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Jesse Osborne-Lanthier

Jesse Osborne-Lanthier

As The Low Hanging Fruit Vulnerabilities Are More Likely To Have Already Turned Up

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Jesse Osborne-Lanthier

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デンシノオト   Jan 31,2017 UP

 ジェシー・オズボーン・ランティエは、ベルリン/モントリオールを拠点とするサウンド・アーティストだ。彼はソロに加えて、バナルディーノ・フェミニエーリとのフェミニエーリ・ノワール、ホボ・キューブズとのザ・エイチ(The H)というユニット活動もおこなっており、2015年にはロバート・リッポックとの『タイムライン』を、2016年にはグリーシャ・リヒテンバーガーとの『C S L M』をリリースするなど、コラボレーションにも積極的。リリースは主にカセットとデータ(リヒテンバーガーとの作品はLP/データ)を中心におこなわれ、〈ホエア・トゥーナウ?〉や〈ハルシオン・ヴェール〉など、知る人ぞ知るレーベルから作品を送り出してきた。そのサウンドは、聴き手の知覚の磁場を不安定に拡張するかのように強烈である。

 そのジェシー・オズボーン・ランティエが、2016年に〈ハルシオン・ヴェール〉からリリースしたアルバムが、この『アズ・ザ・ロウ・ハンギング・フルーツ・ヴァルネラビリティーズ・アー・モア・ライクリー・トゥー・ハヴ・オールレディ・ターンド・アップ』である(以下、『ATLHFVAMLTHATU』)。私には、この『ATLHFVAMLTHATU』こそ、2010年代のインダストリアル/テクノの現在形を示すアルバムに思えた。ヒップホップやグライムをルーツに持っているように聴こえながらも、それらの要素は、ノイズの中に焼け焦げ、まるで残骸のようなノイズとして放出されていたからだ。融解ではなく、焼き尽くされた感覚。まさに、この不穏な時代を象徴するような感性である。その衝動の連鎖のごときサウンドは、メタリックで乾いた感覚をリスナーの耳に残す。まるで鉄屑の美学のように。彼のリズムは、自身の衝動的な律動そのものだ。やや古い映像だが、3年前のライヴ映像を観ても、それはわかる。

 肉体の衝動。そして光の衝撃。この強烈な暴発感覚は、本作『ATLHFVAMLTHATU』でも同様だ。衝動と鉄屑のように乾いたサウンドは、より緻密に、強靭になり、同時に、一種の(奇妙な)ノイズ・レイクエム的な終末感覚を醸し出していた。そう、2010年代のインダストリアル/テクノが、ある種の同時代性を持っていたとするならば、この「世界が終わっていくこと」の意識/無意識を、強く反映した音楽だったからではないか。じじつ、1曲め“ノース・フェイス・キラ”から、まるで「空爆」のような壊れたビート、爆発のようなノイズが炸裂する。まさに「世界の終わり」の感覚である(むろん、それが一種のフェイクであったとしても問題はない)。

 だからこそアルバムの終曲=終局である“ヴェロシティ、バイロケーション、パイロキネシス”は、どこか讃美歌のように響いているのだろう。爆風と瓦礫。その果てにあるハーモニー。なんという美しい構成か。まさに崩壊していく「世界」へのノイズ・レクイエム。そして、その終末感覚こそが、本作を含む2010年代的なインダストリアル/テクノ、最大のテーゼといえる。いわばダークで物語性の強いテクノ。「ダーク・テクノ」。

 しかし、である。2017年以降、それは一定の役割を終えることになるのではないか。ノイズだとか、ミュージック・コンクレートだとか、エクスペリメンタルだとか、アンビエント/ドローンだとか、それら言葉の記号性が有効性を持ちえた時代が終わったともいえるし、より内実を伴いつつ、現実的な応用の時代に入ったともいえるし、そもそも世界は、いったん清算すべき時の直前に来ているのが、いまや明確になったからだ。世界は終わる。ゆえに物語は終わった。では、世界の無意識を反映する先端的音楽に、どのような方向性があるのか。ひとつは、ヴァーグのように、この世界のダークを鏡のように映しだすブラック・メタル・ダーク・テクノへと進む道があるかもしれない。

 もうひとつは霧のようなアトモスフィアがさらに押し進まれていく傾向だ。これはウォルフガング・ヴォイトが2016年のタスク・フェティヴァルで披露したライヴ/映像が、そのモデルとなるのではないか。現象の生成。

 さらに、もうひとつは、より電子音の即物性や生々しさを追及するモードである。近年のモジュラーシンセ・ブームを経由したものだが、より電子音パルスの衝撃が聴覚と体を揺さぶるタイプのものだ。それはもはやモノのように、そこにある。その本年最初の重要な作品が、〈ラスター・ノートン〉からリリースされたジェシー・オズボーン・ランティエのEP『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』になるのではないか、と思うのだ。

 『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』は、パリでのライヴ・セットの2時間前に制作・録音されたものだという。そのせいか収録された全4トラックは、即物的かつ即興的電子音の運動感覚とジェシー・オズボーン・ランティエらしい前のめりのメタリック・リズム感が生々しく横溢しており、シンプルながら、まさにパルスの衝撃のような中毒性がある。このマテリアル・オブジェクト的なパルス感覚こそ、2010年代的なインダストリアル/テクノ「以降」を示す兆候に思えてならない。
 私はこのEPを聴きながら、イヴ・ド・メイがベルギーの〈アントラクト〉からリリースした『レイト・ナイト・パッチング 1』を思い出した(なんとなく名前も似ている)。『レイト・ナイト・パッチング 1』もまた、イヴ・ド・メイがモジュラーシンセを用いて一晩で作り上げた即興的音響テクノである。『レイト・ナイト・パッチング1』は、〈スペクトラム・スプールス〉からリリースされた『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』(2016)のダークで緻密な音響空間と比べると、即物的な電子音の集積による楽曲であり、その評価は賛否両論であったが(たしかに『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』以降の過渡期的音源であるのは事実だ)、しかし、私などは、そのマテリアリズム/テクノに、インダストリアル/テクノ「以降」の兆候を強く感じてしまった。これは『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』にも繋がる感覚である。

 2010年代前半的なダークなインダストリアル/テクノの物語性(世界の終焉のような。つまり『ATLHFVAMLTHATU』的)から、2010年代後半的なマテリアリズム(人間以降のモノ世界。つまり『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』的)への移行である。音楽から「物語性」が漂白された世界へ。つまりはマテリアル・テクノロジカルな電子音楽へと変化(ある意味では遡行、ある意味では進化)しつつあるのだろう。

デンシノオト