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Satan Club

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Satan Club

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Aural Canyon

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Casanova.S Dec 16,2024 UP

 まるで手帳に書き留められた日々のスケッチのような音楽だ。ひんやりとした輪郭をもって風にゆれる草木、時間とともに様相を変える空、さえずる鳥の声、目の前に広がる景色を手のひらの中の小さな世界に作りだそうとするかのような音楽。言葉によらない表現で彼は目の前の世界を描き出そうとした。ロンドンのスロウコア・バンド、デスクラッシュのギタリスト、マシュー・ワインバーガーのソロ・プロジェクト、サタン・クラブ。その2ndアルバムの時間は優しく静かに流れている。

 「世界が僕らに合うように変化した」これはデスクラッシュの1stアルバムのリリース前にワインバーガーがインタヴューで残した言葉だが、サタン・クラブはその変化した後の世界の姿を静と動、轟音の狭間で揺れ動くデスクラッシュとは違うやり方で描き出そうとしている。安価なふたつのマイクと、ポータブルレコーダーを持って田園地帯の小屋で、部屋の中、洞窟で、電車で、自然の中での録音を試みた。この2ndアルバムでアンビエントとフォークを融合させたかったのだと彼は言うが、ジョン・フェイヒィのギターに影響されたような最初のアルバムの骨格を残したまま、フィールド・レコーディングした音やサンプリングで作ったシンセサイザーを重ね、紙の上に色を置くようにして世界を描き出していく手法が見事にハマっている。つまびかれるアコースティックギターの音、その背後に薄く重なるテープループが空気の温度を表現し、ピアノは滴り落ちる水音や、ひんやりとした石の触感を思わせ、かすかに聞こえる物音が気配を伝える。そんな音楽を聞いているとまるで誰かの頭の中にある思い出の風景を見ているような気分になる。それは穏やかでたまらなく優しく、ノスタルジックで時間の感覚を忘れさせてくれるものなのだ。

 イングランドのサルフォーク・ハーテストの人里離れた小屋の朝、恋人が部屋の中で寝ている間に屋外でマイクを立てて録音したという “Hartest” でアコースティック・ギターの印象的なリフが響く。一本のマイクは凍える指先をとらえるくらいに近くに、もう一本のマイクは小屋の周りを旋回する鳥の鳴き声や急降下する気配を感じるほど遠くに置かれた。そうしてそれらが合わさった音楽が音の景色として提示される。ラフな録音なのがかえってイメージと結びつき曖昧で柔らかな記憶の中の風景へと変わっていくのだ。あるいはそれは音楽的な印象派とも言えるようなやり方なのかもしれない。

 “Cave Car Synth” でのそれはさらにユニークだ。その名の通り洞窟と車のシンセサイザーの音楽。カセットレコーダーを持ってコーンウォールの洞窟の中を探検し、滴れる海水の音を録音していたときに湾の反対側で車が動き出した。それが洞窟に反響し水音の中にごうごうとした音を鳴り響かせた。その音をサンプリングしてメインのシンセのラインを作ったのだという。そうしてそこに刻み繋ぎ合わせ反転させたピアノとサンプリングのバンジョーの倍音を重ねた。全ての音が再利用されたものから来ているにもかかわらず自然で水っぽい感じに仕上がったのが気に入っている、そうワインバーガーは記しているがこの曲を聞くとなんとも不思議な感覚に陥る。淡い水色の石英に囲まれた空間を彷徨い歩いているかのような感覚。洞窟を通り抜ける風のようなシンセサイザーの音色がそのイメージを連れてきて、反響するピアノの音が水が滴る道を手探りで進んでいるような気分にさせる。

 ほんの少しだけ恐ろしく、どこか厳かで、ひだまりのように優しい世界の記録、『Home Recordings』という名のアルバムに収められた屋外の音楽は聞く者の頭の中に遠いどこかの風景を浮かべさせる。懐かしくて新鮮な、サタン・クラブの音楽は記憶の中の風景を描くのだ。水色の下地の上に描かれたアートワークの絵にしても、四角く区切られたそれらは繋がっているようで繋がっていない。それぞれが異なった表情を見せまるで違った印象を残す。きっとそれは世界をどのように見て、どんなふうにとらえるかにかかっているのだろう。ヘッドフォンを付け、カセットレコーダーを手に旅をする、マシュー・ワインバーガーはそんなふうにして世界の姿を書き留める。この風景の音楽は柔らかな刺激に包まれている。

Casanova.S