「AY」と一致するもの

東京国際映画祭レポート - ele-king

 今年の東京国際映画祭は、ドナルド・トランプが米大統領選での勝利宣言をした同じ日に閉幕するという不運に見舞われた。トランプの勝利は、マイノリティや女性の権利、ウクライナ・パレスチナ情勢、世界の民主主義、そして地球環境の未来にまで深刻な影響を及ぼすものとなるだろう。そのような事態を前にして、日本を代表する映画祭はあまりにも小さく感じられた。

 東京国際映画祭(TIFF)がそもそも話題性の高いイベントであるというわけではない。TIFFという略称からしても、1ヶ月先に開催されるトロント国際映画祭(同じくTIFF)の影に隠れてしまいがちだ。毎年、東京国際映画祭のコンペティション部門で上映される外国映画のうち、日本で劇場公開されるのはほんの一握り。しかも、最高賞にあたる東京グランプリを受賞しても、配給会社が見つかる保証はない。

 しかし、今年最高賞を取った吉田大八監督の『敵』は、2005年以来、日本映画として初めてグランプリを受賞した作品であり、その心配は無用だろう。以下に、その作品と、今年上映された注目すべき映画について簡単にご紹介する。

『敵』

 吉田大八監督はこれまで駄作を撮ったことはないが、この作品は彼の最高傑作と言えるかもしれない。筒井康隆による1998年の小説を映画化した今作は、その穏やかな滑り出しから、後にシュルレアリスムへと突入する衝撃的な展開をみせる。長塚京三は、退職した大学教授を演じ、その日常生活が徐々に、そして最終的には劇的に破綻してゆく様を見事に演じきり、主演男優賞を受賞。このラストは、ルイス・ブニュエルや、ダーレン・アロノフスキーの『マザー!』を彷彿とさせるほどである。トランプ当選のニュースを聞いた後、再びこの映画を鑑賞したのだが、作品が描く死生観や、謎の「敵」に関する噂、そして大量の難民であふれかえる社会の描写は、さらに不吉なトーンを帯びていた。
(2025年1月17日劇場公開:https://happinet-phantom.com/teki/) 

『トラフィック』

2024 © MINDSET PRODUCTIONS – LUNANIME – LES FILMS DU FLEUVE – BASTIDE FILMS – FILMGATE FILMS – FILM I VÄST – AVANPOST MEDIA – MOBRA FILMS
119分/カラー/ルーマニア語、オランダ語、英語/日本語、英語字幕/2024年/ルーマニア、ベルギー、オランダ

 西欧と東欧の格差を赤裸々に描いたテオドラ・アナ・ミハイ監督の社会派ドラマ。ルーマニア人ギャング集団がロッテルダムの美術館から多数の文化財を盗み出したという2012年の事件を基に制作。前半はオランダが舞台で、窃盗集団の1人の内縁の妻(最優秀女優賞を受賞したアナマリア・ヴァルトロメイ)に焦点を当てており、後半よりも面白い。この映画では、裕福な西欧において、出稼ぎに来る移民たちが二流市民として扱われている様子が容赦なく描かれているが、その一方で、彼らの母国にも深刻な不平等が存在することも取り上げられており、そのような背景を思えば、ピカソの作品がどうなろうと、取るに足らないことのように思えてくる。

『雨の中の慾情』

©2024 「雨の中の慾情」製作委員会
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
11月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

 昭和の時代に描かれた、変態チックでシュールな漫画は、現代の映画制作者に対して「健康を害する可能性あり」という注釈を添えるべきかもしれない。台湾を舞台にした片山慎三監督の映画は、つげ義春の作品いくつかを翻案したものだが、手塚眞が監督した『ばるぼら』と共通する難点があった。最先端の映像技術や、時折織り込まれるドリーミーな空想シーンを駆使しても、時代錯誤的な性描写を美化することはできないのである。さらに、この映画は(現実というものがあるとすれば)現実が何なのかという感覚を揺るがそうと躍起になっているせいで、こちらとしては、結局、何もかもがどうでもよくなってくる。しかし、この作品は散漫・雑然としながらも、見どころのない映画というわけではない。例えば、大日本帝国陸軍による大虐殺を描いた豪勢なシーンなど、現代の日本映画ではあまりお目にかかれないような場面もある。 
(11月29日劇場公開:https://www.culture-pub.jp/amenonakanoyokujo/

『アディオス・アミーゴ 』

118分/カラー/スペイン語/日本語、英語字幕/2024年/コロンビア

 イヴァン・D・ガオナ監督による、マカロニ・ウェスタン風のコロンビア映画。昔懐かしい西部劇の雰囲気が色濃く出ているが(主人公たちのやけに汗ばんだ顔がやけにアップで映るなど)、一筋縄ではいかない展開で予想外の方向へと進み、人類は暴力行為から脱却できるのかという話になる。そして、「イエス・キリスト」という名の先住民シャーマンによって与えられる天然の幻覚剤を大量に摂取することで、復讐に燃えていた登場人物たちに、平和を考える余地が生まれてくる。あまりテンポがよいとは言えないが、『アディオス・アミーゴ』のラストは力強く、パラレルワールドでのメキシカン・スタンドオフ〔訳注:互いに武器を向け合ったまま誰も動けない状態〕で締めくくられ、セルジオ・レオーネというよりもアレハンドロ・ホドロフスキーに近い。

『レイブンズ 』

© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films
2025年3月28日よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国ロードショー

 伝記映画『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』に続き、マーク・ギルが制作したこの作品も、悩める芸術家の姿を描いているが、その内面には踏み込めていない。『レイブンズ』は、2時間という上映時間内に、芸術家のキャリアすべてを詰め込もうとするという、ありがちな罠にはまっている。特に、写真家・深瀬昌久のような複雑な人物を扱うとなると、その取り組みはさらに困難なものとなる。この映画は、深瀬役の浅野忠信と、深瀬の妻でありミューズでもあった洋子役の瀧内公美の安定した演技が支えとなり、映像も良く仕上がってはいるが、どこかありきたりな印象が残る。ギルの最も大胆な試みは、深瀬を突き動かした闇の衝動を具現化したことであり、それはホセ・ルイス・フェラーがヴォイスオーバーを務めた、人間サイズのカラスという形を成しているのだが、このカラスは、残念なことに漫画『DEATH NOTE』の死神に酷似している。(2025年3月劇場公開:https://www.ravens-movie.com/

『黒の牛』

2024年/日本=台湾=アメリカ/114分/シネマスコープサイズ/5.1chサラウンド/白黒&カラー
配給:ALFAZBET、ニコニコフィルム、ムーリンプロダクション

 東京国際映画祭でデビュー作『祖谷物語―おくのひと―』が上映されてから10年あまりを経て、蔦哲一朗監督はさらに素晴らしい2作目で返り咲いた。『黒い牛』は、19世紀後半、日本近代化の波に翻弄される山男(リー・カンション)の物語を通して、禅の悟りへの道を描いた作品。70mmフィルムで一部撮影されたモノクロ映像には独特の質感があり、その一方で、音響効果はサイケデリックな域にまで達している。それ加えて、ただただ唖然とするような場面もあったので、この作品は、ぜひとも大画面・大音量で鑑賞していただきたい。

Tokyo International Film Festival Report

written by James Hadfield

This year’s Tokyo International Film Festival had the misfortune to wrap up on the same day Donald Trump declared victory in the US presidential election. In the face of an event that’s likely to have such dire consequences – for minorities, women’s rights, Ukraine, Palestine, global democracy and the state of the planet itself – Japan’s preeminent film festival felt awfully small.

Not that TIFF tends to be a major news event anyway; even its acronym ensures that it’s forever in the shadow of Toronto’s more high-profile festival, which takes place a month earlier. Only a handful of the non-Japanese films screened in competition each year go on to receive a theatrical release here; even winning the top Tokyo Grand Prix is no guarantee of finding a distributor.

That won’t be an issue for this year’s winner, Daihachi Yoshida’s “Teki Cometh,” which became the first Japanese film to take the festival’s top prize since 2005. Here are some brief notes on that, and a few of the other notable movies that screened this year.

Teki Cometh (敵)

Yoshida has never made a bad film, but this might be his finest hour. The director’s adaptation of a 1998 Yasutaka Tsutsui novel starts so gently, its later turn into surrealism comes as a shock. Kyozo Nagatsuka deservedly won the Best Actor award for his portrayal of a retired professor whose domestic harmony starts to unravel, first slowly and then spectacularly, in a final act that recalls Buñuel and even Darren Aronofsky’s “Mother!” Watching it for a second time, after getting the news about Trump’s electoral win, the film’s rumination on mortality and its depiction of a society awash with rumours of a mysterious “enemy” and hordes of refugees took on an even more ominous tone.
(Released theatrically on January 17, 2025: https://happinet-phantom.com/teki/)

Traffic (Reostat)

Europe’s east-west divide is laid bare in this anti-thriller by Teodora Ana Mihai, based on a 2012 heist in which a Romanian gang made off with a clutch of priceless artworks from a museum in Rotterdam. The first, and stronger, half of the movie is set in The Netherlands and focuses on the common-law wife of one of the thieves (Anamaria Vartolomei, who won the Best Actress prize). The film is merciless in its depiction of the second-class status afforded to migrants in the affluent West, though also attentive to the stark inequalities that exist in their native country – compared to which, the fate of a Picasso painting starts to look rather insignificant.

Lust in the Rain (雨の中の慾情)

Kinky, surreal manga from the Showa era should probably come with a health warning for contemporary filmmakers. Shinzo Katayama’s Taiwan-set drama, loosely adapted from several stories by Yoshiharu Tsuge, suffers some of the same problems as Macoto Tezka’s “Tezuka’s Barbara.” Superior tech specs and occasional bursts of dreamlike visual imagination can’t gloss over some retrograde sexual politics, while the film works so hard to undermine our sense of what (if anything) is real that none of it seems to matter any more. This sprawling, messy movie isn’t without its highlights, though, including a lavish set-piece depicting an Imperial Army killing spree – not something you see often in modern Japanese cinema.
(Released theatrically on November 29: https://www.culture-pub.jp/amenonakanoyokujo/)

Adios Amigo (Adiós al amigo)

This Colombian spaghetti western from Ivan D. Gaona goes hard on the throwback vibes (the faces are extremely close and extremely sweaty), but takes a circuitous route to an unexpected destination, where what’s at stake is whether or not people can move on from violence. It takes some liberal doses of all-natural psychedelics – dispensed by an Indigenous mystic named Jesus Christ – to get the film’s vengeful characters to a point where they might consider giving peace a chance. While the pacing is a little off, “Adios Amigo” ends strong, with a Mexican standoff in a parallel dimension, more Jodorowsky than Leone.

Ravens

Mark Gill’s follow-up to Morrissey biopic “England is Mine” is another portrait of a tortured artist that doesn’t get past the surface. “Ravens” falls into the familiar trap of attempting to squeeze a whole career into a two-hour runtime, which is a particularly fraught undertaking when you’re dealing with a figure as problematic as photographer Masahisa Fukase. The film looks good, and is grounded in solid performances by Tadanobu Asano as Fukase and Kumi Takiuchi as his wife-slash-muse, Yoko, but it ends up feeling oddly generic. Gill’s boldest step is to give a literal manifestation to the dark impulses that drove Fukase, which take the form of a man-sized raven, voiced by Jose Luis Ferrer, who bears an unfortunate resemblance to the Shinigami from “Death Note.”
(Released theatrically in March 2025: https://www.ravens-movie.com/)

Black Ox (黒の牛)

Over a decade after his debut film, “Tale of Iya,” screened at TIFF, Tetsuichiro Tsuta returned with an even more impressive sophomore feature. “Black Ox” sets out to depict nothing less than the path to Zen enlightenment, through the story of a mountain man (Lee Kang-sheng) who comes spiritually adrift during Japan’s late-19th century modernisation. Shot partially on 70mm film, the monochrome imagery has a tactile quality to it, while the sound design pushes things to almost psychedelic heights. There are sequences that left me slack-jawed: it’s worth seeing on the biggest screen, and with the loudest speakers, possible.

Playing Changes - ele-king

 ネイト・チネンによる『変わりゆくものを奏でる(Playing Changes)』のことを知ったのは、2018年にピッチフォークに掲載されたインタヴュー記事においてだった。「ジャズはかつてのような商業的魅力はないが、新世紀のジャズは創造性の爆発的な高まりを特徴としている」——つまり、1950年代のジャズのように音楽的娯楽の主流の座にはいないし、60年代のようにモードやフリーのような革命が起きているわけではない。しかし、こんにちのジャズは、かつてないほどあらゆる影響が注がれて、その創造性の高まりにおいて特徴を持っているとチネンは主張している。ジャズが文化エリートからの承認を得て久しいが、いまのジャズは、むしろジャズの正統的な歴史と格闘しているかのような、雑食性をいとわないジャズのなかにこそ面白さがあるという意見には共感する(スティル・ハウス・プランツにはジャズの影響があるし、注目の若きサックス奏者、ゾウ・アンバ擁するBeingsを聴いてもそれは感じる)。そして、それは本書が、カマシ・ワシトンにはじまり、ディアンジェロやフライローをジャズの側面から評価し、メアリー・ハルヴォーソンで終わっていることが象徴的に思える。

 長年、ニューヨーク・タイムズ紙でジャズを担当してきたチネンにとって、ジャズについて書くこととは、たんに読者にすすめる必聴盤を何百枚も選んで紹介することではなく、その背景と議論の道筋を見せながら紹介することだった。だからこの本は、「21世紀のジャズ」についての本であり、その主要アーティスト/主要作品を紹介する本ではあるが、話は1960年代にも飛ぶし、文脈を辿っている。わかりやすく言えば、カマシ・ワシトンについて語ることはアリス・コルトレーンについて触れなければならない。しかし同時に彼にはアリスにない現代的な雑食性がある。

 前世紀のジャズの言語でいまは語れないし、いま起きていることにまだ批評言語が追いついていないという思いがチネンの本の背景にはあるようだが、ぜひ本書を読みながら、現代のジャズを楽しんでもらいたい。巻末には、2000年から2024年までの必聴盤のリストもあります(日本版のために最新のものまで追記してくれた)。

 情報量がすごいので、読むのは時間がかかります。でも、その分、長時間楽しめるでしょう。ネイト・チネン著『変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ』(坂本麻里子訳)は11月27日発売

カマシ・ワシントンからウィントン・マルサリス、
ロバート・グラスパーにエスペランサ・スポルディング、
そしてブラッド・メルドーにメアリー・ハルヴォーソン……

アメリカにおいてジャズは21世紀になってどのように変わり、
そしてどのように変わらないのか……
刊行と同時にすべての米国主要メディアから絶賛された名著がいよいよ上陸!

元ニューヨーク・タイムズ紙のジャズ批評家
ジャズ・ジャーナリスト協会選定の優秀執筆賞の13回受賞、
アメリカ屈指のジャズ批評家である著者が、
その博識と気品ある文体をもって21世紀ジャズの魅力を解説する

※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作のリスト付き

(本書より)
ジャズは常に最先端を探究してきたし、複数の領域にわたり実験をおこなってきた。その点は、過去はもちろん現在も同様だ。しかし前衛の修錬と形式上の発明は今や著しい度合いで主流にまで巧みに浸透し、ジャズの美学的な中心をずらしてしまった。骨董品収集めいたホット・ジャズ熱──懐古趣味を堂々と認め、誇りとする者たちの領域──の復興ですら、多言語的なハイパーモダニズムを志向する現潮流、予想外の混合物と集合体を目指すトレンドをせき止めることはできない。

(登場するアーティスト)
カマシ・ワシントン、ウィントン・マルサリス、セシル・マクロリン・サルヴァント、ブラッド・メルドー、エスペランサ・スポルディング、ジョシュア・レッドマン、ジョン・ゾーン、ティム・バーン、ジャック・ディジョネット、ポール・モチアン、ウェイン・ショーター・クァルテット、ジェイソン・モラン、マーク・ターナー、オーネット・コールマン、ヴィジェイ・アイヤー、ロバート・グラスパー・エクスペリメント、フライング・ロータス、ジェフ・パーカー、エスペランサ・スポルディング、シャバカ・ハッチングス、モーゼス・ボイド、リオーネル・ルエケ…………そしてメアリー・ハルヴォーソン…………(ほか多数)

四六判/440頁

■目次

序文
1 政権交代
2 フロム・ディス・モーメント・オン
3 アップタウン、ダウンタウン
4 山を演奏する
5 新たな年長者たち
6 ループされるギャングスタリズム
7 ジャズを学ぶ
8 侵入し急襲せよ
9 変わってゆく同じもの
10 露出
11 十字路
12 スタイルの対決
後書き
※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作

[著者プロフィール]
ネイト・チネン(NATE CHINEN)
ネイト・チネンはジャズに関して20年以上執筆してきた。ジャズ・ジャーナリスト協会の選ぶ「Helen Dance–Robert Palmer Award for Excellence in Writing」賞を13回受賞した彼は、『ニューヨーク・タイムズ』で12年にわたり音楽に関する報道をおこない、『ジャズタイムズ』でも長期連載コラムを執筆した。2017年にWBGO〔※ニュージャージー州のジャズ専門公共ラジオ局〕の記事製作責任者となり、オンライン報道を指揮する一方で、NPRミュージック向けに幅広いジャズ番組の企画に貢献している。著名なジャズ興行主である、ジョージ・ウィーンの自伝『Myself Among Others: A Life in Music』(2003)を共著し、また音楽評論家アレックス・ロスの編集した「Best Music Writing 2011」にも文章が収録されている。妻とふたりの娘と共に、ニューヨーク州ビーコン在住。

[訳者プロフィール]
坂本麻里子
1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。ロンドン在住。訳書にコージー・ファニ・トゥッティ『アート セックス ミュージック──コージー・ファニ・トゥッティ自伝』、ジョン・サヴェージ『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも──ジョイ・ディヴィジョン ジ・オーラル・ヒストリー』、マシュー・コリン『レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』、ジェン・ペリー『ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』、ハンナ・ロス『自転車と女たちの世紀』、マーク・フィッシャー『K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ』『K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治』、ほか多数。

11月のジャズ - ele-king

 エチオピアン・ジャズのパイオニアであるムラトゥ・アスタトゥケは、2009年に〈ストラット〉のコラボ・セッション・シリーズ『Inspiration Information』でザ・ヒーリオセントリックスと組んで以来、LAの〈モチーラ〉が企画した『Timeless』でミゲル・アットウッド・ファーガソン、ブランドン・コールマンフィル・ラネリン、エイゾー・ローレンス、ベニー・モウピンらと共演し、その後もロンドンのアレキサンダー・ホーキンス、バイロン・ウォーレン、トム・スキナーらによるステップ・アヘッド・バンド、メルボルンのジャズ・ファンク&ヒップホップ・バンドのブラック・ジーサス・エクスペリエンスなど、さまざまなアーティストとのコラボをおこなってきた。

Mulatu Astatke And Hoodna Orchestra
Tension

Batov

 新作の『Tension』は、イスラエルのテル・アヴィヴを拠点とするフードナ・オーケストラと共演する。フードナ・オーケストラの正式名称はフードナ・アフロビート・オーケストラで、総勢12名からなるバンドだ。ディープ・ファンクからソウル・ジャズ、サイケ・ロックなどの影響を受け、これまで2枚のアルバムをリリースしているが、2017年にエチオピアのシンガーであるテスファイエ・ネガトゥと共演してから、エチオ・ジャズに感化されるようになった。アフリカの中でもエチオピアはイスラエルや中東とも文化圏的に接しており、もともとの音楽性に類似点が見られるところでもある。そして、ムラトゥ・アスタトゥケとのセッションを熱望するようになり、そうして『Tension』のレコーディングに漕ぎつけたのである。

 レコーディングは2023年初頭にムラトゥをテル・アヴィヴに招いておこなわれた。収録された6曲はすべてこのレコーディング用に書き下ろされたもので、ディープ・ファンク系レーベルの〈ダプトーン〉創設者であるニール・シュガーマンがプロデュースを担当。荘厳な出だしに始まる“Tension”は映画音楽風のスリリングな作品で、ムラトゥの神秘的なヴィブラフォンとグルーヴィーに疾走するフードナ・オーケストラの演奏がマッチする。“Yashan”はエチオ・ジャズ特有のエキゾティックなメロディが印象的で、煽情的なテナー・サックスのソロに対し、ムラトゥの演奏は幻想性を帯びていて、そうした演奏のコントラストも味わえる。そして、ディープでサイケデリックなグルーヴを放つ“Dung Gate”、クリフォード・ブラウン作曲のジャズ・スタンダード“Delilah”のラテン・ジャズ的なアレンジなど、非常に充実したセッションとなっている。


Flock
Flock II

Strut

 フロックはタマラ・オズボーン(サックス、クラリネット、フルート)、サラティー・コールワール(ドラムス、タブラ)、ダン・リーヴァーズ(エレピ、キーボード、シンセ)、ベックス・バーチ(ヴィブラフォン、シェーカー、ベル、ゴング他)、アル・マックスウィーン(ピアノ、シンセ)と、ロンドンのジャズ、フリー・インプロヴィゼーション、エクスペリメンタル・シーンで活躍するミュージシャンによるセッション・バンド。アフロビートとフリー・ジャズを結びつけたカラクターのタマラ・オズボーン、サッカー96ザ・コメット・イズ・カミングで実験的なエレクトロニック・ジャズを創造するダン・リーヴァーズ、ジャズ、インド音楽からテクノ、グライムなど異種の音楽を融合するサラティー・コールワールと、それぞれ個性溢れるミュージシャンが集まった民主的なプロジェクトである。2022年にファースト・アルバムをリリースし、この度セカンド・アルバムをリリースした。

 ロンドンのスタジオで1日で録音したファーストに対し、セカンドは西ウェールズのドルイドストーンの田園地帯にある教会を改築したスタジオで、1週間に渡るセッションの中で制作された。自然環境に恵まれた中で、イマジネーションやインスピレーションがより豊かに育まれたセッションであったことが想像される。“Cappillary Waves”はアフロビート的なビートと重厚なバリトン・サックス、エレクトロニックなキーボード&シンセ群によるコズミック・ジャズ。“Turned Skyward”はディープな音響空間に神秘的なフルートが舞うアンビエント・ジャズで、“A Thousand Miles Lost”も同様に抽象性に富む静穏な世界が描かれる。“Meet Your Shadow”はフリーキーなサックス・インプロヴィゼーションがサイケデリックなシンセ群と即興演奏を繰り広げる。“Large Magellanic Cloud”はダブやニューウェイブなどを通過したトリッピーな世界で、エクスペリメンタル・シーンで活躍するメンバーならではの楽曲。全体的にはエレクトロニクスを交えたアンビエントな世界と、サックスやフルートなどのフリーフォームなインプロヴィゼーションが鍵となるアルバムだ。


Anna Butterss
Mighty Vertebrate

International Anthem Recording Company

 マカヤ・マクレイヴンダニエル・ヴィジャレアルなどのアルバムに参加し、ジェフ・パーカーのETAカルテットというグループのメンバーでもあるベーシストのアンナ・バターズ(https://www.ele-king.net/news/011494/)。シカゴ・シーンと繋がりが深い彼女ではあるが、活動の拠点はロサンゼルスで、ラリー・ゴールディングスのような大物ミュージシャンから、やはり彼女と同じくLA~シカゴを股にかけて活動するサックス奏者のジョシュ・ジョンソン(彼もジェフ・パーカーETAカルテットのメンバー)などとも共演している。これまでダニエル・ヴィジャレアル、ジェフ・パーカーとの共演作『Lados B』などをリリースしてきているが、ソロ名義のアルバムとしては2022年の『Activities』以来の2枚目のアルバムとなるのが『Mighty Vertebrate』である。

  『Mighty Vertebrate』のレコーディングはカリフォルニアのロング・ビーチのスタジオでおこなわれ、ジョシュ・ジョンソンとジェフ・パーカーも参加するなど、ジェフ・パーカーETAカルテットに近い形でのセッションとなっている(ちなみに、ETAカルテットとしては今年頭にライヴ録音による『The Way Out Of Easy』というアルバムをリリースしている)。“Bishop”はグルーヴ感に富むベース・ラインが印象的で、ジャズ・ファンク、ジャズ・ロックなどのミックスチャー的なナンバー。ポスト・ロック、ジャズ、実験音楽などを縦断して活動してきたジェフ・パーカーの近くにいる、アンナ・バターズらしい曲と言えるだろう。“Shorn”もジャズとオルタナ・ロックの中間的な作品だが、アンナ・バターズはベース以外にギター、フルート、シンセ、ドラム・マシーンなどを演奏していて、この曲でもシンセなどをオーヴァーダビングし、エフェクトも多用したサウンド・クリエイターぶりが発揮される。ジェフ・パーカーが参加した“Dance Steve”や、ミスティカルなムードに包まれた“Saturno”は、最近クローズ・アップされることの多いアンビエント・ジャズ的な作品。“Saturno”などはリジョイサーやバターリング・トリオなどイスラエルのアーティストの作品に近いものを感じさせる。


Svaneborg Kardyb
Superkilen

Gondwana

 マシュー・ハルソールの〈ゴンドワナ〉は、近年はマンチェスターやイギリスのみならず、ベルギーやポーランドなど他国のアーティストの作品もリリースしていて、スヴェインボゥグ・カーディーブはデンマークのアーティスト。鍵盤奏者のニコライ・スヴェインボゥグとドラマー&パーカッション奏者のジョナス・カーディーブ・ニコライセンによるユニットで、北欧のジャズとデンマークの伝統音楽を融合し、エレクトロニクスを用いたアプローチで現代的に表現する。地元の〈ブリック・フラック〉というレーベルから2019年に『Knob』でデビューするが、このアルバムはE.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)やトール・グスタフセン、ヤン・ヨハンソンなどのスカンディナビアン・ジャズの系譜を引き継ぎ、ニルス・フラーム的なポスト・クラシカルなエレクトロニック・ミュージックを融合していると評論家たちから高評価を博し、デンマークのジャズ音楽賞などを受賞した。

 〈ブリック・フラック〉から2枚のアルバムを出した後、〈ゴンドワナ〉から2022年に『Over Tage』をリリース。そして、〈ゴンドワナ〉から2枚目となる最新作が『Superkilen』である。“Superkilen”はゴーゴー・ペンギンポルティコ・カルテットなどを思わせる作品で、アンビエントなテクノとジャズが融合したような世界を見せる。ちなみに曲名はコペンハーゲンのノレブロ地区にある公園にちなんでいる。多様な民族が住むコペンハーゲンにおいて、移民と地元民の交流の場として親しまれている公園だそうで、そうした寛容と団結のムードを音楽として表現している。“Cycles”は抒情的なメロディがデンマークの民謡を想起させるもので、E.S.T.や〈ECM〉の作品に近いイメージ。今回はアンビエントなジャズを幾つか紹介したが、スヴェインボゥグ・カーディーブもそうしたアーティストのひとつと言えよう。

Fishmans - ele-king

 先日、mouse on the keysのライヴのために来日したロレイン・ジェイムスもフィッシュマンズのCDをタワレコで購入していました。人気ですね〜。来年、2025年2月19日には、未発表音源を集めたボックスが出ます。1987年のバンド結成初ライヴほか貴重なライヴ音源、未発表曲、デモ、ZAKによる最新ミックス音源など、フィッシュマンズの軌跡を音で辿るドキュメンタリー。3CD+Blu-ray+36PブックレットをLPサイズに収めたBOX仕様。

商品概要
フィッシュマンズ
HISTORY Of Fishmans
2025 年2月19日(水)発売
仕様:LP サイズ BOX 仕様 (Audio 3CD + Blu-ray + 36P ブックレット)
品番:UICZ-9246
価格(税込):13,200 (税抜:12,000)
発売元:ユニバーサル ミューシック合同会社

企画・監修_ 茂木欣一
Mix & Sound Restoration_ ZAK
アートワーク & デザイン_ 伊藤桂司
〈収録予定内容〉
Disc1 : CD [1987-1991] 結成初期/貴重なライヴや未発表曲、デモ音源などを収録
Disc2 : CD [1992-1995] メジャー・デビューから移籍前の貴重なライヴ音源、バンドデモを収録 Disc3 : CD [1997-1998] ポリドール移籍/未発表ライヴ音源を収録
Disc4 : Blu-ray(映像) ※内容未定

〈解説〉
奇跡のバンド、フィッシュマンズ。
 フィッシュマンズは1991年、バンド・ブームの最中「ヴァージン・ジャパン」(ポニーキャニン)の第一号アーティストとしてメジャーデビュー。レゲエやロックステディ、ダブに影響を受けたロックバンドとして多くの名曲を残した。なかでも“いかれた Baby”は昨今、ラヴァーズ・ロック界隈はもとより、アンセム・ソングとして有名無名に関わらず多くのアーティストにカヴァーされている。その後、「ポリドール・レコード」に移籍。東京/世田谷にあった〈ワイキキビーチハワイスタジオ〉と称したプライベート・スタジオで製作された、“世田谷3部作”と呼ばれる3枚のアルバムで独自のサウンドを確立。なかでも約35分/1曲収録という『LONG SEASON』は、サブスク解禁とともに世界中で評価されることになった。1998年12月28日の赤坂 BLITZでの公演が実質最後のライウとなり、後にその音源と映像は商品化され(『男たちの別れ』)、『LONG SEASON』とともに世界中で圧倒的評価を得る。
 1999年のボーカル佐藤伸治の逝去とともに活動を停止していたが、2005年の"RISING SUN ROCK FESTIVAL"で再始動。メイン・ヴォーカルをドラムの茂木欣一の他、ゲスト・ヴォーカルを迎えて断続的にライブ活動を行っている。『映画:フィッシュマンズ』映像関係者有志の発案で、クラウドファンディングにより制作。歴代メンバー、関係者へのインタビューを交え、当時の貴重な映像、2019年リハーサル~ライブ映像を収録したドキュメンタリー映画として制作。約3時間の⻑編かつコロナ禍での公開ながら口コミで評判を呼び、全国展開され動員1万5千人超、ミニシアターランキング1位を記録した。
 本作 『History OfFishmans』は、『映画:フィッシュマンズ』がバンドの軌跡を映像で追った作品であるならば、バンドの軌跡を“音”で追った作品となる。茂木欣一による企画・監修の元、デビュー前の貴重な音源からラジオ出演時の同録、未発表ライウや゙デモテープを、カセットテープやDAT、マルチテープなどから2年をかけてデジタル・アーカイヴ化、茂木自身のインタビューによる全曲解説も付属した渾身のBOXである。

ライヴ情報 フィッシュマンズ史上最大規模のワンマンライヴ Fishmans "Uchu Nippon Tokyo"
2025年2月18日(火) 会場:東京ガーデンシアター
Open/18:00 Start/19:00

[チケット]
前売 :8,800(tax in)イープラス・ローソンチケット・チケットぴあにて発売中!
Ticket sales for OVERSEAS fans https://ib.eplus.jp/fishmans
[info]
SOGO TOKYO 03-3405-9999 https://sogotokyo.com/
東京ガーデンシアター

FISHMANS are
茂木欣一(Dr,Vo) / 柏原譲(Ba) / HAKASE-SUN(Keyb)/ 木暮晋也(Gt) / 関口“dARTs”道生(Gt)/ 原田郁子(Vo)


フィッシュマンズ 公式サイト http://www.fishmans.jp/
フィッシュマンズ X @FISHMANS_JAPAN
フィッシュマンズ insta @fishmans_official
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Indigenous Resistance - ele-king

 ウガンダのインディジェナス・レジスタンス(IR :: Indigenous Resistance)、地球上の先住民文化の声、音、アイデアを取り入れた、政治意識の高いレコードの制作に専念する、地理的に分散した謎のミュージシャン集団。もうひとりのDUBの使徒。IRにとっての「DUB」は手法ではない。レコードのB面の哲学である。つまり、「反対側」の世界を見せること。つい先日はこのレジスタンス運動の同志である春日正信と邂逅した模様(近々、インタヴュー記事を公開予定)。
 そのウガンダのIRの新作は、Jazzy Sportの日本人DJ、マサヤ・ファンタジスタとの共作、国境を越えたソリダリティー、これが素晴らしく格好いい。ぜひ聴いて欲しいです。

 夢はダブになる。だが大量虐殺は現実だ
 IR::Indigenous Resistance (Masaya Fantasista Mix) によるサウンドトラックをはじめ、
・Indigenous Resistance のアルバム IR 71 Dreams Are Dub But Genocide Is A Reality
・ジョシュア・アリベット監督による IR (Masaya Fantasista Mix) のサウンドトラックが付いた同名の映画「Dreams Are Dub Genocide Is A Reality」
・IR の本 IR 66 Mongolia Dub Journey

 以上は、インディジェナス・レジスタンスのBandcampページ https://dubreality.bandcamp.com にて12月の最終週には入手可能。
 映像は東アフリカ、ウガンダのセネネにて、ジョシュア・アリベットが監督、撮影、編集した。
 脚本はWhen Vision Meets Dub Architectureが担当している。

 パレスチナを解放せよ。スーダンの虐殺を阻止せよ。

 姉妹たちよ、賢明なる教師ビラルは私にこう言った。
 私たちの周りで続く不正義を容認するなら、すべての祈りと断食は無駄になってしまう。
 だからこそ、この言葉を心に深くとどめておいてほしい。
 夢はダブ、そして美しい。だが、大量虐殺は現実だ。

 以下、IRからのノート——————

 Jazzy Sportのレーベル・ディレクターの一人でもある日本人DJ、マサヤ・ファンタジスタが、国際音楽フェスティバルで演奏するためにモンゴルに来ていた。彼は私の友人であるボルドーの旧友で、ダンゴルレコード(Dundgol Records)の夜間音楽スペース兼カフェの公式オープンで演奏する予定だった。そこで、日曜日の午後、ボルドーは私をマサヤに紹介し、次のような紹介をした。
 「この兄弟はここに住んでいます。ガイド付きツアーに参加したことも、ジープを借りたこともなく、ガイドを雇ったことも、グループで旅行したこともありません。モンゴルの人々と話をしたりコミュニケーションをとったりして、彼らのことを知ろうとしているだけです。そして、どうでしょう?彼は結局、見たいと思っていた場所をすべて見て、そこにたどり着いたのです。しかし、モンゴルの最高にクールで壮大な景色を見ることよりも、人々を理解しようとすることが彼にとって最も重要なことなのです」
 通常、ボルドーが私について人びとにこう言うと、彼らの顔には完全に当惑した表情が浮かぶのですが、マサヤはただ微笑んだだけでした。彼がすぐに理解したのが私には分かりました。
 マサヤは本当に静かで温かいダブを醸し出していて、私たちはすぐに音楽の話になり、似たようなつながりがあることにすぐに気付きました。彼は私たちの音楽仲間であるデトロイトのテクノの反逆者アンダーグラウンド・レジスタンス(UR)と非常につながりがありました。実際、彼が日本からデトロイトに行ったとき、実際に私たちの知り合いの家に泊まりました。彼がフェラ・クティのドラマー、トニー・アレンを日本に連れてきた責任者の一人だったことを明かしたとき、ダブのつながりはさらに深まりました。まあ、私がフェラ・クティ自身と個人的につながりがあったことを知って、彼は本当に驚き、大喜びしました。
 私たちは群衆から離れて、個人的に話をしました。モンゴルで私に起こった神秘的なダブについて、とてもオープンで流れるような会話ができました。
その夜、私は彼がミニマルなアフロハウスのセットをDJしているのを見ました。すぐに気づいたのは、彼がセットに彼独自のリズムと存在感を刻み込んでいる方法でした。私の意見では、彼は観客にアピールしているのではなく、印象的なミキシング、ブレイク、クリエイティブなセレクションで独自の音楽の旅をしていました。彼は観客を追いかける人ではなく、むしろその逆でした。私はその姿勢が大好きでした。その夜遅く、私は彼のDJバッグにDubdemがデザインした特別なモンゴルIR Tシャツを忍ばせて、「これは君への当然のサプライズであり贈り物だよ、兄弟!」と言いました。私たちはIRの仕事について話し、彼は言いました。

 2024年のアメリカについて日本の方々に知ってもらいたいことがひとつあるとしたら、今回の選挙における選択肢に、私たち多くのアメリカ人が熱狂していたわけではなかったという点だ。
 まず一方には、近年でもっとも忌み嫌われた政治家、ドナルド・J・トランプがいた。彼はかつて、2004年にスタートしたリアリティ番組『アプレンティス』(※参加者が「見習い」として働き、最後に採決される)において「お前はクビだ!」と叫ぶ役を演じ、それで一躍、アメリカで有名人になった、億万長者のペテン師である。2024年に早送りすると、後期資本主義の典型であるこの人物は、なぜか労働者階級からの支持を得て現状に至っている。支持層の多くは白人の地方住民——おそらくは私たちの社会では一括りにしても問題のない唯一のグループ、無学で人種差別的な「田舎者」たち——で、2024年の選挙ではラテン系や黒人層にも右傾化が顕著に見られた。結果、トランプは国民投票と議論の的となる選挙人団の両方で勝利を収めたわけで、多くのアメリカ人の心に彼のポピュリスト的メッセージが響いたことは否定できない。
 もうひとりの候補者は、2020年の大統領選で民主党予備選挙において支持を得られなかったカマラ・ハリスだった。アメリカ史上初の女性副大統領であるが、しかし、女性である私としては、黒人女性を副大統領に起用したバイデンの人選が「フェミニズムの勝利」などという幻想を抱くようなものではないことを承知している。また、ハリス氏が女性であるからといって、彼女が女性の利益を代弁するなどとは一瞬たりとも考えたこともなかった(事実、民主党はオバマ政権時から妊娠中絶に関する法改正の機会を持っていながら優先事項とせず、最初の任期中に却下した)。もしその女性が優れたアイデアと能力を認められて当選したのであれば、アメリカ社会は真の男女平等を達成したと言えただろう。悪名高いことに、彼女は電撃的な選挙キャンペーン中、ほとんどインタヴューに応じなかった。数少ないそのなかには、ニュース番組『60ミニッツ』も含まれていたが、番組では、彼女の当初の極めて親イスラエル的な立場を隠すように編集されていた。また、彼女の具体的な政策に関心のあるインタヴュアーに対しては、「ウェブサイトを見てください」と答えるのみだった。
 トランプは、過去10年間の大半を大統領選に費やしてきたと言えるような、誇大妄想的なおしゃべり屋だ。彼を打ち負かすのは難しくないはずだった。が、“政策(ポリシー)”ではなく“権力(ポリティクス)”に頼ってアメリカ人の半分を味方につけようとするのは、明らかに勝利のための戦略とは言えない。

 理由はふたつある。第一に、民主党が(アメリカ)国民に対して誠実でなかったこと、そしてそれが私たち(私のような真の左派を自認する人びとを含む)の多くを遠ざけてしまったことだ。アメリカの民主党は決して「左派」ではないことをここに明確にしておきたい。実際には、経済政策に関しては穏健中道、あるいはやや右派だ。しかも、アメリカの主流メディアは民主党に支配され、バイデンや民主党への批判を「保守派の陰謀」に過ぎないとした。また、バイデンの明らかな認知機能の衰え、米国(およびその他の国々)におけるインフレの蔓延、犯罪の増加、そして不法な人権侵害の国境問題は「陰謀説」であって、それも右派によるものとした。現在の平均的な民主党員によれば、右翼であることはナチスであることを意味する。

 そのようなレッテルを貼られるのを避けるために、自分の信念を検閲した人はたくさんいると思う。私もそのひとりだ。なぜなら、私の食料品代は2020年以来ほぼ2倍になっているのに、アメリカは無意味な代理戦争にふたつも関わっている(そればかりか大量虐殺に積極的に資金を提供)。2022年には、私が利用するニューヨーク市の地下鉄駅で起きた集団銃撃事件で10人が撃たれ29人が負傷した、私は何ヶ月も電車に乗るのが怖かった。アメリカの“信頼できる”メディア、たとえば『ニューヨーク・タイムズ』などによると、これらの懸念はすべて私が「右派の白人至上主義者だから」ということになるらしい。
 私が、民主党がトランプを打ち負かすことができなかった理由としてふたつ目に挙げるのは、あからさまな偽善だ。私はドナルド・トランプの内閣や気候に対する態度、最高裁の保守的な人選、1月6日の議会襲撃事件など、数え上げればきりがないが、これらすべてに深い不快感を抱いている。しかし、民主党がヒステリックに主張する「自分たちに投票すれば、ファシズムからアメリカを何とかして救うことができる」という主張は疑わしい。なぜなら、真の左派の候補者たち(とくにコーネル・ウェストやロバート・F・ケネディ・ジュニア、ただしイスラエルに対する姿勢を除いて)は、討論会はおろか、予備選挙にも参加させてもらえなかったからだ。ハリス自身も民主党候補として選出されたわけではない。今年6月のトランプとの討論会の惨憺たる結果によってバイデンの老いがもはやアメリカ国民に隠しきれなくなった後、ようやく戴冠されたに過ぎない。
 トランプは厳密には有罪判決を受けた犯罪者だが、それは捜査を受けたからだ。それに対して、バイデン一家が関わっていると想像される違法な不正行為には驚かされるばかりだ。とくに彼の息子ハンターのノートパソコンにウクライナや中国との家族ビジネスに関するメッセージが含まれていたという噂が事実だったことを考えると——もっとも、その話はアメリカの主流メディアによって大幅に検閲されていたが。
 民主党が自らの権力を脅かす人物を攻撃しようとしたのは今回が初めてではない。民主党と共和党が同じコーポラティズムの硬貨の表裏であることは、何年も前から明らかであった。例えば、バーニー・サンダースの階級意識を意識したキャンペーンは、2016年と2020年の両方で民主党に支配されたメディアによって組織的に破壊された。そして2024年には、ロバート・F・ケネディ・ジュニアの型破りながらも力強いキャンペーン・メッセージ、すなわちアメリカ政治に蔓延する腐敗と取り組むというメッセージも、ナチス(すなわち民主党員と認めない者)からの言論の自由を守ることを主張する「左翼」メディアによって同様に粉砕された。バーニーの選挙運動と同様に、ケネディ・ジュニアの政策も検閲され、ワクチン反対派の気違いじみた戯言にすぎないものに貶められた。なぜなら、彼もバーニー同様、“アイデンティティ”ポリティクスではなく“階級”ポリティクスによって、実際にアメリカの分裂を埋めようとしていたからだ。
 結局のところ、真の左翼であれば、抑圧の本質的な交差点は「階級」だと教えるだろう。カマラ・ハリスの集会でビヨンセやトゥワークをするミーガン・ジー・スタリオンを登場させても、生活費が手頃になるわけでも、パレスチナの戦争が終わるわけでもない。

 注目すべきは、選挙運動が失敗に終わっていた際に、この国を悩ませている政治的分裂の解消を模索して、ケネディ・ジュニアが民主党と共和党に接触したことである。民主党は彼を無視したが、トランプは最終的に彼に閣僚への参加を要請した。

 民主党は過去8年間、自分たちに反対する人びとの知性や人間性を侮辱してきたという不名誉な実績がある。ヒラリー・クリントンは、自分たちに投票しない人たちを「憐れむべき人びとの巣窟(the basket of deplorables)」と呼び、バイデンは先月、彼らを「ゴミ(garbage)」と呼んだ。私の友人でさえ「トランプに投票する人は悪だ」と宣言している。私が貧しい田舎の白人アメリカで育ち、そこで暮らす大多数の人たちは、ただ生活を営み、そっとしておいてほしいと願う善良で勤勉な人たちであることを知っているからかもしれないが、私は民主党が「蜂を捕まえるには酢よりも蜜を使った方がよい」(*)という古い諺を聞いたことがないのではないかと思わずにはいられない。

 私はふたつの出来事を決して忘れないだろう。どちらも私の政治的信条に影響を与えた出来事だ(私は環境問題に関心があり、所得の平等、中産階級および労働者階級の生活の質に維持、女性の権利に関心があり、アメリカの海外における植民地主義的な存在を排除することに関心があり、性的暴行容疑のある人物には投票しない。民主党がその事実を隠そうとしても、ジョー・バイデンもその対象だ)。
 最初の出来事は2016年、いまは亡き祖父に「なぜトランプに投票するのか」と尋ねた。
 「私は実はバーニーのほうが好きなんだ。でも、トランプには勢いがあるし、ワシントンDCには変化が必要なんだ。民主党の連中は自分たちがみんなにとっていちばん良いことをわかっているつもりだが、そんなことはない。政府は小さく保つべきなんだ」
 「なぜ小さく保つ必要があるの?」と私は尋ねた。「国民皆保険(ユニバーサル・ヘルスケア)制度は必要ないの?」
 「それはいいな」と祖父は言いました。「でも、郵便物を確実に送ってもらいたいなら、米国郵便公社ではなくフェデックスのようなサービスを利用しなければならない。政府のウェブサイトにアクセスしても、動きが遅すぎて使えない。それに政府の電話番号にかけても、何時間も保留音が鳴りっぱなしだ」
 彼の言うとおりだ、と私は思った……
 「では、もし政府が医療を提供したら?  まあ、おそらく世界最悪の医療だろうね」
 オバマが 全国民向け医療制度を試みた際、健康保険に加入できない人には700ドル以上の罰金を科されることを考えると、私も同意せざるを得ないかもしれない。

 ふたつ目の出来事は、私が日本の音楽の博士号を取得するために在籍していたコーネル大学の大学院の仲間たちと、2016年の選挙後のパーティで過ごしたときのことだった。 大学院生たちは、トランプに投票した人たちは無学で愚かで、——そしてまたあの言葉が出てきたわけだが——、邪悪(evil)だ、などと不満を漏らしていた。
 「トランプに投票した人と話したことがある人はいる?」と私は尋ねた。
 「いるわけないだろ!」と彼らは声を張り上げ、誇らしげに言った。「なぜそんなことをする?」
 「まあ、もしそうしたら」と私は言った。「みんなあなたたちをエリート気取りのろくでなしの集まりだと思うだろうね」そして私はその場を去った。
 過去最悪のパーティでの出来事。

 私としては、これは希望の持てる出来事だと考えている。民主党がなぜ負けたのかについて、引き続きよく考えてほしいと願っている。共和党は、相手候補があまりにもひどかったからこそ自分たちが勝てたのだということを知ってほしいと願っている。そして、私は米国が最終的に現実的な第三政党を誕生させることを願っている。私はこれまで3回の大統領選挙でそうした政党に投票してきた。なぜなら、今年のアメリカ大統領選挙の茶番劇が示すように、民主党と共和党は同様に堕落しているからだ。
 おそらくほとんどのアメリカ人が私の意見に賛成してくれると思う。

(*)物事をうまく進めたり人を惹きつけたりしたいなら、批判や冷たさよりも、親切や優しさで接するほうが効果的だという意味のことわざ。

American Politics: There Are No Good Guys in 2024

Written by Jillian Marshall

If there’s one thing I wish Japanese people could know about Americans in 2024, it’s that most of us were not excited about the choices in this election.
On the one hand was the most reviled politician and public figure in recent memory. Yes, Donald J. Trump: the billionaire grifter who cemented his fame in America on a reality TV show called The Apprentice, where he screamed “you’re fired!” at contestants. Fast forward to 2024, and this poster child of late-stage capitalism somehow found his political base in working class America: the very people exploited by the system that rewarded him. And while that base was largely white and rural — perhaps the only group in our society it’s OK to make sweeping judgements about (uneducated, racist rubes, they are!) — this year’s election saw significant rightward movement in Latino and Black populations as well. Having won both the popular vote and the somewhat controversial electoral college, it’s undeniable that Trump’s populist messaging evidently spoke to the majority of American voters.
On the other hand was a candidate so unpopular during her 2020 presidential bid that she received zero votes in the Democratic primary: Kamala Harris, the first woman vice president in American history. But as a woman, I’m under no illusions that Biden’s explicitly tokenistic appointing of a Black, female vice president was any kind of “feminist victory”— nor did I believe for a second that Harris would serve women’s interests simply because she herself is one (Democrats have had the chance to codify pro-abortion legislation into our constitution since the Obama administration, which Obama himself dismissed as a “non-priority” during his first term). If anything, I’d believe that American society achieved true gender equality if a woman got elected by recognition for her good ideas and competency— neither of which Harris demonstrated. Infamously, she gave very few interviews during her blitzkrieg campaign — including one with news program 60 Minutes that was actually edited to redact her original, highly pro-Israel stance— and dismissed interviewers interested in her specific policies to “go to her website.”
Trump is a megalomaniacal blowhard who has spent most of the past decade vying for presidency. It shouldn’t be hard to outwit him, but banking on politics instead of policy to win over half of America is, evidently, not the winning strategy.
The reason why is twofold. First is the Democratic Party’s inability to be honest with the (American) public, and how this has alienated many of us— including people, like me, who identify as true leftists. Let me first clarify that the American Democratic Party is not truly “left”; it’s actually moderate-center or even slightly right on economic policies. At the same time, mainstream media in the US — overwhelmingly controlled by the Democratic Party — have claimed that any critiques about Biden or the party in general were nothing but conservative nonsense. Biden’s obvious cognitive impairment, the rampant inflation in the US (and elsewhere), increased crime, and illegal, inhumane border crossings were not only conspiracies, but right wing ones at that. And according to the average Democrat today, being right wing means you’re a Nazi.
To a certain extent, I’d say that there are many of us who censored our beliefs to avoid being branded as such— myself included. Because, even though my grocery bill has nearly doubled since 2020, the US is in two ridiculous new proxy wars (while actively funding a genocide) and, after twenty-two people got shot at my subway station in New York City in 2022, I was scared to ride the train for months, my concerns — according to America’s “reputable media” sources like the New York Times — must be because I’m a right wing white supremacist.
The second reason I think the Democratic Party failed to defeat Trump is because of its blatant hypocrisy. I am deeply uncomfortable with Donald Trump’s cabinet, his misogyny, his stance on climate, his conservative stacking of the Supreme Court, what happened on January 6th of 2021 — the list goes on. But the Democrats' hysterical claims that voting for them will somehow save America from fascism is suspicious when other candidates running on truly leftist tickets — notably Cornel West and RFK Jr (save for his stance on Israel) — weren’t even allowed a debate, much less a primary election. Harris herself wasn’t even elected as the Democratic candidate; she was essentially coronated only after Biden’s senility was no longer able to be hidden from the American public following a disastrous debate with Trump in June of this year. And while Trump is technically a convicted felon, that’s only because he was investigated. I can only imagine the illegal shenanigans in the Biden family, particularly since rumors about his son Hunter’s laptop (with its messages about family business deals with Ukraine and China) turned out to be real— though that story was heavily censored by American mainstream media.
This isn’t the first time the Democrats have sought to destroy anyone who threatens their power. It’s been obvious for years that the Democrats and Republicans are two sides of the same corporatist coin; Bernie Sanders’ class-conscious campaign, for instance, was systematically destroyed by the Democrat-captured media in both 2016 and 2020. And in 2024, RFK Jr’s unconventional, but powerful campaign message of tackling the rampant corruption in American politics was similarly dismantled by the “left wing” media outlets claiming to preserve freedom of speech from the Nazis (i.e. anyone who doesn’t identify as a Democrat). Like Bernie’s campaign before him, RFK Jr’s platform was censored, reduced to nothing but an anti-vaxxer’s kooky ramblings, because he— like Bernie— threatened to actually bridge the divide in America through class politics instead of identity politics.
After all, a real leftist will tell you that class is the true intersection point of oppression. Trouncing out Beyonce or a twerking Megan Thee Stallion at a Kamala Harris rally does jack shit to make the cost of living more affordable, or end the war with Palestine.
Worth noting, too, is that RFK Jr reached out to the Democrats and the Republicans when his campaign was failing, seeking to bridge the political divide plaguing this country. The Democrats ignored him, while Trump ending up asking him to join his cabinet.
What’s more, Democrats have a nasty track record these past eight years of disparaging the intelligence and even humanity of whomever disagrees with them. Hillary Clinton called people who don’t vote for them “the basket of deplorables”; Biden called them “garbage” just last month. Even my own friends have declared on several occasions that “anyone who votes for Trump is evil.” Maybe it’s because I grew up in impoverished, rural white America and know for a fact that the majority of people there are decent, hardworking folks who just want to make a
living and be left alone, but I can’t help but think the Democrats never heard the old adage: “You catch more bees with honey than with vinegar.”
I’ll never forget two moments, both of which informed my personal politics (I care about the environment, I care about eliminating America’s colonialist foreign presence overseas, and I won’t vote for anyone with a sexual assault allegation — which includes Joe Biden, as much as Democrats try to hide that fact). The first was in 2016, when I asked my now-deceased Grandpa why he was voting for Trump.
“I actually like Bernie,” he said. “But Trump has the momentum, and we need change down in Washington DC. And those Democrats think that they know what’s best for everyone, but they don’t. We need to keep the government small.”
“Why small, though?” I asked. “Don’t you want universal health care?”
“That’d be nice,” my Grandpa said. “But if you want something mailed on time, you have to use a service like FedEx instead of the United States Postal Service. If you go to a government website, it’s too slow to use. And if you call any government phone number, you’re on hold for hours.”
He’s right about that, I thought...
“So if the government offered health care? Well, it’d probably be the worst health care in the world.”
Given that Obama’s attempt at universal health care penalized people upwards of $700 if they couldn’t obtain health insurance otherwise, I might have to agree.
The second moment was during a post-2016 election party with my fellow graduate students at Cornell University, where I was finishing my PhD in Japanese music. Grad students there were sharing their grievances, like how everyone who voted for Trump is uneducated, stupid, and— here’s that word again — evil.
“Have any of you ever talked to anyone who voted for Trump?” I asked.
“Of course not!” they remarked, with something close to pride in their voices. “Why would we?”
“Well, if you did,” I said, “You’d know they’d think you’re all a bunch of elitist assholes.” And I left.
It was the worst party I ever went to, by the way.
So I, for one, see this as a time of hope: I hope that the Democrats keep taking a look in the mirror about why they lost. I hope the Republicans know they only won because the other candidate was so awful. And I hope the US can finally produce a viable third party — which is how I’ve voted for three presidential elections now — because the Democrats and the
Republicans are, as evidenced by the farce that was this year’s American presidential election, equally captured.
And I dare say most Americans would agree with me.

Jan Urila Sas - ele-king

 孤高のデュオ・jan and naomiやGREAT 3、GODでも活動する音楽家・Jan Urila Sas(ヤン・ウリラ・サス)が6年の歳月をかけて生み出した4曲入EP『Utauhone』。広島の〈STEREO RECORDS〉よりリリースされた本作の完成を記念した〈Utauhone Concert Tour〉ツアーが、2025年1月より福岡・広島・京都・東京の4都市5会場にて開催される。
 
 ツアー中のJanによるパフォーマンスは、『Utauhone』制作時に用いられた(半)自作楽器「清正」の後継機「清定」を使用したアルバム収録楽曲のパフォーマンスと即興演奏をハイヴリッドにブレンドした内容を予定しており、本作の内包するアンビヴァレンスな魅力を直接体感できる濃厚な一時となることに期待できそうだ。

 ツアーは1月11日(土)の小倉・BAR HIVEからスタートし、その後1月13日(祝月)に福岡・Kieth Flack、3月21日(金)に広島・CLUB QUATTRO、3月23日(日)に京都・UrBANGUILD、4月6日(日)に東京・SPACE新宿を巡る。いずれも固有の磁場を持つヴェニューであり、会場のチョイスからもJanと〈STEREO RECORDS〉のこだわりを感じさせる内容となっている。なお、広島公演は〈STEREO RECORDS〉の20周年を祝した特別な記念公演となり、Phewを迎えたツーマン・ライヴとして開催される模様。さまざまな面からも見逃せない今回のツアーのいずれかに、ぜひ足を運んではいかがだろうか?

【1月11日(土)小倉 BAR HIVE】
出演:Jan Urila Sas / Rinsaga / Rena / p.co / Masaya Takano / nagai
会場: DJ BAR HIVE
日程: 2025年1月11日(土)
時間:OPEN /START 21:00
料金: 当日 2500円 / 当日U23 2000円 / 予約 2000円 / 予約U23 1500 (いずれも1drink order)
チケット予約:info@stereo-records.com
問い合わせ:STEREO RECORDS / info@stereo-records.com

【1月13日(祝月)福岡 Kieth Flack】
出演:Jan Urila Sas / 愚鈍 / Godbird / SHOWY (KIETH FLACK ROCKS) / vvekapipo (hertz)
会場: Kieth Flack
日程: 2025年1月13日(祝月)
時間:OPEN 19:00 /START 20:00
料金: 前売り 2.500円 / 当日 3.000円 (1drink order)
チケット予約:https://kiethflack.net/ticket/
問い合わせ:Kieth Flack / https://kiethflack.net/

【3月21日(金)広島 CLUB QUATTRO】
出演:Jan Urila Sas / Phew
会場: CLUB QUATTRO
日程: 2025年3月21日(金)
時間:OPEN 18:30 /START 19:30
料金: 前売り 4.000円 / 当日 4.500円 (1drink order)
プレイガイド:e+ / チケットぴあ / ローソンチケット / STEREO RECORDS
問い合わせ:広島 CLUB QUATTRO / (082)-542-2280

【3月23日(日)京都 UrBANGUILD】
出演:Jan Urila Sas / 豊田奈千甫 / 仙石彬人 AKITO SENGOKU (TIME PAINTING, Visuals)
会場: UrBANGUILD
日程: 2025年3月23日(日)
時間:OPEN 18:00 /START 19:00
料金: 前売り 2.500円 / 当日 3.000円 (1drink order)
チケット予約:https://urbanguild.net/event/20250323_janurilasas_utauhoneconcerttour/
問い合わせ:UrBANGUILD / https://urbanguild.net/

【4月6日(日)東京 SPACE新宿 】
出演:Jan Urila Sas / Jun Morita / wagot / Sota Shimizu
会場:SPACE新宿
日程:日程: 2025年4月6日(日)
時間:OPEN 17:30 / START 18:00
料金:前売¥2.000 / 当日¥2.500 (1drink order)
チケット予約:https://space.zaiko.io/item/368061
問い合わせ:SPACE新宿 / https://space-tokyo.jp/contact

TOTAL INFO
STEREO RECORDS
https://www.stereo-records.com/

Jan Urila Sas

2015年12月に、Jan Urila Sas名義によるソロ作品『Blue Angles Of Santa Monica』をリリース。 絶え間なく変化を続ける東京の中で研ぎ澄ましてきた独自の感性によって産み出される表現の世界観は、音楽だけにとどまらない芸術領域の世界の中で、孤高の存在感を示し、躍動している。また、Naomiとともに結成したデュオであるjan and naomiでは、“狂気的に静かな音楽”といった、新たなミュージック・スタイルを確立し、儚く切ないメロディーセンスで多くのリスナーを魅了し続けている。

SOPHIE - ele-king

 2024年は『brat』の年だったと、さまざまなメディアが書き立てている。大統領選からプロモーションのあり方といった話題に至るまで、やや(社会)現象としての側面にばかりスポットが当たっているような印象もあるが、というのはつまりチャーリー・XCXが正しくポップ・スターになったということでもあって、それはそれでとても感慨深い。強度あるサウンドなだけに、作品それ自体の意義については今後長い時間をかけてさまざまな分析がなされていくだろう。中でも当作は、形骸化が進みはじめたハイパー・ミュージックの文脈において、ひとつの局面を打開したようにも思う。幅広く多彩な感情の掘り下げと、それらを逆説的に強調するようなミニマルなアートワーク。飽和した状況からクリティカルに脱し大衆の視線を獲得したという点で、見事な一手だったというほかない。

 もうひとつ言うなら、『brat』はもっと故・ソフィーの文脈で語られるべきだとも思う。『Number 1 Angel』(2017年)をはじめとして深い音楽的パートナーシップを築いてきたふたりだけあって、そもそも『brat』のサウンドにはソフィーの影がそこかしこに感じられる。特に “So I” はソフィーの “It's Okay To Cry” に対するオマージュが捧げられていて、深い感謝が綴られてもいる。刺激的なレイヴ・サウンドが炸裂する『brat』の中でちょうど中盤に位置する “So I” は、柔らかなテクスチャとともに「And I know you always said, "It's okay to cry" So I know I can cry, I can cry, so I cry(泣いてもいいんだよっていつも言ってたよね だから泣いてもいいんだ、泣いてもいいんだ、だから泣くんだ)」と歌われる。その後10月に出たリミックス盤『Brat And It's Completely Different But Also Still Brat』ではA・G・クックが前面に出てさらにドラマティックなアレンジが施されており、ソフィーの遺志を継いで未来を向くような想いが伝わり胸が熱くなってしまう。

 そして、ふたつの『brat』のあいだ、9月にリリースされたのがソフィーの遺作『SOPHIE』なのだった。彼女の生前にほとんどできていたという素材をもとにきょうだいのベニー・ロング(Benny Long)がアルバムとして完成させたもので、つまり完全なるソフィーのオリジナルではない。ただ、過去作においてもベニー・ロングはスタジオ・プロデューサーとして制作に携わってきており、本人を最も身近で知る者の手によって形になったアルバムであることは間違いない。

 特徴的なのは、数多くのコラボレーターが参加しているという点。プライベートにおいてもパートナーでありソフィーが事故にあったときも一緒にいたというエヴィタ・マンジや、2020年のパンデミックのさなかにレコーディングしたときが彼女に会った最後だったという〈PC Music〉のハンナ・ダイアモンドをはじめとして、ソフィーと親交があったアーティストで固められている。ゲストがヴォーカルを披露しているケースも多く、じつに多種多様な声が次々と現れては消えていく──このラインナップを見ればいかに彼女がたくさんの人に愛されていたかがわかるし、やはりクィア・コミュニティを象徴する人物として大きすぎる存在だったと再認識せざるを得ない。そういった意味では、『Brat And It's Completely Different But Also Still Brat』に加えて、『SOPHIE』に参加しているアーティストを並べていくだけでとんでもなく充実した相関図を作ることができる。ふたりが、現行の音楽シーンにおいていかにハブ的な存在となっているかということだ。

 ただ、『SOPHIE』はもちろん、全面的な肯定をもって受け入れられているわけではない。前作『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』と比較すると、サウンドのエッジはやや抑制されている印象がある。“Berlin Nightmare” や “Gallop” といった中盤の並びはソフィーであればもう少し変化に富んだテクスチャにしていたのでは、という気がしないでもないし、ミキシングのせいなのか何なのか、凡庸さを感じる曲もある。実際に彼女が最後まで完成させていたら……と何を言ってもifの話でしかないのだが、とはいえ、これはこれでありなのかもしれないとも思う。なぜなら、エッジが削れて丸くなった部分を活かすかのように、柔らかさやあたたかさを感じる曲が多数収録されているからだ。

 テクノ・アーティスト/DJであるニーナ・クラヴィッツが参加する “The Dome’s Protection” あたりの柔らかさはまだ以前のソフィー作品にあっても違和感がないような質感だが、終盤はがらっとムードが変わる。つねに生と死のあわいを漂っていたようなサウンドがソフィーの特徴だったとしたら、生が前提にあるような図太くて楽観的な音が鳴っているのだ。リアーナの “Bitch Better Have My Money” や “Higher” を手がけたビビ・ブレリー(Bibi Bourelly)がパワフルなヴォーカルを聴かせる “Exhilarate” は驚くべきヴァイブスに満ちているし、これまでも多く協働してきたセシル・ビリーヴが参加する “My Forever” では「You'll always be my forever」と歌われ、ソフィーへの愛がある種の素朴さをもって提示される。彼女の周りでともに音楽を作っていた人たちが目一杯の感情を閉じ込めることによって、本作はあのバブルガムでタフな音が、優しくほぐされているような感覚があるのだ。

 ソフィーのファンとしては、やはりキム・ペトラスとBCキングダムが参加する “Reason Why” は何度も何度も聴いてしまうし、本作にぴったりハマっていると思う。ずっとライヴではプレイされていた曲で、ソフィーのディスコグラフィの中でも特に情感豊かな曲だ。YouTubeに上がっているライヴ映像でもいくつか見ることができるが、“Reason Why” はキム・ペトラスがステージ上で共演することも多々あり、そこから名曲 “1,2,3dayz up” へとつながれる。タバコをふかしながら楽しそうにプレイする彼女を見ていると、“Reason Why” はじめ、キムとの曲はだいぶお気に入りだったんだろうという気がする。実際、ソフィーの魅力がたっぷりと凝縮されているナンバーだ。金属的で硬質だけどキュートなサウンドに、人工甘味料たっぷりの甘い声が乗る──繊細なのにダイナミック。つくづく、すばらしい相性だと感心する。

 ソフィーの音楽は未来的かつ機械的で、ポスト・ヒューマンといった形容をされてきた。既存のサウンドを分解し異なる形へと再編集する手法は、ジャンルという既存の枠組の解体であり、脱構築的だと。けれども同時に、彼女の音楽はヒューマニズムに満ちているとも思う。『SOPHIE』を聴くと、そういった人間くさい面が誇張されているし、より彼女のキャラクターを近くに感じられる。だからこそ、『SOPHIE』を経てから前作『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』をもう一度聴くと、この音楽家の実像がますます立ち上がってくる気がするのだ。

 ソフィーは、音楽を通して何をしたかったのだろう? 彼女は、わたしという人間について徹底的に自己探求し続けていいのだ、ということを言っていたのだと思う。どんな手を使ってでもいいから探求し続けよ、と。自らを形作る構成を解体し、あらゆる要素を切り刻み、それでも残ったものがわたしであると。解体し切り刻んでしまったら、それはもう破片だ。脆弱な、あまりに脆弱なそれを、しかし彼女は再び新たな音楽にしてしまった。わたしをもとに、わたしをつくりあげたのだ。果てしない自己探求の果てに、彼女のルーツであるオウテカと、彼女が目指していたメインストリーム・ポップは一本の線で繋がった。声のピッチを大きく変え加工した “Immaterial” から、生声を披露する “It’s Okay To Cry” は円環し、ひとつのストーリーで接続されることとなった。流動的でありながら、ひとつの自分自身であること。ゆえに、非-人間的あることと人間的であることは両立する。それはとんでもない発見だったからこそ、ソフィーが自己探求によって発見した音楽は、2010年代における最大のイノヴェーションとしてメインストリームとアンダーグランドの双方で大きな影響力を波及していった。『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』ののち、奮い立たされた多くのアーティストによって数多の作品が生み出された。本当に、本当にたくさんの作品が。そして今年、『brat』と『SOPHIE』、『Brat And It's Completely Different But Also Still Brat』が “その後” のマイルストンとして提示された。ソフィーにインスパイアされて以降生み出された、すべての音楽を称えるかのごとく。

 偉大なる彼女が亡くなってから、チャーリー・XCXはSNSで「ソフィーはわたしがいまのわたしであることに多大な影響を与えたアーティストであり、親友だった」と発言していた。「泣いてもいいんだよっていつも言ってたよね だから泣いてもいいんだ、泣いてもいいんだ、だから泣くんだ」と歌う “So I” の、肌を優しく撫でるような柔らかさ。自己探求とは、人間にしか成し得ない行為である──少なくとも、いまのところは。言い換えるなら、脆弱な自分と見つめ合えるのは自分しかいないのである。だから、泣いてもいい。結局のところ、ソフィーはそう言っているのだろう。泣きながら、生きるしかないのだと。

Famous - ele-king

 フェイマスはアルバムを出す以前からずっと有名だった。デスクラッシュのティエナン・バンクスや、ヨルゴス・ランティモスの映画『哀れなるものたち』のスコアでオスカーにノミネートされたジャースキン・フェンドリックスがメンバーとして名を連ねていたバンド、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの “Track X” の曲のなかで「ジャック、君でも良かったのに」とBC,NRのヴォーカルに冗談めかして誘われているジャック・メレットを擁するバンド、そしてコロナのロックダウン直前にノースロンドンのビルの屋上で信じられないくらい素晴らしいルーフトップ・ライヴをおこなったバンドとして。
 そこで最後に演奏された新曲のタイトルは “The Beatles” と名付けられていた。ふざけた名前のバンドのふざけた名前の曲、しかしその曲はまっすぐにこちらに向かい、体の内にあるものを震わせ、屋上から遠くに見えるビルの群れと同じように哀しみと愛を漂わせていた。サンプラーとベース、ドラムとヴォーカル、ちょっと変わった編成でどこか欠けたものがあるということを匂わせる演奏は強制的な離別というシチュエーションと相まって、だからこそ完璧に胸を打ったのだ。いまとなっては懐かしさを感じるようなコロナ禍のミュージシャンたちの画面越しの方策のなかでフェイマスのルーフトップ・ライヴ以上のものはおそらくなかっただろう。日が暮れ夜に向かう街、青春時代の終わり、それでもその先の人生が待っている、街での暮らしを肯定するかのように、あるいは思い出を慈しむかのように、どこかの街のパーティのなかでこの曲がかかるたび、そこに意味が重ねられていく……。

 だがフェイマスは決して順風満帆だったわけではない。一貫してバンドに在籍し続けるメンバーはついにジャック・メレットひとりになり、パンデミック以降、2021年5月に “The Vally” というEPをリリースした後はほとんど沈黙していた。その間にデスクラッシュは素晴らしいアルバムを2枚出し、ジャースキン・フェンドリックスが劇伴を務めた映画が2作公開されて、メレットの名前を唄ったアイザック・ウッドはBC,NRを脱退した。音楽のシーンの季節がひとつ、ふたつと変わるくらい、あまりに長い時間が経った。

 そんななかでの1stアルバムだ。EPから3年、いまも心に残り続けているルーフトップ・ライヴからは4年が過ぎて、ついにリリースされたこのアルバムにはこれまでのフェイマスの歴史の全てが詰め込まれている。エレクトロニクスのけたたましい喧騒に、演劇風のスポークンワードとフックの効いたメロデイが交差するヴォーカル、ギターは肌を引っかくように鳴らされ、ピアノの音が孤独に意味を加えていく。長い時間を経て作られたこのアルバムは音の隙間から立ち上ってくる私的な日記や自伝のようであり、ある種感情が混迷しているとも思える。しかしその混迷にすら意味があると感じられるのだ。例のごとく皮肉をこめて『Party Album』と名付けられた本作が描くのは享楽ではなく、いずれパーティが終わってしまうという空しさだ。いくら楽しくとも、でも結局、最後にはひとりになるのだから……フェイマスはそんな孤独を31分間の逡巡として描き出す。

 シンセサイザーが生み出す希望と期待が入り交じったようなメロディに、それが裏切られ泣き叫ぶかのように声を荒げるメレットのヴォーカルがのる “What Are You Doing The Rest Of Your Life”、“God Hold You” はスクラッチされたサウンドがそのまま夢を失い激しいショックを受けて情緒不安定になった心をなぞる。続く “It Goes On Forever” ではボロボロになりながらもそれでもステージに上がり続ける悲哀が穏やかなアコースティックのサウンドとエレクトロニクスの不穏な低音の上を漂いながら唄われ、“Love Will Find A Way” ではピアノとギターのフィードバック・ノイズをもって直接的に心のゆらぎを表現する。声を荒げ、時おり自嘲気味に笑い、傷つき、ロマンティクな心を捨てきれず夢のなかで苦しんでいるようなジャック・メレットのヴォーカルは、混迷するサウンドに差し込む光のような一本の筋を通しこの音楽を特別にする。ともすれば安っぽくなってしまいそうな暗く悲劇的なロマンティシズムを自嘲と皮肉、ユーモアを込めて語ることで決してそうさせずに、その先のナイーヴな心の吐露へとたどり着かせるのだ。

 ジャック・メレットの声が震える度に、それにあわせて聞いているこちらの胸も震える。まるで映画のなかの登場人物に感情移入するように音楽を聞かせるそのスタイルはBC,NRアイザック・ウッドのスタイルにも似ていて、アルバムを聞いているうちに「ジャック、君でも良かったのに」という彼の言葉が冗談ではなく本気だったのではと思えてくる。ウッドがBC,NRの1stアルバムで「ブラック・カントリー」という言葉になくしてしまった特別なバンドの影を重ねたように、ここでジャック・メレットは「You」という言葉に失ったかつてのバンドの姿とそこに存在した時間を投影する。表面的には離れていってしまった恋を後悔する曲、だがその裏に消えてしまった夢の姿が見え隠れする。「君は夢のようなもの/決して手の届かないもの /そうでなければ記憶の中に鮮明に存在する」 “God Hold You” で繰り返される「another」という叫びにもここにない、他の何かの色がのる。メレットは『The Quietus』のインタヴューでこのアルバムについて人生の大きな変化とバンドにおけるポジションの変化のドキュメントだと語っているが、そのニュアンスはたしかにアルバムのなかに漂っている。

 ジャック・メレットは決してバンドをやめなかった。そこに存在する唯一の人間になっても彼は解散することもソロになることも選ばなかった。
 フォンテインズD.C.が唄うようにロマンスが場所なのだとしたら、きっとバンドはそこに存在するのだろう。自分の外側にいる他の誰か、共有する記憶と時間が結びついた場所。それはフットボールのクラブや、読んでいた雑誌の名前やTV番組のタイトルと同じように形を変え、たとえ別物になったとしても変わらずそこに存在し続ける。メレットは自らの手でその場所を消してしまうことを認めなかった。このアルバムを聞いているとそんなことが頭に浮かぶ。いつの日か終わりを迎えるパーティ、音楽やその他の表現が人の暮らしのなかにある美しいものやそこにある意味を見出すことを求めるならば、フェイマスのこのアルバムはきっとその答えにたどり着くだろう。メレットが言うようにこのアルバムには全てを理解したと感じた次の瞬間に消えてしまうようなひらめきが散りばめられている。完璧ではないかもしれないが、しかしだからこそ混迷のなかに差し込む一筋の光を見つけることができるのだ。とにもかくにもメレットの震える声を聞くたびに、胸が震える。

写楽 & Aru-2 - ele-king

 かたや97年生まれ、数々のMCバトルで名を馳せ、2021年にファースト・アルバム『MIMISOJI』を発表しているラッパーの写楽。かたや93年生まれ、これまでISSUGIやJJJなどの楽曲を手がけ、今年最新作『Anida』を送り出しているビートメイカーのAru-2。両者によるジョイント・アルバムが一昨日リリースされている。写楽による独特のことば選びと心地いいフロウ、Aru-2による生々しくも情感豊かなビート──注目の才能同士による化学反応を楽しみたい。

最新ソロアルバム『Anida』のリリースも記憶に新しいDJ/プロデューサー、Aru-2と2021年発表のファース『MIMISOJI』が話題となったラッパー、写楽によるジョイント・アルバム『Sakurazaka』がついにリリース!

JJJ、C.O.S.A.、Daichi Yamamoto、KID FRESINO、ISSUGI、小袋成彬ら多数のアーティスト作品に参加し、ニューアルバム『Anida』のリリースも記憶に新しいDJ/プロデューサー、Aru-2。「高校生RAP選手権」を筆頭に数々のMCバトルへの出演で界隈で名を馳せながら2021年にリリースしたファースト・アルバム『MIMISOJI』も話題となり、Aru-2『Anida』にはNF Zesshoとともに表題曲へ参加していたラッパー、写楽。この両者による話題のジョイント・アルバム『Sakurazaka』が本日ついにCDとデジタルでリリース!

Aru-2が手掛ける生々しく重厚で情緒あふれるサウンドが織りなすビートの上を、豊かなメロディセンスで歌もまじえて淡々とリリックを紡いでいく写楽のラップは強烈な化学反応を巻き起こしている。アートワークは『Backward Decision for Kid Fresino』などAru-2関連作品を手掛けている鹿児島のデザイナー/アーティスト、Yoshito Ikedaが担当。CDはスペシャルなボーナストラックを収録して見開き紙ジャケット仕様となっており、P-VINE SHOPなど一部店舗では非売品のプロモーション用ステッカーが先着特典として付属。また2025年2月にリリース予定の限定アナログ盤をP-VINE SHOPで予約すると非売品のプロモーション用ポスターが先着特典として付属になります。

<アルバム情報>
アーティスト:写楽 & Aru-2
タイトル:Sakurazaka
レーベル:P-VINE, Inc.
仕様: デジタル | CD | LP
発売日: デジタル、CD / 2024年11月6日(水) LP / 2025年2月19日(水)
品番: CD / PCD-25429 LP / PLP-7503
定価: CD / 2,750円(税抜2,500円) LP / 4,500円(税抜4,091円)
*P-VINE SHOPにてCDが発売&LPの予約受付中!
https://anywherestore.p-vine.jp/collections/aru-2
*Stream/Download:
https://p-vine.lnk.to/EtCu3F

<トラックリスト>
01. No Rush
02. Nice Choice
03. Cut Off
04. Sabaaidheel Freestyle
05. Sannomiya Daydream
06. Summer Blanco
07. Sorrows
08. Thankfully
09. Sakurazaka
10. Good Latency
11. Party Finale
12. Millefeuille (CD Bonus Track)
※LPはM1~6がSIDE A、M7~11がSIDE Bになります

<写楽:プロフィール>
97年生まれ愛知県育ち。ラッパー/ビートメイカー。
高校生ラップ選手権に出演し活躍の後、2021年アルバム「MIMISOJI」を発表。
「独自の歌詞世界」という表現では収まらないオンリーワンな言葉選びや心地良さを追求したフロウで、自然の美や自己の内面世界を描いた楽曲は、ヒップホップヘッズに留まらず幅広いファンを魅了する。

<Aru-2:プロフィール>
1993年生まれ、埼玉県川口市出身の音楽プロデューサー/ビートメイカー/DJ。
これまでソロアルバムやコラボ作品を愛と縁のあるレーベルから次々と発表、最新アルバム”Anida”を2024年リリース。
ISSUGI、JJJ、DAICHI YAMAMOTO、小袋成彬、C.O.S.A、KID FRESINO、NF ZESSHOなど数多くの国内アーティスト達への楽曲プロデュースに携わる。
近年では小村昌士監督作映画「POP!」の劇伴音楽も手掛け、サウンドエンジニアとしても様々なアーティスト作品を支える音楽ミュータント。

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