ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. TOKYO DUB ATTACK 2023 ——東京ダブの祭典で年を越そう
  2. André 3000 - New Blue Sun | アンドレ3000
  3. R.I.P. Shane MacGowan 追悼:シェイン・マガウアン
  4. Galen & Paul - Can We Do Tomorrow Another Day? | ポール・シムノン、ギャレン・エアーズ
  5. Jim O'Rourke & Takuro Okada ──年明け最初の注目公演、ジム・オルークと岡田拓郎による2マン・ライヴ
  6. interview with Waajeed デトロイト・ハイテック・ジャズの思い出  | ──元スラム・ヴィレッジのプロデューサー、ワジード来日インタヴュー
  7. AMBIENT KYOTO 2023 ──好評につき会期延長が決定、コラボ・イベントもまもなく
  8. interview with Kazufumi Kodama どうしようもない「悲しみ」というものが、ずっとあるんですよ | こだま和文、『COVER曲集 ♪ともしび♪』について語る
  9. Voodoo Club ——ロックンロールの夢よふたたび、暴動クラブ登場
  10. Oneohtrix Point Never - Again
  11. 蓮沼執太 - unpeople | Shuta Hasunuma
  12. Bim One Production (1TA & e-mura) Roots / Dubフェイバリット
  13. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2023
  14. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  15. interview with FINAL SPANK HAPPY メンヘラ退場、青春カムバック。  | 最終スパンクハッピー
  16. FEBB ──幻の3rdアルバムがリリース
  17. Big Boi - Sir Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty
  18. SPECIAL REQUEST ——スペシャル・リクエストがザ・KLFのカヴァー集を発表
  19. yeule - softscars | ユール
  20. 『壊れゆく世界の哲学 フィリップ・K・ディック論』 - ダヴィッド・ラプジャード 著  堀千晶 訳

Home >  Reviews >  Readers > DJ Doppelgenger- Paradigm Shift

DJ Doppelgenger

DJ Doppelgenger

Paradigm Shift

GURUZ

Amazon iTunes

内藤 仁   Jan 31,2013 UP

 Dj doppelgengerを形容すると鬱蒼と生い茂っている樹海に住んでいる鷹というところだろうか。普段は上空高く優雅に飛んでいながらも、広い視野で常に獲物を狙っている。そしていちど踏み入れたら決して抜け出せないような、誰もが恐れをなす樹海へとひとり飛び込み、狙った獲物は必ず捕らえる。その視野の広さと獲物を狙う嗅覚は、彼の音楽に対する前向きで実直な姿勢にこそ反映されているのではないかと思う。
 デビュー・アルバム『パラダイム・シフト』は、世界各国を旅した彼がその五感によって得た世界観を余すことなく体現した作品だ。その名のとおりシーンに「革命的変化」を与えるアルバムである。

 ダブステップに照準を合わせながらも、本人いわく「細分化するダブステップのなか、新たなるスタイルを提唱する」ものであって、無国籍的で能動的で哲学的、オリジナリティあるサウンドが生まれている。ベース・ミュージックを根底に持ったディープなサウンドから、ジャングル的なアッパー・グルーヴ、民族音楽特有なメロディックなサウンド。
 3曲目の『カーマ・スートラ』は、インドの熱い気候のなか、砂漠を彷徨い歩いているかのような気持ちにトリップさせられる。曲名の『カーマ・スートラ』は、現存するインド最古の三大性典のひとつ、性愛学の文献の名だ。こういうところにも彼の哲学観、旅の意義を見出すことができるだろう。
 全曲を通して聴いてみると、東南アジア、中南米などさまざまな国にトリップさせられ、気づいたら現実により戻されている。9曲め、表題曲の『パラダイム・シフト』では長旅の疲れを洗い流しながらも、また「革命的変化」でもって空っぽになった身体に中毒性を植えつける。そしてその中毒性のために、再度「革命的変化」を求め旅にでる。この「革命的変化」は貪欲に歩みをとめない。そして彼もまた「革命的変化」を求め、強靭な意志を持って永劫回帰を続けていくだろう。

 けっしてDJユースなだけのアルバムではなく、家でのBGMとしても聴ける。曲名の意味を理解し曲と照らし合わせながら自分なりの解釈で聴いたりするのも面白いだろう。旅中のBGMとして聴くのもいいかもしれない。さまざまなシチュエーションで聴いてみてほしい。そして彼のDJを現場へ聴きにいって、世界観を体感してほしい。これからも彼の旅が新たなサウンドとして、言い換えるならば「新しい文明」として日本に持ち込まれ、抽象度をあげ、その世界観がドッペルゲンガー・サウンドとして世界に発信されていくことになるだろう。

 アリストテレスの名言に「革命は小事にあらざるも、小事より発生する。」というのがある。まさに彼のアルバム『パラダイム・シフト』がその言葉を体現しているように感じられる。

内藤 仁