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Sam Prekop

Electronica

Sam Prekop

Comma

Thrill Jockey / HEADZ

デンシノオト   Sep 17,2020 UP

 ザ・シー・アンド・ケイクのサム・プレコップ、新作アルバム『Comma』がリリースされた。レーベルはおなじみ〈Thrill Jockey〉から。日本盤は〈HEADZ〉から発売された。

 ザ・シー・アンド・ケイクではシンガーでもあるサム・プレコップだが、2010年に発表されたエクスペリメンタルな電子音楽『Old Punch Card』以降は、唯一無二のクリーン・ヴォイス/ヴォーカルを封印し、エレクトロニック・ミュージックを追及してきた。電子音への徹底的な耽溺ぶりはシンガーの片手間と風情は微塵もなく、電子音楽家サム・プレコップの誕生とでも形容したいほどでもあった。
 じっさいミニマルなシンセ・アンビエントな2015年の『The Republic』も、2019年にリリースされたジョン・マッケンタイアとのコラボレーション(マップステーションとのスプリット)EPも、どこを切ってもエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックだった。
 いま、サム・プレコップの10年にも及ぶ電子音楽家としての歩みを振り返ると、電子音に対してピュアな悦びを感じているように感じられる。音を出す喜びに満ちているのだ。くわえてエクスペリメンタルでノイジーな電子音、シンセ・アンビエントなど時代のモードに対しても絶妙な目配せも効いていた。このバランス感覚は見事だ。

 最新ソロ作である本作『Comma』もまたインストゥルメンタルのエレクトロニック・ミュージック・アルバムだ。テクノ~エレクトロニカをベースにしつつ、ときに環境音楽のムードやモジュラーシンセを取り入れている。不思議な懐かしさと、そして明日への希望を合わせ持ったモダンなサウンドのエレクトロニック・ミュージックといえよう。
 1曲め “Park Line” を再生すると、眩い陽光のようなシンセサイザーの向こうから規則的なビート/リズムが鳴っていることに気が付くはず。電子音楽化以降のサム・プレコップのソロでははじめてビート/リズムが全面的に展開しているのだ。『Old Punch Card』や『The Republic』にあったノイジーでエクスペリメンタルな要素はやや影を潜め、エイフェックス・ツインの歴史的傑作『Selected Ambient Works 85-92』『Selected Ambient Works Volume II』や、日本の環境音楽として再評価されてきた尾島由郎、イノヤマランド、清水靖晃などから影響を受けた電子音楽世界を展開しているのである。この参照音源の卓抜なキュレーション・センスは90年代から個性的な演奏家・音楽家であるだけではなく、レコードコレクター/リスナーとしても一流だったシカゴ音響派のセンスの底力(?)を感じられた。アルバムを一聴したときには黄金の80年代と革新の90年代を継承し、2020年代エレクトロニック・ミュージックを生み出そうとするかのような意志を感じてしまったほどだ。
 なによりインストながら非常にポップな印象のアルバムとなっている点が重要である。いわば2020年代におけるYMO的なポップネスを体現しているのだ。

 どこまでも続く真夏の青空を見上げるような1曲め “Park Line”、サムなりのテクノを追求したような美しいエレクトロニクスと跳ねるようなリズムが展開する2曲め “Summer Places”、ガムランを思わせる細やかなリズムが気持ち良い3曲め “Comma” と最上級のエレクロニック・トラックが続く。4曲め “September Remember” は、夏の記憶を懐かしむような浮遊感に満ちたアンビエント・トラックで「新・環境音楽」とでもいうべき繊細なサウンド・レイヤーがとにかく美しい。5曲め “The New Last”、6曲め “Approaching” もサウダージ感に満ちたエレクトロニック・ポップ。テリー・ライリーがエレクトロニカ化したかのごときミニマル・ノンビートの7曲め “Circle Line” を経て、精密な音響による現代的なエレポップな8曲め “Never Met” へと行きつく。そして伸びやかなシンセ・サウンドによるアンビエントな9曲め “Wax Wing” から最終曲 “Above Our Heads” へと至る。この “Above Our Heads” は2分27秒と短めの曲だが、リズムとアンビエント/アンビエンスとシンセの音色が見事に交錯している素晴らしいトラックで、間違いなくアルバムの重要曲だ。
 ちなみに “Above Our Heads” のMVを手掛けたのは『デスマッチ 檻の中の拳闘 Donnybrook』という映画を監督したティム・サットン。ティム・サットンはかつてサムのセカンド『Who's Your New Professor』の “Something” のMVも手掛けていたし、サム・プレコップもティム・サットンの長編デビュー作『Pavilion』の音楽も担当としているのだから、たがいを良く理解している関係なのだろう。じじつ “Above Our Heads” のMVでも見事に曲の本質が表現されていた。まさに夏の終わりを慈しむような、そして人生の明日を祝福するようなエンドレス・サマーの夕焼けを感じてしまう曲なのである。

 全10曲(日本盤にはボーナス・トラックとして軽やかにして浮遊感に満ちた “Parallels” を収録。ジョン・マッケンタイアがミックスも手掛けた新曲)、その独自の浮遊感はアルバムの隅々まで行き渡り、彼のヴォーカル入りのソロ『Sam Prekop』(1997)、『Who's Your New Professor』(2005)などの傑作アルバムの本質を継承しているようにも思えた。いわばドリーミーな浮遊感と自分の生きている現実を肯定する喜びの力が共存しているのだ。
 ミックスをジョン・マッケンタイア、マスタリングをNYの老舗アンビエント・レーベルにもなった〈12k〉を主宰するテイラー・デュプリーが担当。サム・プレコップとテイラー・デュプリーとの協働作業は今回が初らしい(そう思うと本作はエレクトロニカ史的に重要なアルバム)。

 ともあれモジュラーシンセや Roland SH-101、JUNO-106 などを駆使したトラックには電子音の特有の気持ち良さが横溢している。音楽性は異なるがジム・オルークの『I'm Happy, And I'm Singing, And A 1, 2, 3, 4』(2001)にも連なる電子音楽のポップネスと実験性を体現したアルバムだ。「ポップな電子音楽を満喫したい!」という方にもぜひとも聴いていただきたい。

デンシノオト

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