Home > Reviews > Album Reviews > 今井慎太郎- 動きの形象 今井慎太郎作品集
ピエール・ブーレーズによって組織されたパリのIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で学び、ブールジュ国際電子音楽コンクールなど、世界各国の音楽コンクールで多数の賞を受賞した今井慎太郎(国立音楽大学准教授・コンピュータ音楽研究室長)は、楽音とノイズという二項対立を超えた地点から現代音楽/コンピュータ音楽を捉え直し、聴覚の刷新を試みている音楽家である。
今回、ついにリリースされた今井慎太郎のアルバムには、その長年の音色(ノイズ)に対する研究と思想と技法が見事に封じ込められている。
今井慎太郎は本作のライナーノーツで、「盆栽」から強くインスパイアされていることを語っている(http://www.shintaroimai.com/)。盆栽といっても老人の趣味としてそれではなく、「小ささ」の中に植物の自律的な運動性や作家の操作の粋を封じ込めたミクロコスモスな存在としての盆栽である。
今井は次のように述べている。「あらゆる自然音に含まれるノイズの微細な運動を方向づけることに関わっています」「この種のノイズは人工的につくり出すことはできず、また離散的な要素や単位に切断してしまえばその真価を失うでしょう」。
そして、こうも断言をする。「コンピュータを用いて、音そのものを「剪定」し「矯正」するようにして、私は音楽をつくります」。そう、その音色が本来持っている自律的な運動性をも解き放ってもいるのだ。
脳髄を震わす蠢くテクノイズ(M1、M6)、雷鳴のように変調されたアレクシス・デシャルムの爆音チェロ(M2)、宮田まゆみの笙に電子音が折重なり(まるでトーマス・ブリンクマンの新作のような!)静謐なドローン(M3)、さらにはグリッチ・ノイズを導入した巧みな構成によるミュージック・コンクレート(M4)から木村麻耶による二十五絃箏がダイナミックに生成変化を遂げる曲(M5)まで、どの楽曲(音色)も植物のように運動と拡張を繰り広げていく。
この音のミクロコスモスを彷徨いながら聴き進めていくと、私たち聴き手は「音色にも形がある」と確信をする。今井慎太郎は抽象的な音のカタチに、コンピュータを用いることで一瞬の手を加えているのだ。偶然と作為。動きと形象。まさに「盆栽の思想」である。
現代音楽リスナーのみならず、マーク・フェルなどを愛聴しているグリッチ・マニアの方にも聴いていただきたい。
デンシノオト