「Low」と一致するもの

interview with Jun Miyake - ele-king

 ジャズ、ロック、エレクトロニカ、クラシック、現代音楽、フランスやブラジルをはじめ世界各地の音楽など、多彩な音楽の要素をハイブリッドに融合し、映像性も豊かに展開する作曲家、三宅純の音楽は、ユニバーサルにしてパーソナル。聴き手の五感を刺激し、自由な想像の世界へと誘う。
 80年代、10代で日野皓正に才能を見出され、USAボストンのバークリー音楽大学で学び、帰国後、ジャズ・トランペッターとして活動をはじめた三宅純は、既成のジャンルにとらわれず冒頭に記した多彩な音楽を飲み込んで、独自の音楽世界を築いてきた。この15年余りは、パリを拠点に活動し、映画、演劇、舞踏、CMの音楽なども手がけ、中でも舞踏家・振付家、故ピナ・バウシュのドキュメンタリー映画『ピナ/踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース監)の音楽は名高い。
 海外でも高い評価を得た三部作のアルバム『Lost Memory Theatre』(2013~2017年)に続き、2021年12月に発表したニュー・アルバムが『Whispered Garden』。東京、ヨーロッパ、南北アメリカで主にリモート録音をおこない、世界各国の多彩な歌手と演奏家が参加した新作について、話を聞いた。

「時間の流れる速さや順番が、訪れるたびに異なる庭園」というところに落とし込もうと思って。その庭園に行くと同じ曲が「あれ? この曲さっき別の人が歌っていなかったっけ? でも何かが違う」みたいになってるような。

『Lost Memory Theatre』の三部作が完結して次のチャプター、この『Whispered Garden』の構想に着手したのはいつでしたか?

三宅純(以下JM):構想、コンセプトが先ではなく、2015年ぐらいから単発で思いついた曲を作っていったのですが、実はアルバム・タイトルが全然決まらなくて、ほぼ全曲、出揃った後に、これは何か庭園にまつわる作品なのかもしれないと気づいたんです。「ガーデン」という言葉が最初に出てきて、歌手のリサ・パピノーに「ガーデンを使ったタイトルを思いついたら全部教えて」と相談して、自分でもいっぱい提案して、結局5~60個は出たと思います。そうこうするうちに『トムは真夜中の庭で』という本のことを思い出して。小さい頃に読んだ本なのでディテールはあまり覚えてなかったんですけど、ウィキペディアで粗筋を読んだら、これはもしかしたらアルバムと同じ世界観かもと思ったんです。「ガーデン」という言葉をどこかから囁かれた気がしたので、『Whispered Garden』というタイトルにしました。

このアルバムを最初に聴いたときに、三宅さんの脳内を旅行しているようなイメージが勝手に浮かんできました。いまうかがった、曲から作っていったというプロセスの影響があるんでしょうか。

JM:パンデミックをはさんだ、自分の環境も含めていろんなことがめまぐるしく変わっていった時期なので、脳内光景みたいなものが変わっていったのは確かだと思います。『トムは真夜中の庭で』の粗筋で僕がいちばん「あっ!」と思ったのは「時間の流れや速さや順番が訪れるたびに異なる庭園」というところで、それは僕が描きたかった、自分の中の世界と外の世界が交わるところでもある気がして。

今回もいろんな国の、いろんな分野のミュージシャンが参加しています。中でも「おっ!」と思ったのが2曲に参加したジャズのレジェンド、デイヴ・リーブマンでした。彼との出会いからはじまる歴史を聞かせてください。

JM:最初に彼の音を聴いたのは高校生のときだったと思います。彼が入ったマイルス・デイヴィスのバンドや菊地雅章さんのユニットはじめ、いちばんよく聴いてたのは、エルヴィン・ジョーンズの『Live at the Lighthouse』、スティーヴ・グロスマンとの2サックスのバンドでした。その頃から、彼らのフレージングがいちばん好きで、僕もトランペットでああいうふうに吹きたいと思っていました。76年に18歳でニューヨークに行って日野皓正さんのお宅に2カ月ほど居候してた頃、日野さんがデイヴ・リーブマンのバンドのメンバーになり、彼のロフトでのリハーサルに連れてってくれたんです。そこで初めて間近で見て、リハーサルが終わった後、スティーヴ・グロスマンも遊びに来てセッションになり、2曲ぐらい参加させてもらったんです。太刀打ちできないなっていう印象しかなかったですけど。そこで初めて個人的な接点がありました。向こうは覚えてないですけどね、自分のところに1回来ただけの若造のことなんて。

日野(皓正)さんがデイヴ・リーブマンのバンドのメンバーになり、彼のロフトでのリハーサルに連れてってくれたんです。リハーサルが終わった後、スティーヴ・グロスマンも遊びに来てセッションになり。太刀打ちできないなっていう印象しかなかったですけど。

今回、デイヴ・リーブマンとコンタクトをとったきっかけは?

JM:流れとしては本末転倒なのかもしれませんが、宮本大路というサックス奏者が亡くなってしまい(注:2016年、ガンで他界。享年59歳)、彼が生きてたら「じゃあここはちょっと、グロスマンとリーブマンを混ぜた感じで」とお願いしてたと思うのですが、いっそのこと一足飛びに本物まで行っちゃえ、というのが発想の原点です。

アルバムにはいま話に出た宮本大路さんの演奏もあります。他にも、以前のアルバムの中で聴いていたような既視感をおぼえる瞬間が何度かあって、ベタな言い方ですが音楽にもサステナビリティがあるのかなあ、なんて感じてしまいました。

JM:サステナビリティ(笑)! 彼(宮本氏)の存在は自分の音楽にとってすごく大事で、作り込んだ青写真を混ぜ返してくれると言うか、裏を見せてくれるようなところがあって、曲を書いていると彼の演奏が聞こえてくることがあるんですね。でも新しい演奏をしてもらえないことになっちゃったので、過去に録りためたものから、いわゆるウィリアム・バロウズ的なカットアップで、嵌めていってるんです。なので既視感がそこから生まれるかもしれません。ただ “Progeny” は、2015年に録った未公開の曲です。他の人の演奏の中にも、以前の音源をまたもってきたものもあります。アート・リンゼイのノイズ・ギターとか。それなりに大変な作業なんですけどね、全部掘り起こして、ここならハマるかなあという試行錯誤……。

“Undreamt Chapter” は2020年、TOKION(webカルチャーマガジン)の依頼で作った曲ですね。近年、大活躍のピアニスト、林正樹さんが参加していて、おそらく初共演だと思いますが、彼と知り合ったのはいつ頃ですか?

JM:僕の、めったにやらないライヴによく来てくれていることを大路くんに聞いてたんです。で彼が鬼怒無月さんとアコーディオンの佐藤芳明さんとやってるバンドでパリに来たときに紹介されたのが、10年くらい前でしょうか。その後、CMで演奏をお願いして以来、折に触れて参加していただいています。とても優秀な演奏家ですね。

“Le Rêve de L’eau” で歌っているアルチュール・アッシュ。昔からいろんな関係があったと思いますが、今回の参加に至るストーリーを教えてください。

JM:アルチュールにとって、それが名誉かはわからないんですけど、この曲は最初、デヴィッド・シルヴィアンにお願いするつもりで、どんなコラボにするか、2ヶ月ほど往復書簡を続けていたんです。彼はクリエイションに関して本当に真摯で、過去の自分を再現したくないって思いが強くて、もしかしたら引退するかもってところから、「君とだったらやってみようかな」というところまでは揺り戻せたんです。でもこの曲を聞かせたら、「過去の自分が聞こえてくる」と言われて、それはそうかもなぁと、アラビック・レゲエのような曲も作ってみたのですが「それでもやっぱり歌うと自分になっちゃう」と。結局、今回のアルバム・リリースには間に合わないということになったんです。それでもこの曲は収録したかったので、事情は伏せてアルチュールに聞いてもらったところ、ぜひやりたいと言ってくれたんです。彼は表現も存在感も独特で素晴らしいですよね、音域によって声の響きが変わるのが興味深いです。

“Time Song Time” を歌っているブロン・ティエメンは、初共演ですね?

JM:この曲はそもそもイメージとして、ギャヴィン・ブライアーズの “Jesus Blood Never Failed Me Yet” や、ハル・ウィルナーがプロデュースしたウィリアム・バロウズの “Falling in Love Again” といった酔いどれの雰囲気が欲しくて、このパンデミックの世へのララバイを作ってみたかったんですね。で、リサ・パピノーを通じて、彼女と同じバンドにいたことがあるブロン・ティエメンを知りました。彼は独特のライフスタイルで生きていて、曲の最後のほうで喋ってるところは自分で作った言語だったりして。不思議な才能なんですよ。

ブラジルの音楽家では、前作に続いてブルーノ・カピナン、そしてヴィニシウス・カントゥアリアは久々の参加ですね。

JM:ヴィニシウスにはいままで、ギターでは何度か参加してもらってたんですが、歌ってもらったのは『Innocent Bossa in the mirror』(2000年)以来です。ヴィニシウスが歌った “Parece até Carnaval” と同じメロディーが、ブルーノの歌った最後の曲 “Arraiada” で、途中まで出てくるんですが、これは最初、ブルーノに作詞と歌を頼んだんです。ただ、大サビのメロディーに詞をつけられずに止まっちゃって、そのうちに彼がコロナにかかってしまいました。それをヴィニシウスに伝えたらすぐに歌詞を付けて歌ってくれたんです。しばらくしてブルーノから治ったという連絡が来たので、それならアレンジを変えて大サビ違いの曲も作ってみようと。ライナーノーツにも書いた「時間の流れる速さや順番が、訪れるたびに異なる庭園」というところに落とし込もうと思って。その庭園に行くと同じ曲が「あれ? この曲さっき別の人が歌っていなかったっけ? でも何かが違う」みたいになってるような。

究極的には時間を操作したい、支配したいっていうか。それはつまり過去と未来と現在の共存でもあり、それが混濁した世界でもあり。音楽にはそういう力があると思うので。

三宅さんの音楽には、最初にお話しした脳内旅行の面と同時に、聴き手の僕たちに、個々の幼児体験だったり風景だったり、「あれ? これって……」というデジャ・ヴ現象を引き起こす力があると思います。

JM:それは僕にとっても嬉しいコメントです。究極的には時間を操作したい、支配したいっていうか。それはつまり過去と未来と現在の共存でもあり、それが混濁した世界でもあり。音楽にはそういう力があると思うので。

作曲に関して、パンデミック以前と以降で変わったところ、違いなど、ご自身で感じられてますか?

JM:特にTOKIONの依頼で作った “Undreamt Chapter” は、打ち合わせが最初の緊急事態宣言の前夜、六本木だったんですよ。街も雰囲気が違っていて、これから何が起こるんだっていう緊迫感がすごかったですね。でも帰宅すると、窓から見える景色は全く平穏で、静と動のコントラストが面白くて、僕にとっては今回のパンデミックの象徴みたいなのがこの曲。これが分岐点でした。

こんな時代ではありますが『Whispered Garden』をライヴで展開するとしたら、『Lost Memory Theatre』のライヴと編成などは変わりますか?

JM:近年やらせていただいたライヴは、いろんなものに対応できる編成だったので、あの16人編成を許していただける境遇であれば、このアルバムも再現できます。このアルバムは、パンデミック以降に書いた曲が9曲、それ以前の曲と、7/9ぐらいの割合ですね。

2005年からパリを拠点に活動されてきて、いまはコロナ禍で長期間、日本におられますが、今後の活動拠点のプランは何かありますか?

JM:目下それが最大の悩みです。そうこうしているうちにヴィザが切れちゃったんですよ。苦労してスタジオを作りこんだ家も、再来年の2月か3月までしかいられないことになって。それと日本のインフラの整ったところに比べると、パリは熾烈な環境なんですよ。家の中で水害が起こるとか、郵便が届かないとか、暖房が止まるとか、ネットが来ないとか、あらゆることがなぜか週末に起こる。週末だと誰も修理に来てくれないんですよね。そこにもう一回、立ち向かえるかなっていう不安もあり、もうパリにも16年住んでいるから、ちょっとヴィジョンを変えたいなって気持ちも実はあるんです。じゃあどこか、というのがすごく難しくて、例えばイタリアなら、食事は美味しいし、暖かいところ、海がきれいなところもあるし、いいなあと思うんですけど、インフラ的にパリと変わらないし、言葉もわからないですからね。じゃあ英語圏となると、いまのところ40年ぶりにニューヨークっていうのが有力ではあるんですけど、ニューヨークもずいぶん変わったと聞くので、一回行ってみないとわからない。いろいろと逡巡してますが、まずはパリの家を整理しにいくのが先決かもしれません。

 インタヴューの数日後、『Whispered Garden』リリース前夜祭と銘打って全曲を試聴しながら、ジャケットに作品を提供した画家、寺門孝之氏とトークするイヴェントが開催された。
 興味深い裏話もたくさん聞けたが、ひとつだけ発言を引用しておきたい。『Whispered Garden』には、三宅純がばりばりのジャズ・トランペッターだった20歳前後の時期に作曲した “1979” があり、そこでは当時から敬愛していたデイヴ・リーブマンが演奏している。また、ニーノ・ロータやクルト・ワイル、そしてこのふたりへのトリビュート・アルバムをプロデュースし三宅純との交流も深かったハル・ウィルナーへのオマージュが感じられる曲もある、彼の個人史を垣間見ることができるアルバムとも言える。このことについて彼はこう語った。

「自分の好きなものを隠さない」

 簡潔にして正直、そして見事な説得力! 年輪とキャリアを重ねた三宅純はいま、新たなチャプターを迎えている。そんな想いがした。

稀代の音楽家 “三宅純” が大作『Lost Memory Theatre』三部作完結から4年の歳月を経て導き出した最新作『Whispered Garden』発売&LP(2枚組)のリリースも決定!

[参加ミュージシャン]
デイヴ・リーブマン、リサ・パピノー、ヴィニシウス・カントゥアーリア、アルチュール・アッシュ、コスミック・ヴォイセズ・フロム・ブルガリア、ブルーノ・カピナン、ダファー・ユーセフ、アート・リンゼイ、ヴァンサン・セガール、クリストフ・クラヴェロ、コンスタンチェ・ルッツァーティ、宮本 大路、渡辺 等、山木 秀夫、伊丹 雅博、内田 麒麟、村田 陽一、勝沼 恭子 ほか

ご購入/ストリーミングはこちら
https://p-vine.lnk.to/aXoERz

アーティスト:三宅純
タイトル:Whispered Garden
発売日:【CD】2021年12月15日 / 【2LP】2022年5月11日
定価:【CD】¥3,300(税抜 ¥3,000) / 【2LP】¥6,600(税抜 ¥6,000)
品番:【CD】PCD18890 / 【2LP】PLP-7793/4
発売元:P-VINE

-収録曲-

【CD】
01.Untrodden Sphere
02.Hollow Bones
03.Counterflect
04.The Jamestown Bridge
05.Paradica
06.Farois Distantes
07.Undreamt Chapter
08.1979
09.Fluctations
10.Seshat
11.Parece até Carnaval
12.Progeny
13.Le Rêve de L’eau
14.Witness
15.Time Song Time
16.Arraiada

【LP】
SIDE A :M1-M4
SIDE B :M5-M8
SIDE C :M9-M12
SIDE D :M13-M16

三宅純official
https://www.junmiyake.com/
https://twitter.com/jun_miyake

hyunis1000 - ele-king

 神戸の新世代ラッパー hyunis1000 (ヒョンイズセン)がファースト・アルバムをリリースする。彼は相棒の Ratiff とともにラップ・デュオ Neibiss を組んでいて、一見脱力的だけど真剣というか、ユーモアとメッセージを両立させた素敵な音楽をやっているのだ(まずは YouTube で「Neibiss」と検索してみて)。
 紙エレ夏号でも取り上げたように(p137)、hyunis1000 はソロとしても配信でEPをリリースしてきたわけだけれど(おすすめは “ダメ人間” や “お先真っ暗やね!元からやけど(^_^;)” などを収録した『1001』)、このたびついにアルバムが完成したとのこと。題して『NERD SPACE PROGRAM』。リリースは年明け1月26日。いまから楽しみです。

hyunis1000
"NERD SPACE PROGRAM"

2000年生まれ、神戸を中心に活動する新進気鋭のラッパー、hyunis1000の待望のファースト・フル・アルバム『NERD SPACE PROGRAM』がリリース!!
瑞々しい類い稀なセンスが本作によってシーンに衝撃を与える!!

この作品は2022年のラップ・ミュージックの最前線の一つのあり方を提示する。ゲーム音楽、健全な上昇志向とメイク・マネーの願望、ある種のインディ・ロック的な感傷、ラッパーの必須条件である安定感のあるヴォイスとフロウ、複数のビートメイカーによる多彩なビート。本作の背景に、豊饒なエレクトロニック・ミュージック、ヒップホップ、実験、ダンス・カルチャー、ネット文化、その他さまざまな経験と現場があることは想像に難くない。聴けば間違いなくその一端に触れることができる。
『NERD SPACE PROGRAM』というタイトルは、hyunis1000が所属するコレクティヴの名でもある。悪ふざけとナンセンスと繊細さと純情の絶妙なバランスをふくめ、NSPの音楽と表現には未来への可能性しかない。

あの作品の内側には地図があって、そこにはまだ何も記されていなかった。結局のところ、ヤンキーとオタクは極地という点で似通っているように思う。初めて出会った彼の精神と身体の釣り合い方はとても Strange に見えた。約束は、たかが口約束かもしれないけど、果たすことで確信が深まる。早くてもいいことばかりじゃないけど、急ぎたくなるのは何故なのか。彼らはいま新しいところに向かっている。確かに全てはタイミングなんだけど、今回そのタイミングは必然に思えた。完璧に近かった。"走り続ける限り青春は死なない" 誰に審査されずとも輝き続ける存在がここにいる。確信がなければ、誰が何を言ってても無駄だ。このアルバムは hyunis1000 への信用を更に確固たるものにするだろう。
by NGR (CLUTCH TIMES)

アーティスト:hyunis1000 (ヒョンイズセン)
タイトル:NERD SPACE PROGRAM (ナード・スペース・プログラム)
レーベル:RCSLUM RECORDINGS
品番:RCSRC026
フォーマット:CD
バーコード:4988044869950
発売日:2022年01月26日

ソングリスト
1. Intro by ratiff
2. RUN (prod by 残虐バッファロー)
3. Highway (prod by Ballhead)
4. Kobe young zombie (prod by Uokani)
5. 2020薔薇 (prod by caroline)
6. ドッペルゲンガー (prod by ratiff)
7. Skit by ratiff
8. khao nashi (remixed by ratiff)
9. Student (prod by DJ HIGHSCHOOL)
10. Sad rain (prod by UG Noodle)
11. Angel (prod by caroline)
12. IDC (prod by caroline)
13. hyunis1000 in Earth (acappella)

【hyunis1000 プロフィール】
2000年生まれ、神戸を中心に活動するラッパー。2018年から活動を開始し、トラックメイカー/DJ/ラッパーのRatiffとのユニットNeibissや、同世代のコレクティブNerd Space Programのメンバーとしても活動中。コンスタントな楽曲リリースと、年間100本ほどのLIVEを行うなか、Shibuya PARCO ANNIVERSARY FESTIVALへの出演や、Neibissとしてアルバム『HELLO NEIBISS』(2020)、『Sample Preface』(2021)をリリースするなど、着実に実績を積み重ねていく。SPACE SHOWER TV『BLACK FILE』でのインタビュー動画の公開やRed Bullが企画するマイクリレー『RASEN』への抜擢など、いま一躍注目を集めている。

Maika Loubté - ele-king

 いまにおいて、「洋楽」なるタームは非常に曖昧なものだ。そもそもある音に類似性を見出し、まとめてラベルを貼る行為自体に懐疑的な人もいるのではないだろうか。あらかじめ断っておくと、僕はある音に対してあるジャンル用語を付することは、好奇心が刺激されて嫌いじゃない。レコード屋のポップで見かける、その場限りで使い捨てられるようなタームも、逆に気になってしまうタイプだ。

 とはいえ、使い古された便利な「洋楽」というジャンル用語が、少し難儀な存在になりつつあるとも個人的に感じる。宇多田ヒカルクリス・デイヴやA.G.クックらと協業している時点で、何が「邦楽」もしくは「洋楽」かなんてかなり曖昧だ。「邦」ではないが、韓国に目を向けるとそれはもっと顕著で、コールドプレイとBTSがコラボレーション、あるいはカーディ・Bとブラックピンクが出会う時代だし、Kハウス(これもまた、使い捨てジャンル用語!)におけるヤエジは「K」ではあるものの、彼女は多くの人生をアメリカで過ごしている。つまり、色々な意味で国同士の境が融解しつつあるなか、必然的に「わたし」対「その他」と分けるようなやり方は無意味になってきている。

 マイカ・ルブテは、そんないまの時代だからこそ出現し得たミュージシャンだろう。幼少期を日本、パリ、香港で過ごした彼女は、サウンドにおいても「邦楽」とは言えない、しかし「洋楽」とも言えない実に面白い音楽を展開している。『Lucid Dreaming』と名付けられた今作は、シンセ・ポップ的なメロディアスさと実験的なエレクトロニクスが並存し、日本語、英語とフランス語を組み合わせながら、まさに彼女にしか作れない音楽に仕上がっている。「地元っていうのに憧れを持っていた」とも語る彼女だが、しかし地元がないゆえに、彼女は特定の空間や土地を想起させない、ある意味では現代的とも言えるサウンドを鳴らせたのではないか。

 テンパレイのメンバーでありソロでも活動するエイミー(AAAMYYY)を招聘した “It’s So Natural” は、もうすでに何度もリピートしている。足回りをハードなドラムンベースのリズムで固めながらも、メロディにはチャーチズやM83ばりのポップ・センスも垣間見える。非常に聴きやすいが、ただ右から左に流れる感じはなく、しっかり聴きごたえもある。無論、UKのジャンルであるドラムンベースに影響を受けた点で、少なくとも日本的な「邦楽」の感触はない。しかし同時に、日本のRPGゲームである『moon』に着想を得たとも語る。そのサントラにあったポップなビート・ミュージックも重要なインスピレーションだったと。やはり、純粋な「邦楽」ではないが、「洋楽」めいたものへの単なる模倣でもない。簡単なラベリングを拒むこの曲は、マイカ・ルブテのサウンドの面白さを表す上ではひとつの象徴と言えそうだ。

 エレクトロニクスを軸にしたそのメロディアスなポップ・センスにおいて、たったいま僕はチャーチズを引き合いに出したが、いやしかし正確を期するならば、マイカ・ルブテの音楽性はもう少し暗く、より実験的と言ったほうがいいかもしれない。ウェブや紙媒体においてチェックする限り、彼女はジャスティン・ビーバーだって聴くが、同時にポーティスヘッド、あるいはノイ!カンなどのクラウトロックも好んでいるのだ。実弟と共作した “Flower In The Dark” やクローザーの “Zenbu Dreaming” など、素晴らしいシンセ・ポップがアルバムの大半を占めているが、同時に、“Demo CD-R From The Dead” や “Broken Radio” など、ノイズを織り交ぜた実験的なインストのインタールードが時折挟まれてもいる。それは、『Lucid Dreaming』が決して一筋縄ではいかない作品だということも示している。

 『Lucid Dreaming』(明晰夢)とあるように、今作は、彼女が夢の中で聴こえた音楽を再現して作られたという。夢の中の想像的な産物であることを知ると、「邦楽」か「洋楽」、日本的であるのかそうでないのか、そんなジャンル分けやラベリングの類はもはやどうでもよく思えてくる。先ほど触れたドラムンベースがそうであるように、あるいは現在進行形のアマピアノもそうであるように、ある土地に根ざしたローカル発展型の音楽に名前が付与されることには大きな意味があるだろうが、同時に、そういったこととは真逆の音楽が生まれているのも事実なのだ。マイカ・ルブテがそうであるように、音楽は人の想像力が作り上げるものであり、つまりはmusic is musicだということ。

interview with Kinkajous - ele-king

 世界中でもっとも新陳代謝の激しい音楽シーンといえばイギリス、特にロンドンだろう。現在のジャズの世界でもそれは当てはまり、サウス・ロンドンはじめマンチェスターやブリストルなどから続々と新しいアーティストが登場している。キンカジューもそんなイギリスから生まれた新進のグループだ。キンカジューというユニークな名前は南米に住むアライグマ科の珍獣のことで、どうしてこれをグループ名にしたのかは不明だが、その名前どおりほかのバンドとは異なるユニークさを持ち、また自然界の音を巧みに取り入れている点も印象的だ。
 メンバーはサックス/クラリネット奏者のアドリアン・コウとドラマーのブノワ(ベン)・パルマンティエのふたりが中心となってセッションを重ねる中、そこへアンドレ・カステヤノス(ベース)、マリア・キアーラ・アルジロ(ピアノ)、ジャック・ドハーティー(キーボード)が加わって現在に至る。もともとロンドンではない場所に住んでいたアドリアンとブノワだが、その後ロンドンに出てきてキンカジューを結成している。従って、いわゆるサウス・ロンドン周辺のバンドとは異なるテイストがあり、アコースティック・サウンドとエレクトリックな質感のバランスなど、マンチェスターのゴーゴー・ペンギンあたりに通じるものも感じさせる。また、ジャックを除いてイギリス人ではないメンバー構成も、ロンドンのバンドの中において異色さを感じさせるところかもしれない。
 2019年にリリースした初のフル・アルバムとなる『ヒドゥン・ラインズ』がジャイルス・ピーターソンによるレコメンドを受け、またUKを代表する老舗レコード・レーベル&ショップである〈ミスター・ボンゴ〉の「トップ・オブ・アルバム2019」でベスト10内にセレクトされる。さらにはブルードット・フェスティヴァル、マンチェスター・ジャズ・フェスティヴァル、EFGロンドン・ジャズ・フェスティヴァルなどへ出演し、ロンドンの名門クラブであるジャズ・カフェでのショウがソールド・アウトするなど各方面から注目を集めるようになる。
 そして、2年振りの新作となるセカンド・アルバム『ビーイング・ウェイヴズ』は、ゴーゴー・ペンギン、ダッチ・アンクルズ、ウェルカーらを手掛けたマンチェスターを代表するプロデューサー/エンジニアのブレンダン・ウィリアムが制作に参加し、エレクトロニクスやオーケストレーションがクロスオーヴァーしたUKジャズの新たなる進化を予兆させるハイブリッドなジャズ・サウンドとなった。グループの中心人物であるアドリアン・コウとブノワ(ベン)・パルマンティエに、キンカジューの結成からファースト・アルバムにリリース、そして新作の『ビーイング・ウェイヴズ』に至る話を訊いた。

僕たちはふたりともフランス出身だけど、もうイギリスに14年住んでいる。他のメンバーはイングランド出身者もいれば、イタリアやコロンビアから来ている者もいる。でも、やっぱり僕たちのルーツはロンドンだと思っているよ。

まず、キンカジューの成り立ちから伺います。最初はサックス/クラリネット奏者のアドリアンさんとドラマー/プロデューサーのブノワさんが出会い、音作りをはじめました。そこから徐々にいろいろなメンバーが集まり、グループとなっていったと聞いています。そのあたりの経緯をお話しください。

ベン:まず、僕とアドリアンは数年前に出会ったんだ。そのときちょうど彼のバンドで新しいドラマーを探していて、この新しいプロジェクトをはじめる前の間は一緒にそのバンドでプレイしていた。僕たちはもっと柔軟にコラボレーションしたり、実験的にプロダクションを作れるような環境を作りたくて、そのときに生まれた土台こそが最終的にはキンカジューになった感じかな。僕たちはいくつかのライヴ・メンバーと一緒にプレイしてきたんだけど、デビュー・アルバムの『ヒドゥン・ラインズ』をリリースして以降は現在のメンバーで落ち着いているよ。ベースのアンドレとは音楽大学で知りあって、彼がピアノのマリア・キアーラを紹介してくれた。そのマリアがシンセサイザーのジャックを紹介してくれたんだ。それぞれのメンバーの繋がりがあってこそ生まれたバンドなんだ。

グループとして最初はマンチェスターで活動していて、その後ロンドンに拠点を移したのですか? ロンドンに移住するには活動していく上で何か理由などあったのですか?

アドリアン:誤解されることが多いけど、このバンドとしてはマンチェスターを活動拠点にしてたことはないんだ。最初からロンドンを拠点にしている。ロンドンに来る以前のことはもうだいぶ昔のことだから思い出すのが難しいなあ。マンチェスターには親しい友人はいるんだけど、キンカジューがスタートした場所ではないんだ。それに僕たちの故郷はバラバラだしね。バンドというか個人的な話になるけど、ロンドンの活気のある生活やスタイルは僕にとっては魅力的で、新しい経験やチャレンジを見つけるには完璧な街だったんだ。いまのところここでの出来事すべてが最高だし、望んでいた通りの街だよ。

そうですか、マンチェスターの話をしたのはゴーゴー・ペンギンの拠点の街であり、あなたたちとゴーゴー・ペンギンには共通する要素もあるかなと感じ、それがマンチェスターという土地柄にも関係するのではと考えたからです。話を少し変えますが、ゴーゴー・ペンギンが有名なマンチェスター、サウス・ロンドン・シーンが注目されるロンドンと、同じイギリスの都市でもそれぞれ違う個性を持つジャズ・シーンかと思いますが、あなた方から見てそれぞれ違いはありますか?

アドリアン:UKには世界の最前線で音楽を新しい方向に発展させてきた長い歴史があって、その中でここ数年間はジャズというジャンルはクリエイティヴィティーがピークを迎え、そこから多くの恩恵を受けていると思うよ。僕が考えるにいまのサウス・ロンドンのジャズはアフロビートからルーツが来ていて、マンチェスターはもっとエレクトロを軸にしたアプローチをしていると思う。しかしながらストリーミングが誕生したことやイギリス全体のとても活発的なシーンのおかげで、それぞれの地域のインスピレーションがミックスしてもっと面白いものが誕生していると思う。だからこそ自分たちなりのジャズと定義できるような新しいモノを作ることにいつも挑戦しているんだ。

ブノワさんとアドリアンさんは名前から察するにフランスとかベルギーあたりの出身のようですね? ほかのメンバーもイギリス的ではない名前が多いのですが、やはり世界の様々な国から集まってきているのですか?

ベン:僕たちはふたりともフランス出身だけど、もうイギリスに14年住んでいる。他のメンバーはイングランド出身者もいれば、イタリアやコロンビアから来ている者もいる。でも、やっぱり僕たちのルーツはロンドンだと思っているよ。もうここをホームにしてから長いからね。

別のインタヴューでそうしたメンバーの多国籍について、「作曲や演奏をする上で出身地はあまり関係がない」という旨の発言をしているようですが、とは言えほかのロンドンのバンド、イギリスのバンドとは違う個性がキンカジューにあると思います。その個性のもとを辿ると、そうしたほかの国の音楽や文化の影響もあるのではないかと思いますが、いかがでしょう?

ベン:アドリアンと僕はオーケストラにいたバッググラウンドを持っていて、ふたりともフランスでは大きなアンサンブルの中で演奏していたんだ。地域的なことよりも、そうした経験が僕たちの音楽に何かしらの影響を与えていると思うね。個人的にはプログレをたくさん聴いたり演奏したりして育ったから、すべての音楽的なテクニックにも興味があるんだけど、オーケストラでの経験がバンドという場所をエゴ表現する場所ではなく、グループ全体のサウンドとして表現するように向かわせたと思う。個々のプレイヤーではなく、指揮者/プロデューサーとしてバンド・サウンドを一番に考えるようにアプローチできるようになった。だから僕とアドリアンがある程度曲を作り上げてから、ほかのバンド・メンバーにそれを伝えていくという手法を取っているんだ。
僕たちの音楽は必ずしも地域や文化から影響を受けているとは的確には言い切れないけど、メンバーそれぞれがロンドンのシーンに参加する前の音楽体験は、どこかの部分で他にはない僕たちらしさを作り出していると思うよ。

そうして2019年にファースト・アルバムの『ヒドゥン・ラインズ』をリリースします。この中の “ブラック・イディオム” を聴くと、アドリアンの重厚なクラリネットに雄大なオーケストレーションが交わるオーガニックな作風ながら、随所にスペイシーなエレクトロニクスや動物の鳴き声のようなSEも混ざり、たとえばシネマティック・オーケストラなどに通じるものを感じさせます。ミニマルな質感を持つ “ジュピター” についてはゴーゴー・ペンギンに近い部分も感じさせます。変拍子を多用したブロークンビーツ調のリズム・セクションなど、クラブ・ミュージックのエッセンスも取り入れたジャズ~フュージョン作品というのが大まかな印象です。そして、ドラムやパーカッションの鳴り方に顕著ですが、ところどころに自然界の音を想起させるような仕掛けもあり、それがキンカジューの個性のひとつになっていたように思います。あなたたち自身は『ヒドゥン・ラインズ』についてどのような方向性で作っていったのですか?

ベン:『ヒドゥン・ラインズ』を作ったときのプロセスは、まだ自分たちが作りたい音楽を理解して、磨き上げている段階でもあったんだけど、その挑戦はとてもおもしろいプロセスだったよ。この制作はオーケストラ的なアプローチを目指した第一歩だったし、シンセを使ったのも野心的な試みだったんだ。このアルバムがリリースされるまでに多くのことを学べたし、その後のクリエイティヴ・ディレクションに対するヴィジョンも明確になったよ。そしてこのレコードを引っさげてツアーしている最中に、それはさらに明確になったとも言えるね。いまこのアルバムを聴くとまた面白いね。遠い昔の作品にも思えてくるけど、いまでも愛情を持てる大好きな作品だよ。とにかくいろんなコトを僕たちに与えてくれた作品だからね。

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サイレントを作ることでいちばん爆発してほしいところの威力が跳ね上がるからね。僕たちは自分たちの音楽で本当の意味で人を動かしたいと思っていて、この強弱の対比はとっても重要なんだ。

先ほども話したゴーゴー・ペンギンとの関係性について述べると、エンジニアを務めるブレンダン・ウィリアムスがあなたたちの作品制作にも関わっているとのことなので、自然と共通するテイストが生まれるのかなと思いますが、いかがでしょう? 彼は新作の『ビーイング・ウェイヴズ』についてもエンジニアをやっているのですよね?

ベン:ブレンダンとは僕たちがキンカジューとしてレコーディングするようになったときから一緒に仕事をしているんだ。彼は以前の作品をミックスしてくれたのと、『ビーイング・ウェイヴズ』でももうひとりのエンジニアのリー・アストンと一緒にエンジニアを担当しているよ。彼は洗練された素晴らしいエンジニアだからいつも一緒に仕事ができて光栄だよ。彼は僕らのクレイジーなアイデアにも付き合ってくれるし、それでいて全体のバランスを取るようにコントロールもしてくれる。ブレンダンは本当に素晴らしい仕事仲間であり友達でもあるんだ。もう家族のようなものだね。

そして、『ビーイング・ウェイヴズ』のストリングス・アレンジをするのは、先にリリースされたゴーゴー・ペンギンのリミックス・アルバムにも参加するシュンヤことアラン・ケアリーとここでも繋がりを感じさせるわけですが、こうした人たちとはどのように繫がっていったのでしょう?

ベン:アランはリーとブレンダンから紹介されたんだ。確か彼らはもともとマンチェスターの音楽仲間で一緒に仕事をしてたんだよ。アランは今作のストリングス・パートを去年のロックダウン中にリモートで彼のスタジオで録音してくれた。彼は僕らのヴィジョンをすぐに理解してくれたからレコーディングも早かったし、僕たちの予想を遥かに超えた素晴らしいアレンジで仕上げてくれた。僕たちは音楽で共通のセンスを持っていると確信したね。

『ヒドゥン・ラインズ』に続くセカンド・アルバムとして、『ビーイング・ウェイヴズ』は何かコンセプトやテーマなど設けて作りましたか? 基本的にはファーストの世界観を継承しているようですが、逆に何か変えてきたところなどあるのでしょうか?

ベン:『ビーイング・ウェイヴズ』は前作以上にオーケストラ的にプロデュースされた質感のサウンドを目指すアプローチを目指したよ。このアルバムのアイデアの核になっているのは、人それぞれが世界を違った風に認識すると同じように、僕たちのアルバムも人それぞれのリアルな感覚で聴いてほしいということだね。だから普段は合わさらないレイヤーを重ねて楽曲を作っている。僕たちは様々なプロダクションやサンプリングのテクニックを取り入れてリスナーにとって魅力的なモノを作り、いままで聴いたことのない幻想的で不思議な音だけど、なぜか再生してしまうようなサウンドを目指したよ。今回の制作はいままでと違ったから楽しくもあったけど、チャンレンジでもあった。いろんな方向性のサウンドがひとつにまとまったことを誇りに思うよ。

ジャズというよりもかなりインストゥルメンタルと呼ぶのに近づいた作品になったと思う。ジャズはプレイヤーに焦点をあてることが多いと思うんだけど、僕たちの音楽はもっとサウンドや質感や音の空間、そして楽曲の流れとかにフォーカスしているからね。

「前作以上にオーケストラ的にプロデュースされた質感のサウンド」という点でいくと、“イット・ブルームズ/ゼン・ナッシング” や “ジ・アイズ” などに見られるようにストリングスがより大きくクローズアップされ、強化された印象があります。それによって楽曲に有機的なイメージが増幅されていきます。先に述べたアラン・ケアリーがそのアレンジを担当するのですが、彼にはどのようなイメージを伝えてアレンジしてもらったのですか?

アドリアン:アランは僕たちが送った簡単な下書きやアレンジからストリングスのイメージを膨らませてくたんだ。僕たちは彼にヴィジュアルが浮かぶような質感のサウンドを作りたいとお願いした。レコーディングをするにあたって楽曲の長さやアルバムの中での立ち位置や意味、そしてヴィジョンもそれぞれ話し合ったよ。その後、彼が自分自身で自由に試行錯誤できるように十分な時間を与えたんだけど、それも今回のプロセスにとっては重要だったと思う。とても上手くいったね。

“ノームズ” や “ア・クワイエット・カオス” など、アンビエントなイメージの曲も印象的です。こうしたアンビエントやニュー・エイジ的な要素を取り入れるジャズ・ミュージシャンやバンドも昨今はいろいろ増えていて、たとえばイスラエルのリジョイサーがいたり、イギリスではアルファ・ミストがそうした作風のものを作ることもあります。キンカジューとしてはアンビエントについてどのように捉え、演奏や制作に取り入れているのですか?

ベン:僕たちの音楽は様々なモノが詰まった刺激的なスペースからできあがっているのだけど、ときには空白のスペースを作る作業が必要なときがあるんだ。その空白のスペースを作ることでそこから美しさ、脆さや静けさが浮き出てきてそれがエモーショナルに変わっていくんだ。ライヴでプレイするときにもサイレントな空白を作り出すのがいかに重要なのかがわかってきたし、音を空間として捉えて時間をかけて作っていくことが何よりも大事だと感じているよ。それがアンビエントの要素なのかもしれないね。サイレントを作ることでいちばん爆発してほしいところの威力が跳ね上がるからね。僕たちは自分たちの音楽で本当の意味で人を動かしたいと思っていて、この強弱の対比はとっても重要なんだ。

たとえば “クロークス” や “システム” などについて言えますが、今回のアルバムでもアコースティックな演奏とエレクトロニクスの融合が作品制作における大きな要素としてあります。イギリスのアーティストではポルティコ・カルテットリチャード・スペイヴンドミニック・J・マーシャルテンダーロニアスなど、こうしたアプローチをおこなうアーティストは多く、現代のジャズにおいてアコースティックとエレクトリックの融合はもはや抜きでは語れないものになっていると思います。キンカジューとして、アコースティックとエレクトリックの融合はどのようなバランスでおこなっていますか?

ベン:まず今作はジャズというよりもかなりインストゥルメンタルと呼ぶのに近づいた作品になったと思う。ジャズはプレイヤーに焦点をあてることが多いと思うんだけど、僕たちの音楽はもっとサウンドや質感や音の空間、そして楽曲の流れとかにフォーカスしているからね。今作では確かにそのポイントは重要で、アコースティックとエレクトロニックのサウンドのバランスをより細かく磨き上げるために、アコースティックのサウンドをより興味をそそるモノにして、エレクトロニックなサウンドをより親しみの生まれるようなサウンドにしたんだ。『ビーイング・ウェイヴズ』ではいくつかのアコースティックとエレクトロニックなサウンドの境目をなくすために、自分なりの手法をいろいろ試したんだ。

“ノームズ” で聴けるように、アドリアンさんの演奏ではバス・クラリネットが効果的に用いられています。現代のジャズ・シーンではバス・クラリネットを多用する人はあまり多くないと思うのですが、アドリアンさん自身はバス・クラリネットのどこに魅力を感じ、どのように用いているのですか?

アドリアン:僕はもともとクラリネット・プレイヤーで、そこからバス・クラリネットとテナー・サックスに転身したんだ。そして、バス・クラリネットはクラリネットとテナー・サックスの両方のアドヴァンテージを合わせ持っていると気づいた。それは奥行き、力強さ、臨場感を兼ね備えているのにもかかわらず、“ノームズ” でも表現できているとおり、柔らかく穏やかな音運びをサポートしてくれるんだ。僕たちはいつもどんな楽器でも使う準備ができていて、いつもその楽曲にどのようなサウンドが必要なのかを考えて、それにマッチするベストな楽器を選んでいるんだ。つねに新しいアイデアを試してみたいから、演奏する前にどの楽器を使うとかいうルールを楽曲制作の中では作りたくないんだよね。

ブノワさんのドラムに関しては、前作以上に複雑な変拍子の作品が多く、そうして生み出される多彩なリズムがキンカジューの特徴のひとつでもあります。ゴーゴー・ペンギンのロブ・ターナーはじめ、リチャード・スペイヴン、モーゼス・ボイドユセフ・デイズ、フェミ・コレオソ、トム・スキナー、ロブ・セッチフォード、エディ・ヒック、サラティ・コールワール、ジェイク・ロング、ティム・ドイルなど、現在のイギリスには優れたドラマーやパーカッション奏者が数多くいます。あなた自身は自分の演奏についてどのような特徴、個性があると思いますか?

ベン:面白いことにニュー・アルバムではほとんど変拍子を使用してはいないんだけど、それぞれのフレーズはいままで以上にイレギュラーにプレイされているんだ。僕のドラムのアプローチは自分がパーカッショニストとしてミニマルやシステム・ミュージックに強い関心を持っていたときのトレーニングに影響を受けていると思う。たくさんの細かいフレーズを作って、それぞれ重ねたり、並べたりしてひとつのモノにするようにリズムを組み立てて、それでいて、それぞれが最終的にはひとつの直線的な塊に聴こえるように目指しているんだ。僕はいつもお手本のようなプレイではなくて、自分らしいフレーズを繰り返したり、積み重ねるように心がけているよ。

今後の活動予定や目標などがあったら教えてください。

ベン:僕たちは既にいくつかのプロジェクトの準備を進めているよ。最近はVR空間をスタジオ ANRK と一緒に作っているんだ。来年公開できるように頑張っているところだよ。後はUKとヨーロッパで『ビーイング・ウェイヴズ』ツアーをするのが楽しみなんだ。パンデミックのせいで長らくツアーはできてなかったからね。あとは新曲も来年は作れたらいいなとはもちろん思っているよ!

Brian Eno - ele-king

 去る12月15日、ブライアン・イーノがロンドンのギャラリー、ポール・ストルパーと提携し、新たなアート作品を発表している。色彩の変化するLEDを搭載したアクリル製のターンテーブルがそれだ。署名入り&ナンバリング済みの、50台限定販売(すでに完売)。さまざまな色の組み合わせが発生するようになっており、すなわちこれまた彼が長らく探求しつづけてきた “自動生成” 作品のひとつということになる。
 インスタグラムに掲載されているイーノのコメントを紹介しておこう。「壁に絵がかかっているとき、とくにそれに注意を払わなかったからといって、なにかを見逃してしまったとは思わないでしょう。ですがそれが音楽や映像だった場合、わたしたちはついそこにドラマを求めてしまいます。わたしの音楽と映像作品は変化していきますが、あくまでゆっくりとした変化です。少しくらい見逃しても気にならない程度の変化なのです」。“非音楽家” の面目躍如。考えさせられます。



ELECTRONIC KUMOKO cloudchild - ele-king

 バルーチャ・ハシム&アキコの主宰するレーベル〈Plant Bass Records〉が、来年1月17日にコンピレーション『ELECTRONIC KUMOKO cloudchild』をリリースする。ふたりが創造した架空のキャラクター「KUMOKO」を、いろんなアーティストがエレクトロニック・ミュージックとして表現するというコンセプト。山口美央子&松武秀樹、サム・プレコップカルロス・ニーニョ、ジョン・テハダ、ロブ・マズレクマシューデイヴィッド、マニー・マーク、小久保隆など、USと日本から勢21人のアーティストが参加。あなただけのお気に入りの1曲を見つけよう。

[2022年1月13日追記]
 Spotify、Apple Music、Bandcamp などへのリンク先をまとめたページが公開されました。ご活用ください。
 https://plantbass.lnk.to/ELECTRONICKUMOKO

KUMOKOの世界とエレクトロニック・ミュージックの出会い。

『ELECTRONIC KUMOKO』は、2016年に初めてリリースされた『KUMOKO』コンピレーション・シリー
ズの第二弾。SunEye(アキコ&ハシム・バルーチャ)が考えた架空の雲の精霊、KUMOKOにインスパイアされた22曲のエレクトロニック・ミュージックが収録されている。

空の「大いなる目」から誕生したKUMOKOは、雲の子供であり自然界のクリエイター。KUMOKOは雲を使ってアートをクリエイトし、空を色鮮やかなに染め、雷を使って怒りを表現する。

アメリカと日本のアーティストがKUMOKOのストーリーを独自に解釈し、アンビエント、ミニマル、エレクトロ・ファンク、ダンス、エクスペリメンタル、環境音楽などあらゆるタイプのエレクトロニック・ミュージックが集結。

SunEyeが運営するレーベルPlant Bass Recordsから2022年1月17日にSpotify, Apple Musicなどからデジタルリリースが決定!

TITLE: ELECTRONIC KUMOKO cloudchild
ARTISTS: Various Artists
RELEASE DATE: January 17, 2022
FORMAT: DIGITAL
LABEL: Plant Bass Records
CATALOG NUMBER: PB005

https://plantbass.lnk.to/ELECTRONICKUMOKO

ELECTRONIC KUMOKO cloudchild Tracklist:
01. IMA & SunEye - Kumo Daisuki
02. Mioko Yamaguchi & Hideki Matsutake - KUMOKO Yume
03. Ray Barbee - Always Dreamin'
04. Sam Prekop - There is Kumoko
05. Jeremiah Chiu - Rocks Rise in Size
06. Carlos Nino & Friends - Found Scrolls of Hollow Earth (with Jamael Dean & Nate Mercereau)
07. TENTENKO - The Bug’s Dream
08. John Tejada - Kumoko’s Chase
09. BOY DUDE - KUMOKO - How can I reach you?
10. XL Middleton - Kumoko Takes To The Sky
11. YOKUBARI - Kumo Tono Kusen
12. Rob Mazurek - Future Energy Beam Song
13. Brin & Matthewdavid - imaginary creature clouds
14. Jira >< - Shores
15. lucky dragons - the wheel
16. r beny - Heart Leap
17. Yumi Iwaki & Eishi Segawa - Seed Cycling
18. Money Mark - Cloudy Kumoko
19. Takashi Kokubo - 雲を超えて-Kumo wo Koete-
20. Turn On The Sunlight featuring Thalma & Yohei - Kumoko Na Praia
21. SunEye - Yummy Cloud
22. IMA & SunEye - Kumoko Outro

参加アーティストについて:
80年代にリリースしたテクノポップ作品が世界的に注目されてい山口美央子とYMOとの活動で知られる松武秀樹、プロスケーター兼ミュージシャンのレイ・バービー、ザ・シー・アンド・ケークの活動で知られるサム・プレコップ、グラフィック・デザイナー兼ミュージシャンのジェレマイア・チュウ、ロサンゼルスの実験音楽シーンのキーパーソンであるカルロス・ニーニョ、アイドルから実験音楽家に転身したTENTENKO、LAテクノ・シーンのジョン・テハダ、ウェスト・コースト・ファンクの代表的アーティストであるBOY DUDEとXLミドルトン、ビジュアル・アーティスト兼ミュージシャンのYOKUBARI(ヒシャム・バルーチャ)、テキサス州マーファを拠点に活動するジャズ・アーティストのロブ・マズレク、Leaving Recordsのブリン&マシューデイヴィッド、新世代のジャズ・ピアニスト兼ビートメイカーのJiraことジャメル・ディーン、音楽とテクノロジーを追求するラッキー・ドラゴンズ、北カリフォルニアのアンビエント・アーティストr beny、日本で映画音楽の世界で活躍する岩城由美&瀬川英史、ビースティーボーイズやジャック・ジョンソンとのコラボで知られるマニー・マーク、環境音楽作曲家の小久保隆、フォークとエレクトロニクスを融合するターン・オン・ザ・サンライト、そして今作のキュレーターでもあるSunEyeが参加しています。

Instagram:
@kumokocloudchild
@suneyemusic
@plantbassrecords

Twitter:
@kumokosays
@suneyemusic
@Plant_Bass

ZEN RYDAZ - ele-king

 NITRO MICROPHONE UNDERGROUND の MACKA-CHIN と PART2STYLE の MaL、そして JUZU a.k.a. MOOCHY の3人から成るユニット、ZEN RYDAZ のセカンド・アルバムがリリースされている。
 ディジェリドゥや三味線、アラビック・ヴァイオリンなどが入り乱れ、ヒップホップやダンスホールやジャングルのリズムが揺らす大地の上を、多様なスタイルのラップや歌が駆け抜けていく。日本ラップのファンもベース・ミュージックのファンも要チェックです。

弛まぬ想像力によって昇華されたZEN RYDAZの2ndアルバムがリリース!

極東発HIP HOP x WORLD MUSIC!!!
新時代のベースミュージック・ユニット ZEN RYDAZ が豪華ゲストミュージシャン達と共に、廃墟の遊園地(宮城県・化女沼レジャーランド)にて満月の下繰り広げた1発撮りの奇跡のライブセッション! 朝陽へ向かう瞬間を捉えた貴重な映像作品とともにリリースされます。

https://www.youtube.com/watch?v=WnBh7LolsQw

映像制作は近年、絶景 x MUSICで話題を集めるTHAT IS GOOD。
ドローンによる風景美を得意とするチームとの連携により、独自の近未来感と映画的情緒を持つ唯一無二な作品が出来上がりました。

●ZEN RYDAZ
MACKA-CHIN, MAL, J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY)
●ゲストMC/シンガー
ACHARU, AZ3(RABIRABI), D.D.S, EVO, NAGAN SERVER, MIKRIS, RHYDA, 愛染eyezen, なかむらみなみ
●ゲストミュージシャン
GORO(ディジュリドゥ、ホーミー、口琴), KENJI IKEGAMI(尺八), KYOKO OIKAWA(アラビックバイオリン), 東京月桃三味線(三味線)

●発売開始日
2021年12月02日(木曜日)
CD: 2000円(税別)

各種サブスク、ストリーミング
https://ultravybe.lnk.to/zentrax2

CROSSPOINT bandcamp
https://crosspointproception.bandcamp.com/album/zen-trax2

NXS Shop
https://nxsshop.buyshop.jp/items/55581725

TRACK LIST
01. WISDOM 04:57
 Vocal: ACHARU / Digeridoo & Jews Harp: GORO
02. CLOUD9 03:19
 Voice: MIKRIS / Violin: KYOKO OIKAWA
03. CLOUDLESS MIND 04:22
 Voice: NAGAN SERVER / Shamisen: 東京月桃三味線 / Flute: GORO
04. KOKORO 04:33
 Voice: AZ3,EVO / Violin: KYOKO OIKAWA
05. QUEST 04:28
 Voice: RHYDA, ACHARU, NISI-P / Shakuhachi: KENJI IKEGAMI
06. SLOW BURNING 03:32
 Voice: D.D.S / Violin: KYOKO OIKAWA
07. CROSS-BORDER 04:01
 Voice: 愛染 eyezen / Turkish Flute & Jewish Harp: GORO
08. CANCANCAN 03:43
 Voice: なかむらみなみ
09. MIRRORS 04:21
 Voice: ACHARU / Violin : KYOKO OIKAWA
10. VEDA 05:36
 Voice: NAGAN SERVER & NISI-P / Shakuhachi: KENJI IKEGAMI

Total Time: 41:50

Arrangement: J.A.K.A.M.
Mix: J.A.K.A.M. (01,03,05,07,09) & MAL (02,04,06,08,10)
Mastering: Robert Thomas (Ten Eight Seven Mastering London / UK)
Logo, Illustration: USUGROW
Picture: NANDE
Photo: Nobuhiro Fukami
Design: sati.

PRODUCED BY ZEN RYDAZ (MACKA-CHIN, MAL, J.A.K.A.M.)

P&C 2021 CROSSPOINT KOKO-099
https://www.nxs.jp/

プロフィール
ZEN RYDAZ:

NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのMACKA-CHIN、PART2STYLEのMaL、JUZU a.k.a. MOOCHYことJ.A.K.A.M.
2019年、それぞれのフィールドで20年以上活動してきた同年代の個性派3人が、満を持してジャンルを越え“ZEN RYDAZ”としてWORLD MUSICをテーマに、メンバーが旅して得た世界観、常にアップデートされていく其々の感性、追及から生まれるスキルを結集し、21世紀的ハイブリッドサウンドver3.0としてここTOKYOでクラクションを響き渡らす。
MADE IN JAPANの島リズムが生み出すZEN SOUNDはバウンシーでドープそして自由な発想と飽くなき音楽魂を“禅FLAVA”に乗せ、大空高くASIA発のニューライダーズサウンドとして言葉を越え世界にアップデートされたWORLD MUSICを送信中。
https://zenrydaz.tumblr.com/

BANDCAMP
https://crosspointproception.bandcamp.com/
SHOP
https://nxsshop.buyshop.jp
WEBSITE
https://www.nxs.jp/label

MONOS 猿と呼ばれし者たち - ele-king

「MONOS(猿たち)」というのは一般的に子どもを形容するのに不適切な単語だろうが、この映画においては、まったく見事な比喩として成立している。人間のように社会化されてはいないが、しかし彼ら独自の非人間的とも言える社会を形成している者としての「猿」。なぜ少年少女の姿をした「猿」が生まれるのか……『MONOS 猿と呼ばれし者たち』は、その背景にある混沌状態を獰猛に、しかし同時に神話的に描き出す現代の戦争映画である。

 冒頭の光景からして、ただならぬ空気に覆われた映画だ。舞台となるのは雲の上に浮かぶようなコロンビアの山岳地帯で、そこで「モノス」とのコードネームを持つゲリラ兵たる少年少女たちが厳しい訓練を受けている。幻想的な画面と抽象的だが感覚を研ぎ澄まさせるようなシンセ・ミュージックがいっそう異界性を強調する。ただ、銃を持って訓練を受ける子どもたちが兵士なのだと映画を観終わっている自分はわかっているが、とりわけ映画の前半では彼らは気ままに遊んでいるだけのようにも見える。ボールを蹴り、仲間同士で取っ組み合う。キノコを食ってトリップする。仲間内で認められた「パートナー」になるという独自のルールもあるようだがキスやセックスをするのにジェンダーやセクシュアリティの規範はないようで、異性愛の枠に囚われずに無邪気に性愛を交わしたりもしている。ただ同時に、そんな子どもたちの生活には人質のアメリカ人女性を監視する役目もあり、平和な国で育つ子どもたちとは異なる「仕事」が与えられている。そうした異様な日常は均衡が保たれていたが、ある事件をきっかけにして、ずるずると極限状態のサヴァイヴァルへと突入していく。映画の舞台はジャングルへと変わり、まるで『地獄の黙示録』からアメリカン・ポップ・カルチャー的な要素を削ぎ落して原初的な生存欲求を剝き出しにしたような様相を帯びてくる。そして「猿たち」は鬱蒼とした自然のなかで、ますます文明から外れた存在へと変容していくこととなる……。

 1980年生まれの気鋭アレハンドロ・ランデス監督(ブラジル生まれで、エクアドル人の父とコロンビア人の母との間に生まれたそう)の3作目となる本作は、映像体験としても圧倒的なものを見せてくれるが、主題としても気迫がこもったものだ。監督いわく映画はコロンビアの長く続く内戦状態からインスピレーションを受けて生まれたそうだが、より具体的には、キューバ革命後にラテンアメリカでゲリラ化していった左派組織がモチーフになっているという。コロンビアのサントス元大統領は主要ゲリラ組織のFARC(コロンビア革命軍)との和平合意に署名したが、大衆に歓迎されているとは言えない状況であり、ゲリラであることが常態となってきた者たちを今後どのように社会に包摂していくかが大きな問題になっている。そして本作は、誘拐や略奪が日常となっている者たち――しかも子どもたちだ――の生きる世界を理屈でなく感覚的に味わわせるのである。こんな風にどうにか生きてきた「猿たち」は、果たして「市民」へとなれるのか?と。いや、本作のヘヴィに乾いた映像を観ていると、そんな発想すら傲慢なものに感じられてくる。猿が人間よりも劣っているなど誰が決めた? 彼らは本当にたまたまゲリラとして生きることを余儀なくされたのだから。
 まだはっきり覚えているところで自分が近い感覚を味わったのは、映画の風合いこそ違えどブラジルのクレベール・メンドンサ・フィリオ監督による『バクラウ 地図から消された村』(2019)で、そこでは強欲な政治家に支配されようとする僻村の抵抗がきわめてヴァイオレントに立ち上がっていた。暴力が日常となった共同体ではどこか寓話的な語りが生まれてくるというのが興味深いが、それだけ常軌を逸した事態がいまここに存在するということなのだろう。『MONOS』はコロンビアの内戦という特殊な状況を出発点としながらも、それをリアルなドキュメンタリー風にではなく現代の神話として見せることで、土地を限定しない「混沌」を巡る思索となった。猿と人間を分かつものがいったい何なのか、わたしたちは考えることとなる。

 そして本作の超越した佇まいをぐいぐいと高めるのがミカチュウことミカ・リーヴィによる音楽であることは間違いない。空き瓶を笛代わりにし、ティンパニの打音とストリングスの唸り声、シンセの浮遊感を混ぜ合わせたおどろおどろしくも陶酔感を孕んだ音像は、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016)の際よりさらに異様な映画音楽として観る者の精神状態を不安定にする。今年はティルザの素晴らしい新作のプロデュースを手がけたことでも話題になった彼女が、映画音楽家としても最前線に立っていることは頼もしい限りである。

予告編

interview with Gusokumuzu - ele-king

ポップだけど、そっちに流されすぎないってとこ。必ずメッセージはいれたい。負けもせず勝ちもせずもやもやしてる若者の違和感を歌いたい。

 グソクムズがセルフタイトルの1stアルバムを完成させた。東京を拠点に活動するたなかえいぞを(Vo, G)、加藤祐樹(G)、堀部祐介(B)、中島雄士(Dr)の4人組は、井上陽水や高田渡、はっぴいえんどらのDNAを受け継ぎながら、2021年の感覚でよるべない若者を描写する。77年生まれで90年代に青春を過ごした筆者は、豊かでもなく貧しくもない状態が永遠に続くと思っていた。その意味で輝かしくはないが、未来は確かにあると。だがいまの子供たちは何を思う。大半の大人が人間不信に陥り、景気も気候も悪い。おまけに未知の伝染病まで蔓延する。グソクムズの1stアルバムにはそんなディストピアをリアルに生きる若者の気持ちが描かれる。
 そんなアルバムについて、さらに今回はバンドのヒストリーをたなかえいぞをに聞いた。


今回取材に応じてくれたヴォーカル/ギターのたなかえいぞを

息してるだけでお金がなくなっていく。夢も生活もどんどん削られているのに、街はどんどん発展してでっかいのが建って。地元の吉祥寺も、下北沢も。僕はそこでうまく生活できないなって思うんですよ。

グソクムズはもともとたなかさんと加藤さんのフォーク・デュオだったんですよね?

たなか:そうです。加藤くんとは高校から付き合いでいっつもふたりで遊んでました。僕らは不良とオタクと引きこもりしかいない高校に通ってて。僕はクラスの人気者だったけど、加藤くんは日陰者でした(笑)。でも音楽の趣味というか、単純に気があったのですごく仲良くなりました。

そんな学校で人気者だったということは、たなかさんももともとはすごい不良だったとか?

たなか:いやいやいや。本物の悪い人たちはだいたい1年の1学期でいなくなっちゃうんですよ。僕は平和主義者だし。1年でやめちゃったけど大学にも行ったし。

音楽にはどのようにハマっていったんですか?

たなか:原体験は両親ですね。いま65歳なんですが、家で60~70年代のカーペンターズとかサイモン&ガーファンクルとかがよくかかってたんです。そういうのを自然に聴いてたから、60~70年代の雰囲気がいちばん馴染むんですよね。高校とかだとまわりはワンオクとかセカオワを聴いてました。僕はそういう人たちとも仲が良くて、音楽のことは加藤くんと濃く話してた感じですね。彼はすごく音楽に詳しくて。井上陽水や高田渡も加藤くんが教えてくれました。そこから僕もどんどん音楽にのめり込んでいった感じですね。

フォーク・デュオを結成した経緯は?

たなか:高校を卒業したあとよくふたりで公園で焚き火しながら朝まで話したりしてたんですよ。七輪を買ってきて、なんかを焼いて食べたり。その流れで、ある日加藤くんがギターを持ってきたんですよ。そこで一緒に陽水さんのカヴァーしてるうちに「スタジオいこう」みたいなノリになったのがきっかけですね。

バンド名は当時からグソクムズだったんですか?

たなか:いや当時は別の名前でした。でもカッコ悪いのであんまり言いたくない。スタジオに通ううちに友達伝いで「ライヴやるから出ない?」って誘われたんですよ。フライヤーに名前をクレジットしなきゃいけなくて、僕らは名前なんて決めてなかったから適当につけたんです。グソクムズという言葉に当初の痕跡は残ってます(笑)。

「やるぞ!」というよりゆるく形になっていったんですね。

たなか:そうです。ニュアンス的には加藤くんと、マーシー(真島昌利)の『夏のぬけがら』みたいなバンドにしようぜって話してたんです。その名残として、グソクムズにもアコースティックな雰囲気が残ってるんだと思う。

バンド編成になったのは?

たなか:やってくうちに「もっとこうしたい」みたいな気持ちになってきて、通ってたスタジオの店員さんがギターで加入したんですよ。ギター3人組。その人はいま僕らのマネージャーをしてくれてます。で、その後、同じスタジオに来てた加藤くんの先輩だった二個上の堀部さんが加入します。巷では楽器がうまくて有名だったんですよ。その後ドラムはなかなか決まらず、いろんな人とスタジオに入ったけどなんか合わなくて。そこで最終的にスタジオの店員だったナカジさん(中島雄士)を誘ってようやくいまの4人組になりました。

『グソクムズ』は演奏面、楽曲面ともに1stアルバムとは思えない安定感のある作品だと思いました。

たなか:いわゆる初期衝動みたいなものは、それこそ加藤くんとふたりでやってた頃に作ったシングルで出しちゃったからだと思います(笑)。堀部さんもナカジさんもいろいろなバンドを経てのグソクムズだったりするし。アルバムを聴いて安定感を感じていただいたのだとしたら、そのへんが出てるんじゃないかな。あと僕らはかなり細かく作品を作り込んでいくタイプなんですよ。

スタジオに集まってセッションしながら作っていくのではなく?

たなか:はい。コロナだからスタジオに行けなかったというのはあるんですが、僕らは基本的に全員が作詞作曲するんですね。加藤くんは歌えないけど、グソクムズ以前は堀部さんもナカジさんもそれぞれギターを弾いて歌ってたんですよ。そんな感じで、昔はみんなで一緒にスタジオに入って、それぞれ作ってきた曲を披露する会とかもしてたんですけど、いまはそれぞれが宅録して納得できるデモができたら、LINEのグループトークにデータを投げて、「これいいね」ってなったらあれこれ話しながらこつこつと完成度を高めていく形で作っています。

なるほど。本作は統一感があるけど、同時に音楽的な幅も感じたんです。それがメンバー全員の個性なんですね。

たなか:ですね。例えば1曲目の “街に溶けて” は堀部さんが作りました。この曲はフォークっぽいけど、彼は黒人音楽やメタルも好きで、幅広く音楽を聴くんですね。8曲目の “グッドナイト” も堀部なんですけど、これはベースがグイグイいわしてる。

“街に溶けて” にはいちばんはっぴいえんどを、“グッドナイト” にはいわゆるシティ・ポップらしさをいちばん感じました。

たなか:堀部さんはモテ曲が多いんですよ(笑)。

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はっぴいえんどはアングラすぎるし、山下達郎はトレンディすぎる。グソクムズはその中間がいい。それにメンバー全員が井上陽水さんを好きなので、その色は消したくない。だからシティ・フォークと言ってるんです。

MVにもなった “すべからく通り雨” は誰が?

たなか:ナカジさんですね。夏に「曲を作ろっか」とデモを持ち寄ったとき、全員一致で「これはA面だね」っていうくらいポップ。

たなかさんが作詞作曲したのは?

たなか:“迎えのタクシー”、“そんなもんさ”、“濡らした靴にイカす通り” です。今回のアルバムは事前にシングルとしてリリースしてた “夢が覚めたなら”、“街に溶けて” に加えて、“すべからく” や “グッドナイト” みたいな、バンドとして強い曲、柱になる曲を入れようという話になったんですよ。僕と加藤くんはバンドの幅を表現する曲を作っていった感じですね。

“迎えのタクシー” はアルバムのなかでいちばん土臭い雰囲気がありますね。

たなか:僕はもっとポップな感じで作りたかったんですよ。でも僕はこのスケールのフレーズしか弾けないから、とりあえずデモを作って、あとはみんなにいい感じにしてもらおうと思ってたんです。そしたら「なんでこのコード進行にこのギター・フレーズなの?」って突っ込まれて。しかもフレーズが採用されて、コードを換えてるんですね。だからこの曲は前半がブルースっぽくて、後半がポップスっぽいんです。

この感じすごい好きでした。“そんなもんさ” にも通じますが、たなかさんの曲はちょっとやさぐれた雰囲気がありますね。

たなか:“そんなもんさ” はコード進行と歌詞だけはずっと自分のなかにあって。作ったのは結構前ですね。僕は基本的にいつもいっぱいいっぱいなんです。キャパシティもそんな大きくないほう。どの曲もしっかりと作り込みたい気持ちはあるけど、忙しいとすぐ「疲れたなあ」と思っちゃう。根がいい加減なんです。それでこういう歌詞になりました。でも今回のアルバムにはいいかなと思ってみんなに聴かせた感じですね。僕らは4人が作詞作曲するから、みんなのなかに「グソクムズらしさ」があるんですよ。

「グソクムズらしさ」とは?

たなか:共通する部分もあってそこがアルバムの統一感に繋がってると思うんですが、同時にそれぞれのバックグラウンドや考え方で微妙に違うとこもある。僕が思うのはポップだけど、そっちに流されすぎないってとこ。必ずメッセージはいれたい。負けもせず勝ちもせずもやもやしてる若者の違和感を歌いたい。僕はグソクムズの違和感担当ですね。

高校時代は人気者だったのに?

たなか:学生の頃の僕は何も考えてなかったんですよ(笑)。だけどバンドで生きていこうとなってからは考えることが多くなりました。その感じが出てるのが “濡らした靴にイカす通り” です。僕は革靴が好きなんですけど、お金ないからあまり手入れできない。息してるだけでお金がなくなっていく。夢も生活もどんどん削られているのに、街はどんどん発展してでっかいのが建って。地元の吉祥寺も、下北沢も。僕はそこでうまく生活できないなって思うんですよ。違和感を感じるし、置いていかれる気持ちになる。

ライヴハウスの音が良かったり、歌ってて気持ちが良かったりすると歌詞を忘れちゃうんですよ。昔はそういう自分が嫌でライヴ自体が苦手でした。けど、コロナ前くらいから「楽しければなんでもいいか」と思えるようになった。

表現するようになって、現実や自分と向き合うことが多くなった?

たなか:それもあるけど、やっぱバンドを本気でやるようになってからですね。最初は他力本願なとこがあって、週1でライヴしてればレーベルの誰かが見つけてくれてなんとかなっていくんだろうと思ってたんです(笑)。でも当たり前のように世の中そんな甘くなくて。ライヴハウスのブッキング・ライヴに出ても友達しか呼べない。他のバンドも友達を呼んでる。当時の僕らは、まあいまもなんですが、お金が全然なくてMVを作れなかった。仮に(僕らのことを)気になってくれたとしても、探す術がないんですよね。そんな状態でいくらブッキング・ライヴに出ても意味ないなと思った。ノルマ代も、練習スタジオ代もバカにならなかったし。だから僕らは3年前にライヴをやめて、そのお金を全部制作につぎ込むことにしました。レコーディングして、MV作って YouTube にアップして。

まさに「夢も生活もどんどん削られている」なかで、ドラスティックに活動スタイルを変えたんですね。

たなか:自分たちの甘えもありましたけど(笑)。とはいえ、バンドをやってたり、夢を持って生きてる人にはいまって生きづらい世の中だと思う。この曲(“濡らした靴~”)は、「でもイカした生き方ができるんだぜ」って思いで書きました。僕が書いた曲は割と僕がリアルタイムで感じてることが反映されてるかもしれないです。普段から感じてることや使いたい表現をいつもメモしてて。僕は曲先でも詞先でもない。そのときに口ずさんだものが曲になっていく。さっき言われたように、曲を書いてて何かと向き合って気づくこともあるし、「あれ? 変だぞ」って違和感をそのまま歌にすることもある。これは後者ですね。

ライヴは今後もやらないスタイルで活動していくんですか?

たなか:いや来年からはやる予定です。昔は僕がライヴが苦手だったんです。僕、ライヴハウスの音が良かったり、歌ってて気持ちが良かったりすると歌詞を忘れちゃうんですよ。今回のアルバムだと加藤くんが作った “夢が覚めたなら” とか。彼はメロディーとリズムにあった言葉を並べてくのに長けてる人。だからあの曲は歌っててめっちゃ気持ちいい。たぶんライヴでやると確実に歌詞が飛んじゃうタイプの曲(笑)。でも昔はそういう自分が嫌でライヴ自体が苦手でした。けど、コロナ前くらいから「楽しければなんでもいいか」と思えるようになったので、いろいろ収束したらどんどんライヴをやっていきたいです。

ちなみに仲が良いバンドやアーティストはいますか?

たなか:The Memphis Bell ってブルース・バンドと、工藤祐次郎さんですね。工藤さんとはコロナもあって全然会えてないんですが、最後にお会いしたときは一緒にやりたいねと言ってくださっていて。

グソクムズは街に心象を重ねる描写も多く、今後いわゆるシティ・ポップの文脈で語られるような気がします。それについてはどう思いますか?

たなか:僕らは最初から自分たちの音楽をシティ・フォークって言い張ってたんです。そういうジャンルがあるのかわかんないけど(笑)。もちろんはっぴいえんども山下達郎も好き。でも僕らの感覚だと、はっぴいえんどはアングラすぎるし、山下達郎はトレンディすぎる。グソクムズはその中間がいい。それにメンバー全員が井上陽水さんを好きなので、その色は消したくない。だからシティ・フォークと言ってるんです。

シティ・フォークってグソクムズの音楽性にぴったりですね。では最後に今後の抱負を。

たなか:今回のアルバムは正直自信作です。かなりしっかり作り込みました。でも来年には2ndアルバムに向けて動き出すつもり。まずはこの1stアルバムをいろんな人に聴いてもらいたいですね。


グソクムズが吉祥寺・渋谷の3店舗でインストアイベントを開催! 松永良平(リズム&ペンシル)に加えて柴崎祐二(音楽ディレクター/評論家)、レコードショップ店員等からのコメントも到着!

12/15(水)に吉祥寺の新星 "グソクムズ" が、1stアルバム『グソクムズ』をリリース。吉祥寺・渋谷のレコードショップ3店舗で観覧フリーのインストアイベントを開催することが決定しました。

・12月19日(日) 14:00 at HMV record shop 吉祥寺
・12月25日(土) 16:30 at タワーレコード吉祥寺
・1月30日(日) 16:00 at タワーレコード渋谷

そして松永良平(リズム&ペンシル)に加えて柴崎祐二(音楽ディレクター/評論家)、レコードショップ店員等からのコメントも到着。特設サイトよりご覧いただけます。

[グゾクムズ インストアイベント詳細/特設サイト]
https://special.p-vine.jp/gusokumuzu/

・グソクムズ - すべからく通り雨 (Official Music Video)
https://youtu.be/TE-rqPUvyuM
・グソクムズ - グッドナイト (Official Music Video)
https://youtu.be/n8LwWJvvDd4

[リリース情報①]
アーティスト:グソクムズ
タイトル:グソクムズ
レーベル:P-VINE
品番:PCD-22443
フォーマット:CD/配信
価格:¥2,420(税込)(税抜:¥2,200)
発売日:2021年12月15日(水)

トラックリスト
01. 街に溶けて
02. すべからく通り雨
03. 迎えのタクシー
04. 駆け出したら夢の中
05. そんなもんさ
06. 夢が覚めたなら
07. 濡らした靴にイカす通り
08. グッドナイト
09. 朝陽に染まる
10. 泡沫の音 (CD盤ボーナストラック)

[リリース情報②]
アーティスト:グソクムズ
タイトル:グソクムズ
レーベル:P-VINE
品番:PLP-7776
フォーマット:LP
価格:¥3,520(税込)(税抜:¥3,200)
発売日:2021年12月15日(水)

トラックリスト
A1. 街に溶けて
A2. すべからく通り雨
A3. 迎えのタクシー
A4. 駆け出したら夢の中
A5. そんなもんさ
B1. 夢が覚めたなら
B2. 濡らした靴にイカす通り
B3. グッドナイト
B4. 朝陽に染まる

[プロフィール]
グソクムズ:
東京・吉祥寺を中心に活動し、"ネオ風街" と称される4人組バンド。はっぴいえんどを始め、高田渡やシュガーベイブなどから色濃く影響を受けている。
『POPEYE』2019年11月号の音楽特集にて紹介され、2020年8月にはTBSラジオにて冠番組『グソクムズのベリハピラジオ』が放送された。
2014年にたなかえいぞを(Vo / Gt)と加藤祐樹(Gt)のフォークユニットとして結成。2016年に堀部祐介(Ba)が、2018年に中島雄士(Dr)が加入し、現在の体制となる。
2020年に入り精力的に配信シングルのリリースを続け、2021年7月に「すべからく通り雨」を配信リリースすると、J-WAVE「SONAR TRAX」やTBSラジオ「今週の推薦曲」に選出され話題を呼び、その後11月10日に同曲を7inchにてリリース。そして待望の1stアルバム『グソクムズ』を12月15日にリリースすることが決定。
HP:https://www.gusokumuzu.com/
Twitter:https://twitter.com/gusokumuzu
Instagram:https://www.instagram.com/gusokumuzu/

Richard Dawson & Circle - ele-king

 ここ5年ほどの間のエレキングで紹介されていた音楽のなかで、自分にとって最大の発見のひとつがリチャード・ドーソンだった。人びとから忘れ去られていたフォークロアを土から掘り起こして手製の火鍋でグツグツ煮こんだような『Peasant(小作人)』(2017)は時代が時代ならフリーク・フォークと呼ばれていたかもしれないが、そう呼ぶときの神秘的な雰囲気よりももっと煤けた人間臭さがあったし、中世をコンセプトにしたという奇抜な発想にもたちまち惹きつけられた。サウンド的にもストーリーテリング的にも独特すぎて時代錯誤なのか時代超越的なのかもよくわからない、聴けば聴くほどに彼が作り上げる世界へと迷いこむ感覚があったのだ。
 あるいは、2019年の個人的なベスト・ソング “Jogging” (『2020』収録)は鬱をテーマにした曲で、メンタル・ヘルスの改善のためにジョギングをはじめた小市民のぼやきが語られる。そこで描写される彼の憂鬱は曖昧なものだが、どうやらその原因のひとつに近所のクルド人家族の家に嫌がらせがおこなわれ、警察もそれをほったらかしにしていることがあるのがわかってくる。社会に対する無力感が根にあるのだ。そしてドーソンは間延びした声で歌うのである、「あー、ぼくはパラノイアに違いない」と。パブ・ロックを演奏しようとしたおじさんが酔っぱらいすぎた結果、ハード・ロックとシンセ・ポップをごちゃ混ぜにしたような音で。そんな風に、ドーソンの歌は小さな人間たち──それは現代人の場合も過去の人間の場合もある──の人生の虚しさや悲しさをつぶさに描きつつも、絶対にユーモラスな語りと音を手放さない。

 本作はそんな異色のシンガーソングライターたるリチャード・ドーソンとフィンランドのロック・バンドであるサークルのコラボレーション・アルバムだ。オルタナティヴ・メタル・バンドだと紹介されていることの多いサークルのことをまったく知らなかったので何作か聴いてみたが、サイケデリックなフォーク・アルバムがあったり、かと思えば激ヘヴィなギター・ロック・アルバムがあったりして正体がよくわからない。が、メタルというよりプログレ・バンドと呼ぶほうがまだ近い感じがあり(アヴァン・ロックと呼ばれたりも)、その雑食性からドーソンと馬が合ったのかもしれない。
 そして本作『Henki』は、風変りな者同士の組み合わせを存分に楽しむように、ありとあらゆるところに脱線が仕込まれた奇天烈なロック・アルバムになっている。オープニングの “Cooksonia” はドーソンらしいユルく脱臼したフォーク・チューンながら、“Ivy”、“Sliphium” と進めばハード・ロック、クラウト・ロック、ジャズ・セッションとコロコロと展開を変えていく。メタル・バンドらしく(?)シアトリカルな意匠も多く、そのなかで、もともとオクターヴを行ったり来たりするドーソンの素っ頓狂な歌唱がより大仰に炸裂する。そしてその様が……ものすごく笑える。海外の評にはノイ!とジューダス・プリーストが同居しているなんて書かれているものもあり、字面だけ見るとそんなバンドあってたまるかと思うけれど、実際に存在すると可笑しくて仕方ない。シングル曲 “Methuselah” でドーソンがハイトーンで絶唱すれば、ここぞというタイミングでギター・ソロがギュイギュイ鳴らされ、自分のなかに存在していなかったはずのハード・ロック魂が燃え盛りそうになる。ロックのクリシェをパロディでやっているのか本気でやっているのか掴みかねるところがあり、だんだんそれが気持ちよくなってくるのである。

 その “Methuselah” は世界最古の木を発見しようとする男の物語とのことで、ある意味では、気候変動についての歌として読むこともできるかもしれない。意識の高いメインストリームのポップ・シンガーが気候変動について歌うことも珍しくない現在にあっても、ドーソンの語りはやっぱり、ずば抜けて変だ。ただ、その示唆に富んだストーリーテリングは聴き手の想像力を掻き立てるところがある。アルバム・タイトルの「Henki」はフィンランド語で「精神、霊」の意味で、曲名はすべて植物の名前がつけられられているそうだが、たとえばアルバム中では存外に叙情的なジャズ・ロック・ナンバー “Silene” は3万年以上前にリスが埋めた種がロシアの研究者の手によって発芽したという逸話がモチーフになっているという。なぜドーソンはそんな妙な話を引っ張ってくるのか? わからない。わからないがしかし、植物をテーマにすることによって、人間の営みのちっぽけさを表そうとしたのではないかと自分には思える。ドーソンの歌には、そうだ、いつも人間の存在そのものの物悲しさが張りついている。
 それでも、アルバムのラスト3曲──“Methuselah”、“Lily”、“Pitcher” を続けて聴き、オペラ的にドラマティックな歌唱まで飛び出してくる頃には大笑いしてしまう。語りも面白いが、何より音がユーモラスなのだ。サウンドそのもので笑わせてくれる音楽は貴重だし、飄々とした逸脱というか、常識から大幅に外れるひとたちがナチュラルに朗らかな表現を達成している様は胸がすくものがある。このエキセントリックなロック音楽には、主流を外れてしまう人間を愉快な気持ちにさせる力が秘められているから。

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