カラーズレジナルド・オマス・マモード4世、ジーン・バッサ兄弟などの仲間内で演奏や作品リリースはだいたい完結する。昨年リリースされたテンダーロニアス・フィーチャリング・22aアーケストラの『ザ・シェイクダウン』やジェイムズ・クレオール・トーマスの『オマス・セクステット』は、ほぼそうした身内で作られたものだった。
 ルビー・ラシュトンはそうした〈22a〉の初期から屋台骨として存在するバンドだ。リーダーはテンダーロニアスことエド・コーソーンで、バンド名は彼の祖母の名前を由来とする。メンバーにはユセフ・デイズ、エディ・ヒック、モー・カラーズなどが名を連ねてきており、これまでにアルバムは『トゥー・フォー・ジョイ』(2015年)、『トゥルーディーズ・ソングブック第1集』と『同第2集』(2017年)をリリースしている。作品ごとにメンバーは多少入れ替わり、今度リリースされた通算4枚目のアルバム『アイアンサイド』ではエド・コーソーン(フルート、サックス、シンセ、パーカッションほか)、ニック・ウォルターズ(トランペット、パーカッション)、エイダン・シェパード(フェンダー・ローズ、ピアノほか)、ティム・カーネギー(ドラムス)というラインナップだ。エド、ニック、エイダンは全ての作品で演奏しているので、この3人がコア・メンバーとなるだろう。

 『トゥー・フォー・ジョイ』はジャズやアフリカ音楽にヒップホップやビートダウンなどのセンスを融合したサウンドで、かつてマッドリブがやっていたジャズ・プロジェクトに近い方向性を持っていた。ただし演奏面には未熟なところも見られたのだが、『トゥルーディーズ・ソングブック』ではそれをより熟成させ、ジャズ本来の即興演奏の度合いを深めていった。タイプ的にはジャズ・ロックからジャズ・ファンク的な作品が多く、ハービー・ハンコックの“バタフライ”もカヴァーしていた。一方でコルトレーンの系譜に属するアフリカ色の濃いスピリチュアル・ジャズも特徴で、ユセフ・ラティーフに捧げた“プレイヤー・フォー・ユセフ”という曲も収録しており、テンダーロニアスの『ザ・シェイクダウン』とも共通の傾向を持つアルバムだったと言える。
 『アイアンサイド』もそうした延長線上にあるアルバムで、ジャズ・ロックやジャズ・ファンク、モーダル・ジャズやスピリチュアル・ジャズが組み合わされた音楽となっている。“ワン・モー・ドラム”はテンダーロニアスの昔のスタジオ・プロダクションのリワーク再演で、西アフリカのリズムを由来とするドラムを軸にニックのトランペットが哀愁に満ちたソロを展開していく。ワルツ・テンポの“ホエア・アー・ユー・ナウ?”はテンダーロニアスのフルートとニックのトランペットの掛け合いで、テンダーロニアスは途中からエフェクトをかけたソプラノ・サックスに持ち替える。フリーフォームで先の読めない展開が多かったジャム・セッション風の『ザ・シェイクダウン』に比べ、『アイアンサイド』はアレンジをきっちり固めてスタジオでの演奏に臨んだそうで、この“ホエア・アー・ユー・ナウ?”や変拍子のヴァイタルなリズムにブレス奏法のフルートが絡む“イレヴン・グレープス”、アップテンポのジャズ・ロックの“ザ・ターゲット”などにはそうした洗練されたアレンジの跡がうかがえる。

 “リターン・オブ・ザ・ヒーロー”は『トゥルーディーズ・ソングブック』における“プレイヤー・フォー・ユセフ”同様、テンダーロニアスにとってのフルートのヒーローであるユセフ・ラティーフに対するオマージュが表われた作品。“プレイヤー・フォー・グレンフェル”はイギリスの著名な探検家で医師のグレンフェル卿に捧げた曲のようだが、ここでのフルートもユセフ・ラティーフを彷彿とさせるもの。このようにテンダーロニアスの作品や演奏には、彼が影響を受けた過去の偉大なミュージシャンたちの姿が投影されるケースがあるのだが、そうしたひとつが“ペンギン・6(レクイエム・フォー・クシシュトフ・コメダ)”。ポーランドが生んだ偉大なピアニストで作曲家のコメダに捧げた曲で、実際にコメダによる1965年の映画音楽『ペンギン』がモチーフとなり、エイダンのピアノ・フレーズもかなりコメダに寄せている。テンダーロニアスはポーランドのイーブスというアーティストと共演してコメダのトリビュート曲をやったこともあり、そんな傾倒ぶりがうかがえるモーダル・ジャズだが、終盤は独自の解釈によるジャズ・ファンクへと展開していく。一方で“トリサートップス/ザ・コーラー”は、かつての4ヒーローのようなドラムンベースとジャズを掛け合わせたようなビートから、J・ディラのようなよじれ気味のヒップホップ×ジャズ・ファンク・ビートへと鮮やかに転移する現代ジャズらしい1曲。いろいろなジャズ、いろいろな音楽からの影響を素直に汲み上げ、それを参照しながら自分の音楽を形成していくのはいかにも英国の音楽家らしい。そしていまのアーティストにとどまらず、過去のアーティストたちの影響が多分に感じられるのがテンダーロニアスらしいところだろう。

New Order - ele-king

 先日本国で刊行されたジョン・サヴェージによるジョイ・ディヴィジョンの本、『This searing light, the sun and everything else』の日本版を準備中です。今年はジョイ・ディヴィジョンの『アンノーン・プレジャー』から40年ですから。JDとニューオーダー、『レコード・コレクター』誌も特集してましたね。
 さて、そこでニュー・オーダーです。7月12日に、新しいライヴ盤が出ます。2017年7月、地元マンチェスターの伝説の会場=オールド・グラナダ・スタジオ(ファクトリーの創始者トニー・ウィルソンのTV番組の収録会場で、当然ジョイ・ディヴィジョンもライヴをやっている)での演奏が収録されているわけだが、まあ、ちょっと前にライヴ盤って出ているよねと思う人、今回のそれは収録曲が面白い。ほとんどライヴでやってこなかったJD〜NOの曲を中心に18曲、です。JDの“ディスオーダー”も入っております。
 こちらは先行発表されたNO“サブカルチャー”です。
  ◼︎「Sub-culture」https://smarturl.it/NOM

 また、トラックリストは以下の通り。大名曲“ビザール・ラヴ・トライアングル”も入っていますね。

CD-1
1 - Times Change (Original version on 1993’s Republic)
2- Who’s Joe (Original version on 2005’s Waiting For The Sirens’ Call)
3 - Dream Attack (Original version on 1989’s Technique)
4 - Disorder (Original version on 1979’s Unknown Pleasures)
5 - Ultraviolence (Original version on 1983’s Power, Corruption & Lies)
6 - In A Lonely Place (Original version on B-Side to 1981’s Single Ceremony)
7 - All Day Long (Original version on 1986’s Brotherhood)
8 - Shellshock (Original version featured on the 1986 soundtrack to Pretty In Pink)
9 - Guilt Is A Useless Emotion (Original version on 2005’s Waiting For The Sirens’ Call)
10 - Subculture (Original version on 1985’s Low Life)
11 - Bizarre Love Triangle (Original version on 1986’s Brotherhood)
12 - Vanishing Point (Original version on 1989’s Technique)
13 - Plastic (Original version on 2015’s Music Complete)

CD-2
1 - Your Silent Face (Original version on 1983’s Power, Corruption & Lies)
2 - Decades (Original version on 1980’s Closer)
3 - Elegia (Original version on 1985’s Low Life)
4 - Heart + Soul (Original version on 1980’s Closer)
5 - Behind Closed Doors (Original version on B-Side To 2001’s Single Crystal)

 例によって商業主義を度外視したデザインによるパッケージも相当に格好いいです。まあ、ファンは必聴ですが、それにしてもアルバム・タイトルの『∑(No,12k,Lg,17Mif) / ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..』、これなんて読んだらいいんだろうか……。


◼︎商品概要
アーティスト:ニュー・オーダー / New Order
タイトル:∑(No,12k,Lg,17Mif) / ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..
発売日:2019年7月12日(金)
品番:TRCP-243~244/ JAN: 4571260589032
定価:2,600円(税抜)*CD:2枚組
解説/歌詞対訳付
https://trafficjpn.com

大好評につき重版出来!
続編も発売中!!

ゲーム音楽は偉大なるアートである!

1978年に産声をあげたゲーム音楽レコード、
その40年以上にもわたる歴史を網羅した決定版
膨大な数のなかから選び抜かれた名盤950枚を紹介!

「日本のゲーム音楽は、この国が生んだもっともオリジナルで、もっとも世界的影響力のある音楽だ」と『DIGGIN'』のプロデューサー、ニック・ドワイヤーは言う。これは、長年ゲーム音楽を研究し続けてきた本書執筆陣が、それぞれに思い続けてきたことでもある。ゲーム音楽は単なるゲームの付随物で終わるものではなく、かけがえのない価値を様々な形で具有している。〔……〕本書はゲーム音楽の歴史に散らばる何万枚ものサントラ盤やアレンジ盤から、これはという名盤たちを「音楽的な」観点から選び抜いた、ありそうでなかったディスクガイド本である。 (本書序文より)

試行錯誤の黎明期からサウンドチップの音楽、スーファミ~初代プレステの小容量サンプリング時代、ハードの制約から解放されたPCエンジン~CD-ROM、そして Bandcamp を筆頭に無数のサウンドが湧出し続ける配信~サブスク全盛の今日まで──膨大なタイトルのなかから厳選された極上の950枚を聴け!

監修・文:田中 “hally” 治久
文:DJフクタケ/糸田屯/井上尚昭

[執筆者紹介]

田中 “hally” 治久
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。チップ音楽研究の第一人者で、主著に『チップチューンのすべて』ほか。さまざまなゲーム・サントラ制作に携わる傍ら、ミュージシャンとしても精力的に活動しており、ゲームソフトや音楽アルバムへの楽曲提供を行うほか、国内外でライブ活動も展開している。

DJフクタケ
90年代よりDJとして活動。95年に世界初の GAME MUSIC ONLY CLUB EVENT 「FARDRAUT」開催に関わるなど最初期から活動する VGMDJ であり、ビデオゲーム関連アナログ盤のコレクターでもある。2014年より歌謡曲公式 MIX CD 『ヤバ歌謡』シリーズをユニバーサル・ミュージックよりリリース。2017年には企画・選曲・監修を務めた玩具・ビデオゲーム関連のタイアップ楽曲集CD『トイキャラポップ・コレクション』Vol.1~3をウルトラ・ヴァイヴより発表するなど過去音源の紹介や復刻にも精力的に取り組む。

糸田 屯 (Ton Itoda)
少年期にゲーム・ミュージックとプログレッシヴ・ロックに魅了される。レコード店スタッフなどを経て、兼業ライターとして活動。2019年現在、『ミステリマガジン』誌で「ミステリ・ディスク道を往く」を連載中。ゲーム・ミュージックというジャンルの背景に連綿と広がる影響関係、コンポーザーの音楽的背景/変遷に強い興味・関心を持ち、新たな知見を求めて日々digにいそしむ。敬愛するクリエイターは Tim Follin。

井上尚昭 (rps7575)
2001年、“レコード会社別で捉えるゲーム音楽カタログレビュー” をコンセプトにしたウェブサイト「電子遊戯音盤堂」を開設。洋邦映画アニメ実写問わずサウンドトラック全般が守備範囲で、別名義でDJプレイなども。ライター諸氏とは別機会にて妙縁があったが、商業出版への寄稿は今回が初。本業はサウンドデザイナー。

[目次]

序文
凡例

第1章 試行錯誤の黎明期

ゲーム音楽レコードの胎動 | ヒア・カムズ・マリオ! | アレンジの模索 | 声なき時代のゲーム歌謡

第2章 サウンドチップの音楽

任天堂 | ナムコ | コナミ(アーケード) | コナミ(家庭用) | タイトー | セガ | カプコン | データイースト | アイレム | SNK | アーケードその他 | 家庭用その他 | 古代祐三 | 崎元仁・岩田匡治 | 日本ファルコム | 日本テレネット~ウルフチーム | パソコン系その他 | 海外 | リバイバル

第3章 ミニマムサンプリングの音楽

スクウェア | コナミ | タイトー | ナムコ | セガ | カプコン | ソニー系 | 任天堂 | 家庭用その他(SFC) | 家庭用その他(PS・SS・N64ほか) | アーケードその他

[コラム] インターネットミームと非公式ゲーム音楽リミックス ~All Your Base are Belong to Us~ (糸田屯)

第4章 ハード的制約から解放された音楽

最初期(カセットテープ~CD-ROM初期) | 劇伴作家の仕事 | シンフォニック | シンフォニックロック | アコースティック~ニューエイジ | プログレ | フュージョン | ジャジー | シンセロック | ハードロック/ヘヴィメタル | ロックその他 | アンビエント~エレクトロニカ | クラブミュージック | ディスコ~ダンスポップ | ポスト渋谷系 | 音楽ゲーム | ヴォーカル | ジャンルミックス | その他 | CD-ROMから聴けるゲーム音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト

第5章 ダウンロード配信世代のゲーム音楽

エレクトロニカ | エレクトロニック・ダンス | 80sリバイバル&ウェイヴ系 | レトロモダン(チップチューン進化系) | ロック | シンフォニック | アコースティック | ジャジー | ジャンルミックス | 民族音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト2

第6章 アレンジバージョン

第一次バンドブーム | フュージョン | プログレ | ロック | 管弦・器楽 | アコースティック | シンセ | ダンス&クラブ | ジャンルミックス | ヴォーカル | その他

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト3

第7章 アーティストアルバム

日本(バンド) | 日本(ソロ/ユニット) | 海外

索引
あとがき

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
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TSUTAYAオンライン
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・続編『ゲーム音楽ディスクガイド2──Diggin' Beyond The Discs』も好評発売中!

・『ゲーム音楽ディスクガイド』掲載作品よりリイシュー・シリーズが始動。
 第1弾は和製RPGの先駆け『ガデュリン全曲集』
  ⇒ https://p-vine.jp/music/pcd-25309
 第2弾は2021年最新リマスタリングの『銀河伝承』
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