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Zazen Boys

Zazen Boys

すとーりーず

MATSURI STUDIO/バウンディ

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野田 努   Oct 15,2012 UP
E王

 ザゼン・ボーイズのファンで座禅を経験しているのは何人いるのだろう。バンドのメンバーはやはり経験しているのだろうか。向井秀徳とは何度か酒を飲み、音楽について「何が好きか」とか「ビートルズだったら何が好きか」などというたわいのない話を延々としたことがあるけれど、肝心なことを聞き忘れていたといまさら気がついた。

 只管打坐というのは有名な禅宗の教えで、座禅を組むのは、それで心が洗われるからとか、浄化されるとか、悩みが消えるとか、そうではないと。座禅をしたいから座禅をするのである。掃除をしたいのは、部屋を綺麗にしたいからではない。掃除をしたいから掃除をするのである。原稿を書きたいのは、ただ書きたいから書くのである。なにかの目的があって行動があるのではない。行動は行動そのものによって成り立つ。ポテトサラダが食べたいのは、ポテトサラダで野菜を取りたいからではない。ポテトサラダが食べたいから食べるのだ。禅という東洋で生まれた「考え方のシステム」は、1960年代のヒッピーからジョン・ケージ、あるいはディスコ(アーサー・ラッセル)にまで影響を与えている。僕は西欧人ではないからわからないが、早い話、煮詰まりかけていた欧米の「考え方のシステム」に別次元の自由を与え、気持ちを楽にしたのだろう。

 ザゼン・ボーイズなるそのバンド名の、座禅という、ある意味反ロック的な言葉(なにせ座っているのだから)をボーイズという実にクリシェたるクリシェとくっつけているところに彼らの本質が見える。片方の耳で般若心経や落語を聴きながら、もう片方の耳ではロックが、ファンクが、ジャズが、電子音楽が、ディスコが、白い音楽と黒い音楽が注入される。音の実験には余念がないが、ザゼン・ボーイズの音楽は洗練されている。

 彼らのファンクへのアプローチには本当に目に見張るものがある。それぞれの楽器のそれぞれの反復のあいだには、よろめく身体を鞭打つようなフィルイン、ユニゾンが入る。"ポテトサラダ"の奇数拍子をリズミックな躍動は見事なもので、ある意味バトルズと同じ次元で鳴っていると言えよう。
 向井秀徳は、彼のマス・ロック的なアプローチのいっぽう、"はあとぶれいく"ではシンプルな8ビートを面白がり、また"破裂音の朝"や"サンドペーパーざらざら "ではUKのポスト・パンク・バンド、ワイヤーのようにデザインされた音の配列を披露する。"電球"における5拍子のグルーヴを聴いていると、しかしマス・ロックと呼ぶには......なんというか、彼らのよりフィジカルな衝動を感じる。ダンス・ミュージックとして成立しているのだ。

 "気がつけばミッドナイト"や"暗黒屋"のような曲は、彼らの旺盛な実験精神の結実のひとつだ。向井秀徳のジャズに対する共鳴は、その装飾性やたんなる情緒的なものとしてではない。音楽的論法の連なりによって表されている。ドラム、ベース、ギター、時折入る鍵盤の音は、IDMのビートメイカーがソフトウェアを使ってもできない領域があるところを見せている。彼らにとって5枚目のアルバムは、前作で見せたダンス/ファンク/エレクトロニック・ミュージック、それからキモノスで試みたシンセ・サウンドをさらに押し進めるものとなった。"泥沼"は、『セクスタント』時代のハービー・ハンコックがキャプテンビーフ・ハートとセッションしているかのようだ。
 タイトル曲の"すとーりーず"は、いわばディスコだ。ベタな4/4キックドラムを使い、ユニークな録音をもって生まれた、彼らのコズミック・ディスコである。クローザーの"天狗"でもバンドは拍子数を操り、見事なアンサンブルで、おおらかなグルーヴを創出する。『すとーりーず』は、彼らの高度な演奏の妙で、スリルと興奮の音楽体験を我々を差し出す。僕はその態度にとても共感を覚える。

 向井秀徳の歌詞は、敢えて道徳心(J-POPでお馴染み)を踏みにじるような、ときに露悪的なきらいもある。ユーモアのふりをして、揺さぶりをかけているかのように、彼はきわどい言葉遣いを好む。たとえば「陸軍中野学校予備校理事長 村田英雄」といったフレーズは、いまのご時世では笑えない(徴兵制が検討されているくらいだから)。そして、彼の言葉は道徳心を説いてばかりいる日本の多くの音楽にくらべれば異色であるばかりか、陳腐なことのいっさいを聴き手に強制しない。これから起こりうるすべてのことを思いつつ、パンツ一丁で踊りたいと向井秀徳は叫んでいる。ザゼン・ボーイズが人間を小馬鹿にしているのか愛しているのかよくわからくなったときには、アルバムの1曲目に戻れば良い。

野田 努

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