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Sorry

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Casanova.S Dec 04,2025 UP

 フリをする時代、そうMGMTが歌った“Time To Pretend”から20年、近ごろは誰も彼もが何者かになることを求め誰かを演じている。YouTubeもSNSもまだ一般的ではなかったインターネットの時代に果たして彼らはこんな未来を予見していたのだろうか。ロック・スターの振る舞いを皮肉った歌が2025年のいまではまるでこの日常を暮らす我々のことを歌ったものに思える。誰もが情報を受け取り発信し、ロック・スターにもワイド・ショーのコメンテーターにもなれる時代、そしてもしかしたらそれに少し辟易しかかってもいるかもしれない時代。我々はすべてのものを目撃し何にだってなれ、周りと比べてもはや井の中の蛙ではいられなくなり、傷つくことを恐れ、心を守るため自分以外の何かになる。他者を見れば見るほど素の自分がわからなくなり答えを求め、共感のショーウィンドウに並ぶ服を着ることで適した人間になり変わる(思うに少し伝わりすぎてしまうのだ)。大学、音楽、漫画、ファッション、映画に育児、アイドル、野球、エトセトラエトセトラ、それぞれにSNSのアカウントを作りその場に適した自分、そこで求められている人間に寄せていく。あるいは媒体自体を切り替えることもあるかもしれない。それは違う自分で、定まったよくわかる自分なのだ。自分の枠組みを自分で作る、目に映る他者の形を求め違う誰かになることであやふやな自己を規定する。そして時には肩書きや設定をプラスする。その場その場にあった振る舞いをするというのは昔からあったがいまはより強調しはっきりと分裂させている。そうしていつもなにかの価値を気にしている。

 そんな時代においてロンドンのインディ・ロック・バンド、ソーリーはこの3枚目のアルバム『COSPLAY』で我々に静かに問いかけるのだ。ゴート・ガールシェイムらと共にウィンドミルのインディ・シーン初期に登場したこのバンドはシェイムのチャーリー・スティーンがかつて評したようにやはり優れた観察眼を持っているのだろう。シーンを先導し流れを作るようなタイプではなくそこから一歩外れた染まらないアウトサイダー。観察し、それがどういうことかを考えて形を作り、また観察し考えるということの繰り返し。サンプリングが多用されたこの3rdアルバムはソーリーのバランス感覚、引き算のセンスが遺憾無く発揮されている。1stアルバムの作り込まれたサウンド・プロダクションと2ndのラフな感触を残した曲作りの両方の良い部分を抽出したかのようなこのアルバムはまさにソーリーの観察眼の賜物だ。重ね合わせても決して過剰になることのないこの音楽は淡々と熱を帯び、変化していく現代社会に生きる人の心を浮かび上がらせる。

 心の隙間に入り込むようなアルペジオが響くオープニングトラック“Echoes” でアーシャ・ローレンツは熱っぽく冷めて孤独を歌う。繰り返される「エコー / エコー/アイ・ラヴ・ユー」。この曲はもちろん悲しく揺れる美しさを持ったラヴソングであるのだが、自分にはこの言葉がインターネットの海を彷徨う孤独な叫びのように聞こえてくる。日々目の前を飛び交う声、知らない誰かの愛に憎しみ。誰に向けてのものかわからない、文脈が消え方向性を失った匿名のアイ・ラヴ・ユーはまるで助けを求めるようにこだまする。それは受け手以外の目に触れる多重コミュニケーションの反響なのだ。特定の誰かに向けての言葉だったものが反響し遠くの人間にまで届き意味が変質する。そして他の言葉や価値観と合わさりまったく違ったものに聞こえるようになる。あるいはこれは現代社会のありかたの一端を象徴しているのかもしれない(つまり我々の頭の中、スマートフォンの中で繰り広げられている日常だ)。

 そしてルイ・オブライエンが歌う“Life In This Body”がある。この曲は数年前に作ったものの一部を再利用して持ってきたのだというが、相変わらずルイは美しく枯れたメロディを紡ぐ。自分はこうしたタイプのルイの曲が大好きなのだが、しかし今回のアルバムではそれを決して単独では使わない。かってバンドを象徴していたコラージュのアートワークのようにサンプリングと合わせられ、ストリングスと共にいまのアーシャの作った部分と接続される。古いラジオから流れ出してきたような「I want to be out on the sea~」という冒頭部分はソーリーのエレクトロニクス奏者のマルコ・ピニが盟友のセイント・ジュード、hekaとともに始めたプロジェクト・Dorothyの曲でも使われ、共有されているのだが、それも何と接続するかで意味が生まれる現代アートのような振る舞いに思える。アルバムのレコーディング作業はパッチワークのようなものだったとバンドは言うが、曲のアプローチの仕方といい歌詞といいやはり社会の空気を反映させたアルバムのように感じられるのだ。

 そうしてこのアルバムはアーシャがかってSoundCloudに1分半の断片をアップしていた“JIVE”で締められる。アルバムの時間に繋がり4分に膨らんだこの曲にソーリーは混乱したクラブでの虚無を描いたようなアレンジをほどこしている。ハイパーポップまではいかない、ギター・ロックでもない、ダンス・ミュージックとも違う、それはまるでどこにも属することはない孤独を示すように響いていく。暗く狭い部屋でフラッシュバックするように点滅を始める感情。そうしてまた断片、接続される声。最後まで頭の中に響く匿名の声はやはり現代社会の孤独を感じさせる。誰しもいるがその全てに馴染めない、群衆の中の孤独。そうしてそれは終わりが来ずに続いていく。

 理解と観察のソーリーのこのアルバムは絶望せずにそれでも人を信じている。現代は誰かのフリをするコスプレの時代であると同時に、繋がることができるコネクトの時代でもあると感じているかのように。他者への関心を強く持ち続け、全体から切り離された断片に溢れる世界で意味を探し繋げていく、その熱は心を強く揺さぶる。なぜ自分がソーリーに惹かれるのか、その理由がこのアルバムには詰まっているのだ。

Casanova.S