「Nothing」と一致するもの

ele-king vol.25 - ele-king

特集:21世紀DUB入門

いまやあらゆるエレクトロニック・ミュージックに浸透し、拡大しているダブ。
いまダブを聴かない手はない。いかにいまダブが熱いのか、その現在をレポート!

巻頭:リー・スクラッチ・ペリー
インタヴュー:Mars89/クルアンビン/ロウ・ジャック/1TA (Bim One Production)
ディスクガイド:21世紀のダブ必聴盤162枚

そして2019年のベスト・アルバム30枚も発表!!
識者が選ぶジャンル別ベスト10に加え、
アーティスト/DJ/ライター総勢31組による2019年個人チャートも!

目次

巻頭:リー・スクラッチ・ペリー

インタヴュー Lee “Scratch” Perry ダブは赤ん坊 (野田努)
コラム 21世紀のリー・ペリー (河村祐介)

特集:21世紀DUB入門

インタヴュー
Mars89 傷を舐めあって終わりにはしたくない──次の10年を担う才能が語る、ダブと社会 (小林拓音)
Khruangbin (クルアンビン) メロウ・ダブ・エキゾティカの魔術師 (野田努)
Low Jack (ロウ・ジャック) ダンスホール新世代の旗手が追い求める “音楽のまわり” (野田努+小林拓音)
1TA (Bim One Production) 抵抗飛行を続けること、サウンドシステムにこだわること (野田努)

ディスクガイド
──21世紀のダブ必聴盤162枚
(飯島直樹、小川充、河村祐介、小林拓音、野田努、三田格)
・ニュー・チャプター・オブ・ダブ
・ダブステップ/ジャングル/インダストリアル
・エクスペリメンタル/アンビエント/ロック/R&B
・ジャズ
・テクノ/ハウス
・ダンスホール
・ブリストル
・グローバル
・ニュールーツ/ステッパー
・リイシュー
・ヴェテラン

コラム
BS0 いまもっとも注目すべきパーティ&コレクティヴ (麻芝拓)
Dub Meeting Osaka ここにしかないヴァイブス (SAK-DUB-I)

2019年ベスト・アルバム30
──selected by ele-king編集部

ジャンル別2019年ベスト10

エレクトロニック・ダンス (髙橋勇人)
UKラップ&グライム (米澤慎太朗)
テクノ (佐藤吉春)
ハウス (Midori Aoyama)
USヒップホップ (大前至)
ジャズ (小川充)
インディ・ロック (木津毅)
日本語ラップ (磯部涼)
アンビエント/ドローン (デンシノオト)
インプロヴィゼーション (細田成嗣)
グローバル・ビーツ (三田格)

2019年わたしのお気に入りベスト10
──アーティスト/DJ/ライター総勢31組による2019年個人チャート

Midori Aoyama、天野龍太郎、飯島直樹 (DISC SHOP ZERO)、磯部涼、大前至、小川充、河村祐介、木津毅、Gr◯un土 a.k.a Ground、KEIHIN、Kenmochi Hidefumi (水曜日のカンパネラ)、Gonno、COMPUMA、佐藤吉春 (TECHNIQUE)、Chee Shimizu、高島鈴、髙橋勇人、田中克海 (民謡クルセイダーズ)、デンシノオト、德茂悠 (Wool & The Pants)、TREKKIE TRAX CREW、中村義響 (JET SET)、Koji Nakamura、James Hadfield、Gilles Peterson、細田成嗣、Mars89、Ian F. Martin、三田格、行松陽介、米澤慎太郎

マシューさんと振り返る2019年
──環境、ドラッグ、セクシー、そして宇宙人いなかった

ISSUGI - ele-king

 今年は 16FLIP 名義でジョージア・アン・マルドロウとコラボも果たした MONJU / DOWN NORTH CAMP の ISSUGI が、本日12月11日、久々のニュー・アルバム『GEMZ』を発売する。BUDAMUNK(SICK TEAM)、HIKARU ARATA(WONK)、KAN INOUE(WONK)、TAKUMI KANEKO(CRO-MAGNON)、MELRAW(DJ K-FLASH)が集結し、5lack、仙人掌、Mr.PUG、OYG、KOJOE、DEVIN MORRISON ら強力な面子を招いて制作された同作だけれど、そのリリースに合わせてなんと、キャリア初となるワンマンライヴの開催もアナウンスされた。日時は来年3月27日、会場は渋谷 WWWX で、『GEMZ』のバンド・メンバーたちが一堂に会する。これは見逃せない。いまから予定を空けておこう。

待望のニュー・アルバム『GEMZ』を本日リリースしたISSUGIが同作のバンドメンバーを伴って、初となるワンマンを来年3/27(金)に渋谷WWWXで開催!

BUDAMUNK(PADS)、WONKのHIKARU ARATA(DRUM)、KAN INOUE(BASS)、CRO-MAGNONのTAKUMI KANEKO(KEYS)、MELRAW(SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR)、DJ K-FLASH(TURNTABLE)がバンド・メンバーとして集結し、Red BullのサポートのもとRed Bull Studioを拠点にセッションを繰り返して作られたニュー・アルバム『GEMZ』を本日リリースしたISSUGIが、キャリア初となるワンマンライブを来年3/27(金)に渋谷WWWXにて開催! 同作に参加しているバンド・メンバーを伴ったデイタイムでの公演となりますので今からその日は予定を空けておいてください。また同公演の前売りチケット発売情報やその他の地域でのライブに関しては追ってアナウンスする予定です。

「ISSUGI 『GEMZ』 RELEASE LIVE」
日程:2020年3月27日(金)
会場:渋谷WWWX
※開演時間や前売りチケットに関しては未定です。

Members are…
RAP:ISSUGI / DRUMS:HIKARU ARATA(WONK) / BASS:KAN INOUE(WONK)/
PADS:BUDAMUNK / TURNTABLE:DJ K-FLASH / KEYS:TAKUMI KANEKO(CRO-MAGNON)
/ SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR:MELRAW

https://www.ele-king.net/upimgs/img/5131.jpg
アーティスト: ISSUGI (イスギ)
タイトル: GEMZ(ジェムズ)
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
品番: PCD-25284
発売日: 2019年12月11日(水)
税抜販売価格: 2.500円
https://smarturl.it/issugi.gemz

[トラックリスト]
1. GEMZ INTRO / prod BUDAMUNK
2. ONE RIDDIM / prod BUDAMUNK
3. NEW DISH / prod 16FLIP & BUDAMUNK
4. BLACK DEEP ft. Mr.PUG, 仙人掌 / prod 16FLIP
5. DRUMLUDE / prod BUDAMUNK
6. HERE ISS / prod 16FLIP
7. LIL SUNSHINE REMIX
8. FIVE ELEMENTS ft OYG, Mr.PUG, 仙人掌 / prod BUDAMUNK
9. 踊狂REMIX ft. 5lack / prod BUDAMUNK
10. OLD SONG ft DEVIN MORRISON / prod BUDAMUNK
11. HEAT HAZE REMIX ft Mr.PUG / prod ENDRUN
12. LOUDER / prod 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
13. MISSION ft KOJOE / prod HIKARU ARATA
14. 再生 / prod BUDAMUNK
15. No.171 / prod BUDAMUNK
16. GEMZ OUTRO / prod BUDAMUNK

[PROFILE]
東京出身のRapper/Beatmaker。MONJU (ISSUGI / Mr.Pug / 仙人掌)、SICKTEAM (5lack /ISSUGI / Budamunk) としても活動し、16FLIP名義でBeatmakeもこなす。ソロを含めこれまでに複数のALBUMをリリース。

Worked with: 仙人掌, Mr.PUG, 5lack, Budamunk, BES, SEEDA,KOJOE, JJJ, KID FRESINO, FEBB, MASS-HOLE, YUKSTA-ILL, DJ SCRATCH NICE, GRADIS NICE, CRAM, ILLSUGI, YOTARO, GQ, DJ SHOE, ENDRUN, ILLNANDES, 弗猫建物 ,Devin Morrison, Roc marciano, Evidence, Tek of Smif-n-wessun, Twiz the beat pro, Roddy rod, Gwop sullivan, DJ FRESH, Illa J, DJ DEZ, Khrysis, John robinson, Eloh kush, Al B smoov, Mr.Brady, Planet asia, Georgia Anne Muldrow & more

The Gerogerigegege, Jon K & Peder Mannerfelt - ele-king

 ここ数年、順調にリリースを重ねている〈C.E〉オリジナルのカセットテープ・シリーズ。なんと新たに3本の発売が決定いたしました。
 1本目は、今年〈The Trilogy Tapes〉からLPを発表しているノイズの巨星、ザ・ゲロゲリゲゲゲの新作『>(decrescendo)』で、すでに12月7日に発売されています。
 もう1本は、マンチェスターを拠点に活動するジョン・K(デムダイク・ステアの〈DDS〉がイキノックスを出すことになったきっかけは彼だそう)によるミックスで、10月に開催された〈C.E〉のパーティ(素敵な一晩でした)にて録音されたもの。
 そしてもう1本は、近年どんどん存在感を増しているスウェーデン出身のテクノ・プロデューサー、ペデル・マンネルフェルトの新作『Work』で、来年頭に発売予定。
 いずれも〈C.E〉の旗艦店のみでの販売とのことなので、売り切れてしまうまえに急ぎましょう。

The Gerogerigegege / Jon K / Peder Mannerfelt



アーティスト:The Gerogerigegege
作品タイトル:>(decrescendo)
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約80分(片面約40分)
発売日:2019年12月7日土曜日



アーティスト:Jon K
作品タイトル:Recorded live at WWW X, Shibuya, Tokyo on 25 October 2019
収録音源時間:約90分(片面約45分)
発売日:2020年1月頭予定



アーティスト:Peder Mannerfelt
作品タイトル:Work
収録音源時間:約70分(片面約35分)
発売日:2020年1月頭予定

販売場所:C.E
〒107-0062 東京都港区南青山5-3-10 From 1st 201
#201 From 1st Building, 5-3-10 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo, Japan 107-0062
問合せ先:C.E
www.cavempt.com

Mars89 - ele-king

 いま東京でもっともクールかつタフなサウンドを鳴らしていると言っても過言ではないDJ/コンポーザーの Mars89 が、新たな12インチ「The Droogs」を〈Undercover〉からリリースする。先頃〈Acrylic〉より発売された「TX-55/Successor Project」もめちゃくちゃかっこよかっただけに、今度の新作も期待大だけれど、驚くなかれ、「The Droogs」にはリミキサーとしてトム・ヨークゾンビー、ロウ・ジャックの3組が参加している! これはちょっとアナタ、完全に買い逃せないヤツですよ。
 ちなみに、12月26日に刊行される紙エレ年末号(特集:21世紀DUB入門/2019年ベスト・アルバム30)(密林はこちら)には Mars89 のインタヴューが掲載されています。音楽的バックグラウンドから現在の社会にたいする想いまで、思う存分語ってくれています。また、今回リミキサーに抜擢されているパリの要注目ダンスホール・プロデューサー、ロウ・ジャックのインタヴューも載っています。ぜひチェックを。

artist: Mars89
title: The Droogs
label: Undercover
catalog #: UCR003
release date: December 12, 2019

Tracklist:

A1. Horrorshow
A2. Ultraviolence
A3. Strack

B1. Horrorshow (Thom Yorke Remix)
B2. Strack (Zomby Remix)
B3. Strack (Low Jack Remix)

DISC SHOP ZERO / JET SET / disk union

30/70 - ele-king

 ハイエイタス・カイヨーテ(以下HK)の活躍以降、近年のオーストラリアの音楽シーンが世界的に脚光を集めるようになってきた。今年はジャイルス・ピーターソンが編纂したコンピ『サニー・サイド・アップ』もリリースされ、オーストラリアの中でもジャズやソウル系のベクトルを持つ新進アーティストたちに触れることができる。
 HKを生み出したメルボルンはオーストラリアの中でもっとも注目される都市で、レジャー・センター、エレクトリック・エンパイア、ミッドライフ、カクタス・チャンネル、ジャズ・パーティーなどさまざまなバンドやアーティストが活動している。今年はHKのメンバーのペリン・モスがクレヴァー・オースティンという名義でソロ・アルバム『パレイドリア』をリリースし、ブリスベン出身で現在はメルボルンを拠点とするレニアスことラックラン・ミッチェルが、HKのサイモン・マーヴィンとポール・ベンダーらの協力を得て『モンステラ・デリシオーサ』というアルバムを発表している。HKも関りを持つレーベルの〈ワンダーコア・アイランド〉からデビューしたシンガー・ソングライター/ラッパー、サンパ・ザ・グレートの新作『ザ・リターン』も出た(彼女はアフリカのザンビア出身で現在はメルボルン在住)。これらのアルバムに共通するのは、ジャズやソウルからときにオルタナ・ロックやサイケ、ヒップホップやビート・ミュージックなどいろいろな音楽のミクスチャーがおこなわれていて、そうした方向性はHKを筆頭にメルボルンのカラーにもなっているようだ。30/70もそうしたメルボルンが生んだミクスチャーなバンドである。

 30/70は男女混成の大所帯グループで、リード・シンガーのアリーシャ・ジョイがフロントに立っていることから、同じ女性リード・シンガーのネイ・パームを擁するHKと比較されることも多く、ポストHKというような紹介もされてきた。実際に両者は交流があり、30/70のセカンド・アルバム『エレヴェイト』のミックスはHKのポール・ベンダーがおこなっていた。2014年に30/70は自主制作でデモ・アルバム的な『サーティー・セヴンティ』を作り、2015年の『コールド・ラディッシュ・コーマ』で正式なアルバム・デビューを飾る。2017年にロンドンの〈リズム・セクション・インターナショナル〉と契約を結び、リリースした『エレヴェイト』によって世界的にも注目される存在となっていく。
 バック・コーラスなどを含めると総勢10名を超えるバンドで、レコーディングやライヴなどによってメンバーが入れ替わることもあるが、アリーシャ以外の現在の主要メンバーはジギー・ツァイトガイスト(ドラムス)、ホレイショ・ルナことヘンリー・ヒックス(ベース)、ジャロッド・チェイス(ピアノ、キーボード)、トム・マンスフィールド(ギター、シンセ、キーボード)、ジョシュ・ケリー(サックス、クラリネット)である。アリーシャは『アケィディ:ロウ』、ジギーは『ツァイトガイスト・フリーダム・エナジー・エクスチェンジ』というソロ・アルバムもリリースしており、前述の『サニー・サイド・アップ』にもアリーシャ、ジギー、ホレイショが別々にソロで楽曲提供するなど、メンバー個人でもそれぞれの活動をおこなっている。また〈リズム・セクション・インターナショナル〉所属ということで、南ロンドンのアーティストとも交流を持つ機会があるようで、ニュー・グラフィック・アンサンブルのアルバム『フォールデン・ロード』にアリーシャが参加したり、逆に『エレヴェイト』の収録曲をニュー・グラフィックがリミックスしたりしている。そんな30/70の2年ぶりのアルバムとなるのが『フルイド・モーション』である。

 アルバムはジャズ・ファンク調のインタールード的小曲“ブランズウィック・ハッスル”で幕を開け、ミディアム・テンポのブギー・トラック“アディクティッド”へ続く。アリーシャのエモーショナルなヴォーカルを生かした1曲で、ホレイショのベースとジョシュのサックスがソウルとジャズがミックスした雰囲気をうまく作り出す。タイトル曲の“フルイド・モーション”はフェンダー・ローズやサックスを配したディープ・ハウス的なトラックに、アリーシャのラップとポエトリー・リーディングの中間のようなヴォーカルをフィーチャー。1990年代のアシッド・ジャズ時代に見られた、Dノートやアウトサイドあたりを彷彿とさせるような1曲である。ゆったりとしたテンポの“N.Y.P”では、ジョシュの奏でる雄大なテナー・サックスがファラオ・サンダース張りのスケール感を生み出す。ジャズ・バンドとしての30/70の力量が表われた1曲だ。シングル・カットされた“テンプティッド”は、ミステリアスなムードとパワフルなビートやアリーシャのヴォーカルが鮮やかにマッチング。ウェスト・ロンドンのブロークンビーツから南ロンドンのジャズの影響が濃厚だ。

 そのムードはアフロ・ジャズ、ブロークンビーツ、ネオ・ソウルが融合した“リプライズ”へ引き継がれ、ロウなソウル・ファンクの“トゥルー・ラヴ”やエレクトロなダウンテンポの“エコープレックス”では、ジャズやファンクからビート・ミュージックやヒップホップのエッセンスまでもミックス。“バックフット”や“プッシュ・アンド・プル”はミディアム調のソウル/ファンクで、“クリスタル・ヒルズ”はドラムンベース調のビート・パターンのインスト曲とリズム・ヴァリエイションも豊かだが、“インパーマネンス”に見られるように1990年代後半頃のブロークンビーツを想起させる曲が目につく。ブロークンビーツ自体がジャズ、ソウル、ファンク、アフロ、ラテン、ハウス、テクノ、ヒップホップ、ダブ、レゲエなど種々の要素をハイブリッドしたものだったので、そうした匂いを30/70が持つのも当たり前かもしれない。そして最後を締めくくるメロウ・チューンの“フラワーズ”に顕著な、アリーシャのヴォーカルが持つソウルフルなムードが印象的なアルバムである。

グッとくる映画、あります!

「映画の力」、それはストーリーだけではない──
わけがわからないのに気になる映画
淡々とした描写の中に人生に似た何かが立ち現れる映画
厭な要素ばかりなのについつい見てしまう映画
独自すぎる理屈で構成されていて観る者を激しく選ぶ映画

──なぜか心動かされ、惹きつけられてしまう映画の秘密をひもとく、気鋭の批評家による精選エッセイ集!

目次
まえがき
第一章 不可解な映画に魔がひそむ
・シャマラン絶対主義!
・八〇年代のシャブロルに感じる「居心地の悪さ」
・目がくらむ光、カンガルーの手――『荒野の千鳥足』
・物語からの解放――曽根中生の〈純粋な映画〉

第二章 暴力・情念・死
・侮辱と少しの飴の籠――『マルタ』
・破滅へと駆け抜ける少女たち――『ヴィオレット・ノジエール』
・突き抜けた後味の悪さ――『悪魔の調教師』
・異郷と恐怖――『女子大生・恐怖のサイクリングバカンス』
・現実と虚構のはざまでたゆたう羽仁進の映画世界
・野村芳太郎の怖くない霊と、怖い子どもたち
・東宝クールアクションの世界――『死ぬにはまだ早い』『ヘアピン・サーカス』

第三章 日本モンド映画 静謐/狂乱
・退廃と静謐さ
(『東京暮色』『ある脅迫』『血を吸う薔薇』『忍者狩り』『野獣死すべし 復讐のメカニック』『さらば愛しき大地』『THE FETIST 熱い吐息』)
・狂乱!
(『妖刀物語 花の吉原百人斬り』『大虐殺』『地平線がぎらぎらっ』『地獄』『水戸黄門 天下の副将軍』『狂った脱獄』『女体(じょたい)』『スパルタの海』『御巣鷹山』)

第四章 日本モンド映画 エロス+流血
・セックスを越えていけ!
(『あるセックス・ドクターの記録』『ある女子高校医の記録 妊娠』『温泉ポン引女中』『忍法忠臣蔵』『喜劇 特出しヒモ天国』『人妻の値段 匂いたつ欲情』『日本ゼロ地帯 夜を狙え』)
・内田良平
(『男の顔は履歴書』『車夫遊侠伝 喧嘩辰』『影狩り』『流血の抗争』)
・高橋伴明+下元史朗
(『異常な快楽 禁唇』『少女情婦』『人妻拷問』『鞭と緊縛』)

第五章 ロマンポルノ二五選
・神代辰巳の逸脱とナルシシズム
(『濡れた欲情 ひらけ!チューリップ』『悶絶!! どんでん返し』『やくざ観音 情女仁義(いろじんぎ)』)
・アクション&サスペンス!
(『修道女ルナの告白』『団鬼六 縄と肌』)
・浮遊する心――加藤彰
(『愛に濡れたわたし』『OL日記 牝猫の情事』『OL日記 濡れた札束』)
・奇妙
(『くノ一淫法 百花卍がらみ』『修道女 濡れ縄ざんげ』『実録色事師 ザ・ジゴロ』『色情妻 肉の誘惑』『団鬼六 女教師縄地獄』『ズーム・アップ ビニール本の女』『縄姉妹 奇妙な果実』『濡れた荒野を走れ』)
・快楽と観念のドラマ
(『地下鉄連続レイプ OL狩り』『実録白川和子 裸の履歴書』『密猟妻 奥のうずき』『ひと夏の秘密』『団鬼六 花嫁人形』『キャンパス・エロチカ 熟れて開く』『ラブハンター 熱い肌』『青い獣 ひそかな愉しみ』『大人のオモチャ ダッチワイフ・レポート』)
あとがき

著者
真魚八重子(まなやえこ)
愛知県出身。映写技師や派遣社員を経て、現在は「映画秘宝」「朝日新聞」「キネマ旬報」などのほか、パンフレットやDVDでも執筆。著書に『映画系女子がゆく!』『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』。

Burial - ele-king

 この原稿を書いている今日12月2日の午前11時に、イギリスの諸大学では黙祷があった。先月29日にロンドン・ブリッジであった凄惨なテロの犠牲者(ふたりともケンブリッジ大卒の二十代の若者だった)を悼むためである。現在、大学はストライキ中なので、僕はキャンバスにはできるだけ立ち寄らないようにしている。なので家で1分間、目を閉じて、事件のことを思った。
 ロンドンとテロというと、意外かもしれないが、僕はベリアルのことを思い出す。2005年にロンドンで同時多発テロが起きたとき、ベリアルはダブステップのミックス・テープを聴きながら混乱する街を歩いていた。その時、音楽が街を癒していくように感じたと、彼は述べている。
 ベリアルの音楽とある種のアーバンスケープは切り離すことができず、その集合体は盤上に抽象的な何かを作り上げている。タイトル、雑踏、金属音、煙のようなクラックル・ノイズ、その他多くのパーツが、不可避的に見えない都市を浮かび上がらせてしまう。自分の作品から作り手の存在を意図的に消去し続けてきたベリアルだが、こればかりは作家性がにじみ出てしまっている。ひときわダークでエレガントで凶暴だったゼロ年代初期のダブステップ・サウンドに、崩壊しかける都市との相関性で癒しを感じたという強靭な感性の持ち主を僕は他に知らない。
 今作『Tunes 2011 to 2019』は、レーベルのボス、コード9が本誌インタヴューで語っているように、2011年から2019年の間にベリアルが〈Hyperdub〉からリリースしたソロ・シングルを網羅的に集めたものである。この期間に、ベリアルはゾンビーとの共作10インチ「Sweetz」(2016年)と、片面にコード9によるフットワーク・リミックスを収録した「Rodent」(2017年)が同レーベルから出ているものの、今作には収録されてはいない。
 デビュー・アルバム『Burial』(2006年)とセカンド『Untrue』(2007年)以降、彼はシングルを主なリリース形式として活動している。去年はコード9との共同ミックスを〈Fabric〉から出してはいるものの、サード・アルバムに匹敵するヴォリュームの楽曲集は出されてはいない。なので、このような形でこの8年間の音源を聴き返すのは、2019年にいたるベリアルのモードを考えるのに良い機会だ。

 というわけで、まずはこの8年のベリアルのキャリアを振り返ってみよう。この間、アルバムの発表こそなかったものの、ベリアルはソロ、共作、リミックスの発表を精力的に行ってきた。まずは2011年にフォー・テットとの共作の発表が、彼の〈Text Records〉からあった。ヴァイナルでのみリリースされたシングル「Moth/Wolf Cub」、さらにはそのコラボにトム・ヨークを迎えた「Ego/Mirror」を同年に発表(ベリアルとフォー・テットは、2007年に出たヨークの『The Eraser Remix』にも参加している)。そこにふたりによる「Nova」のリリースが翌年に続いた。特に最初の「Moth/Wolf Cub」の評価が高く、真っ黒なラベルの12インチ上で、ベリアルの跳躍するガラージのリズムが、フォー・テットの荘厳で流浪なメロディと有機的に響いている。ソロイストとしての彼のポテンシャルは、この3枚でさらなる他者性へと解き放たれたと言ってよいだろう。
 2015年にはベリアルの良き理解者でもある、マーティン・クラークことジャーナリスト/DJ/プロデューサーのブラックダウンが主宰する〈Keysound Recordings〉から、ホワイトラベルの12インチ「Temple Sleeper」を発表(なおベリアルは2006年にブラックダウンの“Crackle Blues”をリミックスしている。ちなみに冒頭の2005年のテロの話は、ベリアルがクラークに語ったものだ)。彼が得意とするUKガラージのリズムと、ハードコアのブレイクを巧みに行き来する一枚だ。2017年にボディカの〈Nonplus〉から リリースされたシングル「Pre Dawn/Indoors」は、おなじみのヴォイス・サンプルやクラックル音がスキルフルにエディットされてはいるものの、思い切ってテクノの4/4のリズムに舵を切った作品でリスナーたちを驚かせた。この二枚は、この間、ベリアルがかつてないほどリズム・コンシャスになっていることを裏付ける好例である。
 リミックス業にも触れてみたい。2017年に、クリプティック・マインズの片割れであるサイモン・シュリーヴが別名義モニック(Mønic)で自らのレーベル〈Osiris Music UK〉から発表したシングル「Deep Summer」にベリアルはリミックスで参加。原曲はヘヴィーに響くスローなアンビエント・テクノだが、リミックスでは風鈴のような生楽器のサンプルを主軸に、オリジナルで流れるヴォーカルのピッチを変調させ、叙情的な楽曲へと変化させている。こちらとは対照的に、同年に話題になったゴールディ“Inner City Life”のリミックスでは、荒々しいドラム・ブレイクに、バッド・トリップへと誘うようなシンセのループが重なる。2019年にリリースされたルーク・スレーターの“Love”のリミックスでは、静寂なリズム・パターンをアンビエント・ブレイクで演出することによって、原曲の多幸感が、ベリアル独自のうつむいた悦楽へと変換された。この三曲においても、ベリアルは自身の傾向を保持しつつも、クラブ・ミュージック史の踏襲と展開の両方をおこなっていることがわかる。つまり、彼は確実に次へ進んでいるのだ。

 この活動の並行線上に『Tunes 2011 to 2019』はある。合計17曲の2時間と29分の厚さだ。1曲ずつ聴いていこう。
 前半では、主にノン・ビートの荒野が広がっている。思い返せば、この8年の間、ベリアルのシングルは高い確率でアンビエントを伴ってきた。1曲目の“State Forest”は、今年リリースのダンス・トラック“Claustro”のカップリング曲だが、約8分にも及ぶ持続するシンセのレイヤーは、シングルで聴取体験以上に聴き手を深遠へと誘い混んでいく。
 そこに続く“Beachfires”と“Subtemple”は、二曲入りのアンビエントのみのシングルとして2017年にリリースされている。1曲目に連なるような持続に重視した形でプレイされる、ベリアル・サウンドに満ちた前者と比べ、後者ではゆっくりと様々な光景が移り変わっていく。ノン・ビートのみの構成に困惑する声も当時はあったと記憶しているが、いま振り返ると、パーカッションを捨て去った先で、自分の声を見つけようとする彼の葛藤が見えてくるようである。
 この1曲におけるムードの移り変わりは、自曲の“Young Death”でも顕著であり、雨の音と電子的にストレッチされたヴォーカルが、自然とデジタル環境を越境していくような錯覚をもたらす。立ち替りに現れる音像は多くを語る前に、次へ、次へと進んでいく。続く“Night Market”は、同様の移り変わりを、持続音的連なりとアルペジエイターによる演出で描いている。1曲のなかに複数の曲が何層にもわたって待機しているかのようだ。この二曲も同じシングル盤として2016年に世に出ている。
 楽曲たちは双極性障害、あるいは精神分裂を引き起こしているかのようだ。6曲“Hider”は、シガー・ロスのアンビエントを思わせるようなシンフォニーに、突如、80年代のクリスマス・ソングのようなドラム・リズムが挿入される。そして、そのムードはほぼ無音状態によって突如として破られ、暗鬱たる静寂に飲み込まれていく。異なるバラードたちが10分のなかで現れる7曲目の“Come Down To Us”も同様の傾向をまとっている。
 ここで、今作は前半のラストに差し掛かる。CDでいえば最後の2曲だ。ここで1曲目のカップリング曲“Clasutro”が登場し、UKガラージの高速リズム上で、アイコニックなR&Bサンプルが舞う。アンビエントにおける抽象世界とは異なり、ダンス・チューンとしての一貫性があり、かつはっきりとした展開もある。前半を締めくくる“Rival Dealer”は2013年に6、7曲目ともにシングルの表題曲としてリリースされた楽曲だ。タイトルに示唆されるドラッグ・ディーラーの争いの顛末を描くように、強い感情を鼓舞する、ハードなブレイク・ビーツがかき鳴らされ、中域で4/4ビートに合流し、最後は光が埋めくアンビエントへと回帰していく。
 後半、あるいはCD2枚目は、対照的にリズム・セクションがメインの楽曲が続いていく。2012年のシングル「Kindred」に収録された表題曲、“Loner”、“Ashtray Wasp”が冒頭を飾る。まずはダークでパワフルなビートを持つ“Kindred”は、『Untrue』期と、様々なジャンルのリズム・アプローチをおこなう現在のベリアルの橋渡しのような存在なのかもしれない。他の2曲にも、UKの音楽史のみを参照としない手法が溢れている。
 13、14曲の“Rough Sleeper”と“Truant”も2012年に一枚のシングルとしてリリースされている。楽曲名は、それぞれ「路上生活者」と「学校をサボる生徒」を指す。ロンドンを歩いていて、路上生活者を目にしない日はないし、昼間のどんな時間でも学校に行っているはずの子供たちが路上にたむろしている。同じリズムを基調としつつも、サンプル・エディットで様々な風景を見せる前者、全体のなかで珍しく響く後者のゆったりとしたビートは、リズムにおける空間と低音に違った角度でスポットライトを当てている。
 今作の最後を締めくくるのは、2011年に出たEP「Street Halo」の表題曲、“Stolen Dog”、“NYC”の三曲だ。このようにして俯瞰してみると、この選曲は2019年作の1曲目にはじまり、最後にはこの楽曲群で最も古い2011年のシングルが配置されている。これを時代錯誤(アナクロニズム)的な意図と捉えることもできるが、個人的にはこの3曲には、この17曲の中で最も思い入れがあるのでラストにふさわしいと感じた。当時、『Untrue』の次を待っていたリスナーにとって、これまでのアプローチとハウス的手法がミックスされたサウンドでベリアルが戻ってきたときは、作家の成長を感じさせるものだった。ゴリゴリのベースと深遠なヴォーカル・サンプルが響く1曲目も、BPMを落とされたガラージのブレイクビーツの3曲目も素晴らしいが、やはり“Stolen Dog”の聴き手を突き放さない、優しくも物悲しいメロディとリズム・ワークは、8年後の現在も色褪せていない。

 DJやライヴを一切やらず、インタヴューも受けず、表舞台に出ることは極力さけつつも、シーンの一部として共作やリミックスをおこなってきたベリアル。その一方で彼がひとりで見てきた8年間のサウンドスケープは、ここで触れてきたように、ノン・ビートとダンス・ミュージックの間で揺れ動き、様々なグラデーョンを生んでいる。その彼を貫くものを、どうやったら捉えることができるのだろうか。
 楽曲に頻出するクラックル・ノイズは、2017年に亡くなった評論家のマーク・フィッシャーが『わが人生の幽霊たち』(2014年)で述べているように、確かに、レコード盤上に蓄積した傷跡や埃が奏でる時間の重みをダイレクトに映し出す。だがそれと同時に、その音はときに雨や焚き火のように美しく、郊外から見える都市中心部の明かりのように孤独に輝いている。それは、楽曲の放つ時代性というよりも、イメージを抱える空間/場所性と強くリンクし、過去に憑依された現在という時間観の脱構築、という手法のみで捉えきれるものではない。この17曲でそれを強く感じた。我々はフィッシャーのベリアルを引き継ぎつつも、さらに作り手と一緒に前に進まなければいけないのかもしれない。
 クラックル・ノイズだけではなく、ゲームの効果音、自然音など、ベリアルの手法において、サンプリングはなくてはならい存在だ。彼はそのネタをユーチューブなどから探してくることでも有名で、オリジナル曲だけではなくカヴァーなども参照することもある。つまり、彼は原曲という「真正性」をまといがちな対象に寄り添う、カヴァーをする一般人たちにも愛の目を向けてきた。それはいわば寄食者たち(Parasite:フランス語ではいわゆるパラサイトとノイズも意味する。今年亡くなった哲学者ミシェル・セールの『パラジット』を少し念頭に置いている)のための音楽である。彼の音楽は、ネット環境やレコード文化、あるいはレイヴという、音楽が循環するネットワークを体現しつつ、そこに点在する普通の小さなものたちを抱握する。今作に現れる路上生活者、学校をサボるキッズ、盗まれてさまよう犬。それらも小さな存在であるが、同時に逞しさも備えている。クラックル・ノイズも音楽を媒体するものがなければ存在しえないが、楽曲におけるそのプレゼンスは大きい。ベリアルの描く都市は、そのような存在によって支えられ、同時にそれらを肯定し続けている。
 先日、今作の日本流通盤のライナーを書いている野田努が、この楽曲たちにおいて参照されるR&Bなどの原曲が、当時どのような場所で鳴っていたのかが、このコンピを通してよくわかったと言っていた。聴き返して僕もなるほどなぁ、と思い、そこから自分でも書き進めた。その意味でも、今作はただのベスト盤以上のポテンシャルを備えており、通して聴くたびに様々なことを考えさせられる。
 ベリアルの場所性は、シングル「Rival Dealer」やその他の彼のアンビエントのように支離滅裂にねじれている。ベリアルの持つセンサーはそれを察知し、彼の音楽はそれを映し出す。リスナーはそこに自分の記憶を接続する。フィッシャーがそうであったように、そこで初めて彼の音楽は鼓膜に誰かの幽霊を生む。音そのものは酷な時代が通り過ぎていく環境を映し出しているに過ぎない。そこには先ほどの寄食者たちがうごめいている。そのサウンドが人を癒し、強烈にダンスをさせる。今日、ベリアルを聴く意味は、このようにしても生まれてくるのではないだろうか。

Big Thief - ele-king

 一聴するとよくできたフォーク・ロック・アルバム。だが注意深く聴けば、複雑で、ニュアンスに富み、こまやかなダイナミズムに満ちたロック・ミュージックだ。ヴァンパイア・ウィークエンドボン・イヴェールのアルバムに象徴されるように(インディ・)ロックのフィールドで「バンド」なるものが解体されつつある現在、しかし、ビッグ・シーフはバンド・ミュージックというものの可能性にそれでも懸けているようだ。4人の人間が集まってできたタイトな関係性によってのみ生まれるものがあることを、今年彼女らがリリースした見事な2枚──『U.F.O.F.』と『Two Hands』のジャケットは差し出している。
 まずビッグ・シーフの魅力とは何かと問われれば、多くのひとがバンドのソングライターでシンガーであるエイドリアン・レンカーの声と歌にあると答えるだろう。憂いと艶やかさを併せ持った声による、不安定な呼吸や発話そのものがドラマを紡いでいくような歌。それは〈サドル・クリーク〉からリリースされたバンドの初期2作だけでなく、昨年リリースされたレンカーのソロ作『abysskiss』でも存分に堪能することができる。だが、ソロとバンドを比べてみたときに、彼女の歌の魅力、その生々しさは、むしろ後者で発揮されているように思える。『abysskiss』に収録されている“From”と“Terminal Paradise”の2曲は『U.F.O.F.』でバンド・アンサンブルによって再録されているが、そこでレンカーの声は予想外に乱れ、かと思えば透明度を増すように広がっていく。柔らかな響きで繰り返されるギター・アルペジオがそこに寄り添う。

 名門〈4AD〉に移籍しバンドにとってそれぞれ3作め、4作めとなった『U.F.O.F.』『Two Hands』は双子作で、どちらもドム・モンクスがエンジニア、アンドリュー・サーロがプロデューサーとして関わっているし、また同時期に作られた楽曲も多いという。しかしながら音や主題は少し異なる。『U.F.O.F.』はワシントンの森のなかに、『Two Hands』はテキサスの砂漠のなかにあるスタジオでレコーディングされ、それぞれ「天」と「地」を示しているという。
 演奏自体はワンテイクで録られたそうだが、『U.F.O.F.』は繊細な音響で聴かせるアルバムだ。翳りのあるギターの調べがサイケデリックなコーラスとドローン音に溶けていき、したたかに挿入されるサンプリングと戯れる“UFOF”。カントリーのフィーリングを持ったいなたいフォーク・ソングがエレクトロニカを思わせる音の粒に飲みこまれていく“Cattails”。えんえんと続く反復リズムのなかでリヴァーブが時間感覚を引き延ばす“Strange”。ニール・ヤングを思わせるフォーク・ロックが柔らかな響きのなかでまどろむ。それはまさに木々からこぼれ落ちる陽光のようで、たとえばキーの低い歌声で聴き手をディープなところへと連れていく“Betsy”に象徴されるように、レンカーの歌も非常に抽象的なフィーリングを喚起する。おそらく作品トータルとしての完成度が高いのは『U.F.O.F.』のほうだろう。
 しかし2枚を通じてキラーとなる1曲は『Two Hands』の“Not”にちがいない。この曲を前にして、僕はここのところ「オルタナティヴ・ロックは老いつつある」と書いてきたことを後悔している。“Not”はまるで衒いのない、誰かの内側の奥深くから発せられることによって生まれた紛れもない「オルタナティヴ・ロック」であり……それはそもそも「老い」とか「若さ」とか、トレンドを持ち上げてはすぐに忘れ去るメディアの狂騒なんかに左右されない、いまどうしようもなく迸るエモーションとして鳴らされている。「Not」という否定を畳みかけていくこの曲のサード・ヴァース、「本当に求めているものではなく」と歌うレンカーの声がかすかに揺れれば、すぐにそれは爆発的なエネルギーとなる。90年代の「オルタナ」を遠景に幻視せずにはいられない“Forgotten Eyes”、シューゲイズの香りを纏ったノイズ・ロック・チューン“Shoulders”……弾き語りのフォーク・ソング群もまたたしかに奥ゆきを与えている『Two Hands』だが、よりダイレクトで削ぎ落としたサウンドを目指したという本作は驚くほど「ギター・ロック・バンド」のスリルに満ちている。

 近年フォークが復権しつつあるのは、個々のアイデンティティが苛烈に問われた季節を経て、もう少し広範な意味での「時代の声」が求められるようになったからだと僕は考えている。しかしながらビッグ・シーフによるフォーク・ロックには、カルト集団から10代で抜けだしたという特殊な生い立ちを持つレンカーの「個」が強く反映されており、そういう意味でシンガーソングライター作に近い部分はたしかにある。「U.F.O.F.」とは「未知なる友」のことで、彼女にとって受け入れがたかった自分自身のコントロールできない部分を受け止めることを表しているという。それは彼女だけのものだ。ただ、バンドによってのみ実現される合奏で鳴らされ、聴き手にとって未知なる他者への恐怖を和らげるための内省という意味を持つとき、たしかに時代の音になりうると僕は思う。自分の立つ場所で、他者とアイデンティティを超えて融和すること──それはシンプルだが現代的なテーマで、わたしたちの大切な願いだ。
 ビッグ・シーフのロック・ミュージックは明るさと暗さ、強さと弱さ、不安と安堵、烈しさと穏やかさ、囁きと叫び、はるか空の彼方と自分のふたつの手の間にあるどこかで揺れている。その、いまにも壊れそうなバランスのなかで輝く美しさが細部でこそ息を立てている。

FilFla - ele-king

 日常のなかの祝祭。色彩の横溢。ミニマムな悦び。旋律の横溢。リズムの歓喜。杉本佳一によるフィルフラ(FilFla)、9年ぶりのアルバム『micro carnival』は、そんな「音楽」の喜びに満ちていた。まさに「エレクトロニカとポップの饗宴」か。それとも「マイクロ・ポップの宴」か。もしくは知性とプリミティヴの融合か。

 杉本佳一はフォーカラー(FourColor)名義、ベグファー(Vegpher)、フォニカ(Fonica)、ミナモ(Minamo)としても活動している作曲家/日本のエレクトロニカ・コンポーザー、サウンド・デザイナーである。NYのエレクトロニカ/アンビエント・レーベルの〈12k〉からもリリースされるなど海外での評価も高い音楽家だ。
 このフィルフラはポップを追及したプロジェクトで、彼の音楽を愛するリスナーの中でも特別な意味を持つ名である。〈HEADZ〉からリリースされた『Sound Fiction』もエレクトロニカとポップをつなぐ重要なアルバムであった。
 私は『micro carnival』は「エレクトロニカ」の可能性を大きく広げたのではないかと考える。ポップさと高密度なサウンドの融合ゆえである。緻密に作り込まれたトラック。美しいメロディ。ワクワクするようなリズム。リリースは同じく『Sound Fiction』同様に〈HEADZ〉。

 さて、『micro carnival』は杉本のみならず参加アーティストも重要だ。ソロ・アルバムをリリースするアーティスト moskitoo がヴォーカルして全5曲に参加(moskitoo もまた〈12k〉からアルバムをリリースしている)。作詞のみならず杉本と作曲を共作するなど多面的に活躍している。
 また Chihei Hatakeyama とのユニット、ルイス・ナヌーク(Luis Nanook)の活動でも知られるシンガーソングライターの佐立努もヴォーカルとして全2曲に参加。彼もまた作詞のみならず杉本との共作で作曲も担当している。全編にフィーチャーされているドラムは〈SPEKK〉からリリースした名盤『水のかたち』をリリースした松本一哉が担当している点も注目だ。彼らは単なるゲストではなく、アルバムの重要なコラボレーターである。
 もちろんアルバムの要となるのは杉本によるサウンド・デザインだ。90年代末期~00年代以降のエレクトロニカ・サウンドを継承しつつ、ドラムスも含めた楽器とのコンビネーションとエディットも卓抜のひとこと。何より親しみ深いメロディと耳を惹きつけてやまない工夫と創意にトラックは、杉本がCM音楽作曲家として得た技能を存分に投入した結果かもしれない。
 もちろん「音楽」を発見したような新鮮な驚きに満ちている点も重要だ。エレクトロニカ/音響の「仲間たち」によって奏でられる「マイクロ・ポップの宴」である。

 細やかなサウンドと大胆なリズムが光のように祝祭的な1曲め“papa mambo”と moskitoo のヴォーカルと切ないメロディと細やかなアレンジが胸に染み入る“breath”は本アルバムのキーとなる曲だろう。加えてトイ・ファンク・エレクトロニカ“strike zone”、ディズニカルなアレンジと瀟洒なアシッド・フォークと電子音楽の融合とでもいうべき佐立努のヴォーカルによる“mosaic”もアルバムの不思議なムードを決定付けている。ともあれ全曲、日常の光の中で鳴っているような作品ばかり。小さな音楽と大きな祝祭、大きなリズムと小さなノイズ、大きな喜びと小さな悲しみが、音楽の隅々から溢れて出ていた。
 それはエレクトロニカが音響の快楽から音楽の喜びを獲得した瞬間にすら思える。2019年、エレクトロニカ・ポップな電子音楽はこうまで普遍的になった。多くの人の届いてほしいアルバムである。

羊とオオカミの恋と殺人 - ele-king

 今年の日本は「あいちトリエンナーレ」への脅迫や京アニの放火などテロリストのヴィンテージ・イヤーとなったけれど、虚構の世界ではホラー・ブームの勢い衰えぬまま、まるでそれらをリンクさせるようにシリアル・キラーもラッシュ状態となった。TVドラマ『あなたの番です』の「黒島ちゃん」、『ボイス』で伊勢谷友介演じるカチカチ野郎や『わたし旦那をシェアしてた』の黒木啓司、『リカ』の高岡早紀も印象的な殺人看護師に扮し、映画では『バーニング』のスティーブン・ユァン、ラース・フォン・トリアー監督『ハウス・ジャック・ビルト』、まさかのザック・エフロンが『テッド・バンディ』で主役を務め、年が明ければファティ・アキン監督『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』も控えている。2017年にも多少は波があったとはいえ、マッツ・ミケルセンの『ハンニバル』が打ち切りとなって以降、完全に下火になっていたと思っていたのに、いきなりインフレ・ターゲット2%超えである。完全なる知能犯から座間9遺体事件を想起させるだらしないシリアル・キラーまでタイプもいろいろありながら、最後のところでは超自然的な要因に還元できてしまうホラー映画よりも人間に興味があるという点では製作者の意図も共通しているように思われる(ちなみに僕が一番怖かったのは「尾野ちゃん」です。「尾野ちゃんロス」になって『カフカの東京絶望日記』まで観てしまいました)。

 『羊とオオカミの恋と殺人』は、これまでに黒沢清『岸辺の旅』のメイキングやラドウィンプスのドキュメンタリーなどを手がけてきた朝倉加葉子の長編5作目。フィッシュマンズのファンだからか、名前に「葉」が入るからか、いきなりオープニングからハンパない重低音が鳴り響く。拡大された玄関の覗き穴からカメラが部屋のなかに入っていくとゴミの山の中に若い男がひとり。花王のCMで女装姿が印象的な杉野遥亮演じる黒須越郎が「人生は突然、意味を失う」などとぶつぶつ呟きながら首を吊ろうとするも縄をかけた棚ごと落ちてしまい、自殺には失敗。そして壁に空いた穴を覗き込むと隣の部屋では福原遥演じる宮市莉央がオムレツを食べているところ。黒須は毎日、「宮市さん」を覗くことで生きる活力を得るようになり、それが日課となっただけでなく、ひょんなことから一緒に食事をしないかと誘われて、毎日、彼女の部屋で夕食を共にすることに。ところがある日、いつものように壁の穴から「宮内さん」を覗いていると、「宮市さん」が見知らぬ男性を部屋に連れ込んでいるどころかその男性の喉をいきなりカッターで切り裂く場面を見てしまう。黒須は自分が見たものを最初は信じられず、「なかったこと」にしていたが、2度目に殺人を目撃した時はつい大声をあげる。親切で可愛い「宮市さん」はプロ(?)のシリアル・キラーだったのである。逃げる黒須を「宮市さん」は屋上まで追い詰める。「宮市さん」はカッターを黒須にまっすぐ突きつける。

 振り込め詐欺をテーマとしたTVドラマ『スカム』の後に、それを追う側から描いた『サギデカ』が続き、どちらも振り込め詐欺に対してシリアスな問題意識があったのに、その次に来た『チート』では物語の背景へと退いてしまったように、この作品でもシリアル・キラーを扱う手つきはもはやガジェット化し、早くも次の時代に入ったことを告げている。裸村(ラーソン)のマンガ『穴殺人』を原作とした青春スプラッタ・コメディなので最初からリアリズムとは無縁で、「宮市さん」が殺人を重ねるたびに人格や環境などに変化があるわけでもなく、「宮市さん」自身も「黒須くん」とごはんを食べ続けるのは「自分が正常かを確かめるため」と、「日常性の揺るぎなさ」がまずは基調となっている。平成を覆い尽くし、令和にも受け継がれつつある「日常」の優位性はありとあらゆる場面で重視され、SNSによるガス抜きがしっかりと機能しているのか、異常なことを異常だと認めることなく、何事にも平然とできる感覚はもはや日本文化のお家芸といっていい。日本人が「動く」としたら、では、どんな時なのか。『羊とオオカミの恋と殺人』で「宮市さん」が興奮するのは人を殺している時ではなく、(以下、ネタばれ)「本当に好きな人を殺したかった」ということがわかった時だった。それは誰かと「切れるほどつながれ」ていなければ得られない感覚であり、逆にいえばたいていの日本人は他人が生きていようが死んでいようが別にどっちでもよく、「黒須くん」も「宮市さん」が次々と人を殺していくことに最初は狼狽えているものの、彼女の「生活様式」にあっさりと収まっていく。身体感覚がルールよりも「身内」に寄りがちなのも実に日本的。

 「黒須くん」が自殺しようとした理由はあまり詳しく描かれていない。冒頭で「突然、いろんなことが意味を失った」という独白があっただけである。その時に例としてあげられていたのは円周率を細かい数字まで暗記していたのに、その必要がなくなったという「条件の変化」だった。それまでの「努力」が無に帰したのである。経済成長期に「努力」は推奨され、尊いものだとされてきたけれど、現在では貧富の差を決定するのはどの家に生まれたかであって、「努力」とは無関係なものになってしまった。まったくのゼロではないけれど、「円周率を細かい数字まで暗記」するようなタイプの「努力」は実を結ばなくなる社会に変化し、「黒須くん」はいわば自分がスタートラインにも立っていないと悟ったわけである。たまたまかもしれないけれど、「黒須くん」を演じた杉野遥亮は前述したTVドラマ『スカム』で振り込め詐欺の有能な「かけ子」を演じている。法律というラインを超えたところでは「努力」が実を結び、杉野演じる草野誠実は父親の治療費を稼ぐことができた。同じように追い詰められていてもこうした反則行為を是としなかったのが「黒須くん」であり、自殺という結論であった。そして、死ぬこともできなかった人間の前に生殺与奪の力を行使する「宮市さん」が現れる。「宮市さん」はそれこそ超法規的存在である。社会との接点を失った「黒須くん」が共同体とつながることができた唯一の方法は「宮市さん」への帰依でしかない。「努力」(と人海戦術)の上に成り立っていた日本経済が構造的な転換を遂げているいま、昭和期にはあれだけ影が薄かった天皇がやたらと存在感を増している現実とこの作品はダブって見えてくる。天皇というのは「身内」を拡大した時に現れるもので、政治に活路を見出そうとしない日本人がここのところ天皇に熱い視線を向ける光景は、それこそ政治の季節から宗教の時代への変化を告げ知らせるものだろう。

 後半は半グレ集団との対決という活劇調に雪崩れ込んで行くものの、監督やプロデューサーはこの作品をラヴ・ストーリーとして設定しているので、それよりはパピコを2人で1本づつ食べたり、2人のデート・シーンの方が僕の記憶には残った。「宮市さん」というよりも(『ゆるキャン△』の主演も決まっている)女優としての福原遥を明らかに不思議ちゃんとして増幅させている演出なので、サロメを思い出す人も多いだろうけれど、そのような存在に恋心を抱く男が描けていたかどうがこの作品の評価を分けるところかもしれない。僕はなるほどと感心させられるレヴェルではなかったけれど、ギリギリでアリだったかなという感じ。そして、僕がこの作品を恋愛ものとして見た場合、一番いいなと思ったのは、2人は相手の名前を苗字で呼び合い、エンディングで初めて「名前」を教えあったところである。この時まで彼らは「越郎と莉央」ではないのである。これは新鮮だった。「名前呼び」というのは高校生でもあまりしないことなのに、TVドラマや映画ではとくに恋人でもない女性を名前で呼ぶことが多く、なんか、気持ち悪いのである。『ブラック校則』でも小野田創楽は上坂樹羅凛を「上坂さん」と呼び、月岡中弥は「樹羅凛(きらり)」と呼ぶと「名前で呼ばないで!」と怒られていたではないか(というのはちょっと違うか)。2人が自分の名前を教えあってからはラヴ・ストーリーとして見てもいいのかもしれない。そして、2人は左手で握手をする。左手で握手をするのは相手を嫌っているという意味だったりするけれど、ここではちょっと意味が異なるようで、冒頭で黒須が自殺に失敗した時、隣室の光が差し込んで当たるのは黒須の左手なのである。黒須の左手があの時、あの場所になければ2人は出会わなかったのかもしれないのだから。

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