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Sharp Pins

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Casanova.S May 09,2025 UP

 なんともなしにスマホを眺める目が情報をとらえる。20年前、30年前のこの日にあったこと、タイムラインの上での今日は誰かの生まれた日であったり、記録的な逆転劇が起きた日、名盤と呼ばれるアルバムが発売された日であったりするらしい。2025年のいまは過去の出来事に触れる機会が昔と比べて格段に増えた。日常に過去が関連付けられ今日の話題が作られる。インターネットの発展がもたらしたもののひとつに過去との距離を近くしたというはやはりあるだろう。部屋のスピーカーからはきらめくようなメロディのギター・ポップが流れてくる。この20歳の若者、シャープ・ピンズの音楽を聞いていると頭の中で過去と未来が混ざっていくような感覚におちいる。彼が生まれるずっと前の60年代の音楽への憧れ、しかしそれとは違ういまの音、ここにあるのは新しい過去なのだ。

 シャープ・ピンズはシカゴの若きカイ・スレーターのプロジェクトで彼はノイ!の曲から名前を取ったハロガロというコミュニティの中心メンバーでもある。ホースガールの話をするときに必ず登場するこのハロガロのシーンは少年期の仲間内のグループ、音楽を聞き、DIY精神で音楽を作る集団から始まった。そうしてパンデミックの中でよりコミュニティ的な側面を持つようになり次第に広がっていったのだ。彼のバンド、ライフガードのメンバー、アイザック・ローウェンスタイン、アッシャー・ケースのふたりにポスト・オフィス・ウィンター、ホースガールにフリコ、シカゴの街の中で感性が磨かれ刺激を受けて音楽とそれにまつわる文化が作られていった。その中でもジンを作ったというのが大きかったのだろう。「YOUTH REVOLUTION NOW」の文字が踊るファンジン「ハロガロ」の活動で彼らはノイ!のミヒャエル・ローターにインタヴューし
ステレオラブに話を聞いた。それと一緒に音楽について、人びとについて、自分たちに直接影響する何かに情熱をかたむける若者たちの文章が載る。憧れの存在にメールを送り、やりとりをし、なぜ自分がこれらの音楽が好きなのかを考え、表明する。何よりも自分たちのために、そしてそれを通して誰かとコミュニケーションを取る。彼が影響を受けたという80年代当時のパンクのジンと同じやり方ではないかもしれないが、しかしそこにはいつの時代でも変わることのない純粋な感情がある。

 そしてそれは彼の音楽活動にしても同じだ。シャープ・ピンズの音楽は愛に溢れている。サイケデリックでポップな60年代の音楽に対する愛、『Radio DDR』の最初の曲 “Every Time I Hear” のギターストロークが鳴った瞬間に我々は60年代の音楽の夢を見るのだ。街を歩く人びとの表情やファッション、匂いや空気、耳を抜けた先にある脳がイメージを立ち上げ世界を作る。このアルバムを聞いた時に僕はカレイドスコープやウエスト・コースト・ポップ・アート・エクスペリメンタル・バンド、ザ・クラブスの音楽を初めて聞いたときの感覚を思い出した。部屋の中に現れる未知なる過去の背景に思いをはせるような感覚、ここにはカイ・スレーターの頭の中の理想の60年代の世界があるのだ(あるいはそこにクリーナーズ・フロム・ヴィーナスが混ざっているかもしれない。それは後の世を知った世界の理想でもある)。万華鏡のように柔らかに広がる “Circle all the Dots” のギター・リフにフックの聞いたロマンティックな歌メロがのる。回りくどい小細工なしにただストレートに愛するものの形を伝える。この手法こそがカイ・スレーターの魅力だ。しかし決してやり過ぎたり、好きを押し付けたりはしない。何を吸収し何を出せばいいのか彼はちゃんと知っているのだ。

 それはまっすぐに若さをぶつけるロック・バンド・ライフガードにしてもそうだ。こうした差し引きのバランスはよくセンスという言葉で形容されるものだが、そのセンスが培われたのはおそらくジンを作ること、ハロガロのコミュニティとしての活動、そうしてインターネットとも無関係ではないだろう。自らの周りの熱を知り、遠くの温度を感じる、それをやったらどうなるのか、混ぜ合わすとなんになるのか? その例をいくつも目にし血肉とする。そうしてそれらの影響に自ら縛りをつけて適切に外に出すのだ。そうやってなんでもありの時代に線を引き形を作る。後戻りのできない、文字を消したり修正することのできないタイプライターでのジンの作成、制限をもうけた音楽制作、それらの縛りはしかし絶対的なものではなく、おそらく次の段階で柔軟に形を変え新たなルールが作られるのだろう。これこそがカイ・スレーターのセンスで強みだ。
 このシャープ・ピンズの音楽は60年代への愛を表明しているが、だが決して60年代の音楽であろうとはしていない。過去の音楽のいまの解釈、並列に存在するいまと昔の音楽は少しだけ未来を感じさせもする。こうした感性はもちろんハロガロの仲間ホースガールもそうだが、NYのカムガール8、日本のDYGLからも感じるものでもある(参照する時代やアウトプットがバラバラなのも興味深い)。2020年代も半ばを過ぎて、巡る時代は過去を片手に未来に進む。20歳の彼はこの後どうなっていくのだろう? 懐古主義ではない、紛うことなきこれは未来の音楽なのだ。

Casanova.S