Home > Reviews > Album Reviews > スチャダラパー- シン・スチャダラ大作戦
デビューからちょうど30周年を迎えたスチャダラパーによる、13作目となるフル・アルバム『シン・スチャダラ大作戦』。このタイトルは、彼らのデビュー・アルバムである『スチャダラ大作戦』の現代版アップデートとも読み取れるわけでもあるが、30年間、いい意味で全く変わらないスタイルを貫いてきた彼らのスタンスそのものが反映された作品にもなっている。
本作の目玉のひとつとなっているのが、“スチャダラパーからのライムスター”名義にて先行でシングル・リリースもされたRHYMESTERとの初のコラボレーションによる“Forever Young”だ。年代的にもキャリアの長さ的にもほぼ同じこの二組であるが、両者の歩んできた道はまったく異なる。『スチャダラ大作戦』リリースの時点ですでにサブカル界のニュースターであったスチャダパラーと、スチャダラパーから約3年遅れでリリースされたデビュー・アルバムを今では(半ば冗談だが)自ら封印しているRHYMESTER。いずれも、当時の日本のヒップホップ・シーンを牽引していたインディ・レーベルである〈ファイル・レコード〉からのデビューというのも何とも不思議な縁を感じるが、以降、スチャダラパーはスチャダラパーであり続け、かたやRHYMESTERは常に試行錯誤を繰り返して切磋琢磨し、成長し続けていく。時を経て、いまでは日本のヒップホップ・シーンを代表するベテラン・アーティストとなった二組の待望の初共演曲。Illsict Tsuboiがプロデュースを手がけ、生楽器もフィーチャしたファンクネス溢れるトラックと4MCとのコンビネーションが生み出した“Forever Young”は、彼らがこれまで約30年にわたって表現してきたヒップホップのまさに王道中の王道。若手や中堅のアーティストは決して真似することのできない、味わい深い1曲に仕上がっている。こんな曲が、2020年のいま聴けるなんて、彼らと同世代である筆者にとっても、実に感慨深い。
なお、今回のアルバムのメイン・プロデューサーは当然、これまでの作品と同様にスチャダラパーのDJであるSHINCOが担当している。SHINCOの作るサウンドは現在進行形の最先端のヒップホップとも当然異なるが、しかし、その時代時代に合わせて常にアップデートが繰り返されきた。とくに1999年リリースの『FUN-KEY LP』辺りで、スチャダラパーのサウンド面での基本型というものが作り上げられたように思うのだが、その型をずっとキープしたまま、その軸となる部分は全くブレない。その上での着実なアップデートによって、スチャダラパーの変わらないスタイルというものが、常に新鮮なままキープされている。それは実はBOSEとANIという2人のラップに関しても同様なのかもしれないが、『スチャダラ大作戦』にも収録された“スチャダラパーのテーマ”を引用した“イントロダクシン”から“シン・スチャダラパーのテーマ”へ至るド頭の流れの時点で、格好良さから面白さ、全てを含んだ彼らの普遍的なアーティストしての魅力が溢れている。
日本に限らず、世界を見渡しても彼らのようなヒップホップ・グループはおそらく他に存在しないであろうし、今後もそう簡単には現れることはないだろう。30周年を超えてもなお輝き続ける彼らが、今後さらにどんな活動を繰り広げてくれるのか楽しみでならない。
大前至