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RIP

R.I.P Muhammad Ali

R.I.P Muhammad Ali

文:野田努 Jun 15,2016 UP

 スポーツの場に政治を持ち込むなと人はいう。個人的にその意見には賛同する。いちいち政治的背景を気にしていたら、サッカーなんて見れたものではない。しかし、彼は違った。その全盛期を放棄してでも、行きたくない戦争に反対した。彼はスポーツを通じて社会的な声明を上げて、ポスト公民権運動にも影響を与えた。
 2016年6月3日に永眠したモハメッド・アリは、ある意味すごいタイミングでこの世を去ったボクサーは(#BlackLivesMatter は自らの存在はアリのおかげだと表明している)、死後のシナリオを用意していた。イスラム葬の後には、生まれ故郷であるケンタッキー州西部ルイヴィルの町をまわった。ぼくは先週末の深夜、TVが放映するその光景をずっと、ただずっと見届けた。もっとも人種差別の激しかったその町のなかをチャンピオンをのせた車が走る。現地は素晴らしい快晴で、ルイヴィルはいかにもアメリカ南部の田舎といった風情だった。アリが行く先々で、次々と、人びとがアリを迎える。老人も大人も子供も。ありがとうチャンピオン、おやすみなさい。青空の下、葬儀とは思えないほどの明るさで。どんな映画よりも、それはぼくの目頭を熱くさせた。
 ぼくは現役の全盛期のカシアス・クレイを見ているわけではない。ぎりぎり、復帰してからの試合を見ている世代で、彼の烈々たる人生を理解するのはずっと後のことだった(まあ、ノーマン・メイラーとか読んだり)。とにかく彼の政治的表明は、ぼくが小学生の頃は番組中にあまり語られていなかったように思う。そんな重要なことを、だ。ある意味ノックアウトよりも重要な、現代がまさに直面していることを……、まあ、スポーツの場に政治を持ち込むな、ということなのだろう。
 だが、彼は明らかに物事を変えた。腕っ節が強い以上の希望をもたらしたのは事実だ。ぼくの知り合いには、何十年も前から、気合いを入れるときにはつねにアリのCDを聴いている男がいる。重要なことは、彼が「蝶のように舞い蜂のように刺す」ボクサーだったことなのだろうか。いや、才能に恵まれながら、いままさにその蝶のような華麗さでもって全盛期を迎えようとする20代そこそこで、ベトナム人は俺をニガーなどと呼んだことはないと言ってのけ、キャリアを棒に振ってでも自分を貫いたことなのだろうか。
 もちろんそのどちらか片方だけでは、彼はここまでの大人物にはならなかった。ただ、彼の強さとは、そのパンチだけではない。誰もが言いたくても言えないことを言ったことでもある。ええい、言ったるわいというのは、彼のカウンターパンチのように勇敢だったということだ(ぼくのまわりには、言いたくても言えない人が少なくない。言えない人を責めるなと現代の優しい社会は諭すが、ぜひアリの勇気に学んで欲しい)。
 最後にもうひとつ加えるのなら、彼はパーキンソン病になって、どんなに病状が悪化してもボクシングのことを批判しなかったということだ。彼は、そう、ボクシングが悪かったなどとは言っていない。スポーツマンらしいし、彼にとってのボクシングとはただたんに王座に昇ることだけではなかったからだろう。追悼文が遅れてしまったけれど、偉大なるチャンピオン、ありがとう、おやすみなさい。

文:野田努

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