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LEX

Hip HopRap

LEX

King Of Everything

Mary Joy Recordings

小林拓音 Mar 07,2023 UP

 それは2017年の3月。まだ14歳だった。初めて世に発表した曲は “こっち見ろ!(Look At Me!)” のリミックス。ダブステップの重要人物、マーラディジタル・ミスティックズ)を大胆にサンプルしたXXXテンタシオン2015年の同曲が、ショウビズ的なレヴェルで大きな注目を集めることになったのが2017年の2月ころ。なのですぐさま反応していることになる。早い。二重の意味で。
 湘南出身のラッパー、LEXはその後自殺未遂を経て死ねなかったことに意味を見出し、本格的に音楽の道を進むことになる。サウンド的にはトラップやイーモ・ラップ以降の感覚をポップに表現、4つ打ちやロックの技法も貪欲にとりいれてきた。精神的不安定、そこから逃れるためのドラッグ、あるいはスマホ、インスタにTikTok──リリックには洋の東西を問わず2010年代を支配することになった鍵概念が散りばめられ、結果、彼は多くのティーンから絶大な支持を獲得。当人もまた10代の代弁者であることを意識していたという。

 他方で彼は同世代のリスナーたちに「べつの見方」を提供することにも心を砕いてきた。2019年4月にリリースされたファースト・アルバム『LEX DAY GAMES 4』のコンセプトは、SNSにとらわれていたり、現実よりもゲームのほうがリアルに感じられたりする状況からティーンたちを解き放つというもので、冒頭 “STREET FIGHTER 888” ではレトロなピコピコ音が鳴り響いている。90年代までのVGMを特徴づけるチップ・サウンドは、以降もときどき彼の曲に顔をのぞかせることになるギミックだ。
 市販薬によるオーヴァードースかヴィデオ・ゲームか──。トー横キッズじゃないけれど、逃走の選択肢が少ないティーンたちの代表たりえているラッパーは、もしかしたら彼以外にもいるのかもしれない。カネを稼ぐことへの執着や「勝つ」という強迫観念、それらヒップホップ/ラップ・ミュージックの世界における定型を活用する一方で、LEXは同業者にはなかなかやれないことをやってのけてもいる。たとえば耳による意味把握が困難なことばたちが走り抜けていく “GUESS WHAT?” (セカンド『!!!』収録)のMV。そこではいまは亡き安倍元首相による国会答弁の様子がブラウン管=旧時代を象徴する機器に映し出され、それをつまらなさそうに眺めるキャラクターたちが配置されていた。政権への違和の表明だ。

 決定的だったのはおよそ1年前、2022年の1月にドロップされた “Japan” だろう。明らかにニルヴァーナを模したサウンドをバックに、やや抽象的な音声が「若者金ない 大人も病んでいる/なのにこの国はシカトをかます/大胆な演説をカマして何度も嘘をつく」と臆することなく歌いあげている。ブリテン島であればこれくらいは「普通」の範疇に含まれるのかもしれない。けれどもここは日本。名指しで国家を批判する19歳の表現に、拍手を送らないわけにはいかない。
 さらに重要なことに彼は、「オトナ=既得権益をむさぼる老害」というありがちな単純化にも与していない。「政府の意見にうんざりするよ/俺達に優しいフリをするのに/働き詰めの若者 老後に困る老人」──高齢者の「集団自決」を推奨する30代後半の御用学者とはえらいちがいで、豊かな共感力と想像力を持ちあわせているからこそ出てくるリリックだ。10代から圧倒的に支持されているファッション・アイコンであり、人気曲 “なんでも言っちゃって” (プロデューサーはKM)のようにご機嫌な曲を書くことのできるラッパーが、他方でこういうシリアスなテーマにも果敢にチャレンジしていることの意義は、「若者の政治離れ」などという惹句がまかりとおる時代・地域にあって、はかりしれない。

 今年1月にリリースされた5枚めのアルバム『King Of Everything』には、しかし、“Japan” は収録されなかった。テーマが異なるということなのだろう。シンプルなギター・ポップ調の “大金持ちのあなたと貧乏な私” のように、置かれた環境や身分のちがいを描写することで格差社会を喚起させる曲もあるにはある。だがこれまで以上にポップさを増した新作は、全体的に、「思春期」の総括のような様相を呈している。昨年20歳を迎えたことが影響しているのかもしれない。
 序盤は「強い自分」を誇示するタイプの曲が目立つが、後半ではよりセンシティヴな感情に光が当てられている。LEXの武器のひとつである、微細に震えるヴォ―カリゼイション。それがいかんなく発揮された “This is me” ではリスナーの承認欲求を受け止め、苦しみに寄り添ってみせる。ドラッグ依存を描写する “If You Forget Me” とセットで聴くと、なぜ彼がティーンから熱烈に支持されているのか、その理由が見えてくるような気がする。アガったり落ちたり、攻撃的になったり優しくなったり、小さな成功を収めたり大きな失敗を繰り返したり、もう四方八方ぐしゃぐしゃで、なにをどうしたらいいのかわからない──だれもが10代に経験しやがて卒業していくことになる苦悶を、等身大で表現してみせること。
 その総決算が THE BLUE HEARTS “歩く花” の本歌取たる最終曲なのだろう。「自分の色も分からない」「窮屈な檻」に閉じこめられている主人公は、「どなたか僕を刺してください」と声を絞り出す。思い浮かべるのはカート・コベインの「俺は俺を憎んでる、死にたい(I Hate Myself and Want to Die)」だ。若さの特権ともいえる過剰な自意識を、みごとにとらえたフレーズといえる。
 このアルバムはきっと、ある種の成長痛の記録なのだと思う。主人公とともにLEXはいま、オトナの世界に足を踏み入れようとしている。「自分」ではなく社会へと目を向けた “Japan” はその前哨戦であると同時に、これから進む先を指し示す道標だったのではないか。だからこそ収録されなかったのではないか。

 まもなくLEXは21歳を迎える。それはすなわち彼が今後、20歳で銃殺されてしまったテンタシオンがけっして歩むことのかなわなかった道を踏破していくことを意味する。現時点でこれほどの共感力・想像力を持つアーティストだ。20代、30代、40代、50代、60代……歳を重ねるごとにその表現には磨きがかかっていくにちがいない。

小林拓音

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